【TSして最強】世界はまだ、俺が魔女で聖女だと知らない   作:月森朔

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第7話 フレイヤと階層ボス

 何時間寝たのだろうか。太陽が出るわけではないので、ダンジョンの中では時間の感覚が狂う。常に昼のエリア、常に夜のエリアなど、様々だ。ちなみに19層は常に昼のエリアだ。

 

「あ、フレイヤさん、起きられましたか? 食事の用意ができてますよ」

 

 俺は重い体を起こす。うっ、痛い。下腹部いたい。

 

「ええ、ありがとう。伺うわ」

 

 重い体を起こしつつ、俺はテントの外にむかう。

 

「おー、フレイヤさんだ!」

 

 総勢で20名くらいだろうか。さながらBBQ会場のようになっていて、みんなでワイワイと食事をしている。

 

「みんな、明日の21層の3回戦だが、フレイヤさんが参加してくれることになった」

 

 拍手や歓声が巻き起こる。

 

「フレイヤさん、いきなりですみませんが、挨拶をおねがいしてもいいですか?」

 

 ちょっとつらいが仕方ない。

 

「フレイヤよ。炎の魔法を使うわ。役に立てるようにがんばるつもりよ。よろしくお願いね」

 

 拍手が巻き起こる。好意的なクランで良かったなと思う。南さんの推薦もあったし、魔道機構は本当に優良クランなんだろう。

 その後、俺は少し食べて、また眠ることにした。10時間後に戦闘開始となる。

 

 

 人の話し声で起きる。見回すとテント内に8人の女性。ちょうど着替えているようだが、数人は体を拭いている。ダンジョンの中は基本風呂がないため、汗拭きシートをつかったりするしかないのだ。下着姿で体を拭いている女性がいる中、俺は体を起こす。やはり体が重いし、下腹部も嫌な感じだ。ちょっとペルソナさんに対処を任せるか。

 

「おはようございます。フレイヤさん」

 

 夏目さんが挨拶をしてくれる。もう、しっかりと着替えを済ませているようだ。

 

「おはよう」

 

 俺は挨拶をした途端起こる下腹部の鈍痛にお腹を抑える。

 

「うう」

「もしかして、始まっちゃいました?」

「ええ、そうなの」

 

 それを聞いた夏目さんは、その後ささっとトイレ用のテントの位置なんかを案内してくれた。こういったクランレベルでの遠征などは問題ないが、トイレ用のテントがない場合なんかは結構苦労するらしいから、これが女性探索者が少ない理由かもしれない。

 

 

「薬とかありますか? なければ、一番安いポーションを飲むだけでも楽になりますよ」

 

 夏目さんが魔道機構の常備薬の中からポーションをくれる。

 

「ありがとう。夏目って良い人ね」

 

 そういうと夏目さんは嬉しそうにほほ笑んだ。

 

「ちなみに、魔法は使えますか? 中には魔力が落ちて魔法が使えなくなる子とかいるんです」

 

 そう聞かれたので、フレイムビットを幾つか出してみる。それは問題ないようだ。

 

「ええ、問題ないみたいだわ」

「よかったです。では、食べられる分でいいので食べたほうがいいですね。何か持ってきますね」

 

 それから軽食も持ってきてもらって世話を焼いてもらった。夏目さん以外の女性たちからも気遣いを感じる。お陰様で少し体調が戻ってきたようだ。

 

 

 そして、テントには連絡要員を残し、21階層へと旅立った。21層は氷雪エリアなので、一面が雪に覆われている。そんなわけで、みんな厚着に着替えている。俺もインベントリから出した防寒具を着こんで雪の中を進む。足を取られそうになるので、フェザーステップを使って歩いている。

 

「まもなく、イエティ共の縄張りだ。気を張っていきましょう」

 

 そう佐久間が言うと、皆に緊張が走る。

 

「さっそく来ましたね」

 

 雪の中で黒いゴラドイエティは目立つ。それらは、徒党を組んでまっすぐと向かってくる。魔法使いたちは、それに向かって迎撃するが、確かに効果が低いように見える。

 

 

 そのうちにブラッドイエティが魔法を放つ気配が見えた。

 俺は呼ばれた役割を果たすために、フレイムマジックを起動し、さらにフレイムビットを100個ほど浮かべ、イエティたちに向かって撃ちだした。それで倒せるとは思っていない。まずは牽制だ。破裂音にたじろいだゴラドイエティが立ち止まる。

ブラッドイエティはこちらに気づいたようだ。

 

「フレイムヴェイル」

 

 炎の幕が俺の周りを取り囲む。ブラッドイエティの魔法に対する防御だ。さらに、

 

「フレイムリンク」

 

 炎塊の鎖が俺の指先から放たれる。それは一番近いゴラドイエティを絡めるとそこから次のゴラドイエティへと伝わっていき、次々と炎塊の鎖がゴラドイエティを消し炭に変えていく。

 

「おお、すごい」

 

 感心しているだけではない。魔法使いたちも次の魔法を撃ちだしている。しかし、ブラッドイエティが苦し紛れに俺に向かって氷塊を撃ちだしてきた。しかし、それが届くことはなく、俺のフレイムヴェイルによって蒸発する。

 そのうち、接近した剣士によってブラッドイエティは討ち取られた。

 こうした襲撃が数度繰り返されるが、フレイムリンクがよく効いたことで、消耗も少なく狩りを進めることができた。今までは、魔力の消耗が激しく、撤退することが多かったらしい。

