銀河皇帝のスペアに転生した元社畜、地球軌道上の要塞でネトゲ三昧の隠居生活を満喫する 〜足元では超大国が滅亡級の異星遺産を巡って暗躍中ですが、主人公(ぼく)の命は絶対安全なので特等席で傍観します〜 作:パラレル・ゲーマー
アルゼンチン南部、パタゴニア地方。
アンデス山脈の厳しい稜線が黒々としたシルエットを描くその山麓に、地図上には存在しないはずの軍管轄施設が静かに息を潜めていた。
それは、かつてナチス・ドイツが敗戦の混乱に乗じて南米へと持ち込み、アルゼンチン政府が長年にわたって誰の目にも触れさせず秘密裏に研究を継続してきたとされる『ゾンネンヘルツ(太陽の心臓)計画』の実験場であった。
アメリカの新聞社が放ったスクープによって、その疑惑は一瞬にして世界中へと拡散した。今やこの施設は、各国のインテリジェンス機関の血走った視線と、軍事衛星の高解像度レンズによる監視網に完全に捕捉されていた。
アルゼンチン軍は、パニックに陥りながらも、施設周辺に大規模な装甲部隊、対空ミサイル陣地、そして赤外線センサー網を展開し、完全な「籠城戦」の構えを見せていた。政府の公式見解としては「疑惑は根拠のない憶測に過ぎない」と全否定しているにもかかわらず、その過剰なまでの防衛体制が、逆に「ここに間違いなく何か致命的なものが存在する」という事実を、世界に向けて大声で証明してしまっていた。
深夜二時。
月は厚い雲に隠れ、周囲の荒野は深い、底知れぬ闇に沈んでいた。気温は急激に下がり、乾いた風が砂埃を巻き上げている。
施設の外郭、第一防衛線を警備するアルゼンチン軍の検問所。
堅牢なコンクリートのトーチカと、重機関銃を据え付けた装甲車の脇で、重武装の兵士たちがサーチライトを神経質に振り回しながら、周囲を警戒していた。
彼らの顔には、明確な疲労と恐怖が張り付いている。アメリカの特殊部隊(SEALs)が夜の闇に紛れて空から降ってくるのではないか、あるいはイスラエルのモサドが暗殺チームを送り込んでくるのではないかと、見えない大国の影に怯え続けているのだ。
「……おい」
監視塔の内部で、レーダー担当の通信兵が、モニターの端に表示された「小さな点」を指差して声を上げた。
「反応がある。南の荒野から……何かが急速に接近してきているぞ」
「なんだ? 車両か? ドローンか?」
指揮官が血相を変えてモニターを覗き込む。彼の手には、すでに汗で滑りそうなトランシーバーが握られていた。
「……いえ。熱源のサイズと、移動のシグネチャから推測すると……」
レーダー担当兵は、信じられないというように目を何度も瞬かせた。
「……人間(単体)です」
「人間だと?」
指揮官は鼻で笑った。緊張の糸が、少しだけ緩んだような気がした。
「こんな深夜の荒野を、歩いて近づいてくる馬鹿がいるか。どうせ野犬の群れか、はぐれたアルパカの誤検知だろ。センサーの感度を下げろ」
だが、次の瞬間。
レーダーの点の移動速度が、表示パネルの上で異常な数値を叩き出した。
「た、隊長! 接近速度がおかしいです! 時速……時速百キロを超えています! しかも不規則なジグザグ軌道で……いや、跳躍しているのか!? 完全にレーダーの予測軸を外れて動いています!」
担当兵が、悲鳴のような声を上げた。
「なんだと!?」
指揮官は双眼鏡をひったくり、監視塔の防弾ガラスの窓から南の荒野を凝視した。
「全車、サーチライトを南へ向けろ! 目標を照らし出せ!」
複数の強力なサーチライトの光が、荒野の深い闇を交差するように切り裂く。
そして、光の帯の先に、それ(・・)はいた。
土煙を激しく巻き上げ、凄まじい速度で検問所へと向かってくる『黒い影』。
車両でも、機械でもない。
二本足で大地を蹴り、驚異的な跳躍力で岩や低木を飛び越えながら、一直線に迫ってくる【生身の人間】の姿だった。
「と、止まれ! 止まらないと撃つぞ!!」
指揮官が拡声器で絶叫する。警告は、荒野の風にかき消されそうだった。
だが、その影は止まらない。
それどころか、サーチライトの強い光を浴びた瞬間、その影の胸元が、まるで光に呼応するかのように『淡い金色の光』を微かに脈打たせた。
「……撃てッ!!」
未知の恐怖に駆られた指揮官の命令と同時に、装甲車の上部に据え付けられた12.7ミリ重機関銃が、火を噴いた。
凄まじい轟音とともに、曳光弾の赤い光の雨が、荒野を走る黒い影へと情赦なく降り注ぐ。
歩兵の肉体を容易く挽肉に変え、軽装甲車両すら蜂の巣にする、圧倒的な弾幕。
だが。
『――遅い』
重機関銃の轟音の隙間を縫うように。
低く、地鳴りのような声が、指揮官の耳元で直接響いたような気がした。
「なっ……!?」
指揮官が目を見開いた瞬間。
弾幕の雨の向こう側にいたはずの『影』は。……すでに、機関銃を撃ち放っていた装甲車の真横、完全な死角にまで到達していた。
人間の動体視力を完全に置き去りにする、異次元の速度。
ダァァァンッ!!
