銀河皇帝のスペアに転生した元社畜、地球軌道上の要塞でネトゲ三昧の隠居生活を満喫する 〜足元では超大国が滅亡級の異星遺産を巡って暗躍中ですが、主人公(ぼく)の命は絶対安全なので特等席で傍観します〜   作:パラレル・ゲーマー

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第6話 星海のティータイムと、地球という名の爆弾庫

 大気圏外、高度四百キロメートル。熱圏のさらに外縁に音もなく浮かぶ超弩級ステルス宇宙ステーション〈サイト・アオ〉。地球のいかなる最新鋭レーダー網にも捕捉されることのないこの巨大な観測拠点の中心部に位置するメイン会議室では、眼下に広がる青く美しいグラデーションを描く惑星を見下ろしながら、極めて重要な、しかしどこか日常の業務報告のような空気を纏った定例会議が始まろうとしていた。

 

 半円形の巨大なテーブルは、物理的な材質ではなく、硬質化された光の粒子によって形成されており、参加者の体格や種族に合わせて自動的にその形状と高さを変容させている。

 上座に深く腰を沈めているのは、このステーションの絶対的な管理者であり、銀河帝国の最高権力者のクローンでもあるティアナ・レグリアだ。彼は最高級のくつろぎ着を纏い、片手には地球の嗜好品である合成コーラのグラスを持ちながら、ひどく退屈そうに長い足を組んでいた。

 

「さて、各部門の代表者も揃ったことだし、定例の『地球のおもちゃ箱点検』会議を始めようか」

 

 ティアナの気の抜けた声に応じるように、彼の右腕として常に傍らに控える副官、XT-378が一歩前に出た。流体金属でコーティングされた彼の人型ボディが、室内の柔らかな照明を反射して鈍い銀色の光を放つ。

 

「これより、第八四二回、地球規模アノマリー及び現地派閥動向に関する定例会議を開始します。進行は私、XT-378が務めさせていただきます。……まずは第一の議題。ヨーロッパを中心に行動を活発化させている国際秘教団体『ヘルメス協会』の現状についてです」

 

 XT-378のフラットな合成音声に合わせて、テーブルの中央に巨大なホログラフィック・ディスプレイが展開された。

 そこに映し出されたのは、地中海クレタ島の地下深く、「ラビュリントス・ノウス」と呼ばれる彼らの秘密拠点に鎮座する、青銅色の円盤――「ミノスの星円盤」の精緻な三次元スキャンデータと、その周囲で狂熱的な眼差しを向けるタキシードやドレス姿の特権階級たちの映像だった。

 

「データ分析官ルミナ、詳細な数値報告を」

 

 XT-378が視線を向けた先には、宙に浮遊する巨大な多面体のクリスタル生命体がいた。データ至上主義を体現する彼女、ルミナの身体は、処理する情報の性質に合わせて内部で様々な色の光を屈折させている。今は、冷静な分析を示す冷たいブルーの光が脈打っていた。

 

『データ照合完了。クレタ島の特定座標地下より、断続的かつ周期的な微弱エネルギーパルスの放出を検知。対象組織「ヘルメス協会」は、アーティファクト「ミノスの星円盤」の本格的な起動儀式に向けた準備を進行中。現在の天体運行データ及び彼らの通信ログの解析結果から、儀式が実行されるのは正確に三ヶ月後の新月の夜であると推算されます。彼らの精神波長パターンは、極端な選民思想と神秘主義的狂信の初期症状を示しています』

 

 ルミナの報告は、まるで水晶同士が触れ合うような高い共鳴音として発せられ、それが即座に会議室の翻訳システムを介して日本語の音声へと変換されて響き渡った。

 

『なお、対立組織であるアメリカの「セレスティアル・ウォッチ」は、現在別の物理的脅威への対処にリソースを割いており、この円盤が持つ「アカイア人の精神主義的FTL技術」という本質的な危険性には、全く気付いていない確率が99.8%です』

 

「へー、そうなんだ」

 

 ティアナは、コーラのストローを咥えながら、まるで他人事のように薄く笑った。

 

「でも、直ちに影響はないでしょ? 起動まであと三ヶ月も猶予があるわけだし。それに、彼らがその円盤から『精神主義特有の自力のFTL(超光速航法)技術』を引き出そうとしてるんなら、それはそれで人類が宇宙に出るためのルートとして、アリなんじゃない?」

