銀河皇帝のスペアに転生した元社畜、地球軌道上の要塞でネトゲ三昧の隠居生活を満喫する 〜足元では超大国が滅亡級の異星遺産を巡って暗躍中ですが、主人公(ぼく)の命は絶対安全なので特等席で傍観します〜 作:パラレル・ゲーマー
ホワイトハウス地下、極秘危機対応室。
ドバイで「ミラージュ・コア」の限定起動が成功し、UAEが強大な都市防衛と環境制御の力を手にした数日後。
アメリカ政府の中枢では、自国でのアーティファクト探索計画の強化が、思いもよらない形で『即効性のある成果』をもたらしたという急報に沸き立っていた。
「大統領。セレスティアル・ウォッチから、緊急の報告が入りました」
国家安全保障補佐官が、わずかに興奮を隠しきれない声で告げた。
「アメリカ国内の匿名アーティファクト収集家から、自発的にアーティファクトの【提供(持ち込み)】があったとのことです」
「ドバイの件が効いたのね」
キャサリン・ヘイズ大統領は、円卓の最上座でニヤリと笑った。
アシュワース卿の万象器を巡る狂騒と、UAEが手にしたミラージュ・コアのニュースは、世界中のアーティファクト・コレクターたちに強烈なパラダイムシフトを引き起こしていた。
「自分のコレクションの棚に転がっている『変なガラクタ』が、ひょっとすると世界を終わらせるかもしれない、あるいは超大国に命を狙われる原因になるかもしれない。……そう怖くなって、自分から政府に泣きついてきたわけね」
「その通りです。提供者は匿名を強く希望していますが……長年、映画の小道具やオカルト関連の物品、軍の放出品などを雑多に集めていた人物とのことです。本人によれば、二十年以上前に西部の寂れた古物オークションで二束三文で落札したものだとか」
「それで?」
ヘイズは、身を乗り出した。
「どんなアーティファクトなの? ドバイが『都市の心臓』なら、今度はアメリカにも何か実用的なものが来たのかしら」
「兵器系統であれば、ロシアのサイボーグ兵に対抗する極めて大きな材料(カード)になります」
国防長官も、前のめりになって期待を口にする。
暗号通信のモニターが開き、セレスティアル・ウォッチのアルファと、科学主任のケンドール博士が映し出された。
だが。
二人の表情は、大統領たちの期待とは裏腹に、なぜか極めて重く、微妙に暗かった。
「……アルファ? ケンドール博士?」
ヘイズは、二人の不自然な空気に眉をひそめた。「何よ。早く言いなさいよ」
ケンドール博士は、気まずそうに、もごもごと口ごもった。
『……その。少し、権利的にまずい物でして』
「は?」
ヘイズ大統領は、間の抜けた声を出した。
「……権利的? どういうことよ?」
「危険物ではないのですか?」
国防長官が訝しげに問う。
『危険物です』
ケンドールは即答した。
『兵器としては、我々がこれまで確認してきた近接武器の中でも、間違いなく最上位の破壊力を持っています。極めて危険です』
「では、権利的とは一体何の話だ?」
商務長官が口を挟む。
『……言葉で説明するよりも、映像をご覧いただくのが早いでしょう』
アルファが、ため息混じりに言い、メインモニターの画面を切り替えた。
ヘイズ大統領は、二人のその態度に、得体の知れない【嫌な予感】を覚えていた。
モニターに映し出されたのは、セレスティアル・ウォッチの地下深くにある、厳重に管理されたテスト用の実験室の映像だった。
分厚い防護ガラス。無数のセンサー群。遠隔消火設備。
そして、その中央には、重厚な試験用の複合装甲板が立て掛けられている。
完全な防護服を着た一人の科学者が、何かを手に持って、カメラの前に立った。
長さ、およそ二十数センチほどの、短い筒状の装置。
金属ともセラミックともつかない、鈍い銀色の材質でできており、極めて握りやすそうな柄(グリップ)の形状をしていた。
「……嫌な予感がするわ」
ヘイズ大統領が、その筒の形状を見て、引き攣った顔で呟いた。
『その予感は、概ね正しいです。大統領』
ケンドール博士が、無表情のまま画面の奥で頷いた。
映像の中の科学者が、装置の柄の部分にある、ボタンらしきスイッチを強く押し込んだ。
その瞬間。
『――ブゥゥゥン……!』
スピーカーから、腹の底に響くような、重く低い起動音が鳴り響いた。
