銀河皇帝のスペアに転生した元社畜、地球軌道上の要塞でネトゲ三昧の隠居生活を満喫する 〜足元では超大国が滅亡級の異星遺産を巡って暗躍中ですが、主人公(ぼく)の命は絶対安全なので特等席で傍観します〜   作:パラレル・ゲーマー

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第92話 太陽の心臓と、取材済みの編集長

 首相官邸のさらに地下深くに位置する、既存技術外事象評価セルの拡大会議室。

 そこは、アメリカから発信されたワシントン・クロニクル紙の爆弾報道――《ゾンネンヘルツ計画》の疑惑によって、再び重く、底知れぬ疲労と緊張感に支配されていた。

 

 壁面の巨大モニターには、ワシントン・クロニクルの電子版トップ記事、アルゼンチン政府の「曖昧な否定」声明、そして世界中のSNSで異常な速度で拡散し続けているパニックと陰謀論のデータが、所狭しと並べられている。

 

「……また、とんでもないものが出てきましたね」

 

 矢崎総理は、デスクの上で両手を組み、モニターに映る『ナチスの鉤十字』と『不気味な心臓の図解』の画像を見つめたまま、深い溜息をついた。

 ロシアのサイボーグ、中国の仙人、イギリスの万象器、そして日本の出雲と与那国。……地球上の地図のあちこちで、まるで示し合わせたかのように次々と地雷が爆発している。

 

「ナチス、アーティファクト、人体実験、アルゼンチン。……外交的にも倫理的にも、最悪の組み合わせです」

 官房長官が、胃の辺りを押さえながら苦々しく言った。

 

「情報はまだ断片的です。すべてが真実とは限りません」

 沖田室長は、現場指揮官としての冷静さを保ちながらも、警戒の色を隠さずに報告した。

「ただ、アメリカ政府(ホワイトハウスとCIA)が水面下で動いているのは確実です。彼らがクロニクル紙の報道を事前に止めようとした事実が、逆にこの情報の『危険度(本物である可能性)』を裏付けてしまっています」

 

「もしそれが、何らかの『超人化技術』であるなら」

 防衛大臣が、軍事的な観点から重苦しく懸念を口にする。

「ロシアのサイボーグ、中国の仙人に続く……第三の『強化兵士体系』の登場を意味します。しかも、相手はあのナチスの亡霊と、南米の軍施設だ。……軍事バランスが、さらに予測不能な混沌へと陥ります」

 

 矢崎総理は、数秒間黙考し。

 そして、この部屋の隅で、一人だけこの会議の重苦しい空気とは無縁の顔をしている男へと、静かに視線を向けた。

 

「この件は……」

 総理は、少しだけ皮肉な響きを込めて言った。

「三神編集長に聞いた方が、早いでしょう」

 

「……最近、困ったら三神編集長になっていますな」

 官房長官が、日本政府のインテリジェンスがオカルト雑誌の編集者に依存しつつある現状に、深いため息をつく。

 

「否定できないのが問題です」

 沖田室長も、不本意そうに眉をひそめながら同意した。

 

「どうもどうも」

 

 水を向けられた三神編集長は、いつものよれよれのスーツ姿で、パイプ椅子から軽く手を挙げた。

 だが、その表情は……いつものような「楽しげなオカルト解説者」のそれとは違い、どこか少しだけ硬く、そして嫌なものを思い出したような、冷たい色を帯びていた。

 

「……今回は、なかなか嫌な話題ですね」

 三神は、小さく肩をすくめた。

 

「三神編集長」

 総理が、即座に確信を突く問いを投げた。

「《ゾンネンヘルツ計画》は……本当に存在したのですか?」

 

 三神は、少しの間を置き。

 そして、はっきりと、短く頷いた。

 

「存在しました」

 

 室内が、ピタリと静まり返った。

 

「ナチスの秘密計画の一つです。彼らは、間違いなくアーティファクトを研究していました」

 三神は、モニターに映る黒塗りのドイツ語文書を一瞥して言った。

 

「兵士強化、ですか」

 防衛大臣が身を乗り出す。

 

「ええ。少なくとも彼ら(ナチス)は、そう考えていたようです」

 三神は、極めて冷ややかな、そして明確な【嫌悪感】を込めて言葉を紡いだ。

 

「ただし。……恐ろしいのは、彼らがそのアーティファクトの『本質』を理解していたことではありません。

 恐ろしいのは……理解していないまま、非道な人体実験を、平然と繰り返していた点です」

 

 三神の言葉に、科学技術顧問が顔をしかめた。

 