鈍く、重い爆発音が響き、重さ十数トンの装甲車が、まるで子供の蹴った玩具のように横転し、激しい火花を散らしながらアスファルトを滑っていった。
兵士たちの悲鳴と、金属が軋む凄惨な音が、深夜の検問所に響き渡る。
「……ば、化け物……!」
指揮官は、監視塔の上から、その光景を信じられない思いで見下ろした。
対戦車ミサイルを受けたわけでも、地雷を踏んだわけでもない。
その『影』が、装甲車の側面に、ただ【体当たり】をしただけなのだ。
人間の肉体が、十数トンの鋼鉄の塊を物理的に弾き飛ばすなど、既存の物理法則では説明がつかない。
土煙が晴れる。
横転して黒煙を上げる装甲車の横に、一人の男が立っていた。
白髪混じりの、褐色の肌を持つ男。
上半身は裸であり、その鍛え上げられた胸には、十字の深い傷跡が刻まれている。そして、その傷跡の奥深くで、金色の光が静かに、心臓の鼓動と同期するように脈打っている。
手には、黒曜石の鋭い刃が並んだ古びた戦棍(マカナ)を握りしめていた。
アステカの超人、イツコアトル。
彼は、横転して煙を上げる装甲車を一瞥し。
そして、監視塔にいる指揮官を、まるで虫でも見るような冷ややかで古い瞳で見上げた。
「……太陽の傷を、汚したな」
イツコアトルは、静かに呟くと。
監視塔の太いコンクリートの柱を足場にして、重力を完全に無視したような動きで一気に跳躍した。
「ひぃっ!?」
指揮官が腰を抜かして後ずさる。
ガシャンッ!
イツコアトルは、監視塔の分厚い防弾ガラスを素手で粉砕し、内部へと容易く侵入した。
彼が手に持っていた戦棍を一閃させると、通信機材とレーダーのコンソールが火花を吹いて真っ二つに割れ、完全に沈黙した。
「ひ、ヒィィッ……!」
指揮官は、腰のホルスターから拳銃を抜こうとしたが、手が震えてロックが外せない。
「……命までは取らん」
イツコアトルは、恐怖で震える指揮官の首根っこを片手で掴み、軽々と持ち上げた。
「だが、道を塞ぐなら……武器は置いていけ」
彼は、指揮官の拳銃をもう片方の手で握りつぶし、ただの鉄屑に変えてから、彼を部屋の隅へと放り投げた。
指揮官は、恐怖と衝撃で気を失い、床に崩れ落ちた。
イツコアトルは、壊れた監視塔の窓から、さらに奥の地下施設へと続く軍の防衛線を見下ろした。
夜の闇の中、激しい警報のサイレンが鳴り響き、無数のサーチライトと装甲部隊が、この第一検問所の異変に向けて動き出しているのが見える。
「……夜は、太陽の恩恵が薄い」
イツコアトルは、胸の傷跡に手を当て、少しだけ息を吐いた。
夜間は、彼を駆動させる『太陽の心臓』の出力が落ち、本来の力を完全に発揮することはできない。彼の身体は、太陽の光を浴びてこそ真の力を解放するシステムなのだ。
だが。
「……この程度の鉄くず(武器)を払うくらいなら、十分だ」
彼は、再び深い闇の中へと、凄まじい速度で跳躍していった。
***
数十分後。
アルゼンチン軍の施設周辺は、完全な阿鼻叫喚の地獄絵図と化していた。
「目標、セクター4へ移動中! 速すぎる! ロックオンできません!」