 

 その信じられないほど楽観的なティアナの発言に、真っ先に噛み付いたのは、科学部門の責任者であるザーラ・クォルム博士だった。

 彼女は地球のキノコに似た巨大な傘を持つ菌糸類型の異星人であり、その傘の発光色で感情を表現する。今、彼女の傘は、学術的な苛立ちと強い警告を示す、激しい赤紫色の明滅を繰り返していた。

 

「所長! 冗談はおやめください!」

 

 ザーラ博士の翻訳された声には、科学者としての強い憤りが込められていた。

 

「銀河の歴史アーカイブを参照すれば明白です! アカイア人の残したあの『星々の鍵』は、極端な精神主義と不可分に結びついた劇毒です! 彼らは精神の調和を極めようとするあまり、社会基盤の維持や物質的な発展を完全に放棄し、結果として自らの文明を崩壊させて緩やかな絶滅へと向かいました。その彼らの思想を、まだ精神的に未成熟な地球人類がそのまま受け継げば、どうなるか。一歩間違えれば、アカイア人と同じように、現実を直視できない狂信的な思想を受け継ぐ破滅的な存在が生まれてしまいます!」

 

「そうです! 所長、どうか真面目にお願いします!」

 

 ザーラ博士の言葉を継ぐように、文化人類学部門の主任であるエミリー・カーターが、テーブルを両手で強く叩いて身を乗り出した。この会議室で唯一の純粋な地球人である彼女の顔には、同胞たちの未来を本気で憂う切実な焦燥感が浮かんでいた。

 

「人類は……地球の人間たちは、確かに時に愚かで、滑稽な争いを繰り返す未熟な種族かもしれません。でも、彼らは所長のゲームの駒でも、エンタメのための登場人物でもないんです! あのヘルメス協会の人々だって、やり方は間違っているかもしれませんが、本気で人類の次元を上昇させようと必死なんです。それが文明を滅ぼす劇薬だと分かっているなら、私たちは観測者として、何らかの……」

 

「はいはい、ストップ。落ち着いて二人とも」

 

 ティアナは、呆れたように片手を上げてエミリーの言葉を遮った。彼の態度は、どこまでも飄々としており、深刻な危機感を訴える二人との温度差は開く一方だった。

 

「まあ、真面目な話、放置で良いと思うよ?」

 

「放置、ですか!?」エミリーが信じられないという顔をする。

 

「そう、放置」

 

 ティアナはグラスをテーブルに置き、少しだけ居住まいを正した。彼の涼やかな瞳の奥に、数え切れないほどの文明の興亡を見てきた者特有の、冷徹で正確な分析の光が宿る。

 

「ザーラ博士の言うアカイア人の破滅は、『物質への執着を完全に捨て去ってしまった』から起きたんだよね。でもさ、今の地球人類を見てごらんよ。あのヘルメス協会の連中だって、口では『精神の飛躍』だの『宇宙との調和』だの高尚なことを言ってるけど、彼らが着てる服は超高級なオーダーメイドで、飲んでるワインは一本何百万もするヴィンテージだ。彼らは、特権階級としての贅沢や、他者を見下す優越感といった『欲』を、これっぽっちも手放す気はないんだよ」

 

 ティアナは、ホログラムに映るグレイソン卿の傲慢な顔を指差した。

 

「今の地球人類はね、精神主義に没頭して餓死するほど、物質や欲望を捨てられないんだ。だから、アカイア人みたいな純粋な破滅のルートは辿れない。どうせ円盤の思想をインストールしても、『精神的にも物質的にも俺たちが一番偉い!』っていう、地球人特有の俗物的なエゴと混ざり合って、ほどほどの、人間くさいカルト思想に落ち着くのがオチさ。だから、彼らが自滅するか、それとも何か面白い化学反応を起こすか、人類に任せて放置! 起動の儀式までは監視レベルを維持するだけでいい。はい、この議題は終わり! XT-378、次!」

 

 圧倒的なまでの人間心理の洞察と、それに基づく身も蓋もない結論。ザーラ博士は傘をチカチカと不満げに点滅させ、エミリーは深い溜息をついて椅子に座り直したが、ティアナの論理を完全に否定することはできなかった。

 

「承知いたしました、代表。では、第二の議題に移ります」

 