「彼らは、科学者などではありません。ただの【冒涜者】です」

 三神は、ナチスの狂信的な実験を、一切のロマンや神秘性を排除して切り捨てた。

「未知の装置のスイッチの入れ方が分からないからといって、無数の人間の命をケーブル代わりに接続し、文字通り使い捨てていく。……それは研究ではなく、ただの野蛮な破壊行為です」

 

 三神が、少しだけ声を落とす。

 

「……まあ、非道な人体実験という意味では、日本も他人事ではありませんがね」

 

 ピクリ、と。

 総理の表情が強張り、防衛大臣と内調幹部の顔からスッと血の気が引いた。

 

「……731部隊が、悪名高いですね」

 三神は、日本の暗部を容赦なくえぐった。

 

 会議室の空気が、さらに一段階重く、泥のように沈み込む。

 

「……旧日本軍も、アーティファクト研究を?」

 総理が、ゴクリと息を呑んで問う。

 

 三神は、少しだけ総理の目をじっと見つめ返し。

「彼らも、何かしらを手にしていたらしい、という話はあります」

 

「らしい、ですか」

 官房長官が、喉を鳴らした。

 

「ええ」

 三神は、それ以上踏み込むことを意図的に避けるように、小さく首を振った。

「ただ、今それを話すと本題から逸れます。……そして、その話はその話で、非常に重い。

 今日は、アステカの心臓の話に戻りましょう」

 

(……日本にも、まだ血塗られた過去のアーティファクト研究があるかもしれない)

 その不吉な種(懸念)が、官僚たちの胸の奥底に植え付けられた。だが、今はそれに向き合っている余裕はない。

 

「アステカの心臓……」

 沖田室長が、三神の言葉を繰り返す。「それが、《ゾンネンヘルツ計画》の真の標的ですか」

 

「はい」

 三神は、説明を始めた。

「私が聞いた名前では、《第五太陽の心臓》、あるいは単に《太陽の心臓》とも呼ばれていました。

 これは……人間の肉体の心臓を摘出し、その代わりに『霊的心臓(アーティファクトのコア)』を埋め込むことで、人間を別種の存在へと変えるアーティファクトです」

 

「霊的心臓?」

 科学技術担当が、理解できないというように顔をしかめる。

 

「地球医学で言う、ただの人工臓器(ポンプ)の心臓移植とは別物です」

 三神は、その機能の異常性を語る。

「単なる臓器置換ではありません。……『太陽神と一体化する』、あるいは『太陽神の炉を胸に宿す』と表現されます。

 ……成功すれば、その人間はほぼ【不老】となります」

 

「不老……!」

 総理が息を呑む。中国の仙人と同じ領域だ。

 

「それだけではありません。身体能力、回復力、痛覚耐性、恐怖耐性、そして霊的知覚……そのすべてが、人間の枠を完全に超える」

 三神は、淡々とスペックを並べる。

「まさに、超人(スーパーソルジャー)です」

 

「……量産できれば、最強では?」

 防衛大臣が、軍人としての直感で反応する。

 ロシアのサイボーグのように、これを量産できれば、世界を支配する究極の軍隊ができるのではないか。

 

 だが、三神は静かに、そして完全に首を横に振った。

 

「各国が、そう思うでしょうね」

 三神は、冷たく笑った。

「ですが、そこが最大の危険(罠)です。……これは、部品を入れ替えるだけの兵器生産ライン(工業製品)ではないんです」

 

「適性が、必要なのです」

 三神は、指を一本立てた。

「ただの生体的な拒絶反応の話じゃありません。……精神、肉体、信仰、覚悟、そしておそらくは、アーティファクト(神)からの承認や、本人の『完全な同意』に近いもの。……そういった、極めて宗教的で魂レベルの『波長の一致』が求められる。

 ……ナチスは、それを全部無視した」

 

 三神は、ナチスの人体実験がなぜ失敗の山を築いたのか、その理由を暴き出した。

 

「彼らは、無理やり胸を切り開き、アーティファクトを押し込み、暴力でスイッチを入れようとした。

 だから……大量の失敗体と、死体を積み上げたんです。彼らがやっていたのは、鍵穴の形も分からないまま、爆薬で金庫をこじ開けようとするような、愚かな行為ですよ」

 

 その説明に、医学の知識を持つ科学顧問が青ざめた。

 アーティファクトと人体を繋ぐという、最もデリケートなプロセスを、ナチスは強制収容所の捕虜を使って総当たりで行っていたのだ。その凄惨さは、想像を絶する。

 

「……三神編集長」

 沖田室長が、三神のそのあまりにも具体的で、確信に満ちた説明に、鋭い疑念の目を向けた。

 

「あなたは……随分と詳しすぎますね」

 

 沖田の言葉に、総理もハッとして三神を見る。

「まるで、実物を、あるいはその『成功例』を、自分の目で見たことがあるような口ぶりです」

 

