サッカー、しますわよ【ウマ娘×イナズマイレブン】 作:ローマ市民兼インド村住人
世宇子中はもう負けそう
帝国vs笠松は帝国がリード
side:Teruna
結論から説明すると、世宇子中の選手を対象に抜き打ちでドーピング検査が行われた。しかし、結果は全員が
つまりアフロディは、不遜にも神を名乗る一般人だったのだ。では、彼らが試合開始前に飲んだあの飲み物は一体何なのか。
「ドーピング薬────"神のアクア"自体は存在するが、彼らに渡したのは
FFスタジアムの会場内にてバッタリ出会った影山総帥(元)はそう語る。
「プラシーボ効果でも期待したのかしら?」
「そういうことだ。正確に言えば、最初の1回だけは本物を渡したが」
「なるほど」
一度、本物の神のアクアを渡したからこそ、次から渡される飲料も神のアクアだと思い込み、それがいい方向に作用したってことね。
総帥らしくない行動ではあるけれど。
「そのお陰か、神のアクアを摂取したときと同等のパフォーマンスを彼らは出せるようになった」
「それでも雷門に圧倒されて、心が折れてしまったと」
「ご名答」
雷門中対世宇子中は、3-0で雷門の勝ち。後半を迎えることなく、世宇子中が棄権。そのときのブーイングは凄まじく、とても中学生に浴びせていいモノじゃなかった。
帝国学園対笠松学園の試合を見に行けば良かった、なんてことを思う人がたくさんいたことだろう。
「何故そんなことを? まさか、良心が働いたわけではないでしょうね」
サッカーを復讐の道具として利用してきたこの男に、善の心がいきなり芽生えるわけもなく。となれば、推薦枠まで使って捻じ込んだチームを、あっさり捨てるぐらいの出来事があったとしか考えられない。
「世宇子よりも優先せねばならんことができた。さっさと負けて、そちらに着手したかったのだ」
「貴方ね……」
溜息を吐こうとも思わない態度に呆れる。ただ、途中で離れずに最後まで面倒を見ていたということは、ある程度の責任は感じていたのかもしれない。
「では失礼する。どうやら、私を捕まえようとする輩がいるようなのでね。国外へ逃亡することにしよう」
と言い、総帥は去って行った。
「国外逃亡……」
★☆
時は少し戻って、帝国学園スタジアム。
帝国対笠松のスコアは1-0で帝国がリードしており、彼らの攻撃を笠松側がなんとか凌いでいるという状況だった。
「北原監督、やっぱり小栗くんを出した方がいいんじゃ……」
笠松学園のベンチでは、マネージャーの部流乃《べるの》が不安げな表情で北原に申し出ていた。しかし、北原は首を横に振る。
「ダメだ。ギリギリまでコイツは出さない」
「試したいことがあるなら、セーフティリードを取ってからでいいじゃないですか! 小栗くんも何か言って!」
「私は北原に賛成だぞ。全国の空気を味わうのは大事だからな」
加えて、当の本人も今は出るつもりがない。
そもそも、フィールドにいる彼女たちは監督の采配に納得していないまま試合に臨んでいる。
小栗を出せば勝てるのに。これが総意であり、わざわざ苦しまなければいけない理由が分からない。
「それに、タマがやりたいことに合わせれば、私がいなくても勝てると思う。誰も助けてくれないから、1人でどうにかしようとしているだけなんだ」
「1人でどうにか……」
部流乃は玉藻の方を見る。ボールホルダーは彼女なのだが、前が塞がれてしまっている。上へ逃げようとも、再び必殺技で撃ち落とされるだけ。
首を振って誰かに繋げようとしても、いない。まるで、ハブられているかのような孤立状態だった。
「小栗1トップの弊害だな。普通に考えて、玉藻がコイツみたいに1人で解決できるわけないんだから、一緒に前へ上がってくれないと」
「じゃあ、そのことを言えばいいんじゃないでしょうか」
「いやいや、こればかりは自分たちで気付いてもらわないと。それができないなら、1プレイヤーとして一生成長することはないぞ」
「北原の言う通りだ。タマからコミュニケーションを取るのは難しいし、マーチたちが手を差し伸べる必要がある」
「……そうですか」
2人から指摘を受けてもなお、不満げな部流乃。彼女がどうしてこういう態度なのかは既に分かり切っているため、北原は「お前のせいだぞ」と言わんばかりに小栗を見つめる。
要するに、女子部員たちは
唐突に現れ、自分たちの王子様を独占し始めた女狐。まあ、確かに玉藻の前は傾国の美女なのだが。
────そんな嫉妬心から、誰も玉藻を助けない。北原が諦めて小栗を出すまで苦しめばいいと思っていた。
露骨なイジメだが、小栗も北原も怒りを露わにすることはなく。寧ろ、帝国が玉藻に同情していた。
★☆
side:Tamamo
「嫌われているのか?」
