【TSして最強】世界はまだ、俺が魔女で聖女だと知らない   作:月森朔

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第19話 フレイヤと新アバター

 マナが怒っていた。

 

「これひどくないですか!?」

 

 スマホのニュースを俺に見せてくる。今はギルドの更衣室で着替えをしている。俺はヌーブラの位置がしっくりこず、調整しているところだ。

 

「ええ、ひどいわね。でも、いい加減落ち着きなさいな」

 

 今日は配信予定だったのだが、先日からのエバーヴェイルの加入からの、笹木小次郎の不正搾取疑惑というニュースが飛び交っており、マナがお怒りだ。

 

「今日は配信で、変なこと言うなー!って怒っちゃいます」

「放置がいいわよ。もし、それを言っても、脅迫されて言わされているなんて書く記者もいるわよ、きっと」

 

 マナがグローブを噛んでいる。

 

「スキル書の1冊や2冊がエバーヴェイルにとっては安いものと印象つけましょう」

「わかりました。フレイヤ、ごめんなさい。こじにーがかわいそうで」

 

 やさしいなマナは。

 

「ええ、わたくしも好意でクランを立ち上げてくれた笹木に悪いと思うわ。なので、今日は、すごい狩りをしちゃいましょう」

 

 マナはそれを聞いて気合が入る。

 

 

 今日は、15層にいるエルダーウッドゴーレムを乱獲することにした。エルダーウッドゴーレムは、古木の太い幹でできたウッドゴーレムだ。火に弱いはずの木だが水分多めの木で燃えにくく、攻撃は遅いものの重い幹でできた腕での一撃をもらえばひとたまりもないというモンスターだ。そして、その特性で最もやっかいなのは、仲間を呼ぶことだ。

 古木が近くにあると、その古木がエルダーウッドゴーレムの声にこたえて、同じくエルダーウッドゴーレムへと転換されてしまうのだ。そのため、倒し方は森から抜けた広場まで連れ出し、集団で1体ずつ狩る戦法がとられている。それでも、なかなか固く、攻撃力のある魔法や打撃系の武器などで時間をかけて狩ることになる。そして、ドロップは渋いが魔素を多く含んでいるらしく、レベルあげにはもってこいだが、気を遣うモンスターだった。

 そのエルダーウッドゴーレムを今日は乱獲するつもりだ。これは、フレイヤのペルソナから分かったことなのだが、エルダーウッドゴーレムは特定の振動に弱いのだ。フレイヤがもつサイコキネシスを駆使すれば、その振動を与えることができ、一気に崩壊させるというのがペルソナから得た情報だった。また、ここも祭りになる気がするが、この高出力の念動力を出せる魔法使いは一握りだろう。

 

「フレイヤ、とっても大きいです」

 

 配信を始めてからやっとであったエルダーウッドゴーレムは、その高さは5mを超すだろう。ふるった腕は、嫌な風切り音をさせて、ぶつかった木々を砕いている。いや、それ仲間になるはずの古木じゃないの!?

 

「今日はエルダーウッドゴーレムの倒し方をお教えしますわ。みなさんも試すといいわ」

 

 エルダーウッドゴーレムが迫る中、俺はダンジョンガイダンスに向けて一礼すると、

 

「いきますわ。サイレゾネイト!」

 

 サイコキネシスの応用技で、細かな振動を与える魔法だ。エルダーウッドゴーレムは小さな揺れから急に体を崩壊させていく。さながら、藁の人形がほどけてバラバラになるような、そんな感じだ。そして、エルダーウッドゴーレムお得意の仲間を呼ぶが始まる。

 周囲の古木がエルダーウッドゴーレムへと変貌していったのだ。

 

「では、次々にいきますわ」

 

 マナは俺にエルダーウッドゴーレムが来ないように周囲を警戒している。しかし、サイレゾネイトによって、できては消えるを繰り返すような状況になる。ある程度形ができていれば、エルダーウッドゴーレムを倒したことになるようだ。魔石が形成されたタイミングなんだろうか?

 

 

 そんなことを繰り返しながら、かるく5時間は経っただろうか、15層の古木の森が消失するくらいだから、相当倒したはずだ。

 ダンジョン内の古木はモンスターと同じく再び戻るので環境破壊と言われることはない。

 夢中で狩っていたが、同時接続のピークが50万人を超えており、スパチャも500万円を超えるほどになっている。さすがに俺も汗をかくほどには消耗している。マナも何体かのエルダーウッドゴーレムへの牽制で剣をふるっていたため消耗していた。

 

「スパチャありがとー。エルダーウッドの森を掃除してみた! いかがでしたか? もうへとへとだから、ここで終わります。チャンネル登録、高評価おねがいします!」

 