 会議室に、再び緊張が走る。

 

 三神編集長は、一瞬だけ沈黙し。

 それから、少しだけ苦笑して、あっさりと認めた。

 

「ええ。ありますよ」

 

 会議室の時間が、完全に停止した。

 

「……ある?」

 総理が、信じられないというように呟く。

 

「以前、アステカの超人(成功例)を……取材したことがあります」

 三神は、平然と言ってのけた。

 

「……取材?」

 官房長官が、素っ頓狂な声を上げる。

 

「月刊ムーの仕事です」

 三神は、これ以上ないほど説得力のある、最強の【免罪符(言い訳)】をドヤ顔で提示した。

 

「……っ」

 総理も、沖田も、完全に言葉を失った。

 この男の情報網は、どうなっているのか。アメリカのCIAもロシアのKGBも血眼になって探している『アーティファクトの適合者』に、オカルト雑誌の取材枠であっさりと接触しているのだ。

 

「彼は……アステカ時代から、ずっと生きていると言われていました」

 三神は、取材の記憶を遡るように、少しだけ懐かしそうな目をした。

「もちろん、戸籍上の証明などありませんよ。

 ただ……彼が持っていた写真、古い証言の数々、古文書の記述、複数国にまたがる奇妙な目撃記録、そして彼自身の、歴史に対する異常なまでの深い知識。

 ……そして何より。会った時の、あの圧倒的な『存在感』」

 

 三神は、ゆっくりと首を振った。

「あれは、普通の人間ではありませんでした」

 

「名前は?」

 沖田が、即座に情報機関として特定にかかる。

 

「いくつか名を持っていました」

 三神は、手元のメモ帳をパラパラとめくりながら答える。

「私が聞いた名は、【イツコアトル】。……黒曜の蛇、という意味合いだそうです」

 

「イツコアトル……」

 外務省の幹部が、その名を急いで手元の端末に入力する。

 

「彼は、どのような能力を持っていたのですか?」

 防衛大臣が、脅威評価のために問う。

 

「いくつか特徴があります」

 三神は、ホワイトボードに箇条書きにしていく。

 

「一つ。アステカ末期に生まれた戦士であり、太陽の心臓を宿した最後期の成功例の一人であること。

 二つ。老化が極端に遅い(事実上の不老)。

 三つ。銃弾を完全に無効化する(弾く)わけではないが、治癒力が異常に高く、致命傷を受けにくいこと。

 四つ。……太陽光下において、異常なまでの力を発揮すること。

 五つ。逆に、夜間や地下など、太陽の光が届かない場所では能力が著しく落ちること」

 

「太陽光がエネルギー源……まさに『太陽の心臓』ですか」

 科学技術顧問が唸る。

 

「六つ。心臓は、もはや物理的な肉体器官ではなく、霊的太陽炉に近いシステムへと置換されていること。

 ……そして、七つ」

 

 三神は、マーカーを置き、真剣な顔で言った。

 

「彼は……旧ナチスの研究を、激しく憎んでいること。

 そして、自分たちを『兵器』として見られること(扱われること)を、何よりも嫌うこと、です」

 

「戦士、なのですね」

 矢崎総理が、三神の言葉から彼の人物像を読み取ろうとする。

 

「はい。彼は戦士です。神官でもなく、王でもない」

 三神は頷く。

「ただ、非常に古い時代の、誇り高き戦士です」

 

「なぜ、ナチスを憎んでいるのですか?」

 総理が問う。

 

「同胞を奪われたからでしょう」

 三神は、冷酷な歴史の可能性を口にした。

「あるいは、彼らの神聖な儀式を、ナチスの野蛮な人体実験によって汚されたから。

 ……どちらにせよ、今回の《ゾンネンヘルツ計画》のニュースが表に出た以上……彼が、このまま沈黙している保証はありません」

 

 総理の顔から、スッと血の気が引いた。

「つまり……そのアステカの超人が、このクロニクル紙のニュースを知ったら……」

 

「行動するかもしれません」

 三神は、断言した。

 

「アルゼンチンへ、向かう可能性があると?」

 沖田室長が、事態の急転直下に眉をひそめる。

 

「大いにあります」

 三神は頷いた。

「彼にとって、これは『アメリカとアルゼンチンの国家間の疑惑(外交問題)』ではありません。

 ……旧ナチスが汚し、奪い去った、太陽の心臓の残骸(同胞の痕跡)。

 彼がそれを取り戻す、あるいは【完全に破壊する】と判断しても、全く不思議ではない」

 

「……たった一人の超人が、単独でアルゼンチン政府(軍事施設)と戦えるとでも言うのですか?」

 防衛大臣が、軍事的常識から疑問を呈す。

「いくら超人とはいえ、相手は現代の国家の軍隊ですよ。銃弾も無効化できないなら、重火器やミサイルで……」

 

