銀河皇帝のスペアに転生した元社畜、地球軌道上の要塞でネトゲ三昧の隠居生活を満喫する 〜足元では超大国が滅亡級の異星遺産を巡って暗躍中ですが、主人公(ぼく)の命は絶対安全なので特等席で傍観します〜 作:パラレル・ゲーマー
中南海の地下、国家安全委員会の極秘ブリーフィングルーム。
テーブルの中央に置かれた、紙とも木とも金属ともつかない、異質な質感を持った一枚の古びた『札』。
その存在感は、あまりにも異様だった。
表面に墨で書かれたような文字列は、見ているだけで目が滑り、意味を認識しようとすると頭の奥が微かに痺れるような、圧倒的な『拒絶』の波動を放っている。
誰も、その札に触れようとしなかった。
軽々しく触れれば、呪い殺されるかもしれない。そんな原始的な恐怖ではなく。この札に触れるということは、アメリカの経済制裁やロシアのサイボーグ部隊といった「地球の論理」で動く政治ゲームのテーブルから完全に降り、中国という国家、いや、漢民族という【文明そのものの生存権】を、人間の理解を超えた超常の存在に丸ごと委ねる(査定される)という、途方もない意味を持っていたからだ。
「……」
国家安全部の実務者は、札を置いたまま、一歩下がって壁際に直立し、顔を伏せていた。彼は、自らが持ち込んだこの一枚の札が、すでに「報告」の域を超え、国家の最高意思決定者たちに究極の決断を迫る『装置』と化していることを理解していた。
軍担当の委員は、腕を組んだまま、忌々しげに札を睨みつけている。
「……軍としては、安全保障上の観点から、国家主席が自ら出向くような、このような不確かな超常案件は推奨できない」
彼は、沈黙に耐えきれず、建前としての反対意見を口にした。だが、その言葉に力はなかった。アメリカが世界経済を燃やし、ロシアが異星の技術で兵士を改造している今、中国だけが「安全保障上のセオリー」に縛られていては、いずれ確実にジリ貧で死ぬことを、彼自身が誰よりも理解していたからだ。
情報機関のトップも、首を横に振る。
「これは、スパイや偵察隊を送り込んで『情報だけを盗んでくる』ような、都合の良い案件ではありません。……札の持ち主(国家の代表)が自ら向かわなければ、門は開かない。……いや、開いたとしても、弾き返されるでしょう」
長老たちは、重苦しい顔で互いを見合わせた。
革命以降、彼らが最も強く排斥してきた「迷信」や「旧い宗教的権威」が、今、アメリカやロシアの最新兵器よりも遥かに重く、冷たい現実として、彼らの目の前の机に置かれているのだ。その皮肉と恐怖に、彼らの心臓は嫌な音を立てていた。
「……見捨てられる可能性があるのなら、行くべきではない」
一人の長老が、震える声でついに沈黙を破った。
「我々は今のままで十分に強国だ。わざわざ、自らの首を差し出して『我々が生き残る資格があるか裁いてください』などと、未知の存在に頭を垂れる必要がどこにある? 万が一『資格なし』と断じられれば……国が、一夜にして滅びるのだぞ」
「だが、ここで立ち止まって、このままアメリカとロシアのチキンレースに流される方が、確実な『死』だ」
別の長老が、机を叩いて反論した。
「我々は今、何も引けていない。このままいけば、いずれアメリカに経済を絞め殺されるか、用済みになって巨大化したロシアのサイボーグ部隊に背後から食い殺されるかの二択だ。……ここで賭けに出なければ、中国は次の時代へ進めない」
「賭けではないと言っているだろう!」
最長老が、二人の言い争いを厳しい声で制した。
「これは、裁きを受けに行くのだ。……我々がこれまで歩んできた歴史のすべてを、あの札の向こう側にいる存在に天秤にかけられに行くのだぞ。お前たちには、その覚悟があるのか?」
長老たちは、再び押し黙った。
中国共産党の歴史。文化大革命、大躍進政策、天安門、少数民族への同化政策、そして徹底した情報統制と権力闘争。
彼らが「国家を維持し、強くするため」に行ってきた血塗られた歴史のすべてが。もし、あの札の向こう側にいる『仙人(上位存在)』にとって「醜悪な穢れ」と判断されたら?