 この集団を倒すことで21層をクリアしたことになるんだろうか。そう考えてた矢先。

 

「上だ!」

 

 誰かが叫んだ。

 曇天の空に多数の氷塊が浮かんでいた。貫かんとするような槍のような形状だ。

 

「いけない。みんな防御!」

 

 俺は上空の氷塊に対して有効な防御魔法を持っていない。しかし、攻撃魔法ならある。

 

「フレイムノヴァ」

 

 俺はみんなが防御のために準備している間に、空に向かって広範囲魔法を放った。

 炎の波が空を覆うように見える。それは大きすぎてゆっくりと空を飲み込むように動くが、音よりも早く流れているはずだ。氷塊はその中で蒸発し消えていく。

 皆が驚愕の声を上げているが、さきほどの声の主が、さらに注意を喚起する。

 

「2時の方向に階層ボスらしき影あり!」

 

 見えた姿はブラッドイエティのボスみたいな姿だ。

 俺は上級魔法をつかったせいなのか、めまいを感じ視野が暗くなる。

 

「フレイヤさん!」

 

 その声にとっさにフレイムヴェイルを使ったが、強い衝撃に体が浮くのを感じ、視界が暗転し、意識が遠のいた…。

 

 

 

 その後、俺は戦いの最中に目を覚ました。戦いの最中というのは、他の誰かがではない。自分が、フレイヤの姿で戦っている最中に目を覚ましたのだ。

 意識を失っていたんだということに気づいている間にも、俺はフェザーステップを使いつつ、魔法を撃ちだしていた。まるで、映画を見ているような感じだ。

 

「フレイムバースト!」

 

 巨大な炎球がボスに向かって飛んでいく。それはボスにぶつかると炎が爆ぜ、爆音をとどろかせる。ボスは手でかばったんだろうが、その手ごとボスの右顔面をえぐっていた。ボスはぐらっと傾いたと思ったら、そのまま消滅していく。

 ボスの体には知らない傷が多数ある。何度もフレイムバーストを食らったのだろうか。

 

「フレイヤさん」

 

 夏目さんが駆け寄ってくる。ふと体の主導権?が戻る。ひどい倦怠感が襲ってくる。その場に座り込んでしまう。夏目さんが寄り添ってくれる。ポーションを飲ませようとしてくれるが、腕もあがらない。

 

「ごめんなさい、動けないわ」

 

 MP欠乏症といってMPが切れると急激な脱力感に襲われて立てなくなったりする。夏目さんが、そう分析してくれた。どうやら、その状況に近いようだ。ステータスを確認すると、MPが100程になっていた。通常の人であれば十分だが、MPが1万を超えるフレイヤでは少なすぎる状態だ。しかし、こんなにMPを使うことは今までになかった。もしかしたら、生理中はMPの消費量が多いのか? いまは検証ができない。したら、また気絶しそうだ。

 頼みの綱は自然回復とMPポーションになるわけだが、自然回復は遅く、MPポーションは先の戦いで使い切っていた。

 

 

 結局、俺はその後、ポーターの人に負ぶってもらってベースキャンプまで戻り、そこからは担架に乗せられての帰還となった。佐久間さんからは、フレイヤの魔法に終始頼り切りになってしまったことについて、さんざん詫びられた。そして、俺が意識を失った時の状況を聞くことができた。朦朧としていてよく覚えていないからと言うと、細かい描写を加えて話してくれる。この人、語彙が多くて描写がわかりやすいな。小説書いたら売れそうな気がする。

 話が逸れた。

 どうやら俺が意識を失っていたのは2、3分ほどだったようで、俺はボスの氷塊に吹っ飛ばされたが防御が間に合ったようですぐに立ち上がったそうだ。そして、続けて飛んでくる氷塊をフェザーステップで避けつつ、フレイムバーストを連発し始めたらしい。

 俺にその記憶はないが、危なげ無い戦いだったようだ。それを聞いて、ペルソナさんが助けてくれたのだろうと予測する。多分、緊急時に身を守るような機能があるんだろう。確認するために意識を飛ばすのは、やめておきたいが…。

 

 生理のためもあって2日越しのダンジョン攻略は、思った以上にハードな物になった。生理は益々重くなってくるし、俺はクランベースで寝込んでいた。誰かに看病してもらいたいなと思って連絡したら、マナが駆けつけると言ってくれたが、深夜に東京から移動するのはさすがに断っておいた。

 俺1号がそろそろ戻ってくるから大丈夫だろう。そして、戻ってきた俺1号はデリカシーがなくてがっかりだった。

 

「なるほど、生理だとMPに関する障害が出やすいということか、検証の余地があるな。ところで気を失った間のぺルソナの動きについて幾つか検証できるかもしれないな。これは面白いぞ」

 

 あ? こんなに苦しいのに、暢気すぎるだろ! 何が面白い? これだから男は! なんだか、イライラする。

 

「心配とかしないのか? そんな分析いいから、メルで回復してくれ!」

 

 思わず素がでる。俺 1号は俺の表情でさすがに察したのか、すぐにメルに変身をしてマギア・コアの最上級回復を使った。おかげで痛みが引いてきた。

 そして俺は生理中はダンジョンに行かないか、メルを連れていくことを心に決めた。また、ブーメランな発言だが、お前はそんなだから彼女いないんだよ!と俺自身に言いたい。

 

 

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