銀河皇帝のスペアに転生した元社畜、地球軌道上の要塞でネトゲ三昧の隠居生活を満喫する 〜足元では超大国が滅亡級の異星遺産を巡って暗躍中ですが、主人公(ぼく)の命は絶対安全なので特等席で傍観します〜 作:パラレル・ゲーマー
【第7章 海外反応、魔女様・仙人・安全地帯論】
日本の異常事態は、発生から5日目を経て、もはや一国の危機管理事案という枠を完全に超えていた。
学校、病院、巨大ショッピングモール。人々の生活インフラが次々と「空間ごと削り取られる」という前代未聞の映像は、SNSの国境を越え、全世界の主要ニュースネットワークのトップニュースとして、24時間体制で報じられ続けていた。
これまで、世界を揺るがしてきたアーティファクトの脅威――例えば、イギリスのスコットランドに出現した『公認魔女』の森や、中東の砂漠に現れた幻影都市などは、基本的に「その場に固定された事象」であった。自ら領域に踏み込まない限り、少なくとも物理的な安全は保たれていたのだ。
しかし、日本の空に現れた『黒鯨』は違う。
それは明確な意思(あるいはプログラム)を持って移動し、人間の築き上げた巨大なインフラを能動的に【捕食】している。人類は初めて、アーティファクトによる「侵略」とも呼べる事態を目の当たりにしたのである。
各国のメディアは、かつてない悲壮感とパニック交じりの論調で、極東の島国で起きている惨劇を報じた。
[海外ニュース専門チャンネル / 各国ヘッドライン]
『CNN(アメリカ)』
「BREAKING NEWS:日本で黒化建築物消失現象が連続発生。空を泳ぐ巨大な『黒い影(鯨)』の映像が拡散。日本政府は有効な対抗手段を持たず、ただ市民を逃がすことしかできていない模様」
『BBC(イギリス)』
「極東の同盟国が、未知の『アーティファクト』の脅威に晒されています。日本政府は異例の警告を発令。これは、我々がスコットランドで直面した危機とは質が異なります。彼らの脅威は、都市を物理的に『消去』しているのです」
『ル・モンド(フランス)』
「アーティファクト時代の新たな危機か。標的は日本のインフラ。もしこの『黒い鯨』が日本列島を食い尽くし、ユーラシア大陸へと向かってきた場合、ヨーロッパの防衛網はこれにどう対処するのか?」
『アルジャジーラ(中東)』
「高度な技術と経済力を持つ日本が、完全に無力化されている。現代の兵器が通用しない空間捕食現象に対し、世界は震え上がっている」
海外のネットユーザーたちも、連日日本から流れてくる「消滅するビル」と「泣き叫んで逃げる子供たち」の映像に、強烈な衝撃と恐怖を覚えていた。
世界最大の掲示板サイト「Reddit」では、ニュース板のトップが連日『Japan's Black Whale(日本の黒鯨)』の話題で独占されていた。
[Reddit / r/worldnews(世界ニュース板)より抜粋・日本語訳]
u/US_Observer_01
「信じられない。日本で巨大な建物が丸ごと消えている。しかも、ドローンの映像を見たか? 鯨のような巨大な影が空を泳いでいるんだぞ。
これ、スコットランドの魔女よりはるかに最悪の事態じゃないか?」
u/London_Eye_88
「イギリス人として言わせてもらうが、少なくともうちの魔女様は『紅茶とスコーン』で話ができたし、領域を侵犯した無礼を謝罪すれば許してくれた。
だが、この日本の黒鯨は話せるのか? 話す口があるなら、それは交渉するためではなく、建物を食うための口だろ。完全に意思疎通不可能なバケモノじゃないか」
u/Military_Geek_TX
「なぜ自衛隊や在日米軍は攻撃しないんだ!? 戦闘機を飛ばしてミサイルを撃ち込めばいいだろ!」
u/Pol_Sci_Major
「↑バカか。ミサイルで物理的に撃墜できるなら、日本政府がとっくにやってる。相手は『空間を削り取る』ような概念的な存在だ。ミサイルを撃ってもすり抜けるか、逆にミサイルごと空間を食われるのがオチだ。だから日本警察は、ただ逃げる(避難させる)ことしかできないんだよ」
u/French_Realist
「私が一番恐れているのは、日本が終わった後、次はこの怪物がどこへ行くのかということだ。
海を越えてヨーロッパに来るのか? アメリカに向かうのか?
ネットの考察では、奴らは『象徴的な巨大建造物』を狙って食べているらしい。だとしたら、高い塔を持つ国は全部危ないのではないか?
エッフェル塔、ブルジュ・ハリファ、エンパイアステートビル……世界中の象徴的建造物が、すべてあの鯨の餌になる日が来るのか!?」
u/Russian_Bear_99
「日本の技術や工業力の象徴である近代ビル群が、手品のように消えている。アメリカの同盟国が悲鳴を上げているのはいい気味だ、と言いたいところだが……これがもし国境を越えてロシアの軍事施設やモスクワに現れたらと思うと、ゾッとする。核兵器でも勝てる気がしない」
海外のネット空間では、「黒鯨が日本を食い尽くした後に、世界中へ拡散する」という、地球規模の終末論が猛烈な勢いで語られ始めていた。
人類が築き上げてきた近代文明の高層建築時代が、謎のアーティファクトによって終わりを告げるのではないかという恐怖。
だが、その圧倒的な恐怖の中で。
人間の自己防衛本能が生み出した、ある種の「現実逃避」とも言える奇妙な【安全地帯論】が、一部の国々のユーザーを中心にして唱えられ始めたのである。
u/Sino_Analyst
「慌てることはない。日本が食われたとしても、安全な国はある。
それは『強力なアーティファクト(上位存在)』をすでに自国に抱え込み、不可侵条約を結んでいる国だ。
例えば、イギリスには『公認魔女』がいる。中国の奥地には強大な『仙人』がいる。彼らが国境に結界を張れば、黒鯨を追い払えるのではないか?」
u/Brit_Humor
「その通りだ! 我が国の魔女様は、最高級の紅茶とショートブレッドを用意しておけば、ロンドン上空に近づく鯨くらい、指先一つで石に変えて撃墜してくれると信じている。
不安な金持ちどもは、今のうちにイギリスへ移住手続きをしておけよ」
u/Chinese_Netizen_88
「我らが中国には、仙界に連なる仙人たちがいる。彼らの法術であれば、あんな魚のバケモノなど一ひねりだ。日本は運が悪かったな。自国を守るための強力な守護者(アーティファクト)を引き当てられなかったのだから」
u/Asian_Watcher
「でも、待ってくれ。日本にだって『出雲』っていうガチの神域と、与那国島の巨大AIがあるだろ?
それを使えば、日本政府だって自国を防衛できるんじゃないか?」
u/Tech_Ethics_Prof
「↑出雲の神域は、近づく者の脳を焼く『不可侵の防御領域』であり、能動的に外へ出て戦う防衛兵器ではない。与那国のAIも、社会インフラの最適化や医療特化のシステムだ。
日本は、自国の都市を守るための『攻撃的なカード』を一枚も切れていない。だからこそ、政府はひたすらモグラ叩きのように市民を逃がし続けているのだ。日本は今、完全に丸腰の防波堤(緩衝地帯)として食われている状態だよ」
この海外の掲示板のやり取り(日本語訳)は、日本のまとめサイトやSNSを通じて、瞬く間に日本国内のネット民にも拡散された。
自分たちの国が、見えない怪物に物理的に食い荒らされ、学校や病院が消え、子供たちが泣き叫んでいる最中に。
安全な対岸の火事として、「うちの国には魔女がいるから大丈夫」「日本は丸腰だから諦めろ」と嘲笑い、安堵する外国人たちの冷酷なコメント。
日本のネット空間には、さらなる絶望と、そしてなりふり構わぬ「他国(上位存在)への懇願」が溢れ返った。
[X(旧Twitter) / 日本のタイムライン]
@Save_Japan_00
イギリス政府! お願いだから、公認魔女様に頼んで日本を助けてくれ!!
日本の技術でも金でもなんでもくれてやる! 紅茶とお菓子が好きなら、日本中の老舗の和菓子と、最高級の玉露の茶葉を何トンでもかき集めて専用機で送るから!! だから助けて!!
@Help_Us_World
中国の仙人も、隣国なんだから助けてくれてもよくない!?
黒鯨が日本を食い終わって中国に行ったら絶対困るでしょ! お互いのためなんだから、今のうちに一緒に倒そうよ!!
@Corporate_Slave_00
アメリカの『セレスティアル・ウォッチ』は何してんだよ!!
あいつら地球防衛軍みたいな面してライトセーバー見せびらかしてたじゃねえか! 今こそ同盟国を助けに来いよ!!
この悲痛で、ある意味で惨めな声に対し。
海外の「上位存在」を抱える国々の対応は、国際社会の冷酷な現実を日本国民に突きつけるものだった。
まず、イギリス国内の動きである。
日本を襲う黒鯨のニュースを見たイギリスのメディア記者が、ダウニング街の首相官邸で行われた定例会見で、政府の報道官に対して鋭い質問を投げかけた。
「日本の黒鯨事象についてですが、イギリス政府は、我が国が誇る『公認魔女』殿に対して、同盟国を救うための相談、あるいは軍事的な介入の依頼を行ったのでしょうか?」
政府の報道官は、その質問に対して明らかに言葉を濁し、「現在、あらゆる可能性を含めて情報収集中である」というテンプレ回答で逃げた。
だが、その日の夕方。イギリスの大衆タブロイド紙のウェブサイトに、魔女と政府の交渉役との間で交わされたとされる【魔女様の短い反応(リーク情報)】が、トップニュースとして掲載されたのである。
『――記者の独自取材によれば、魔女は政府の打診に対し、冷たく笑ってこう答えたという』
『“イギリス国内の事案ではないでしょう?”』
『“私は、イギリスの森で起きた面倒ごとなら、特別に追い払ってあげますよ。……でも、遠い東の島国(日本)は、私の森ではありません”』
『“それぞれの土地には、それぞれの守り方があります。自分たちの尻拭いは、自分たちでやることですね”』
この魔女の徹底した「不干渉」の態度は、日本のネットを大炎上させた。
「魔女様ドライすぎだろwww 見殺しかよ!」
「いや、契約通りだろ。そもそも最初の交渉の時から『イギリス国内限定の不可侵』って言ってたし」
「世界平和のために日本を助けてよ! 人命がかかってるんだぞ!」
「上位存在に人間の道徳や人道支援を求めるな。彼らにとって、人間の国境なんてどうでもいいんだよ」
「でも黒鯨が世界に広がったらイギリスにも来るぞ! その時になって後悔しても遅いぞ!」
「来たら指先一つで追っ払うって言ってるんだろ。強者の余裕すぎる。ずるい」
「ずるい。なんでイギリスばっかり」
日本のネット民の怨嗟の声は、今度は隣国・中国へと向かった。
中国でも日本の黒鯨事象は大きな話題となっており、中国版SNSである微博(ウェイボー)などでは「仙人なら黒鯨を追い払えるのでは?」「我が国への飛来を防ぐよう仙人に要請すべきだ」という声が上がっていた。
中国政府は、国内の動揺を鎮めるため、そして国際社会へのアピールも兼ねて、異例の公式発表を行った。
『国務院発表:我が国の高位仙人に確認したところ、現在日本列島で発生している事象は、あくまで「日ノ本の国」の因果に属するものであり、我が国の国土に直接危害を及ぼす兆候は、現時点で一切確認されていない。国民はデマに惑わされず、冷静に行動すること』
見事なまでの「対岸の火事」宣言である。
そして、中国政府の発表の裏で、仙人が実際に語ったとされるニュアンスの言葉が、中国のネットユーザー経由で日本に漏れ伝わってきた。
『日ノ本の国のことだ。余計に手を出すな』
『……あの国には、“あの国の古いもの”がある』
この意味深な仙人の言葉が、再び日本のネット空間に火をつけた。
[5ちゃんねる:ニュース速報板]
スレタイ:【悲報】中国の仙人さん、日本を見捨てる。ただし意味深な発言を残す
1 :名無しさん@涙目です
中国仙人、完全に他人事で草。
「日本の因果だ」って、要するに自業自得だから知らんってことだろ。
2 :名無しさん@涙目です
いや、『土地の問題』って言ってるの、なんか怖いな。
黒鯨は日本の風土から生まれたバケモノってことか?
