【TSして最強】世界はまだ、俺が魔女で聖女だと知らない   作:月森朔

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第2話 影子と名古屋ギルド

 俺は俺1号。今は遠山影子(とおやまえいこ)の化けた女子大生【東郷みよし】の姿で名古屋まで戻ってきた。うん、ややこしいよね。わかってるんだけど、分かってほしい。俺もややこしい。

 先ほど、盗撮犯の男性を自首させてきたわけだが、気持ちは晴れない。昨日のテロリストみたいな人類を脅かすレベルとは違い小物だったが、そちらではない。影子のパンツを盗撮してたわけなので、気持ちが晴れないポイントはそこだろう。

 

「ここが東海じゃなければ、血祭りにあげましたよ? ふふ」

 

 いまだにペルソナを起動しっぱなしなのだが、物騒なことをにこやかに言ってくる影子はなかなかダークなユーモアセンスが面白い。これ冗談だよね?

 そして、俺は柱の影でインビジブルを使うとアバターを解除する。そして、ハイランドスクエアの一角でインビジブルを解除し、クランベースに笹木の姿で向かう。

 クランベースに着くと、高和港の海底から引き揚げた円筒形のタンブラーみたいな物を工房に置いておいた。そういえば、蓋の方も工房にもってきてた気がするな。ひよりがいなかったので、書置きも添えておく。きっと気になって調べてくれるだろう。

 

 

 そこからは、影子のクラン加入に向けて、いつもの流れだ。笹木の同意書を作り、そこから遠山影子の身分証ともいうべきギルド申請を行うのだ。サンフランシスコにいる南さんやマナ、そして、ドッペルゲンガーたちにも連絡を入れる。メルは親戚にしたからなぁ…、遠山影子はフレイヤの関係者ってことにするか。フレイヤの実家との付き合いが長いということで、設定も詰めておく。

 そして、この後、笹木でギルドに連絡を入れると、ギルド側が気をつかって即座に対応してくれる。ちなみに影子は20歳という設定で、フレイヤと同い年だ。

 影子のデフォルトの姿になると忍者装束なのだが、服だけを変えるのにも挑戦してみる。

 

「こんこん変身術!」

 

 ロングスカートにデニム生地のジャケットを着た女性になる。こんなところでいいかな。俺は一旦笹木の姿にもどって名古屋ギルドに向かった。カメラがない場所でインビジブルからの影子へ変身という、ちょっと面倒な過程を経て、名古屋ギルドに到着する。

 

「おら、遠山影子です。ギルド登録をお願いします」

 

 南さんがいないので受付でギルド登録を依頼する。

 

「はい、エバーヴェイルの笹木様よりお伺いしております。遠山影子様ですね。ギルド登録、誠にありがとうございます。笹木様からの依頼で、ギルド登録後、すぐにクラン登録もされた状態となります」

 

 扱いが丁寧すぎて若干戸惑う。最近、南さんが対応してくれていたので分かっていなかったが、窓口の対応が丁寧すぎる。VIP扱いになっていることに驚きを隠せない。

 

 

 その時、今朝感じた嫌な予感みたいなものが発生した。小声で、「わんわん探知術」を使う。すると、ギルドのロビーの端っこに座っている新聞を読んでいる男性に何か感じるものがある。新聞の奥に嫌な何かを感じる。

 俺はギルド登録の続きをやってもらうために、生体情報の登録などを進めていく。そして、言葉を交わすたびに何か嫌な感じが続く。

 これは盗撮か、盗聴?

 またペルソナを起動してみる。また、影子がいらっとしている感じが伝わってくる。そして、ギルドのドッグタグを支給してもらい無事にギルド登録が済む。研修などがあるとのことだが、任意でいいとも言われた。エバーヴェイルの所属だからと明確に言われる。礼を言って、新聞男に気づかないふりで一度外に出ていった。

 その後、またインビジブルを使ってギルドに戻る。そして、新聞男の横に立つ。新聞を読む動作は自然で、特に何かをやっているようには見えないが、目線があまり動いていない。新聞を読んでいるというよりは眺めている感じだ。

