銀河皇帝のスペアに転生した元社畜、地球軌道上の要塞でネトゲ三昧の隠居生活を満喫する 〜足元では超大国が滅亡級の異星遺産を巡って暗躍中ですが、主人公(ぼく)の命は絶対安全なので特等席で傍観します〜   作:パラレル・ゲーマー

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第83話 アメリカ政府VSディズニー法務部、なお敗北

 アメリカ合衆国、カリフォルニア州バーバンク。

 世界最大にして最強のエンターテインメント企業、ウォルト・ディズニー・カンパニー本社の、広大なオフィスビルの一角。

 

 深夜残業が続く『法務部(リーガル・デパートメント)』のフロアは、無数の特許、商標、著作権の書類と格闘するエリート弁護士たちの静かな熱気に満ちていた。

 そんな中、一人の若手法務担当者のパソコン端末に、通常のビジネスルートではない、極めて高度な暗号化が施された一通のメールが届いた。

 

 送信元は、連邦政府の司法省関連窓口。

 件名には、こう記されていた。

 

『Regarding Potential Real-World Energy Sword Technology(現実世界におけるエネルギー剣技術に関する照会)』

 

「……なんだこれ?」

 若手担当者は、首を傾げながら添付ファイルを開いた。

 

 そこには、背景に強いモザイク(ぼかし処理)が入った、数枚の静止画像が添付されていた。

 

 短い、銀色の金属製の筒。

 その先端から真っ直ぐに伸びる、青白く輝く光の刃。

 そして、その光の刃が、分厚い鉄の板のようなもの(試験用装甲板)を、激しい火花を散らしながら完全に切り裂いている瞬間の写真。

 

 若手担当者は、その画像を数秒間、完全に無言で凝視した。

 そして、隣のデスクで山積みの書類を処理している先輩を、震える声で呼んだ。

 

「……ねえ」

 

「ん? なんだよ」

 

「これ。……【うちの案件(著作権侵害)】ですかね?」

 

 先輩法務担当は、面倒くさそうに画面を覗き込み。

 数秒沈黙した後、真顔で言った。

 

「……うち案件、だな」

 

 直ちに、深夜のオフィスに緊急召集がかかった。

 最高法務責任者(ジェネラル・カウンセル)、知的財産部門トップ、ブランド管理責任者、そして政府渉外担当の役員たちが、重役会議室に集められた。

 

 スクリーンに投影された『光の剣』の画像を見て。

 最高法務責任者は、数秒間沈黙したのち、極めて冷静な声で断言した。

 

「……どう見ても、ライトセーバーですね」

 

「ライトセーバーです」

 知的財産部門トップも、力強く頷く。

 

「まごうことなき、ライトセーバーですね」

 ブランド管理責任者が、頭を抱える。

 

「問題は」

 政府渉外担当が、深刻な顔で口を挟んだ。

「これを、マニアのコスプレイヤーや無許可の玩具メーカーではなく……【アメリカ合衆国政府】が、本気でうちの法務部に『照会』してきているということです。しかも、軍事機密のルートで」

 

 最高法務責任者は、手元の資料をパタンと閉じた。

 

「我々が政府を訴えるかどうかの話ではありません」

 その目には、世界最強の法務部を率いるトップとしての、冷徹な計算と闘志が宿っていた。

 

「……この『兵器』を、我々がどう【管理】するかの話です。

 準備を急ぎなさい。……政府と、取引(ビジネス)をします」

 

 ***

 

 数日後。

 ワシントンD.C.近郊に位置する、政府の極秘会議施設。

 表向きは司法省関連の研修施設とされているが、実際には国家安全保障に関わる超法規的な密談が行われる場所である。

 

 アメリカ政府側の出席者は、まさに国家の首脳陣そのものだった。

 司法長官、商務長官、国防長官、財務長官、ホワイトハウス法務顧問、国家安全保障補佐官、統合参謀本部議長。そして、セレスティアル・ウォッチのオブザーバー・アルファと、ケンドール博士。

