サッカー、しますわよ【ウマ娘×イナズマイレブン】 作:ローマ市民兼インド村住人
三人称視点は下の名前で表記していますが、一人称視点の場合、人によっては名字で表記しているのであしからず。
例:吉田真久理
前半終了まで残り僅かでも雷門の動きは変わらず。真久理がマックスにボールを奪われたことがチラつくのか、仕掛けようにも仕掛けられない目白学院。
奈瀬の指示でポジション替えをしたものの、上手く刺さった様子はなく、来緒以外の選手には、少しずつ焦りが生じている。
しかし、前半終了のホイッスルがその悪い流れを断ち切ることとなった。
ハーフタイムは10分。彼女らは急いで控え室へと戻り、真久理が奈瀬に嘆く。
「今までの雷門と全く違う戦法でしたので、前半中に修正ができませんでした」
「こればかりは仕方ないから、気に病まなくていい。それに、照奈が何を狙っているのかも大体分かった」
彼女がそう言った瞬間、控え室の雰囲気が変わる。自分たちが見えなくても監督は見えていたと、希望が湧き出てくる。
奈瀬文乃の一言はチームの空気を操れるほどの力がある。
「だけど、
故に、彼女でも分からないことがあった場合の状況は、最悪と言っていいだろう。
「来緒を下げてもマンマークが剥がされないのは読めていた。それでも、あんな消極的なプレーを続けている理由は"私の策で試合をひっくり返されないようにするため"。だから、後半のどこかで一気に畳みかけてくる」
だが、選手たちは監督の説明を理解できていなかった。雷門は奈瀬文乃を恐れているから、無理な攻めをせずにパス回し。
にもかかわらず、『なんでそうしたいのかが分からないんだ』と。言っていることが矛盾しているのだ。
「どこにも怪しい部分はないと思われますが」
真久理が代表して選手の総意を伝えても、奈瀬は首を横に振った。
「怪しい部分はないよ。でも、
「その根拠はあるのでしょうか?」
「こればかりは勘としか言いようがない。……その上で、後半の作戦を伝えよう。恐らく雷門は────」
★☆
雷門中控え室にて。こちらは目白学院と違って、いつも通りの空気感だ。
「もう一度言うけど、本格的に攻めるのは試合終了間際よ。まあ、河平来緒のカウンターシュートを先に見れたから、結果的にあの攻めは良かったけれども」
一時的ではあるが指示を守れていなかったので、釘を刺す照奈。とはいえ思わぬ収穫もあり、寧ろ安心していた。しかし、風丸は手を挙げて抗議する。
「謎にオレがぶっ飛んだから良くないですよ」
「試合中に好みの女子の話をするからよ」
「いや、違いますって。関係ないですから」
まさか、
「そういえば、宍戸が監督に『目白学院の選手で好みの女子は誰か』って聞かれたみたいなことを言ってたんですけど」
「ええ、そうね。1年生全員に聞いたわよ。といっても、誰も"縦山雷亜"と言わなかったから関係ないわ。みんな揃って女選びのセンスがない、とだけ」
「か、監督、後半の戦術についての話をしてほしいでヤンス!」
「そうッス! オレたちが好きな女の子の話なんて今はしなくてもいいッス!」
試合に関係ある質問かと思いきや、1年生たちをディスり始めたので、軌道修正を求める栗松と壁山。
実は質問に答えた際もディスられてしまい、既に精神的ダメージを負った状態だったのだ。その上、試合に直結しない話ということもあり、ここで追撃も食らってしまっている。
「やっぱり、鍛えている女の子は眼中にないのかしら?」
「「監督!!」」
「はいはい────雷門は攻める気がないってそろそろバレそうだし、そうなったら目白学院は仕掛けてくると思うわ。だから、身構えておくのよ」
照奈の指示にスタメン全員が頷く。そのあと、円堂が何かに引っ掛かっているような表情をしながら手を挙げた。
「えーっと、名前なんでしたっけ。影野がマンマーク付いてる選手」
「河平来緒ね。……ああ、彼女はずっと下がったままだと思うわ」
彼の言いたいことを先読みして答えれば、円堂は「なるほど、分かりました!」と言って頭を下げる。
相手のエースぐらいは名前を覚えておけよ、と周囲からの視線を浴びても気にしないのが円堂守という男であった。
