銀河皇帝のスペアに転生した元社畜、地球軌道上の要塞でネトゲ三昧の隠居生活を満喫する 〜足元では超大国が滅亡級の異星遺産を巡って暗躍中ですが、主人公(ぼく)の命は絶対安全なので特等席で傍観します〜 作:パラレル・ゲーマー
首相官邸地下。既存技術外事象評価セル、特別防音会議室。
壁面を覆い尽くす巨大なマルチモニターには、アルゼンチンの地方都市で記録された市街地戦の映像が、音声のないまま繰り返し再生されていた。
アメリカの特殊部隊、ロシアのサイボーグ兵、EUの戦闘要員。世界を動かす超大国が誇る精鋭部隊が、たった一人の男――アステカの超戦士イツコアトルによって、まるで子供の玩具のようにあしらわれ、武装解除されていく光景。
映像は何度も一時停止され、スロー再生され、熱源解析のフィルターがかけられ、軍事衛星のデータやSNSに流出した断片的なクリップ、さらには各国の非公開映像までが幾重にも重ね合わせられている。
客観的なデータが蓄積されればされるほど、会議室を支配する空気は、鉛を呑み込んだかのような重く息苦しい沈黙へと沈んでいった。
最初にその沈黙を破ったのは、円卓の最上座で両手を強く組んだままモニターを見つめていた、矢崎総理だった。
「……これは、どう評価すればいいのでしょうか」
総理の声には、かつてないほどの深い疲労が滲んでいた。
「超人、戦略兵器、神話存在、災害……どれだけ言葉を並べても、どの言葉もしっくり来ません」
実務責任者である沖田室長が、手元の分厚い解析資料から目を上げ、極めて冷徹な、しかし内なる戦慄を押し隠した声で答えた。
「既存の軍事分類では、評価不能です」
沖田は、モニターの向こうで戦車の砲身を曲げる男の姿を指差した。
「少なくとも、歩兵、特殊部隊、強化兵、サイボーグ、能力者といった枠組みには収まりません。……単体戦力でありながら、国家の軍事力を局地的に無効化できる存在です」
防衛大臣が、忌々しげに顔を歪めて言った。
「たった一人で軍を止めるなど、普通はあり得ない」
「問題は、あり得てしまったことです」
科学技術担当の幹部が、分厚い眼鏡を押し上げながら、事実の重みを突きつけた。
「まず、夜間戦闘の映像を再確認しましょう」
科学技術担当がコンソールを操作すると、深夜のアルゼンチンでイツコアトルが装甲部隊を蹂躙したシーンがクローズアップされた。
最高移動速度。反応速度。跳躍距離。装甲車横転時の推定衝撃力。戦車の砲身を曲げる握力と腕力。銃弾の回避能力。被弾後の再生速度。そして、あれほどの圧倒的な暴力を振るいながら、兵士を一人も殺さない精密な制御。
「夜間の時点で、彼の推定移動速度は、状況により時速数百キロに達しています」
科学技術担当は、レーダーの航跡データを重ね合わせて説明を続ける。
「瞬間的には、音速に近い挙動を示しています。……ただし、常時音速で移動しているわけではありません。跳躍、加速、方向転換、壁蹴りによる立体機動を極めて高度に組み合わせることで、相手のレーダーや照準システムの予測軸を完全に外しているのです」
「夜で、これですか」
防衛大臣が、信じられないというように呻いた。
「はい」
沖田室長が、重く頷く。
「夜間……つまり、本人の自己申告によれば『弱体化状態』で、です」
「弱体化の、意味が分かりませんな」
官房長官が、額の汗をハンカチで拭いながら、呆れたように呟いた。
その言葉に、円卓の隅でパイプ椅子に座っていた月刊ムーの三神編集長が、少しだけ苦笑して肩をすくめた。
「私も、以前彼に取材で聞いた時は、“夜は力が落ちる”とだけ聞いていたんですがね」
三神は、申し訳なさそうに、しかしどこか楽しげに言った。
「どうやら、かなり控えめな自己申告だったようです」
「控えめ、で済む話ですか」
総理が、ジロリと三神を睨む。
「夜でも十分、超人です」
三神は、真顔に戻って言った。「通常の軍隊が、正面から勝てる相手ではない」
「彼の危険性は、その圧倒的な力だけではありません」
防衛省の分析官が、別の視点から脅威の性質を説明し始めた。
「巨大怪獣のような存在であれば、まだ我々にも対処方法があります。質量が大きいなら、移動ルートも読める。目立つ。衛星で追跡し、爆撃やミサイルの飽和攻撃、包囲戦も視野に入ります。……しかし、イツコアトルは【人間サイズ】です」
分析官は、都市の模型図をモニターに展開した。
「都市に紛れられる。建物内部に入れる。地下施設に侵入できる。要人に近づける。