誰もが、世界中の映画館やテレビ画面で、一度は必ず耳にしたことのある、あの特徴的な『光が伸びる音』。
短い筒の先端から、青白い強烈な光を放つ【エネルギーの刃】が、一メートルほどの長さまで一気に伸び、そこでピタリと固定された。
『ブゥン……、ヴォン……』
科学者が筒を動かすたびに、空気を切り裂くような、独特の電子的な唸り声が響き渡る。
実験室内のスタッフたちが、分かっていてもざわめく様子が映像から伝わってくる。
ホワイトハウスの地下会議室は、完全な沈黙に包まれた。
ヘイズ大統領は、数秒間、口を半開きにしたまま言葉を失い。
そして。
頭を抱えて、絶叫した。
「……あの有名な映画の、ライトセーバーじゃない!!!」
「ライトセーバーですね」
国防長官が、真顔で呟く。
「ライトセーバーです」
司法長官も、絶望的な顔で同意する。
「これは、どう見てもライトセーバーですね」
商務長官が、完全に同意する。
『結果的に、極めて類似した外観と音響特性を持つ、指向性高密度プラズマ刃です』
アルファが、あくまで科学的な表現で冷徹に言い換える。
「それを世間ではライトセーバーって言うのよ!!」
ヘイズ大統領が、アルファに向かって怒鳴りつけた。
画面の中の映像は続く。
科学者は、その青白く輝く『光の剣』をゆっくりと上段に構え、試験対象である戦車の装甲を想定した極厚の複合装甲板へと歩み寄った。
そして、ゆっくりと、その刃を装甲板の表面に当てた。
ジジジジィィィィッ!!!
激しい火花が散り、接触面が瞬時に赤熱する。
だが、光の刃は、まるで熱したナイフでバターを切るように、分厚い複合装甲板を何の抵抗もなく、スルスルと斜めに切り裂いていった。
「……嘘だろ」
国防長官が、その凄まじい切断能力に息を呑んだ。
次に科学者は、試験用のターゲットを次々と切り替えていく。
高硬度鋼。チタン合金。セラミック複合材。耐熱装甲。強化コンクリートの壁。航空機用の特殊合金。ドローンの防護外殻。
そして、極秘に入手していた、ロシアのサイボーグ兵の人工筋肉を模した最新の『実験用サイボーグ装甲材』。
光の剣は、そのすべてを、全く減衰することなく、文字通り『軽く』一刀両断にした。
科学者が、再び手元のボタンを押し込む。
『シュゥンッ……』
特徴的な収納音とともに、一メートルの光の刃が一瞬で筒の中に吸い込まれ、完全に消滅した。
映像が終了し、モニターが切り替わった。
ホワイトハウスの地下には、再び重苦しい沈黙が落ちた。
「……これ、CG(合成映像)じゃないわよね?」
ヘイズ大統領が、現実逃避するようにケンドール博士に確認した。
『リアルです』
ケンドールは、無慈悲に首を横に振った。
『一切の映像加工は行っていません。センサーの記録、放出された熱量、切断面の分子レベルの分析、すべてが映像と完全に一致しています』
「つまり……ライトセーバーじゃない」
ヘイズは、脱力したように椅子の背もたれに寄りかかった。
『はい。……ライトセーバーです』
ケンドールが、ついポロリと同意してしまった。
「博士」
司法長官が、鋭くたしなめる。
『……失礼しました』
ケンドールはコホンと咳払いをした。
『極めて某映画の小道具に類似した、異星技術由来の指向性近接切断兵器、です』
「アルファ。……この兵器の解析状況は?」
国防長官が、軍人としての興味を隠しきれずに身を乗り出した。
『この装置のコア・テクノロジーは、我々が現在研究を進めている【アポロンの矢】(指向エネルギー兵器)の基礎原理の一部と、驚くほど一致しています』
アルファが、技術的背景を説明し始めた。
『決定的な違いは、エネルギーの出力方向と、その安定化方式です。
アポロンの矢が、莫大なエネルギーを「遠距離(数百キロ先)」へと直線的に投射する兵器であるのに対し。
この装置は、超高密度のプラズマ(あるいは未知のエネルギー・フィールド)を、超短距離(約一メートルの範囲)に強力な磁場で【固定(封じ込め)】しているのです』
「……つまり?」
ヘイズ大統領の目の色が、パッと変わった。
『つまり。……我々が蓄積してきた「アポロンの矢」の研究成果を応用(リバースエンジニアリング)すれば。この装置は、極めて高い確率で【複製(量産化)が可能】であるということです』
