ギムリの夜明けは明後日のほうへ   作:nicks

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感想下さった方、本当にありがとうございます。


5話

 酒場デビューが決まった私は、このハルケギニアの大地に転生してから初めてじゃないかと思われる幸運に気分を良くし、鼻歌交じりに上機嫌で岐路についた。 いや、言い過ぎだけどな。

そこまで寂しい人生おくってねーよ。

 

 

 まだ少し肌寒さが残り、馬上から感じられる風がやけに気持ちよく感じる。

 さて学院についたものの、辺りはすでに暗く、寝ている生徒もいるあろうから極力物音を立てないよう心がけながら自分の部屋に入ることにした。

 今日は本当に良い1日だった。まだあのライブの高揚感が忘れられない。

 

「ふぅ~、今日は充実した1日だった~」

 

 自分の部屋に帰ってくるなり思わずこんなセリフをこぼす。

 

「それはよかったわねダーリン♪」

「やっと帰ってきたのかい?」

「おかえりギムリィ~僕もうお腹すいたよ~」

 

 曲に合わせて手拍子をしてくれるギャラリーとの一体感!

 自分の歌で喜んでくれる人がいるという高揚感!

 これですよ!コレ!これこそが音楽の力です!

 とまぁ興奮冷めやらぬ中、部屋の明かりをつけ、寝巻きに着替えようと―

 

 アレ?

 

「おかえりなさ~いダーリン♪」

「「やぁ!」」

 

 

 明かりをつけるとそこには月明かりを背景に艶やかな微笑をさらすキュルケ嬢とおそかったじゃないかと軽やかに手を上げるギーシュとマリコリヌの姿が……。

 

 なんだこれ?

 

 

 止まった思考が加速しだす。

 脳内警報機がレッドアラートをかきならす。

 思わず部屋から出ようとする私。

 しかしキュルケ嬢が逃がすまいと、どこからか取り出した縄で私の体は一瞬にして蓑巻きに。

 

 OHHHH!ジーザス!!

 なんてベタな展開ですか!

 

 

 

「ふ、とうとう追い詰めたよ我が友よ」

「あ~ん、この『微熱』から毎度毎度そうそうに逃げられると思って?」

「君が帰ってこないからずっと待ってたんだよギムリィ~」

 

 もう無茶苦茶だこの人達、暇かっ。

 無断で人の部屋に入るのは禁止されてるはずなんだけど。

 聞けば彼ら、虚無の曜日である今日こそ私を問い詰めようとしたのだが、肝心の私がすでに外出済みで、仕方なく私の部屋で晩酌をしながら私の帰りを待っていたそうな。

 

 

「どんだけ暇人なんだ貴族ってのわぁ~~!!」

「ギムリィ~きみもその貴族だよぉ?」

「ふ、そもそも君が逃げるのがいけないのだよ」

 

 蓑巻きになった私を4人掛けのテーブルにつかせると、ギーシュとマリコルヌはやれやれといった表情で私に手を肩まであげる。

 キュルケ嬢は私の胸をつついたりしてご満悦なご様子。

 

「いや、キュルケ嬢はともかくなんで君達までいるのさ?」

 

 なんでも彼らはキュルケ嬢とタバサ嬢が私に興味を持った事に疑問を持ってそれを私に問い詰めようとしたのはいいものの、途中からそんな疑問より、あらゆる手段を使ってそそくさと逃げる私を追いかける事のほうが面白くなってきて、なんとなく追いかけ続けて今日に至るらしい…ってなんか悲しくなってきた。

 

 大丈夫でしょうかこの国の未来は?

 

 あ、大丈夫じゃないんだった。

 

 

「私としてはダーリンとあの晩のような熱い夜を過ごせればそれでいいのだけれど、

タバサもそこの2人もあなたに興味あるみたいだし、ごめんねダーリン」

 

 

 謝るくらいならそっとしておいて欲しかった・・・orz

 ちなみにタバサ嬢は虚無の曜日は基本的に自室に篭もっていて出てこないそうな。

 それに気をきかしたキュルケ嬢がタバサ嬢のぶんまで私の事をききにきたという事だったのだが……。 と、そんことをいってるうちにコンコンとノック音。

 

「あらタバサ?結局来たのね?」

「……帰ってくるのが見えた」

 

 

 突然ドアをノックする音が聞こえたと思ったら、タバサ嬢が本を片手にピョコリとやってきた。

 そして部屋の隅から椅子も持ち出し、勝手に席について私に、さぁキリキリ吐けやコラっと熱い視線を送ってくる。

 

 

「なんでこんなことに……」

 

 もう何度このセリフを唱えた事か。

 気分はもう哀愁交差点である。

 

 そう言って俯く私にマリコルヌはそっと私の肩に手をあてて

 

「ギムリィ~前に君が、『この世界はこんなはずじゃなかった事でいっぱいなのさ』と言っていてじゃないか。あきらめなよ」

 

 うるせぇよデブ!

