銀河皇帝のスペアに転生した元社畜、地球軌道上の要塞でネトゲ三昧の隠居生活を満喫する 〜足元では超大国が滅亡級の異星遺産を巡って暗躍中ですが、主人公(ぼく)の命は絶対安全なので特等席で傍観します〜 作:パラレル・ゲーマー
ワシントンD.C.、ホワイトハウス地下。
核攻撃にも耐え得る強固な防爆扉の奥に存在する、極秘危機対応室。
世界中のメディアを巻き込んだ『ゾンネンヘルツ計画』のスクープ報道と、アルゼンチン政府の曖昧な否定声明。
その裏側で、アメリカ政府はすでに、CIAの諜報網と軍事衛星を総動員し、南米のジャングルの奥深くへと冷酷な視線を突き刺していた。
円卓の最上座。
キャサリン・ヘイズ大統領は、国防総省と情報機関が提出した「アルゼンチン軍事施設への非合法介入プラン」の分厚いファイルを前に、眉間を深く揉みほぐしていた。
「……大統領」
その時、CIA長官が、いつになく焦燥感を滲ませた足取りで会議室に入室し、ヘイズの前に一つの新しいファイルを置いた。
「日本政府から、極秘共有が届きました」
「日本から? この件で?」
ヘイズは、怪訝な顔で顔を上げた。
日本は今、出雲と与那国の自国アーティファクトの管理で手一杯のはずだ。なぜ、地球の裏側の南米の件で、わざわざ緊急の暗号通信を入れてきたのか。
「はい」
CIA長官は、ごくりと唾を飲み、その情報源の名前を口にした。
「あの、三神編集長由来の情報を含むとのことです」
「……あの日本のオカルト編集長ね」
ヘイズは、思わず天を仰いだ。
万象器のオークションで『文明解釈者』として同席し、各国の欲望を冷酷に切り捨てた男。彼が動いたということは、この情報は単なる日本の独自調査ではなく、世界の裏側を知る者からの「強烈な警告」であることを意味していた。
「スクリーンへ表示して」
大統領の指示で、日本から送られてきたテキストと画像データが、メインモニターに展開された。
『アステカの心臓は実在する可能性が高い』
『ナチスはそれを歪めて研究した』
『霊的心臓置換により、不老・超人化が可能』
『適性が必要であり、強制量産は高確率で失敗する』
ここまでは、CIAが過去のナチス資料から推測していた最悪のシナリオと、おおむね一致していた。
だが。
その後に続く二行のテキストが、会議室の空気を完全に異質なものへと変えた。
『――アステカ時代から生きている超人が存在する』
『――彼がこの事件(ニュース)を知れば、行動する可能性がある』
「……生きている、アステカ超人?」
ヘイズ大統領は、自分の口から出たその単語の響きの馬鹿馬鹿しさと、それが「国家の最高機密会議」で大真面目に語られているという異常性に、完全に言葉を失った。
「大統領」
国防長官が、モニターの『不老・超人化が可能』という文字を食い入るように見つめながら、重苦しい、しかし明らかに欲望の混じった声で言った。
「これが事実なら、これは世界の戦略環境を根本から変えます」
「また増えたわね」
ヘイズは、乾いた笑いを漏らした。
「ロシアのサイボーグ、中国の仙人、アメリカのライトセーバー。……今度は、アステカ超人」
「言葉だけ聞くと、完全に三流のアメコミ映画です」
司法長官が、頭を抱えて呻いた。
「現実なのよね」
ヘイズは、無慈悲に宣告した。
「大統領」
国防長官は、軍人としての本能を隠そうともせずに、熱っぽく語り始めた。
「もし、この『霊的心臓置換』とやらが、我が国の医療と科学で再現可能なら……我々の特殊部隊に、完全な革命が起きます」
国防長官は、指を折ってその兵器としてのポテンシャルを数え上げる。
「老化しない兵士。高い耐久力と回復力。恐怖への耐性。そして、霊的感知能力。
……ロシアのサイボーグのように、レアアースを大量消費する機械のメンテナンスは不要。中国の仙人のように、長い修行や思想的な洗脳も必要ない。……この技術の戦略的価値は、計り知れません!」
会議室の軍人たちが、一斉に生唾を飲み込んだ。
もしアメリカがその技術を独占できれば、ロシアのサイボーグ大隊など、生身の超人兵士で完全に蹂躙できる。
だが。
その軍人たちの熱狂に、氷のような冷水を浴びせた者がいた。
「……その発想が、ナチスと同じ入口です」
画面越しに会議に参加していた、セレスティアル・ウォッチの科学主任、ケンドール博士だった。
彼の顔には、科学者としての嫌悪感と、同じ過ちを繰り返そうとする自国の軍人たちへの深い軽蔑が浮かんでいた。
「……」
国防長官は、不快そうに顔をしかめたが、反論はできなかった。
ナチスがその発想で何万人もの命をすり潰し、失敗の山を築いたという歴史的ファクトが、そこにあるからだ。
『日本の警告は、極めて妥当です』
アルファが、深い影の中から静かに同意した。
『これは、兵器として扱うべきではありません。……ナチスが失敗したように、技術の背景にある信仰や儀式的適性を無視して量産しようとすれば、必ず破綻します』
