【TSして最強】世界はまだ、俺が魔女で聖女だと知らない   作:月森朔

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第20話 メルと130億円

 南さんから130億円の話が切り出されてから7日後。俺はメルの姿で名古屋ギルドの応接室にいた。隣にはマナがいるが、すこし不機嫌だ。理由は簡単だ、小次郎がいないからだ。

 

「こじにーってば、急に身内に不幸があったとかで来ないんだもん。

 でも、仕方ないか。あれ? でも、こじにーの親戚ってことは、メルちゃんの親戚ってことじゃないの?」

 

 あ、そういう設定にしてたな。えーと、そうだな。うん、これだ。

 

「小次郎さんのお母さん側の親戚なの。メルは小次郎さんのお父さんの親戚だから、呼ばれないの」

「あー、そういうことね」

 

 その時、南さんが部屋に入ってくる。

 

「お客さんが来られたわ。まずは、天白から紹介がありますので、お聞きください」

 

 出向にきて風呂にも一緒に入ったから大分とフランクになっていた南さんだが、いつもとは違い、すこしかしこまった感じだ。やはり、大きな商談だから緊張もするんだろう。

 

「おはようございます。今日はよろしくお願いします」

 

 天白さんが入ってきた。相変わらずスマイルがまぶしい。

 

「おはようなの」

「おはようございます」

 

 挨拶も早々に天白さんが顧客について話始める。

 

「本日の顧客は、探索者の方です。お二方もご存じかもしれません。ギルドとしては有能な探索者の方への救済や支援といった形で金城さんの力を使っていただくのが優先かと考えております」

 

 まぁ、ギルド内の問題が優先なのはそうだけど、ギルドのお偉いさんを若返らせるとかそういうんじゃないのか。

 

「もちろん、顧客には守秘義務なども守っていただく予定ですが、少々深い事情がありまして、そこは本人から話されたいとのことです。この取引自体に守秘義務の条項が入っていますので、その顧客のこともエバーヴェイル内で情報をとどめてもらう必要があります。よろしいですか?」

 

 マナの顔を見ると、ちょっと不安そうだ。

 

「大丈夫なの。クラン内でしか話さないの」

「はい。お願いしますね。では、およびしますね」

 

 南が会議室を出て車いすの男性を連れてくる。年のころは、80歳くらいだろうか。見知った顔ではない。マナの顔も見るが、ピンときていないようだ。

 

「はじめまして。僕は、持田といいます。今日は治療を引き受けてくれてありがとうございます」

 

 見た目よりしっかりした口調で挨拶をしてくれる。

 

「忍者黒壁という名前の方がご存じかもしれません」

 

 え? 忍者黒壁って、トレジャーハンターでハイヒール50億円落札された人? 30歳くらいと言われていなかったか? 顔は頭巾で見えなかったけど。こんな80歳くらいのおじいさんじゃなかったはずだ。

 

「信じられないといった感じですよね」

 

 天白さんが口をはさんでくる。

 

「まずは、若返りの魔法を使ってみてから話をしていきませんか? すでにギルドはお金を前金で預かっておりますので、心配せずに魔法を使ってください」

 

 それなら問題ない。

 

「では、使うの。グラディア・コア、オーラ::ベヒモス」

 

 やはり強い支援魔法だけあって魔素が荒ぶる感じがする。

 忍者黒壁に支援魔法がかかると眩い光に包まれる。次第にその光が弱まっていくと、そこには20代くらいの青年が座っていた。

 その青年は手足を確認し、体を触り、頭や顔を触っていく。南さんがそっと鏡を手渡すと、涙を流して喜んだ。

 

「ありがとう、ありがとう。もう死ぬかと思っていたんだ。よし、これでさっそく…」

 

 彼は服のポケットから何やらオーブのようなものを取り出す。

 

「時環の宝玉よ、僕にかかっている魔法を保存せよ」

 

 なんだろうか、これは?