(ヘイズ大統領本人は、この時点では直接出席せず、ホワイトハウス地下で報告を待機している)

 

 迎え撃つディズニー側の出席者は。

 最高法務責任者を筆頭に、知的財産部門トップ、ブランド管理責任者、政府渉外担当、ライセンス責任者、財務担当役員、そして彼らが抱える外部の大手法律事務所のエリート弁護士たち。

 

 通常であれば、民間企業側が政府の極秘施設に呼び出されれば、国家権力の威圧感に萎縮するのが普通だ。

 しかし、今回の空気は完全に違った。

 

 ディズニー法務部の面々は、誰一人として怯んでいない。

 むしろ、完璧にアイロンのかかったスーツを着こなし、余裕の微笑みすら浮かべて、分厚い資料の束をテーブルに並べている。準備万端。いつでも戦えるという圧倒的な自信の表れだった。

 

 政府側の長官たちは、彼らのその『空気』を見て、嫌な汗を流した。

(今回、交渉の席で『弱み』を握られて困っているのは……どう考えても、我々政府の側だ)

 

「……本日は、極めて機密性の高い技術的、および法務的な問題について、貴社と極秘に協議したい」

 司法長官が、重々しく口火を切った。

 

 ディズニーの最高法務責任者は、穏やかに頷いた。

「承知しております。事前にお送りいただいた映像と資料、拝見いたしました」

 

 最高法務責任者は、テーブルの上に両手を組み、政府のトップたちを真っ直ぐに見据えた。

 

「まず、弊社の公式な見解を申し上げます」

 

 政府側の長官たちが、一斉に身構える。

 

「……【どう見ても、ライトセーバーですね】」

 

 会議室の空気が、ピタリと止まった。

 

「……我々の立場としては、ライトセーバーではありません」

 司法長官が、苦しい顔で反論する。

 

「では」

 ディズニー側は、全く動じずに言葉を切り返した。

「どう見てもライトセーバーに見える、異星由来の指向性エネルギー近接兵器ですね」

 

『技術的な定義としては、その表現が一番正確です』

 画面越しのケンドール博士が、小声でつい同意してしまった。

 

「博士」

 司法長官が、ケンドールをキッと睨む。

 

『……失礼しました』

 ケンドールはコホンと咳払いをした。

 

 だが、場の主導権(マウント)は、第一声の時点で完全にディズニー側に握られてしまった。

 

 司法長官は、気を取り直して、あらかじめ準備していた『政府側の主張』を読み上げ始めた。

 

「まず、明確にしておきます。

 この装置は、アメリカ政府が貴社の映画作品を模倣(パクリ)して、意図的に開発した兵器ではありません」

 

 司法長官は、事実関係を強調する。

「匿名のアメリカ国内アーティファクト収集家から、セレスティアル・ウォッチへと自発的に提出されたものです。……これは正真正銘の『異星技術由来のアーティファクト』であり、政府が貴社の知的財産を盗用した事実はありません。

 また、現在の所有権は、国家安全保障上の適法な手続きに基づき、アメリカ合衆国政府にあります」

 

「解析の結果」

 国防長官が、軍事的な観点から引き継ぐ。

「この装置は、現在我々が研究している『アポロンの矢』に近い指向エネルギー技術を用いており、理論上、量産化(複製)の可能性があります。

 これは、我が国にとって非常に有用な装備となります。ロシアのサイボーグ兵への対抗手段、強固な装甲扉の突破、閉所での戦闘、地下施設の救助活動、宇宙船内の事故対応、そして将来的な宇宙軍の正式装備。……我々はこれを、アメリカ軍の【正式採用武器】にしたいと考えています。

 そのため、軍事利用、広報、名称、権利処理について、事前に貴社と方針をすり合わせておきたいのです」

 

 ディズニー側は、政府の切実な説明を、静かに聞いていた。

 