 最後の仕事とばかりにマナが挨拶をする。

 

「エバーヴェイルの名前を憶えておきなさいよ。きっと記録に残るクランになるのだから」

 

 フレイヤのペルソナがそんなことを言って配信は終了した。

 

 

 

 

 そして、その日、マナは、70レベルとなり、俺はレベル100を達成した。マナのレベルが低いのは、俺が少しソロでダンジョンに潜ったのと、マナと関係なく倒したモンスターが多かったためと考えられる。

 マナも強くなっているが、少しパワーレベリングが過ぎたため、地力がつかないままにステータスの上昇がみられる。技とか経験などは今後積極的に得る必要があるんじゃないかなーと少し悩む。回復職とペアを組むとか、そういう方法がいいんだろうか。

 おれ? ペルソナ先生が強いからいいんだよ。

 

 ちなみに戦利品だが、魔石が渋いエルダーウッドゴーレムなので、帰りは二人で分担できるくらいの量となった。そして、ダンジョンから出ると買取カウンターからの更衣室へ直行というルートとなった。

 

「もうヘトヘトです。ホテルとっておいてよかった」

 

 ギルド近くにはホテルもあってもちろん泊まることが可能だ。今日はとことん狩る為にホテルを予約済みだ。すでに17時を過ぎており朝から入ってフルタイムで働いたかのような時間の使い方だ。

 

 

 シャワーを浴びながらステータスを確認していると気づいたことがある。変化のないフレイヤのステータスはおいておいて、小次郎のステータスを確認すると、なんとアバタースロット2が追加されていた。

 おお、新しいアバターきたわー。

 

 

 ◇笹木小次郎

 レベル100

 HP:260/260

 MP:670/670

 称号:ダンジョンスレイヤー

 ユニークスキル: アバター▼

          アバタースロット1(フレイヤ・リネア・ヴィンテル)

          アバタースロット2(新規追加可能) 

 スキル:ストーンスキン

 

 

 俺は思わず声を上げそうになるのを何とか耐え、心が沸き立つのを抑えつつ、体を洗った。いつもなら、丹念に洗う部分もさささっと済ませてしまう。

 

「マナ、ちょっと先にホテルに行くわ。後でホテルのレストランで会いましょう」

「え、ちょっとまって、どうしたのあわてて?」

 

 マナには悪いが、髪も濡れたままですっぴんのまま、ホテルの部屋へと向かった。

 何か話しかけてくる男たちがいるが、「急用よ」とあしらう。

 今は、新たに現れたアバタースロットについてちゃんと調べないといけない。キャラを選べるならば、それはどんな様子なのか。

 前回、フレイヤが選ばれたときは泥酔していたせいか、まったく覚えていない。今回が初めてみたいなものなので、貴重な1回だ。俺は、焦る気持ちを抑えつつホテルに向かった。

 

 

 

 流石に手ぶらだと不審なので買った赤いキャリーバッグを部屋の隅におく。今はお金に不自由しなくなったせいで、安いホテルではなく、名古屋プリンセスホテルの眺望のいい広い部屋をとっている。ただ、今はカーテンを閉め切っている。

 そして、小次郎の姿に戻る。いつでも外に出られるように、普段着になっている。俺は、少し気持ちを落ち着けるとステータス画面を開く。

 

「よし…」

 

 アバタースロット2の新規追加可能という所に指で触れてみる。すると、別のウィンドウが現れる。

 

 

『こちらの中から選択してください』

 

『くノ一  遠山影子 レベル100』

『ポーター ボンド・トーカー  レベル100』

『聖女   金城メル レベル100』

 

 そうきたか!?

 

 

 

 全部のキャラから選択できるわけでないのか。俺には見覚えのある名前ばかりで、俺の書いた小説の中のキャラクターたちだった。

 くノ一の遠山影子は主人公の幼馴染で、忍者の末裔としてダンジョン攻略で日の目を見た一族の一人だった。隠密行動と不意打ちが得意で、罠の解除なども可能とするスカウト的な位置づけのキャラだ。忍者黒壁みたいなプレイをするならうってつけだが…。

 ポーターのボンドは、荷物持ちとして幾多のダンジョン攻略を助けていた。特に、倒れた仲間たちを全員抱えての脱出劇などは熱かった。しかし、攻撃力は高いわけでない。どちらかというと支援系だしなぁ。

 そして、聖女の金城メル。金城とかいて「かねしろ」と呼ぶ。彼女は、主人公のパーティに最後に参加した少女で、卓越した回復能力を持つ。幼いころに遭ったダンジョン事故によって、回復する能力を得たという設定だ。回復職だがソロでの攻略も可能なキャラだ。歳のころは、15,6歳だったかと思う。