 

 

「あらダーリンったら『世界』なんて意外とスケールの大きな事をいうのね~」

「ふ、随分と悲しい事をいうじゃないか我が友ギムリ」

「……真理」

 

 マリコルヌよ…本当にその通りだよこんちくしょう!

 

 って!ちょっと!タバサ嬢!?

 目が遠い所を見てるよ?

 え!何!?その、私にはわかるよ的な目は!

 いやいや!私きみほど辛い人生おくってないですって!

 

 ガリア王ジョゼフの娘であるイザベラ王女の下、北花壇騎士団として危険な任務ばかりを続けさせられているタバサ嬢には、この言葉は胸をうつものあるのだろう。

 すまないタバサ嬢。

 

 あと1年ちょっとしたらルイズ嬢の使い魔くんがなんとかしてくれるかさ!

 それまでがんばるんだよ?

 

「ゴホン!っで我が友ギムリ?先ほどミス・ツェルプストーから詳しい話を聞いたところなんだ、君があのロレーヌを打ち負かすほどのメイジだったとは、と驚いていたのだが、それを聞いてさらに色々聞きたい事があるのだよ」

 

 

「そうだよギムリィ~!キュルケの話だとトライアングルクラスの魔法をバンバン使ってたらしいじゃないか? 正直信じられないよ、ずっとラインだと思ってたよ」

 

 っと、いきなり確信をついてくるギーシュ。

 原作通りどこまでも馬鹿でいてくれればいいものを、やけに利己的じゃないか。

 そしてキュルケ嬢?そのことはタバサ嬢が口止めしてくれてるんじゃ?

 何?その、話ちゃってごめんね~ってポーズは!

 タバサ嬢もちょっと呆れてるよ?

 

「あら?でも嘘はついてないわよ!それに見たことも無い野生的で刺激的な闘い方をしていたもの!忘れるはず無いじゃない~♪」

 

 その言葉にタバサ嬢もコクリと頷く。

 

「え~っと、それは2人の見間違いじゃないかな?ほら!あの時はもう夜遅くて視界が悪かったし「…誤魔化さない」ハイ!キリキリお話したいと思いますです!ハイ!」

 誤魔化そうとするが、急にタバサ嬢が先ほどまでの表情が嘘のようにキリっと引き締まり、有無を言わさず杖で遮った。

私はそろそろ諦めの境地に立ちそうな思いです。

 これ以上しつこく詰め寄られても私の精神衛生上好ましくないので、仕方なく絶対に公言しないと約束させて話すことにした。

 

「それじゃあ、みんなはアッサンブルーム領についてどれくらい知ってる?」

「ん?ダーリンのご実家よね?正直、あんまり聞いたことがないわね。

聞いたことあるタバサ?」

 

「…情報が少ない」

 

「ふ、そうだね。トリステイン南東のにあるってくらいのイメージしかないね」

「僕も田舎だな~って事ぐらいしか知らないよ?」

 

「そう!そこなんだ!」

「「「「!??」」」」

 

 

 突然、〈ドン〉と音をたてて立ちあがる私に4人は驚いた。

 

 

 

 

 

 そして私は切々と語りだす。

 古来より我が領アッサンブルームは他の領より自然が豊富で人間の数も少ない。

 そのため我が領には多くの動植物が生息している。

 

 そしてその中には王軍のメイジが10人掛かりでも相手をしてもしきれない程の危険な魔獣まで存在するのだと。

 

 我が祖先は昔からそんな危険な魔獣と隣り合わせで生活してきた。

 勿論、王宮に相談し、王国騎士達が魔獣の討伐に援軍してくれた事もあったらしい。

 だが、王軍が誇る騎士達をもってしても魔獣の群れは倒せず、騎士達は全滅した。

 

 当時の王宮はこの事実に驚くと共に、この件を隠す事にした。

誇りあるトリステインの騎士達が全滅したなどとあっては、トリステイン王国の恥でしかないからだ。

 

 そして王宮は今後、アッサンブルーム領には一切、兵を派遣しない事を決定した

 よってアッサンブルーム家の祖先達は自力でこの事態を乗り切るしかなかった。

 そして凶悪な魔獣に対抗するため我が家には他の家の者には決して伝えられない無い秘伝の技がいくつか生まれた。

 

