銀河皇帝のスペアに転生した元社畜、地球軌道上の要塞でネトゲ三昧の隠居生活を満喫する 〜足元では超大国が滅亡級の異星遺産を巡って暗躍中ですが、主人公(ぼく)の命は絶対安全なので特等席で傍観します〜   作:パラレル・ゲーマー

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第85話 光る剣と、ネタバレ禁止の編集長

 首相官邸地下。既存技術外事象評価セル、特別防音会議室。

 正面の巨大スクリーンには、アメリカのキャサリン・ヘイズ大統領による記者会見の録画映像が、一時停止された状態で大写しになっていた。

 

 画面の中では、ジェダイ風のローブを模した(明らかに狙ったデザインの)式典用防護服を着た米軍の技術兵が、短い金属の筒から【青白い光の刃】を起動させている。

 

 室内に漂うのは、恐怖でもなく、焦燥でもなく……何とも言えない、居心地の悪い沈黙だった。

 

 最初に口を開いたのは、矢崎総理だった。

「……ライトセーバーは、さすがに驚きましたね」

 

「驚いた、という言葉で済ませてよいものか迷いますな」

 官房長官が、こめかみを押さえながら深くため息をついた。

「まさか超大国の軍隊が、ハリウッド映画の小道具をそのまま実戦配備して、大統領が『ライトセーバー』と公式に呼称する日が来るとは。世界の終わりよりも想像しにくい光景でしたよ」

 

「しかし、あれは兵器として極めて有用です」

 防衛大臣は、政治的な体裁よりも純粋なスペックに目を輝かせ、前のめりになっていた。

「ロシアのサイボーグ兵対策としてはもちろん、強固な装甲扉の突破、対テロでの閉所戦闘、あるいは崩落した地下施設での災害救助。……『絶対に切断できる近接工具』としての用途は、いくらでもあります。一見ふざけているようで、実態は完全なゲームチェンジャーです」

 

 科学技術担当の幹部も、興奮気味にタブレットを操作している。

「刃の先端処理のメカニズムが全くの不明です。なぜ、プラズマの刃が『一定の長さ(約一メートル)』でピタリと止まるのか。切断面の熱分布はどうなっているのか。

 何より……あの柄のサイズから考えて、あれだけのエネルギーを連続出力できる電源(あるいはエネルギー供給方式)が、現在の地球の技術では到底説明できません。喉から手が出るほど見たいです」

 

「笑える見た目ですが、極めて凶悪な現実の兵器です」

 沖田室長は、一切の感情を交えずに冷徹に分析した。

「しかも、アメリカはこれを隠匿せず、あえて大々的に公開した。……これは、ロシアのサイボーグ兵に対する『我が国には対抗手段がある』という強烈な【抑止力】の誇示でもあります」

 

 矢崎総理は、少しだけ苦笑して肩をすくめた。

「実は、あの会見の直後に、ヘイズ大統領から私のホットラインに直接、電話があったのよ」

 

 室内が少しざわついた。

「アメリカから、ですか」外務省担当が反応する。

 

「ええ。正式な情報共有(事前通告)と、今後の限定的な技術協議についてね」

 総理は、手元のメモに目を落とした。「ただ、最後に彼女……少しだけ、愚痴をこぼしていたわ」

 

「愚痴、ですか」と官房長官。

 

「あの発表の後。……アメリカ全土の若者たちから、米軍の各リクルートセンターへの【志願の問い合わせ】が、回線がパンクするほど急増しているそうよ」

 

 防衛大臣が、思わずフッと笑った。

「まあ、増えるでしょうな」

 

「理由は、おそらく……」と総理が言葉を濁すと。

 

「『自分もライトセーバーを持ちたいから』、ですか」

 沖田が、身も蓋もない真実を代弁した。

 

 総理は頷いた。

「ヘイズ大統領は、頭を抱えていたわ。『アメリカ軍はジェダイの養成所ではない!』って、電話口で怒鳴っていたもの」

 