「複製可能!?」
ヘイズは、思わず立ち上がった。
『容易とは言いません』
ケンドールが釘を刺す。
『しかし、もしアポロンの矢の研究下地がなければ、実用化まで百年単位の時間がかかったであろうこの技術が……数年以内、早ければ一年以内に、アメリカ軍独自の「試作型」としてラインに乗る可能性があります』
「近接兵器としての評価は?」
国防長官が、興奮気味に問う。
『歩兵が携行できる近接兵器としては、人類史上、文句なしの【最強クラス】です』
ケンドールは断言した。
『あらゆる装甲、重厚な隔壁、サイボーグのチタン外装、そして爆発物の信管部まで、ほとんどの物理的な遮蔽物を一瞬で無力化(切断)できます。
……ただし、当然ですが「射程が極端に短い(一メートル)」。使用者が自らを傷つけないための高度な訓練と、安全制御のソフトウェア化は必須となります』
「わーお」
ヘイズ大統領は、口に手を当て、歓喜の笑みをこぼした。
「……ジャックポットを、引き当てたわ!」
「対サイボーグ兵用としては、これ以上ないほど極めて有効な対抗手段となります」
国防長官も、地図上のロシアの脅威を思い浮かべながら、熱っぽく語った。
「ロシアの強化兵がどれほど異常な速度で接近してこようとも、近接戦でこの刃を受ければ――」
「ただの紙よ」
ヘイズが、恍惚とした表情で言い切った。
「サイボーグ兵の装甲なんて、紙切れ同然。……最高じゃないの!」
「大統領、名称にはくれぐれも慎重に……」
司法長官が、青ざめた顔で小声で忠告するが、ヘイズの耳には入っていなかった。
「これは、絶対にアメリカ軍の【正式装備】として採用したいわ!」
ヘイズは、次々と作戦のアイデアを並べ立てた。
「特殊部隊(デルタフォースやSEALs)への標準配備! 宇宙艦内での白兵戦用! 強固な敵基地の装甲扉の突破用! そして対ロシア・サイボーグ兵用の切り札!
……それに何より、これからの『宇宙時代(アーティファクト時代)』の近接兵器として、映像的な【プロパガンダ効果(絵面の強さ)】が最高じゃない!」
米軍の特殊部隊が、暗闇の中で青白い光の剣を起動し、敵のサイボーグ兵を一刀両断にする。
そのヒロイックで圧倒的な映像が世界中に流れれば、アメリカ軍の威信はこれ以上ないほどに高まるだろう。
ヘイズは、完全に勝利の美酒に酔いしれていた。
だが。
画面の向こう側のアルファとケンドール博士は、先ほどから一言も発さず、ただ無言で、極めて気まずそうに沈黙を保っていた。
「……え?」
ヘイズ大統領は、一人で盛り上がっていた空気が完全に浮いていることに気づき、怪訝な顔で画面の二人を見た。
「何よ。……私、何か間違ったこと言ってる? 運用思想が甘いとか?」
『兵器としての評価や、運用想定については、概ね大統領の仰る通りです』
アルファが、淡々と答える。
『対サイボーグ兵、強固な装甲の突破、閉所での戦闘、あるいは災害救助活動での障害物の切断用途など、応用範囲は非常に広いと考えられます』
ケンドールも同意する。
「じゃあ、何が問題なのよ?」
ヘイズは、苛立ちを隠せずに問うた。
『……大統領』
アルファは、深い影の中から、この兵器における【最大の障壁】を、極めて真面目な声で告げた。
『この兵器を、アメリカ軍の【正式装備】として採用し、運用し、プロパガンダとして世間に公表するためには。
……我々は、アメリカ国内に存在する超巨大エンタメ企業――【ディズニー】を、完全に黙らせる必要があります』
「…………」
地下会議室の空気が、完全に凍結した。
「……は?」
ヘイズ大統領の口から、間の抜けた声が漏れた。
「アルファ。それはどういうことだ」
国務長官が、信じられないというように問う。
『この装置は、結果的に映画の小道具に似通っているだけであり、正真正銘の異星技術由来のアーティファクトです。我々が映画からアイデアを盗用して開発したものではありません』
アルファは、論理的な事実関係を整理する。
『しかし。……外観、あの特徴的な起動音、青白く光る刃、近接での剣としての形態、そして切断時の描写。
一般大衆の認識において、これは【ライトセーバーそのもの】です』
