サッカー、しますわよ【ウマ娘×イナズマイレブン】 作:ローマ市民兼インド村住人
帝国戦勝利
恐らく今月最後の投稿だと思います
帝国戦の翌日。案の定、雷門中正門の前はマスコミで溢れかえっていた。雷門総一郎が雷門中の公式サイトで取材お断りの旨を掲載したにもかかわらずだ。
だから照奈はマスコミが嫌いである。"貴婦人は終わった"だの好き勝手言われたりした経験も相まって、良い印象は微塵もない。なお、新聞では何故か豪炎寺の活躍だけが取り上げられていた。
「監督、2人確保しました!」
閑話休題。
円堂が部室に連れて来たのは、両目が前髪で隠れて見えない藤色の長髪の少年と、ピンクと水色の網模様のニット帽を被った、猫っぽい少年。
「
「影野くんにマックスくんね。はい、これ」
照奈は2人に入部届と鉛筆を渡す。
豪炎寺は正式加入だが、あくまでも夏未は緊急の埋め合わせで木野はマネージャー。なので、部員を集める必要はあったのだ。
「それにしても、まさかあの帝国学園に勝っちゃうなんてねぇ。ボクも見てたけど、まさか風丸があんなに足速いとは思わなかったし、円堂がシュートを片手で止められるくらい凄いキーパーだったなんて」
「ありがとな。でも、監督が求める基準にはまだまだ達してないし、オレもそう思ってる」
向上心の塊である円堂。昨年のフランス遠征で共に練習したシャスソヴァージュのメンバーの実力に驚愕し、絶対に超えてみせるとほぼ毎日猛特訓を積み重ねている。
それでも足りない。同じ経験をした半田も染岡も(木野も)同じことを思っている。
──────オルフェ・ステイを超えなければ世界一は取れない、と。
「ホントに? 実質日本一みたいなものなのに」
「日本一は過程よ。目指しているのは世界一なのだから」
"世界一"。その単語に反応したのはマックスではなく影野だった。
「世界一になれば、存在感を出せる男になれますか?」
「もちろんよ」
前髪で隠れているので正確には読み取れないが、影野の表情は明るくなったかに思える。照奈はその存在感の薄さを活かした方が強いのにとは思ったものの、本人の意思を尊重することにした。
これで正式に11人が揃う。雷門中サッカー部の完成だ。
★☆
数日後、照奈は再び校長室へ呼び出された。
「要は"
火来校長が持っていたのは、いかにも禍々しい手紙。要約した内容を照奈に伝えれば────
「でしたら、弁護士の準備をしましょう。"精神的苦痛を受けた"などの理由で尾刈斗中を訴えれば、サッカー部を廃部に追い込めます」
思っていたのと違う返答が来て、火来校長は冷や汗を流す。
「芹坂先生、流石にそれはやり過ぎかと……」
「ですが、試合を受けるメリットが私たちにはありません」
照奈はその類の話を信じてはいない。尾刈斗中との試合後に相手チームの選手全員が高熱を出して倒れる、負けそうになったら物凄い風が吹いて試合が中止になる、そんなモノは偶然が積み重なっただけに過ぎないと。
何かが見えたり聞こえたりする、という話なら信じてはいたが。それでも、万が一の可能性はある。リスクは極力被りたくないのだ。
「では、こちらのサッカー部もなかったことにしてみましょうか」
「────尾刈斗中との試合、やらせてください」
しかし、夏未が廃部をチラつかせる。それを出されたら、照奈は申し出を受け入れざるを得なかった。
「子供が権力を持つとロクなことにならないわね……」
「何か、言いましたか?」
「何も」
近いうちに、夏未の越権行為について理事長に相談しようと決めた照奈であった。
★☆
試合当日。一切合切取材を受け付けない雷門中サッカー部にフラストレーションが溜まっていたマスコミがサッカーコートを囲んでおり、カメラのシャッター音が鳴りまくっている。
本来なら中に入れない予定だったが、とある理由で理事長が許可を出した。
「みんなお前を撮ってるぜ、豪炎寺」
「帝国の試合、オレはほとんど何もしていないのにな」
尾刈斗中のボールで試合が始まる直前に、豪炎寺と染岡が話していた。今回のフォーメーションは変わらず5-3-2だが、風丸と豪炎寺のポジションが入れ替わっており、円堂がGK、木野は念のため控え選手として登録されている。
