銀河皇帝のスペアに転生した元社畜、地球軌道上の要塞でネトゲ三昧の隠居生活を満喫する 〜足元では超大国が滅亡級の異星遺産を巡って暗躍中ですが、主人公(ぼく)の命は絶対安全なので特等席で傍観します〜 作:パラレル・ゲーマー
アルゼンチン南部、パタゴニアの荒野で繰り広げられた、たった一人の「太陽の戦士」による装甲部隊の蹂躙劇。
その衝撃的な映像は、暗号化回線を抜け、瞬く間に世界中のインテリジェンス機関と政府中枢の巨大モニターに映し出された。
彼らは皆、息を呑み、そして……同じ『毒』に感染した。
ワシントンD.C.、ホワイトハウス地下。
極秘危機対応室の空気は、恐怖ではなく、隠しきれない【欲望】によって異様なまでに熱を帯びていた。
「……これが、夜間(弱体化状態)のパフォーマンスだと?」
国防長官が、モニターの映像に食い入るように見つめながら、ごくりと息を呑んだ。
「信じられん。ロシアのサイボーグ兵など、比較にならない。あれは機械の暴力だが、こいつは……まるで、肉体そのものが別の次元のエネルギーで駆動しているようだ」
「しかも、完全に自己完結している」
CIA長官が、インテリジェンスの視点からその価値を評価する。
「サイボーグのようなレアアースの補給も、莫大な電力も必要ない。太陽の光(自然エネルギー)だけで、半永久的にこの戦闘力を維持できるとすれば。……これは、究極の戦略兵器(スーパーソルジャー)の【完全な完成形】だ」
会議室の将官たちの目に、露骨な野心の炎が燃え上がり始めていた。
「大統領」
国防長官が、身を乗り出してキャサリン・ヘイズに訴えかけた。
「方針の転換を具申します。……あの『生きたサンプル(イツコアトル)』は、我が国が何としても確保すべきです。彼の細胞、あるいは胸の『霊的太陽炉』の構造を解析できれば、アメリカ軍はロシアのサイボーグを完全に旧式化できる。……南米に展開している特殊部隊(SEALs等)に、直ちに【捕獲】の命令を!」
「……ダメよ」
だが、ヘイズ大統領は、その将官たちの熱狂を、氷のように冷たい声で切り捨てた。
「私は言ったはずよ。『アステカの継承者を敵に回すな』と。……欲しがった瞬間、我々はナチスと同じ顔になる」
ヘイズの目は、冷徹な理性を保っていた。
「相手は、ただの便利な兵器じゃない。意志を持った戦士よ。下手に捕獲しようとして彼を本気で怒らせれば、アメリカが彼にとっての『新たなナチス(排除すべき敵)』になるだけだわ」
「しかし、大統領!」
国防長官が食い下がる。
「我々が手を出さずとも、ロシアや中国は必ず彼を狙います! 彼らがこの究極のサンプルを手に入れれば……!」
「……ええ、分かっているわ」
ヘイズは、深くため息をつき、政治家としての『妥協案』を提示した。
「特殊部隊の展開は許可する。……ただし、名目はあくまで『アルゼンチンの市民保護』と『アーティファクトの暴走防止(封鎖)』よ」
ヘイズは、国防長官を鋭く睨みつけた。
「……現場の部隊には、【緊急時拘束プロトコル】を持たせておくことだけは許可するわ。だが、それはあくまで『彼が制御不能な暴走を起こした場合の保護(あるいは自己防衛)』という名目に限る。
……私からの命令は、最後まで『撃つな、捕まえるな、交渉しろ』よ。……絶対に、こちらから先に引き金を引く(敵対する)んじゃないわよ」
ヘイズは、アメリカという国家が「悪役」になることをギリギリのところで回避しようと必死だった。
だが、その彼女の『建前(保護)』と、軍部の『本音(捕獲)』が混在した曖昧な命令は、現場の特殊部隊に致命的な混乱(あるいは暴走の余地)を与えることになってしまう。
『……大統領の判断は、政治的には極めて妥当です』
モニター越しのアルファが、静かに同意する。
『だが……現場の兵士たちが、あの圧倒的な力(恐怖と誘惑)を前にして、最後まで大統領の『理性』を保てるかどうか。……それは、また別の問題です』
***
モスクワ、クレムリン地下。
「……素晴らしい!!」
ウラジーミル・ボグダノフ大統領は、イツコアトルの映像を見て、狂喜の笑い声を上げていた。
「これだ! これこそが、我々が目指すべき『能力最適化』の究極の到達点だ!」
ボグダノフは、傍らに立つモロゾフ大佐の機械の脚を一瞥し、そして再びモニターの超人へと視線を戻した。
「鉄の部品など、所詮は仮初めの力に過ぎん。あの男のように、肉体そのものを太陽の炉と融合させ、自己完結した無尽蔵のエネルギーを手に入れること。……これこそが、ロシアが手に入れるべき【真の進化】だ!」
「大統領閣下」
モロゾフ大佐が、自らの機械の脚を侮辱されたような屈辱を隠しつつ、冷徹に軍人としての進言を行う。
「あの『生きた成功例』のデータを、あるいは彼のもつ『太陽の心臓』の現物を……我が軍のサイボーグ部隊の【コア・パーツ】として組み込むことができれば。……我々のサイボーグ兵は、さらに上の次元……文字通り無敵の『神の軍隊』へとアップグレードできる可能性があります」
「その通りだ、モロゾフ!」
ボグダノフの目が、残忍な捕食者の色に染まる。
「南米のアルゼンチンなど、もはやどうでもいい。……あの男(イツコアトル)を捕獲し、シベリアの研究所に引きずり出せ! 解剖台に縛り付け、その身体の秘密をすべて抜き取れ!」
