【TSして最強】世界はまだ、俺が魔女で聖女だと知らない 作:月森朔
俺は俺6号。新しくアリス担当になった新人の笹木だ。まぁ、経験なんかも全て共有しているから笹木本人と変わるところはないんだが、特に違和感も感じず俺6号として受け入れている。
昨日、俺1号は、俺にアリス担当をバトンタッチして帰国していった。その後、遠山影子をクランに入れる話が俺1号からの連絡としてあった。フレイヤの幼馴染ということになっており慕ってくれる子だと説明するとマナは会うのが楽しみですと喜んでいた。
まぁ、そんな思索は今は不要だな。今は背中に集中だ。なんといったって、アメリカンな美人に抱きつかれていて、いい感触が背中にあるのだ。
「アリス! あなたのクランすごいよー」
ニーナが背後から抱き着いてくるのだ。
「そうでしょう」
今は酒場の2階に2人でいる。サンフランシスコを皆が離れる前に、この酒場で祝賀会兼お別れ会をしようということになったのだ。アクセルや米国ギルド側からも何人か参加するとのことだ。
そして、サンフランシスコの市庁舎で行われた表彰式の録画映像を見ていたのだ。サンフランシスコだけでなく、カリフォルニア州の方からも賞を貰ったので、偉い人の話などに割と時間かかった。そこより驚いたのは、授賞式に使われたサンフランシスコの市庁舎だが、日本にあるような市役所っぽいビルではなく、ホワイトハウスみたいな作りで、美術館や博物館といわれてもおかしくない風情というか歴史のある場所だったのだ。エバーヴェイルのメンバーが呼ばれて色々と授与されて、偉い人と写真を撮ったりもした。
「あなた達のおかげで町が崩壊せずに済んだわ」
ニーナの表現は大げさではない。ダンジョンが出現した当時は、モンスターによって周辺地域が壊滅したことも多かったのだ。その際、町が放棄されてしまって、人が戻っていない場所も未だに多く残っているのだ。
「アリスもがんばってくれたんでしょ? ありがとね」
みんなからお礼を言われる。町を歩いていると、色々と物をもらったりもするのだ。
「今日は、パパと店長さんが一緒に料理作ってくれるって言ってたし、貸し切りで楽しみましょ」
ニーナは待ちきれないといって着替えを始めた。ギルドの偉い人も来ると聞いたので、少しシックなワンピースを着るようだ。
「それ可愛い柄ね」
「ええ、ありがと。こういう時のために、作ってたのよ」
着替えも済み、店の方で2人で待つこと30分ほどだろう。買い物に出ていたジェシーと店主が帰ってくる。早速厨房の方に入っていくので料理を始めるのだろう。ところで、フレイヤとメル、マナは、観光の第2弾ということでツインピークスに行って写真を撮ると言っていた。南さんは、サンフランシスコギルドから直接向かうそうだ。
「アリス!」
そして、呼んでいたアクセルも入ってくる。2メートル越えは、やはりでかい。今、俺は高いヒールを履いていないため、身長差をより感じる。彼は手に花束を持ってきている。受賞のお祝いらしい。ありがたくもらって、店に飾ることにする。ニーナが花を受け取って、花瓶を探しに行ってくれた。「良い感じじゃない」とか小声で言ってくるが、そんなつもりは無い、断じて。
「そういえば、アクセルはアルカトラズの騒動の時、現場に間に合ったの?」
俺が訊くと、背を丸めながら、「間に合わなかった」と答える。
「ダンジョンを戻るのに2時間かかってしまった。だが、警察の手伝いなんかもできたから、無駄じゃなかった」
がんばったねと褒めると、一瞬嬉しそうにするが、浮かない顔だ。
「映像を見たんだ。フレイヤやメル、そして、マナの活躍は素晴らしい。そして、転移した君とジェシーの活躍は知られていないが、テロリストを殲滅したんだろう?」
あいまいにほほ笑む。
「分かってる。特に誰かに言うつもりもない。だが、俺は本当に自分の力が足りないことが分かった。特に、スキルだ。俺は前衛で攻撃スキルは磨き上げているつもりだ。だが、届かないと意味がない。現場にいち早く駆けつけられる速度、そして、その場所に着いたとして空や海なんかに居られれば届かない。俺も機動力や飛行能力が欲しい。そうすれば、いろんなところで人を助けられる」
