【TSして最強】世界はまだ、俺が魔女で聖女だと知らない   作:月森朔

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第21話 小次郎とフレイヤ

 メルと忍者黒壁との邂逅後、数日は静かなものだった。莫大な収入があったといっても、全てがギルド口座の中でのやり取りとなったわけで、あまり実感はない。南さんがお金の管理についてちゃんと整備しますと言っていたので問題ないだろう。

 メルは再び高校のテスト期間だと言って不在にしていることにしている。ちなみに南さんは事務所で作業をしている。猛烈な勢いで書類を作ってくれているようだが、買収がどうとか言っていた。何のことかよくわからないが、まとまったら報告すると言われているのでおまかせしている。

 そういえば、スキル書の買い集めが進んでいるようだ。フレイヤ効果なのか、幻影のスキル書を売ってくれる人が増えているようだ。逆に、フレイヤが買い集めているということで市場価格が上がっているというところもある。

 フレイヤはスキル書が保管してあるキャビネットを開く。

 

「かなり集まったわね」

 

 いま、スキル書が100個ほどある。幻影は市場在庫もあったらしく、結構な数があつまった。ちなみに、128個あればドッペルゲンガーができる計算だ。

 その時、南さんが声をかけてきた。ちょっとお疲れな感じだ。

 

「あ、フレイヤさん。いらっしゃったんですね。スキル書なんですが、先ほど宅配便で届きまして要望の128個に到達しました」

 

 おー、早い。

 

「本当に助かりますわ。これで魔法の研究が進みます」

 

 南さんはニコリとするが、その後、何かを言いたそうにしている。

 

「どうしたのかしら」

「あの、その研究の内容を聞くことはできますか?」

「ええ、いいわよ。でも、ギルドに公開するのは先にスキル書を集めてからかしらね」

 

 この方法が知られるとスキル書が高騰するし品薄になるだろう。今でこそ屑スキルと言われている物でさえ、上位スキルの材料となるのだから。

 

「価値の低いスキル書の買い集めの状況はいかがかしら」

 

 南さんは手元の端末で見せてくれるが、既に3000を超えるスキル書が集まっているようだ。これも、クランの金庫がメルのおかげで潤ったおかげかと思う。

 

「では、教えるわね。わたくし、スキル書の合成方法を知っているわ」

 

 南さんの目が見開かれる。

 

「低位のスキル書から高位のスキル書を作ることができるのよ。今回、集めているのはその実験のためね。実益もあるのだけど、何ができるか気になるわね」

 

 南さんは、周囲を見回す。クランベースの事務エリアなわけで、他に誰もいない。マナに関しては、今日はお休みということで大須か栄の服屋巡りじゃないかと思う。

 

「正直驚きました。世界がひっくり返りますよ。その話。他は、誰がご存じですか?」

「笹木とわたくしだけよ」

 

 そうですかと、南は少し考えている。

 

「この件はギルドに公表するということでいいですか?」

「その予定よ。笹木もそのつもりでいるわ」

 

 俺は腕を組んで応える。胸の存在感を感じる。いや、そんなことは今はいい。

 

「笹木さんも同意されてるんですね」

 

 そこからは具体的な方法について教え始めた。手元にある幻影のスキル書で実践をして見せると、今まで知られていないウィンドウが現れる。南さんは終始考えを巡らせている様子で、うーんとか、あー、えーとを繰り返している。

 

「これは既存のステータス画面の扱い方で特許性は認められそうにないですね」

 

 あぁ、そういうことか。南さんは知財権について取得するかどうかを判断していたのか。俺もそこは考えた。しかし、これは物理現象の発見に近いと言える。

 

「秘匿して上位のスキル書を作り出して売るということもできますが、どうですか?」 

「それも考えたのよ? でも、笹木は言っていたわ。富の独占よりも、探索者が強くなって犠牲者が減ることの方がいいじゃないかと。前までお金が無くて苦しんでたのに、お金ができると人って余裕が出るのね」

 

 俺は他人事のようにフレイヤの姿で笑う。そう、少しは笹木で点数稼ぎしないと、妬みで殺されそうな気がして仕方ないんだわ。

 

「笹木さん、素敵な方ですね」

 

 南さんがふと唇に指を這わせる。考え事の癖なのかもしれないが、なんか色気がすごい。そして、南さんは続ける。

 

「ギルドもその考えを歓迎したいと思います。技術の無償公開ということになれば、一大イベントとなります。ちょうどギルドが開催する国際イベントが近々日本で行われますので、そこで発表するというのはいかがでしょうか」

 

 南さんが猛烈な勢いで端末に入力を始める。

 

「こちらが日程です」

 

 2か月先か。あまり時間がない気もするが南さんが居ればなんとかなる気がする。なんなら、いくつかの小技をまとめておいて提供するというのもありだな。しかし、ダンジョン語が読めるというのは黙っておこう。ダンジョン人についての議論には、侵略者じゃないか説もあり、なかなかに過激な反対派がいたりするからな。

 

 

 

「2日目がダンジョンでの発見やトピックを発表する場になってまして、まだ空きがあります。でも、今回の話であれば、空きを作ってでも公表すべきかと思います」

 

 南さん、すごいな。まだ26か7くらいなのに。エリート受付嬢は違う。

 

「では、笹木にも伝えておくわ」

 

 そこでひとまず話は終わり、俺はスキル書の合成を始めると言って工房エリアに幻影のスキル書を運んだ。南さんも追加で届いたスキル書を運んでくれた。そのおかげで、128冊の幻影のスキル書が俺の前に積まれている。

