サッカー、しますわよ【ウマ娘×イナズマイレブン】 作:ローマ市民兼インド村住人
御影専農は棄権した
「チョリャッ!」
少林がヘディングでシュートをすれば、ボールは赤い雷を纏ってゴールへと突き刺さる。
"クンフーヘッド"。クンフーを習っていた彼が自分で編み出したシュート技であるが、照奈は微妙な表情をしていた。
「もう少し早くできないかしら。でないと、シュートまでに相手の態勢が整ってしまうわ」
いくつかのクンフーの技を使い、威力を高めてヘディングシュート。現状はクンフーに割く時間が長いため、不意打ちにならない。
「無理に威力を高める必要はないのよ。ディフェンダーを起点にシュートチェインするのが目的であって、貴方が1人で決めるわけではないのだから」
シュートチェインはボールをシュート技で繋げて、最終的に超高火力になればいい。極端な話、フォワードのシュートがずば抜けていれば問題ない。
奈瀬文乃がやっていたこと────"パスの代わりにシュート技"をみんなでやるだけである。
「確かにそうですね……。ちょっと改善してみます。見ていただきありがとうございました」
お礼を言ってみんなとの練習に戻ろうとする少林だが、照奈はボールを返すことで彼を引き止める。
「クンフーの足技を使えば、もう1つ作れると思うわ。流石に私はそこまで詳しくないから貴方に任せることになってしまうけど……」
「例えばこんな感じですか?」
少林はボールを浮かせて、蹴りを数回叩き込む。そして、最後の一撃を後ろ回し蹴りのように蹴りつけてシュート。
それはクンフーヘッドよりも勢いがあり、即座に思いついたモノとしてはかなり期待ができる。
「いいシュートよ。あとは繰り返し練習して形にするだけね」
「わかりました! ありがとうございます!」
どちらかと言えば、彼は身体が小さいので、確実に相手を止められるようにブロック技を習得させた方がいい。
だが極端な話、シュートコースさえ絞ってしまえば、あとは円堂がなんとかしてくれるというのもある。そこからの反撃を考えると、ロングシュートで相手が準備する隙を与えない────なんなら円堂を起点にシュートチェインする方が確実だと照奈は考えた。
攻撃は最大の防御、それを体現したのが今の雷門だ。
「それにしても、若干浮かれ気味の子たちがいるわね。昨日、偵察に行ったって聞いたけど」
少林に教えながらもチラチラと他の部員の練習を見ていた照奈は、染岡や壁山らの動きが少々おかしいことに気付く。
────次の対戦相手は
何かカラクリがあるかもしれない。そう思った
「可愛い女の子がたくさんいましたよ」
「私よりも?」
「えっ」
率直な感想を言った少林が、照奈の一言で固まる。そして、どう返せばいいかを全力で考え始めた。彼の本心は、「監督ってそういうの気にするんだ……」と意外な一面を知れた感じのニュアンス。
しかし、そんなことを言ってしまえば間違いなく怒りを買う。自分だけ罰則を食らう可能性を鑑みると、絶対にダメ。
かといって、「監督の方が可愛いですよ!」と言うのも何か違う気がしている。"可愛い"ではないだろうと。
人生で一番頭を使った数秒間だが、答えを言う前に照奈が申し訳なさそうに口を開いた。
「少し意地悪だったわね」
「す、すみません……」
「別に気にしてないわよ。強いて言うなら、同年代の女の子相手だったら戸惑わずに『キミの方が可愛い』って言うべきね」
「善処します……」
なお、少林はマネージャー以外の女子と話す機会がない。
★☆
翌日の放課後。豪炎寺と風丸が他愛もない会話を交わしながら、部室へと向かっていた。
「やっぱり、豪炎寺も1回行った方がいいぜ。メイド喫茶」
「断る。行く意味がない」
「全く、思春期をサッカー漬けで過ごすのも良くないだろうに」
豪炎寺を揶揄うように肘で突く風丸。しかし、炎のストライカーは真顔を貫いて語る。
「オマエの言いたいことは分かる。サッカー以外のことを話せる人は貴重な存在だろう。……沖野さんが言うには、最強世代の帝国は誰一人と彼氏・彼女を作らなかったそうだ。その上で聞こう────恋愛に現を抜かしながら、世界を獲れると思うか?」
「……論点をズラすなよ。オレが言っているのは、"サッカーに触れない時間も大事だろ?"ってことであって、恋愛云々じゃない」
少し熱くなってしまう2人。しかし、ラインを超えぬように分はわきまえているのか、どちらも少し考えた上でキャッチボールを交わしていた。