「……政府が意図的に模倣したものではない、という主張は理解しました」

 最高法務責任者が、ゆっくりと口を開く。

「その点について、現時点で弊社は争うつもりはありません。盗作だと訴えたりはしない、ということです」

 

 政府側に、少しだけ安堵の空気が走った。

 

 しかし。

 ディズニー側は、冷酷に言葉を続けた。

 

「ですが、問題はそこではありません。……【世間】は、これをライトセーバーだと認識するということです」

 

 最高法務責任者の目が、鋭く光る。

「政府が公式にどういう名前をつけようと、あの映像が一度でも世に出れば。……世界中の大衆は、間違いなくあれを『ライトセーバー』と呼ぶでしょう。

 ……その瞬間、弊社のブランドは、否応なく現実に巻き込まれることになります」

 

 ブランド管理責任者が、分厚い資料を政府側に提示した。

 

「懸念点を申し上げます。

 第一に、弊社のファミリー向けエンターテインメント・ブランドと、現実の『人間を切り裂く殺傷兵器』が直接接続されてしまうこと。

 第二に、映画、玩具、テーマパークの夢のあるイメージが、生々しい軍事利用と混同されること。

 第三に、『ディズニーが、裏でアメリカ軍に武器のアイデアを売った(癒着している)』と、世界中から誤解されること。

 第四に、子供向けの玩具と、戦場の実戦兵器がネット上でミーム化し、敵国(ロシアや中国)のプロパガンダ攻撃に利用されること。

 ……作品世界の象徴が、現実の凄惨な戦争映像に重ね合わせられる。弊社としては、これを絶対に放置することはできません」

 

「では、我々に『隠蔽しろ(使うな)』と言うのですか?」

 司法長官が、苛立ちを隠せずに問う。

 

「隠蔽も、現実的ではありません」

 最高法務責任者は、首を横に振った。

 

「隠蔽も?」

 

「はい。必ず、どこからか情報や映像は漏れます。政府の機密管理など、その程度のものです」

 民間企業から国家に対する、痛烈な皮肉。

「漏れたら最後。……無許諾、無秩序、無管理のまま、世界中が好き勝手にそれを『ライトセーバー』と呼んで騒ぎ立てる。

 ……それこそが、我々にとっての【最悪】です」

 

「では、どうすれば許可してくれるというのだ」

 国防長官が、焦れて身を乗り出す。

 

 ディズニーの最高法務責任者は、ニコリと、完璧なビジネススマイルを浮かべた。

 

「したがって。弊社は政府を訴える(使用を差し止める)のではなく。……【公式管理(ライセンス化)】を提案します」

 

「……公式管理?」

 司法長官が、ポカンとする。

 

「はい」

 ディズニー側から、一枚の真新しい契約書のドラフトが、テーブルの中央に滑り出された。

 

「【国家安全保障用ライトセーバー包括ライセンス契約】です」

 

「…………」

 政府側の長官たちが、全員、自分の耳を疑って完全にフリーズした。

 

「……今、何と?」

 商務長官が、震える声で聞き返す。

 

「国家安全保障用ライトセーバー包括ライセンス契約です」

 最高法務責任者は、はっきりと復唱した。

「弊社は、条件付きで、以下の事項を全面的に認める用意があります」

 

 ディズニー側が提示した「許可リスト」。

 

 ・アメリカ政府による、本アーティファクトの軍事利用の全面許可。

 ・アメリカ軍による正式採用、および量産研究の許可。

 ・対サイボーグ兵用途、特殊部隊用途、災害救助用途、宇宙船内事故対応用途、訓練用途。

 ・将来的な公開デモンストレーションの許可。

 ・大統領会見での言及許可。

 ・……【『ライトセーバー』という語の、アメリカ政府による公式使用の許可】。

 

「軍事利用も、正式名称の使用も、全面的に認めるというのですか?」

 国防長官が、信じられないというように目を見開いた。

 

