【TSして最強】世界はまだ、俺が魔女で聖女だと知らない   作:月森朔

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第6話 影子と修学旅行

 俺は俺1号。今は、影子のスキルを色々と検証中だ。さっきまで分身を工房エリアいっぱいに作って遊んで…いや、検証していたんだ。今は分身も消しているので、工房エリアがひっそりとしている。

 

 ちなみに影子のペルソナが使い方なんかを色々解説してくれるおかげで、ぽんぽこ分裂術の真価が分かった。この術は、分身を確保することで自分がやられた時の身代わりとなってもらうことが真価なんだ。危険な場所に潜入する際も、分身を安全なところに匿っておけば死ぬことは無い。

 ただし、よし、じゃあ、ちょっと試してみるか!とは、問屋が卸さない。だって、流石に死ぬかもしれない実験で、やっぱりダメでしたーは怖いというか、リスクが高すぎる。そういうわけで、保険としての分身、名づけて分身保険は活用することにして、検証はお預けにする。分身の使い方などはじっくり考えて運用を目指そうと思う。

 

 ちなみに分身は、色々な姿に化けられる『こんこん変身術』を使える。しかし、アバターは使えない。ベースは影子のままで、姿だけを変えられる能力。それが、影子のスキルの特徴となる。

 今回は、その影子の変身能力を使って特訓をしてみたいと思う。俺のなりきりの腕が試される特訓だ。明日にはフレイヤたちも日本に戻ってくるというし、それまでに実施しておきたい。

 

 それは何かというと修学旅行だ。具体的に言うと、修学旅行からの制服でテーマパークに行って楽しむというものだ。ただ、俺が試すのは、100人規模の修学旅行を試してみようという話だ。変身してどれくらい役になりきれるのか、そのあたりの見極めになるだろう。

 

 何を言っているのか?と思っただろう。

 

 決して自分自身の高校の修学旅行がつまらないダンジョン研修で消えたとか、そういうのが理由じゃない。翌年は北海道旅行に変わってたとか、その翌年が沖縄にいっていたとか、そういう恨み言は特にない。あのダンジョン研修のおかげで、エバーヴェイルを立ち上げる時は助かったわけだしな。

 

 いや、素直になろう。俺は! 制服で! テーマパークいって! みたかったんだー!

 そういうことで、俺は分身をつかって修学旅行を演じて見せる。

 

 さっそく俺はテーマパークを選定する。やっぱり騒ぐなら、絶叫系と恐怖系があるところだろう。そうなると思い浮かんだのは、富士山のふもとにある富士スカイランドだろう。あそこなら富士山ダンジョンからも近いし、行ったこともあるので迷うこともない。

 調べてみると団体申し込みは事前が必要らしいが、お金には困っていないし、一般料金で入ることにしよう。

 

「そういうことで、修学旅行にいくぞー!」

「何が、そういうことなのさ。影子」

 

 パジャマのひよりが声をかけてきた。

 

「あ、ひより! この姿では初めて会うね。おら、遠山影子です。よろしくお願いします」

「よろしくーって、なんか今更だよね。自分自身だし」

 

 ひよりにはドッペルゲンガーを一度解除してもらって状況を把握してもらい、また、出現させる。

 

「こじらせてしまったんだね…」

 

 ひよりが目じりを押さえている。

 

「言わなくても分かってるから。最近、物騒な話が多いから日常を楽しみたいの! おらの変身術がどれくらい使えるかを知るのは大事だから。ね」

「でも、スマホとかどうするのさ? 服は良いと思うけど、小物は用意できないんじゃない?」

「そこまで考えてなかった」

 

 俺は焦る。アバターには個別にスマホを持たせたりしている。それは、服と一緒に小物もアバターの情報として保存されるという機能を利用したものだ。『ぽんぽこ分裂術』はそのあたりどうなんだろうか。

 

「僕に考えがあるよ。スマホ自体はある。200台くらい研究用に確保してるんだ。それを持っていくといいよ。かさばるけど、マジックバッグを使うといいさ」

 

 確かに通信関係の耐久性検証とかで契約したんだった。俺はさっそくスマホを100台マジックバッグに収める。

 

「じゃあ、1学年100人の設定で行ってくるね!」

「はい、がんばってねー」

 

 

 俺はそうして名古屋ダンジョンから富士山ダンジョンに飛び、富士スカイランドへとたどり着いた。その間の所要時間は10分ほどだ。ダンジョン間移動は透明化したアリス。その後は透明化したフレイヤだ。

 ちょうど大型バスが何台も駐車場に停まっている。透明化は解かず影子になる。周囲を探るが、大型バスにも乗務員さんの気配もない。周辺にも人は居ない。

 

「よし、いまね。おらの力、見せるとき! 連続ぽんぽこ分裂術からの! 連続こんこん変身! 設定は金沢の架空の女子高、常盤女学院で!」

 