「それで、向こうが後半に何をしてくるのかというと────」
★☆
side:Shiina
「思っていた試合展開と違ったわね」
「そうですね……ですが、雷門は警戒し過ぎではないのでしょうか」
私は、鬼道くんを連れて雷門中グラウンドへとやって来た。そこで行われている雷門中vs目白学院の試合。鬼道くんが「3-1の雷門優勢で前半を終える」と言ったものの、蓋を開けてみれば0-0。
彼の懸念は分かる。
悔しいけど、芹坂照奈という監督が、素晴らしい存在であると認めなければならない。
前年度のFFの優勝校は帝国なので、このまま雷門が勝てば再戦の可能性が生まれる。生まれるだけで、勝てる気がしない。
私たちはあの人に見限られたのだ────というのは建前。
"プロジェクトZ"で一時的に離れた。いわば"最後の悪事"といったところなので、私は何も触れないことにしているし、照奈の地雷を踏むこともないだろう。
閑話休題。
「奈瀬文乃がどういう人間であるかを知っているからこそのリスペクトね。と言いたいけど、多分違うと思う」
「なら一体、雷門は何に警戒しているのでしょうか?」
「分からない、としか言いようがないわ。ただ、雷門の選手は照奈に圧倒的な信頼を置いている。たとえ意図が汲み取れなくとも、監督の言葉を信じるしかない。だからこそ、あの前半が成立しているのよ」
「どうやら、そのようですね」
少し前のめりになったシーンはあったものの、全体を通して前半の雷門はあまりにもディフェンシブ。これまでの彼らのサッカーとは180度違うのに、綻びがない。
────後半が開始し、染岡が豪炎寺にボールを渡す。すると、豪炎寺は
明らかに常軌を逸した行動に観客はどよめき、吉田は困惑気味にボールを止めた。
ここまでやってくれたら、流石に照奈の作戦が理解できる。意図は分からないけど、恐らく最大限のケア。
圧倒的な攻撃力を持っているからこそ、無条件で相手にボールを渡すという所業が可能となる。
★☆
side:Aru
まさか最初からボールを放棄するとは思わなかったが、寧ろ好都合。それに、監督の読みも的中している。
雷門は後半終了間際まで攻めてこない、こんな大博打を決勝戦でやってくるなんて、普通はできない。逆に言えば、雷門は普通のチームではない。それは前半からして明らかだ。
だからこそ、
真久理がハンドサインを出しながら前線を押し上げる。そうすれば、さっき姉様が吹き飛ばした男が彼女にプレスをかけ始め、
「真久理!」
私は声をかけながら、アフロを引き連れてさらに前へ行く。私たちが動いたことでスペースが生まれ、真久理はパスを出した。そして、走り込んでいた辺留が受け取る。
アフロから辺留が見えないように立ち位置を調整しながら、反対側のサイドにいる悠里の位置を確認。
一気に左サイドを駆け上がる辺留。
完璧な流れ。監督の分析通り、雷門のDFは
つまり、その1人さえ避ければいい。
────悠里がダイアゴナルランでDFを2人釣った。そこに真久理が入って私のパスを受け取る。
ペナルティエリア。悠里のおかげで陣形は崩れていて、オフサイドの心配もない。真久理の前にいるのはゴールキーパーのみ。
……一瞬だけ足に力を入れる。ギリギリ砕けない程度の力を。
ペナルティエリアへ侵入し、彼らの背後を通る。誰も私を見ていない、気付いていない、オフサイドに引っ掛ける気すらない。
やはり、守備のザルさが弱点。そこを刈り取り、彼らを焦らせれば勝手に瓦解する。
真久理がフェイントをかけて、パスを出す。ボールは見事に彼らの隙間を潜り抜けて、私の足元へ来る。
キーパーはフェイントに騙されて左へ飛んだ。であれば、反対側にシュートを打つだけの簡単な仕事。
「"クリノクロア・ライン"!!」
緑色に輝くそれは、雷門ゴールの右上へ────
「はあっ!」
突き刺さる直前のことだった。
キーパーが右腕をダイヤモンドの塊に変化させながら、アームのように伸ばし、
「……は?」
彼は上手く着地すると、ぐちゃぐちゃになった守備ラインを一度整えるためだろうか、カウンターに移ることなく、あえてボールをサイドラインの外へ蹴り出した。