 天白さんも南さんも驚いていない。何が起こっているか知っているようだ。

 

「それは何なの?」

 

 素直に聞いてみる。

 

「ごめんなさい。いきなりで驚かしてしまいましたね。これは、自分にかかっている魔法を長持ちさせる魔道具です。この世に出回っていない貴重な道具です。僕にかけてくれたこの支援魔法の期間を長くしてくれます」

 

 そんなことができるのか。

 

「不思議な道具なの」

 

 それに頷く忍者黒壁。

 

「そのあたりも含めて、なぜ年老いていたかも金城さん達には説明したいと思います」

 

 そこからの話は衝撃的だった。

 忍者黒壁といえば、隠密スキルによって世界を股にかけてトレジャーハントをする凄腕の探索者でかつ配信者だ。ただ、彼の能力は隠密スキルではなく、失敗時に時間を巻き戻すことができるスキルだそうだ。その力には代償があり、巻き戻した時間以上に老化が進んでしまうのだ。

 そして、半年前、あるダンジョンに踏み込んだ時に脱出不可能に近い罠に入り込んでしまう。そこからの脱出に費やした巻き戻しが優に5000回を超えてしまったらしい。そのため、やっと出られたときには80歳くらいの姿になっていたという。死ぬよりは良いとは思うが、絶望してもおかしくない状況だ。そんな中、メルの若返り魔法を配信を見て、ギルドへの相談したことにより今回の商談が成立したそうだ。忍者黒壁は数々のお宝を獲得してきたおかげで130億円という金額を提示することができたのだ。

 

「効果を伸ばす魔道具を以前あるダンジョンで獲得していたので、この姿にもどれれば、なんとか効果を持続して延命できると思ったんです」

 

 忍者黒壁はそういうと大事そうに魔道具をしまい込む。

 

「ギルドとしては、長年貢献してくださった忍者黒壁さんに報いるために最初の顧客になっていただいたというわけです」

 

 天白さんがそう付け加える。いい男は、やっぱりいい行いをするんだな。

 

「よかったの。もし、おじいちゃんに戻りそうになったら、また来るの」

 

 メルの姿だからか、涙がぽろぽろとこぼれてくる。それを見てマナが慌ててハンカチを渡してくれる。

 パチパチパチと天白さんが手をたたく。

 

「よかったです、黒壁さん。では、お互いの秘密など他言無用ということでお願いします」

 

 さぁ、解散かなと思った矢先。忍者黒壁さんが口を開く。

 

「はい、あ、すみません。彼女と2人で話したいんですが、いいですか?」

 

 天白と南は、承諾して、会議室を出ていく。マナにも大丈夫と言うと、マナも部屋から出ていく。

 

「金城さん。本当にありがとうございます。お礼が1つしたいんです」

「お金ならもらっているの」

 

 それに対して忍者黒壁さんは首を振る。

 

「いや、それじゃ足りないと思ってるんです。だから、情報を。君は、ユニークスキルを持っているんじゃないですか?」

 

 そう聞かれて、少し驚く。

 

「その反応だけでいいですよ。応えなくても。僕はユニークスキルの発生条件を教えてあげられます」

 

 少し小声になって話し始める。

 ユニークスキルというのは、1つだけ存在し、1人だけが所有できるスキルだそうだ。その発生条件は、ダンジョンの破壊とその際の貢献度の高さがユニークスキル発生確率に響くらしい。

 

「僕はね、ただ逃げ回るトレジャーハンターではないんです。実はレベルは結構ありましてね。いくつものダンジョンを破壊したんです」

 

 資源を採掘するためにダンジョンの破壊は禁止されたと思っていたが…。

 

「ダンジョンはね、まだ見つかっていないものについては法律の外にあります。もし、君がより強いユニークスキルを探したいというならば、未踏破の未登録ダンジョンを発見して破壊するのがいいですよ」

 

 すごい情報をもらったと思うが、何故俺にそれを伝えるんだろうか。

 

「なぜ、そんなことを教えてくれるの?」

「僕はね、ダンジョンが強くなってきていると感じているんですよ。だから強い探索者が必要と考えてます。金城さんの力は強い。そして、もっと強くなって世界を守る側として活躍してほしいと思ってます」

 

 そんな話をして忍者黒壁は去っていった。

 そして、エバーヴェイルには104億円の収入が発生した。

 

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