 変身については同じ変身にならないようにする必要がある。ひよりには言わなかったが、高校といっても女子高だ。俺は1人で女子高の修学旅行を演じ切る。

 

 まず、影子の分身がぽこぽこと生成されていき、そこから次々と女子高生になっていく。皆、制服を着ている。ネイビーのブレザーに朱色のリボン、チェックのスカートという制服だ。冬だというのにミニスカートに生足の子もいれば、防寒をしっかりしている子も…って、あんまりいない。割と薄着の子が多い。厚着の子も居てもいいんじゃないかと思うが、どうなんだろうか。

 

「みんな寒そうだよ?」

「え? このくらいの寒さだと、金沢じゃ、制服一枚だよ?」

 

 分身の一人が答えてくれるが、ほんとか? まぁ、北陸生まれは寒さに強いのだろうか。小説にそこまでの設定は盛り込んでなかった気もするが、なかなか奥深い。フレイヤに続いて寒さに強いアバターのようだ。確かに俺も今、そんなに寒い気がしない。

 

 そして、さらに分身を観察すると、顔はしっかりとバリエーションがつけられていることが分かる。化粧っ気のある子、すっぴんの子、幼い感じの子、スポーツをやってそうな短髪の子、ぽっちゃりの子。ただ、いずれも可愛い。いや、整っている感じだろうか、

 

 その間もどんどん分身が作られ、女子高生に変身していく。俺は影子のペルソナを起動し指示を任せる。

 

「良い感じ。そこの集団は、ばっちり化粧してる子で集まって。あ、おらもそこに入ろうかな」

 

 そこで俺も『こんこん変身術』で変身する。スマホで映してみると、化粧ばっちりの女子高生が映っている。ネイルも頑張っている。そして、また指示出しを再開する。

 

「あ、いま分身したあなたは、引率の先生ね。25歳くらいの新卒感出して。あ、良い感じ。あ、もう1人、先生がいたほうがいいかも。30歳くらいの先輩な感じで、ちょっとエッチな感じで。あ、いいけど、もう少し盛ってみよ。うん、いいね」

 

 若い先生は髪を上げて、スニーカーにパンツスーツだ。動きやすさ重視だな。30歳の先生、色気がすごい。同じくスーツだが、タイトなスカートからはタイツにつつまれた足が伸びており、上着は盛った何かのボリュームを隠せていない。

 なんか、影子が次々に集団を形成していく。引率の先生が「こっちにあつまってー」と手を上げるところなんかはリアルだ。

 

「あ、ここからスマホを取っていってね」

 

 スマホは、クランのデフォルト設定だが電子決済なんかも可能になっている。ダンジョンガイダンスのインターフェースとして使えるように検証していたために都合の良い設定になっている。

 次々に出てくる分身の生成速度は、ちょうどバスから降りてくる学生たちを思わせる速度だ。

 

「じゃあ、新任先生、代理でチケット購入をお願い」

 

 電子決済が使えない場合も考えてクランのクレジットカードも渡す。

 

「わかりましたー」

 

 若い先生となった分身はチケット売り場へと走っていった。役作りも完璧だな。そろそろ、俺も役になり切ってみるか。俺もペルソナを切って女子高生集団の中に埋もれる。

 若い先生役の分身は、チケット売り場で、行くはずだった研修施設が水漏れで、急遽富士スカイランドに来ることになったとかなんとかで言いくるめていた。アドリブもばっちりだな。さすが俺。

 こうして、2人の女性教師と98人の女子高生という修学旅行集団となった俺たちは、富士山スカイランドの中へと入っていった。同じような修学旅行生もいるようで、こちらの方をみて騒いでいる。特に男子。

 

「じゃあ、各自楽しんでね。16時にゲート前に集合です。くれぐれも他のお客様にご迷惑にならないようにしてくださいね」

 

 そう言って若い先生が大きな声をあげる。女子高生たちの半分くらいはざわざわしている。うん、リアルだ。

 

「あんたら! 返事は!?」

 

 色気のある先生が怒鳴る。見た目に反して強い。みんな、返事を返す。こういう感じの女子高だな。まぁ、俺が入っている集団はギャルだし、お嬢様学校というわけではなさそうだ。

 

 生足で、ばっちりメイク、スタイルのいい5人組の1人になった俺は、思わずペルソナを起動する。ちょっと影子の演じ方を参考にしたい。再びペルソナを入れると、なんとだが、この集団の設定みたいなものが分かってくる。

 

「左からみさき、れん、ちーちゃん、くーちゃん。で、うちは、マキね」

 

 なんと分身に割り振った設定みたいなものが共有できるのだ。恐るべし遠山流忍術。ふと思い出してみる感覚で考えると、人物に対する設定が流れ込んでくる。

 若い女の先生が吉岡先生。色気のある先生が高橋先生だ。でも、吉岡先生は彼氏持ち、高橋先生は絶賛彼氏募集中らしい。どうして、そんな細かな設定がこの短時間につくられるの? 

