キュルケ嬢とタバサ嬢との決闘騒ぎから、数日が経ち学院の生徒も落ち着きを取り戻したかのような今日この頃、俺は授業をサボタージュし、ギターを片手に近くの森に来ていた。
別に薬草の収集に来た訳では無く、世の無常を感じて無性に発散したい気分になったのだ。
つまりはストレスが溜まったから歌って騒ごうと思っただけだぜ。
思えばロレーヌを決闘という名のフルボッコタイムの翌日から、いつものごとく教室の隅で大人しくしていようと思った矢先である。
どこからともなく現れたキュルケ嬢が「はぁ~いミスタ。昨日は熱い夜だったわね。お元気ぃ?」などと、朝っぱらから艶かしい声で挨拶をかましてくれたあげく、事あるごとに異様に私に着きまとっくるようになったり、友人を介して私の事を色々聞きだそうとしてきたのだ。
モテキ到来!
な訳がない。
そもそも前世を含めてモテた試しのない俺にはどうしてもそんな自信は持てないのである。
しかし、あえて彼女が俺のような暴れるチキンボーイに探りを入れる理由を考えれば、何も浮かばないが、どーせろくでもないことだけは確かである。
原作でも彼女を起因としたトラブルが多くあっただけに、関わり合いになりたくないのだ。
そんなわけで毎日が2人限定学内かくれんぼ大会である。
俺のチキンハートがマグナムトレネードなわけだ。
ストレスではげるぞおい。
また、ストレスの原因はそれだけでは無い。
キュルケ嬢をなんとか撒き、ひとり落ち着いて昼食なんぞを!と思ったら妙に視線を感じ、周りを探ると、そこにはタバサ嬢が今まで読んでいたであろう本から目を離し、私をジっと見つめているではないか!
オーーーマイキーーー!!
タバサ嬢にも完全に目をつけられたと思っていいだろう。
さらに彼女は読んでいた本を閉じ、ソロソロと私に近づいてくるではないか!
これはまずい!と私はそそくさとその場を退散。
そんなことが頻繁に起こる、それでもめげずに毎度の如く即離脱である。
失礼な事は百も承知!
だが肝心なのは彼女達原作キャラとの円滑な人間関係では無く……
俺の命である!
こんな生活を続けている俺がたまにはひとりで、ここ最近溜まりに溜まったストレスを発散したいと思うのは不自然な事ではない。
前世の頃は高校時代から友人達とバンドを組み、文化祭などでそれなりに活躍していたためギターの実力には自信がある。
まぁギターがうまくてもこのハルゲニアの大地では一切役にたたないのだが、そこは趣味もしくは心の安らぎという部分で許して欲しい。
始祖たるブリミルさんも笑って許してくださるだろう。
「らぁ~らぁ~らぁぁぁ~♪」
〈ジャンジャンジャーン〉
本当はエレキギター派なのだが、アコースティックギターしかこの世界にはないのが残念である。
まぁ、電気機器全般がないのだからしょうがない。
いつか作りたいものだ。
将来は貴族なんぞやってるより、音楽楽器専門店でも開いたほうがいいのでは?っと思う自分を許してやってほしい。
ちなみにどうしてわざわざこんな森の中までやってきたか?
ギターとはけっこうな音量が出るし、どうせなら歌も唄いたい。
俺のレパートリーなんて前世のものしかないし、この世界に合うような音楽ではない。
つまりは学院内でできるはずがないのである。
ビートルズが音楽社会に革命を起こしていないからしょうがあるまい。
世界を超えて、生まれて来いジョン!
それにサイレントの魔法を使わず思いっきり歌い時はこうして森にきて演奏するようにしている。
そのほうが気持ちいいしな!
ん?
主人公が森で演奏していると自然と動物達が寄ってきて幻想的な光景になったり?