3 :名無しさん@涙目です
それより、最後の言葉だよ。
「日本には日本の古いものがある」? 何それ?
4 :名無しさん@涙目です
古いものって、出雲の神域のことか? それとも与那国島の海底遺跡(AI)?
でも、あいつら引きこもってて全然日本の防衛に役立ってないじゃん。
5 :名無しさん@涙目です
それとも、まだ世間に出てない【別の何か(隠されたアーティファクト)】が日本にあるってことか?
6 :名無しさん@涙目です
政府、絶対何か持ってるだろ!!
出し惜しみしてる場合かよ! 学校も病院も食われてるんだぞ!
隠さずに今すぐそれを使ってくれよ!!
海外の「安全地帯」からの冷ややかな視線と、絶対的な上位存在たちの不干渉。
日本国民は、自分たちが国際社会からも、神話の存在からも完全に孤立していることを悟らされた。
同時に、仙人が残した「日本の古いもの」という言葉が、絶望の淵に立たされた国民にとって、唯一すがりつける細い糸となった。
「政府は、この絶望的な状況をひっくり返す『最後のカード』を隠し持っているのではないか?」
だが、その期待に応えるように政府が動く気配は、5日目の夜が明けても一向に見られなかった。
それどころか、事態はさらに最悪の方向へと転がり落ちていく。
黒鯨は、地方都市の象徴を食い荒らす「前菜」のフェーズを終え。
ついに、日本の心臓部――東京の喉元へと、その巨大な影を落とし始めたのである。
【第8章 東京スカイツリー説が爆発する】
黒化消失事件の発生から六日目。
この日、日本列島を覆い尽くしていた「得体の知れない現象への恐怖」は、明確な「首都・東京の終焉へのカウントダウン」へと、その性質を完全に変異させた。
事態の進行スピードは、前日までとは比較にならないほど異常な加速を見せていた。
これまでは一日に数件、数時間おきに発生していた黒化事案が、この日は朝から息つく暇もなく、同時多発的に、そして極めて戦略的な配置で引き起こされたのである。
午前7時45分。栃木県宇都宮市、駅前の大型複合施設。
午前8時20分。群馬県高崎市、市街地にそびえる高層オフィスビル。
午前9時10分。茨城県水戸市、県庁舎からほど近い公共の大型ホール。
午後1時05分。千葉県千葉市、海沿いに建つ巨大な物流センター。
午後3時30分。神奈川県横浜市、みなとみらい地区を象徴する大型商業施設。
これら五つの巨大建造物が、次々と黒く染まり、そして虚空へと消滅した。
発生地点は、見事なまでに【東京都との県境(関東外縁部)】をぐるりと取り囲むように配置されていた。
さらに、人々を最も絶望させたのは、その【捕食速度の劇的な変化】である。
[X(旧Twitter) / タイムライン]
@Kanto_Watcher_00
おいおいおい、今日ペース早すぎないか!?
高崎、宇都宮、水戸、千葉、横浜……って、朝から息つく暇もなく連続で消えてるぞ!
@News_Junkie_JP
ペースだけじゃない! 【時間】だ!!
初日の札幌の時は、ビルが黒くなり始めてから完全に消えるまで「数時間」の猶予があった。
でも今日の高崎のビル、黒化開始からたった【四十分】で消滅したぞ!!
@Disaster_Data_Bot
横浜のみなとみらいの商業施設に至っては、黒化開始から消失まで【わずか二十八分】です。
黒化から捕食(消失)までのタイムラグが、恐ろしい速度で短縮されています。
現場の警察の避難誘導も、限界に近づいています。
「早くなってる……!」
「黒化から食われるまでの時間が短すぎる!!」
「これじゃ、もしデカいビルで黒化が起きたら、上の階の人は逃げ切れないぞ!!」
黒鯨は、日本の建造物を「食う」ことに完全に慣れ始めていた。
消化速度が上がったのか、あるいは、メインディッシュを前にして飢餓感を募らせているのか。
いずれにせよ、人間側に残された「逃げるための時間」は、分単位で削り取られていた。
そして、速度だけではない。
「見えない怪物」であったはずの黒鯨の姿が、六日目にして、誰の目にも明らかなほどに【濃く、巨大に実体化】し始めたのである。
午後3時30分に発生した、横浜みなとみらいの商業施設の消失事案。
逃げ惑う人々の頭上、夕暮れが近づく秋の空に。
これまでドローンの高高度カメラや、スロー再生でしか確認できなかった「巨大な鯨のシルエット」が、地上にいる一般人の肉眼でも、はっきりと捉えられるほどの【漆黒の質量】を持って浮かび上がったのだ。
@Yokohama_Live
[動画:みなとみらいの観覧車の背景、歪んだ空の中に、全長数キロに及ぶ巨大な黒い鯨の姿が、雲を押し除けるようにしてゆっくりと尾びれを振っている映像。半透明ではなく、まるでそこに黒い宇宙が空いているかのような圧倒的な存在感]
「うわあああああああ!!!!」
「デカすぎる!! なんだよこれ!!」
「もう雲の影じゃない! 完全に鯨だ!!」
「空が海みたいに波打ってる!!」
「もう東京の外側じゃん! 目の前まで来てるぞ!!」
「都民逃げろ!! マジで殺されるぞ!!」
この決定的な映像は、首都圏のパニックを修復不可能なレベルにまで引き上げた。
関東圏の交通網と社会インフラは、この六日目の朝からすでに半ば麻痺状態に陥っていた。
一部の敏感な企業は前日の夜の段階で「原則在宅勤務」を指示していたが、それでも「国からの公式なロックダウン指示がない」という理由で、通常通りに出社を強要する旧態依然とした企業も少なくなかった。
[5ちゃんねる:ニュース速報板]
スレタイ:【悲報】空に巨大な鯨が浮かんでビルを食ってるのに、出社を強要される日本人
1 :名無しさん@涙目です
上司から「うちのビルは黒くなってないから通常通り出社するように」ってLINE来た。
マジで殺意沸いたわ。
18 :名無しさん@涙目です
「黒鯨出社」って言葉がトレンド入りしてて草。
いや草じゃない。笑えない。
32 :名無しさん@涙目です
満員電車に乗ってるけど、みんなスマホで横浜の鯨の動画見ながら、無言で震えてるぞ。
これ、もし今乗ってる電車ごと食われたらどうすんの?
45 :名無しさん@涙目です
俺は今日休んだ。クビになってもいい。
ビルが黒くなってから二十八分で消えるんだぞ? 三十階のオフィスから階段で地上まで降りるのに、パニック状態なら絶対に間に合わない。
出社してる奴は、完全に危機感麻痺してる。
60 :名無しさん@涙目です
首都圏の小中高は、今日の朝の時点で教育委員会から「臨時休校」の指示が出たな。
昨日の学校消失の件があったから、親からの抗議の電話が鳴り止まなかったらしい。
子供は守られるのに、大人はコンクリートの箱に詰め込まれて餌になるのを待つだけか。
社会機能が悲鳴を上げ、ギリギリのところで崩壊を耐えている最中。
その日の夜、事態を決定づける【致命的なデータ】が、ネットの解析勢によって投下された。
連日、黒鯨の発生地点を地図上にプロットし続けていた「データ可視化クラスタ」の有志たちが、過去六日間のすべての事案の発生時刻、位置、そして黒化から消失までの速度変化をスーパーコンピューターの余剰リソースを使って解析した結果を、一枚の画像としてX(旧Twitter)に公開したのである。
@Geo_Mapper_JP
……皆さん。覚悟して聞いてください。
これまでの黒鯨の捕食ルートは、決してランダムに円を縮めていたわけではありませんでした。
彼らの移動ベクトル、捕食対象の質量、そして本日の「関東外縁部への集中攻撃」のデータから、彼らが【最終的に目指している中心点】を割り出しました。
[画像:日本地図の上に描かれた、無数の赤い矢印。北海道、仙台、広島、鹿児島、新潟、金沢、水戸、宇都宮、高崎、千葉、横浜……日本全国から引かれたすべての矢印が、ある一点に向かって収束している。
その矢印が交差する真っ赤な中心点。地図を拡大したその場所には、【東京都墨田区押上】――『東京スカイツリー』の文字が、はっきりと記されていた]
@Geo_Mapper_JP
円が縮んでいるのではありません。
黒鯨は、日本中にある『小さな柱』を前菜として食い散らしながら、最初から、日本で最も巨大で、最も意味のある【天へ伸びる現代の柱(象徴)】――東京スカイツリーを目指して、一直線に進軍していたのです。
この投稿がなされた午後8時。
日本のネット空間は、文字通り【爆発】した。
トレンド(日本)
1位:スカイツリー逃げて
2位:東京スカイツリー
3位:黒鯨東京接近
4位:東京終了
5位:日本終末
6位:光れスカイツリー
7位:スカイツリーを守れ
@Tokyo_Resident_01
まさか……。
まさか、ネットの予想が完全に当たるとは……!!
東京タワーじゃなくて、スカイツリーだったのかよ!!
@Mythology_Nerd
「地の柱」「空へ伸びる塔」「民の祈りの標」。
日本の現代文明の最高到達点であり、一番高い塔。黒鯨が最後に食う【メインディッシュ】としては、これ以上ない、完璧すぎる標的だ。
@Corporate_Slave_00
おい!! スカイツリーの高さ634メートルだぞ!?