「はい」

 最高法務責任者は、平然と頷いた。

「どうせ世界中がそう呼ぶのなら……我々の【管理された形】で呼ばせるべきです。

 弊社のブランドを無秩序に、パクリ兵器として炎上利用されるよりは。公式な契約を結び、コントロールの網をかけた方が、遥かにリスクヘッジになります」

 

『……極めて合理的です』

 画面越しのアルファが、その徹底したビジネス判断に感嘆の声を漏らした。

 

 だが、司法長官は微妙な顔をしていた。

「……そこまで譲歩してくれるということは。当然、相応の『見返り』を要求するということですね」

 

「もちろんです。我々は慈善事業ではありません」

 最高法務責任者は、穏やかに、しかし絶対に逃がさないという目で言った。

「条件は複数ありますが。……まずは、【最低ライン(足切り)】から申し上げます」

 

「最低ライン?」

 司法長官が、生唾を飲む。

 

「ええ」

 ディズニー側は、とんでもない要求を、まるで明日の天気を語るようにサラリと言ってのけた。

 

「……弊社の【連邦税】を。今後、永久に免除していただくことですかね」

 

「…………」

 会議室の空気が、絶対零度に凍りついた。

 

「……はい?」

 財務長官が、自分の耳がイカれたのかと思い、間抜けな声を出した。もしここにIRS(内国歳入庁)の長官がいれば、その場で泡を吹いて倒れていただろう。

 

「それは、いくらなんでも……!」

 商務長官が、顔を真っ赤にして立ち上がりかけた。

 

「他業界への説明が、極めて困難です!」

 財務長官が悲鳴を上げる。

 

「一企業に対する『連邦税の永久免除』など、制度上も政治上も、議会を通せるはずがない! 完全な爆弾です!」

 ホワイトハウス法務顧問が、憲法違反レベルの要求に青ざめる。

 

 だが、ディズニー側は、表情一つ崩さなかった。

 

「……【最低ライン】ですよ」

 最高法務責任者は、冷徹に言い放った。

「これは、交渉のスタート地点(最低条件)です。

 ……世界で最も有名で、最も愛されている『架空の兵器』の名称とブランドイメージを。血生臭い現実の『軍事兵器』に接続させるのです。

 ……その程度の代償は、払っていただかなくては困ります」

 

 政府側は、完全に沈黙した。

 彼らは理解した。ディズニーは本気だ。本気でアメリカ合衆国政府から、とてつもない血肉(税金)を絞り取ろうとしているのだ。

 

 そして、ディズニーの要求は、税金だけでは終わらなかった。

 

「条件1:実質的な連邦税永久免除相当の特別措置。

 条件2:アメリカ政府による『ライトセーバー』用語の公式使用ライセンスの付与。

 条件3:軍事利用の全面許可(作戦運用への拒否権は持たない)。

 条件4:正式名称は政府の希望する『AS-01《アポロン・ソード》』を認めるが、公式一般呼称として『ライトセーバー』を併記すること。

 条件5:商品化権。訓練用のレプリカ、展示用模型、民間向け安全玩具、教育用模型などのライセンス商品は、弊社に優先交渉権を与えること。

 条件6:公開デモ時の広報監修権。言い回しや映像の出し方を弊社が事前確認すること。

 条件7:ブランド保護条項。違法な作戦や戦争犯罪で使われた場合、契約を即時見直す。

 条件8……ふざけた部隊名の禁止」

 

「ふざけた部隊名?」

 国防長官が聞き返す。

 

「政府公式で、『ジェダイ部隊』『フォース作戦』『ダークサイド掃討』といった名称をつけることは禁止します」

 

 国防長官が、少しだけ、本当に少しだけ残念そうな顔をした。

 

「……非公式に、現場の兵士たちがどう呼ぶかまでは、弊社も関与しませんがね」

 最高法務責任者が、すかさずフォローを入れる。

 

「そこは助かります」

 国防長官がホッと息を吐く。

 

