【TSして最強】世界はまだ、俺が魔女で聖女だと知らない   作:月森朔

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第11話 小次郎とオーブマシナリ

 フレイヤが21層に向かっていた頃に少し遡る。

 俺は南と一緒に買収予定であるオーブマシナリに向かっていた。名古屋から大府市までタクシーで乗りつけるというセレブっぷりだ。

 

「懐かしいなぁ」

「前職の取引先なんでしたよね」

 

 南さんの言葉を肯定する。

 

「はい。1番大きな取引先だったんですけどね。不景気で取引が終わって会社は潰れちゃいましたよ」

 

 俺が自虐的に笑うと南さんが「大変でしたね」と返してくれる。まぁ、会社が潰れたおかげで、今ではクランの代表だし、フレイヤという美女に変身することもできるわけで、人間万事塞翁が馬だなと思う。

 タクシーを降りた先はオーブマシナリの本社前だ。オーブマシナリは町工場が前身だったのもあり、工場が併設されている。道が空いていたせいもあって、予定よりも少しタクシーが早く着いてしまった。社長さんたちとの会議まで15分ほどある。

 

 その時、見知った顔が本社前にいるのに気づく。社長ではなく、前職で主に取引していた部署の房田課長だった。房田課長は、社長の甥っ子とかでかなり下請けの扱いが酷い奴だった。俺なんて下請けの若手だったからか、かなりいびられた。あー、なんか腹が立ってきた。そして、こちらを見て、表情が変わった。

 

「なんだ? 笹木かよ。よぉ、何でこんなとこにいるんだよ?  お前んとこ、会社つぶれたんだってな。まぁ、俺が取引切ったからか? ハハハ」

 相変わらず嫌な奴だ。

 

「ん? あー、そうか派遣か? 確か、新しい派遣が今週から来るとか聞いたな。使えない奴雇う金は無からしっかり働けよ。お、そっちの子は美人だな。俺の部署にきたら、優しく手ほどきするよ? ハハハ」

 

 流石にかちんと来る。南さんは静観している感じだ。俺に任せる感じかな。

 

「いや、今日は取引に来たんですよ」

「なんだ派遣じゃないのか。まぁ、せいぜいゴマするんだな。そうだ、俺に接待でもしろよ。その子にお酌でもさせてな。ハハハ」

 

 なんで、こっちが接待する立場だって思うんだろうか。思い込みが激しい奴だ。

 

 

 その時、本社ビルの中から初老の男性が現れる。取締役社長の園田さんと専務さんだ。専務さんの名前は忘れた。

 

「すみません。お待たせしました。笹木さんと南さんですね。ようこそオーブマシナリへ」

 すごく腰が低い。まぁ、そりゃそうか、安く見積もって50億円ほどの取引なんだから。

「え? 伯父さん、いや、社長どうしたんですか。こんな奴にペコペコと」

 

 そんなことを言って、ヘラヘラしている房田課長にポカンとする社長と専務。

 

「何を言ってるんだお前は!? こちら、エバーヴェイルの笹木代表で、オーブマシナリの買収案を出し

てくださっている方だぞ! 経営会議で寝てたのか!?」

 

 園田社長の禿げ頭に血管が浮かぶ。

 

「社長、笹木さんの前です。おさえて」

「ぐ、あぁ、すみません」

 

 園田社長がさらにペコペコと謝罪する。

 

「エバーヴェイル? なんでしたっけ」

 

 房田課長がポカンとしている。

 

「もういい。職場に戻って。さぁ、応接室までお越しください」

 

 園田社長に促されて房田課長が去っていく。名誉挽回するためか、やたらとエバーヴェイルを褒めちぎる社長に、オーブマシナリの製品の素晴らしさを語る専務という流れで会議が進んだ。

 

 

 その下りがひと段落してから、南さんが話を切り出す。

 

「株式譲渡による買収に同意いただけるということで良いでしょうか。既にお送りした内容と同じですが、ご確認ください」

 

 そうして南さんが渡した資料には、50億円の文字が書いてある。細かなところはよくわからないが、オーブマシナリの非公開株式の60%を買い取ることになるらしい。

 

「はい、もちろんです。経営会議で承認済ですので、来月にでも売買が可能です」

 

 社長の笑顔に凄みがある。そこで専務が訊ねてくる。

 

「それで経営権は不要で、新規開発に対する優先権で良いというのは本当ですか?」

 

 それには俺が答える。

 

「はい。そうです。エバーヴェイルは、魔道具に使えそうな知見を保有しています。そのため、そちらを作ってもらったり、製品開発に活かしてもらうというのを考えています。いかがですか?」

「はい。実は、エバーヴェイルちゃんねるは欠かさず見てまして、最近のダンジョン情報は目を見張るものがあります」

 

 確かに魔道具に使えそうなTipsも配信していた。社長が熱弁を始めた。

 

「ダンジョン石を使った魔石の安定剤なんですが、これが既存の製品に使っている材料よりも30%も安定しましてね。おまけに、産出量が多くて安価。これだけで、助かった企業は多いかと思いますよ。それを、フレイヤさんは、おまけみたいに話されていて、目からうろこが落ちました。私どもとしては、女神ですよ。ほんとに」

 

 前の席に座った社長がずずいっと前に出てくる。

 

「社長、興奮のしすぎは体に良くないですよ。すみません。社長はフレイヤさんのファンで、何度か投げ銭もしているようなんですよ」

「多田くん、それは内緒にしてくれよ。妻にも黙っているのに」

「社長、ここはサインをお願いするチャンスなのではないでしょうか」

 

 専務がそんな提案をすると、社長はもじもじとし始める。

 

「あの、すみませんが、サインをいただくことは可能でしょうか」

 

 俺はそれにOKを出すと、社長は無邪気に喜びだした。

 

 

 その後、俺は社長から製品のサンプルを貰ったりして、オーブマシナリを後にしようとした。すると、房田課長がタクシー待ちをしていた俺に話しかけてきた。うっとうしいことこの上ない。

 

「笹木、いったい何をやって、エバーヴェイルの代表になったんだ? なぁ、教えろよ。どうせ、あくどいことしたんだろ? なぁ、教えろよ」

 

 そんな事を言い出した。何だろう、このこじらせ課長は。そこに、南さんが間に割り込んでくる。

 

「私はエバーヴェイルに名古屋ギルドから出向している南といいます。先ほどから笹木さんへの言動が失礼すぎます。このことは園田社長に厳重に抗議させていただきます!」

「なんだと!」

 

 すると激高したのか、房田課長が南さんにつかみかかろうとする。俺は、その手をとる。流石にレベルが高いだけあって、一般人の動きなんかは余裕で制することができる。

 

「房田課長、やめておきましょう。俺も一応立場があるので、引き下がってもらえると助かります」

 

 すると房田もぶつくさ言いながら去っていった。

 

「笹木さんは優しすぎます」

「まぁまぁ、ちゃーんと後で社長に伝えておくから」

 

 

 そして後日、房田が社長に何発か殴られた上、平社員に降格したという話を南さん経由で聞くこととなった。

 

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