そんな巨大なもん食えるわけないだろ!!
……いや、今日の横浜の鯨のサイズ(数キロ)見たら、余裕で丸呑みできるじゃねえか!!
@Disaster_Data_Bot
黒鯨の実体化の濃さ、そして捕食速度の加速。
データから推測される、スカイツリーへの到達時刻は……【明日】です。
明日、間違いなく、東京の空に黒鯨が来ます。
「明日……明日来るのかよ!!」
「東京が終わる……!!」
「逃げろ!! スカイツリーの近くに住んでる奴、今すぐ逃げろ!!」
「いや、スカイツリーが倒れてきたら墨田区全体が潰れるぞ!!」
「倒れるんじゃない! 『食われる(空間から消える)』んだよ!!」
パニックは、ネットの画面を飛び出し、現実の東京の街へと波及していった。
公式な避難指示が出ていないにもかかわらず、墨田区、台東区、江東区など、スカイツリーのお膝元に住む住民たちが、キャリーケースに荷物を詰め込み、夜の街へと逃げ出し始めたのである。
ターミナル駅は人で溢れかえり、幹線道路は大渋滞を引き起こした。
だが、逃げ惑う住民たちをさらに絶望させたのは、【政府の異様な動き】だった。
スカイツリー周辺の現地に残ったユーザーたちから、信じられないような光景が次々と実況され始めたのだ。
@Sumida_Local
おい……スカイツリーの足元、警察の数が異常だぞ。
パトカー数十台がバリケード作ってて、周辺の道路、半径数百メートルが完全に封鎖されてる。一般車どころか、歩行者すら絶対に入れてくれない。
@Solamachi_Worker
スカイツリーの下にある商業施設「東京ソラマチ」、明日は急遽『全館の特別設備点検のため臨時休業』っていう社内メールが今飛んできた。
テナントの店長たちもパニックになってる。設備点検なんて大嘘だ。完全に「明日ここが戦場になる」って分かってる動きだ。
@SkyTree_Tourist
明日の展望台のチケット予約してたのに、さっき公式から「安全上の理由により明日の営業は中止します。返金します」ってメールが来た。
これもう、完全に確定だろ……。
@Construction_Worker_T
駅周辺の誘導員多すぎ。
しかも、警察だけじゃない。目立たないように民間のNTTとかの作業車に偽装してるけど……俺、自衛隊の駐屯地近くに住んでたから分かる。あれ、自衛隊の特殊部隊の『電子戦用センサー車』だ。
スカイツリーの周りをグルリと囲んで、何十台も待機してる。空に向かってパラボラアンテナ向けてるぞ。
「政府、スカイツリーが狙われること完全に分かってるじゃん!!」
「警察だけじゃなくて自衛隊まで出てるのかよ!!」
「なんで公式に発表しないんだよ!!」
「公式発表したら、東京中が大パニックになって全員が同時に逃げ出して、一千万人が道路で死ぬからだろ!」
「もうとっくにパニックだよ!!!」
ネット民たちは、スカイツリーの足元に集結する異様なほどの国家権力の姿に、自分たちの予想が「100パーセントの事実」であることを突きつけられた。
政府は、明日、スカイツリーが黒鯨に狙われることを完全に把握している。
把握している上で、国民には隠し、密かに軍事レベルの防衛線(あるいは観測網)を敷いている。
この「国民を置いてけぼりにした国家の極秘作戦」の構図が、大衆の恐怖と無力感を極限まで煽り立てた。
[5ちゃんねる:オカルト板]
スレタイ:【決戦】明日、東京スカイツリーが食われる。俺たちにできることはあるか?
1 :名無しさん@オカルト
もう逃げ場はない。
明日、東京の空にあの巨大な鯨が現れて、スカイツリーを丸呑みにする。
その時、日本はどうなるんだ?
18 :名無しさん@オカルト
日本の現代文明の象徴が消えるんだ。
物理的な被害だけじゃない。国民の精神(メンタル)が完全に折れる。
「ああ、俺たちはアーティファクトの前ではただの餌なんだ」って、絶望がDNAに刻み込まれる。
32 :名無しさん@オカルト
政府は何をするつもりなんだ?
自衛隊のセンサー車が集まってるってことは、迎撃するのか?
でも、ミサイルなんて効かないんだろ?
45 :名無しさん@オカルト
中国の仙人が言ってた「日本には日本の古いものがある」って言葉、信じるしかない。
政府が、スカイツリーを囮にして、その「古いもの(アーティファクト)」を起動して黒鯨を倒すつもりなんじゃないか?
60 :名無しさん@オカルト
そんな漫画みたいな展開あるわけないだろ。
政府は単に「スカイツリーが消滅する瞬間のデータ」を取りたいだけだよ。
俺たちは、壮大な実験のモルモットだ。
75 :名無しさん@オカルト
どっちにしろ、明日で世界が変わる。
スカイツリーが残るか、黒鯨が勝つか。
日本の未来が、あの634メートルの塔の運命に懸かってる。
88 :名無しさん@オカルト
光れ……スカイツリー。
お前は日本の技術の結晶だろ。あんな泥みたいなバケモノに負けるな。
夜が更けても、ネットの熱狂とパニックが冷めることはなかった。
誰もが眠れぬ夜を過ごしていた。
スマートフォンを握りしめ、窓の外の暗い空を何度も見上げ、見えない巨大な影が降りてこないか怯えながら。
日本中の視線が、東京・墨田区の夜空に突き刺さるようにそびえ立つ、白くライトアップされた巨大な塔に向けられていた。
今はまだ、何事もなく静かに輝いているその姿が、明日の朝にはどうなっているのか。
「明日、すべてが終わるかもしれない」。
その絶望的な確信を胸に抱いたまま、一億二千万人の国民は、かつてなく長く、恐ろしい「運命の六日目の夜」を越えようとしていた。
黒鯨は、すでに東京の空のすぐ外側まで来ている。
大いなる捕食の時は、もう目前に迫っていた。
【第9章 スカイツリー黒化三時間実況】
運命の、7日目。朝。
その日の東京の空は、残酷なほどに澄み切った、雲一つない秋晴れだった。
まるで、これから起きる歴史的な惨劇を、世界中の人々が特等席で見物できるようにと、神が舞台を整えたかのような完璧な青空。
その青を背景にして、東京都墨田区にそびえ立つ高さ634メートルの白い巨大な塔――東京スカイツリーは、昨日までと何一つ変わらぬ威容を誇っていた。
だが、その足元では、すでに「見えない戦争」が始まっていた。
スカイツリー周辺の半径数キロメートルは、警視庁の機動隊、自衛隊の特殊車両、そして消防車両によって、文字通り「蟻の這い出る隙もない」ほどの完全なバリケードで封鎖されていた。
前日までの商業施設である「東京ソラマチ」の休業発表に加え、近隣のオフィスビルやマンションの住民に対しても、早朝から個別訪問による「緊急退避要請」が強行されていたのである。
表向きの理由は、相変わらず『深刻な構造物異常および、大規模倒壊の危険性に対する安全確認のため』であった。
だが、そんな建前を信じる者は、もはや日本中のどこにもいなかった。
午前9時15分。
その「始まり」は、テレビの定点カメラでも、厳戒態勢の警察官でもなく、遠巻きに塔を見上げていた一人の一般人のスマートフォンのレンズによって捉えられた。
白い鉄骨が複雑に組み合わさった、スカイツリーの最下層部。
その太い柱の一本に。
まるで、透明な巨人が上空から一滴の墨汁を垂らしたように。
【黒い染み】が、ポツリと現れたのだ。
[X(旧Twitter) / タイムライン]
@Tokyo_Watcher_01
スカイツリー、黒くなってる!!!
一番下! 根本のところ!! 嘘だろ!!
@Sumida_Escape
始まった!! 始まったぞ!!
マジでスカイツリーだった!! 逃げろおおおおお!!!
@News_Junkie_JP
ついに来た……!!
日本の心臓が、食われるぞ!!