「……"サッカーに触れない時間"がメイド喫茶である必要はないと言っている。オレにはオレなりのオフの過ごし方があるし────第一、可愛い女の子を見たいという話なら監督で十分じゃないか?」
「なっ……」
豪炎寺の思わぬ発言に、腰が抜けかける風丸。彼からすれば、"芹坂照奈"は名将であり鬼であり悪魔でしかない。しかも、どちらかと言えば"可愛い"ではなくて"美しい"寄りなのでは?とも思っている。
人の価値観を否定するのは良くないが、豪炎寺の価値観には共感できない。
彼の意見にとりあえず何かを返そうと風丸が考えたところで、部室に着く。扉を開ければ、
「お帰りなさいませ、ご主人様」
「「ブフッ!!」」
メイドが出迎えてくれた。
衝撃的な光景に耐え切れず、吹き出す2人。目の前でやってしまったため、かなり焦りつつも風丸が問う。
「か、監督? その服は一体……」
「実は秋葉名戸から『試合当日はメイド服を着てくれませんか?』と連絡が来たの。本来は女子マネージャーだけが着るみたいなのだけど、私が若くて綺麗な女だからか、こうなったわ。まあ、吹き出すのは許容範囲よ」
照奈は怒っておらず、一安心の2人。というのも、彼女自身は前世で知り合いだった人の性転換で笑いを我慢できていないので、強く言えないのである。
「よく受け入れましたね」
「人前でこういうのを着るのは慣れているの」
「なるほど、オレはお似合いだと思いますよ」
「あら。なら、風丸くんはどう思っているのかしら?」
風丸は、「コイツ……」と言いたげな目で豪炎寺を睨む。ただ、どちらにせよ照奈は聞くつもりだったので、彼は悪くない。
「正直に言ってみなさい。本当に怒らないから」
そこまで言われてもなお、掛かれば即死級のトラップを疑っている風丸なのだが、イチかバチかで言ってみることにした。
「萌え萌えきゅん♡、で人殺せそうです」
「やろうと思えばできると思うわ」
本心100%の感想を肯定されたからか、恐怖で足が震える風丸。何故彼がビビッているのか分かっていないものの、照奈は試しにメイドっぽいセリフを言ってみることにした。
「私の全力、受け止めてみて♡」
「死人が出ますよ」
と、腕でハートを作った照奈だが、速攻で風丸にツッコまれた。もちろん、可愛過ぎて死ぬのではなく、全力を受け止めきれずに死ぬのは理解している。
彼女の全力は、雷門中の校舎ですら受け止めきれない。それ程に凄まじい威力を誇っているのだ。
「ま、試合まで私がこの服でいれば、メイド喫茶なんて忘れられるでしょう」
「オレは行ってないのでどんな感じだったのか分かりませんが、練習に打ち込めていないヤツらには刺さると思いますよ」
「もし効果がなかったら、本当に全力を受け止めてもらうつもりよ」
「監督、それだけはやめませんか????」
★☆
試合当日。
「こんな大勢の観客を前にしてやることが、自陣に引き籠ってパス回しって、凄いメンタルだなあ」
「でも、オレたちは動かなくていいから楽でヤンスね」
他人事かのように敵陣の様子を眺める半田と栗松。
──────秋葉名戸のキックオフから始まった前半戦だが、彼らは攻撃せずにひたすらパスを回していた。
当然ながら、観客は何も変化が起きない試合の流れを許さない。一刻も早く攻撃するように無数のブーイングを秋葉名戸に浴びせるが、それでもパスは止まらなかった。
かといって、雷門側もボールを奪いに行かず。それどころか、メイド服を着た照奈がテクニカルエリアで踊り始めていた。これには誰もが驚いたが、退屈な試合をカバーするための行動だと分かれば、観客はそっちに注目していく。
さらには、ベンチにいる音無と夏未もメイド服を着させられている。前者はノリノリだが、後者は終始顔を赤くしたまま俯いていた。木野は控え選手なので、残念ながら着ることはなく。
「ていうか、監督ってずっと踊ってるよね」
「ああいうことやる人には見えないのに、意外っス……」
「あれ、壁山は知らないの? 監督はダンスの授業で特別講師として呼ばれてたよ」
「えぇっ!? 少林のクラスは羨まし──羨ましくはないッスね」
「だよね」
壁山と少林も、他愛のない会話を交わしている。しかし、円堂は気を抜いておらず、その上、照奈の視線でなんとなく察してしまったので、教えてあげることにした。
「壁山! 少林! 監督に聞こえてるぞ!」
「「えっ」」
彼らが雷門中ベンチの方を向けば、視線の先にいた照奈はニッコリと笑っている様子。まさか踊りながら会話を聞いているとは思わなかったので、2人は恐怖で震え上がる。