「ですが、世間(若者)は完全にそう見ますな」と官房長官。

 

「動機はともかく、軍の士気と人材確保という面では、大いにプラスでしょう」

 防衛大臣が評価する。

 

「ええ。動機としては不純極まりないですが……士気(熱狂)としては最強です」

 沖田も、そのプロパガンダ効果を認めざるを得なかった。

 

「ヘイズ大統領も、そこを完全には否定できず、相当困っている様子だったわ」

 総理は、同盟国のトップの胃痛を想像して少しだけ同情した。

 

 防衛大臣が、画面の青白い光の刃をじっと見つめながら、ポツリと言った。

 

「……自衛隊にも、欲しいですな」

 

 官房長官が、即座に嫌そうな顔をして顔をしかめた。

「……言うと思いましたよ、大臣」

 

「いや、単なるロマンや冗談ではありませんよ!」

 防衛大臣は、慌てて実用性をアピールし始めた。

「災害救助用途だけでも、計り知れない価値があります! 震災時の崩落したビル群の瓦礫、変形して開かなくなった装甲扉、地下施設の障害物、太い構造材。……これがあれば、火花や騒音を最小限に抑えて、一瞬で救助ルートを切り開ける。『高性能切断工具』として見れば、自衛隊にとって非常に有用です」

 

「確かに、救助用途という名目であれば、世論への説明や予算要求もしやすいかもしれませんね」

 科学技術担当が、少し乗り気で同意する。

 

「ただし、日本が導入する場合、その『名称』が最大の問題になります」

 沖田が、冷徹に釘を刺す。

 

「国会答弁用に、『光刃式多目的切断装備』などという堅い名前をつければ良いのでは?」

 官房長官が提案する。

 

「無駄です」と防衛大臣。「どうせ国民もメディアも、全員が『ライトセーバー』と呼びますよ。自衛隊ジェダイ部隊誕生、とか書かれます」

 

「……でしょうね」

 総理がため息をつく。

 

「いずれにせよ、米国からの技術供与(あるいは現物の販売)は、当面は難しいと思われます」

 沖田が、現実的な見通しを語る。

「現時点では、米軍の特殊部隊向けの限定評価装備という位置付けです。アポロンの矢の技術を応用しているとはいえ、量産体制がどこまで整うかも不透明です」

 

「ただ、将来的に、アメリカが西側諸国(同盟国)へ向けて、これを限定供与する可能性はあります」

 外務省担当が、外交カードとしての価値を指摘する。

「アメリカは、この兵器を『同盟の絆の強さ』を示すプロパガンダとして使うかもしれません」

 

「その時は、日本も絶対に手を挙げるべきです」

 防衛大臣が熱く語る。

 

「……国会で、野党に向かって何と説明するつもりですか」

 官房長官が、胃の辺りを押さえた。

 

「災害救助用・高性能切断装備です!」

 防衛大臣が胸を張る。

 

「それで、通るでしょうか……」総理が不安げに言う。

 

「あの映像が世界中に出回った時点で、無理です。『総理は自衛隊を宇宙戦争に派遣する気か!』と糾弾されて終わります」

 沖田が、身も蓋もなくバッサリと斬り捨てた。

 

 少しの雑談めいたやり取りの後。

 矢崎総理は、画面の中で光る青白い刃を見つめたまま、最も根本的な疑問を口にした。

 

「しかし、不思議ですね」

 

 総理の声に、会議室の空気が再び引き締まる。

 

「……地球外のアーティファクト(未知の兵器)が。……地球の、あそこまで有名な『創作物(映画の小道具)』と、完璧にそっくりな形で存在しているなんて。

 ……本当に、ただの偶然なのでしょうか」

 

「形状として、『携行型の高密度エネルギー刃』という合理性はあります」

 科学技術担当が、物理的な観点から答える。

「『剣』という形は、二足歩行の人型生物にとって最も扱いやすく、洗練された近接武器の形態です。宇宙のどこでも、最終的にこの形に行き着く可能性はあります」

 