動画がアップロードされ、最初の「黒い染み」がネット空間に放たれた瞬間。
日本中のあらゆるSNSのトラフィックが、過去最大規模の数値を叩き出して爆発した。
事態を監視していた政府のAIが即座にレッドアラートを発し、周辺に待機していた警察官たちの狂気じみた怒号が飛び交い始める。
「現在、対象の黒化を確認!! 最終退避ラインをさらに五百メートル後退させろ!!」
「絶対に振り返るな! 走れ!!」
テレビ各局は、放送中だった朝のワイドショーやドラマを一切の予告なく打ち切り、全チャンネルが【緊急報道特別番組】へと切り替わった。
だが、ドローンの飛行は厳重に禁止されており、報道ヘリコプターも「未知の空間歪曲」を恐れて、規制空域のギリギリ外側、数キロ離れた上空から望遠レンズで中継することしか許されていない。
ニュース画面には、ただ、快晴の青空を背景に立つ東京スカイツリーの全景が映し出されている。
そして画面の隅には、巨大な赤いテロップが点滅していた。
『【緊急】東京スカイツリーで黒化現象 周辺住民は直ちに避難を』
『政府発表「絶対に近づかないでください」』
各局のアナウンサーたちは、悲痛な顔で同じ原稿を繰り返し読み上げていた。
「……現在、東京スカイツリーの下層部において、連日各地で確認されているものと同様の『黒化現象』が発生しています。周辺住民の皆様は……」
だが、視聴者の目は、アナウンサーではなく、画面の中央に釘付けになっていた。
これまでの地方都市のビルや商業施設は、黒い染みが現れてから数十分、長くても一時間以内で完全に真っ黒に染まり、そのまま空間ごと消滅していた。
ネット民たちも、あの巨大な塔が、下から上へ向かって一気に黒い波に飲まれるのだろうと予想していた。
しかし。
黒鯨にとって、スカイツリーはあまりにも巨大な『ご馳走』であるからなのか。
それとも、現代文明の象徴をじっくりと味わい尽くすための、怪異なりの儀式なのか。
スカイツリーは、一瞬で黒くなることはなかった。
それは、本当に、じりじりと。
まるで秒針が進むような遅さで、白い鉄骨を一本ずつ、ゆっくりと、ゆっくりと漆黒の虚無へと塗り替えていったのである。
これが、結果として日本国民、いや世界中の人々に、最悪の心理的拷問を強いることとなった。
【三時間】。
日本の象徴が、三時間という途方もなく長く、息の詰まるような時間をかけて、ゆっくりと、だが確実に「死」に向かっていく姿を、世界中がリアルタイムで見せつけられることになったのだ。
ネット上には、この「公開処刑」を固唾を飲んで見守る、地獄のような実況タイムラインが形成されていた。
ある解析系のアカウントが、定点カメラの映像をリアルタイムで画像処理し、スカイツリーの全表面積に対する【黒化率】を勝手に算出し、定期的に投稿し始めた。
10:05 『黒化率 3%』
「まだ根元の部分だけだ。だけど、確実に広がってる」
「やめろ、数字にするな。カウントダウンみたいで吐き気がする」
「でも見てしまう……。テレビ消したいのに消せない」
「仕事なんか手につくわけないだろ。会議室のモニター、全部ニュース番組になってるぞ」
10:18 『黒化率 8%』
「おい、第一展望台(天望デッキ)に向かって、黒い線が這い上がってるぞ……」
「これ、なんでこんなに遅いんだ? 今までのビルはもっと一瞬だっただろ!」
「デカすぎるから消化に時間がかかってるんじゃないか?」
「違う。……これ、鯨が『焦らしてる』んだよ。餌が恐怖で熟すのを待ってるみたいだ」
11:43 『黒化率 21%』
黒化はすでに中層部にまで達していた。
遠くから見ると、スカイツリーの下半分が「空間から削り取られた」ように見え、上半分の白い塔が、まるで宙に浮いているかのような錯覚を引き起こす。
光を一切反射しない絶対的な「黒」は、晴天の青空とのコントラストで、より一層その異常さを際立たせていた。
「もう下半分ないじゃん……」
「これ、本当に消えるんだな。日本の技術の結晶が、ただの黒い柱になっていく」
「実況するなよマジで怖い。精神がもたない」
「安全な埼玉の実家に逃げたけど、ずっと配信見てる。目が離せない。日本の心臓が止まる瞬間を待ってるみたいだ」
正午が近づくにつれ、SNS上の言葉は、パニックから【深い絶望と無力感】へと変質していった。
誰もが理解し始めていた。
人類には、これに対抗する手段が何一つないのだということを。
警察も、自衛隊も、政府も。ただバリケードを張って、塔が食われるのを黙って見ていることしかできない。
11:30 『黒化率 48%』
ついに、地上350メートルの「天望デッキ」が完全に黒に飲み込まれた。
その瞬間、ネット上に悲鳴のような書き込みが溢れ返る。
「あああああっ!! 展望台が真っ黒になった!!」
「俺、あそこでプロポーズしたのに……嘘だろ……」
「修学旅行で行った思い出の場所が、黒いシミに食われてる……」
「もうだめだおしまいだぁ……」
「政府!! なんとかしろよ!! 何の秘密兵器も持ってないのかよ!!」
この、一国の象徴がリアルタイムでゆっくりと消去されていく異様な光景は、海外のニュースネットワークを通じても、全世界に同時配信されていた。
海外のネットユーザーたちも、かつてない戦慄とともにこの「三時間の公開処刑」を見つめていた。
[Reddit / r/worldnews リアルタイム実況スレッド(日本語訳)]
「Tokyo Skytree is turning black in real time.(東京スカイツリーがリアルタイムで黒く染まっている)」
「This is not CGI. I repeat, this is not a movie.(これはCGではない。繰り返す、映画ではないのだ)」
「Japan is about to lose its tower.(日本は今、自国の象徴を失おうとしている)」
「Is this how civilization ends?(文明というのは、こうやって終わるものなのか? 爆発も炎もなく、ただ静かに黒く染まって?)」
「Where is the Japanese government?(日本政府は何をしている! なぜ見ているだけなんだ!)」
「Is there no artifact to stop it?(あいつらを止めるアーティファクトはないのか!?)」
「Imagine if this was the Eiffel Tower. Or the Empire State Building. We are all defenseless.(想像してみてくれ。これがもしエッフェル塔だったら。エンパイアステートビルだったら。……我々は全員、無力なんだ)」
海外の視聴者たちも、日本の絶望に共鳴し、明日は我が身かもしれないという恐怖に震えていた。
もはや「日本には魔女がいないからだ」と嘲笑う声は消え失せ、ただ純粋な、人類としての根源的な恐怖だけが世界中を包み込んでいた。
12:10 『黒化率 73%』
黒い染みは、地上450メートルの「天望回廊」を突破し、最上部のアンテナ部分(ゲイン塔)へと到達しようとしていた。
テレビのニュースキャスターたちは、もはや原稿を読むことをやめていた。
スタジオは完全な沈黙に包まれ、解説の専門家たちも絶望的な顔でモニターを見上げるのみ。
ただ、ヘリコプターのプロペラ音と、「現在、スカイツリーが黒く染まっています」という無機質な実況だけが、虚しく日本中のリビングに響き渡っていた。
「頼む、もうやめてくれ……」
「見たくないのに、テレビを消せない……」
「東京が終わる……日本が終わる……」
12:51 『黒化率 96%』
そして。
午後1時を少し回った頃。
ついに、スカイツリーの最頂部、避雷針の先端までが、一切の光を吸い込む【虚無の黒】に染まりきった。
高さ634メートルの、日本の現代建築の最高傑作。
それが、東京の青空に突き刺さる、巨大な「真っ黒な墓標」へと完全に姿を変えた瞬間だった。
ネットのタイムラインが一瞬、完全に停止した。
誰もが息を呑み、次の瞬間に訪れるであろう『消失(空間からの削り取り)』を覚悟した。
だが。
スカイツリーは、すぐには消えなかった。
その代わり。
東京上空の、秋の高く澄み切った青空が。
まるで、水面に巨大な石を投げ込んだように、ぐにゃりと【波打って歪んだ】のだ。
「……えっ?」
「空が……」
「なんだあれ!! 空が歪んでる!!」
これまで、地方の黒化事案において、ドローンの高高度カメラや、スロー再生の画像解析でしか確認できなかった、あの存在。
半透明の、雲に紛れるような蜃気楼としての『影』。
それが。
今回は、誰の目にも明らかなほどの【圧倒的な物理的質量】と、輪郭を持った黒い塊として、東京の空に【完全具現化】したのである。
「見えた……!!」
「鯨だ……!!」
「デカすぎる!! なんだよこれ、山よりデカいぞ!!」
それは、東京都内の広範囲から目視できた。
直下にある墨田区や台東区、江東区からはもちろん、千代田区の皇居前広場からも。
新宿の高層ビル群の窓からも。
遠く離れた横浜の港からも、東京の空を完全に覆い尽くすほどの、その巨大な黒い影が見えた。
空が、海のように揺れている。
重力を無視して、虚無の黒で構成された全長数キロメートルに及ぶ巨大な鯨が、ゆっくりと、だが圧倒的な威圧感を持って、スカイツリーの真上を旋回し始めた。
ネットのタイムラインは、悲鳴と絶望で完全に崩壊した。
「東京の空に黒鯨!!」
「もう無理、完全に実体化してる!!」
「スカイツリーが食われる!!」
「逃げろ!! いやもう無理だ、逃げる場所なんてない!!」
「これ人類、何もできないの!? 本当にただ見ているだけなのか!?」
「魔女様助けて!! 仙人助けて!! 日本の神様助けて!!」
「誰でもいいから!! 誰か助けてくれえええええええ!!!」
そして。
世界中のカメラと、何千万という絶望の瞳が見つめる中。
上空を泳いでいた黒鯨が、その巨大な虚無の口を、ゆっくりと、限界まで大きく開いた。
まるで深海へと続く底なしのブラックホールのような口腔が、黒く染まりきったスカイツリーの頂上へと、垂直に覆い被さろうと降下を始める。
日本の、現代文明の象徴が。
その長大な塔ごと、バケモノの胃袋へと完全に飲み込まれようとした、まさにその時。
【第10章:光の柱、黒鯨撃退】
午後1時05分。
日本という国家の心臓が、完全に停止しようとしていた。
東京の空を海のように歪め、圧倒的な質量と威圧感をもって完全具現化した『黒鯨』。
その、底なしの暗黒空間のような巨大な口が、限界まで大きく開かれた。
標的はただ一つ。日本の現代技術の結晶であり、最高到達点である、高さ634メートルの東京スカイツリー。すでに下部から最頂部まで、一切の光を反射しない「虚無の黒」に染め上げられた、巨大な墓標である。
東京都内のあらゆる場所で、数千万人の人々が息を呑み、足のすくむような絶望とともにその空を見上げていた。
スマートフォンを構えたまま震える者、その場にへたり込む者、子供の目を両手で覆い隠す親。
街の喧騒は完全に消え失せ、車のクラクションすら鳴らない。風の音さえも途絶えたかのような、異常な静寂。
ただ、テレビの生中継ヘリコプターのプロペラ音だけが、虚しく空気を叩いていた。
黒鯨の巨大な上顎が、スカイツリーの最頂部(ゲイン塔)に触れようとした、その瞬間。
――天空のさらに上、大気圏の彼方から。
【それ】は、唐突に降り注いだ。
最初は、ただの「稲妻」のように見えた。
秋晴れの青空の天頂、その一点がチカッと閃光を放ったかと思うと、一本の青白い光の線が、一直線に東京の空へと突き刺さったのだ。
だが、それは稲妻のようなジグザグの軌跡を描いてはいなかった。
定規で引いたように真っ直ぐな、そして途方もなく太い【光の柱】だった。
次の瞬間。
一本だった光の柱が、空中で二本に分かれた。
二本が十本になり、十本が百本になり、千本になり、万本になり――。
瞬きをする暇すら与えない、コンマ数秒の間に。
空は、完全に【光】で埋め尽くされた。
それはまるで、一億本の光の柱を束ねたような、巨大で、そして神々しいまでの【光の剣】であった。
音は、なかった。
いや、音が遅れてやってきたのではない。爆発音も、衝撃音も、一切存在しなかったのだ。
代わりに、東京中の【空気そのもの】が、ビリビリと細胞の奥底まで直接響くような、圧倒的な周波数で震え始めた。
東京全域が、真夏の真昼すら比較にならないほどの、絶対的な「白」に染まった。
ビルの影も、街路樹の影も、人々の足元の影も。
あらゆる『影』が、異常な光量の前に完全に消滅した。
光の剣は、黒鯨の巨大な背中へと、音もなく、しかし絶対的な質量を伴って真っ直ぐに突き刺さった。
[X(旧Twitter) / タイムライン]
@Tokyo_Watcher_01
何!?!?
@SkyTree_Resident
光!? 光の柱!?!?
@Video_Live_Streamer
眩しすぎる!!! 画面真っ白!!!
カメラ焼けた!! レンズが割れた!! なんだこれ!!
@Office_Worker_T
目が、目が開けられない!!
空から、剣みたいなのが降ってきた!! なんだあれ!!
@Mythology_Nerd
なんだ今の!? 何が起きてる!?
神の加護かよ!!!
@News_Junkie_JP
日本政府、何した!?
自衛隊か!? ミサイルか!? いや違う、あんな兵器見たことない!!
アーティファクトか!?!?
@Occult_Sleuth_Z
天罰!? 違う、黒鯨を撃ってる!!
これは……【救い】だろ!!