……それでいて、装甲車をひっくり返す腕力と、音速級の俊敏性を持っている。これは、巨大怪獣よりある意味で遥かに厄介です」
「国家指導者の暗殺、軍司令部の破壊、核施設への接近、地下要塞への侵入」
沖田室長が、最悪のシナリオを冷酷に並べ立てる。
「その気になれば……彼はたった一人で、国家機能そのものを麻痺させられます」
矢崎総理の顔から、スッと血の気が引いた。
「……彼が、日本を敵視しなくて、本当に良かったですね」
「そこです」
三神編集長が、指を鳴らした。
「彼は、敵にしない限り、無意味に人を殺す存在ではない。無差別な破壊者ではないんです。
……ただし、敵に回した場合は、国家の形をした【的】になりますよ」
会議室に、深い絶望の吐息が漏れた。
だが、彼らが今分析したのは、あくまで「夜間」の戦闘映像に過ぎない。
「次に……昼間覚醒後の映像です」
科学技術担当が、モニターの映像を切り替えた。
夜明け。
アンデスの山間に朝日が昇り、太陽光がイツコアトルの身体に当たった瞬間。彼を縛り付けていたアメリカ軍の特殊ワイヤーが熱せられた飴のように溶け落ち、EUの封印ジャマーが火花を散らして焼け焦げ、彼の胸の十字の傷跡の奥底で、太陽の心臓が黄金に輝き始める。
科学技術担当は、映像を何度も停止させ、サーモグラフィや電磁波測定のデータを重ね合わせながら、震える声で説明を再開した。
「……ここからは、通常の運動能力強化(バイオニクス)では説明できません」
科学技術担当は、画面の数カ所に赤いマーカーを打った。
「ロシアのサイボーグ兵の装甲が、触れた瞬間に溶断されている。銃弾が命中しないのではなく、彼の身体に触れる前に熱で溶融し、蒸発している。対戦車ミサイルも、直撃前に空中で自然発火しています」
彼は、絶望的な結論を口にした。
「アメリカの拘束ネット、電磁パルス兵器、EUの封印ジャマー……すべてが、彼の周囲で完全に無効化されています」
「熱による、防御フィールドですか」
防衛大臣が、辛うじて科学的な単語で理解しようと試みる。
「熱、と呼ぶには……挙動が『選択的』すぎます」
科学技術担当は、首を横に振った。
「銃弾や兵器、敵対的な電子機器は完全に無効化され、溶かされている。……しかし、彼の足元のコンクリートや、周囲の民間建物、さらには敵であるはずの兵士の肉体は、殺傷レベルでは焼かれていません。
……つまり、単なる無差別な高温ではなく、“敵対する武器”を選んで焼いている可能性があるのです」
会議室が、完全に静まり返った。
「……武器という【概念】を焼く、ということですか」
沖田室長が、信じられないというように眉をひそめた。
「科学的な表現ではありませんが……映像上は、そうとしか見えません」
科学技術担当が、科学者としての敗北を認めるようにうつむいた。
「……近代兵器では、無理です」
長い沈黙の後、防衛大臣が、絞り出すように言った。
「通常兵器では、まず届かない。圧倒的な速度と、概念的な防御。……彼を制圧するなら、もはや核兵器級の火力で、一帯ごと消し飛ばすしか……」
総理が、その極端すぎる手段の提示に、顔を強張らせた。
だが。
「……核でも、無理でしょうね」
部屋の隅から、三神編集長が、事も無げに首を横に振って、その最終手段すらも否定した。
室内が、文字通り凍りついた。
「……核でも?」
防衛大臣が、怒りよりも純粋な驚愕で聞き返す。
「ええ」
三神は、パイプ椅子から立ち上がり、モニターの黄金に輝くイツコアトルを見つめた。
「私がかつて彼から聞いた話と、今回のこの映像を合わせるなら。
……あれは、単純に頑丈な生物や、エネルギー出力の高い個体、という次元の話ではありません」
三神の目が、細められる。
「昼間の彼は、太陽神の化身です。
……【神】と言っていい」
「神、ですか」
科学技術担当が、その非科学的な単語に反発するように呟く。
「宗教的な表現ではなく、機能的な分類として、です」
三神は、彼らの科学的常識を解体するように説明を始めた。
「彼の胸に宿る『太陽の心臓』は、物理的なエネルギー炉であると同時に、古代アステカの神話に根ざした【概念的な権能】を持っている。
……つまり、“太陽には勝てない”という神話的な理屈で、彼を中心とした周囲の空間の法則を、強制的に上書きしている可能性があるのです」
「理屈で、ですか」
官房長官が、理解が追いつかずに問い返す。
「ええ」
三神は、指を鳴らした。
