サッカー、しますわよ【ウマ娘×イナズマイレブン】   作:ローマ市民兼インド村住人

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前回のあらすじ
雷門中サッカー部結成

話の都合上、陽花戸中を出せないので、裏ノートは円堂家にあったノートと合体させてます。ご了承ください。

ちなみに4話までしか書き溜めしていないです。10日・11日・12日と連続で投稿します。





第2話「ジェンティルドンナ」

「はあ……」

 

「珍しいですね。貴女が溜息だなんて」

 

 

 照奈・椎奈宅にて。

 

 

 机にノートを広げてはそれを凝視し続ける照奈。あまりにも難解な内容なのか、大きな溜息を吐いていたところに、椎奈が2階から降りてきた。

 

 

「円堂くんから預かった、彼の祖父が書いたと言われているノートを読んでいるのだけど────」

 

 

 照奈の実績を知った円堂が、『監督ならきっと分かります!』と言ってノートを押し付けたのだ。

 

 

 そして、中身を椎奈に見せる。

 

 

「うわっ」

 

 

 椎奈が思わずドン引きするレベルで、特徴的な字が紙一面に殴り書きされていた。言い換えると、凄く汚い。

 

 

「一応、解読はできたの」

 

「解読できた……?」

 

 

 更にドン引き。一目見た瞬間に"読みたくない"と自分は思ったのに、照奈は解読してしまった。しかし、解読できたのであれば何故溜息を吐いたのか。

 

 

 その疑問が思い浮かんだとき、照奈は遠い目をしながら続きを話す。

 

 

「『パッと開かず グッと握って ダン ギューン ドカーン』、『シュタタタタタン、ドバババッバーン』」

 

「?????」

 

「意味が分からないわよね」

 

 

 擬音を用いた抽象的な表現は、理解を拒ませる。『彼の祖父』というワードを聞いたとき、帝国の練習でも使えそうと期待したのを後悔したのだった。

 

 

「一応、このノートに書いてある全部の技を()()()()()()()()()()のよ」

 

「……はい?」

 

 

 しかし、目の前の同居人はもっと訳の分からないことを言い出す。

 

 

「強いて言うなら、この"マジン・ザ・ハンド"くらいしか使えないわね。"ゴッドハンド"は改良すれば使えそうだけれども」

 

 

 照奈は該当のページを開いて、人と思われる絵の心臓部分に赤丸が記されている部分を指差す。だが、説明されても椎奈は理解できていない。

 

 

 絵の右上に文字が書いてあるのを頑張って読もうとしたものの、僅か3秒で諦めた。

 

 

「大体、パンチングなんてしたら相手にボールが渡ってしまうでしょう。確実に手に収めないと必殺技の意味がないわ」

 

「は、はあ。それで、何の溜息だったの?」

 

「キーパー技しか書いていないことに対してのよ。まあ、彼の祖父はキーパーだったのを加味すれば、仕方ないと割り切れますが」

 

 

 恐らく実際に使っていない必殺技が混じっていそうなのもあり、照奈は"期待外れ"の烙印を押した。キーパーだけが技を使えても意味がないのである。先程も言った通り、全部再現済みだが。

 

 

「そういえば、円堂大介(えんどうだいすけ)のポジションはキーパーでしたか」

 

「そうよ。総帥は自分の父親のポジションに全く関係のない人物を殺したの」

 

 

 約40年前の事件に触れつつ、ノートを閉じて立ち上がる照奈。そのまま2階に上がろうと階段へ向かう。

 

 

 総帥とは、椎奈がコーチを務めている帝国学園の総帥である影山零治(かげやまれいじ)のことを指しており、彼の父親がサッカー界から追い出されて失踪したのがきっかけで起きた事件だ。

 

 

 影山がサッカーに向ける感情は複雑で、照奈は現役時代にその一端を味わっていた。死ぬ程しょうもない、と思いながら。

 

 

「ま、それぐらい影響力があったのかしらね。子供の考えることなんて、大人が分かるわけでもないし」

 

「何が言いたいんですか?」

 

「別に。ああ、多分分かっているだろうけど、一応総帥に伝えてほしいことがあるの」

 

「前向きに検討はしておきます。どうぞ」

 

 

 照奈は、階段に足をかけて振り返った。

 

 

余計なことをしたら殺す

 

 

 そのときの目付きを真正面から捉えてしまった椎奈は、心臓がキュッと締め付けられるような息苦しさを感じる。

 

 

 一緒にプレーしていたときでさえなかった、真紅の瞳に宿る殺意。対象は自分じゃないのに、背筋が凍る。

 

 

「……一言一句違わずに言っておくわ」

 