ネットのタイムラインは、絶望のどん底から一転、理解不能な超常現象を前にした極限の混乱と興奮へと、秒速で反転した。
テレビの中継映像も、一瞬ホワイトアウトし、カメラマンが慌てて絞りを限界まで絞ることで、ようやくその光景を画面に映し出すことに成功した。
光の柱(剣)は、一撃では終わらなかった。
一億の光を束ねたような巨大な刃が、黒鯨の巨大な身体に、何度も、何度も閃いた。
いや、それは物理的に肉を【斬る】という行為ではなかった。
光の線が走るたびに、黒鯨の虚無の輪郭がブレ、空が本来の青さを取り戻していく。
まるで、破れてしまった「空」と「怪物」の間に、強制的に【境界線を引いている(縫い合わせている)】かのような、概念的な修復作業。
『グゥォォォォォォォォォ……!!!』
東京中の人々の脳裏に、直接響くような『見えない悲鳴』が木霊した。
黒鯨が、かつてないほど激しく暴れ回る。
空が水面のようにぐにゃぐにゃと歪み、雲が吹き飛ばされ、空間そのものが引き裂かれそうになる。
だが、光の剣は無慈悲に、そして絶対的な力で、黒鯨の存在そのものを削り落としていく。
その影響は、食われかけていた「標的」にも即座に表れた。
@Disaster_Data_Bot
皆さん!! スカイツリーを見てください!!
@Tokyo_Resident_01
剥がれてる!! スカイツリーの黒が剥がれてるぞ!!
@Construction_Worker_T
白い亀裂が走ってる!
黒いシミの下から、元の白い鉄骨が見えてる!!
@Sumida_Escape
鯨が押し返されてる!!
塔から口が離れていく!! 食えなくなってる!!
@Mythology_Nerd
斬ってるんじゃない! あれ、空を【縫ってる】んだ!!
黒鯨が空けた穴を、光で縫い合わせて、あいつを元の場所に押し込もうとしてる!!
@Corporate_Slave_00
いけえええええええええええええええ!!!
そのまま斬り捨てろおおおおおおお!!!
日本中のネット民が、画面の向こうで拳を握りしめ、咆哮した。
世界中の視聴者もまた、翻訳されたタイムラインとともに、この神話のような光景に完全に釘付けになっていた。
あらゆる場所からの、無数の視点がネットに集まる。
【押上(スカイツリー直下)からの映像】
「光の柱が眩しすぎて、直視できない! でも、黒い鯨が光に焼かれて、ボロボロ崩れていくのが見える!!」
【新宿の高層ビルからの映像】
「西新宿から見てるけど、東京の東半分が光のドームに包まれてるみたいだ! あんなエネルギー、核爆発以上だろ!」
【千葉・幕張からの映像】
「海を越えて見える! 天空から真っ直ぐに突き刺さる光の線! アニメかよこれ!!」
【羽田発の飛行機の機内からの映像】
「機内騒然! 窓の外、東京の上空に巨大な光の十字架みたいなのが突き刺さってる!!」
そして、この圧倒的なエネルギーの放出は、世界の【科学クラスタ】たちをも発狂させていた。
[Reddit / r/Science & X(旧Twitter)データ解析班]
@Astrophysics_Prof
オーマイゴッド。今、日本の気象衛星と各国の監視衛星の光学センサーが、東京上空の異常発光で軒並み「飽和(ブラインド)」状態になっている!
@Energy_Analyst_US
あの光量、東京全域で白昼夢のように観測されている。
エネルギー総量を計算してみたが、おかしい。核兵器のギガトン級どころの騒ぎじゃない。完全に天文学的な数値だ!
@Thermal_Dynamics_Bot
いや、もっとおかしいことがある!
あれほどのエネルギー(光)が放出されているのに、気象庁のデータでは、東京の【気温】に全く変化がないんだ!
熱被害が限定的すぎる。エネルギーは目に見えているのに、なぜ「熱」になっていない!?
@Physics_Nerd_JP
物理現象じゃないんだよ!!
あれは、光の形をした【概念攻撃】だ!! 空間そのものに直接干渉して、黒鯨の『存在』だけを削り取ってるんだ!!
@Military_Insider_US
日本は、一体何を持っているんだ!?
こんな神を降臨させたような兵器、アメリカ軍のセレスティアル・ウォッチですら感知していなかったぞ!!
世界中が、日本の空に降り注いだ「光の柱」の正体に、驚愕し、そして戦慄していた。
光の剣の猛攻は、容赦なく続いた。
一億の光の束が、黒鯨の巨体を十文字に、八百八町に、無数に斬り刻み、縫い付ける。
黒鯨の巨大な顎が、ついに完全に閉じた。
スカイツリーを飲み込むことを諦め、というよりも、口という概念そのものを光によって破壊され、体表の漆黒がバリバリと音を立てるように裂けていく。
空間の奥深くへ、まるでブラックホールに吸い込まれるように、黒鯨の巨体が後退し始める。
光の剣が、最後の一撃を振り下ろした。
その光の閃きとともに。
黒鯨は、巨大な影の断片(ガラスの破片)のように空間に散り散りになり――そして、完全に、跡形もなく東京の空から消え去った。
光の柱もまた、その役目を終えたように、スッ、と天空へと吸い込まれ、消滅した。
後に残されたのは。
元の通りの、秋の高く澄み切った青空。
そして。
黒化が完全に剥がれ落ち、元の美しい純白の姿を取り戻した、東京スカイツリー。
頂上付近の航空障害灯など、一部のライトのガラスが割れたり消えたりはしていたが、鉄骨の構造自体には、傷一つ、歪み一つなかった。
高さ634メートルの塔は、日本の象徴として、見事にそこに立ち続けていた。
「…………」
数秒の、完全な静寂。
東京中が、いや、日本中が、自分たちの目で見ている光景が信じられず、息を止めていた。
やがて。
押上の駅前で、誰かがポツリと呟いた。
「……戻った」
その一言が、発火点となった。
「戻った!!!!」
「スカイツリー、白い!!! 白いぞ!!!!」
「食われなかった!!! 消えなかった!!!」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
東京中から、地鳴りのような歓声が上がった。
マンションのベランダから、オフィスの窓から、避難所のグラウンドから。
見ず知らずの者同士が抱き合い、涙を流し、空に向かって絶叫した。
ネット空間も、完全に爆発した。
[5ちゃんねる:ニュース速報板]
スレタイ:【祝勝】東京スカイツリー、生存確認!! 我々は勝ったぞおおお!!
1 :名無しさん@涙目です
勝った!? 勝ったのか!?!?
2 :名無しさん@涙目です
黒鯨消えた!! 完全に空から消えたぞ!!
3 :名無しさん@涙目です
スカイツリー無傷!! 嘘みたいだ、あんなに真っ黒だったのに!!
4 :名無しさん@涙目です
光の柱ありがとう!!! 誰がやったか知らんけど、本当にありがとう!!!
5 :名無しさん@涙目です
日本生きてる!! 日本は終わらなかった!!
うおおおおおおおおおおおおおお!!
6 :名無しさん@涙目です
神の剣かよあれ!! マジで神話の光景だった!!
震えが止まんねえ!!
7 :名無しさん@涙目です
何が起きたか全く分からん!! 分からんけど、とにかく助かった!!
日本最強!! 光の柱最強!!
[X(旧Twitter) / 世界トレンド]
1位:#PillarOfLight (光の柱)
2位:#TokyoSkytreeSaved (スカイツリー守られた)
3位:#SwordOfGod (神の剣)
4位:光の柱
5位:ありがとう謎の光
6位:日本政府の隠し玉
世界中のタイムラインが、日本の勝利と、謎の「光の柱」への熱狂で埋め尽くされた。
あの絶望的な一週間のパニックが嘘のように、日本列島は極限の安堵と歓喜の渦に包み込まれていた。
だが。
大衆が涙を流して喜ぶ一方で。
世界のインテリジェンス機関と、各国の首脳たちは、全く別の「冷や汗」を流しながら、東京の空を見つめていた。
日本には、黒鯨を撃退する【何か】がある。
それは、アメリカのライトセーバーも、イギリスの魔女も比較にならないほどの、物理法則を無視した天文学的なエネルギーの塊。
世界は知ってしまったのだ。
極東の島国が、ただ丸腰で震えているだけの防波堤などではなく。
いざとなれば、空を割り、概念を斬り裂き、巨大な怪物を一瞬で消し去るほどの【絶対的な神話の力】を、その内側に隠し持っているということを。
【第11章 海外の反応】
東京の空を海のように歪ませ、日本の象徴である巨大な塔を飲み込もうとしていた絶望的な暗黒の怪物、『黒鯨』。
それが、天空から唐突に降り注いだ一億の「光の柱」によって、悲鳴を上げる間もなく空間ごと斬り裂かれ、完全に消滅した。
日本国内が極限の死の恐怖から解放され、街頭で人々が泣き崩れ、ネット空間が狂喜と安堵の涙で埋め尽くされているその真っ只中。
海を越えた海外のネット空間と主要メディアは、日本とは全く別の、氷のように冷え切った【新たな恐怖と疑念】に完全に支配されていた。
これまで、世界中のメディアやネットユーザーたちは、未知の空間捕食怪異にインフラを削り取られていく日本を「自国の身を守るアーティファクトを持たない、哀れな防波堤」として同情し、あるいは「明日は我が国に怪物が来るかもしれない」と恐れながら、ある種の安全な対岸の火事として見世物にしていた。
だが、あの神話的とも言える光の剣の乱舞は、たった数分間で、世界のパワーバランスとアーティファクトに対する認識を、根底からひっくり返してしまったのだ。
[海外ニュース専門チャンネル / 各国ヘッドラインと速報の様子]
アメリカ合衆国、アトランタ。CNN本社のニュースルーム。
巨大なモニターに東京スカイツリーの映像が映し出される中、ベテランのニュースキャスターは、プロンプター(原稿)の文字を追うのを完全に忘れ、口を半開きにしたまま沈黙していた。
数秒の放送事故スレスレの空白の後、彼はインカムから怒鳴るディレクターの声で我に返り、震える声で告げた。
「……信じられない光景です。皆さん、これはハリウッドのSF映画ではありません。現在、東京で起きている現実です。
日本を襲っていた巨大な影の怪物が……空から降り注いだ『未知の光エネルギー』によって、完全に消去されました。
……繰り返します。日本は、怪物に食われたのではありません。彼ら自身の手で、あるいは彼らが隠し持っていた『何か』によって、怪物を撃退したのです。
『Japan has a weapon.(日本は兵器を持っている)』。我々の同盟国は、一体何を隠し持っているのでしょうか?」
イギリス、ロンドン。BBCの緊急特番。
「極東の島国には、彼ら自身の『守護者』がいたようです。東京上空で観測された神話的規模のエネルギー放射。それは、我が国が誇る魔女の呪いよりも直接的で、そして極めて破壊的に見えます。日本はアーティファクトの脅威に対し、決して無力ではありませんでした」
中東、アルジャジーラ。
「黒い怪物は消えました。だが、日本の空から降った光は、現代のいかなる軍事兵器をも凌駕する威力を見せつけました。世界は今、極東の島国が放った閃光に怯えています」
テレビメディアが混乱を極める中、インターネットの世界最大の英語圏掲示板「Reddit」のニュース板(r/worldnews)では、数時間前までの「日本への祈り」が一瞬にして「疑念と畏怖」へと反転し、かつてない勢いでスレッドが乱立し、すさまじい速度でコメントが消費されていた。
【アメリカの反応:隠蔽への怒りと恐怖】
アメリカのネットユーザーたちの反応は、最も激しく、そして攻撃的であった。同盟国であるはずの日本が、自分たちに隠れて「世界を滅ぼしかねない力」を持っていたという事実が、彼らのプライドと安全保障への信頼を粉々に打ち砕いたからだ。
X(旧Twitter)のアメリカのトレンドでは、またたく間に「#JapanHasAWeapon(日本は兵器を持っている)」「#WhatIsTheLight(あの光は何だ)」「#CelestialWatchFailed(セレスティアル・ウォッチの失態)」といったハッシュタグが上位を独占した。
[Reddit / r/worldnews アメリカユーザーの反応(日本語訳)]
u/US_Patriot_77
「信じられない。完全に騙されていた。日本は何か持っているぞ!