 しかし、その技を生み出す過程で多くの祖先達が血を流してきた。

 今でこそ、祖先のたゆまぬ努力によって少しばかりの安全があるが、それでもまだ危険な魔獣は存在するだと。

 

 だから、我が家に生まれた者は例外無くその技の訓練を幼少の頃より受けている。

 その技を受け継ぐには並大抵の身体と精神力では受け継ぐ事はできない。

 だから私は魔法だけでなく、体も鍛えているだと。

 

 そしてその技のいくつかは、公になってしまうと研究所行きは確実なほどの秘伝が存在する。

 しかしそれでは私達アッサンブルームの者は祖先の流れた血に報いる事ができない、だから絶対秘密にしてほしいと。

 

 

 

 

 

 これを聞くと4人は先ほどまでの空気を一新させ、真剣な表情で黙り込み、すまない事を言わせたね。と真摯に受け止めるのだった。

 

「ダーリン……お父様にはアッサンブルームには手を出すなと手紙を送っておくわ」

「ブルブル……きみんとこの領がそんな危険な地だったとはね」

「僕、絶対に君の領へは近づかないよ!」

「………」

 

 ギーシュとマリコルヌなんて顔を真っ青にして震えている。

 タバサ嬢も秘伝なら仕方無いとばかしに肩を落としているのが見て取れる。

 すまない原作4人衆よ。

 

 まったくもって嘘八百である。

 

 アッサンブルーム領はたしかに自然が豊富な山岳地帯ではあるが、基本的に平和な農村である。

 魔獣も、オーククラスのものがたまにでるが、人を見るとささっと逃げてしまうため戦闘になる事なんて数年に1度あるか無いかの、平凡な田舎領である。

 そんな田舎の農村領にお金が無いのがわかっているため盗賊なんて出ないし、魔獣も出ないのだから王宮が騎士団なんて派遣する必要もない。

 これが王宮が兵を派遣しない理由である。

 

 

「なるほど、そういう事だったのか、すまない我が友ギムリよ。そんな話しづらい事をわざわざ話てもらって。僕が間違っていたよ」

「いいさ、少なくとも4人は心にしまっておいてくれるだろう?信用してるし信頼してるからさ」

「ふふ、君にそこまで言われたら貴族としてその期待に答えねばならないね」

「わかったよギムリィ~絶対に誰にも言わないよ!」

「ダーリンと秘密の共有なんて素敵じゃない」

「約束する」

 

 そういって頷きあう4人。

 あまりに素直に聞いてくれる純粋な心を持った4人に私の心が泣いた。

 なぜ嘘をつく必要があるのか?

 下手にぼくのかんがえた最強の戦闘法!(笑)がタバサ嬢に教える事になったら、いざとなった時の危険度がさらに跳ね上がるじゃないか!

 ただでさえ穴だらけの戦闘技術なんだからなっ!

 

 そんな訳で、我が身大事に先祖の歴史を捏造してしまった。

 顔も知らぬご先祖様…どうもすいません。

 哀れな子孫を笑ってやってください。

 

 

「さぁ、せっかくだから飲みなおそうじゃないか!」

「ふふ、そうね!タバサも付き合うでしょ?」

「……今日だけ」

「何かおつまみはないのぉ?」

「それではグラスを持って~」

「「「「「カンパーイ」」」」」

 

 

 

 

 私も嘘をついてしまった背徳感から今日くらいは仕方無いと腹をくくり、その晩は5人で朝まで飲み明かした。

 

 

 

 

 

 

「ところで、ダーリンってもしかして、かなり強いんじゃないの?」

「ん?そんな事ないさ。この前はロレーヌが油断してたから勝てたけど、トライアングルって言ってもラインに毛が生えた程度だし、キュルケ嬢やタバサ嬢と戦えば即殺される自信があるね!だからもしもの時は即効逃げるのさ!」

 

「…誉れある貴族たる者が、自分の事をそこまで言うかな…我が友ギムリは強いのか弱いのか…本当にわからなくなってきたよ」

「そうねダーリン…ちょっと情けないわよ」

「…彼の魔法は荒い…戦い方も雑?」

「ふふ、辛らつだねミス・タバサ」

「…事実」

「だから私の事はほっといてくれよ…」

 

 

 

 

 

P.S

 

父上、母上。

 

あなた方が知らないうちに、彼らの中でアッシュモンド家は人外魔境の地になってしまいました。

 

いや、すまん。




6話へ続く!
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