マンティコア―
それは通常、人が訪れることが無いような深い森林を住処とする獅子型の幻獣である。
性格は獰猛…では無く比較的穏やかである。
だがしかし、敵意を持つ者や住処に侵入してくる者には容赦が無く、しばし人を襲う事もあるので平民間では恐怖の対象である。 『暇だから森で森林浴をしていたらお腹をすかしたライオンに出会っちゃった!アハ☆』みたいなコメディーノリで付き合える生物ではないのは確かである。
そんな獅子王こと、マンティコアの存在をハルケギニア中に知らしめるのに拍車をかける要因に、その運動能力自体がぶっ飛んでいるのも当然挙げられる。
竜種ほどの速度は出ないが、その分自在に空を飛び廻り、又、早馬を超える速度で大地を疾走し、時には川だってスイスイと泳ぎ渡る非常に高い汎用性。
どこのガンダムだ!という感じである。…自重。
そんな脅威的な生物を貴族連中は怖がらないのか?
答えは『怖いが、それ以上にカッチョイイ』である。
特撮のゴジラやキングギドラとかモスラやらに憧れた事は無かっただろうか?なんか強くて怖いけど……なんかカッコイイみたいな印象を抱いた人は少なく無いはずだ。 ハルゲニア貴族の少年少女からしたら、そんな憧れの対象がマンティコアやらヒッポグリフやら韻龍なのである。
勿論、ゴジラやらの本当の意味での幻想種と違いマンティコアは古くからハルケギニアに存在する生き物である。
ハルケギニア史初期の時代ではグリフォンや竜種等より汎用性の高いマンティコアが馬代わりに大量に戦場で投入された戦争なんてザラに行われていたらしい。
そのせいか、現代では、その個体数は激減の一途を辿り、動物保護の精神も無いこの世界では目出度く絶滅危惧種一歩手前と云う悲惨な状況である。
どこの世界でも人類はやりたい放題なのである。
ともかく、今でもマンティコアが登場する逸話や武勇伝や物語が多く残されおり、貴族の少年少女はそれを子守唄代わりに親に聞かせられるのだ。 名物語である『イーヴァルディの勇者シリーズ』にも勿論登場している。
なので幻獣種の中ではマンティコアやグリフォンは比較的貴族の少年少女達には馴染みのあるものである。
そんな背景があるのもありハルゲニア貴族、特にトリステイン王国ではマンティコアの事を『森林の公爵』とも評されている。
トリステイン王国にはマンティコア隊なんて名前の部隊もあるくらいだからその神聖化は伺える。
部隊名通り数こそ少ないがマンティコアもいる、唯でさえ少ない個体数なので乗り手も相当の精鋭揃いだと有名である。
余談だが、烈風カリンも現役当時はマンティコア隊のしかも隊長を務めていたらしい。
ハハハ!すごいよねルイズママ!!
「ガウ?」
「ただの独り言だよレイラ……少しは現実逃避くらいさせてくれてもいいじゃないか」
使い魔召還の儀も無事(?)終わり各々ヴェストリ広場から離れた後、私は呼び出したマンティコアを使い魔用の厩舎で何をするでも無く眺めボヤいていた。
当のレイラはどうかした?っと可愛く不思議そうに首を傾げている。
レイラと云うのはこのマンティコアの名前である。
ちなみにメス…もとい女の子らしい。
名前の由来? 個人的趣味である。後悔はしていない。
クラプトン
「ガゥゥ~ン」
「こらこら、わかったわかった構ってやるから! マント引っ張るのヤメレ!」
レイラとはコントラクト・サーヴァントの恩恵で感情共有ができるので言葉こそわからないが精神状態などは伝わってくる。 摩訶不思議コントラクト・サーヴァントである。
それで、なぜ未だに私が厩舎に残っているかと云うと、さすがに全長3メートル、翼を広げると横に5メートルはあるレイラを自室に連れ帰る事はできないので、厩舎に預ける事になったのだが、あろう事かレイラは私が自室に帰ろうかと離れると大きな咆哮をあげて『行かないで~』と懇願するのである。
感情の共有のせいでレイラの『寂しい』と云う感情が伝わってきてしまい、どうにも残して帰る気になれなかったので今夜は厩舎でレイラと一晩明かすつもりだ。
なんだかんだでギーシュの例に漏れず私も自分の使い魔が大好きになってしまったのだ。 カエルやモグラ相手に愛と友情を語るよりは健全だと思って見逃して欲しい。
あぁ、ルイズ嬢のほうは無事にサイト少年を呼び出したようで何よりであった。
トリステインの、ひいてはハルゲニアの存亡を担う少年少女達が紡ぐ物語が開幕したのである。
案の定、サイト少年を召還した直後、広場は原作通りの騒ぎになり、ルイズ嬢のキスシーンが見れた。
正直、羨ましい。
ルイズ嬢の性格はともかく、容姿の可愛らしさは間違い無く学院、いや、ハルゲニアでもトップクラスだろう。
個人的は大きめの双子山が好みな私だが、あの容姿ならば私も…「ガゥ!」「イテ!!」
そんな不謹慎な事を考えていたせいかレイラに尻尾で頭を叩かれた。
「なんだよ痛いじゃないかレイラ」
「フフ~ン」
突然の攻撃に思わず顔を顰(しか)めてレイラを睨むと、彼女は当然だ! とばかりに鼻を鳴らしてソッポ向いていた。
「はは~ん、さてはレイラ。私がルイズ嬢の事考えてたからお前ヤキモチ焼いたんだな~」
「ガウゥゥ!!」
「ちょ! 痛いって! 尻尾で叩くな! トゲが刺さるって……イタ! 悪かった! 俺が悪かったから」
「ブルゥ~」
冗談めかして言ったつもりが図星だったようだ。ってかそんな事まで伝わるのかよ。感情の共有恐るべしである!