あんなバケモノみたいな黒鯨を一瞬で消し飛ばせる『何か』を、今までずっと隠していたんだ! あの光は一体なんだ!? 軍事兵器なのか!? それとも未知のアーティファクトなのか!?」
u/Military_Insider_DC
「軍事兵器で説明がつくレベルじゃない。光学衛星の生データを見たか? あの瞬間、東京全域が太陽の表面より明るくなったのに、熱被害が全く出ていないんだ。
熱エネルギーに変換されない光。物理法則を完全に無視している。純粋な概念破壊兵器(アーティファクト)だ。アメリカ軍の戦術核すら束になっても敵わない」
u/Eagle_Eye_01
「一番の問題は、我らがアメリカが誇る最強のアーティファクト特務機関『セレスティアル・ウォッチ』が、日本のこの力を事前に把握していたかどうかだ。
もし知っていたなら、なぜ国民に隠していた?
もし知らなかったなら……アメリカのインテリジェンスの完全な敗北だぞ! 同盟国が神話レベルの大量破壊兵器を隠し持っていたことに、我々の監視網は気づけなかったんだからな!」
u/Tech_Ethics_Prof
「アメリカ政府は、すぐに日本へ説明を求めるべきだ。日本は同盟国に対して情報共有の義務があるはずだろ!
あれだけの力を持っていながら、なぜ今まで黙っていた? なぜ札幌や仙台のビルが食われている時は使わなかった? わざと被害を出して弱者のフリをし、最後に劇的に使ってみせて世界を威圧したのか?」
u/NY_Survivor
「あの光の柱を見た時、背筋が凍ったよ。もしあの矛先がニューヨークに向けられたら? どんなミサイル防衛システムも意味を成さない。日本は同盟国だと言っているが、明日も同盟国である保証はどこにある?」
【イギリスの反応:魔女の言葉の伏線回収】
一方、ヨーロッパのネット空間、特にイギリスのユーザーたちは、数日前に自国の「公認魔女」が発した不可解な言葉の意味を、ここに至ってようやく理解し、戦慄とともにパニックに陥っていた。
[Reddit / r/worldnews イギリスユーザーの反応(日本語訳)]
u/London_Eye_88
「オーマイゴッド。魔女様ではない。でも、日本にも守り手がいたんだ。
みんな、数日前に魔女様が言っていた言葉を思い出してくれ。『それぞれの土地には、それぞれの守り方がある』。
……これのことだったんだよ!!」
u/Tea_and_Scones
「魔女様は最初から、日本が自力で怪物を殺せる『剣』を持っていることを知っていたんだ。だから、あんなに冷たく突き放して助けに行かなかったんだな。日本政府が最後のカードを切ることを分かっていたからだ」
u/Brit_Humor
「イギリスには魔女がいて、日本には光の剣があるってことか?
日本の光の柱、正直言って怖すぎるだろ。魔女様の紅茶の呪いや茨の結界より、遥かに直接的で、暴力的で、容赦がない。完全に殺意の塊じゃないか」
u/History_Nerd_UK
「ずっと『イギリスだけ魔女がいてずるい』って世界中から言われてたけど、ずるいのは日本もだったんだな!
いざとなったら空から神の雷を落として強引に解決するとか、どこのファンタジーRPGだよ。日本人はずっと悲劇のヒロインぶってたのに、裏ではとんでもない大砲の引き金に指をかけてたんだ」
u/European_Watcher
「日本は無宗教の国だと思っていたが、彼らには『八百万の神』という古い概念がある。彼らは一神教の国とは全く違うルーツの、古くて恐ろしいアーティファクトを地下深くに隠し持っているに違いない。イギリスの魔女すらも一目置くような、得体の知れない存在を」
【中国の反応:パワーバランスの崩壊への恐怖】
さらに、隣国である中国のSNS(微博・Weiboなど)でも、激しい動揺と、地政学的な恐怖が猛烈な勢いで広がっていた。
数日前、中国の高位仙人が発した言葉が、最悪の形で実証されてしまったからである。
[微博(Weibo)トレンド及び翻訳まとめ]
u/Sino_Analyst
「日ノ本の古いもの……これのことか!?
仙人様が『日ノ本の国のことだ、手を出すな』と警告した理由が、ようやく分かった。仙人は、あの光が神話兵器だと最初から知っていたんだ」
u/Dragon_Watcher
「仙人が動かなかったのは、黒鯨が中国に来ないからじゃない。日本政府が『古いもの』を起動した時の余波に巻き込まれるのを避けたんだ。あの光の柱は、仙人の法術すらも消し飛ばしかねない威力だったんじゃないのか?」
u/Geopolitics_88
「ヤバすぎる。日本にあんなデタラメなものがあるなら、東アジアのパワーバランスが完全に変わるぞ。
人民解放軍の最新鋭ステルス戦闘機や弾道ミサイルが何千発あろうと、あんな光の柱を北京や上海の上空に一本降らされたら、すべてが一瞬で消滅するじゃないか!」
u/Shanghai_Night
「日本政府は一体何を隠しているんだ? 今までずっと丸腰のフリをして、アメリカの傘の下で大人しくしているように見せかけて。実は世界を裏から焼き尽くせるほどのジョーカーを持っていたのか?」
u/National_Defense_Bot
「我が国の政府は直ちに日本に抗議し、あの光の正体を査察する権利を要求すべきだ! あんなものが隣国にある状態では、我々は一日たりとも安心して眠ることはできない!」
【世界一般の反応:アーティファクト時代への絶望】
そして、国籍を問わず、世界中のネットユーザーに行き渡った共通の感情は、「日本に対する畏怖」と、「アーティファクトという存在そのものへの底知れぬ絶望」であった。
[各種SNS / 翻訳まとめ]
u/French_Realist
「黒鯨は撃退された。あの理不尽な空間捕食者がいなくなったのは、人類にとって喜ぶべきことだ。
だが……あの光を見た後では、もう純粋に喜べない。
日本の光は、黒鯨よりも怖いかもしれないんだ」
u/Global_Citizen
「同感だ。黒鯨はただの『獣(バケモノ)』だった。腹を空かせて建物を食うだけの、知性のない災害だ。台風や地震と同じだ。
だが、あの光の柱は違う。あれは明らかに人間の意思でコントロールされ、狙って撃たれた。あの強大な光が、もし人間の都市に向けられたら? 防ぐ手段なんて人類には存在しない」
u/Doomsday_Prepper
「想像してみてくれ。あの光が、怪異ではなく、ロンドン、パリ、モスクワ、あるいは君たちの住む街に向けられたら?