「助かるところではありません!」

 司法長官が、国防長官を怒鳴りつけた。

 

「条件は理解しました」

 司法長官は、痛む頭を抱えながら、苦渋の表情で言った。

「しかし、連邦税の永久免除という条件は、あまりにも重すぎる」

 

「ビッグテック、軍需産業、製薬会社、自動車業界。……すべてが『うちにも特例を出せ』と反乱を起こしますよ」

 商務長官が危惧する。

 

「承知しています」

 最高法務責任者は、涼しい顔で答えた。

「ですから、表向きに『連邦税永久免除』という露骨な名称(法案)でなくとも構いません」

 

 政府側が、一瞬だけ希望の顔を上げる。

 

「ただし。……【実質として、同等の金額的免除効果】がある必要があります」

 ディズニー側は、一切の妥協を許さなかった。

「繰り返します。これは最低ラインです。

 受け入れられない場合、弊社は公式ライセンスを一切認めません。……その場合、貴政府は『これはライトセーバーではない!』と必死に世間に言い訳をしながら、世界中からライトセーバーと呼ばれて嘲笑される兵器を、ビクビクしながら運用することになります」

 

「……地獄ですね」

 ホワイトハウス法務顧問が、ボソリと呟いた。

 

「この条件については……アメリカ大統領と、直接相談させてください」

 司法長官は、もはや自分の権限ではどうにもならないと白旗を上げ、持ち帰りを宣言した。

 

「はい。いくらでもお待ちします」

 最高法務責任者は、優雅に微笑んだ。

「ただし。正式採用、量産、公開会見、軍事広報、および『ライトセーバー』という語の使用は、合意前には一切行わないでください。……機密研究の継続は黙認しますが、映像の流出にはくれぐれもご注意を」

 

 会議が終了し、ディズニー側の面々は、勝利者の余裕を纏って堂々と退室していった。

 

 残された政府側は、しばらくの間、誰一人として言葉を発することができなかった。

 

「……ロシアのサイボーグ兵より、よっぽど厄介だな」

 国防長官が、天井を見上げて深い溜息をついた。

 

「だから言ったでしょう」

 司法長官が、泣きそうな顔で返す。

「相手は……あのディズニーの法務部ですよ」

 

 ***

 

 ホワイトハウス地下、極秘危機対応室。

 

 ヘイズ大統領は、持ち帰られた交渉結果の報告を受け、顔をヒクヒクと引き攣らせていた。

 

「ディズニー側は、軍事利用、正式採用、公開デモ、ライトセーバーという語の使用を、すべて認める用意があります」

 司法長官が、疲労困憊した声で報告する。

 

「いいじゃない」

 ヘイズの表情がパッと明るくなる。「意外と話が分かるわね」

 

「ただし」

 財務長官が、即座に冷水を浴びせる。

「最低条件として……【連邦税の永久免除相当の特別措置】を要求しています」

 

 ヘイズ大統領の顔が、ピタリと止まった。

 

「……何ですって?」

 

「実質的な、連邦税永久免除です」

 司法長官が繰り返す。

 

「強欲ね!!」

 ヘイズは、バンッと机を叩いて激怒した。

「連邦税の永久免除!? やり過ぎだわ! 一企業の税金をタダにするなんて、国家の根幹を揺るがすわよ!」

 

「同感です。他社への説明が極めて困難です」と商務長官。

「議会も確実に大荒れになります」と司法長官。

 

「でしょうね!」

 ヘイズは頭を抱える。

「『大統領は、ライトセーバーのおもちゃを使うために、ディズニーの税金を消し飛ばした!』って、野党とメディアから一斉に袋叩きにされるわ!」

 

『世論上、そのように単純化されて批判される可能性は、極めて高いです』

 アルファが、冷静に分析結果を告げる。

 

「そこは否定しなさいよ!」

 ヘイズが画面のアルファに食ってかかる。

 