「銃弾も、ミサイルも、ワイヤーも、封印術式も。彼に向かって放たれた瞬間、すべて“太陽に向けられた武器”として処理される。
……そして、太陽に届く武器など存在しない。だから、触れる前に無効化される。理屈で考えれば、核兵器であろうと、太陽を破壊することはできませんからね」
「……それは、科学ではなく、神話の理屈ですね」
矢崎総理が、乾いた笑いを漏らした。
「アーティファクト時代では、神話の理屈が、科学以上に強い場面があるということです」
三神は、淡々と事実を突きつけた。
会議室の官僚たちは、あまりにも絶望的な力の差に、言葉を失った。
「……アメリカやロシア、EUが、完全な敵として認識されなくて、本当によかったですな」
官房長官が、震える手で胃薬のパッケージを開けながら、心底安堵したように呟いた。
「ええ。彼は、誰も殺しませんでした」
沖田室長が、報告書の被害状況のページを見ながら言う。
「それは、彼が慈悲深かったからではない。……まだ彼らを“敵”としてではなく、“道を塞いだ愚か者”程度にしか見なしていなかったからでしょう」
「そうですね」
三神も同意する。
「もし彼が本当に敵と見なして、殺意を持って動いていたら……各国の精鋭部隊は、誰一人として生きては帰れなかったでしょう」
「殺さないことが、ここまで恐ろしく感じるとは思いませんでした」
防衛大臣が、自らの無力さを痛感したように頭を抱えた。
「それだけ、次元の差があったということですね」
矢崎総理が、静かに総括する。
「ええ。彼にとって、あのアルゼンチンでの戦闘は、戦争ですらない」
三神は、最後に最も残酷な評価を下した。
「……ただの、虫を払っただけです」
その言葉は、人類の最高峰の軍事力が、神話の存在の前ではただの羽虫に過ぎないという事実を、これ以上ないほど正確に言い表していた。
「……日本政府としての、公式な評価(スタンス)をまとめます」
沖田室長が、気を取り直し、モニターにテキストを打ち込み始めた。
【暫定分類】
対象名:イツコアトル
分類:生存型アーティファクト適合個体/神話級個体
由来:アステカ文明系太陽儀式アーティファクト《太陽の心臓》成功例
脅威度:国家軍事力単位では評価不能
交戦推奨:否
捕獲推奨:否
接触方針:敬意を伴う非干渉
禁忌:兵器・サンプル・研究対象として扱わないこと
「日本政府としては、彼をアーティファクトの所有者(利用できる資源)としてではなく、独立した人格と主権性を持つ存在として扱うべきです」
沖田が、冷徹な危機管理の観点から宣言する。
「つまり、国家に準じる存在として扱うということ?」
総理が確認する。
「それくらいが妥当です」
三神が頷いた。
「少なくとも、保護対象や捕獲対象として見てはいけません。彼に首輪をつけようとした瞬間、国が消滅します」
日本政府の出した結論は、「絶対に触れてはならない」という、極めて理性的で臆病なものであった。
***
しかし、政府の密室での冷静な評価とは裏腹に。
インターネットの海では、「太陽の戦士の完全覚醒」の映像が爆発的に拡散され、世界中の大衆の意識を完全に書き換えていた。
[X(旧Twitter)日本トレンド及びタイムライン]
@News_Watcher_JP
アステカ超人、昼になった瞬間に完全覚醒。アメリカ、ロシア、EUの精鋭部隊が束になってかかっても、まとめて無力化。しかも死者なし。
これ、もう「強い人間」じゃなくて「触れてはいけない神」だろ。
@Military_Otaku_00
夜間:戦車を素手で蹂躙できる超人
昼間:近代兵器の概念そのものを拒否する太陽神
インフレの仕方がおかしい。ロシアのサイボーグが「ちょっと硬いブリキのおもちゃ」に見えてきたぞ。
@Occult_Sleuth_Z
最後にイツコアトルが言い捨てた「欲しがるな」。
これ、イツコアトル個人の忠告じゃなくて、アーティファクト時代における『神託』だと思う。欲しがった国から滅ぶぞっていう、人類全体への警告だ。
@Muu_Reader_1979
月刊ムーがまた勝ってしまった……と思ったけど、今回はスケールが違いすぎて全然笑えない。
昔の記事で三神編集長が「太陽の戦士は神を宿す」とか書いてたの、マジだった可能性あるじゃん。
[5ちゃんねる:ニュース速報板]
スレタイ:【神話確定】アステカ超人さん、近代兵器を概念ごと拒否してしまう
1 :名無しさん@涙目です
もうこいつに勝つ方法ないだろ。
8 :名無しさん@涙目です
核ならいける?