 

「じゃあ、さっそく何行く!?」

 

 俺がそう言うと、お化け屋敷とジェットコースターの二派に別れるが、お化け屋敷が3人で勝つ。

 

「じゃあ、お化け屋敷できまりー」

「えー、最悪~。暗いとこ苦手」

 

 くーちゃんが困った顔をする。

 

 そこにさっき遠巻きに眺めていた男子高校生たちが話しかけてくる。なんか、チャラい感じがする男子が代表で話すようだ。

 

「こんにちはー。君ら、全員めっちゃかわいいね。どこの高校? 修学旅行?」

 

「どこでもいいでしょ? もう、相手にしてないで、お化け屋敷いこーよ」

 

 みさきがそう言う。気の強いタイプの設定みたいだ。

 

「そんなー、俺たちも5人だしさ。よかったら、一緒に遊ばない? お化け屋敷だったら、ペアになってさ? どう? ぜったい楽しいって」

 

 食い下がるチャラ男くん。不毛なことをやっていると気づいていないと思うが、がんばれ。俺はナンパとかしたことないが応援する。不毛だけど。

 

「えー、どうする?」

 

 ちーちゃんが皆に聞いてくる。

 

「どうにもならない。5人で遊ぶって決めたでしょ」

 

 強いみさき。

 

「そうそう。それに、みんな彼氏いるじゃん。期待させるの可哀そうだよ」

 

 え、俺にも彼氏いる設定なの?

 

「彼氏いても大丈夫だって、ちょーっと遊ぶだけだし」

 

 別の男子も口を出してきた。なかなかしつこい。

 

 

 そこに先生二人組がやってくる。

 

「あんたたち、どこの高校よ?」

 

 お色気の高橋先生が男子高校生を問い詰める。

 

「なんだよ、あんたには関係ないだろ」

 

 高橋先生は男子高校生に向かって、ゆっくりと話す。

 

「関係大有り。この子たちの先生なの、うちら。ナンパは間に合ってるから、さっさと行きなさい。行かないなら、そっちの先生に会いたいわね」

 

 面倒そうな話をしてきた高橋先生を見て、男子高校生たちが顔を見合わせて、そして去っていく。

 高橋先生がこちらを向く。

 

「あんたたち油断しない。見逃してあげてたけどスカート短くしすぎ。軽い女に見られてるんだからね」

 

 高橋先生の言葉ももっともだけどなぁ。

 

「えー、じゃあ、どうすればいいんですか?」

 

 高橋先生がニヤリとする。

 

「もっと真剣に遊びなさい。男たちが立ち入れないくらい世界を作るの。ほら、あそこでカチューシャ買ってきな。もっと、はっちゃけるの」

 

 そんな話を受けて、謎の猫耳カチューシャを買ってつけて、先生たちとも写真を撮ったりと修学旅行っぽい体験を進めていく。

 その後、お化け屋敷に突入し、くーちゃんが途中で泣き出してしまうハプニングもあった。俺は、くーちゃんをなだめながら、廃校を舞台にした長いお化け屋敷を脱出することができた。

 

「怖かったわ。くーちゃんほどじゃないけど、結構びびった」

 

 みさきも少し顔が青い。

 

「マキ、ありがと」

 

 さっきまでずっとくーちゃんが離れないのでハグしている状況だ。とてもいい香りがする。変身すると香りまで変わるのだろうか。

 そして、その後、ジェットコースターにも乗ったり、スイーツを食べたりと楽しんだ。

 

 

 16時になり女子高生の集団がゲート前に集まる。また、周囲の注目を集める。

 

「そこ、短いスカートで地面に座り込まない。見えるでしょ!」

 

 高橋先生が注意する。

 

「はーい、では、これで終了です。みなさん、ついてきてくださーい」

 

 吉岡先生がゲート外へと案内する。

 こうして俺の壮大な茶番、もとい、特訓は終わったのだった。

 

 

 その後、分身を人目のないところで解除して、行きと逆のルートでクランベースに戻ってきた。そして、今は、影子の姿でひよりと話している。

 

「これが今日の写真? えーと、2万枚くらいあるね」

 

 今日持ち出した全スマホの写真データを集めるとそれくらいになる。先生含め100人分の遊んだ形跡が写真となって残されている。今日作り出した分身が楽しんだ形跡だ。

 怖がりのくーちゃんも、気の強いみさきもお色気先生も、みんな演技だったのだが、見た目も相まってリアルだった。

 それを見て、ひよりがコメントする。

 

「個別に動きながら、情報の共有も分身間である程度行える。それぞれが演じることもアドリブも可能。これさ、本当にすべて笹木の町ができるよ。それに全く意味はないけど。あはは」

 

 俺も「確かに」と笑いながら晩御飯を食べるのだった。

 

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