「ただ……あの特徴的な『ブゥン』という起動音や、見た目のディテールまで完全に似ているとなると……」

 外務省担当が、疑問を呈す。

 

「アメリカ政府の公式見解(会見のQ&A)では、『人類の文化的想像力の中に存在した概念と、異星の技術が、偶然にも一致した』と、苦しい説明をしていましたが」

 

「便利な言い方ですな」

 官房長官が鼻で嗤う。「ディズニーの法務部を黙らせるために、裏でどれだけ詭弁を弄したことか」

 

「……偶然にしては、あまりにも出来すぎています」

 沖田が、鋭い視線を画面に向ける。

 

「やはり、そこが気になりますね」

 総理が頷いた、その時だった。

 

 ガチャッ、と。

 特別会議室の重い防音扉が、ノックもなしに開かれた。

 

「いやー、どうもどうも!」

 

 扉の向こうから、いつものようによれたスーツを着こなし、片手にパンパンに膨らんだ紙袋を提げた男が、軽い足取りで入ってきた。

 

「ライトセーバーで、大いに盛り上がってますねえ!」

 

 月刊ムー編集長、三神。

 

 矢崎総理は、待っていましたとばかりに立ち上がりかけた。

「三神編集長! ちょうど、あなたの意見を聞きたいと思っていたところです」

 

「でしょうね」

 三神は、にこやかに笑いながら、空いている席にどっかりと腰を下ろした。

「アメリカ政府が、『法務処理済みライトセーバー』を堂々と世界に発表した歴史的な日ですからね。私も絶対に呼ばれると思って、資料を準備してきましたよ」

 

「……『法務処理済みライトセーバー』という単語を、当たり前のように国家の会議室で使わないでください」

 官房長官が、顔をしかめる。

 

「しかし実際、そういう裏取引の産物ですからね」

 三神は、紙袋をテーブルに置き、モニターの映像を見上げた。

 ジェダイ風の米兵が、装甲板を切断している映像。

 

「いやあ、本当に公式に出しましたねえ。アメリカも、なりふり構っていられないということでしょう」

 三神は、心底楽しそうに目を細めた。

 

「三神編集長。……どういうことなんでしょうか」

 総理が、単刀直入に切り込んだ。

「ライトセーバーが、あんなにそっくりな形で現実に存在するなんて。……本当に、偶然なのですか?」

 

 三神は、あっさりと首を横に振った。

 

「いえいえ。そんなことはないですよ」

 

 室内の空気が、ピリッと変わった。

 

「……つまり、何か明確な【理由】があるということですか」

 沖田室長が、獲物を狙う鷹のような目で三神を見る。

 

「実はですね」

 三神は、もったいぶるように声を潜め、テーブルに身を乗り出した。

「『スター・ウォーズ』という作品は――」

 

 総理たちが、息を呑んで次の言葉を待つ。

 

「――」

 

 三神は、ふと、何かを思い出したように言葉をピタリと止めた。

 そして、数秒の沈黙の後。

 

「……いや。これは、【ネタバレ】になりますね」

 

 三神は、パタパタと手を振って、自らの言葉を取り消した。

 

「…………は?」

 総理たちが、完全に固まった。

 

「ネタバレ?」

 矢崎総理が、理解できないというように聞き返す。

 

「国家安全保障に関わる超重要情報を、映画の『ネタバレ』扱いで隠さないでください!」

 官房長官が、怒りで顔を真っ赤にして叫んだ。

 

「いえいえ、これは人間として(編集者として)非常に大事なことですよ」

 三神は、全く悪びれることなく、真顔で反論した。

「『初めて知った時の驚き(感動)』というものは、人生に一度しか味わえないんです。……私がここで、横から無粋に答え(宇宙の真実)を言ってしまうのは、少々野暮というものでしょう」

 

「なんですかもう!」

 総理が、珍しく声を荒げて机を叩いた。

「スター・ウォーズという作品に、地球外テクノロジーに関わる『重大な秘密』があるのは間違いないけれど、今は明かせない(言いたくない)ということですか!?」

 