★☆
「最後だけ危なかったけれども、なんとかなったわね」
雷門vs帝国で鬼道が把握していたように、風丸や染岡たちの昨年度加入部員と栗松や宍戸たちの今年度加入部員で、実力差が激しい。
そのため、後者は帝国や目白の選手であれば、容易に出し抜くことができる。そして、半田は自分のキャパを超えるとコーチングを放棄する。
阿流に気付かなかったのはそれが理由である。悠里のシュートだけは防ごうとして動いており、そこまで意識を向けることができなかった。
しかし、他の3人────少林、壁山、栗松も大体同じようなことを考えていたので、阿流にスルッと抜け出された。経験不足からの見逃しだ。
"雷門の守備はザル"。これは弱点と言っても過言ではない。照奈はそう思っていないが。
「でも円堂くん、気付いてないように見えましたけど、なんで取れたんですか?」
一安心した様子の照奈に、木野が疑問を投げかける。ずっと見ていたわけではないが、少なくとも彼女が円堂を見ている間は、彼が一度も阿流に目を向けたことはなかった。
にもかかわらず、完璧と言える不意打ちに対応できたのだ。
「あの技────"
「なるほど。確かに、保険があるのって気持ち的に楽になりますね」
──────奈瀬文乃の誤算は、円堂守があまりにも冷静だったことだ。
それもそのはず。FF地区予選にて雷門と戦ったチームは、一度もシュートせずに試合を終えている。つまり、必然的に彼の出番はなく、データが存在しないということである。
ありとあらゆるシチュエーションでの作戦を組み立てることが不可能。
であれば、盤面をぐちゃぐちゃにして隙を生み出すしかない。その結果が、阿流をフィニッシャーとした完全ノーマークの不意打ちシュートに繋がった。
しかし、止められたことによって目白学院側に動揺が走る。『アレを攻略するのは不可能ではないのか』と。
ゴールキーパーはたった1人で戦況をひっくり返せるポジション。常識的にあり得ない手段でセーブした円堂守に、彼女らは恐怖したのだ。
「目白学院の選手の表情、見てくださいよ。今にも漏らしそうですよ」
「音無ちゃん……」
デリカシーを感じられない音無の発言に呆れながらも、照奈は目白学院のDF陣を眺める。漏れそうな表情をしているのは確かだが────
「やはり、貴女はそうですよね」
河平来緒は燃え滾っていた。照奈は知っている。メジロラモーヌがこんなことで怖気づくわけがないと。
その様子を奈瀬が見逃さないわけがない。来緒自らが進言しなくとも────
「あら、目白学院のポジションがまた変わり……河平来緒がまたFWに?」
夏未が呟くのと同時に、会場がざわつく。何を以てして騒いでいるのかは分からないが、元のポジションに戻るのは大しておかしくない。
こうして彼女を最前線に持ってくるのだ。そして、照奈はテクニカルエリアへ移動し、風丸を呼び出して指示を伝える。
「影野くんと2人で河平来緒を止めなさい。理想は、ボールホルダーを視認できないように視界を塞ぐことね」
「ですが監督、後ろを見ずに位置を調整するのは流石に……」
「大丈夫よ。今の河平来緒だったら、どこにいるかぐらいは見なくても分かるはずだから」
「要は監督みたいに圧を感じる、的な?」
「そういうことね。少し守備が手薄になるけれど……フィニッシャーの役割を
「分かりました。影野にも伝えてきます」
「危なかったらファウルしてでも止めなさい。レッドは……やってほしくないけど、仕方ないとは割り切るわ」
「了解です」
了承すれば、風丸は自分で言った通り影野の下へと向かった。
結果論だが、円堂のセーブは遅ければ遅いほど良かったのにと、ふと心の中で嘆く照奈。後半開始から3分という、かなり早い段階で来緒の闘志に火を点けてしまったのは、あまりよろしくない状況なのだ。
2人も使って、20分以上抑え込む。影野も風丸もスタミナはまだまだ残っていそうだが、これまでよりもハードになるのは間違いない。
「1年たちは────問題なさそうね」
半田がDF陣3人に話しているのを見て、照奈はベンチへ戻った。
ガチのマジで忙しいので、気合で月1投稿を目指しております