『大統領。……条件は重い。ですが、得られるものも、極めて大きいです』

 アルファは、感情論を排して、技術的・戦略的価値の再確認を行った。

『アポロン・ソードの軍事利用の全面許可。ライトセーバーという用語の公式使用権。公開デモの許可。米軍正式採用への法務障害の完全除去。ディズニー側のブランド協力。……そして何より、ロシアのサイボーグ兵に対する明確な対抗メッセージと、兵士の爆発的な士気向上』

 

『技術的にも、これは単なる近接兵器に留まりません』

 ケンドール博士が、科学の視点から援護射撃をする。

『エネルギー刃の安定化技術、超短距離での指向フィールド形成、高密度熱切断メカニズム、小型電源、そして安全制御システム。……これらをリバースエンジニアリングすることは、「アポロンの矢」全体の研究にも莫大なフィードバックをもたらします』

 

「対サイボーグ兵においても、絶対に必要です」

 国防長官が熱を込める。

「ロシアの強化兵は、通常火器への耐性を極限まで高めている。しかし、アポロン・ソードなら、装甲ごと確実に切断可能です。……接近できれば、ですが」

 

「つまり」

 ヘイズは、ため息をついて結論をまとめる。

「戦術的には限定的(接近戦のみ)でも……戦略的、そして心理的(プロパガンダ的)には、非常に大きな価値があるということね」

 

「はい」

 アルファが頷く。

 

「……でも、永久免除なんてどうやって法案を通すのよ」

 ヘイズが、財務長官を睨む。

 

「完全な『連邦税永久免除』という表現は、絶対に避けるべきです」

 財務長官は、あらかじめ用意していた『抜け道』の資料を展開した。

「ただし……『国家安全保障協力企業』として認定し、複数の控除制度を組み合わせることで、実質的に近い効果を捻出することは可能です」

 

 ・国家安全保障協力企業特別控除

 ・防衛関連知財協力補償

 ・ブランドリスク補償契約

 ・連邦調達優遇

 ・研究開発税額控除の特別拡大

 ・軍事広報協力費の名目での助成

 ・長期ライセンス料の税額相殺

 

「……表向きは、連邦税の永久免除ではない」

 司法長官が、書類を確認しながら言う。

 

「しかし実質は、それに限りなく近い恩恵を与える」

 商務長官が唸る。

 

「つまり、言い方(名目)を変えただけの、永久免除ね」

 ヘイズは、呆れたように言った。

「強欲ね」

 

『しかし、交渉としては極めて合理的です』

 アルファが評価する。

 

「あなた、今日そればっかりね」

 ヘイズは、ジト目で画面のアルファを睨んだ。

 

 ヘイズ大統領は、深く、重い沈黙に陥った。

 

 彼女はここまで、万象器による市場の崩壊、ドバイのミラージュ・コア、中国の仙人、ロシアのサイボーグ兵、EUのヘルメス協会を見てきた。

 アーティファクト時代において、アメリカもまた、目に見える『強力な手札』を増やさなければならない。

 

 アンデスの小箱は素晴らしい。FTL(超光速航行)の基礎理論は、文明史的には最重要の宝だ。

 だが……それは「論文」であり、今すぐ目の前で迫り来るロシアのサイボーグ兵の首を跳ね飛ばしてくれるわけではない。

 

 アポロン・ソードは違う。

 目に見える。兵士が直接持てる。敵に見せつけて威圧できる。国民にも分かりやすい。

 そして、その名前(ライトセーバー)の持つブランド力は、世界中の誰もが知っている絶対的なものだ。

 

「……よりによって、これがこんなに有用なのが、腹立たしいわ」

 ヘイズは、額を押さえて呻いた。

 

「有用です」と国防長官。

「非常に」とケンドール博士。

「極めて」とアルファ。

 

「全員で、私を追い詰めないで」

 

 長い、長い沈黙の後。

 