「第2小隊、応答なし! 装甲車が……装甲車が、素手でひっくり返されました!」
「攻撃ヘリの支援を! 早く!」
地下施設の司令室では、アルゼンチン軍の将校たちが、モニターに映し出される信じられない光景に、顔面を蒼白にして絶叫していた。
相手は、たった一人の生身の人間だ。
だというのに、軍の誇る装甲部隊が、次々と『機能停止』に追い込まれていく。
モニターの映像が、その異常な戦闘の様子を捉えている。
イツコアトルは、戦車の主砲が火を噴くよりも早く、死角へと潜り込む。
そして、その強靭な腕力で、戦車のハッチを無理やりこじ開け、中の乗員を引きずり出して放り投げると、砲身を素手で力任せに【ひん曲げた】。
また別の装甲車には、黒曜石の戦棍を機関部に叩き込み、エンジンを完全に破壊する。
歩兵たちの撃ち出す銃弾は、彼の異常な動体視力と反応速度の前に、すべて空を切るか、あるいは掠り傷程度しか与えられない。
仮に被弾したとしても、胸の奥の金色の光が明滅すると同時に、傷口が異常な速度で塞がっていく。
「なんだ、あいつは……! 人間じゃない……!」
司令官が、頭を抱えて唸る。
だが、アルゼンチン軍の将校たちをさらに恐怖させたのは、その圧倒的な破壊力だけではなかった。
「……死者が、一人も出ていません」
報告を受けた副官が、震える声で言った。
「彼(目標)は、車両の機関部や武器、通信設備だけをピンポイントで破壊しています。……兵士は、気絶させられるか、武器を壊されて放置されているだけで……誰一人として、殺されてはいません」
その報告に、司令室が静まり返った。
相手は、圧倒的な力を持っている。その気になれば、この基地の兵士全員を皆殺しにすることも容易いはずだ。
だというのに、彼は『殺さない』。
ただ、自分から武器を奪い、戦意をへし折り、道を開けさせているだけなのだ。
「……我々を、舐めているのか……!」
司令官が、屈辱に顔を歪める。
「攻撃ヘリを出せ! 上空からミサイルで、跡形もなく消し飛ばせ!」
夜空に、二機の攻撃ヘリコプターが重低音を響かせて飛来する。
サーチライトが、荒野を駆けるイツコアトルの姿を捉えた。
「目標捕捉。ミサイル、発射!」
ヘリから、対地ミサイルが火を噴き、イツコアトルへと一直線に迫る。
だが。
イツコアトルは、迫り来るミサイルの軌道を冷徹な目で見切ると、足元の岩盤を力強く蹴り上げ、信じられない跳躍力で、ヘリのサーチライトの死角(上空)へと躍り出た。
ミサイルは彼の足元で空しく爆発し、荒野に巨大なクレーターを作る。
「なっ……消え、どこに!?」
ヘリのパイロットがパニックを起こす。
『――ここだ』
ヘリのコックピットの窓ガラスに、イツコアトルが張り付いていた。
パイロットが悲鳴を上げる間もなく、イツコアトルは黒曜石の戦棍の柄で、強化ガラスを粉砕。
そして、パイロットの首根っこを掴んで気絶させると、計器盤を破壊し、ヘリのコントロールを奪った。
彼は、そのままもう一機のヘリに向けて、機体を強引に特攻(体当たり)させる軌道にセットし、直前に空中へと脱出した。
ドォォォォンッ!!!