 三神は、その防衛大臣の言葉を、少し考えてから、静かに、しかし絶対的な恐怖を込めて否定した。

 

「……アルゼンチン政府ぐらいなら、簡単に滅ぼすでしょうね」

 

 室内が、文字通り完全に凍りついた。

 

「……一人で、ですか」

 官房長官が、震える声で聞き返す。

 

「もちろん、核兵器や正規軍の大部隊を正面から全部打ち破る、という『怪獣映画』のような意味ではありませんよ」

 三神は、戦術的な観点から説明する。

「ですが……暗殺、潜入、要人の殺害、地下施設の破壊、軍司令部の無力化。

 ……そういう『戦士としてのゲリラ的な行動』においてなら。国家というシステムは、彼のような存在に対しては非常に脆い。……彼は軍隊ではなく、【災厄】に近いんです」

 

 一人で、国家中枢を壊滅させる能力を持つ災厄。

 それが今、南米に向けて動き出そうとしている。

 

「……アメリカ政府に、共有しましょう」

 矢崎総理は、即断した。

「この情報を、日本だけで抱え込むのは危険すぎる。アメリカのインテリジェンスと連携し、事態の悪化を防がなければ」

 

「どこまで共有しますか」

 外務省担当が、情報の手札の切り方を確認する。

 

 沖田室長が、即座にリストアップする。

「アステカの心臓の概要。

 霊的心臓置換の事実。

 不老化・超人化の可能性。

 適性が必要であり、ナチスのような量産(人体実験)は危険であること。

 生存するアステカ超人の存在。

 そして……彼がアルゼンチンへ向かう可能性があること。

 この六点は、警告として必須です」

 

「三神編集長の、取材記録は?」

 官房長官が、三神を見る。

 

「出せる範囲なら、提供しますよ」

 三神は、少しだけ肩をすくめた。

「ただし。……彼の『現在の居場所』を特定できる情報は、すべて伏せてください」

 

「なぜです?」

 総理が、怪訝な顔をする。

「アメリカの監視網を使って、彼を先に見つけて保護(あるいは対話)した方が安全では……」

 

「アメリカも……欲しがるかもしれませんから」

 

 三神の一言で、会議室が再び重苦しい沈黙に沈んだ。

 アメリカは今、無制限入札を宣言し、地球外テクノロジーを血眼になって集めている。

 もし、完璧な成功例である『アステカの超人』の居場所を知れば。彼らは保護ではなく、「捕獲」や「解剖(研究)」に動く可能性がある。

 

「扱いを間違えれば、彼はアメリカの敵にもなります」

 三神は、冷酷に警告した。

「もちろん、日本の敵にも。……彼は、便利な『兵器』ではありません。誇り高き戦士です。

 そこを忘れて、彼をモルモットや軍事資産として扱おうとした国から……必ず、血を見る(滅ぼされる)ことになるでしょう」

 

 その警告の重さに、総理も深く頷かざるを得なかった。

 

 日本政府から、アメリカのホワイトハウス地下・危機対応室へ。

 緊急の共有文書が、十一次元量子暗号回線を通じて送信された。

 

 分類:【極秘/同盟国限定共有/アーティファクト起源情報】

 タイトル:《ゾンネンヘルツ計画》に関連するアステカ由来霊的心臓置換技術、および生存個体に関する予備情報

 

 そして、その文書の最後には、三神の言葉を基にした、日本政府からの強烈な【警告文】が添えられていた。

 

『――当該アーティファクトは、単なる兵器技術ではなく、アステカ文明の信仰・儀式・戦士階級と深く結びついた存在である可能性が高い。

 旧ナチス由来の研究(冒涜)の露見により、現在も生存するアステカ由来の超常個体が、報復、あるいは奪還のために行動を起こす可能性がある。

 ……当該個体を、兵器や研究対象として扱うことは、彼らからの【重大な敵対行為】と見なされる恐れがあるため、米国政府においても接触には細心の注意を払われたい』

 

「……」

 矢崎総理は、送信完了のランプが点灯するのを見届け、深く息を吐き出した。

 

「今度は……国家間の争いだけではないのですね」

 総理が、疲れた声で呟く。

 

「はい」

 沖田室長が、モニターに映る南米大陸の地図を睨み据えたまま、重々しく答えた。

 

「神話そのものが、動く可能性があります」

 

 アメリカの制裁、ロシアのサイボーグ、中国の仙人。

 そこに、ナチスの亡霊と、怒れるアステカの超戦士が加わる。

 アルゼンチンの深いジャングルに向けて、今、世界中の殺意と欲望、そして神話の怒りが、恐ろしい速度で集結しようとしていた。

 

 




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