地下シェルターに逃げても無駄だ。空間ごと概念を削り取られて終わりだ。日本は今日、世界を守ったのかもしれないが、それと同時に世界を終わらせるボタンを見せつけたんだ」
u/Tech_Ethics_Prof
「日本は今日、黒い鯨から世界を守ったのかもしれない。
だがそれと同時に、人類に対して全く新しい『恐怖』を見せつけたんだ。
アーティファクトの時代……もう無理だ。人間の理性や外交努力、あるいは軍事的な抑止力でコントロールできる世界は、あの光の柱が降り注いだ瞬間に、完全に終わってしまったんだよ」
日本のネット空間が「勝った!」「助かった!」「光の柱ありがとう!」と手放しで歓喜に沸き返り、生存の喜びを分かち合っているその裏側で。
世界のインテリジェンス機関と海外のネットユーザーたちは、極東の島国の空に眠る『何か』の影に怯え、極度の警戒と疑心暗鬼に陥っていた。
「日本は、ただの平和な国ではない。触れてはならない神話の力を隠し持つ、最も危険なアーティファクト保有国かもしれない」。
黒鯨の脅威は去った。
だが、その代償として、日本は世界中からの畏怖と猜疑の目を、一身に集めることとなったのである。
そして、この世界中からの凄まじい同調圧力と説明要求に対し、日本政府は、ある意味で光の柱よりも恐ろしい「狂気の公式声明」を発表することになる。
【第12章 日本政府声明】
東京の空を覆い尽くしていた巨大な絶望――『黒鯨』が、天空から降り注いだ一億の光の柱によって完全に空間ごと消去されてから、およそ四時間が経過した。
午後五時三十分。
日本の政治の中枢、首相官邸のプレスルームは、かつて建国以来、いかなる歴史的事件の際にも見られなかったほどの、異様で、そして息の詰まるような極限の緊張感に包まれていた。
本来であれば内閣記者会の限られた人間しか入れないはずのその空間には、今回ばかりは特例として(あるいは物理的な制止を振り切る形で)、世界各国の主要メディアの特派員たちが雪崩れ込んでいた。
CNN、BBC、アルジャジーラ、新華社通信。カメラの砲列は文字通り壁のように幾重にも連なり、突き出されたマイクの束は、まるで何かを処刑するための槍衾(やりぶすま)のように演台へと向けられている。
部屋の空気は、百人を超える人間たちの興奮と、極度の疲労、そして何より「世界をひっくり返すほどの真実」を今から聞き出さねばならないという飢餓感によって、酸素が薄く感じられるほどに濁りきっていた。
誰もが、自分たちがあの空で見たものを知っている。
物理法則を完全に無視し、巨大な怪物を一瞬で塵に変えた、あの神の落雷のような光の剣。
日本政府は、あの神話兵器(アーティファクト)の正体をついに世界へ公表するのか。それとも、アメリカや他の列強国のように「特務機関」の存在を明らかにするのか。
午後五時三十五分。
定刻を少し過ぎて、プレスルームの重い木扉が開いた。
フラッシュの閃光が、文字通り嵐のように炸裂した。
目を射るような何千回もの白い光の明滅の中を、内閣官房長官が、数人のSPと秘書官を従えてゆっくりと歩み出てくる。
その顔には、隠しきれないほどの深い疲労の影と、まるで自らの感情をすべて鉄の箱に閉じ込めて鍵をかけたような、不気味なまでのポーカーフェイスが張り付いていた。
官房長官は演台の前に立ち、マイクの高さを微調整する。
その、わずか数秒の沈黙の間に、テレビの中継を通じて、あるいはネットのストリーミング配信を通じて、日本中の何千万人、世界中の何億人という人間が、呼吸を止めて画面を見つめた。
長官は、手元の分厚いバインダーを開き、ゆっくりと顔を上げた。
そして、一切の抑揚を排した、まるで機械のような冷徹な声で、歴史的な公式声明の読み上げを開始した。
「……本日、午前より東京スカイツリー周辺において発生いたしました、大規模な黒化現象、および、上空に出現した大型の影状存在につきまして」
フラッシュの音が、さらに一段と激しくなる。
「政府は、事態の発生直後より関係機関と緊密に連携し、周辺住民、ならびに観光客の皆様の安全確保を【最優先】に、避難誘導等の対応を行ってまいりました。
……現時点で、東京都内において、本件に直接関連する人的被害(死傷者)は、一名も確認されておりません」
この「死者ゼロ」という報告は、本来であれば奇跡として称賛されるべきものであった。だが、記者たちの顔に安堵の色はない。彼らが求めているのは、そんな結果論ではない。あの怪物を消し去った「原因」なのだ。
「また、当該事象――影状存在および構造物の黒化につきましては、すでに完全に消失しております。
標的となった東京スカイツリーの構造安全につきましても、現在、専門家による詳細な確認作業を進めておりますが、現時点で倒壊の危険性や、目立った損壊は見られないとの報告を受けております」
官房長官はそこで一度言葉を切り、大きく、深い息を吸い込んだ。
まるで、これから放つ言葉が、どれほど理不尽で、どれほど世界の常識を愚弄する大嘘であるかを、自分自身に納得させるかのように。
「……なお。
事象の消失直前に観測されました、大規模な【光学的現象】につきましては、現在、気象庁および関係各機関が、総力を挙げてデータの解析を行っております」
「…………は?」
プレスルームの最前列にいたベテラン記者の口から、思わずマヌケな声が漏れた。
それは、テレビの前の視聴者たちも全く同じ反応だった。
光学的現象。
太陽の光が氷の結晶に反射して起きる「幻日」や、大気の温度差で風景が歪む「蜃気楼」、あるいはただの「落雷」などと同じ、単なる『自然現象』のカテゴリーに属する言葉。
あの、空を割り、一億の光の刃となって怪物を空間ごと切り刻んだ神の剣を、日本政府は今、公式の場で「光学的現象」と呼んだのだ。
だが、長官の読み上げは止まらない。記者たちの動揺を完全に無視し、ただ冷酷に、用意された鉄壁の原稿(シナリオ)を突き進む。
「政府といたしましては、当該現象(光学的現象)が、今回の事態収束に大きく寄与した可能性を認識しております。
……国民の皆様の冷静な対応、現場の警察・消防の尽力、そして、本件の解決に関係する【すべての要因】に対し、政府として、深い感謝を表明いたします。
今後につきましても、同様の事象が発生しないか、全国の監視ネットワークを通じて警戒体制を継続してまいります。……政府からの発表は、以上です」
バタン、と。
バインダーが閉じられる音が、マイクを通してマイクを通して静まり返った部屋に響いた。
その瞬間。
プレスルームにかけられていた「呆然」という名の魔法が解け、物理的な爆発にも似た【怒号】が巻き起こった。
「長官!! ふざけないでください!! 光学的現象とはどういう意味ですか!!」
「あの光はアーティファクトではないのですか!! 日本政府は秘密兵器を隠し持っていたのではないですか!!」
「『すべての要因に感謝』とは誰に向けての言葉ですか! アメリカのインテリジェンス機関は、日本が未知のエネルギー兵器を使用したと主張していますが!!」
「次にまた黒鯨が現れたら、またあの光学的現象とやらが都合よく起きて助けてくれると言うんですか!! 答えてください!!」
何十人もの記者たちが立ち上がり、マイクを突き出し、演台に向かって身を乗り出して絶叫した。
だが、官房長官は、その殺気立った質問の嵐に対して、ただ冷たい目を向けるだけだった。
「……先ほど申し上げた通りです。現在、解析中であり、これ以上お答えできる事実はございません」
「事実を隠蔽する気ですか!! 世界中があの光を見ているんですよ!!」
「解析中、であります。……本日の会見は、これで終了とさせていただきます」
官房長官は、SPたちに守られながら、怒号とフラッシュの嵐を背にして、逃げるように、しかし決して歩みを早めることなく、プレスルームの奥へと姿を消した。
残された記者たちの絶叫だけが、虚しくテレビの生中継を通じて日本全国へと垂れ流されていた。
***
この、あまりにも白々しく、そして強引すぎる日本政府の「大本営発表」。
普通であれば、国民の怒りを買い、内閣支持率が地に落ち、ネット上では政府の隠蔽体質を叩く大炎上が巻き起こるはずの場面である。
だが。
この歴史的な記者会見をリアルタイムで見守っていた日本のネット空間(大衆)の反応は、海外のインテリジェンス機関が分析していたような「政府への怒り」とは、全く次元の違う、極めて特異で、ある種【共犯関係】のような奇妙な熱気を帯びていたのである。
[X(旧Twitter) / タイムライン]
日本のトレンドは、会見が終わってからわずか数分で、完全に塗り替えられた。
1位:#光学的現象
2位:#関係するすべての要因
3位:政府すっとぼけ
4位:ありがとう光学的現象
5位:日本政府の鉄面皮
6位:光の柱
7位:蜃気楼(物理)
@News_Watcher_JP
光学的現象wwwwwwwwwwwww
嘘だろwwww あの神の剣を、サンピラーとか蜃気楼と同じノリで説明して逃げ切る気かよwww
@Cynical_Otaku
「現在、気象庁が解析中です(キリッ」
気象庁に押し付けるなwww 気象庁の中の人、今頃モニターの前で「あんな光、天気のせいじゃねえよ!!」ってブチギレて泣いてるぞ絶対www
@Corporate_Slave_00
官房長官の「関係するすべての要因に対し、深い感謝を表明します」って言葉、最高すぎないか?
「光の柱を撃った誰か(もしくはアーティファクト)にお礼を言いたいけど、公の場では存在を認められないから、とりあえず『すべての要因』ってボカして言っておくわサンキューな!」ってことだろww 苦しすぎるww
@Mythology_Nerd
いや、でもこれ、最高の外交戦術だろ。
世界中が「日本がヤバい兵器持ってる!」って騒いで圧力かけてきてるのに、「いやー、たまたま凄い光学的現象が起きてバケモノ消えちゃいましたねー。ラッキーでしたわー」でシラを切り通すつもりだぞ日本政府。
この鉄面皮、嫌いじゃない。
@Tokyo_Resident_01
ていうか、官房長官、目の下クマだらけで倒れそうだったじゃん。
あんなトンデモない嘘を世界に向けてつかなきゃいけないとか、胃に穴空くレベルじゃないだろ。
マジでお疲れ様です。光学的現象、最高でした。
日本のネット民たちは、一瞬にして事態の「文脈」を読み取っていた。
彼らは馬鹿ではない。あの光が自然現象などではないこと、政府がとんでもない秘密(日本のアーティファクト)を隠蔽していることなど、百も承知である。
だが、彼らはその「嘘」を暴こうとはしなかった。
むしろ、そのあまりにも巨大な嘘を、笑い飛ばしながら【受け入れよう】としていたのだ。
なぜなら、真実がどれほど恐ろしく、どれほど絶望的な代償を伴うものであろうと。
今日、自分たちは間違いなく、その「光」によって命を、日常を、日本の象徴を救われたのだから。
[5ちゃんねる:ニュース速報板]
スレタイ:【朗報】日本政府、スカイツリーを救った神の剣を「光学的現象」と言い張る暴挙に出る
1 :名無しさん@涙目です
光学的現象で黒鯨が消滅してスカイツリーが元通りになりました!
よし! 何も不自然なところはないな!!
18 :名無しさん@涙目です
絶対隠してるけど、今回は許すわ。
だって、マジで助かったんだもん。東京のど真ん中が削り取られるところだったんだぞ。
32 :名無しさん@涙目です
海外の掲示板見てきたら、アメリカ人も中国人も「日本政府は嘘をついている! 秘密兵器を出せ!」ってガチギレしてて草。
いや草じゃないけど。他国からしたら、あんな防ぎようのないビーム兵器持ってる国、恐怖でしかないもんな。
45 :名無しさん@涙目です
だからこそ「光学的現象」なんだよ。
兵器じゃない、コントロールもしてない、ただの自然現象だから他国を攻撃する意思も能力もありませんよ(すっとぼけ)っていう、日本政府の命がけのブラフ(防衛線)だろこれ。
60 :名無しさん@涙目です
でもさ、官房長官が「すべての要因」って言う時、一瞬だけ声が震えてたよな。
絶対、裏でとんでもない犠牲払ってるか、取り返しのつかないヤバいボタン押したんだろうなってのが伝わってきたわ。
なんか、あの会見見てたら文句言う気失せた。
75 :名無しさん@涙目です
ああ。文句言うのは簡単だけど、今日だけは言いたくない。
政府も、現場の警察も、自衛隊も、そしてあの「光」を撃ってくれた誰かも。
本当に、日本のために泥被ってくれたんだなって思う。
88 :名無しさん@涙目です
ありがとう政府。
ありがとう謎の光学的現象。
ありがとう誰か知らんけど、ボタンを押してくれた人。
お前のおかげで、明日も生きて会社に行けるよ。
102 :名無しさん@涙目です
>>88
明日会社行きたくねええええええええええ!!
ビル食われて会社なくならねえかなあああああ!!
