銀河皇帝のスペアに転生した元社畜、地球軌道上の要塞でネトゲ三昧の隠居生活を満喫する 〜足元では超大国が滅亡級の異星遺産を巡って暗躍中ですが、主人公(ぼく)の命は絶対安全なので特等席で傍観します〜   作:パラレル・ゲーマー

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第86話 星見炉と、取り壊される神社

 首相官邸地下。既存技術外事象評価セル、特別防音会議室。

 

 普段は、世界情勢を揺るがす深刻な危機や、地球外テクノロジーの軍事的脅威について、血の気の引くような議論が交わされるこの無機質な空間に。

 今日ばかりは、どこか奇妙で、シュールで、それでいてひどく真面目な空気が漂っていた。

 

 円卓を囲むのは、矢崎総理、沖田室長をはじめ、内閣情報調査室、防衛省、そして今日は珍しく、文化庁の文化財担当や、文科省の宗教法人関連の連絡担当官までが顔を揃えていた。

 

 そして、彼らの視線が集中する壁面の巨大メインモニターには。

 各国の軍事衛星の映像でもなく、テロリストの声明動画でもなく。

 

 ……色あせた昭和のブラウン管特有の画質をデジタルリマスターした、古びた【特撮番組】のタイトルロゴが、堂々と表示されていた。

 

「……本当に、今日はこれを全員で見るんですか?」

 文化庁の担当官が、周囲の強面な安全保障のプロたちの顔を窺いながら、戸惑いがちに小声で尋ねた。

「その……昭和の、子供向けの特撮番組ですよね?」

 

「ええ。真面目に見ますとも」

 円卓の隅で、一人だけやたらと楽しそうな顔をしている男――月刊ムーの三神編集長が、我が意を得たりと頷いた。

「というか、皆さん。こういう『アーティファクト時代』になってしまった以上、昔の人間が遺した『創作(エンタメ)』を、ただの絵空事だと舐めちゃいけませんよ。……そこには、とんでもない国家安全保障のヒントが転がっているかもしれないんですから」

 

 矢崎総理は、こめかみを軽く押さえながら、ため息をついた。

「……で、今回はどの作品なの?」

 

「昭和四十年代に放送されたカルト的な特撮作品、『星鋼戦隊アストロガード』です」

 三神は、手元のリモコンを操作して説明を始めた。

「今回皆さんに見ていただく問題のシーンは、その中盤のエピソード、第〇〇話ですね」

 

「第〇〇話……?」

 防衛省の幹部が、怪訝な顔をする。

「本当に、そんなピンポイントの回に、我が国の安全保障に関わる事象が描かれていると?」

 

 日本政府の中枢が、昭和特撮の一話を「国家の危機管理案件」として精査する。

 どう考えても狂った光景である。

 

 だが、この会議室にいる全員が。

 あの万象器の騒動や、アメリカが『ライトセーバー』を正式採用したという狂気の世界線を経験してきた後では。……もう、何が飛び出してきても不思議ではないという、半ば諦め混じりの『真顔』になっていた。

 

「まあ、論より証拠です。とりあえず見てみましょう」

 三神が、再生ボタンを押した。

 

 モニターに、チープな、しかし熱意のこもった特撮の映像が流れ始める。

 

『――アストロガード基地、司令室!』

 

 いかにもな銀色のタイツ風ユニフォームを着た隊員たちが、計器類が並ぶレトロフューチャーな部屋で駆け回っている。

 そして、その司令室の中央に。

 部屋の半分を占めるほどの、奇妙な『巨大な箱型の装置』が鎮座していた。

 

「ここです」

 三神が、映像を一時停止した。

「この装置。作中での名称は、【星見炉(スター・ビジョン・リアクター)】と呼ばれています」

 

 三神は、作中の設定を簡潔に解説する。

「設定上は、『宇宙怪獣の襲来を予知するための、巨大な光る箱型の超技術装置』です。

 毎回、怪獣が来る前になると、この箱の内部、あるいは上空にホログラムのように……【星空】、【光の線】、【どこか知らない未来の戦場のような映像】、そして【見知らぬ宇宙船】の断片的なビジョンが浮かび上がるんです」

 

 映像が再開される。

 画面の中で、白衣を着た博士役の俳優が、深刻な顔で叫ぶ。

『おおっ! 星見炉がまた反応したぞ! これは、新たな敵の襲来の予兆だ!』

 

 そこで、三神は映像を完全に停止した。

 

「……これですね」

 矢崎総理が、画面の『星見炉』をじっと見つめて言った。

 