「でも、他国は兵器として扱おうとするわ」
ヘイズは、冷徹な国際政治の現実を指摘した。
「ロシアも中国も、あるいはヨーロッパの狂信者たちも。……南米にそんな技術があると知れば、必ず奪いに行き、自国の軍隊に組み込もうとする」
『はい』
アルファは頷いた。
「だから、我々が欲しがらないわけにはいかない」
ヘイズは、為政者としてのジレンマに苦しそうに顔を歪めた。
「……けれど、欲しがると、ナチスと同じように破滅するか、その『生きたアステカ超人』とやらを敵に回すことになる。
……最悪ね」
敵の手に渡るのを防ぐためには、自分が先に奪うしかない。だが、奪った瞬間に呪われる。
アーティファクト時代における、最悪のババ抜きゲームだった。
「CIA長官。……その『生きている超人』についての、裏付けはあるの?」
ヘイズは、現実の脅威を評価するために問うた。
「現在、三神編集長からの断片的な情報と、我々の公開・非公開アーカイブを照合中です」
CIA長官は、タブレットを操作し、複数の古いモノクロ写真や手書きのレポートをメインモニターに展開した。
驚くべきことに、その断片は、不気味なほどにピタリと一致し始めていた。
「1910年代のメキシコ革命期の記録写真に……同じ特徴を持つ男らしき人物が写り込んでいます」
CIA長官が、古びたセピア色の写真を拡大する。
「1950年代の、ある考古学者の未発表のフィールドノート。『ジャングルで、老いない先住民の戦士に出会った』という記述。
さらに、1980年代の某オカルト雑誌(おそらく月刊ムー)の取材記録の断片。
2000年代の中南米の麻薬カルテル紛争地帯の監視カメラ映像に、銃弾を受けても倒れない同一人物らしき影……」
長官は、すべての画像を並べた。
「三神編集長の提供した写真データは、顔の一部が意図的にぼかされていますが……骨格照合ソフトウェアによる分析では、これらの複数の時代に現れた人物の骨格データが、異常なほど高い確率で【一致】しています」
「……断定は、できないのでしょう?」
国防長官が、信じたくないというように言う。
「はい。断定はできません」
CIA長官は、重く頷いた。
「ですが……同一人物と見られる記録が、少なくとも【百年以上】にわたって、歴史の裏側に点在しています」
「つまり」
ヘイズ大統領は、深くため息をついた。
「日本のあのオカルト編集長は、また『本物』を掴んでいたということね」
「残念ながら」
CIA長官が苦々しく言う。
「残念って言わないの。事実なんだから」
ヘイズは、苛立ちを隠せずに言った。
「大統領。方針の修正が必要です」
国家安全保障補佐官が、進言した。
「アルゼンチンの施設に眠る技術だけでなく、この『生存するイレギュラー(超人)』の存在を前提に、盤面を再構築しなければなりません」
ヘイズは、しばらく黙ってモニターの古い写真を見つめていた。
「……アルゼンチン政府には、二つ伝えるわ」
ヘイズは、決断を下した。
「一つ。……地下施設の現状を、これ以上絶対に隠すな」
「二つ。……アーティファクトを、移動するな」
「移動するな、ですか?」
外務担当が、意外そうな顔をする。
「アメリカ本国へ移送させて、我々の管理下に置いた方が安全では?」
「ダメよ」
ヘイズは、即座に否定した。
「彼らがパニックになって『太陽の心臓』を強引に移送しようとしたら……それが、引き金になる可能性があるわ」
『同意します』
アルファが、画面越しに頷いた。
『アーティファクトが、地理的・儀式的な条件(南米の土地)と深く結びついている場合、無知な人間が不用意に移動させることは、極めて危険です。……最悪の場合、暴走するか、あるいはあの超人が『略奪された』と判断して、我々を明確な敵と見なすトリガーになります』
「特殊部隊(SEALs等)の投入準備は、継続でよろしいですか?」
国防長官が確認する。
「準備は継続。……ただし、現時点では絶対に侵入(強奪)しない」
ヘイズの目は、これまでにないほど慎重だった。
「我々が最初に撃てば(手を出せば)、アステカ超人も、中南米全体の世論も、完全にアメリカの敵に回るわ」
ヘイズは、万象器の時以上に、この「神話が生きている土地」に対して、極めて慎重なスタンスを取っていた。
***
一方、その頃。
インターネットの海では、まだ三神編集長が日本政府に提供した「アステカ超人の実在」という確定情報は、世間には漏れていなかった。
だが、ワシントン・クロニクルの記事と公開された資料の断片から、ネットの集合知は、すでに恐ろしいほどの精度で『アステカ説』へと自力で到達し、その噂を爆発的に広げていた。
[X(旧Twitter)/日本のタイムライン]
@Occult_Sleuth_Z
おい、過去のオカルト雑誌のバックナンバー漁ってたら、ヤバい記事見つけたぞ。
「ゾンネンヘルツ」「黒曜石」「太陽」「心臓」ってキーワード。これ完全にアステカ文明の儀式じゃん!