「ええ。そういうことです」

 三神は、ニッコリと笑った。

「あとのお楽しみ、ということで」

 

「……あなた、本当に扱いに困る人ですね」

 沖田が、殺意すら覚えるような冷たい目で三神を睨む。

 

「よく言われます」

 三神は、どこ吹く風で受け流した。

 

「どうしても、言えませんか?」

 総理が、すがるように食い下がる。

 

「言えないというより、今ここで私が言ってしまうのは『もったいない』んですよ、総理」

 三神は、少しだけ真面目なトーンになって言った。

「物語には、開示されるべき『順番』というものがあります。……早すぎる答えは、人間の理解力(想像力)を鈍らせる。

 今の日本政府に必要なのは、『答えそのもの』を与えられることではなく。……答えに辿り着くための【正しい問い(視点)】を持つことです」

 

「詩的な言葉で、絶妙に誤魔化していますね」

 沖田が冷たく指摘する。

 

「誤魔化してはいません。今は伏せているだけです」

 

「それが余計に腹立たしい(悪い)のよ!」

 総理がため息をつく。

 

「まあまあ」

 三神は、両手を広げて場を宥めた。

「スター・ウォーズの秘密(史実性)については、いったん横に置きましょう。……私が今日ここに来た本題は、そこではありません」

 

 三神は、テーブルに置いた紙袋の中から、ドサッ、と大量の資料を取り出した。

 

 古い、日に焼けた雑誌。

 特撮ヒーロー番組の分厚いムック本。

 大学の神話研究のコピー資料。

 地方の妖怪伝承をまとめた民俗学の論文。

 昭和のSF映画のパンフレット。

 ……そして、束になった【月刊ムー】のバックナンバー。

 

 総理たちが、それを見て一斉に嫌な予感を覚えた。

 

「……重要なのは、ライトセーバーそのものではありません」

 三神は、資料の山をポンと叩いて言った。

「アメリカが手に入れた『本物のアーティファクト』が、地球の有名な『創作物(映画)』と酷似していた。

 ……ならば、我々は【逆】も考えるべきです」

 

「逆?」

 沖田が眉を寄せる。

 

「ええ」

 三神の目が、鋭く光った。

「我々が、ただの『創作(フィクション)』だと思っているものの中に。……過去のアーティファクト、地球外技術、あるいは異星文明との接触の【記憶(記録)】が、紛れ込んでいる可能性です」

 

 室内が、シンと静まり返った。

 

「創作物を……国家の安全保障上の情報源(インテリジェンス)として扱うと?」

 防衛大臣が、信じられないというように言う。

 

「全部を真に受けて信じろ、とは言いません」

 三神は、編集者としての現実的な線を引く。

「それでは、ただの狂った陰謀論です。

 ……しかし。もう、完全に切り捨てて無視できる時代でもなくなった。

 

 神話、民話、特撮、SF小説、漫画、アニメ、都市伝説。……そして、オカルト雑誌。

 それらの中に、人類が過去に目撃した『地球外技術(事実)の断片』が、形を変えて混じっている可能性がある」

 

「……本当に、そういう時代になってしまったのですか」

 官房長官が、深い絶望を込めて天を仰いだ。

 

「なりました」

 三神は、残酷に肯定した。

 

 矢崎総理は、頭を抱えて机に突っ伏した。

 

「……つまり。我々日本政府は今後、映画や漫画や特撮番組も、『アーティファクト探索の公式な機密資料』として、真面目に分析(視聴)する必要があるということ?」

 

「可能性としては、大いにありますね」

 三神が頷く。

 

「国会で、野党に何と説明すればいいのですか!」

 官房長官が叫ぶ。「『総理は執務室で特撮ビデオを見て遊んでいる!』と追及されますよ!」

 

「“文化的異常情報の解析業務”とでも名付ければよろしいのでは?」

 沖田が、冷徹に官僚用語をひねり出す。

 