「光る箱。星空の映像。未来の戦場らしきビジョン。そして、敵の襲来予測……」

 沖田室長が、特徴を一つ一つ箇条書きにするように確認する。

 

「しかし、三神編集長」

 文化庁の担当官が、首を傾げる。

「これは、特撮番組によくある『都合の良いレーダー(物語の導入装置)』ですよね? 単なる演出上のガジェットなのでは?」

 

「もちろん、表向きの番組設定としてはそうです」

 三神は、ニヤリと笑った。

「……ですが。問題は、ある地方の寂れた神社に伝わる【御神体の言い伝え】と。……この『星見炉』の描写が、あまりにも【似すぎている】ということなんですよ」

 

 三神は、あえて「この特撮の装置はアーティファクトの予知装置です!」と断定的な言い方はしなかった。

 あくまで、事実としての【奇妙な符合】を提示するに留めた。

 

「予知装置、ということですか?」

 総理が、真剣な顔で問う。

 

 三神は、首を横に振った。

「いやー、そこまで単純な話(未来予知)じゃないんですがね。

 ……ただ、“映像を見る箱”という陳腐なレベルじゃなく。星を映し、異星の戦を見せ、そして……【見た者の夢に強烈な影響を与える】という点までが、その伝承と完全に一致しているんです」

 

 その言葉に、会議室の空気が、スッと変わった。

 

 それまで、どこか「特撮の都市伝説」として半信半疑だった官僚たちが。

【夢に影響を与える】という、人間の認識(脳)に直接干渉するアーティファクト特有の危険なキーワードを聞いて、一気に前のめりになったのだ。

 

「……その神社の『古文書』の記述を、見せていただけますか」

 沖田室長が、声のトーンを落として要求した。

 

「ええ、もちろん」

 三神は、紙袋の中から、古びた和紙のコピー(高解像度のスキャンデータ)と、それを現代語に書き下した翻刻文のプリントを、参加者たちに配った。

 

「私が読み上げましょう」

 三神は、少しだけ会議室の空気を整えるように、低く、落ち着いた声で、古文書の記述を読み上げた。

 

『――星を映す匣(はこ)』

 

『夜、蓋なき箱より青白き光漏れ、異国ならぬ【異星】の戦を映す』

 

『これを見る者……夢にて、天の戦を語る』

 

 会議室は、水を打ったように静まり返った。

 特撮番組の『星見炉』と、江戸時代かそれ以前に書かれたであろう古文書の描写が、不気味なほどに完璧に重なり合っていた。

 

「……本当に、似ていますね」

 矢崎総理が、翻刻文の紙を指先でなぞりながら、唸るように言った。

 

「私が特に気になるのは、“異国ならぬ【異星】の戦”という言い回しです」

 沖田室長が、インテリジェンスの視点から鋭く指摘する。

 

「同感です」

 防衛省の幹部も首を傾げる。

「当時の日本人が……『外国』ではなく、『別の星(宇宙)』という明確なSF的な概念を持って、それを記録に残していたと?」

 

「そこは、翻刻の解釈や、翻訳の揺れにもよりますが」

 三神は、慎重に答えた。

「少なくとも、“海を渡った先の外国の戦いではない。天の彼方、星々の世界での戦い”として、当時の人々が認識し、語り継いでいたことだけは確かです」

 

「後世の人間が、特撮番組を見て面白半分に『脚色』して書き加えた可能性は?」

 文化庁の担当官が、文化財の真贋を疑うプロとして問う。

 

「ゼロではありません」

 三神は、あっさりと認めた。「オカルト界隈では、そういう『逆輸入による捏造』はよくあることです。

 ……ですが。それでも、当時の和紙の材質と墨の年代測定の結果、そして特撮の装置と重なる部分のディテールが、あまりにも多すぎる(出来すぎている)んですよ」

 

 三神は、さらに興味深い『裏話』を補足した。

「それに、その神社では昔から、奇妙な噂が絶えませんでした。

 ……夜中に、誰もいない拝殿の裏から青白い光が漏れていたとか。神主の家系に、妙に『宇宙じみた鮮明な夢』を見る者が出たとか。

 ……極めつけは、戦後、その地元から上京した若者が、自分の見た“変な夢”を元に、テレビの脚本家や特撮の美術関係者になったという噂です」

 

「つまり……その若者が、幼い頃に神社で見た『本物のアーティファクト(星を映す匣)』の記憶を元にして、この特撮番組の『星見炉』をデザインした(作劇に取り入れた)可能性があると?」