『我々の研究所のスタッフでさえ』
ケンドール博士が、深くため息をついて補足した。
『この装置の初回起動時に、全員が「ライトセーバーだ」と口走りました。……科学者でさえ、そのポップカルチャーの呪縛から逃れることは不可能です』
「訴訟リスクは、極めて高いと言わざるを得ません」
司法長官が、頭を抱えながら重く頷いた。
「まじで……?」
ヘイズは、椅子に崩れ落ちた。
「もし軍がこれを正式採用して実戦投入すれば、ありとあらゆる法務リスクが噴出します」
商務長官が、青ざめた顔でリストアップを始める。
「商品化権の侵害、立体商標の抵触、映画のイメージおよびブランドの毀損、ライセンスの無断使用、軍の宣伝への無断利用。……ディズニーの法務部が、これを黙って見過ごすはずがありません」
「仮に、国家安全保障を盾にして法的に強行突破(勝訴)できたとしても、社会的なダメージが面倒すぎます」
ホワイトハウスの法務顧問が、冷や汗を流しながら警告する。
「『アメリカ軍が、ライトセーバーをパクって正式採用した』という見出しが、世界中のネットニュースとSNSを駆け巡ります。……我が国の威信に関わります」
「同盟国も、確実に腹を抱えて笑うでしょうな」
国務長官が、同盟国(特に日本の三神あたり)の反応を想像して顔をしかめた。
「ロシアは、間違いなく国営放送で大々的にミーム化して、我が国を嘲笑しますよ」
CIA長官も、敵国のプロパガンダ攻撃を懸念する。
「しかし……兵器としては、本当に有用なんだ!」
国防長官が、軍の利益を代弁して必死に擁護する。
「ロシアのサイボーグ兵を近接で紙のように切り裂ける兵器を、たかが映画の著作権如きで倉庫に眠らせておくなど、軍事的にあり得ん!」
「だから、困っているのです!」
司法長官が、国防長官に向かって悲鳴のように叫んだ。
ヘイズ大統領は、両手で顔を覆い、深く、長くため息をついた。
「……待って」
ヘイズは、顔を上げ、すがるようにケンドール博士を見た。
「確認するわよ。……これは、本物の異星人が作った兵器なのよね?」
『はい』
「ハリウッドの映画の小道具(プロップ)を持ち込んだわけではないわね?」
『違います』
「我々の軍事予算で、映画からこっそりデザインを盗んで作ったわけでもないわね?」
『はい』
「……それでも、ディズニーの法務部が、国家の安全保障の【問題(壁)】になるの!?」
「なります」
司法長官が、血の涙を流すような顔で即答した。
「アメリカって国……面倒くさすぎない!?」
ヘイズ大統領は、天を仰いで絶叫した。
「大統領。……それが、アメリカ合衆国です」
国務長官が、誇り高いのか自嘲しているのか分からない顔で、厳粛に答えた。
会議室は、かつてないほど奇妙で、絶望的で、しかしどうしようもなく滑稽な空気に包まれていた。
「……じゃあ、もう『ライトセーバー』と呼ばなければいいじゃない!」
ヘイズは、半ばヤケクソ気味に提案した。
「完全に別の名前(コードネーム)をつければ、言い逃れできるでしょう! 今すぐ、名称変更会議よ!」
「コードネームを変更しますか」
国防長官が、真面目な顔で提案を受け入れる。
「候補1:【指向性近接切断装置】」
「堅すぎるわ。覚えられない」とヘイズが即座に却下。
「候補2:【高密度プラズマ刃】」
『科学的な表現としては近いですが、実際のエネルギーの正体を完全には表していません』とケンドールが指摘。
「候補3:【フォトン・ブレード】」
「すでに類似した商品名や、日本のゲーム・アニメ作品の名称が多数登録されており、別の権利問題が発生します」と司法長官が冷静に弾く。
「候補4:【アポロン・ブレード】」
『アポロンの矢の技術系列(派生型)であることを示す名称としては、妥当な命名法則です』とアルファが評価する。
「悪くないわね」とヘイズも頷く。「でも、まだ世間が『要するにライトセーバーじゃん』って突っ込んでくる隙(ビジュアル)があるわ」
「候補5:【自由の剣】」
「……」
会議室の全員が、無言で冷ややかな視線を提案者(国防長官)に向けた。
「絶対にやめてください。ダサすぎます」と国務長官が冷たく切り捨てる。
「候補6:【民主主義ブレード】」