 

 

 

★☆

 

 

 

「えっ! 全部できたんですか!?」

 

「あくまでも、こんな感じだろうなっていうイメージよ。貴方の祖父が想像しているモノと違うかもしれないわ」

 

「それでも凄いです!」

 

 

 翌日の部活動。照奈はノートを円堂に返しながら昨日のことを報告すると、驚きと興奮が入り混じった返事が来る。

 

 

「と言っても、教えられそうなのは2つしかないわ」

 

「2つ? じいちゃんのノートに書いてるやつって、もっとありましたよね?」

 

「あったけど、それら以外が実用的ではなかったの」

 

「そうだったんですね……」

 

 

 円堂の疑問はもっともだが、イメージとはいえちゃんと検証した照奈が言ったのであればと、若干残念がりながらも納得はいった。

 

 

 となれば、次は実際に技を見たくなる。

 

 

「じゃあ、見せてくれますか?」

 

「まだ早いわ。みんなが揃ったときにも言うけど、ボールを触るのはフランスに行ってからよ」

 

 

 しかし、その望みは叶わなかった。しかも、数ヶ月はボールなしのトレーニングが確定。円堂は数秒間硬直した後に、不満の声を上げる。

 

 

「えぇ! なんでですか!? オレたちサッカー部ですよ!?」

 

「そうね。だけど、今から体力をつけておかないと、困るのは貴方たちなの。折角フランスに行ったのに、疲れて最後まで練習できない方が嫌でしょう? 」

 

「確かに、そっちの方が嫌です。でも、ボールを触れないのも嫌です!」

 

 

 照奈とて気持ちは分かる。サッカー部なのにボールを触れないのは、なんとももどかしい。とはいえ、ここはキッパリと断らなければならない。

 

 

 とりあえずは、60分──否、80分フル出場でもバテずに通し切れる体力が欲しい。試合の強度が高くなればなる程に要求値は高くなるものの、最低基準を満たしていればあとは時間が解決してくれる。

 

 

 なお彼女自身、知り合いのフランスチームとの合同練習がどれぐらいの強度なのかは把握できていない。それでも、今のままでは到底やり切れないことだけは確信していた。

 

 

 故に、まだボールは触らせない。技術よりも体力が大事なフェーズなのだ。

 

 

「何を言っても部活中に触るのは無理よ。どうしてもと言うなら、部活が終わってから触りなさい」

 

「だったらそうします!」

 

 

 昨日今日の関係とはいえ、円堂の性格をなんとなく把握できた照奈は妥協案を提示する。案の定乗っかってきた彼ではあるが、それは罠に掛かったことを意味していた。

 

 

 腹黒い監督はこう思っている。ボールを触る体力があるならね、と。

 

 

 数分後、残りの3人が部室に入ってきたので部活が始まった。

 

 

「今日は稲妻町を走ります。ただ走るのではなく、頭を使ってもらうわよ」

 

「頭を使う?」

 

 

 半田が首を傾げながら復唱すれば、照奈は「そうよ」と肯定して話を続ける。

 

 

「スタートとゴール地点は部室前。今から通るルートにある"ポストの数"を数えてもらうわ」

 

 

 ────照奈曰く、このトレーニングは"視野を広げるための訓練"。あくまでも意識づけるためにみんなでやるだけであり、普段の登下校のときから取り組んでほしいのだと。

 

 

 視野を広げることは、試合中の選択肢を増やすことと同義。味方・敵がどこにいるのかを常に把握できていれば、思わぬ一手で活路を切り開くこともある。

 

 

 そんな説明を一通りすれば、円堂は「オレ、監督に出会えて良かったです」と、まるで物語の終盤かのような感想を言った。

 

 

「そこまでのレベルじゃないわよ、これ。(わたくし)が現役時にやっていたことをそのまま貴方たちにもやらせているだけだもの」

 

「帝国は基礎トレーニングから違うってわけか。流石は日本一のチームだな」

 

 

 染岡は感心しているが、照奈は何とも言えない表情である。それに気付いた者は誰一人とおらず、「よーし、行くぞー!」という円堂の掛け声と共に全員が外に出て行った。

 

 

 部室に残された照奈がポツリと一言。

 

 

「現役は現役でも"トゥインクル・シリーズ"の方だなんて言っても、何のことか分からないでしょうね……」

 

 

 

 

★☆

 

 

 

~十数年前~

 

 

 ジェンティルドンナと調べても、単語の意味が出てくるだけ。

 

 

 オルフェーヴル、ゴールドシップ、ヴィルシーナ、フェノーメノ、ウインバリアシオン────数々の名バの存在がなかったことになっている。

 