アクセルはぎゅっとこぶしを握る。飛行能力や機動性なんかの強化は単純な攻撃力を上げることよりも、爆発的な効果を生むかもしれない。そういえば、レビテートのスキル書の取り方って公開してなかったな。ギルド…まぁ、ガームドさんに情報を渡して任せれば、レビテートも悪い奴の手に渡るようなことは避けられるかな。
あとは機動性だな。アリスの転移については、身に着けることは厳しいんじゃないかなと思う。アバターの付属品みたいなものだしな。しかし、ひよりが開発中の転送機の開発が進めば、ダンジョン内移動の機動力は上がる。
あとは、個人の足の速さなどを上げるスキルもあったよな。それらの入手しやすい裏技みたいなものが石板に記載されていないか探すのも手だな。
この辺は後でエバーヴェイル内で共有しておこう。
「どうしたんだ?」
アクセルが黙り込んだ俺の顔を覗く。
「なんでもないわ。アクセルのクランの人って、どんな人が多いの?」
アクセルは根が真面目というのが分かったが、他に米国クランの人ってあまり知らない。この前、日本に来た人くらいだろうか。
「んー。ラスベガス拠点にダンジョン攻略をしているな。半分はラスベガスで楽しみながら、半分はラスベガスダンジョンにのめりこんでるな。スポーツみたいなところがあるんだ」
彼が言うには、ラスベガスダンジョンは、ほぼ地下道エリアで構成されたダンジョンらしい。地下道エリアは、まさに迷路なのだが、道を覚えて抜けるまで何分かかるかといったタイムアタック的なことをやっているらしい。それだけを聞くと、ダンジョン攻略というよりはアクティビティみたいに感じる。
人物としてはどうだろうか。
「レベルあげも頑張ってるし、良い奴がおおいよ。いろんな国の奴がいるから、性格なんかは色々だけどな」
そういえば、女性の口説き方はイタリア人の仲間に教わったと言っていたな。あまり真に受けない方がいいんじゃないか? ほら、腰をそっと抱こうとするとか、そういうとこだぞ。
俺は、さっとよけながらジェシーの手伝いに向かう。いい香りがしてきている。配膳してしまおうと思って厨房に入ろうとすると、フレイヤたちが店に入ってきた。その後、南さんたちも合流する。米国ギルドで見かけた人なんかも参加して、にぎやかになってくる。
「アリス、あなたは座って料理たべなよー」
飲み物を準備しているニーナがそう言ってくれるが、俺も適当に食べながら給仕をしている。アリスのスキルが優秀であまり手間を感じずに、配膳や掃除が進むのだ。
「もう、ほんと手際がいいわ。いつでも戻ってきてね」
「うん。また、くるわ」
俺がニーナとしんみりとハグをする。すると、ジェシーと南さんが揃ってこちらにくる。ニーナは、気遣ってマナたちと話に向かった。
「アリス。安全地帯の拡大について、ギルド側から新たに依頼が入った」
南さんが米国ギルド、そして、ギルド本部との会議で出た要望は、諸外国の主要なダンジョンへの安全地帯設置要望だった。アビスヴォーカの件があり、探索者強化に向け安全地帯を早く普及させたいというのが理由だった。そして、アリバイ作りのようにこだわっていた1日1ダンジョンの安全地帯構築を早めることにしようという話になったのだ。
「つまり、1日で何個も回って安全地帯を作るのね?」
「そうだ」
ジェシーが簡潔に返事をする。
「すみません。ギルド側はかなり焦っています。アルカトラズでスタンピードを押しとどめた安全地帯と要塞に対して非常に期待しているようです」
南さんが申し訳ないという体を取っているが、少し含みがある。
「あれかー」
「はい、それですね。ジェシーさん」
にこやかだが、目は笑っていない。
「すまん。だが、慌てていたから安全地帯を消すのを忘れていたんだ。消したことがないから消せるかは分からないが」
南さんが首を横に振る。
「いえいえ、謝る必要はないですよ? おかげで町は救われたんですから。でも、他のダンジョンにも欲しいという話になってしまいました。笹木さんにも連絡を入れたんですが、できるだけ協力したいとおっしゃってました。アリスさんはいかがですか?」
「大丈夫よ。早く安全地帯を届けましょ」
そういうと南さんも笑顔になる。
「娘よ、よく言った。さぁ、明日から飛び回るぞ」
そして、ジェシーは次の料理が焼きあがったといって厨房に戻っていった。そして、その夜は、遅くまで飲み明かしたのだった。