「……ぐぬぬ」

 ヘイズ大統領は、奥歯をギリギリと鳴らし、深く息を吐き出した。

 

「仕方がない」

 

 会議室が、静まり返る。

 

「……認めましょう」

 

 財務長官が、一瞬だけ「ああ、やってしまった」という苦い顔をした。

 

「ライトセーバーのライセンスが、それで借りられる(堂々と使える)なら、それで良いわ」

 ヘイズは、大統領としての苦渋の決断を下した。

「軍事利用全面OK。用語使用OK。公開デモOK。正式採用OK。……これで、アメリカ軍の士気も爆上がりするでしょう」

 

「間違いなく」

 国防長官が、ガッツポーズを抑えながら答える。

 

「その代わり、契約条件は可能な限り『国家安全保障への貢献』という名目に美しく整理しなさい」

 ヘイズは、財務・法務チームに厳命する。

「『大統領、ディズニーの税金を消しました』なんていう見出しだけは、絶対に避けなさいよ」

 

「努力します」

「努力じゃなくて、やりなさい!」

 

 ヘイズは、疲労困憊して椅子の背もたれに深く寄りかかり、自嘲するように笑った。

 

「……私はね、少し前まで、自分が『世界経済を壊した大統領(チャイナ・ショックの引き金)』として歴史に名が残ると思っていたわ」

 ヘイズは、天井を見上げて言う。

「ロシアのサイボーグ騒動の時は、本気でそう思った。……でも、違ったかもしれない」

 

 ヘイズは、皮肉な笑みを深めた。

「私は……【ライトセーバーをアメリカ軍に正式採用した大統領】として、歴史に名が残りそうね……」

 

 会議室に、何とも言えない微妙な、同情と笑いが入り混じった空気が流れた。

 

「少なくとも、後世の学生にとっては、覚えやすい大統領になるでしょう」

 国務長官が、真顔でフォローにならないフォローを入れる。

 

「慰めになってないわよ」

 

『歴史的認知度は、建国以来の大統領の中でも極めて高くなると推測されます』

 アルファが、無駄に正確な予測を挟む。

 

「あなたも黙って」

 

『技術史には、確実に不朽の名を残しますよ』

 ケンドール博士が、小さく咳払いをして励ます。

 

「博士まで」

 

 再び、極秘会議施設。

 政府の交渉団は、ディズニーの最高法務責任者と向かい合っていた。

 

「大統領は……貴社との包括ライセンス契約を進める、という判断を下しました」

 司法長官が、疲れた声で告げた。

 

 ディズニーの最高法務責任者は、穏やかに、勝利の笑みを浮かべて頷いた。

「賢明なご判断です」

 

「ただし、『連邦税永久免除』という露骨な文言は使えません」

 財務長官が、必死の抵抗を試みる。

「国家安全保障協力企業特別控除、長期補償契約、ライセンス料の税額相殺などを組み合わせた、実質的なスキームとなります」

 

「文言にはこだわりません。……実質(金額)にこだわります」

 ディズニー側は、余裕の態度で受け入れた。

 

 最終的に。

【国家安全保障用ライトセーバー包括ライセンス契約】が、正式に締結された。

 

 装備の正式名称は、『AS-01《アポロン・ソード》』。

 公式一般呼称は、『ライトセーバー』。

 

 米軍による全面的な軍事利用、および公開プロモーションの許可。

 その代償として、アメリカ政府は、一企業に対して実質的な連邦税免除に近い天文学的な特別措置と、商品化の優先権を与えた。

 

 政府側の代表が、契約書に重い手つきで署名する。

 ディズニー側の最高法務責任者が、流れるようなサインを記す。

 

「これで、アメリカ合衆国政府は、『ライトセーバー』という呼称を公式に、堂々と使用できます」

 最高法務責任者が、握手を求めながら言った。

「軍事利用も、契約範囲内であれば一切問題ありません。……弊社ブランドを守りながら、国家の安全保障に貢献できることを、光栄に思います」

 