 そして、影子が無言で遠山流忍術を使ったのが分かる。術を使うのに別に言葉は必要ないようだ。遠山流忍術・影人形だろう。新聞男が急にだらりとして新聞を降ろす。

 耳にはイヤホンがついているだけで、不審なところは見た目には無い。しかし、影子は術を継続する。耳元でささやく。

 

「ギルドの受付で、自分が行っていたスパイ行為を自白しなさい」

「はい。スパイ行為を自白します」

 

 彼は立ち上がり、さっきの受付嬢の前にいく。なんと言うのか気になったので、インビジブルを維持したまま隣についていく。俺の方がよっぽどスパイみたいなんだけどな。

 

「すみません。ここで2年間、ずっと盗聴しています。スキルを使って知った窓口の会話なんかをマスコミに売ってました」

 

 受付嬢は、ぽかんとしている。あんぐりと口をあけたままだ。美人が台無しだと言おうとしたが、美人は美人だな。さすが、受付嬢。

 

「え、えっと、どういうことですか? もう一度お願いしてもいいですか?」

 

 戸惑う受付嬢の声色にロビーが一瞬静寂に包まれる。

 

「はい。2年間、ロビーに座って盗聴していました。エバーヴェイルのネタは、だいたい私がマスコミにリークしてました。いいお金になってました」

 

 抑揚がない声だが、甲高い声の持ち主だったせいか、ロビーによく声が通った。そして、ざわつく周囲。おいおい、こいつが犯人かー。そういえば、俺がエバーヴェイル作った時も、笹木じゃなくて佐々木って言われていたのは、盗聴だったからなんだな。

 しかし、よく2年間も見つからなかったな。2年も新聞読んでたら、誰かと親しくなりそうなもんだが。

 

「盗聴…ですか? スキルって一体。盗聴したものはお手元にありますか?」

「異次元聴覚と音声記録です。これで、ギルドの受付での小声でのやり取りも記録することができます。盗聴したデータはこちらにあります」

 

 しかし、あんな端っこに座ってる男が逐一盗聴してたなんて分かるわけがない。

 

「えっと、そこでじっとしておいてくださいね。別の者が対応します」

 

 受付嬢が隣の受付嬢に声をかけると、奥からなんか黒服の大きな人が出てきた。名古屋ギルドにこんな人いたっけ? そういえば、ガームドさんが連れてきたボディーガードにいたような気もする。

 

「話は奥で聞きますよ。さぁ、こちらへ」

 

 口調は優しいのだが、新聞男の腕をがっちりとつかんでギルドの奥へとひっぱっていく大きな人。

 

「いてっ!? え? なんで俺? え、違うって。盗聴なんてしないって。おい、おい。なんで、あんなことをべらべら喋ったんだ。おい、それを返してくれよ」

 

 相当な力だったんだろうか。腕を握られた痛みで術が解けたようだ。大きな人が、ちゃっかりと男のスマホを取り上げている。

 思わず、くすりと笑ってしまう。すると、黒服の人がちらっとこっちを見たような気がする。気づいてる!? 隠密も起動してるんだけどな。怖い怖い。きっとあの人は強い。

 まわりも騒がしくなってきた。さすがに盗聴など騒いでいれば、仕方ないだろう。これで、また小さな悪を退治してしまった。世直し影子ちゃんだな。

 

 

 そんなわけで、影子の力は、ダンジョン内の罠探知などばかりかと思えば、現代に潜む罠…マスコミの罠、盗撮の罠みたいな物にも有効らしい。うん、世知辛い。観察力が鋭いというのも考え物かもしれない。気楽に過ごしたいときは、感度を落としたいな。

 そして、再び俺は味わい損ねた日常を楽しみたいなと思う。影子のこんこん変身術で【東郷みよし】になってみる。なぜ、笹木で楽しまないかって? えーと、そう、エステ。エバーヴェイル御用達というかフレイヤがお気に入りのエステにいきたいんだが、あそこは女性専用なんだよ。そう、だから仕方ない。

 影子の姿じゃなくても問題ないだろうか。行ってみてから考えるかな。そうしよ。

 こうして俺は名古屋の駅前をぶらつくのだった。

 

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