「国際問題になります。中東や中国が激怒します」と司法長官が頭を抱える。
「候補7:【近接指向エネルギー多目的切断工具】」
「それで、戦場で命を懸ける兵士の士気が上がると思ってるの!?」とヘイズが吠える。
結局、一時間の不毛な議論の末。
「……公式の暫定コードネームは、【ABL-01《アポロン・ブレード》】とする」
ヘイズが、力なく決定を下した。
だが、この会議室にいる誰もが、内心で思っていた。
(……どう見ても、ライトセーバーだ)と。
「名前の問題はそれでいいとして」
国防長官が、気を取り直して、軍事的な課題を真面目に整理し始めた。
「軍事採用するにあたって、実戦での課題も山積しています。
利点としては、装甲切断、閉所での戦闘、対サイボーグ兵、船内や基地内での障害物突破、そして非爆発的な扉破り(ブリーチング)に極めて有効です。
……しかし、問題点も多い」
国防長官は、リストを読み上げる。
「一つ、使用者が誤って自分の手足や味方を切り落とす危険性が極めて高いこと。
二つ、射程が短いため、開けた戦場での銃器(飛び道具)相手には圧倒的に不利であること。
三つ、光と音が派手すぎるため、夜間隠密行動には全く向かないこと。
四つ、敵に奪われた場合の危険性。
そして五つ……ディズニーの権利問題です」
「最後だけ、異質すぎないかしら」
ヘイズが、ジト目でリストを睨む。
「最後が、一番アメリカらしい【最大の壁】です」
司法長官が、真顔で答えた。
「しかし、ロシアのサイボーグ兵への対抗手段としては、やはり捨てるには惜しすぎる」
国防長官は、具体的な戦術シミュレーションの映像をモニターに映し出した。
「光剣を持った我々の特殊部隊が、サイボーグ兵と近接戦闘になった場合。通常の銃弾では決して止まらないチタン合金の装甲や人工筋肉も、この刃が触れれば確実に切断(無力化)できる可能性が高い。
……ただし、サイボーグ兵の異常な移動速度を考えれば、剣を当てる前にこちらが撃ち殺される危険性も高い。単体では万能ではありません」
「つまり、運用方法(戦術)の工夫が必要になるわけね」
ヘイズが問う。
「はい。パワーアシストスーツを装備した兵士による閉所での待ち伏せ。防盾と光剣の組み合わせ。ドローンの誘導による近接迎撃。……対サイボーグ兵対策には、センサー網や足止め用の支援射撃との緻密な連携(コンビネーション)が必須となります」
ケンドール博士が、軍事的な運用モデルを補足する。
「近接兵器としては最強でも、相手の懐に近接できなければ全く意味がない、ということね」
ヘイズは頷く。
「それでも。……あるとないでは、天と地ほどの差があるわ」
『ええ。心理的な抑止力としても、実戦的な切り札としても。……この「刃」の存在は、大きいです』
アルファも、その戦略的価値を高く評価した。
「兵器としての有用性は分かったわ。……問題は、広報よ」
ヘイズ大統領は、ホワイトハウスの広報担当長官に視線を向けた。
「もし、この情報が世間に漏れた場合の『想定ニュース見出し』のシミュレーションを出して」
広報担当長官は、極めて気まずそうに、用意していた試算結果をモニターに表示した。
『米軍、ライトセーバー実戦配備へ!? ペンタゴンは否定』
『スター・ウォーズが現実に! 米軍がジェダイ部隊を極秘創設か!』
『ロシアのサイボーグ兵 VS 米軍のライトセーバー! SF映画が現実に!』
『ディズニー、米軍のパクリ疑惑に対し「コメントを控える」』
『国防総省報道官「あれは指向性切断装置であり、ライトセーバーではない」』
『SNS民「いや、どう見てもライトセーバーだろwww」』
「…………」
ヘイズ大統領は、両手で顔を完全に覆った。
「見出しが見える。……世界中でバズり散らかしている光景が、全部見えるわ……」
「しかも、世界中が間違いなく『楽しむ(面白がる)』でしょうな」
国務長官が、深刻な顔で言う。
「ロシア国内でも、ボグダノフ大統領が、我が国を嘲笑するミーム画像(コラ画像)を量産してネット工作を仕掛けてくるはずです」
CIA長官が、情報戦での敗北を予見する。
「ディズニーの法務部が、何も言わずに沈黙を守っている状態が……ある意味で一番ホラー(怖い)ですね」