「先ほどまで、自衛隊にライトセーバーが欲しいという極めて軍事的な話をしていたはずなのに……なぜ急に、特撮資料や民話の調査に話が飛ぶのですか!」

 防衛大臣が、話の落差に混乱する。

 

「しかし、無視はできません」

 科学技術担当が、真面目な顔で三神の提案を支持した。

「もし、創作物の中に、現実にはあり得ない『技術的特徴』が先行して極めて正確に描かれていた場合。……その背後に、アーティファクト由来の情報流入(オーパーツの目撃や、未知の電波の受信)があった可能性は否定できない」

 

「各国も、ライトセーバーの一件を受けて、間違いなく同じことに気づき、同じことを考えるでしょう」

 外務省担当が、国際競争の視点を入れる。

「創作物、神話、民話の再評価(アーティファクト情報の抽出)は……これから、インテリジェンス機関の新たな【国際競争(宝探し)】の主戦場になる可能性があります」

 

「……文化庁の案件であり、内閣情報調査室の案件であり、防衛省の案件でもある、ということね」

 総理が、顔を上げて言う。

 

「非常に嫌な、面倒くさい複合案件ですな」

 官房長官が胃を押さえる。

 

 沖田室長は、すでに切り替えを終え、ホワイトボードの前に立ってマーカーを構えた。

 

「調査対象の範囲を、大まかに整理しましょう」

 

 沖田は、スラスラとリストを書き出していく。

 

【調査対象候補】

 

 1.神話・古典

(古事記、日本書紀、風土記、各地の神社縁起、仏教説話、山岳信仰、鬼・天狗・龍・狐・蛇神の伝承)

 

 2.民話・怪談・妖怪

(各地方の妖怪譚、座敷童、河童、天狗の隠れ里、神隠し現象、異界への入口、海底宮殿、光る石・鳴る石・空飛ぶ船の伝承)

 

 3.近現代オカルト

(UFO目撃談、超古代文明説、失われた遺跡、霊能者の記録、昭和のオカルト特番、オカルト雑誌……)

 

 4.創作文化

(戦後SF小説、特撮、ロボットアニメ、変身ヒーロー、魔法少女、怪獣映画、漫画、ゲーム、作家が「夢で見た」と語る裏設定……)

 

 5.物品・古道具

(古い刀剣、鏡、勾玉、神社のご神体、旧家の蔵の品、博物館の未分類資料、個人コレクターの所蔵品……)

 

「…………」

 ホワイトボードを埋め尽くすリストを見て。

 官房長官が、完全に絶句した。

 

「……範囲が、広すぎます」

 

「地球外技術(アーティファクト)は、こちらの都合に合わせてジャンル分けしてくれませんからね」

 三神が、肩をすくめて言う。

 

 そして、三神は、テーブルの上の紙袋から、誇らしげに『大量の古い雑誌』を取り出して並べた。

 

「とりあえず。内調の皆様のテキスト解析の助けになるかと思いまして……【月刊ムー】のバックナンバー(過去五十年分)の目録を、お持ちしました」

 

「まさか……それを、正式な国家資料にするおつもりですか?」

 官房長官が、引き攣った顔で後ずさる。

 

「今までよりは、ずいぶんと『価値(信憑性)』が上がったでしょう?」

 三神は、ニヤニヤと笑う。

 

 沖田室長が、極めて真面目な、殺気立った顔で言った。

「完全に否定しきれないのが、心底嫌ですね」

 

「『月刊ムー』が、国家安全保障資料として官邸地下に積まれる日が来るとは……」

 矢崎総理が、遠い目をして呟いた。

 

「いやあ、編集長としては、感慨深いものがありますねえ」

 三神が、しみじみと胸を張る。

 

「感慨深くならないでください!」

 官房長官が吠える。

 

「……この大量のオカルト雑誌は、防衛省の機密資料室に置くことになるのでしょうか」

 防衛大臣が、防衛省の権威が崩れ去るのを危惧して問う。

 