彼らは、許されるのか。それとも、即座に国ごと消滅させられるのか。
「……」
その、恐怖と自己正当化の間で揺れる会議室の空気を。
上座に座る李天明国家主席が、ゆっくりと立ち上がり、冷徹な声で切り裂いた。
「……お前たちは、何を勘違いしているのだ」
李天明は、テーブルの中央に置かれた札の前まで歩み寄り、長老たちを見下ろした。
彼の顔には、過去の歴史に対する罪悪感も、未知の存在への恐怖も、一切浮かんでいなかった。あるのは、ただ一つ。「中国という文明を、いかにして次の段階(フェーズ)へと存続させるか」という、氷のように冷たく、そして強靭な意志だけだった。
「懺悔でもしに行くつもりか? それとも、過去の行いを悔い改めて、許しを乞いに行くつもりか?」
李天明の鋭い視線が、長老たちを射抜く。
「……」
「私は、我々が清廉であったなどとは、一度も思っていない」
李天明は、静かに、しかし断固として言った。
「我々は残酷だった。誤ったこともした。血も流したし、文化も破壊した。文字すらも焼いたことがある。……だが、そのたびに、中国は消えなかった」
李天明の言葉は、単なる共産党の自己正当化ではなかった。それは、数千年の歴史を持つ『漢民族』という文明そのものの、血生臭くも圧倒的な生存戦略(レジリエンス)の肯定だった。
「王朝は滅びた。異民族の血も混じった。だが、そのたびに“中国”という中心は再び形成され、新しい秩序が立ち上がってきた。……中国文明の本質は、決して『純潔』ではない。他者を呑み込み、自らを削りながらでも生き残る【自己修復】と【継続】の力だ」
李天明は、机の上の札を指差した。
「道徳の観点から断罪したければ、すればいい。……だが、歴史は『説教』で国家を残してはくれない」
彼の声が、低く、重く響く。
「我々は無垢ではない。だが……無垢なまま、この巨大な帝国を数千年にわたって維持できるほど、この世界は甘くはなかったのだ。……その時代、その時代で、国家を維持するための【最適解】を、血を吐きながら選び続けた結果が、今の中国だ」
李天明は、長老たちに、そしてこの世界のすべての「綺麗事」に向かって、冷酷な現実を突きつけた。
「漢民族が、今この惑星で最も多い民族圏を形成し、世界第二位の経済大国として君臨しているという、圧倒的な【現実】。……それ自体が、少なくとも我々が、常に最悪の手だけを選び続けて自滅したわけではないという、何よりの証拠だ」
その論理は、倫理や道徳といった甘い言葉を完全に切り捨てた、極限の生存至上主義だった。
だが、その強烈な「文明の自負」は、恐怖に縮こまっていた長老たちの心を、確実に打ち据え、彼らの背筋を無理やり正させた。
「だから、私は……仙人に許しを乞いになど行かない」
李天明は、静かに、しかし絶対的な傲慢さと自信を込めて宣言した。
「我々に、次の時代へ進む資格がないと言うのなら。……我々が血を流して築き上げたこの『現実(中国)』を見た上で、その理由を示させに行く。……向こうに、問わせに行くのだ」
それは、相手が神であろうと仙人であろうと、決して膝を屈して慈悲を乞うことはしないという、中華帝国のトップとしての絶対的な矜持だった。
査定されるのではない。我々の築き上げた文明の重さを、お前たち上位存在の天秤に乗せてみろ、という強烈な【対等性】の持ち込み。
「……お前は、中国の罪まで正当化するのか」
慎重派の長老が、李天明のあまりにも冷酷な論理に、倫理的な嫌悪感を微かに滲ませながら問うた。
「正当化ではない。事実だと言っているのです」
李天明は、冷ややかに言い返した。
「罪を悔いて国が守れるなら、いくらでも悔いてみせますよ。だが、そんなものでアメリカの制裁も、ロシアのサイボーグも止まらない」
「……だからこそ、お前が行くべきだ」
現実派の長老が、深く息を吐き出し、李天明のロジックを完全に受け入れた。
「中国の汚れも栄光も、すべてを引き受けた上で、あの札の向こう側の存在と対等に語れるのは……今、この国で、お前しかいない」
「党の無神論との整合性はどうするつもりだ」
理論家が、最後に建前の懸念を口にする。