 科学技術担当が、ロマンと恐怖の入り混じった顔で言う。

 

「そこまで行くと、さすがに私界隈の『伝聞(都市伝説)』の域を出ませんがね」

 三神は、今回はあくまで断定を避け、言葉を濁した。

 

「……三神編集長。なぜ、その話を【今】、我々(政府)に持ち込んできたのですか?」

 矢崎総理が、核心を突いた。

 

 過去の特撮の元ネタがアーティファクトかもしれない。それだけなら、ただの面白いオカルト話だ。国家の安全保障会議を開く理由にはならない。

 

「よくぞ聞いてくれました、総理」

 三神は、ニヤリと笑った。

 

「通常だったら。……いくら怪しいとはいえ、由緒ある神社の『御神体』ですよ? 我々民間人はおろか、国家権力であっても、迂闊に『調査させろ』と手をつける(接収する)ことは、宗教的にも法的にも極めて難しい案件です」

 

 三神は、ここで最大の【政治的チャンス】を明かした。

 

「ところが。……その地方の神社、氏子の高齢化と過疎化、そして社殿の老朽化と維持費の問題で。

 ……近々、【取り壊される】予定らしいんですよ」

 

「取り壊し……?」

 総理が、目を見開く。

 

「はい。別の大きな神社へ『合祀(ごうし)』される方向で、すでに話が進んでいるとか」

 三神は、指をパチンと鳴らした。

 

「……なら、話は別です。

 文化財の保護、安全保障、そして未知事象の保全という大義名分のもと。……日本政府が、極めて合法的に、かつ穏便に、その御神体を【お預かりする】余地(隙)が生まれます」

 

「なるほど……」

 矢崎総理は、深く頷いた。

「つまり、今なら【合法的に動ける】可能性があると」

 

「取り壊しや合祀の前に動かないと、逆に、その御神体がどこの誰の手に渡るか、全く分からなくなる危険性もありますね」

 沖田が、危機管理の観点から即座に同調する。

 

「そういうことです」

 三神は、真剣な顔で言った。

「今、このタイミングを逃せば。……アーティファクトかもしれないその箱は、ただの『行方不明の御神体』として、裏市場に流れるか、最悪の場合、廃棄物として処分されてしまうかもしれません」

 

「……三神編集長は、どうやってその『取り壊し』というローカルな情報をキャッチしたのですか?」

 内調の幹部が、三神の情報網の広さに呆れたように尋ねた。

 

「いやあ。私のオカルト界隈の『知り合い』がですね、この情報をキャッチしてくれまして」

 三神は、とぼけた顔で答える。

「『日本政府が今、血眼になって国内のアーティファクト(の種)を募集(探索)しているみたいだから、お前のルートで教えてやれ』と」

 

 総理や官僚たちは、改めて三神編集長の背後に広がる、謎に包まれた「情報網」の深さに、軽く引いた。

 だが、今回は深追いはしない。

 

「今は、使える情報はすべて使うべきです」

 沖田が、実務的な判断を下す。

 

「では、政府としてどう動くか、現実的な論点を整理しましょう」

 総理の指示で、各省庁が迅速に法的・政治的なハードルの確認を始めた。

 

「第一に、宗教法人への配慮です」

 文科省の連絡担当官が発言する。

「神社本庁、および地元の氏子会、宮司側の同意は絶対に必要です。国家権力による『強権的な奪取(接収)』という形は、信教の自由の観点からも、世論の反発からも絶対に避けるべきです」

 

「名目は『接収』ではなく、あくまで“国家的文化財の保全対象として、一時的に政府の施設で【お預かり】する”という形が妥当でしょう」

 法務寄りの担当者が、法的な抜け道(落とし所)を提示する。

 

「第二に、文化財・民俗資料としての位置づけです」

 文化庁の担当官が続く。

「仮にそれがアーティファクト(地球外技術)ではなかったとしても、あの古文書と一体の伝承を持つ箱であれば、民俗学的な文化財として非常に高い価値があります。文化庁の保護枠組みを使って、県教育委員会とも調整すれば、政府介入の大義名分は立ちます」

 

「第三に、安全保障上の優先度」

 防衛省の幹部が、厳しい顔で引き取る。

「今の時代、『夢に影響する(精神干渉)』や『星の戦を映す(他星系の情報の受信・投影)』といったキーワードは、決して見過ごすことはできません。

 アーティファクトである可能性が、わずか一パーセントでもあるのなら。……他国に気付かれる前に、絶対に我々が先手を打って確保するべきです」

 

