ハイスクールDxD-月下水月の剣士- 作:水の柱
京都の朝は静かだった。
雨上がりの澄んだ空気、どこか湿った木の匂いでゆっくりと目を開けた。
「……重い」
胸元に、柔らかな重み。
視線を落とすと、昨夜助けた黒猫が丸くなって眠っていた。
黒い毛並みが朝日に艶めく。
その寝顔に、自分はわずかに表情を和らげる。
「……生きていてよかった」
そう呟いた瞬間。
黒猫の身体がふわりと黒い妖気に包まれた。
「……にゃ」
光が解ける。
そこにいたのは、黒髪の女性だった。
年の頃は自分より上に見える。
艶やかな黒髪、猫耳で猫のように細められた金色の瞳。
まだ少し幼さを残しながらも、妖しく整った顔立ち。
彼女は自分の胸に頬を乗せたまま、じっと瞳を覗き込む。
「驚かないのにゃ?」
「猫又なら、そのくらいはするだろ」
「……つまんない男にゃ」
そう言いながらも、口元は楽しげに緩んでいた。
「名前は?」
朝食の鮭を焼きながら、聞く、彼女は座卓に頬杖をついて答えた。
「黒歌にゃ」
「そうか、黒歌」
鮭が焼ける香ばしい匂いが部屋に広がる。
俺の好物、やはり鮭はどんな時でも素晴らしい。
黒歌はその匂いに耳をぴくりと動かした。
「にゃ……美味しそう」
「食うか?」
「食べるにゃ!」
その反応に、自分はセラフォルーの時以来珍しく小さく笑えた。黒歌との生活は奇妙だった。
朝は一緒に食卓を囲み、昼は義烈が中学にへ向かうまで留守番。
放課後に戻れば、黒歌が猫姿で庭に寝転んでいる。
夜は義烈が手芸をしている横で、黒歌が丸くなる。
「何作ってるにゃ?」
「レヴィアたんの新しい衣装」
「またにゃ?」
「趣味と実益だ」
「アンタ、本当に魔王好きね」
「夢を守るって決めたからな」
その横顔はどこまでも静かで、まるで凪いだ水面のようだった。
それが義烈の座右の銘でもある、凪いだ水面。
感情に呑まれず、揺れず、必要な時だけ波を立てる。
数日後の夜。
屋上で月を見ながら、黒歌がぽつりと呟いた。
「……また来るにゃ」
「追手か」
「うん。堕天使たち、私の仙術を欲しがってるにゃ」
自分は静かに木刀を手に取る。
「なら、守るだけだ」
「なんで、そこまで……」
黒歌の声が震える、俺は月を見たまま答えた。
「理不尽に命が奪われるのが嫌いなんだ」
青い瞳が月光を映す。
「守れるなら、守る」
その一言に、黒歌は何も言えなくなった。
その日の夜。家を囲むように黒い翼が舞い降りた堕天使。
「やっぱり来たにゃ……!」
「下がってろ」
義烈は腰を低く落とし、木刀を水平に構える。
いつもの構え、呼吸が深くなる。
スゥゥゥゥ――
大量の酸素が肺を満たす、心拍数150。体温38.5℃、筋肉が熱を帯びる。
「……俺はもう、失うために剣を握ってない」
右足が一歩前へ出る。
「守るために振るう」
最初の一体が突っ込んでくる、ならばそのまま穿つ。
「(水の技法伍之技-雨垂れの穿-)」
喉を正確に貫く最速の突き。
まずは1体すぐさま左右から挟撃。
「(水の技法弐之技-水精の舞い-)」
水流のような足運びで攻撃を滑るようにかわす。
「(水の技法参之技-潮流-)」
流れる斬撃が二体を同時に裂く。
上空から槍、義烈は跳ぶ。
「(陸之技-水煙の演舞-)」
飛び散る水飛沫のように最小の着地で屋根へ移動。
「(水の技法捌之技-水龍-)」
切り伏せて、切り伏せて、切り伏せ続け回転を重ねる毎に威力を上げる。
だが最後に現れた堕天使は、明らかに格が違った。
「人間風情が……!」
巨大な光の槍が振り下ろされる、だが水龍は止まらない。
「終わりだ」
「なっ⁉︎」
そのまま光の槍ごと首を断ち切る
戦いの後、定期的に顔を出すセラフォルーが自分の作った魔法少女の衣装で急いでやってきた。
「ギレッちゃん大丈夫!?」
「ああ……レヴィアたん、頼みがある」
彼女は一瞬で真剣な顔になった。
「黒歌ちゃんを助けたいんだね?」
「ああ」
「代わりに、君の未来をもらうよ?」
「構わない、20歳になったら眷属になる」
やがてセラフォルーは優しく微笑む。
「……契約成立だよ」
「なんでそこまでしてくれるにゃ……」
涙ぐむ黒歌に、義烈は静かに答えた。
「守れる命を、見捨てたくない」
黒歌はその夜、初めて俺の胸で泣いた、そして黒歌はセラフォルーの『僧侶』になり彼女に安全を守られる形になった。
初めてこの力で誰かを守れた……そして守るべきものは、確かに増えた。