ゴーグルにドレッドヘアーとかいう訳分からん見た目をした帝国の10番────鬼道有人は必殺技で吹き飛ばされたウチに手を差し伸べた。その手を掴んで立ち上がり、答える。
「多分な。どうやら、ウチばっかり小栗と話してるのが気に入らんらしい」
「嫉妬か。試合に私情を持ち込む時点で、勝つ気がないと言っているのと同じだろう」
「アンタと一緒のこと思ってんねんけど、ウチ以外の子はどうせ小栗が試合をひっくり返すと思ってるから、ああいうプレーをしてまうんやろな。緊張もあれど」
たとえ試合中でも、共感できることを言われたなら話さざるを得ない。ストレスを溜め込んでプレーするのもパフォーマンスに影響するし。
ただ、鬼道は何とも言えない表情になった。
「……」
「なんや、女のコミュニティは面倒やなとか思ったん?」
「ノーコメントだ」
図星を突かれたのか、マントを翻して背中を向ける鬼道。小栗と違ってデリカシーはあるみたいやな。……いや、アレは意図的にノンデリを演じていたんやっけ。
センターサークル付近まで下がり、巧みな連携で笠松の陣形を崩そうとする帝国の攻撃を眺めながら、思考の海に沈む。
攻撃に参加しているのはウチだけ。
こんな状況でゴール決めろとか言われても無理がある。流石に集中砲火を貰いながらは動かれへん。
小栗の目を気にするなら、形だけでも攻撃に参加すればいいのにな。自分で言うのもアレやけど、ガキって感じ。
「はあ……」
「溜息を吐く暇があるなら、もっと下がって守りに参加したらどうだ」
「1回戻ろうとしたけど、"こっち来んな"オーラ出されてるし、ええかな────って、アンタ何してんの?」
ウチに話しかけてきたのは、
「監督が小栗知一を引き出したいらしい。だから、舐めたプレーで挑発中だ」
よく見れば、帝国はパスで笠松を翻弄しているだけだった。確かにこれは舐めプであり、彼女らが段々と苛立ってきているのが見て取れる。
キーパーがここまで上がっているのも、その一環。たまたまロングパスが繋がって、ウチがゴールにぶち込んだとしても、動揺すらしなさそうやな。また取り返せばいいし。
前半が終わるまでもう少し。それまでの時間潰しとして、1つ聞いてみることにした。
「仮に小栗が出てきたとして、ボコボコにされたらどうするん?」
「そのときは一から特訓し直すだけだ」
慢心せず、素直に負けを認めて鍛錬を積む。こんなメンタリティしてるヤツがキーパーって、帝国は恵まれてるな。
「えらい前向きで何より」
「目白学院戦での敗北が、良くも悪くも帝国を変えたのさ。どちらかと言えば、あの仕打ちを受けてもなお立ち上がった監督への敬意、が正しいが」
「急に何言うてんねん」
意味深なことを言い出したキーパーから若干距離を取ったところで、長い笛が鳴る。前半終了の合図だ。
「玉藻和美と言ったか。お前の監督に『さっさと小栗を出せ』と伝えておけ」
「出せたら出してるやろ。多分、ギリギリまで出てこやんで」
★☆
side:Tamamo
控え室にて。
小栗と監督以外はウチを睨んでいた。気持ちは分からんでもない。小栗に贔屓されているからではなく、ウチが1点も取り返せなかったからだ。
ここで『アンタらが助けてくれへんからやん』とか言っても、余計に嫌われるだけになる。
「監督、さっさとコイツを下げて小栗を出せよ!」
「小栗は試合に出たくないらしい」
「は?」
そして、彼の言葉に対して染谷が怒りを露わにする。そのまま小栗に詰め寄り、胸倉を掴んだ。
「流石のあーしも我慢できないね。アンタがあんなチビに惚れ込んでるからって、監督を説き伏せてまで笠松の勝利を犠牲にしてんじゃねぇよ」
一触即発の状況にもかかわらず、誰も止めようとはしない。……ちゃうで? ウチが止めに入ったら余計に火を注ぐことになるかなーって。
────一方で小栗は、染谷の瞳を真っ直ぐ捉えるだけだった。黙ってやり過ごすのは悪手にも程があると思うし、このままやとウチだけではなく彼まで嫌われてしまう。
「なんか言ったらどうなの? つーか、露骨にハブられてんのに助け舟を出さないアンタも監督も、玉藻のことが嫌いだったりする?」
「……」
まあ、それだけはないなぁ……。『絶対この流れになるから、とりあえず我慢してちょんまげ』って小栗に言われてるもんなぁ……。
監督は監督で『アイツがいない方が、守備は頑張るだろ』とか言って、ホンマにその通りになってもうてるし……。
だから、ウチと残りの10人が和解すれば何もかも解決する。それがとてつもなく難しいだけで。
────いつまで経っても何も言わない小栗に堪忍袋の緒が切れたのか、染谷は彼を突き放した。
「もういい。この試合が終わったらあーしはサッカー部やめるから」