「できれば、置きたくありませんな」

 官房長官が即座に拒否する。

 

「しかし、過去記事のキーワード抽出と、異常画像のパターン解析くらいは、AIを使って徹底的に行うべきです」

 科学技術担当が、ノリノリで提案する。

 

「……本当に、ムーを正式な資料として置く流れになっている……」

 総理が、頭を抱えて呻いた。

 

「いずれにせよ、専門の横断チームが必要です」

 沖田が、現実的な組織作りに話を戻す。

「内閣情報調査室(内調)だけでは、とてもマンパワーが足りません。

 文化庁、防衛省、科学技術担当、外務省。さらに、国立国会図書館の司書、博物館の学芸員、神社本庁の歴史学者、大学の民俗学研究者、そして……民間のオカルト研究者。

 場合によっては、著名な創作者本人や、出版社にも『国家機密として』協力を求める必要があります」

 

「関係者の範囲が広すぎます。情報統制が不可能です」

 官房長官が、再び胃を押さえる。

 

「広いからこそ、日本向き(日本が有利)なんですよ」

 三神が、力強く言った。

「日本は、世界でも類を見ないほど『創作文化(サブカルチャー)』と『土着の伝承』の蓄積が厚い国です。

 神話、民話、特撮、漫画、ゲーム、オカルト。……アーカイブされている情報量と多様性においては、間違いなく世界有数でしょう」

 

「それが、安全保障上の強み(アドバンテージ)になると?」

 防衛大臣が問う。

 

「なるかもしれません」

 三神は、真顔で頷いた。

 

 矢崎総理は、少しの間、沈黙して考えていた。

 

「……予算名(プロジェクト名)はどうしますか」

 官房長官が、現実的かつ政治的な最大の問題を提起した。

「国会の予算委員会で、『漫画・アニメ・特撮からアーティファクトを探す事業に、何百億円つけます』などと、馬鹿げた文言を書けるはずがありません」

 

「絶対に国会で燃え上がります」

 総理が断言する。「『総理の趣味に税金を使うな!』と大炎上よ」

 

「では、『既存技術外文化情報解析事業』というのはどうでしょう」

 沖田が、お役所言葉で提案する。

 

「『異常文化情報抽出・照合プロジェクト』」と科学技術担当。

 

「『歴史的文化資料における、非通常技術記述の国際比較調査』」と外務省担当。

 

「……どれも、長くて意味が分かりませんな」

 防衛大臣がボヤく。

 

「『月刊ムー国家安全保障計画』」

 三神が、ドヤ顔で提案した。

 

「「「「却下」」」」

 会議室の全員(総理含む)の声が、見事に重なった。

 

「ええー。キャッチーで良いと思ったのですが」

 三神が不満そうに口を尖らせる。

 

「良くありません」

 官房長官が切り捨てる。

 

「略称が『ムー安保』になるのは、国家の威信に関わります。危険です」

 総理も、真顔で却下した。

 

 わちゃわちゃとした政治コメディのような空気が流れる中。

 

 三神編集長が、急に、スッと声のトーンを下げて、少しだけ真面目な顔になった。

 

「……実はですね」

 

 その声色の変化に、総理たちの表情がサッと引き締まる。

 

「日本にも、少し気になる【創作と現実の一致】があるんですよ」

 

「……何ですか」

 総理が、身を乗り出して問う。

 

「まだ、完全な確証はありません」

 三神は、手元の資料の束をポンと叩いた。

「ただ。……昭和の時代に放送された『ある特撮作品』に出てくる巨大な装置の描写と。

 某地方の神社の奥深くに秘匿されている古文書に記された、『光る箱』の伝承の記述が。……妙に、恐ろしいほど細部まで【一致】していましてね」

 

「またですか」

 沖田室長が、深い疲労を込めてため息をつく。

 

「ええ。また、です」

 三神は、口角を上げた。

 

「どの地方ですか。特撮作品のタイトルは」

 科学技術担当が、メモを取ろうとペンを構える。

 