「整合性より、国家の次の一手(生存)が先だ」
李天明は、そのつまらない懸念を一蹴した。
「……行くのであれば、軍としては、安全保障の観点から、護衛は最小精鋭に限ることを強く進言します」
軍担当の委員が、腹を括った顔で言った。
「大軍で動けば、相手(仙人)を刺激するだけでなく、アメリカの偵察衛星にも確実に捕捉されます。……隠密裏に、そして相手のテリトリーのルールに従う形をとるべきです」
「戻れない案件です」
情報機関のトップが、李天明に最後の確認を迫る。
「……戻れないからこそ、私が行くのだ」
李天明は、迷うことなく手を伸ばし。
机の上に置かれた、その異質な『札』を、自らの手でしっかりと握りしめた。
札に触れた瞬間、指先から微かな痺れが走り、脳の奥底に低く冷たい波動が響くのを感じたが。李天明は表情一つ変えなかった。
中国という文明の重さを背負う覚悟。その決意が、札の放つ拒絶の波動を、力ずくでねじ伏せたのだ。
***
出立の準備は、極秘裏に、そして極めて迅速に進められた。
表向きは「国家主席による、チベット・新疆方面の高地観測施設の極秘査察」という名目が与えられた。アメリカの衛星監視の目を逸らすため、ダミーの車列と航空機が複数手配され、情報機関による徹底した通信統制が敷かれた。
同行するメンバーは、李天明の強い意向により、極限まで絞り込まれた。
札の保持者であり、中国文明の代表たる李天明国家主席、本人。
国家ではなく「文明の継承者(証人)」としての意味合いを持たせるため、現実派の長老が一名。
この札のルートを持ち込み、オカルト地下回線との接点を持つ、国家安全部の古参実務者。
そして、軍から選抜された、最低限の護衛と荷物持ちを兼ねる、たった四名の精鋭特殊部隊員。彼らは重武装を避け、あくまで「国家主席を最後まで守り抜く体力と精神力」を最優先に選ばれた者たちだ。
最後に、この道中の『案内役』として。
オカルトネットワークの末端から引っ張り出された、ボロボロの道士服を着た、盲目の老人が一人、加えられた。
彼は「仙人の代理人」などという大層なものではない。ただ、この札が示す方向を本能的に嗅ぎ取れるだけの、古い時代の残滓のような存在だ。だが、その薄汚れた姿が、逆に「近代国家が自ら優位(武力や科学)を捨てて、異界のルールに従う」という、不気味な儀礼的側面を強調していた。
「通信機器は最低限に。GPSも、衛星電話も、おそらく途中から使い物にならなくなる」
国家安全部の実務者が、軍の護衛たちに厳しく指示を出す。
「これは軍事作戦ではない。……我々は、相手の庭に入らせてもらうのだ。過剰な電子機器や武器は、かえって相手の不興を買うだけだ」
高山病対策の酸素ボンベ、極寒地用の特殊防寒服、最低限の食料と医療キット。
準備された装備は、最新鋭ではあるが、あくまで「人間の足で登山する」ためのアナログなものばかりだった。
「……行きましょう」
李天明は、懐にあの『札』を忍ばせ、冷たい風の吹きすさぶ軍用輸送機へと乗り込んだ。
中国という巨大な国家が、その命運を懸けて、科学の光の届かない神話の領域へと、自ら歩みを進めた瞬間だった。
***
航空機と、カモフラージュされた装甲車両を乗り継ぎ、一行は可能な限り「現代の動力」で前進を続けた。
目的地は、崑崙山脈。標高五千メートルを超える、万年雪と烈風が支配する、人間の生存を拒絶する絶対の死の世界。
麓の軍事基地を離れ、道なき山岳地帯へと車両が入り込んでいく。
ここまでは、ただの過酷な「現実の軍事移動」だった。
だが、標高が三千メートルを超え、気温が急激に下がり始めたあたりから。
彼らの周囲の環境(現実)が、少しずつ、しかし明確に、不自然な『ズレ』を見せ始めた。
「……おかしいですね」
先頭の車両を運転していた軍の護衛が、首を傾げながら計器を叩いた。
「GPSの信号が完全にロストしました。……それに、吹雪の予報だったはずですが、我々の進むルート上だけ、雲が割れているように見えます」
彼らの車の前方だけ、まるでモーセの十戒のように、視界を遮るはずの猛吹雪が不自然に左右に分かれ、不気味なほどにクリアな道筋が拓けているのだ。
