【TSして最強】世界はまだ、俺が魔女で聖女だと知らない   作:月森朔

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第12話 天白と南

 ギルドの名古屋支部長室で、天白支部長と南が対面で会議をしていた。

 

「この規格外のマジックバッグを寄付ねぇ」

 

 天白はあきれている。

 

「販売手数料も取れないか。しかし、寄付先の選定権利を得たも同然か。医療用コンテナの運搬用とはよく考えたもんだ。最近、省庁の方がエネルギーの売却価格についてうるさいからな、黙らせるには良い材料かもしれない」

 

 南は、この男の手札に使われてしまって、げんなりしている。しかし、必要とするところに届けるには手腕が要るので相談しにきたのだ。

 

「では、選定などをお願いします。笹木さんの評判の回復なんかもお願いします」

「もちろんだよ。彼は、名古屋ギルドのお得意様で金の生る木だからね。

 買収のほうもうまくいきそうだという話じゃないか。クランの節税に対してもお役所はうるさいからね。企業側でお金を落としてくれれば、溜飲もさがるってものさ」

 

 天白のいう溜飲とは、クランの優遇税制が進みすぎており、一部では増税に対する活動が活発化しているとの話に関係している。特にダンジョンがある地域は節税が進みすぎては、探索者から税金をとりっぱぐれるとか、そう思っている政治家も多いという。

 

「しかし、探索者が減ればエネルギーの高騰が進んで、経済も冷え込むから僕たちが苦心しているというのに、本質が分からない政治屋たちには困っちゃうよね」

 

 苦笑いをしながら、端末を触る天白。

 ダンジョンが現れて30年。魔石はエネルギー需要の30%ほどをまかなえるようになっていた。まだ石油に代わるわけではないが、産油国以外は魔石でのエネルギー改革を進めている。しかし、ギルドが買取価格を調整することで緩やかな技術の転換が進んでいる。この辺にはギルド設立国の利権などを気にした結果とも言える。

 

 

 南がサンプルにと持ってきたマジックバッグを天白が観察している。

 

「しかし、マジックバッグを作ることができる魔道具師。分かってるのかな? マジックバッグの最大容量の10倍というのはダンジョンの宝箱から出た最高のマジックバックとの差であって、魔道具師が作る物に比べると優に100倍は性能差あるということを」

 

 南もそこは気になっていた。魔道具師の最高峰はギルドお抱えの魔装開発局であり、そこでもそんな高性能なマジックバッグは作れない。

 

「南くん、言っただろう? エバーヴェイルには有能な人が増えていくと。でも、ちょっと早いな。次の金城くんの若返り顧客選定もまだ済んでいないというのに。うれしい悲鳴だね」

 

 うれしいとは思っていないかもしれない。なぜなら、ギルドの同期から聞いた話だと名古屋ギルドに対し、他のギルド支部からフレイヤやメルの抱え込みとも言える行動に不満が出ているのだ。エバーヴェイルが海外に流れることを恐れているためか、そこまで表立っては批判していないが、風当たりが強いのは確かだ。

 

「隼人ひよりをしっかりマークしておくんだ。きっと今までにない何かを作り出すよ。魔装開発局も思いつかなかったような何かをね。あぁ、あそこの局長は押しが強くて苦手なんだよね。

 そのうちきっと、隼人君をさらってでも欲しいと言い出すだろう」

「そんなことされては困ります」

 

 南がそう言うと、同感だと天白も答える。

 

「よければ、魔装開発局のプレゼン資料があっただろう。あれを見せてみると、インスピレーションが沸くかもしれないよ」

 

 南はすぐにでも見せると回答した。プレゼン資料には、ダンジョンガイダンスの紹介や、ダンジョン内で使える魔道具の説明なんかがしてあった。また、探索者から集めた何があるとうれしいですか?といったアンケートのまとめなんかも説明してある。この辺りは確かにエバーヴェイルの開発指針なんかにも役に立つかもしれない。

 

 

 そして、その時、天白が何かを思い出したようで、冊子を出してくる。

 

「そうだ。ギルドイベントのパンフレットができたよ。笹木君の発表は2日目の夕方。プレスも多数参加予定と聞いているよ。注目度は高いね」

 

 パンフレットに記載してあるスケジュールにエバーヴェイルからの重大発表としか書いていないが、既に枠がとってある。笹木の顔ではなく、フレイヤの写真が載っているのは、パンフレットの企画委員が張りきったためだ。

 

「このパンフレットだと、フレイヤくんも出るように見えちゃうよね? 南くんからもお願いしておいて欲しいな。彼女が出てくればきっと華やかだろうし」

 

 欲しいという名の命令なのだからお願いするしかない。

 

 

「あの、その発表に関わることなんですけど。最近、スキル書の流通が滞ってませんか?」

 

 天白の動きが一瞬止まる。

 

「気のせいって言いたいけど、滞ってるね。なんだかね。ギルド内でスキル書を保管しようという動きがあってね。いや、僕はばらしていないよ。だけど、どこから漏れたのか、スキル書の合成についてはギルド内で知られてしまっている」

 

 漏れるとすれば名古屋ギルドと、そこから相談を受けているはずの日本のギルド本部だ。

 

「詮索は止めておきます。でも、笹木さんの評判が悪くなるようなことだけは避けてください」

「わかったわかった。でも、本当に僕じゃないからね?」

 

 南は嘘くさいと思っている。しかし、追求しても暖簾に腕押しだろう。話が終わったとして、南が引き上げようとすると天白が引き留める。

 

「これはギルドが絡まない話として聞いてくれるかい?」

「なんでしょうか」

 

 南は警戒する。

 

「実はね。辰巳夫妻の話なんだけど、ちょっと大変なことになっててね。相談が直電できたんだよね。僕も師匠には逆らえないからね」

 

 困っているようでいて、何やら楽しそうだ。

 

「えーと、奥飛騨で静養中のお二人がどうしましたか?」

 

 天白は笑いをこらえている。 

 

「なんとね。幸子さんが妊娠したそうだ」

「え?」

 

 南が驚くのも無理はない。実年齢は58歳だったはずだ。

 

「それで金城くんに相談があるらしい。分かると思うが、子供が生まれるまで、幸子さんを若く保ってほしいっていうんだよ。これは、俺のところで止めてるから、南くんに任せていいかい? お金が取れそうな話でもないし、そっとしておきたい気もするけどね」

 

 南は増えた案件に頭が痛くなってきた。

 

「人員の補充については前向きに考えておくからさ。よろしくね」

 

 ほら、返事を待たずに任せてくる。でも、優しいメルなら辰巳夫妻の願いを聞くだろうと思うし、仕方ないとあきらめた南だった。

 

 

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