司法長官が、ブルブルと身震いをした。
「ディズニーへの対応案(根回し)はどうするのよ」
ヘイズは、もはやヤケクソ気味に解決策を求めた。
「案1:完全秘匿。……軍事機密として永遠に隠し通す。ただし、実験映像がどこからか漏れた瞬間に、最悪の形で炎上して終わります」
「案2:ディズニーとの秘密協議。……これは本物の異星技術であり、映画の模倣ではないと、トップ同士で極秘に説明する。使用名称や広報、軍事プロモーションへの利用について、裏で調整(ライセンス契約)を結ぶ」
「案3:絶対に違う名前で押し通す。……公式には『指向性近接切断装置(ABL-01)』だと強弁し続ける。しかし、世間は絶対にライトセーバーと呼び続けます」
「案4:ディズニーから逆に協力を得る。……法務リスクをクリアするだけでなく、広報やデザイン、安全啓発のキャンペーンで大々的にタイアップしてもらう。ただし、軍事兵器と平和なエンタメ企業が手を組むことで、左派から猛烈に炎上するリスクがあります」
「案5:軍事利用ではなく、まずは【救助工具】として先に社会に発表する。……災害救助、障害物切断、宇宙船の事故対応などの平和的な名目で世間の『受容』を作り出し、その後にこっそり軍事応用(実戦配備)する」
「……案5が、少しはマシね」
ヘイズは、消去法で選んだ。
『実際、軍事以外にも、救助工具としての価値は計り知れませんからね』
アルファも同意する。
『ただし、大統領』
ケンドール博士が、無慈悲に付け加える。
『救助工具(レスキューカッター)として色をオレンジ色に塗ったとしても。……見た目と音は、やっぱりライトセーバーのままです』
「もう言わないで」
ヘイズは、机に突っ伏した。
「ところで、大統領」
CIA長官が、ここで、このバカバカしい会議の空気を少しだけ引き締める、重要な懸念を口にした。
「……提供者の【匿名性】についても、私は大きな問題(疑念)があると考えています」
「疑念?」
ヘイズが、机から顔を上げる。
「なぜ、彼は『今』になってこれを提供してきたのか。
……そして何より。なぜ、これほどまでに【現代のポップカルチャー(映画)と完璧に一致する】アーティファクトを、彼が持っていたのか。
……それは、本当に『偶然』なのでしょうか?」
『……重要な指摘です』
アルファの声が、一段階低くなった。
『このアーティファクトは、あの映画のライトセーバーに異常なまでに似ている。……しかし、時間順(タイムライン)の矛盾があります』
「矛盾?」
『提供者は、二十年以上前(映画公開後)に古物オークションで入手したと主張しています。
しかし、我々がアーティファクトの内部構造や材質の年代測定(崩壊率)を行った結果。……この装置自体は、明らかに【映画が公開されるよりも遥か昔(数千年以上前)】から、この地球上に存在している可能性が高いのです』
ヘイズの背筋に、ゾクリとした悪寒が走った。
「……つまり?」
『考えられる可能性は、二つあります』
アルファは、極めて不穏な仮説を提示した。
『可能性1。……過去にこの装置(アーティファクト)を目撃した何者かが、そのビジュアルの記憶を映画の製作者側に無意識に、あるいは何らかのリークという形で伝え、それが映画のアイデアの「元ネタ」になったという説』
「まあ、それならただの都市伝説のレベルで済むわね」
ヘイズが言う。
『問題は、可能性2です』
アルファは続ける。
『……このアーティファクト(異星技術)自体が。
人類の「文化的記憶(集合的無意識)」や「ポップカルチャーのイメージ」をスキャンして読み取り。
自らの外観や起動音を、人類に【理解されやすい形(ライトセーバー)】へと、後から【擬態(変化)させている】という可能性です』
「…………っ」
会議室が、凍りついた。
『もし後者であるならば、これはディズニーの権利問題などという生易しい話ではありません』
ケンドール博士が、科学者としての恐怖を込めて言った。
『……我々は、人間の深層心理や文化を読み取り、それに合わせて自らを最適化(アップデート)する、極めて高度な【意思を持ったシステム】と直面していることになります』
「……ただの、ライトセーバーのパクリ問題じゃない、可能性があるのね」