115 :名無しさん@涙目です
>>102
お前みたいな奴がいるから日常なんだよwww
平和が一番だわマジで。
恐怖のどん底から引き上げられた反動による、異様なまでのハイテンションと、ブラックジョーク。
そして、その奥底に流れる、政府と「未知の力」に対する、不器用だが本物の【感謝】。
日本国民は、この日、国家が吐いた巨大な嘘の「共犯者」となった。
「あれは光学的現象だった」。
そう信じ込む(フリをする)ことでしか、アーティファクトという神話の力が実在するこの狂った世界で、自分たちの脆弱な精神を保ち、日常を続けていくことはできないと、無意識のうちに悟ったのである。
夜が深まるにつれ、テレビの報道も徐々に落ち着きを取り戻し、被害地域のまとめや、今後のインフラ復旧に関するニュースへとシフトしていった。
だが、誰もが心のどこかで理解していた。
政府がどれだけ「光学的現象」と取り繕おうとも、もう世界は、あの一億の光の柱を忘れてはくれないだろうということを。
日本の空は、今日、たしかに世界の常識を斬り裂いたのだ。
その残酷で美しい真実は、ネットの海に永遠にデジタルタトゥーとして残り続け、人々の集合無意識に深く根を下ろしていくことになる。
【第13章 数日後:黒鯨は去った】
東京スカイツリーの頂上から虚無の黒が剥がれ落ち、一億の光の柱が天空へと吸い込まれるように消え去ったあの日から、数日が経過した。
日本政府が極秘裏に(そして今や、世界中のインテリジェンス機関が血眼になって)監視を続けている、全国の現実歪曲・アーティファクト検知ネットワークのメインモニターには、この数日間、一切の異常を知らせるアラートは鳴っていなかった。
『黒化率:全国ゼロ』
『影鯨(シャドウ・ホエール)反応:未検出』
『空間歪曲率:正常値』
『現実強度:正常、安定状態を維持』
緑色の無機質な文字が、事態の【完全なる終息】を告げている。
あの一週間、日本列島を北から南まで蹂躙し、巨大な建築物を次々と「空間ごと削り取って」いった理不尽な空の怪物――黒鯨は、完全に姿を消したのである。
一時的な撤退なのか、それともあの光の剣によって概念ごと完全に消滅させられたのか、その真実は誰にも分からない。
だが少なくとも、今日、そして明日の空から、あの底なしの暗黒の口が降りてくることはない。
新たな被害は、一切報告されていない。
首都圏の交通網は徐々に正常なダイヤを取り戻し、臨時休校となっていた学校も再開され、企業は通常業務へと戻り始めた。
日本国民は、極度の緊張と死の恐怖から解放され、ようやく、本当にようやく、深い安堵の息をつくことができた。
だが。
人々が職場や学校へと戻り、「日常」という名のレールの上を再び歩き始めた時。
彼らは、自分たちの生きる都市の風景が、もはや元の姿には二度と戻らないという残酷な現実に、直面することになったのである。
黒鯨は去った。
しかし、奴に『食われた』建物たちは、決して戻ってはこない。
日本全国の都市に、まるで巨大なジグソーパズルのピースを無造作に引き抜いたかのような、異様で、そして修復不可能な【空白(傷跡)】が残されていた。
テレビの報道特番やドキュメンタリー番組は、連日、その「傷跡」を静かに、そして痛ましく映し出していた。
北海道、札幌市。
事態の始まりとなった、駅前の大型複合ビルがあった場所。
そこには今、ただ「広大な青空」だけが広がっていた。本来であれば数十階建てのビルが風を遮っていたはずの交差点には、今まで吹いたこともないような奇妙なビル風が吹き抜けている。
綺麗に水平に削り取られた基礎のコンクリートの周りには、バリケードが張られ、その外側には無数の花束や千羽鶴が手向けられていた。
かつてそのビルで働いていたサラリーマンや、一階のカフェの常連だった人々が、出勤途中に足を止め、何もない虚無の空間を見つめては、静かに手を合わせている。
宮城県、仙台市。
半分だけがまるで巨大なスプーンで削り取られたように消滅した、いびつな形の大型商業施設。
被害を免れた半分はそのまま残っているが、切断面はあまりにも滑らかで、鉄筋やコンクリートの断面が鏡のように太陽の光を反射していた。
風に揺れる、切断面のギリギリに取り残されたマネキン。そのシュールで恐ろしい光景は、現代の廃墟アートのように、人間の無力さを無言で訴えかけていた。
鹿児島県、鹿児島市。
桜島を望む湾岸沿いに建っていた、地域のシンボルでもあった大型ホテル。
今はもう、ただの平坦な更地となっている。ホテルという巨大な障害物が消え去ったことで、皮肉なことに、そこから見える桜島と夕陽の景色は、かつてないほど広く、美しく見えた。
そして、人々の心を最も深く抉り、痛めつけるのは、やはり【生活インフラ】である学校と病院の跡地であった。
関東近郊の、とある県立高校。
生徒たちが笑い合い、汗を流し、青春のすべてを詰め込んでいた新校舎(特別教室棟)は、跡形もなく消え去った。
残されたのは、不自然なほどに真四角で、広大すぎるグラウンドだけ。
プレハブの仮設校舎を建てるための工事車両が入り込んでいるが、生徒たちの顔に笑顔はない。
美術室に描きかけのキャンバスを置いていた美術部員も、吹奏楽部に高価な楽器を置いていた生徒も、ただ金網越しに、自分たちの「思い出」が空間ごと消去されたその土を、虚ろな目で見つめている。
都内近郊の、巨大な総合病院。
命を繋ぐはずだった第3病棟は、高額な最新医療器具も、何千人分ものカルテのデータも、備蓄されていた大量の医薬品も、すべてを巻き込んで空間の彼方へと消え去った。
駐車場には自衛隊が設営した巨大な医療用テントが立ち並び、疲労困憊の医師や看護師たちが、涙を拭う暇もなく、移送された患者たちのケアに追われている。
人的被害は、現場の警察機動隊と消防の、文字通り「命がけ」の強制的な避難誘導により、奇跡的に最小限(避難時の転倒による骨折などの負傷者のみ)に抑えられた。直接黒鯨に食われて人体がロストした者は、公式の記録上は「ゼロ」である。
だが、都市のインフラに刻まれた物理的な傷跡と、日本国民の心に刻まれた【精神的なトラウマ】は、計り知れないほど深かった。
日本のネット空間には、あの一週間の狂乱とパニックの嵐が過ぎ去った後、どこか空虚で、静かな「余韻」のような空気が漂い続けていた。
誰もが、無意識のうちに天井を見上げ、空が歪まないかを確認する癖から抜け出せずにいる。
[X(旧Twitter) / タイムライン]
@Midnight_Thinker
終わった……んだよな?
黒鯨、本当に完全に去った。今日も全国のどこも黒くなっていない。
ニュースを見ても「今日の消失ゼロ」って言ってる。
@Local_Resident_A
あの一週間、本当に、人生で一番の悪夢だった。
明日、自分が働いてる会社が消えるかもしれない。自分の家が消えるかもしれない。
毎晩、ベッドの中で天井の隅っこを見つめて、シミが黒く広がらないか震えてた。
今でも、壁の模様がちょっとでも暗く見えた瞬間、心臓が跳ね上がる。PTSDだと思う。
@SkyTree_Resident
夜になって、ライトアップされてるスカイツリーを見た。
今まで当たり前すぎて景色の一部だったのに、あの真っ白に輝いてる塔を見た瞬間、なんかボロボロ涙が出てきて止まらなくなった。
あれが残ってる。東京のど真ん中に、折れずに立ってる。それだけで、こんなに救われるなんて思わなかった。
@HighSchool_Student_A
うちの消えた校舎、来週からプレハブの仮設校舎が使えるようになるらしい。
でもさ、失くなったものは戻ってこないんだよな。
教室の後ろに貼ってた文化祭のポスターも、ロッカーに入れてたお守りも、全部あの黒いバケモノの腹の中だ。
悲しいし悔しいけど、でも、生きてるだけマシなんだって、自分に言い聞かせてる。
日常を取り戻したという実感と、失われたものへの喪失感。
ネットの海には、生存者の悲哀(サバイバーズ・ギルト)に似た感情が渦巻いていた。
そして、その感情の矛先は、当然のように、あの事態を終息させた【未知の力】への考察へと向かっていく。
[5ちゃんねる:ニュース速報板]
スレタイ:【事後】黒鯨は去ったが、俺たちはあの「光の柱」をどう受け止めればいいのか
1 :名無しさん@涙目です
なあ。
完全に平和になったわけだけど、お前ら、あの「光の柱」のこと、どう思ってる?
18 :名無しさん@涙目です
どうって……神様仏様光の柱様だろ。
あいつがいなかったら、今頃東京は壊滅してたぞ。俺は一生感謝する。
32 :名無しさん@涙目です
政府は「光学的現象」って言い張ってるけど、誰も信じてないよな。
あれ、絶対に日本が(あるいはどこかの組織が)意図的に撃ったアーティファクト兵器だろ。
45 :名無しさん@涙目です
正直に言うわ。
黒鯨もめちゃくちゃ怖かったけど、あの空を割って降ってきた「光の柱」の圧倒的なエネルギーを見た時……同じくらい、いやそれ以上に【怖い】と思った。
60 :名無しさん@涙目です
>>45
分かる。
助けてもらった恩人に言うのもなんだけど、あれは「人間の管理下に置いちゃいけないレベルの力」だ。
もしあの光の矛先が、数ミリでもズレて地上に向かっていたら?
東京が焦土になるどころか、関東平野ごと蒸発してたんじゃないか?
75 :名無しさん@涙目です
光の柱……また来てくれるのかな。
もし次に、黒鯨以外の別のアーティファクトが日本を襲ってきたら、あの神の剣がまた俺たちを助けてくれるんだろうか。
88 :名無しさん@涙目です
こっちから自在に呼べるようなもんじゃないだろ。
あんなの、国を一つ生贄にするレベルの代償がないと発動しない気がする。
今回だって、政府が地方のビルが食われるのを黙って見てて、スカイツリー(東京)が食われるギリギリまで使用を「我慢」してたんだとしたら……それだけ、ポンポン撃てるような兵器じゃないってことだ。
105 :名無しさん@涙目です
つまり、あれに頼り切るのは危険だってことか。
次があっても、助けてもらえる保証はない。
120 :名無しさん@涙目です
色々考えて不安になる気持ちも分かるけどさ。
でも、助かったんだよ。俺たちは。
東京の真ん中に巨大なブラックホールが開く未来は回避された。
今は、それだけでいいじゃないか。
135 :名無しさん@涙目です
そうだな。
生き残ったんだから、明日も満員電車に乗って会社行くしかないんだよな。
食われたビルの分まで、経済回さないとな。
日本国民は、恐怖のどん底から救い出してくれた「光」に対して、感謝とともに、決して拭い去ることのできない【本能的な畏怖】を抱き始めていた。
それは、自分たちの足元に、想像を絶するような「神話」が眠っており、自分たちはその薄氷の上で日常生活を送っているに過ぎないという、残酷な真実への気づきでもあった。
「終わった」のではない。
世界がアーティファクトの法則に支配されている以上、これは一つの厄災が過ぎ去ったというだけの、束の間の凪に過ぎないのだ。
それでも。
空を見上げ、不自然に欠けたビルのシルエットの向こうに広がる、青く澄み切った秋の空を見て。
人々は、生きていることの重みを噛み締めながら、前へ進むための息を深く吸い込んだ。
「助かったんだな」
「……ああ。生き残った」
言葉にならないその呟きが、日本中のそこかしこで、風に乗って静かに溶けていった。
日本列島は、深い喪失の傷を抱えながらも、それでも力強く、明日への鼓動を打ち始めていた。