少しでもルートを外れれば、一寸先も見えないホワイトアウトの地獄が口を開けているというのに。
「……止まるな。進め」
後部座席で、李天明は目を閉じたまま、静かに命じた。
彼の懐に入れた札が、微かに、本当に微かにだが、一定のリズムで脈を打つような熱を帯び始めているのを感じていた。
やがて、車両が限界を迎える険しい岩肌の地点で、一行は車を降り、徒歩での登山を開始した。
標高は四千メートルに迫ろうとしていた。通常の人間であれば、薄い酸素と極寒によって、数歩歩くごとに肺が焼け付くような苦しみと戦わなければならない過酷な環境だ。
だが。
「……はぁっ、はぁっ……。……不思議なことだ」
長老の一人が、雪の斜面を踏み締めながら、息を切らしつつも、信じられないという顔で呟いた。
「空気が薄いはずなのに……肺が、痛まない。足も、不思議と前に出る」
軍の護衛たちも、分厚い防寒服の下で顔を見合わせた。
彼らは極限の環境での訓練を積んだ精鋭だが、それでもこの標高での行軍が「これほどまでに楽であるはずがない」ということを、身体の記憶として知っている。
「……まるで、見えない力に背中を押されているかのようです」
護衛の一人が、畏怖の念を込めて言った。
崩落しているはずの危険な山道が、なぜか彼らが通る時だけ、安定した岩の足場として姿を現す。
通常なら命取りになる横殴りの突風が、先頭を歩く盲目の案内役を前にすると、まるで怯えた獣のようにスゥッと勢いを弱める。
雪の表面には、彼らが迷わないように導くかのような、浅く不自然な『くぼみ』が、点々と続いている。
夜になっても、一行は迷うことはなかった。
無線は完全に死に絶え、コンパスは狂ったように回り続けているが、不思議と、声を出さなくても互いの意思の疎通が図れるような、奇妙な『繋がり(静寂)』が彼らの間に生まれていた。
一度だけ、遠くの氷河の向こうに、淡く発光する巨大な人影のようなものがフッと現れ、すぐに掻き消えるのを護衛が見た。だが、誰もそれを追おうとはしなかった。
「……歓迎されているのでしょうか」
国家安全部の実務者が、あまりにもスムーズに進む道中に、安堵と期待を込めて李天明に話しかけた。
「この札の力が、我々を安全な道へと導いてくれている。……仙人は、我々中国を受け入れてくれるつもりなのかもしれません」
だが。
李天明の顔には、微塵の安堵も、浮かれた色もなかった。
「……勘違いするな」
李天明は、周囲の異常なほど好意的な環境(奇跡の数々)を冷ややかに見据え、その本質を極めて現実的な思考で切り捨てた。
「これは、歓迎でもなければ、慈悲でもない。……ここはただの、【試験会場までの導線(通路)】だ」
李天明の言葉に、実務者はハッとして口を噤んだ。
「彼らは我々を安全に『通して』いるのではない。……ただ、入口でつまらない事故(遭難)で死なれると、評価の対象にすらならないから、便宜上、道を開けているだけだ」
李天明は、懐の札の熱を感じながら、冷酷に言った。
「我々はまだ、何も許されてはいないし、認められてもいない。……ただ、査定のテーブル(まな板)の上に乗るための、順番待ちの列に並ばされているだけだ。……浮かれるな。本当の恐ろしさは、ここからだ」
通されたから安全なのではない。
むしろ、これほどの物理法則をねじ曲げる力を持った存在から、今から品定めされるのだという、圧倒的なプレッシャー。
部下たちの間に広がっていた薄い期待感は、再び、底知れぬ畏怖と恐怖へと塗り替えられた。
***
そして。
標高五千メートルを超え。
一行はついに、地図にも衛星画像にも存在しない、あまりにも不自然で、巨大な【最後の稜線】へと辿り着いた。
切り立った氷の壁が、まるで天を突くようにそびえ立っている。
だが、その中央にだけ、スッパリと切り取られたような『抜け道(切れ目)』が存在していた。
「……空気が、違います」
先頭を歩いていた軍の護衛が、その抜け道の前に立ち止まり、震える声で呟いた。
後ろに続く長老も、目を見開いてその変化を感じ取っていた。
「ああ……ここから先は、もう……『山(地球)』ではない」