「私もやーめよっと」「私もやめるわ」「同じく」
彼女の一言を皮切りに、流出野や女原、他の子までが同じようなことを言って、次々と控え室から出ていく。
「マジでこの2人が残るのかよ……」
最終的に残ったのは、藤政とマネージャーの部流乃。どう考えても笠松サッカー部崩壊寸前なのだが、監督は焦るどころか引いていた。まるで、
「……最初から全部分かってたってことか」
溜息を吐いて呆れる藤政に、小栗は軽く笑う。
「タマのことを良く思っていなくてもパスを出してたマーチなら、感情に身を任せずに残る。ベルノは出て行ったところでやることがないから残る。全員の機嫌を取るのは難しいし、とりあえず君だけでもタマのことを助けてくれたら、一歩前進するかなと思った」
しれっとイジってきたことに対する抗議で、ムッと細目になる部流乃。まあ、あの状況下でマネージャーがやることないのはそう。
「なかなかの博打だが、もし私まで出て行ってたらどうするんだ?」
「普通に呼び止めるが?」
「止めるのか……」
「でも小栗くん、このままだったら試合に勝っても負けても、みんなサッカー部やめちゃうよ……」
部流乃の懸念はもっともだ。それに、こうなる前提で仕組んでるなら、出て行ったヤツらが辞めることも想定しているはず。
極論、小栗さえいれば立て直せるとはいえ、監督がそこまでを了承するとは思えない。
「辞めればいいんじゃないか。
「えっ……」
けれど、彼の口からその言葉が出ることだけは良くなかったと思う。それは、これまでの笠松学園を否定することになる。
小栗やったからこそ、みんなが信じてボールを託しているのであり、"別に誰でも良かった"と捉えられるようなことを言ってはいけない。
「……『このチームで日本一を取りたい』って言ってたのに」
部流乃が涙ぐみながら立ち上がる。北原と藤政は目を伏せていて、肝心の小栗はポカンとしていた。さては、今のアドリブやったな?
そして、部流乃も控え室から出て行ってしまった。ちょっと重い空気は耐え難いので、小栗を揶揄うことで振り払う。
「あーあ、やってもうたな。慣れへんことするからこうなるねんで」
「うん、どうやら私は脚本家に向いていないらしいな!」
「『らしいな!』ちゃうねん! このままやとホンマに一斉に部員消えてまうで!」
ほんまコイツ……。
「よし、代わりにタマが辞めよう!」
「なんでそうなるねん! しばくぞ!」
「しばかれる前に逃げる!」
完全に開き直り、暴走し始めた小栗も出て行った。てっきり、アレが後半の作戦を考えてくれてるとか思ってたけど、そうではなさそうやし。
「お前が小栗と仲が良い理由、なんとなく分かったわ」
「私もだ。……今更だが、これまでの無礼を許してほしい。すまなかった」
しかも残った2人は何故か感心してる始末で、片方は謝罪まで。
「全然いいねんけど……もし小栗と付き合いたいとか考えてるなら、自分が合わせにいかなアカンやろな。まずは競馬観戦とか誘ったり。死ぬほど喜ぶで」
「い、いや、私はそんな……」
アドバイスをすれば、顔を赤らめる藤政。ぶっちゃけウチは小栗に男としての魅力を感じてないというか、友達のままの方がお互いに色々楽しめると思う。
「日和ってたら他の女に取られて────そういや、全員日和ってんねんからウチに矛先が向いたんやったな」
「うっ……」
「痛いとこ突かれたって思ってるんなら、後半何するか考えようや。監督も捻り出してくれ」
チンタラしてるとハーフタイムが終わる。3人寄ればなんとやら、1点ぐらいは取り返せるはず。どちらかと言えば、残りの9人がまともにプレーをしてくれるかどうかが問題か。
勝っても負けても部活を辞めるなら、真面目にやっても意味がない。ウチと藤政がどれだけ頑張ってもボコスカ入れられてしまう。
「あー、ならこうするか」
★☆
「来たか」
審判が笠松学園側で交代ボードを掲げており、4番と22番が交代。笠松の選手が前半と打って変わって雰囲気が暗いことが気になるも、22番────小栗がピッチに入ったことで帝国側の空気がピリつき始める。ここからが本番だと。
しかし、彼は佐久間と寺門の前に立つことなく、
「なるほどな」
鬼道は椎奈とアイコンタクトを取る。小栗がDFをやるのは想定外だったが、FWが玉藻のままであれば、作戦は変わらない。
これ以上の失点を防ぐための采配だが、東海地区予選から小栗はずっとFWでプレーしている上、一度も守備に参加していないため、いきなりのコンバートで帝国の攻撃を抑えられる程に上手くはない。
そう思うのがセオリーだが、河平来緒という例外が既に存在している。圧倒的フィジカルがあれば、無理矢理抑え込めるのだ。
「さて、見せてもらおうか。葦毛の怪物とやらの実力を」