ハイスクールDxD-月下水月の剣士-   作:水の柱

3 / 8
3話 契約

京都の朝は静かだった。

雨上がりの澄んだ空気、どこか湿った木の匂いでゆっくりと目を開けた。

 

「……重い」

 

胸元に、柔らかな重み。

視線を落とすと、昨夜助けた黒猫が丸くなって眠っていた。

黒い毛並みが朝日に艶めく。

その寝顔に、自分はわずかに表情を和らげる。

 

「……生きていてよかった」

 

そう呟いた瞬間。

黒猫の身体がふわりと黒い妖気に包まれた。

 

「……にゃ」

 

光が解ける。

そこにいたのは、黒髪の女性だった。

年の頃は自分より上に見える。

艶やかな黒髪、猫耳で猫のように細められた金色の瞳。

まだ少し幼さを残しながらも、妖しく整った顔立ち。

彼女は自分の胸に頬を乗せたまま、じっと瞳を覗き込む。

 

「驚かないのにゃ?」

 

「猫又なら、そのくらいはするだろ」

 

「……つまんない男にゃ」

 

そう言いながらも、口元は楽しげに緩んでいた。

 

「名前は?」

 

朝食の鮭を焼きながら、聞く、彼女は座卓に頬杖をついて答えた。

 

「黒歌にゃ」

 

「そうか、黒歌」

 

鮭が焼ける香ばしい匂いが部屋に広がる。

俺の好物、やはり鮭はどんな時でも素晴らしい。

黒歌はその匂いに耳をぴくりと動かした。

 

「にゃ……美味しそう」

 

「食うか?」

 

「食べるにゃ!」

 

その反応に、自分はセラフォルーの時以来珍しく小さく笑えた。黒歌との生活は奇妙だった。

 

朝は一緒に食卓を囲み、昼は義烈が中学にへ向かうまで留守番。

放課後に戻れば、黒歌が猫姿で庭に寝転んでいる。

夜は義烈が手芸をしている横で、黒歌が丸くなる。

 

「何作ってるにゃ?」

 

「レヴィアたんの新しい衣装」

 

「またにゃ?」

 

「趣味と実益だ」

 

「アンタ、本当に魔王好きね」

 

「夢を守るって決めたからな」

 

その横顔はどこまでも静かで、まるで凪いだ水面のようだった。

それが義烈の座右の銘でもある、凪いだ水面。

感情に呑まれず、揺れず、必要な時だけ波を立てる。

 

数日後の夜。

屋上で月を見ながら、黒歌がぽつりと呟いた。

 

「……また来るにゃ」

 

「追手か」

 

「うん。堕天使たち、私の仙術を欲しがってるにゃ」

 

自分は静かに木刀を手に取る。

 

「なら、守るだけだ」

 

「なんで、そこまで……」

 

黒歌の声が震える、俺は月を見たまま答えた。

 

「理不尽に命が奪われるのが嫌いなんだ」

 

青い瞳が月光を映す。

 

「守れるなら、守る」

 

その一言に、黒歌は何も言えなくなった。

 

その日の夜。家を囲むように黒い翼が舞い降りた堕天使。

 

「やっぱり来たにゃ……!」

 

「下がってろ」

 

義烈は腰を低く落とし、木刀を水平に構える。

いつもの構え、呼吸が深くなる。

スゥゥゥゥ――

大量の酸素が肺を満たす、心拍数150。体温38.5℃、筋肉が熱を帯びる。

 

「……俺はもう、失うために剣を握ってない」

 

右足が一歩前へ出る。

 

「守るために振るう」

 

最初の一体が突っ込んでくる、ならばそのまま穿つ。

 

「(水の技法伍之技-雨垂れの穿-)」

 

喉を正確に貫く最速の突き。

まずは1体すぐさま左右から挟撃。

 

「(水の技法弐之技-水精の舞い-)」

 

水流のような足運びで攻撃を滑るようにかわす。

 

「(水の技法参之技-潮流-)」

 

流れる斬撃が二体を同時に裂く。

上空から槍、義烈は跳ぶ。

 

「(陸之技-水煙の演舞-)」

 

飛び散る水飛沫のように最小の着地で屋根へ移動。

 

「(水の技法捌之技-水龍-)」

 

切り伏せて、切り伏せて、切り伏せ続け回転を重ねる毎に威力を上げる。

だが最後に現れた堕天使は、明らかに格が違った。

 

「人間風情が……!」

 

巨大な光の槍が振り下ろされる、だが水龍は止まらない。

 

「終わりだ」

 

「なっ⁉︎」

 

そのまま光の槍ごと首を断ち切る

 

戦いの後、定期的に顔を出すセラフォルーが自分の作った魔法少女の衣装で急いでやってきた。

 

「ギレッちゃん大丈夫!?」

 

「ああ……レヴィアたん、頼みがある」

 

彼女は一瞬で真剣な顔になった。

 

「黒歌ちゃんを助けたいんだね?」

 

「ああ」

 

「代わりに、君の未来をもらうよ?」

 

「構わない、20歳になったら眷属になる」

 

やがてセラフォルーは優しく微笑む。

 

「……契約成立だよ」

 

「なんでそこまでしてくれるにゃ……」

 

涙ぐむ黒歌に、義烈は静かに答えた。

 

「守れる命を、見捨てたくない」

 

黒歌はその夜、初めて俺の胸で泣いた、そして黒歌はセラフォルーの『僧侶』になり彼女に安全を守られる形になった。

初めてこの力で誰かを守れた……そして守るべきものは、確かに増えた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。