@History_Nerd_00
心臓を捧げる儀式を、ナチスが工学化(サイボーグ手術みたいに)しようとしたってこと? 最悪すぎる。
これ、古代アステカ側からしたら文化の冒涜どころじゃないだろ。自分たちの神聖な儀式を、人体実験のプロトコルに丸パクリされてたんだぞ。
@Cynical_Otaku
「老いないアステカ戦士」とか「メキシコ山中の黒曜の戦士」っていう都市伝説、昔のムーに載ってたらしいぞ。
……また月刊ムーかよ! 最近のムーの的中率、マジでおかしくないか!?
[海外大手フォーラム Reddit / r/Conspiracy(陰謀論板)より翻訳]
u/Meso_History_Buff (メキシコ):
Obsidian + Sun + Heart = Aztec?
(黒曜石+太陽+心臓=アステカ?)
If this is an Aztec artifact, Mexico should be involved. Argentina has no right to hide it.
(これがアステカ由来のアーティファクトなら、メキシコが関与すべきだ。アルゼンチンにこれを隠す権利はない)
u/Tech_Ethics_Prof (ドイツ):
If the Nazis defiled Aztec heritage, neither Argentina nor America should touch it without their consent.
(もしナチスがアステカの遺産を汚したのなら、アルゼンチンもアメリカも、彼らの同意なしにそれに勝手に触れるべきではない)
u/US_Citizen_99 (米国):
An immortal Aztec warrior? Please tell me this is fake.
(不老のアステカ戦士? 頼むから嘘だと言ってくれ)
Are we going to have to fight a demigod in the jungle now?
(俺たちはこれから、ジャングルで半神と戦わなきゃならないのか?)
このネット上の議論と怒りのうねりは、次第に中南米全体、特にメキシコ国内の世論を激しく刺激し、「我々の歴史と尊厳の問題だ」というナショナリズムの炎へと急成長し始めていた。
***
ワシントンD.C.、ホワイトハウス地下。
ネット上の『アステカ戦士説』の拡散状況をモニターで確認しながら、キャサリン・ヘイズ大統領は、深く息を吐き出し、最終的な判断を下した。
「……この件の、最優先事項を変更するわ」
ヘイズの声に、長官たちが一斉に顔を上げた。
「アーティファクトの『確保(奪取)』ではない」
ヘイズは、冷徹に宣言した。
「第一に、ナチスの遺産が暴走するのを防ぐこと。
……そして第二に。アステカの継承者(超人)を、決してアメリカの敵に回さないことよ」
「確保しないのですか」
国防長官が、不満げに眉をひそめる。
「他国に奪われるリスクを放置すると?」
「欲しがった瞬間……我々は、ナチスと同じ顔になる」
ヘイズの目は、冷たく、そして深い畏怖を帯びていた。
「世界中からそう見られるし、あの超人からもそう見られる。……それだけは、絶対に避けるわ」
『妥当な判断です』
アルファが、画面越しに静かに同意した。
「ただし」
ヘイズは、厳しい顔で世界地図を睨んだ。
「ロシアと中国が、私たちと同じように『理性的』に判断するとは限らないわ」
ロシアはサイボーグのパーツとして、中国は新たな仙術の研究対象として。彼らがなりふり構わず南米のジャングルに手を突っ込んでくる可能性は、極めて高い。
その時。
CIA長官が、手元の緊急端末を確認し、顔色を変えて立ち上がった。
「……大統領。メキシコ国内で、複数の『非公式な移動』が確認されました」
「誰の?」
ヘイズが身を乗り出す。
「先住民系の宗教団体、考古学系財団の私兵部隊、そして……」
CIA長官は、ごくりと唾を飲んだ。
「正体不明の、単独移動者です」
メインモニターの端に、新たな映像がポップアップした。
空港の監視カメラではない。メキシコ南部の国境付近、山中の荒野に設置された、麻薬密輸監視用の赤外線カメラの映像。
夜明け前の、薄暗い荒野。
そこを、ただ一人、南へ向かって歩き続ける男の姿が映っていた。
白髪混じりの、褐色の肌を持つ男。
荷物は持っていない。武器らしいものも見えない。
ただ、その男の歩みは、荒野の悪路を全く苦にしない、異常なほど力強く、そして迷いのないものだった。
そして。
赤外線カメラの映像の中で。
その男の胸元だけが……まるで、小さな太陽を抱え込んでいるかのように、異常な熱を帯びて、かすかに【金色の光】を脈打たせていた。
「……彼?」
ヘイズ大統領が、その光る胸を見つめ、震える声で呟いた。
「はい」
CIA長官が、重く頷く。
「おそらく……間違いありません」
神話が、動き出した。
ナチスの亡霊が残した傷口に向かって、数百年を生きる太陽の戦士が、たった一人で南米へと歩みを進めている。
アメリカは、まだ動けない。
だが、盤面はすでに、国家の思惑を超えた『超常の復讐劇』へと、その幕を静かに開けようとしていた。
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