 今は一人だ。ちなみに南さんはギルドの方に戻って緊急会議をするとか言っていた。

 

 俺はそこから地道な作業を始めた。

 

「スキル書を2冊開く。ステータス画面を開く。合成ボタンを押す…」

 

 本当に地道だ。

 128冊の幻影から64冊のデコイ、そこから32冊のマペット、そして16冊のシャドウパペット、8冊のシャドウリリース、4冊のシャドウマインと作り出していく。

あまりに単調で、途中にコーヒーを入れたり、音楽をかけたりして休憩をとる。

 

「あと少しね」

 

 4冊のシャドウマインが、2冊のシャドウリンクになる。影を操る魔法らしく、かなり有用そうだ。しかし、俺が目指すはドッペルゲンガー。シャドウリンク2冊からようやくドッペルゲンガーが作り出せる。

 

「おわったわ…もうこりごりよ」

 

 最後のドッペルゲンガーの合成にはMPを5000くらい持っていかれた。MPが12000あるフレイヤじゃなければ、なかなかに厳しい条件だというのがそれでわかる。

 そして、俺は手にドッペルゲンガーのスキル書を持って一息つく。今は工作室に誰もいない。今の内かと、小次郎の姿にもどり、スキル書を使った。

 

 

 ◇笹木小次郎

 レベル148

 HP:1280/1280

 MP:2403/2403

 称号:ダンジョンスレイヤー

 ユニークスキル: アバター▼

          アバタースロット1(フレイヤ・リネア・ヴィンテル)

          アバタースロット2(金城メル) 

 スキル:ストーンスキン

     レビテート

     ドッペルゲンガー

 

 よし! 覚えたぞ。

 さっそくドッペルゲンガーを使ってみる。

 

「ドッペルゲンガー」

 

 俺がドッペルゲンガーを発動させると、目の前に俺が現れる。

 

「俺か?」

 

 なんだか間抜けな質問をしてしまう。

 

「俺だな」

 

 あきれた感じで応えてくれる仕草は俺っぽい。あっさりと目の前に現れた俺のドッペルゲンガーに気が抜ける。

 

「ちょっと実験するか。アバター、フレイヤ」

 

 ドッペルゲンガー側の俺がアバターを起動した。するとすんなり目の前にはフレイヤが現れる。さっきまで作業をしていたフレイヤと同じ姿だ。作業に邪魔だと括った髪も同じだ。

 

「いけるな。じゃあ、ペルソナも」

 

 さらにペルソナを起動すると、さっきまでの俺が中身のフレイヤとは明らかに変わる。なんだか、俺を見つめてくる。

 

「すきよ、小次郎」

 

 え? そのフレイヤさんは俺の唇を奪ってきた。美女のキスに俺は動けずにいる。甘い香りがしてヤバい。その時、工作エリアの入口の方で物音がする。

 そこにはマナが気まずそうに立っていた。

 

「あ、あの、ごめんなさい。その、失礼します」

 

 足早に工作室から去っていくのを見ると、キスの現場をしっかり見られたかもしれない。

 その瞬間、目の前のフレイヤの雰囲気が変わる。

 

「ごめん、ペルソナ起動したら、俺のことが大好きって気持ちでいっぱいでさ…」

 

 自分もショックだったのか、ドッペルゲンガーの…長いな、俺2号と呼ぶか。

 俺2号はフレイヤのなりきりもする余裕がないらしく、男言葉に戻っている。

 

「いや、思い当たる節はある」

「あぁ、俺もだ」

 

 俺2号が同意する。

 

「じゃあ、同時に答え合わせするか」

 

 俺2号が頷く。3、2、1・・・。

 

「「俺が主人公の小説で、俺の恋人だったから」」

 

 すごく恥ずかしい。俺の小説は、俺が主役で、幾人もの協力者によってダンジョンを攻略していく、所謂ハーレム物だった。そう、だから、登場人物の多くは俺のことが好きだ。

 

 

 言い訳させてくれ。二十歳で恋人もいない俺が妄想で描いた世界なんだ…。そして、目の前のフレイヤはとても魅力的なのは仕方がない、俺の好みを注ぎ込んだ女性なんだから。

 

 だれに言い訳をしているんだろうか。そんな考えももたげてくるが、ここでじっとしている訳にはいかない。

 

「あした…、マナには何か言い訳をしておこう。そして、持続時間なんかもちゃんと測ってかないといけないな。よし、俺2号はフレイヤの姿のまま、フレイヤとして寝てくれ。俺は、俺の部屋に戻るよ」

「分かったよ。俺1号」

 

 そんなやり取りのあと、その場は解散となった。

 

 

 振り返ってみると、この1ヶ月ほどで色々変わりすぎた。あぁ、今日は寝付けないかもしれない。あぁ、どうしよう。そうだ、寝付けないのなら、これからの方針を整理してみるのもいいかもしれない。お金の問題は気にしないでいい。そしたら、次は何だろうな。

 次々と考えをつなげる、そうでもしないとフレイヤの唇の感触を思い出してしまう。あれは、俺が俺とキスをしたとは到底思えない甘美な時間だった。そういえば、俺は小説の中で、フレイヤと共に戦い、ダンジョンを踏破し、そして強大な敵に向かっていったんだな…。あの俺は何を目指していたっけ…。

 そんなことを考えながら夜は更けていった。

 




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