12 :名無しさん@涙目です
三神編集長が「核でも無理」って言いそう。
19 :名無しさん@涙目です
いや、物理的に消し飛ばせるかどうかじゃなくて、太陽に向けた武器として無効化されるんじゃね? 映像見てたらそんな気がしてくる。
27 :名無しさん@涙目です
現代戦じゃなくて、神話バトル始まってるじゃん。
36 :名無しさん@涙目です
怖いのは、殺してないこと。
マジで虫を払っただけ。人類の軍隊が、完全に羽虫扱いされてる。
44 :名無しさん@涙目です
国家が虫扱いされる時代、終わりだよ。
ネット上の大衆は、彼を「神」として畏怖した。
軍事専門家たちは「近代兵器では制圧不能」「もはや自然災害に近い」と絶望し、物理学者は「通常の物理法則から完全に逸脱している」と頭を抱え、神話学者は「太陽の恵みと裁きの両面が現れている」と解説した。
だが。
人間という生き物は、圧倒的な恐怖と神聖さを前にしても、決して「ただ平伏する」だけでは終わらない。
畏怖と恐怖の底から、ゆっくりと、しかし確実に、最も危険で冒涜的な【欲望】が芽生え始めていた。
59 :名無しさん@涙目です
でもさ、アーティファクトの力であそこまで行けるなら、他にも神になれるルートあるんじゃね?
60 :名無しさん@涙目です
やめろ。
61 :名無しさん@涙目です
それナチスの発想。
62 :名無しさん@涙目です
でもみんな思ってるだろ。
中国は仙人、ロシアはサイボーグ、アメリカはライトセーバー。そしてアステカの超人。
人類はもう、普通の人間やめ始めてるんだよ。
恐怖の裏側に張り付いた、甘美な誘惑。
「アーティファクトで神になれるなら、自分たちもなれるのではないか?」
[X(旧Twitter) / トランスヒューマニスト・地下研究者クラスタ]
@Transhumanist_Free
イツコアトルを見て恐怖するのは分かる。でも逆に考えれば、アーティファクト適合に成功すれば、人間は神話級へ進化できるということだ。これは人類進化の可能性の証明ではないか?