「第四に、対外秘の徹底についてです」

 沖田が、インテリジェンスの観点から釘を刺す。

「まだ、公表はしません。下手に情報が漏れれば、海外のインテリジェンス(特にロシアや中国)が間違いなく興味を持ち、裏から接触を図ってきます。

 特に、アメリカには知られないようにすべきです。彼らに知られれば、『同盟国としての共同調査』という名目で、確実にセレスティアル・ウォッチが割り込んできます」

 

「アメリカへは、まだ共有しませんか?」

 外務省の幹部が、同盟関係を考慮して総理に確認する。

 

「まだしない方がいいでしょうね」

 矢崎総理は、きっぱりと答えた。

 

「まずは、現物確認が先です」

 沖田も同意する。「正体不明のガラクタかもしれない段階で、大国を巻き込む必要はありません」

 

「それが正解ですね」

 三神も、満足げに頷いた。

「何でもかんでもアメリカに報告(共有)してたら……いざという時の、日本の独自の手札(交渉カード)になりませんからね」

 

 矢崎総理は、全員の意見を静かに聞き、頭の中で情報を整理した。

 

「……ありがとうございます」

 総理は、決断を下した。

 

「ぜひ、入手したいですね」

 

 総理の目には、単なるオカルトへの好奇心ではなく、国家の未来を懸けた『為政者の強い意志』が宿っていた。

 

「関係各所へ、直ちに根回しを開始してください。

 ……政府として、極秘裏にその御神体を【お預かりする】方向で動きます」

 

 総理は、明確な指示を飛ばす。

「宗教法人側や地元の方々には、最大限の敬意を払うこと。名目は、あくまで『文化財の保護と保全』です。現地の感情もあるでしょうから、絶対に強引な形(トラブル)にはしないように。

 ……ただし、動くのは最速で。神社の取り壊しと合祀の決定が完全に下る前に、確実に話をつけ(確保し)なさい」

 

「承知しました」

 沖田室長が、即座に動く。

「内閣情報調査室を窓口とし、文化庁、地元警察、そして地元自治体との極秘の調整に入ります」

 

「合祀前の資産整理という名目に落とし込めるか、大至急法的な確認を急ぎます」

 法務担当も、足早に退室の準備を始める。

 

「ええ、それがいいでしょう」

 三神は、政府の迅速な対応に満足そうに笑った。

「あとは……我々が引き取りに行った現物が、本当に“何か(アーティファクト)”だったなら。……かなり面白いことになりますよ」

 

 総理は、浮かれることなく、しかし確かな手応えを感じていた。

 アメリカのライトセーバー。ドバイのミラージュ・コア。

 世界がアーティファクトの力で急速に変わりゆく中。……今度は、「日本が自前で拾える(確保できる)可能性のあるアーティファクト」の情報なのだ。

 

 会議室の官僚たちも、「また厄介事か」という疲労感よりも、「今度こそ、我々(日本)の番かもしれない」という、静かな高揚感と前向きな空気に包まれていた。

 

 会議が終了し、各担当が足早に散っていく中。

 紙袋を抱えて部屋を出ようとした三神編集長が、ふと足を止め、振り返って意味深なことを口にした。

 

「ただまあ……総理」

 

「何ですか?」

 

「もしあれが、本当に伝承通りの『箱』だった場合。……【見る側】にも、それ相応の覚悟が要りますよ」

 

 三神は、少しだけ声のトーンを下げた。

 

「“夢にて天の戦を語る”と、古文書にはありましたからね。

 ……見たら最後、何かしら、精神(魂)を持っていかれるかもしれません。

 特撮の元ネタだったからといって、案外、男のロマンだけじゃ済まない代物かもしれませんよ」

 

「……また、そういう不穏なことを言って脅す」

 矢崎総理は、軽く睨みつけながらも、小さくため息をついた。

「ですが。……行かない(確かめない)わけには、いきませんね」

 

 円卓の上には、昭和の特撮番組の『星見炉』の静止画と、江戸時代の古文書の翻刻文が並べられたままになっていた。

 

 その二つを見比べると。

 やはり、それは単なる偶然の一致とは思えないほど、不気味なほどに似通っていた。

 

 日本の片田舎の、取り壊される運命にある小さな神社。

 そこに眠る御神体は、ただの古い木箱か、それとも、星の彼方の記憶を映し出すアーティファクトか。

 

 日本政府の、極秘の行政ルートを使った『御神体引き取り作戦』が、静かに、しかし最高速度で動き始めていた。

 

 




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