気温も徐々に上昇傾向とはいえ、今日はそれほど暑くない日だ。さらには試合が始まってからほぼ動いていないというのに、壁山と少林は尋常ではない量の汗をかいていた。
──────前半終了の笛が鳴る。2人は今すぐにでも逃げ出したい気分だが、そんなことをする勇気は持ち得ておらず。
重い足取りで、30分ぶっ通しで踊り終えたのに息を全く切らしていないメイド監督の方へ向かった。
全員が集まると、照奈はホワイトボードを持ちながら喋り出す。
「秋葉名戸は前半で全く体力を使わないことで、後半にフルベットする作戦だと思うけれど、ブーイングを浴びてまでやる意味があったのかというと、ないわね」
彼女の意見に頷く一同。そのあとに風丸が右手を挙げながら一歩前に出る。
「オレがちゃちゃっと点入れてきましょうか?」
「そうね。元々その予定だったから、お願いするわ。後半は貴方の1トップで、少林くんを1列前にして中盤を厚くするの。だから────3-6-1ね」
ホワイトボードに張られている磁石を動かし、視覚でも分かるように説明する照奈。しかし、監督の戦略に疑問があったのか、「監督」と言いながら宍戸が手を挙げる。
「3トップに3バックはキツいんじゃないですか?」
「だからこそ、風丸くんなのよ。初手で1点決めてしまえば、相手は彼をマークしないといけない。でも、足が速過ぎて追いつかない。となったら、2~3人は割かないといけないでしょうね」
「となると、攻撃に参加する人数が少なくなって、中盤の6人で上手いことやれば簡単に奪えるってことですか?」
「そういうこと。とはいえゴチャつきやすいから、そこは注意ね。あと、ミスっても終わりじゃないことを念頭に置いて立ち回りなさい」
「オレが絶対に止めてやる! だから安心して攻めてくれ!」
そう言って仲間を鼓舞する円堂だが、照奈は目を細める。これは無茶振りを吹っ掛けようとしている目だと、誰もが思った。
「雷門さん、円堂くんに『萌え萌えキュンッ♡』をしてあげなさい」
「はぁっ!?」「えっ!?」
しかし、ここまでとは誰も思っていなかった。壁山と少林は絶対自分たちに飛んでくると確信して怯えていたものの、杞憂だったと言える。
夏未と円堂は顔を真っ赤にしており、その隣の風丸は笑いを堪えている。
「部員の失言はキャプテンが責任を取るモノよ。それに、女の子からのエールがあれば、より気合が入ると思わない?」
────前半終了間際に失言した1年2人をチラッと見る照奈。ダシにされたんだろうな、となんとなく感じる本人たち。
「そ、そういうもんですか……?」
様々な感情が入り混じる円堂。ハーフタイム中に行う話ではないが、誰も止める気配はなく。それどころか、豪炎寺でさえ少し続きが気になっている。
「そういうモノだと思ったけど。もしかして、雷門さんには魅力がないから効果ナシってことかしら?」
「あ、いや、魅力は……」
「魅力は?」
全員の視線が円堂に突き刺さる。特に、夏未は非常に気になっている。「魅力はない」なんて言われたら、死ぬほど恥ずかしいからだ。
かといって、「ある」と言われるのも恥ずかしい。どちらを選んでもロクな結末にならない二択、果たして円堂はどうするのか。
10秒悩んでも、答えは出ないまま。円堂なりにめちゃくちゃ気を遣おうとしているのは分かったので、照奈は切り上げる。
「そんなに悩むことかしら? まあ、いいわ。木野ちゃんが言ってあげて」
「円堂くん、萌え萌えキュンッ♡」
──────木野秋は、大脳を摘出していた。
★☆
同時刻に行なわれていた準決勝第1試合。
「嘘、だろ……」
「帝国が決勝に行けない……?」
試合終了を告げるホイッスルが鳴ったあと、膝をついて絶望する帝国学園の選手たち。
前半5分、対雷門用に開発した"皇帝ペンギン2号"で得点。その後、シュートは止められ続けていた。
源田がやらかしたわけではない。キャリアで一番の立ち回りを披露した上での敗北だった。
「クソ……」
「少しは期待したのだけど────」
拳を握り締め、スコアボードを睨む鬼道に声をかけるは、魔性の女。頭頂部から左方向に流れる白メッシュにシニヨン、右目下の涙ぼくろが特徴の、大人びた風貌。
ユニフォームは白を基調とし、緑一本輪で袖は縦縞。左胸には金で彩られた校章。
歩くだけでも肌に伝わる威圧感に、鬼道は思わず一歩下がる。
「醜いサッカーね」
彼女はそう吐き捨ててピッチを去る。"10"を背負ったその後ろ姿を、鬼道は二度と見ることはなかった。
──────準決勝第1試合。帝国学園 対
※現実の方にある目白大学と目白学院は関係ありません。