 三神は、人差し指を口に当てて、シーッと制した。

「それは、私がもう少し調査資料を整理して(裏を取って)から、ということで」

 

「またネタバレ(出し惜しみ)ですか」

 官房長官が呆れる。

 

「いえ、今回は本当に裏取り前(取材中)なだけです」

 三神は笑う。「間違った情報で自衛隊を動かすわけにはいきませんからね」

 

「どちらにせよ……近い将来、また胃が痛くなる案件が控えているということですね」

 総理が、こめかみを押さえた。

 

 矢崎総理は、しばらく黙ってホワイトボードのリストと、机の上の月刊ムーの山を見つめていた。

 

 そして、決断を下した。

 

「……分かりました」

 総理は、顔を上げ、力強い声で宣言した。

「我が国に眠る、創作物と伝承の【再調査】を開始しましょう」

 

 官房長官が、深く、長く息を吐いた。

「……本気ですか、総理」

 

「ええ」

 総理は頷いた。

「アメリカがライトセーバーを現実に持ち出してきた以上。もう、これは『絵空事』として無視できません。

 神話や創作物の中に、過去のアーティファクトや地球外技術の記憶が混ざっている可能性がある。……それを、アメリカや中国、ロシアに先に分析されて(宝の地図を奪われて)しまう前に。日本も、国を挙げて動く必要があります」

 

「では、内閣情報調査室を主導として、合同チームの編成に入ります」

 沖田が、即座に実務へと移行する。

 

「防衛省も、情報本部から人員を参加させます」

「科学技術担当も、強力なAIテキスト解析チームを出します」

「外務省は、各国の類似した文化研究(神話解析)の動向に目を配ります」

 

 各省庁が、異常な調査に向けて素早く連携を始める。

 

「私も、特別顧問として参加しますよ」

 三神が、ニコニコと手を挙げる。

 

「それは、最初から入っているのでしょうな(逃がさない)」

 官房長官が、ジロリと睨む。

 

「残念ながら、そうなります」

 総理も、冷たく同意する。

 

「残念とは失礼な」

 三神が肩をすくめた。

 

 会議が、終わりに近づいた頃。

 

 矢崎総理が、ふと、思い出したようにポツリと呟いた。

 

「……とりあえず」

 総理は、遠い目をして言う。

「週末にでも。『スター・ウォーズ』の全シリーズを、徹夜で見直した方がいいのでしょうか」

 

「国家安全保障上、極めて重要(必要)かもしれませんな」

 官房長官が、大真面目な顔で答える。

 

「防衛研究所の講堂で、幹部を集めて『視聴会(分析会)』を開きますか」

 防衛大臣が、とんでもない提案をする。

 

「資料として公式に扱うなら、公開順と時系列順、さらには初期の劇場公開版と後の特別篇(CG修正版)の『版の違い』も整理しておく必要があります」

 沖田が、インテリジェンスの観点から細かすぎる指摘をする。

 

 廊下へ出ようとしていた三神編集長が、振り返って、親指を立ててウインクした。

 

「順番は、絶対に【公開順】で見るのがおすすめですよ、総理!」

 

「そこは聞いていません!」

 総理がツッコミを入れる。

 

「いや、世界観の理解(感動)のために、順番は大事です」

 三神が笑う。

 

「……誰か、胃薬を」

 官房長官が呻く。

 

 最後に、矢崎総理は深く、深くため息をつき。

 

「……国家安全保障のために、総理大臣が映画や特撮を真面目に見る時代になったのですね……」

 

「はい」

 沖田室長が、無表情のまま、冷酷な事実を告げた。

「そして……それを、もはや『笑えない』時代です」

 

 ライトセーバーの公開は、ただのアメリカ軍の派手な新装備発表では終わらなかった。

 

 それは日本政府に。

『創作と伝承を、安全保障資料として血眼になって読み直す』という。

 あまりにも奇妙で、滑稽で、しかし絶対に無視することのできない、重い宿題を突きつけたのだった。

 

 




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