【TSして最強】世界はまだ、俺が魔女で聖女だと知らない 作:月森朔
新型ダンジョンガイダンスの先行販売が始まった翌日。アメリカから5年前に拠点を移してきたパーティが、名古屋駅前の居酒屋『あるぶへいむ』で呑んでいた。そこは、海外勢もお気に入りの探索者御用達の個室居酒屋だったりする。昼間のランチには、デカ盛りランチが有名らしく、有名な大食い女子高生が食べに来るらしい。
それはさておき、彼らが集まった理由は、新型ダンジョンガイダンスをゲットしたからだ。日本での先行販売となったが、日本人限定というわけではない。日本で一年以上活動した活動歴のある探索者に限るという条件だった。ダンジョンガイダンスの販売は、ギルド直営の販売店もしくは正式ライセンスを持っている専門店からの同時販売となっていた。今回は予約販売サイトへの登録にギルド登録の確認があったため、スムーズに行われた。おかげで転売が発生していない。
居酒屋で先に飲んでいたアメリカ出身のパーティの男性2人は、後から来た大柄の髭の男性に向かって手を挙げる。彼は手に大きな箱を抱えている。
「待ってた。それが、新型か?」
「あぁ、俺たちの女神、フレイヤモデルだ」
ゴソゴソとパッケージを開けると外形は今までのダンジョンガイダンスよりも少し小ぶりだ。
「起動してみろよ」
「分かってるって。魔石は入ってるな。起動っと」
ダンジョンガイダンスが立ち上がる。文字通り、2頭身のフレイヤがそこにちょこんと立ち上がったのだ。
「おおおおお」
男たちの低い歓声が個室の壁にひびく。
『ご機嫌はいかがかしら?』
髪をかきあげながらミニフレイヤが挨拶をしてくるのに男性たちは嬉し気に頷く。ダンジョンガイダンスの起動時は、通常ならば機械音声的なアナウンスで型式番号を言った後、設定方法などを説明するか聞いてくるのだが、そんなことはせずにご機嫌いかがときた。
「さ、さ、最高でござる」
なぜか語尾が時代劇になってしまう。
「おいおい、待機状態が静止映像じゃないぞ。ニコニコしながら、周囲を確認したり、髪を整えたり、なんだこれ。機能性を追い求めた無骨なダンジョンガイダンスが化けた」
髭の男性が手元のリモコンを操作する。
「おいおい、こんなんで驚いてたら身がもたないぞ。これを見てみろ」
フレイヤの服がいつものチューブトップとフレアスカートという姿から、バニーガールに早変わりする。
「おいおい。キュートすぎだろう。しかし、いきなりカスタマイズとか、気が早すぎだろ? いくらかけたんだ?」
「デフォで入ってるんだよ。他にもこんなのがある」
魔法使い風のローブ姿、小悪魔風のドレス、浴衣、水着いろいろとある。
「おいおい、どれだけバリエーションがあるんだ。あ、ちょっと水着に戻してくれ」
「すごいだろ? これ、標準で全部ついてきたんだ。しかもだ、これ見てくれ」
髭の男性がスマホの画面を見せると、アプリの画面にダンジョンガイダンスの着せ替え用のアセットが多数並んでいる。
「これはなんだ? すごい数あるぞ。えーと、おいおい千件を超えてるが、これも製品なのか?」
「いや、これは、ダンジョンガイダンスの着せ替えアセットの販売サイトだ。すでに着せ替えデータがこれだけ超えているわけだ。ちなみに、これはフレイヤモデルだけの数だからな」
髭の男性は運ばれてきた生中をぐいっと飲む。大皿の料理も食べ始める。
「これ一昨日販売されたばかりだろう? それが、こんな市場に発展してるのか? クレイジーだな日本人は」
クレイジー。それは決して悪口ではなく、彼なりの賛辞だった。
「ちなみに、ダンスもできるし、魔法も使う」
灯りをつけてくれと言うと、手元にトーチが出てくる。
「おー、これは実用的だな。少し照らしてくれるだけでも十分だ」
声かけだけで魔法を自律的に使う機能はかなり高度なのだが、灯りならば代替がきく。
「おい、いま、フレイヤちゃんを甘く見ただろ? これを見ろって」
髭の男性がスマホの画面を見せると、ミニフレイヤが炎の魔法を小型のモンスターにぶつけている映像だった。そのモンスターに小さな火球がぶつかると、倒れるまでは行かなかったがモンスターが弾き飛ばされる。
「普通につえー。初心者パーティなら即戦力レベルじゃないか。
この機能だけ分離してアイテム化できないか? 俺たち物理特化だし、すごく助かるな」
いい反応してくれる友ににんまりとして、まだまだあるぞと続ける。
「フレイヤモデルとは言ったが、実はな。こういうこともお金の力でできる」
髭の男性がスマホを触るとミニフレイヤの姿からミニマナに切り替わる。
「剣士のマナさ。なんと挑発してくれる。危険な時は敵を引き離すモードも備えてるらしい」
「おいおい、まさか全種類あるのか?」
ニヤリとして、メル、ひよりモードへと切り替える。
「フレイヤモデルっていうから、切り替え効かないかと思ったが、変更できるんだな」
そこで取り出したカタログには、デフォルトでモデルが1つ組み込まれているが、後付けにてキャラクター追加が可能で追加ごとに50万円と書いてある。
「いいだろう。あらかじめ動きをダンジョンガイダンスに言っておけば、そう動いてくれるらしい」
「ミニメルに回復してもらえるのか。ダンジョン早く行こうぜ」
「まてよ。今日は飲む日って決めてんだぜ。ほら、新しい仲間の歓迎会だろ?」
歓迎会と言われて、指し棒を振っているミニひよりを見て笑う。
「そうだったな。すまん。ところで金結構かかったろう?」
「まぁな。でも、先行投資だから仕方ない。ダンジョン攻略のモチベーションがあがるからな」
それに「ちがいない」と笑う3人。そして、飲みかわす。
「他の情報だが、徐々に価格も下げていくらしい。零細の探索者たちの生存率を上げるためらしい」
「あー、あいつら、堅実に見えて実は無謀だからな。同じ狩場に向かうのは、ダンジョン攻略っていうより畑に通う農夫って感じだが、ほとんど強くならない上に、レア湧きするちょっと強いモンスターに簡単にやられるからな」
運ばれてきた串カツを取りながら「それだよ、それ」と同意する。
「危機感なくなると少し先の階層に、ふらっと立ち寄る感じでケガしてたりな」
それで笑っている彼らも、そういうパーティを何度か助けたことがある。
「そういえば、転移の罠が増えてるってのも理由らしいぞ。比較的浅いところから深い階層に飛ぶらしくて、ダンジョンガイダンスを持っていない場合は、ほぼ死亡だとよ」
「こわいこわい」
「それ、きいたわ。アメリカでも増えてるらしいぞ。早くダンジョンガイダンスを普及させたいな」
その後は、時間を経るごとに追加される着替えアセットの爆買いが始まった。最終的には、オーブマシナリ謹製のフレイヤ標準セットが一番良いということになった。そして、彼らの中で、製作者は尊敬すべきフレイヤ好きの同士となった。