 

 否、こう言い換えるべきだ。

 

 

 

 

 ウマ娘という種族そのものがなかったことになっていた。

 

 

 理由は明確である。

 

 

『インゴット先頭! インゴット先頭! 外からヴィラハマカゼが追い上げて来る!』

 

 

 テレビから流れる実況。画面の中では4本足の動物が走っていて、その上に人が乗っている。必死に手綱を動かし、動物にムチを打つ。

 

 

 右上に表示されているサイドテロップ、"日本ダービー(GⅠ)"。

 

 

「やはり、府中での逃げ切りは難易度が高いわね……」

 

 

 1人でぶつぶつと呟く幼き頃の照奈。

 

 

 ────かつての"鬼婦人"ジェンティルドンナは、あっさりと競馬に適応していたのだった。

 

 

 知っている名前がいないことに対しての悲しさはあったが、ある意味新鮮な気持ちでレースを見ることができていた。

 

 

『勝ったのはヴィラハマカゼ! 志藤一(しどうはじめ)、ダービー初制覇!』

 

 

「インゴットのラップタイムは悪くなかったはず。あれぐらいの淀みのないペースで走れば、捲れないし突けば共倒れ。にもかかわらず、ロングスパートで押し切ったヴィラハマカゼは相当な心肺機能を持っているわね」

 

 

 今年の世代の頂点が決まり、レースの分析をしていると、照奈の後方にある扉が開く。

 

 

「終わったか」

 

「ええ、ちょうど勝者が決まったところです」

 

 

 入ってきたのは、サングラスを掛けた背の高い男────帝国学園総帥、影山零治。

 

 

 照奈は帝国学園内にある一室で日本ダービーを観戦していたのだ。

 

 

「総帥に買っていただいたのがヴィラハマカゼとインゴット軸の三連単2頭軸マルチ。3着の8番オンザセリックは入れていたはずなので、的中しているかと」

 

 

 そして、影山に馬券購入を代行してもらっていた。これは、帝国学園サッカー部で圧倒的なエースである彼女だからこそ認められている特権────"日曜の午後3時~午後4時の競馬観戦"。

 

 

 試合中は流石にやらないが、それ以外はこのようにテレビの前に座っている。チームメイトは誰も知らない、秘密の趣味。

 

 

「これ程までの的中率となれば、サッカーを辞めても馬券師として生活できるだろう」

 

「割と真剣に検討していますわね」

 

「そうか」

 

 

 と呟いた影山は、フッと笑う。随分と楽しげに語る彼女を見て、つい微笑ましく感じてしまったのだ。

 

 

「以前、言っていたな。『(わたくし)は走るのが好きだから騎手にはならない』と」

 

「確かに言いましたが、それがどうかしたのでしょうか?」

 

「貴様が陸上に興味を持つ前に勧誘して正解だったと、改めて思っただけだ。10分後、練習を再開する」

 

 

 そう告げて影山は出て行った。

 

 

 彼は勘違いをしているが、照奈がその旨を伝えることは一生ない。彼女にとって"レース"と"陸上"は似て非なるモノであり、影山に誘われなかったからといって、陸上の道を歩むとは限らない。

 

 

 加えて、圧倒的な身体能力を個人戦で発揮しようとも思わない。勝って当然だからである。それはサッカーにおいても同様だが、彼女が大学まで続けた明確な理由は1つ。

 

 

 奥崎椎奈や他の帝国学園のチームメイトが、折れずに自分の背中を追い続けていたからであった。

 

 

 どれだけ点を入れてたとしても、普通じゃあり得ないパスを通してしまっても、強引なパスを難なく拾えたりしても、負けじと追い縋ってきた彼らへのリスペクトだ。

 

 

 後に、影山零治はとある雑誌のインタビューでこう語る。

 

 

 『芹坂・奥崎世代の帝国の監督をしているときが人生で一番有意義な時間だった。FFIのU-15大会が当時からあれば、日本代表は間違いなくあの12人が選ばれるに違いない。決勝で当たるであろう()()()()()()()()()()()()はまた別の話だが』と。

 

 

 勝利のためなら手段を(いと)わないとされている影山。そんな彼が正々堂々と試合に挑んでいた時期が、芹坂・奥崎世代の帝国学園のときだけだった。

 

 

 

 

★☆

 

 

 

~現在~

 

 

「すみません……」

 

「仕方がないわよ。一生懸命走ったのだから」

 

 

 ポストの数を数えながらの稲妻町ランニングは、4人にとって超絶ハードなメニューだったそうで、木野に至っては疲労で歩けなくなっていた。

 

 