「……ありがとうございます」

 司法長官は、引き攣った笑顔で握手を返した。

 

 政府側の人間は皆、心の中で思っていた。

(勝ったのか。……負けたのか)

 

 答えは明白だった。

 負けたのだ。完膚なきまでに。

 

 しかし……アメリカ軍は、ついに『ライトセーバー』を手に入れたのだ。

 

 ホワイトハウス地下。

 

「契約、基本合意および署名完了です」

 司法長官からの報告に、ヘイズ大統領は大きくため息をついた。

 

「……勝ったの?」

 

「軍事的には、大勝利です」と国防長官。

「財政的には、敗北です」と財務長官。

「交渉的にも、敗北です」と商務長官。

 

『総合評価:極めて有用な敗北です』

 アルファが総括する。

 

「つまり、負けたのね」

 誰も、大統領の言葉を否定しなかった。

 

「分かったわ」

 ヘイズは、気持ちを切り替えるようにパンッと手を叩いた。

「次は、公開(会見)の準備ね。……どうせ、この情報はすぐに世界中に漏れて騒ぎになる。なら、こちらから先に言ってやるわ」

 

 広報官が、慌ててメモを取る。

「大統領、スピーチの草案を至急準備します」

 

「冒頭のセリフは、こうよ」

 ヘイズ大統領は、少しだけ悪戯っぽく、しかし超大国のトップとしての威厳を持って笑った。

 

「『我々は、新たなアーティファクトを入手しました。

 ……正式名称は、アポロン・ソード。

 しかし皆様には、こう言った方が早いでしょう。

 ――【ライトセーバー】、とね』」

 

 周囲の長官たちが、その開き直った強烈なスピーチ案に絶句する。

 

「……強いです」

 広報官が、冷や汗を拭いながら呟いた。

 

「ディズニー側の事前確認は取りますか?」

 司法長官が、ビクビクしながら聞く。

 

「今回は、言った後に事後承諾を取るわよ」

 ヘイズは、最後に一矢報いるように言い放った。

 

 セレスティアル・ウォッチの研究施設。

 

 厳重にプロテクトされた専用ケースの中に、銀色に輝く『AS-01《アポロン・ソード》』の試作機が収められている。

 

 ケースの横に貼られたラベルには、こう印字されていた。

 

『AS-01 APOLLO SWORD

 Licensed Cultural Designation: LIGHTSABER』

(文化呼称ライセンス認可済:ライトセーバー)

 

 ケンドール博士は、そのラベルを見て、心底疲れたようにため息をついた。

 

「……本当に、あの契約を結んだんだな」

 

『しました』

 モニター越しのアルファが答える。

 

「我々は異星の超技術を扱っているはずなのに……今日は、アーティファクトの暴走よりも、ディズニーの契約書の方が何倍も恐ろしかったよ」

 

『それが、アメリカ文明の最大の特徴(強さ)です』

 アルファは、平然と言った。

 

 ホワイトハウスの執務室。

 ヘイズ大統領は、机の上に置かれた公開会見の原稿に目を落としていた。

 そこには、赤字で大きく【LIGHTSABER】と書かれている。

 

 ヘイズは、しばらくその文字を見つめ。

 そして、どうしようもなくおかしくなって、肩を震わせて笑い出した。

 

「……世界経済を壊した大統領じゃなくて。

 ライトセーバーを正式採用した大統領、か」

 

 ヘイズは、原稿を指先で弾き、窓の外のワシントンの空を見上げた。

 

「……本当に、人生って分からないわね」

 

 アメリカ合衆国政府は、エンタメ企業の法務部との交渉に敗北した。

 だが、その途方もない敗北の代金(税収)と引き換えに。……世界で最も有名な光の剣を、堂々とその名で呼び、実戦投入する【権利】を手に入れたのだ。

 

 次に待っているのは。……世界中が度肝を抜かれる、狂乱の正式発表(お披露目)である。

 

 




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