李天明は、無言のまま、一行の先頭に立ち、その稜線の切れ目へと足を踏み入れた。
まるで、薄い水の膜を潜り抜けたような、奇妙な感覚。
それを越えた瞬間、それまで彼らの頬を叩いていた外界の烈風と、骨まで凍るような極寒が、ピタリと、嘘のように完全に消え去った。
「……っ」
目の前に広がっていたのは、外界の過酷な自然環境とは完全に隔絶された、信じがたい【幻想的な巨大空間】だった。
標高五千メートル超の絶域のはずなのに、全く寒くない。
空気は冷たいが、肌を刺すような痛みはない。薄いはずの酸素も、なぜか苦しさを感じさせない。いや、それどころか、乾いた高山の空気ではなく、深呼吸したくなるほど異様に清浄で、澄み切った空気が空間全体を満たしている。
音が、極端に少ない。
吐く白い息の音すら、まるで吸音材に吸い込まれるように静かに消えていく。
巨大な洞窟なのか、神殿なのか、あるいは山脈の間に隠された秘密の谷間なのか。現代の建築学や測量学では全く判別できない、途方もなく広大なスケールの空間。
一行が最も目を奪われたのは、その空間の『光』だった。
はるか頭上の天井(あるいは岩壁)から、未知の鉱石が、まるで本物の星空のように、青く、白く、淡く発光しているのだ。それは人工の照明のような刺々しさはなく、かといって自然の光とも違う。空間全体を、ぼんやりとした、神聖で幻想的な明るさで満たしている。
そして。
その圧倒的な空間の、まさに中央。
完璧な円形に、鏡のように滑らかに磨き上げられた、黒曜石のような巨大な台座。
その表面には、李天明の持つ札に書かれていたものと同じ、しかしさらに複雑で難解な幾何学模様と古代文字が、びっしりと刻み込まれている。
その台座の中心に。
微かな、しかし空間全体を支配するほどの圧倒的なエネルギー波動を放ちながら、静かに、そして荘厳にそびえ立つ。
巨大な【玉京(ぎょくけい)の門】。
それが扉なのか、空間の枠組みなのか、それとも別次元への通路そのものなのか。人間の視覚では正確に形を把握することすら難しい、幾何学的で、透き通るような物質で構成されたアーティファクト。
ただ、「門」としか呼べない、絶対的な存在感。
「……」
誰も、すぐには動けなかった。
軍の精鋭である護衛たちですら、無意識のうちに息を呑み、武器を持つ手をだらりと下げてしまっている。
長老は、その圧倒的な神秘の威容を前にして、足の震えを止められず、思わずその場に膝をつきそうになっていた。
これが、本物。
アメリカが血眼になって探し、ロシアが狂喜した、地球外のテクノロジー。
いや、中国の歴史の裏側で、数千年にわたってこの国を見下ろしてきた、本物の神仙のシステム。
その静寂の中で。
ただ一人、李天明国家主席だけが、膝を屈することなく、無言のまま真っ直ぐに、その『玉京の門』を見上げていた。
彼の懐に忍ばせていた札が、ここで明確な反応を示し始めた。
微かな熱を帯び、布越しに青白い光を放ち始める。
表面のインクの染みのような文字列が、うねるように形を変え、今まさに『読める(意味を成す)言葉』へと再構築されようとしている。
だが、門はまだ開かない。
静かに、冷たく、彼ら中国という文明の代表団が、この台座の上にどのような『答え』を持って立つのかを、ただ待っている。
「……」
崑崙への道は、確かに開いた。
だがそれは、決して温かい歓迎などではなかった。中国はようやく、自らの文明の存亡を懸けた『査定の場』へと辿り着いただけだった。
李天明は、熱を帯びる札をしっかりと握りしめたまま、微動だにせず門を見据え続けていた。
ここから先は、国家主席という一政治家としてではなく。数千年の歴史を持つ『漢民族』そのものの代表として、この冷酷な宇宙の審判に答えを出さなければならない。
烈風と雪の山は越えた。
だが、本当の意味で中国が越えるべき絶対的な『境界』は、今、目の前に静かにそびえ立っていた。
そこは、秘境などではなかった。
人類の業を天秤にかける、最も冷酷で、最も美しい【裁きの入口】だった。
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