 そこまで思い出して考える。マナのレベルあげを考えた場合、組みやすいのは金城メルだな。戦闘能力も支援能力も一級品だ。最終決戦ではフレイヤと組んだことでチート級の攻撃を生み出したんだったなー。

 

 よし、金城メルにしよう。

 

「金城メルに決めた」

 

 金城メルの名前が光ると、アバタースロット2に金城メルの名前が入る。

 

 

 ◇笹木小次郎

 レベル1

 HP:98/98

 MP:257/257

 称号:ダンジョンスレイヤー

 ユニークスキル: アバター▼

          アバタースロット1(フレイヤ・リネア・ヴィンテル)

          アバタースロット2(金城メル) 

 スキル:ストーンスキン

 

 

 あー、やはり、俺のレベル1に下がってる…。ん? HPとMPが若干高くなったような、そんな気もする。それよりも早速だが、アバターの起動だ。

 

「アバター、金城メル起動」

 

 背丈が急に低くなり、フレイヤよりも少し小さいくらいか。確か、155cmくらいに設定していたはずだ。ホテルの姿見を見ると、確かに15歳くらいの人懐っこそうな女の子が立っていた。金城メルは、純粋な日本人だ。長い黒髪が美しく、ぱっちりした目元や色素の薄い肌によって日本人離れした美しさを持っている。ちなみに、胸元はフレイヤに比べると小さいもののプロポーションが良い。

 

 

 ちなみに、今着ているものは、さきほど着ていた俺の服ではなく、丈が短めの濃紺のワンピースに白いカーディガンだ。そして、驚いたことに手には、長い金属の杖を持っていた。長い柄の先端には膨らんだ金属が据えられ、彫刻のような紋様とギザギザの形状が静かに威圧感を漂わせている。

 

「この杖も再現してくれてるのか」

 

 声はフレイヤよりも高めだ。快活にしゃべれば、そのまま無邪気な少女というわけだ。よし、決め台詞を演じてみようか。

 

「もう誰も死なせないんだからね!」

 

 言葉に合わせて杖を構える。ちょっと杖が重い。ここまで再現しているとは…。

 そこでフレイヤに初めてなった時のことを思い出す。そういえば、フレイヤとして起きたとき、フレイヤは俺の服を着ていたし、何も持っていなかった。つまり、全裸で出現したってことか? 

 そして、お待ちかね。金城メルのステータスも確認してみる。予想なら、かなりの壊れ性能なはずだ。

 

 

 ◇金城メル

 レベル100

 HP:1105/1105

 MP:2520/2520

 称号:血濡れの聖女

 スキル:グラディア・コア

     マギア・コア

     ミレイズ

     ブレアド

     ミラー・シフト 

     ストーンスキン

 

 HPもMPも高い。さすがメル。

 小説と若干名前は違うが、スキル名についてもわかる。グラディア・コアは物理的な能力の向上、マギア・コアは魔法的な能力の向上、ミレイズは回復魔法。ブレアドは攻撃魔法でカウンター型のちょっと特殊なものだ。ミラー・シフトは、スキル範囲の切り替えみたいな魔法。どれも既存の魔法とは違うが、フレイアのフレイムマジックと同じく最上位の魔法となる。

 ストーンスキンは、この前、小次郎で取得したものだ。俺のアバターには共通で取得できることがこれで分かった。

 まぁ、このスキル構成のおかげで、金城メルはパーティ支援においても、ソロでの戦いにおいても十分な性能を発揮する、そんなキャラクターだ。見た目もかわいくて、人気も出そうだ。ただし、フレイヤと一緒に配信に出そうと思っても、同時に出演できないのが歯がゆい。いや、考え方を変えてみよう。黒髪美少女が好きな別の層を取り込む起爆剤になるんじゃないだろうか。

 ちなみに、血濡れの聖女というのは…、まぁ、今はいいか。

 

 

 金城メルについても勿論探索者登録することにしよう。そして、クランにも参加させるか。高校生からなら登録もできたはずだ。

 

「あ、また、戸籍とか無いな」

 

 んー、この口調はダメだな。メルの一人称はなんだっけ。確か、名前だっけ?

 俺は確かめるためにペルソナを起動してみる。

 

「メルはメルだよ?」

 

 こんな感じだったな。思った以上に口調が幼い感じだ。

 

「メルもう高校生だよ? もう、大人と言えるの」

 

 なりきり好きの意地でメルを演じるが、中が俺だと知られると死ぬレベルのぶりっ子ぶりだ。そして、高校生という事実がない。どうしたものか。

 

「まぁ、フレイヤも大丈夫だったもの。問題ない? よね? うん、大丈夫なの」

 

 そんな楽観的なことを考えていたが、この後、俺は甘い考えだったことを思い知る。

 

 

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