空中で二機の攻撃ヘリが激突し、火球となって墜落していく。
パラシュートで脱出するパイロットたちの姿を横目に、イツコアトルは無傷のまま地上へと着地した。
「……手間をとらせる」
彼は、炎上するヘリの残骸を一瞥し、再び地下施設への入り口へと歩みを進めた。
この、深夜の軍事施設における、たった一人による装甲部隊の蹂躙劇。
当然ながら、この異常事態は、周辺で網を張っていた各国のインテリジェンス機関や、野次馬のドローンによって、一部始終が撮影されていた。
そして、その映像は、瞬く間に暗号化回線を抜け、インターネットの海へと流出(拡散)していったのである。
***
[X(旧Twitter) / グローバル・タイムライン]
集計時間:04:30(JST)/米国東部標準時 15:30
@Mil_Spec_Watcher
おい、アルゼンチンからとんでもない映像が流れてきたぞ。
南米の軍事施設が、たった一人(?)の謎の男に襲撃されてる。
@GeoPol_Analyst_UK
これ、映画の撮影じゃないのか?
戦車の砲身が素手で曲げられてるぞ。攻撃ヘリが空中で撃墜されてる。
相手は……サイボーグか? ロシアのスペツナズが強奪に動いたのか?
@Occult_Sleuth_Z
違う!! ロシアのサイボーグじゃない!!
映像の男、上半身裸で、武器が黒曜石の棍棒だぞ!!
これ、オカルト板で噂になってた『アステカの超人』だろ!!! ガチで実在したのかよ!!!
@Weapon_Nerd_00
おいおいおい。
夜間で、しかも生身だぞ?
音速とは言わないが、それに近い速度で動いてる。
ロシアのサイボーグは「金属の装甲」と「人工筋肉」で強化されてたけど、こいつは完全に生身の肉体で戦車の装甲とやり合ってるぞ。物理法則どうなってんだ。
@Human_Rights_Bot
映像をよく見てください。
彼、兵士を一人も殺していません。
武器を壊し、車両を無力化し、兵士は気絶させて放置しているだけです。
これは「虐殺」ではなく、明確な意思を持った「無力化(武装解除)」です。
[5ちゃんねる:ニュース速報板]
スレタイ:【超絶速報】アステカ超人さん、アルゼンチン軍の戦車を素手でボコボコにしてしまうwww
1 :名無しさん@涙目です
おい、動画見たか!?
戦車がオモチャみたいに投げられてる(横転させられてる)んだが!?
18 :名無しさん@涙目です
ロシアのサイボーグ「鉄の体で銃弾弾きます!」
アステカ超人「生身で戦車の砲身曲げます!」
完全にインフレしてて草。
32 :名無しさん@涙目です
でもこれ、夜間の映像だろ?
三神編集長(月刊ムー)の情報だと、「夜間は能力が落ちる」って設定じゃなかったか?
45 :名無しさん@涙目です
>>32
うわ、それだ。
夜間でこれ(戦車蹂躙)ってことは……。
昼間(太陽が出てる時)になったら、コイツどうなるんだよ!?
60 :名無しさん@涙目です
想像しただけでチビるわ。
昼間になったら、文字通り災害(歩く核兵器)レベルになるんじゃないか?
75 :名無しさん@涙目です
しかも「誰も殺してない」ってのが逆に怖いわ。
「お前らなんて殺す価値もない虫ケラだ」って言われてるみたいで、圧倒的な格の違いを感じる。
88 :名無しさん@涙目です
アルゼンチン軍、完全に子供扱いされてるな。
これ、アメリカとかロシアはどう動くんだ?
アーティファクト(太陽の心臓)本体よりも、この超人本人の方が軍事的に価値高いだろ。
102 :名無しさん@涙目です
月刊ムー、また勝ってしまうのか。
三神編集長、この化け物にインタビューしてたとかマジで命知らずすぎる。
――ネット空間は、「太陽の戦士」の実在を裏付ける衝撃的な映像の前に、完全に熱狂と恐怖の坩堝と化していた。
これまでは「ナチスが遺したアーティファクト(物)」を巡る陰謀論として消費されていた事態が。
「生きた神話(アステカの超人)」が、自らの意志で軍隊を蹂躙しているという、全く新しい【怪獣映画(パニック)】のフェーズへと突入したのだ。
そして、この映像を見たことで。
各国のインテリジェンス機関と最高指導部たちの『認識』も、決定的に書き換えられることになる。
「アルゼンチン地下施設の『ゾンネンヘルツ(失敗作の残骸)』など、もはやどうでもいい」
「本当に価値があるのは……あの技術を完全に適合させ、何百年も生き続けている【成功例(イツコアトル本人)】だ」
世界中の欲望のベクトルが、施設の奥底から、荒野を駆けるたった一人の戦士へと、一斉に向きを変えた瞬間であった。
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