また、元々円堂がいたボランチにマックス、夏未がいたWBに影野が入る形だ。
少し経てばキックオフの笛が鳴り、一つ目のバンダナで目を隠している少年、"
染岡と豪炎寺はスルーして敵陣へ上がって行った。
「いただきっ!」
マックスがスライディングで奪おうとするも、その前に武羅はパスをして狼男のような少年の"
「勝負ッス!」
次は壁山が月村に突っ込んできた。彼の巨体っぷりを見て、このままタックルを食らったらどうなるのかと想像してしまった月村。少し動きを止めてしまった隙を半田が突き、ボールを奪って風丸に渡す。
「マックス!」
「オッケー!」
風丸がマックスを呼ぶと、2人で同時にボールを蹴り上げてジャンプする。
風丸が上、マックスがオーバーヘッドの形で下から同時に蹴り出せば────
「「"炎の風見鳥"!!」」
ボールに炎の翼が生え、尾刈斗中のゴールへと飛んで行く。
──────照奈は円堂大介のノートを"キーパー技しかない残念なモノ"と評価していたが、今繰り出した必殺技はノートに書かれていたモノだった。
「"ドラゴンクラッシュ"!」
さらには、進路上に立っていた染岡が必殺技で火力を足す。炎を纏った真っ赤なドラゴンが現れ、どんどんと加速していく。
尾刈斗中のDF陣は急いでブロックしようとするも間に合わず、GKの"
あっという間に点数を入れられてしまった尾刈斗中。しかし、源田とは違い鉈はどこか余裕がありそうに見えた。
全員が定位置に戻り、ホイッスルが鳴る。
幽谷がボールを持てば、尾刈斗中の監督である"
「マーレマーレマーレトマレ……」
「なっ……!?」「身体が……!?」
その直後、染岡と豪炎寺が動かなくなってしまう。2人だけに留まらず、風丸やマックスまでも。
「ちょっと、どうしたんでヤンスか!」
「マズいな……」
突然の出来事に焦り始める栗松。状況が一転したのを即座に理解した半田が幽谷からボールを奪おうとするも、
「"ゴーストロック"!」
幽谷がそう叫べば、雷門中DF陣、そして円堂までもが身動きを取れなくなってしまう。
「これが"ゴーストロック"だ!」
そのままシュートをゴールの左上へと放ち、円堂は何もできないまま失点を許すこととなった。それと同時に何かに縛られていたような感覚がなくなり、足が動く雷門中メンバー。
これに対してどうすればいいのか。彼らは自分たちの監督である照奈に助けを求めようとすると、彼女は地木流の方を向いていた。
★☆
「あの二重人格っぽい監督が、マーレなんとかって催眠術をかけてるのよ」
「なるほど……」
照奈の見解を聞いてメモを取る音無。帝国戦以来、彼女は実質的に雷門中のマネージャーとして活動していた。本入部も時間の問題である。
「じゃあ、それを聞かないようにすればいいってことですよね?」
「そうね。ま、とりあえずはこれで手を打ってみましょう」
木野が出した答えに頷きつつ、照奈はベンチから立ち上がってコート付近まで歩く。
何か指示を出してくれるのだろうと、コートの中にいる11人全員が彼女の方を向いた。
「こんな小細工を使わないと勝てない連中と戦うのって、時間の無駄よ」
両手をメガホン代わりにして、できる限り大きな声で呼びかける照奈。どう見ても尾刈斗中に対する煽りであり、グラウンド内でざわつきが起きる。
「いろいろな噂があるのは知っていたけど、まさか催眠術を使ってくるなんてね。本当にくだらないチームだから今すぐにでも棄権したい気分だわ」
「だ、黙れ! どんな手段を使おうと勝てばいいのだ!」
地木流が顔を真っ赤にして照奈に抗議する。尾刈斗中メンバーも、自分たちがボロクソに言われていることに対して、声は出さないが怒りを露わにしていた。
「呪う前に練習すればいいのにって思わないかしら? マックスくん、どう?」
「僕もそう思います。これで負けたら廃部って、かなり理不尽だよね。そもそもこんなところと練習試合するつもりなんてなかったのにさ、雷門さんが廃部をチラつかせてきたら、監督は試合するしかないですもんね?」