 XT-378は一切の感情を交えずに進行を続ける。

 

「現在、地球の裏社会で急速に拡散し、甚大な被害をもたらしている未知の指向性エネルギー兵器……通称『アポロンの矢』、及びその粗悪な模造品に関する対応についてです。ルミナ、状況のアップデートを」

 

『分析完了。当該兵器の模造品製造を試みる裏社会の武装勢力及び非合法組織の数は、過去四十八時間でさらに15%増加。それに伴う実験中のエネルギー暴走、爆発事故による死傷者の推計値は指数関数的な上昇カーブを描いています。これらはすべて、オリジナルの安全機構の欠如と、地球技術による不適切なエネルギー供給が原因です』

 

 ルミナのクリスタルから発せられる冷たい警告音が、会議室に響く。ホログラムには、東欧や中東の地図上に、爆発事故を示す赤い×印が次々と広がっていく様子が映し出された。

 

「アポロンの矢ねえ……」

 

 ティアナは、心底つまらなそうに頬杖をついた。

 

「名前は神話みたいでカッコいいけど、要はただのポンコツエネルギー兵器だろ? しかも、ジャックスの報告によれば三世代も前の旧式装備『G7-Vブラスター』だ。安全装置も壊れてて、中身は漏電寸前。あんな不良品を必死になってリバースエンジニアリングしてるなんて、涙ぐましいというか、滑稽というか」

 

「代表、お言葉ですが、現状を軽視すべきではありません」

 

 ここで、それまで腕を組んで黙っていた四本の腕を持つ鳥人型の異星人、カルスが、低く鋭い声で口を開いた。

 彼は〈サイト・アオ〉の通信及び戦術情報参謀であり、常に軍務的で現実的な視点から事象を分析する男だった。彼の引き締まった顔つきと、鋭い猛禽類のような瞳が、ホログラムの赤い×印を睨み据える。

 

「我々から見れば三世代前の旧式、あるいはただの不良品であっても、地球の現行の軍事技術水準と比較すれば、それは戦略兵器に等しい破壊力を秘めています。特に問題なのは、模造品を作っている連中が、臨界点の概念を全く理解していないことです。地球人の粗悪なエネルギー網で限界を超えた供給を行えば、暴走したプラズマの逆流によって、小規模な街一つが容易に消し飛びます。被害半径は数キロメートルに及ぶ可能性があり、民間人の巻き添えは避けられません」

 

 カルスは、上段の二本の腕でテーブルのコンソールを操作し、詳細なシミュレーション結果を投影した。

 

「軍事的・戦術的な観点から見れば、この無軌道な拡散を止めるには、大本のオリジナルを回収し、情報の源流を断つしかありません。しかし、我々〈サイト・アオ〉が直接物理的に介入することは原則違反となります。そこで提案ですが……アメリカの『セレスティアル・ウォッチ』に、意図的にオリジナルの所在地をリークするのが最も効果的かつ、我々の被害を抑えられる戦術かと愚考します。彼らには実力行使が可能な特殊部隊があり、情報さえ与えれば、己の覇権のために喜んで火中の栗を拾いに行くでしょう」

 

 カルスの極めて現実的で冷徹な提案に、エミリーが少しだけ顔をしかめたが、反論の言葉は出なかった。地球の一般市民を守るためには、もはや裏社会の悪党を別の影の組織に掃除させるしか、手段がないところまで事態は悪化しているのだ。

 

「ふーん……」

 

 ティアナは、面白そうに目を細めた。カルスの提案は、まさにティアナ自身が思い描いていた「盤面操作」そのものだった。

 

「そうだね。彼らに泥をかぶってもらうリーク作戦で良いんじゃない? あのオブザーバー・アルファっていうお堅い長官も、大統領からプレッシャーをかけられて胃に穴が空きそうになってる頃合いだろうし。ちょっとした『救いの手』を差し伸べてあげるのも、観測者としての慈悲ってやつだよ。次の彼との定例会議……いや、僕主催の『お茶会』の時に、こっそりオリジナルの場所を教えてあげることにしよう。きっと彼らは、血眼になって裏社会の拠点に突入していくよ。……よし、この件も解決。じゃあ次!」

 

「承知いたしました。作戦コード『トロイの木馬』として、セレスティアル・ウォッチへの情報開示プロトコルを準備します」

 