 なので、照奈がおぶって自宅まで送ることにしたのだ。男子3人は、今頃ヒーヒー言いながら帰宅中である。

 

 

「といっても、明日は数える物を変えて同じルートを走る予定よ」

 

「えっ」

 

 

 木野の顔色が青を通り越して白くなり、頭の中で一瞬"退部"の二文字が過る。

 

 

「だから、今日はたくさん食べてたくさん寝なさい。もし明日も歩けなかったら私に電話すること。迎えに行ってあげるわ」

 

「それは凄くありがたいんですけど……」

 

 

 求めているのはそれではない。明後日は頑張るから、休みが欲しい。そんな切実な想いが照奈に届くことはなく。

 

 

 否、届いているのだが、配慮するつもりは更々ない。

 

 

「ところで、木野ちゃん。貴女は今楽しいかしら?」

 

「……はい、とても楽しいです。マネージャーをやっていたとしても『楽しい』って言ってるかもしれませんけど、円堂くんたちと歩けなくなるまで一緒に走るという経験はできていないと思います」

 

 

 疲れていながらも、穏やかな声色の木野。

 

 

「部活動2日目でその感想が出るなら大丈夫そうね。まあ、嫌でもやらせるつもりだし、辞めさせないけど」

 

「あはは……」

 

 

 ただ、照奈の強気な発言に、木野は思わず苦笑する。この人なら地獄の果てまで追いかけて来そうだと、2日目ながらも感じた。

 

 

 ────会話は途切れ、街灯が照らし続ける夜道を歩く照奈。

 

 

 前方からやって来る女性とすれ違う瞬間、ふと目が合ってお互い立ち止まった。

 

 

「あら、おハナさん」

 

「久しぶりね照奈────と、おぶられている子は貴女のところの?」

 

「ええ、そうよ」

 

 

 紺の髪にポニーテール、グレースーツを着て眼鏡を掛けており、見た目からして知性を感じられる女性。まさにクールビューティーといったところ。

 

 

 "おハナさん"と呼ばれた彼女の名は、"東条(とうじょう)ハナ"。

 

 

 照奈の前世────ウマ娘時空に存在していたトレーナー・東条ハナと同姓同名、姿や性格すらも同じだが、唯一の違いは、ジェンティルドンナを知らないこと。

 

 

「自分で言っていたこと、ちゃんと遂行しているのね」

 

「当然でしょう。そういう貴女はどうなのかしら?」

 

「現役時代が評価されて、無事に監督就任よ。チームができたばかりだからFF(フットボールフロンティア)に出ることはできないけれども」

 

「へぇ、腕の見せ所ね」

 

「そうねぇ……」

 

 

 照奈は手腕に期待する素振りを見せるも、東条の表情からしてあまり前向きな姿勢が感じ取れなかった。

 

 

 相談に乗れるなら乗った方がいいのかと考えたが、そのことを口に出す前に東条は悩みを吐露する。

 

 

「"王帝月ノ宮(おうていつきのみや)"っていう中学校で監督をやらせてもらうのよ。だけど、そこのスポンサーが掲げている教育プログラムがどうにもきな臭くて」

 

「そう。じゃあ、またどこかで会いましょう」

 

「見限るのが早くないかしら??」

 

 

 前言撤回。照奈は強引に話を切って別れを告げる。当然ながら東条からツッコミが入るも、無視をして離れていく。

 

 

「お話、聞かなくて良かったんですか?」

 

 

 木野が心配そうに声をかけるも、「聞かなくていいわ」とキッパリ答える照奈。

 

 

「闇が深そうだもの。面倒事に巻き込まれるのは御免よ」

 

 

 木野に言っても意味がないので口には出さなかったが、ああいう系統でアドバイスを貰いたいのなら、影山に相談すべきだろうと照奈は考える。

 

 

 とはいえ、影山も影山で一枚噛んでいるか、あるいは別の闇に手を出しているかもしれない。だが照奈からすれば、自分のチームに被害が及ばないのならそれでいい。

 

 

  世界一になるための過程で芽を刈り取られたら、たまったもんじゃないと。だからこそ、あらかじめ椎奈を介して忠告したのだ。

 

 

「なるほど……?」

 

 

 いまいち理解できていない木野だが、照奈がこれ以上喋ることはなかった。

 

 




東条(とうじょう)ハナ
年齢:22
ポジション:ミッドフィルダー
背番号:8

中学は帝国学園で、芹坂・奥崎世代の1人。帝国の守備は彼女ともう1人が中心となって形成されていた。大学時代に王帝月ノ宮のスポンサー、"月光(げっこう)エレクトロニクス"からスカウトを受け、4月から監督に就任することになる。


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