ヘイズ大統領は、ごくりと生唾を飲んだ。
『はい』
アルファが、静かに肯定した。
ヘイズ大統領は、深く、長く息を吸い込んだ。
最初の「最強兵器を手に入れた」という高揚感は、すっかり冷え切っていた。
これは間違いなく大当たり(ジャックポット)だ。
だが、同時に、抱え込んだ問題はあまりにも多すぎた。
強力な近接兵器。
ロシアのサイボーグ兵への対抗手段。
アポロンの矢の技術で複製可能という希望。
しかし、立ちはだかるディズニーの法務問題。
世界中から嘲笑される広報リスク。
文化的影響(ミーム化)の問題。
そして……アーティファクトが人類の文化に擬態しているかもしれないという、底知れぬ恐怖。
「……分かったわ」
ヘイズ大統領は、決然と顔を上げた。
「喜ぶのも、怖がるのも後。……まずは、政治の現実を処理するわよ」
ヘイズは、閣僚たちをキッと睨みつけた。
「いい? 何度でも言うわよ。……これは、絶対にライトセーバーではない」
会議室の全員が、無言でヘイズを見た。
「違うの。分かってるわよ。無理がある(どう見てもそう)なのは分かってる」
ヘイズは、自らに言い聞かせるように言った。
「でも、アメリカ合衆国の【公式見解】としては、絶対に違うのよ」
「公式の名称は?」
司法長官が確認する。
「【ABL-01《アポロン・ブレード》】」
ヘイズは、きっぱりと言い切った。
「妥当です」
ケンドール博士が同意する。
「国防省は、引き続き兵器としての実戦評価(対サイボーグ兵のシミュレーション)を継続。
セレスティアル・ウォッチは、複製可能性(量産化)と、アーティファクトの【擬態機能】についての研究を急いでちょうだい」
「そして」
ヘイズは、最も憂鬱な指示を下した。
「……国務省と法務顧問は、ディズニーのトップと【秘密裏に接触】しなさい。
事情をすべて説明して、裏でライセンス(黙認)の調整をつけるの。……ただし、絶対に『アメリカ軍がライトセーバーのパクリを作った』という【弱み】は握らせないこと」
「もし……情報が、世間に漏れた場合は?」
CIA長官が、最悪の事態を想定して問う。
「その時は……」
ヘイズは、机に突っ伏し、深くため息をついた。
「その時は……世界中が、アメリカを笑うわね。私がピエロになるしかないわ」
***
場面は変わり。
カリフォルニア州、バーバンク。
世界最強のエンターテインメント企業、ウォルト・ディズニー・カンパニー本社の、広大なオフィスビルの一角。
深夜残業が続く【法務部(リーガル・デパートメント)】のフロア。
一人の若手法務担当者のパソコン端末に、差出人不明の、極めて強固な暗号化が施された一通のメールが届いた。
件名には、こう書かれていた。
『Regarding Potential Real-World Energy Sword Technology(現実世界におけるエネルギー剣技術に関する照会)』
「……なんだこれ? 新しいライセンス契約の問い合わせか?」
法務担当者は、眉をひそめながら、怪訝な顔で添付ファイルを開いた。
そこには、背景に強いぼかし処理(モザイク)が入った、一枚の静止画像が添付されていた。
短い、銀色の筒。
そこから伸びる、青白く輝く光の刃。
そして、鉄の板のようなものを切り裂いている瞬間の、激しい火花。
法務担当者は、その画像を拡大し、数秒間、完全に無言で画面を見つめ続けた。
そして。
彼は、隣のデスクで膨大な書類の山と格闘している先輩の同僚を、震える声で呼んだ。
「……ねえ」
「ん? なんだよ、忙しいのに」
「これ。……【うちの案件(著作権侵害)】?」
同僚は、コーヒー片手に面倒くさそうに画面を覗き込み。
そして、彼もまた、数秒間完全に沈黙し、目を白黒させた。
「……たぶん。……うち案件、だな」
異星技術、アメリカ合衆国軍、ロシアのサイボーグ兵、そして……世界最強クラスの法務部を擁するエンタメ企業。
《アポロン・ブレード》の最大の初戦(試練)は、血の流れる戦場ではなく、スーツを着た男たちが争う、無機質な会議室で始まろうとしていた。
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