 XT-378が滞りなく記録を済ませ、次の議題のファイルを展開した。

 

「第三の議題。極東の島国、日本の出雲地方における局地的な時空間アノマリーの変動についてです。ルミナ、状況を」

 

『観測データ推移、報告。日本列島、出雲地方の特定山域において、空間の位相座標を隠蔽する「高次元知覚フィルター」に、極めて微弱な、しかし明確な揺らぎが継続して発生しています。これは内部のシステム異常ではなく、外部からの物理的、あるいは電磁的な探査活動が、フィルターの境界に干渉していることによる物理的摩擦と推算されます。日本の国家情報機関が主導する探索チームが、当該エリアに接近し、定点観測を行っている模様です』

 

 ルミナのクリスタルが、今度は警戒を示す黄色い光を放ちながら共鳴音を立てた。

 

「ああ、あれね」

 

 ティアナは、少しだけ面倒くさそうに首の後ろを掻いた。

 

「地球の全生命の記憶と魂がアーカイブされた、あの『魂の庭』ね。前回、僕がちょっと管理人さんにコンタクトを取ったから、余計に周辺のエネルギーが活性化しちゃったのかもしれないな。でも、あそこはまだ、今の地球人には早すぎる代物だよね。歴史の重みとか、生命の業とか、情報量が多すぎて、触れた瞬間に脳みそがショートしちゃう」

 

 ティアナは、ホログラムの日本地図を拡大しながら、少し意地悪な笑みを浮かべた。

 

「あの『魂の庭』のポータルが日本にあるってこと、もしアメリカのセレスティアル・ウォッチの連中が知ったら、どうなると思う? 彼らなら『究極の叡智の独占』を名目に、同盟国だろうが何だろうがお構いなしに、裏から軍事侵攻して強制的にあの山域を制圧・封鎖してもおかしくないよね。日本政府は、自分たちの足元にそんなとんでもない核爆弾以上のものが埋まってるってこと、ちゃんと全体像を把握してるのかな?」

 

「それについては、私が補足します」

 

 エミリーが、文化人類学の資料を空中に展開しながら説明を引き継いだ。

 

「日本という国は、古くから自然崇拝やアニミズムの文化が根付いており、陰陽師や霊能者、巫女といった、精神的、あるいは呪術的なアプローチで『見えない世界』とアクセスする歴史と土壌を持っています。彼らの民間伝承の中には、『黄泉比良坂』や『神隠し』といった形で、あのポータルの存在を感覚的に捉えていた痕跡が確かに残っています」

 

 エミリーは、少しだけ苦笑交じりに言葉を続けた。

 

「しかし、現在の日本政府の公式な機関や官僚組織は、極めて現実的で、オカルトや形而上学的な事象には疎いのが実情です。彼らは科学的なデータや数値化できる証拠を重視するため、高次元の存在である『魂の庭』の真の姿を、政府として明確に『発見』し、その全容をシステムとして理解するには、まだかなりの時間がかかると推測されます。現在彼らが観測しているのも、あくまで『原因不明の磁場異常』や『未確認粒子の放出』といった、フィルターから漏れ出る副産物に過ぎません」

 

「なるほどねえ。お役所仕事の弊害が、結果的に彼ら自身をパンドラの箱から遠ざけてるってわけか。皮肉なもんだね」

 

 ティアナはクスリと笑った。

 

「まあ、とはいえ、あの『魂の庭』も、扱い方を間違えれば惑星の生命ネットワーク全体を崩壊させかねない、超特大の爆弾みたいなものだ。日本の調査隊がうっかりフィルターのセキュリティを刺激して、防衛機構を作動させちゃったりしたら目も当てられない。……そうだね、とりあえず、僕から管理人さんには、菓子折りでも持ってご挨拶に行っておこうかな」

 

「菓子折り、ですか?」

 

 カルスが四本の腕の動きを止め、怪訝そうにオウム返しにした。

 

「比喩だよ、カルス。精神感応でのフォローと、状況の説明ってこと。日本の調査隊に悪気はないから、多少ノックの音がうるさくても、大目に見てあげてねって。あの管理人さん、結構話が分かるタイプだったから、僕が間に入ってなだめておけば、いきなり雷を落とすようなことはしないはずさ。これも観測者としての、ちょっとしたアフターケアだよ。よし、この件は僕が直接対応する! 次!」