ボグダノフは、ロシア軍に最もシンプルで暴力的な命令を下した。
「すでに南米に潜入している【サイボーグ特殊部隊(赤き星旅団の先行部隊)】を、全数投入しろ。
……我々の『鉄の兵士』と、あの『古代の超人』。……どちらが優れているか、実戦で性能比較(データ収集)を行う絶好の機会だ。……必ず、生け捕りにしろ。抵抗するなら、手足の一本や二本、切り落としても構わん!」
ロシアは、アメリカのような建前すら必要としなかった。
彼らは堂々と、「自国の兵器を最強にするためのパーツ(実験体)」として、イツコアトルの確保(狩り)へと動き出したのだ。
***
北京、中南海。
「……ふむ」
李天明国家主席は、映像をじっと見つめ、静かに顎を撫でた。
「あの男……機械の力ではなく、何か強大な『霊的な炉』を体内に宿しているようですな」
長老の一人が、仙人としての鋭い知覚で、映像から漏れ出すイツコアトルの気配を分析する。
「アメリカとロシアは、あれを兵器(サンプル)として欲しがっているようですが……我々はどう動きますか、主席」
情報トップが問う。
「……あれは、兵器ではない」
李天明は、冷ややかな声で言った。
「あのように、自らの魂と強大なエネルギーを完全に調和させ、何百年も肉体を維持している存在は……我々が目指す『仙人』の境地に、極めて近いものだ」
中国指導部は、イツコアトルを単なる兵器としてではなく、「同じ精神主義文明の到達者(あるいは同格の存在)」として評価していた。
「ならば、我々が保護(同盟)を持ちかけますか?」
長老が提案する。
「いや……」
李天明は、目を細めた。
「彼の目を見ろ。あれは、他者の支配や同盟に下るような男の目ではない。……それに、彼はまだ『荒削り』だ。怒りに任せて力を振るっているに過ぎない」
李天明は、太乙の教えである『精神と物質の調和』を重んじる立場から、冷静な判断を下した。
「我々が直接出向く必要はない。……【趙(チャオ)最長老】を派遣しろ」
「趙最長老を……!」
情報トップが、驚愕に息を呑んだ。
四十六人の仙人の中でも、最も深く『氣』を練り上げているとされる、筆頭格の長老。
「目的は、捕獲ではない。……【観測】だ」
李天明は、狡猾な笑みを浮かべた。
「あの男が、我々『仙人』と同格か、あるいはそれ以上か……。その【底(器量)】を測ってくるのだ。もし彼が我々に値する存在であるなら、その時は……」
中国は、直接手を出すのではなく、高みから「評価」する立場を選んだ。
彼らは、アメリカやロシアがアステカの超人に挑み、無残に砕け散る様を観察することで、自らの優位性を確認しようとしていた。
***
ブリュッセル、EU本部地下。
「ナチスの遺産……! 人の魂を冒涜する、最悪の穢れだ!」
ヘルメス協会の導師が、モニターの映像を見て、激しい嫌悪と怒りを露わにしていた。
「あのようなおぞましい儀式で生み出された存在(ゾンネンヘルツ)が、いまだに南米の地下で稼働しているなど、断じて許されることではない! 直ちに我々の手で浄化(破壊)せねばならん!」
EUの軍事幹部も、同調する。
「アルゼンチン政府が、旧ナチスの資料を秘匿していたという事実は、国際社会に対する重大な裏切りです。我々は『ナチス資料の回収と、民間人の保護』という大義名分のもと、特殊部隊を送り込むべきです」
だが。
導師たちの中には、荒野を駆けるイツコアトルの姿を見て、全く別の『欲望(解釈)』を抱く者もいた。
「……しかし、導師長」
一人の若い導師が、魅入られたように呟く。
「あの男……ナチスの穢れた実験の産物(失敗体)とは違い、極めて純度の高い、神聖な太陽の波動を放っています。
……もし、彼が『我々(精神主義陣営)』の教義に共鳴し、我々の側に迎え入れることができたなら。……我々は、中国の仙人にも対抗し得る、絶対的な『象徴(守護者)』を手に入れることができるのでは?」
「……」
導師長は、その言葉に一瞬だけ目を細め、沈黙した。
ナチスの残骸は破壊する。だが、あの完成された「太陽の戦士」は、我々の神殿に飾るにふさわしい聖遺物かもしれない。
EUもまた、浄化と救済という美しい建前の裏で、どす黒い『独占欲』を膨らませていた。
***
アメリカ。ロシア。中国。EU。
すべての国が、それぞれの建前(市民保護、パーツ回収、観測、浄化)を掲げながら、その本音では「イツコアトル(成功例)」の価値に完全に目が眩んでいた。
誰もが、彼を欲しがっている。
誰もが、彼を利用しようとしている。
そして、その各国の欲望と特殊部隊が、アルゼンチンの市街地と地下施設周辺へと、まるで血の匂いを嗅ぎつけた鮫のように、一斉に集結し始めていた。
だが、彼らはまだ気づいていない。
自分たちがこれから手を出そうとしている相手が、「便利なアーティファクトの所有者」などではなく。
何百年もの間、人間の愚かな欲望と戦争を冷ややかな目で見つめ続けてきた、絶対に触れてはならない【本物の神話の戦士】であるということを。
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