「ええ、そうよ。こんなクソみたいな方法で"帝国を下した雷門中に勝利!"とか言われると、腹が立ってぶっ壊したくなるわ。何をとは言わないけれども」
照奈の狙いを見抜いたマックスは、意気揚々と乗っかる。
サッカーにおいて、観客を味方につけるのも大事な戦略だ。歓声はバフとなり、ブーイングはデバフ。まずは、"ゴーストロック"が悪であると認識させるのが第一。
地木流が喋ったところを上から被せて掻き消すのが一番手っ取り早いものの、恥をかかせて二度とやらせないようにする方が他のチームのためにもなる。
この短い時間で照奈はそこまで考えつき、実行に移した。とはいえ、マックスが夏未の名前を出したのは想定外だったが。
「セコいね……」「帝国の方がまだちゃんと戦ってたよな」
効果はあったようで、尾刈斗中を非難する声が出始める。"ゴーストロック"が催眠術を使っているのは事実なので、地木流は身体を震わせて俯くしかなかった。
──────試合再開。また幽谷がボールを持って走っているが、"ゴーストロック"を使う気配はなく。メンタルにダメージを負ってしまったのか、マックスがスライディングを仕掛けても、反応できずに奪われる。
マックスはそのままボールを蹴り上げ、反時計回りに回転しながら飛ぶ。蒼い炎を纏い、
「"バックトルネード"!」
踵で蹴り落としたのだが、器用にボールの進行方向を下ではなく真っ直ぐへと捻じ曲げた。
空を往く蒼炎に合わせるように、もう1人が紅い炎を纏いながら飛んでいる。豪炎寺だ。
「"ファイアトルネード"!」
敵陣のゴールへと放たれるソレは、赤と青の炎が入り混じりながら降り注ぐ。とても綺麗な見栄えで、思わず見惚れてしまう観客もいたが、鉈の心境はこれ以上ない最悪だった。
"止められるわけがない"。先程の照奈の煽りが効いていたのもあり、自信を喪失してしまっている。
他のメンバーも、止めようとはせずにただボールが自分たちのゴールに入るのを眺めていた。
★☆
前半終了後、尾刈斗中は棄権した。選手全員がサッカーをできるメンタルではなかったからである。
また、この試合をサッカーグラウンドから少し離れた木陰で見守っている2人がいた。
「鬼道くん、雷門のプレースタイルは流石にわかった?」
「はい。シュート技にシュート技を重ねて威力を底上げするのが、雷門のサッカーでしょう。今まであったようでなかった、新時代のプレーです」
「照奈は、"シュートチェイン"と言っていたわ。誰でもできる、とも」
椎奈と鬼道。2人は雷門の視察に来ていたのだ。
「でしたら、我々もシュートチェインを取り入れるべきでしょうか」
「そのためには技を開発しないといけないわ。それに、本来のシュートチェインはコートの中央ぐらいから撃っても入るわけではないはず」
「確かに、源田は視界を塞がれていましたね」
鬼道はあの悪夢を思い返す。辺見と大門が吹き飛ぶギリギリまで染岡が源田の目の前に立っていたことを。
幸い、源田のメンタルは無事に回復したが、誰も雷門との試合を振り返る気はなかった。
「円堂くんの技量を考えると、生半可なことをしても簡単に止められるでしょうし、あらゆるシチュエーションから繋がないといけないのも考えると、技開発に相当な時間をかけることになります」
「……なるほど。FFが近付いているのを加味すれば、円堂守を破る大技を1個開発する方がいいかもしれませんね」
「そうしましょうか」
2人は正門へ歩き出す。デスゾーンを超える大技。それが一体何なのかは想像すらできないが、方向性は固まった。
鬼道がふと思い出したかのように椎奈に質問する。
「コーチは、なぜ雷門があのプレースタイルなのかわかりますか?」
同居人である彼女なら、シュートチェインのように何か知っているのではないかと。帝国最強世代の圧倒的エースが作るサッカーは、一体どこから来ているのかと。
そう聞かれて、椎奈は歩みを止めた。そして、選手たちに囲まれている照奈を見ながら答える。
「あそこまでやらないと突破できないゴールキーパーが、フランスにいたのでしょう」
Q.マックスに色々やらせ過ぎじゃない?
A.ちょっと教えたらできちゃうので、照奈が調子に乗って詰め込んじゃった。