 

 ティアナの軽いノリに、ザーラ博士が再び傘を赤く光らせて何か言いたげにしていたが、XT-378がそれを遮るように最後の議題を提示した。

 

「承知いたしました。では、本日の最後の議題となります。同じく日本の探査チームが与那国島沖で発見したとされる、海底遺跡についてです。ルミナ、及び私の照合データベースからの統合報告を行います」

 

 ホログラムが、美しいコバルトブルーの海中に沈む、巨大な一枚岩の階段状の構造物を映し出した。

 

「対象の構造物は、今から約八千年前に、銀河コミュニティの一員である水棲型知的生命体『サイリーア人』が、地球を保養地として利用していた時代に設置した遺構であると特定されました。その中枢には、当時の彼らの最高技術の結晶である『ガイアズ・ドリーム・プロトタイプ7』と呼ばれるAIが組み込まれています」

 

「ああ、あれか」

 

 ティアナは、思い出したように手を打った。

 

「万能生命体治癒ユニットだったよね? どんな怪我でも病気でも、生命に関することなら遺伝子レベルで再構築して治しちゃうっていう、汎用生命万能ユニット。八千年前の代物とはいえ、今の人類が手に入れたら、医学の歴史が一瞬で引っくり返るようなチートアイテムだ」

 

「その通りです」

 

 XT-378が淡々と肯定する。

 

「しかし、代表。現状の監視データによれば、当該AIは現在も深い休眠モードにあり、最低限の環境モニタリングのみを行う『平常運転』を継続しています。外部から極めて強い、かつ特殊なプロトコルでの干渉を行わない限り、システムが完全に起動し、その真の機能が判明する確率は0.002%未満と推算されます。日本の調査隊の現在のソナー探査や磁気探査のレベルでは、ただの『異様に規則的な形をした奇岩』あるいは『用途不明の金属塊』程度の認識に留まるはずです」

 

「ふーん……」

 

 ティアナは、海底遺跡の映像を眺めながら、腕を組んだ。

 

「アレもねー。超絶便利なアイテムではあるんだけど、いかんせん『海底に固定された巨大な遺跡』っていう性質上、こっちのステルス艦でこっそり牽引して取り除くってことができないからねー。無理に掘り出そうとすれば、それこそ世界中の衛星に丸見えになっちゃうし」

 

 ティアナは、少しだけ思案するような沈黙を置いた後、パンっと手を叩いて結論を出した。

 

「よし、見つからないことを祈りつつ、現状維持で監視継続! もし日本の連中がうっかり起動させちゃったら、その時はまたその時で、彼らがその『奇跡』をどう扱うか、お手並み拝見といこうじゃないか。下手に隠そうとするより、彼らの倫理観のテストケースとして観察する方が、長期的なデータとしては有意義かもしれないしね」

 

 ティアナは、いかにも仕事が終わったという風に大きく伸びをし、ゲーミングチェアから立ち上がった。

 

「それじゃ、今日の『地球のおもちゃ箱点検』はこれまで! みんな、引き続き監視業務よろしくね。カルスはセレスティアル・ウォッチへのリーク用データの準備。エミリーとザーラ博士は、ヘルメス協会の動向に注意を払っておいて。僕はちょっと、出雲の管理人さんへの『手土産』のメッセージを練らなきゃいけないから、忙しいんだ」

 

 ティアナが足早にプライベートルームの奥、自身のゲーム機とホログラム設備が並ぶ居住区画へと消えていくのを見送りながら、残された幹部たちは、それぞれに複雑な表情を浮かべていた。

 ザーラ博士は「忙しい、ですか。先ほどのキャベツのゲームの続きでしょうに」と呆れたように傘の光を明滅させ、エミリーは「どうか、あのまま何も起きませんように」と祈るように手を組んだ。カルスは無言で四本の腕を動かして作戦データの構築を始め、ルミナは再び無機質なクリスタルの輝きに戻ってデータの海へと沈んでいった。

 

 地球という名の、無数の火種が詰まった巨大な爆弾庫。

 その信管がいつ引かれるのか、誰にも予測がつかない中、絶対的な力を持つ観測者たちの、不釣り合いなほどに優雅で、そして少しだけ冷酷な「星海のティータイム」は、こうして幕を閉じたのである。




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