レイラは依然としてソッポ向いて私に顔を合わせようとしない。
小さく嘆息してレイラの横にどっかりと座る。
「ほら、機嫌直せよ。 なんか歌ってやるからさ」
「?」
見上げれば今晩も空には綺麗でまん丸な双月が輝いていた。
耳を澄ませば虫達の奏でる優しい歌声が聞こえる。
藁の上に寝そべり、レイラに背中を預ける形で横になる。
暗闇の中、気温は少し低く、背中から感じるレイラの体温がとても気持ちよかった。
「楽器も無いからアカペラだけどいいか?」
声をかけると、何かするのか?面白い事か?っと興味津々な様子で目を輝かせていた。
「現金なやつだな。 まぁ、お前にピッタリな曲だからな?」
「ガウァ?」
ギターも無く観客もいない静かな厩舎で私はそっと唇を舐め、声を震わしはじめる。
歌う曲目は勿論これしか無いだろう。
ジェフ・ベックやジミー・ペイジに並び、3大ギタリストの一人と呼ばれるイングランドが生み出した英雄クラプトンの名曲中の名曲。
Layla―――
一夜明けて、なんとかレイラをすぐに戻ってくるからと宥めて朝食を食べにアルヴィーズの食堂へ入った。
どうやら私が最後の生徒みたいだ。
そして入った瞬間になぜだか大勢の視線を感じた。
「マンティコアを召還した方よ」
「あらあら、それはすごいですわね。でも、あまり見た事が無い方ですわね」
「あまり実力をひけらかさない方なんですわよ。きっと」なんて小声で囁きあってるのが聞こえて心が痛い。
予想以上にレイラを召還した事は目立ってしまったようだ。
この様子じゃ竜なんて召還したタバサ嬢はきっとエライ騒がれたろう。
沈みかけた気持ち切り替え今日の献立は何かと心躍らせながら自分の席に向かおうとした。
すると「こんなの人間の食べるモノじゃないだろ」「平民がここに入れるだけで光栄に思いなさい」「うっせ!やってられっか」と大声で罵り合う少年少女が目についた。
言わずもがな、主人公達である。
食堂内では朝から騒がしい2人組を厄介なものを見る目で静観している。
誰だってこんなツマラナイ騒ぎに割り込みたくないである。
私は一触即発な空気の2人に近くに寄った。
心の中では原作通りで何よりだと頷きながら喧嘩腰な2人の間に入り込み…………
通り過ぎた。
それはもう現場では何事も無いかのように見事に通り過ぎた。
「えぇ!?」
横目で女生徒が奇声を発してガクっと椅子から転げ落ちたのが目に入った。
席の順から見て下級生だろうか、どこの誰だか知らんがドリフ級の見事な転げ方だった。
日本で生まれていたらきっとクラスの人気者になっていただろう。
どうやら彼女を含めて多くの生徒達がこの騒ぎを止める事を期待していたようだ。
面目ない。私には無理だ。
そしてすまんなサイト少年。
スクウェアクラスの魔法が使えたり、転生特典で精霊魔法が使えたり、実は"気"が使えますとかそんな吃驚オリ主じゃないんだ。家柄も格式も高く無い、普通のどこにでもいそうな、ちょっと成長の仕方を間違えた唯(ただ)の男爵長男坊なんだ。
心で黙祷を捧げ、私は自席に着く。
でも大丈夫だサイト少年!
原作は最後まで読んで無いし、しかも原作知識も穴だらけの私だが、きっと君はルイズ嬢と幸せになれるよ。
うん!だから今は頑張ってくれ。
「あ、今日のスープ美味しい」
そんな呟きを残した今日の朝食風景だった。
9話へ続けっ