@BioHacker_999
アステカの心臓は適性が厳しすぎて無理でも、他の文明のアーティファクトなら安全な強化(超人化)ルートがあるかもしれない。サイボーグ、仙人、太陽の戦士。ルートが複数あるなら、人類の次段階はもう始まってる。国家に独占させておく理由はない。
@Ethics_Watch
こういう発想が一番危険です。「俺たちも神になれる」という思想は、必ず「誰を実験台にするか」という狂気に繋がる。ナチスのゾンネンヘルツ計画と全く同じ轍を踏むことになります。
@DarkForumLeak
各国政府だけが神になる権利を独占するのはおかしい。民間にもアーティファクト適合の自由を。すでにダークウェブでは、未確認のアーティファクトの欠片や、適合実験のデータが天文学的な価格で取引され始めている。
***
首相官邸地下。
「……ネット上で、アーティファクト適合による『超人化』を肯定する言説が、急速に増加しています」
沖田室長が、モニターに表示された不穏なSNSの投稿や地下掲示板のログを示しながら報告した。
「一部では、民間での適合実験、自己改造、そして違法なアーティファクトの取引を呼びかける動きも出ています。……世界中の富裕層が、自ら神になるためのルートを探し始めています」
矢崎総理は、その報告を聞いて、深く眉をひそめた。
「つまり、イツコアトルの圧倒的な力を見て、恐れるのではなく、憧れ始めた人間がいるのね」
「人間とは、そういうものです」
三神編集長が、皮肉げに笑った。
「神を見れば、地に伏して祈る者もいれば……その力を盗んで、自分も神になろうとする者もいる」
「また胃が痛くなる話ですな」
官房長官が、胃薬のケースを握りしめながら呻いた。
「三神編集長。……これは、ただのネットの流行(一過性の熱狂)で終わると思いますか?」
総理が問う。
三神は、笑みを消し、極めて重い声で答えた。
「ナチスの入口が、大衆化し始めています」
会議室が、シンと静まり返った。
「ナチスの、入口?」
総理が反復する。
「ええ」
三神は、冷酷な現実を言葉にする。
「あの力を見て、“畏れる”のではなく、“自分もそうなりたい”と思う。そこまでは、人間として自然な感情です。……ですが、問題は、次に彼らがどう考えるかです」
三神は、指を一本ずつ折りながら、狂気の階段を上っていく人間の思考をなぞった。
「“自分が成功例になるためには、何人犠牲にしてもいいのか?”
“神になるためなら、失敗者は必要経費ではないか?”
“神になる者と、実験台になる者を、誰が決めるのか?”」
三神は、静かに言った。
「ナチスは、その問いに最悪の答えを出しました。
……そして今、全く同じ問いが、世界中にばら撒かれています」
国家だけでなく、企業も、富裕層も、カルトも。全員が、神になるための人体実験を正当化し始めるかもしれない。
総理は、深い沈黙の後。
「日本政府としての方針を決定します」と、きっぱりと宣言した。
「日本政府は、イツコアトル氏を捕獲・研究対象として扱うことは絶対にありません。
……そして同時に、国内においてアーティファクト適合実験や、非人道的な人体改造を行う動きがあれば、国家権力を用いて全力で阻止します」
「既存技術外事象評価セル、警察庁、公安、厚労省、文化庁で、合同監視体制を強化します」
沖田室長が即座に応じる。
「医療、バイオ産業、宗教団体、民間研究者、そして富裕層向けの秘密医療クリニックの監視も必要です」
科学技術担当が補足する。
「……国会での説明は、どうしますか」
官房長官が、政治的な懸念を口にする。
「“違法なアーティファクト人体実験の防止”でいきましょう」
総理は、迷いなく答えた。
「分かりやすくて良いですね」
三神が、小さく拍手をする。
「分かりやすすぎて嫌ですな」
官房長官が、再び深い溜息をついた。
会議の終了後。
総理は、帰り支度をする三神に、ふと問いかけた。
「三神編集長。……イツコアトル氏は、もう我々(人類の争い)には関わらないと、そう考えていいのでしょうか」
三神は、少し考えてから答えた。
「こちらが、欲しがらなければ」
三神は、静かに言う。
「こちらが彼を忘れず、敬意を払い、距離を保つなら。……彼は、ただの戦士として、太陽の下へ帰るでしょう」
「もし、欲しがれば?」
総理が問う。
三神は、少しだけ目を伏せ。
「次は、虫を払うだけでは済まないかもしれません」
重い、重い沈黙が落ちた。
最後に、総理がモニターの消えた画面を見つめながら、ポツリと呟いた。
「“欲しがるな”」
総理は、その言葉の本当の重さを噛み締めるように言った。
「……それは、彼がアルゼンチンで各国部隊へ投げた言葉ではなく。
これから神になろうとする、人類全体への警告だったのかもしれませんね」
「ええ」
三神は、小さく頷いた。
「そして残念ながら、人類はその警告を、もう破り始めています」
その日、人類は知った。
この地球上に、決して触れてはいけない神がいることを。
だが同時に、最も危険な欲望もまた生まれてしまった。
神がいるなら、自分たちも神になれるのではないか。
その問いこそが、《ゾンネンヘルツ計画》が世界に遺した、本当の亡霊だった。
ここまで読んでいただきありがとうございます! もし「面白い」「続きが気になる」と思っていただけましたら、ページ下部より【お気に入り登録】や【評価】、感想などをいただけると執筆の励みになります。 作者のモチベーション上昇に直結しますので、是非ともよろしくお願いします!