そんな夢みたいな事があるわけがないでしょう。
むしろ大音量に警戒して動物達は逃げ去っていくさ。
リアルなめんな! 動物の危険認識能力はヒトの数倍だそうだ。
どーでもいい。
迷惑と言えば最近深夜になると途轍もない破壊音がちょくちょく聞かれるようになった。
あの破壊音、予想では間違いなくルイズ嬢の魔法によるものだろう。
深夜に急に爆発音が聞こえたときは、空襲か?っと驚き勇んでベッドの下にもぐりこんだのはいい思い出だ。
ちなみに幸いな事にルイズ嬢との接点は一切無い。
たまに我が友人マリコルヌ君が公爵令嬢が魔法のひとつも使えないなんてと笑い話をしてくれるくらいだ。
一度、遠目で彼女の爆発魔法を見る機会があったが、ハッキリ言って凄まじいの一言である。学院の教師や生徒はなぜ彼女の魔法の特異性に気づかないのか不思議でしょうがない。
まぁ、それがこの世界の常識にのっとった考え方なのだから仕方無いと云えば仕方無いが。
彼女と彼女が来年召還するであろうサイト少年との接点が生涯無い事を祈るばかりである。
それでも、毎晩休むこと無くルイズ嬢が必死に魔法の練習しているのを思うと悲しい気持ちになる。
勿論それでも何もしないのだが。
前述の通り、大事なのは俺の命である。
そんな今日この頃である。
「次は何を歌おうか…」
現実逃避は始まったばかりだ。
その頃魔法学院のテラスにて―
「タバサ、彼は見つかった?」
キュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストーはある1人の少年を探していた。
彼女と共にいるのはつい先々日から友人になったタバサ。
タバサはキュルケからの問いにふるふると首を横に動かすことで応答する。
予断だが、ロレーヌ達一行はその後彼女達の通報により舞踏会での愚行が明るみに出たため、数週間の停学処分になっていた。
この程度の処分で落ち着いたのは、教師陣に事の経緯をキュルケが説明し、その上でロレーヌ達の怪我は必要な処罰だったとキュルケが念を押し、教師人も納得したからである。
怪我の影響で回復薬を使用しても、数日は体を休めないといけないほどの重症であったロレーヌはどちらにせよ自室で休養をとらざる得なかったのだが。
トリステインでは見下されがちなゲルマニア貴族でもキュルケは辺境伯の御令嬢だ。
伯爵級の権威があるので深くはつっついてこなかったのも大きい。
「そう。本当に不思議な方よね?あんな魅力的な紳士がこんな国にいるなんて今までぜんぜん気づかなかったわ。タバサも彼を探しているのでしょう?」
「魔法の使い方が独特。 それに訓練を受けていた形跡もある」
それもあるのよねぇっと相槌を打つキュルケ。
キュルケは一重に彼の決闘時の姿に彼女の『情熱』に火がつき。
タバサは彼のもつ魔法技術に興味が沸いていた。
2人は件の少年、ギムリを探していたである。
ギムリがあの時見せた動き。
威力や効率という部分では風のトライアングルであるタバサ自身の魔法の一つ一つよりは拙いが、魔法の複数同時行使のような動き、風の魔法を身体に纏わせ威力をあげるという、既存の戦闘では見たことも無い戦闘技術、先日、タバサが図書館より借りた『風の魔法の応用技術書』にも載っていなかった魔法をどう身につけたのかという点に純粋に興味が沸き、元来魔法技術を応用させる事が好きなタバサの心根を刺激していた。
「そうね。それにあの男らしい見事な肉体♪『情熱のツェルプストー』の名にかけて私の虜にしてあげるわ!」
「ただのメイジはあそこまで鍛えない…」
タバサは自分が発したその言葉に、ふと考える。
そう、ただのメイジがあそこまで身体を鍛える必要があったのだろうか?
ギムリの肉体は明らかに戦闘を想定しての筋肉だった。
自分も同じく戦闘を想定して訓練しているからこそわかる。
そこで気づく、もしや彼は私とよく似た環境、つまり戦闘をせざるえない境遇にあった人物ではないのだろうかと…
「ギムリ・ド・アッサンブルーム…」
思わずぽつりと呟くタバサにキュルケは、これは珍しいと破顔する。
つい最近友人なったばかりだが、ここ数日で彼女はそこまで他人に興味を示すような人物では無いと感じていた。
そこがまたキュルケのもつ母性に触れたわけだが―
「あら、タバサも彼を狙ってるの?じゃあ恋のライバルじゃない」
「それは無い…」
タバサはタバサで、つい先日友人になったばかりのこの褐色肌の友人は、どこまで頭がピンク色でいっぱいのなのだろう、とため息をついた時、テラスに薔薇を加えた金髪の少年と蒼髪小太りの少年がやってきた。
丁度いいとばかしに、キュルケはギーシュとマリコルヌにギムリがどこにいるのか知らないかと聞いてみたが今日は朝早くからどこかへ出掛けて行ったと言われ落胆した。
そこでキュルケはムリはどういった人物なのかを彼と親しそうな2人に聞いてみた。
「君達ほどの麗しき女性が関心をよせるなんて、意外に罪作りなんだな彼は」
「でもさギーシュ?ギムリってそんな目立つような男かい?」
「ん~そう言われると難しいな、確かにいい肉体してるし、友人としては頼りがいのある人物だが…どうして彼の事を?」
どうして、ギムリに関心を寄せるのかを聞く2人に、キュルケは先日決闘騒ぎの顛末を話そうとしたが、タバサがそれを遮る様に杖をキュルケの口の前に振りかざし、話さないようにし、キュルケもそんなタバサの意図を読み取り、いい体をしているから私の『微熱』が反応しただけよっと誤魔化し、その場を後にした。
「なぁギーシュ、気にならない?」
2人がテラスから消え去った後、おやつのケーキをほおばりながらマリコルヌはギーシュに問いかけた。
「ん?なにが事だいマリコルヌ?」
「あの2人の事さ、何か誤魔化してるみたいだったじゃないか」
「言われてみればそうだねぇ。我が友人ギムリについてだったね」
「これは何かあるね」
「ふふ、面白そうじゃないか。丁度退屈していた所だ。退屈は心の病気の元だからね」
「さっすがギーシュ!ギムリが帰ってきたら色々聞き出さなきゃね!」
「『青銅』のギーシュの名にかけて彼女達がなぜ我が友人ギムリが気になるのか、明かさねばならないね」
こうして狂った運命の歯車はどんどんギムリの思惑から加速するようにずれていくのであった。
4話へつづく!