サッカー、しますわよ【ウマ娘×イナズマイレブン】   作:ローマ市民兼インド村住人

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前回のあらすじ
尾刈斗中に勝利


第8話「下なんて見なくていいの」

 ついに来たるフットボールフロンティア地区予選。抽選の結果、1回戦で雷門中と対戦する学校は野生中(のせちゅう)という、前回の地区予選決勝で帝国学園に敗れたところだった。

 

 

 そして、音無が正式に入部。さらには"土門飛鳥(どもんあすか)"という灰色がかった水色の髪で細身の少年が追加で加入することになった。

 

 

 どうやら木野の知り合いらしく、彼女は久々の再会に喜んでいた。

 

 

 ──────なお、彼は帝国学園からやって来たスパイである。その旨は椎奈が照奈に連絡済みで、『今のままだとベンチにすら入れないから、ついでに鍛えてあげて』と頼まれていたり。

 

 

「あそこは瞬発力と機動力が大会屈指で、高さ勝負が得意なんだ」

 

「へぇ」

 

 

 野生中と戦ったことがあるらしい土門の説明を受けて、興味深そうな反応を示したのは風丸だった。雷門一の俊足として、どちらが優れているのか比べたくなっている。ワープできる時点で、勝敗は言うまでもないが。

 

 

「高さ勝負となると、ボールを打ち上げたときに取られるかもしれないわね」

 

 

 一方で、照奈は懸念していた。現在の雷門中の強みは、どこからでも得点を決められるところにあるため、空中からの攻撃が封じられる可能性を考慮していたのだ。

 

 

 ファイアトルネードとバックトルネードは使わない方がいい。そう考えて豪炎寺とマックスに伝えようとすると、円堂が「そうだ!」と言って立ち上がった。

 

 

「高さで勝つなら、もっと高く飛べばいいんだ!」

 

「まあ、そうね」

 

 

 照奈的には、わざわざ高さで勝負しなくとも地に足をつけて戦えば勝てると思っている。しかし、折角なので相手の得意分野で戦うことに決めた。

 

 

 そして、彼女の頭の中では、野生中の強みを超える必殺シュートが既に完成している。……本当は、前世で偶然見たサッカーアニメからパクってきた技なのだが。

 

 

 ジャーニーが見たことある場合は指摘されるかもしれないと思いつつも、実演するために携帯を取り出して電話をかけた。理由は、2人技だからである。

 

 

「誰に電話してるんすか?」

 

 

 何か情報を得られるかもしれないと土門が照奈に声をかけるが、「あとで分かるわよ」と軽くいなされた。

 

 

 

★☆

 

 

 

 十数分後、雷門中のサッカーコートに男が現れる。茶髪で癖毛を後ろで束ねて、左側頭部を刈り上げた特徴的な髪型。飴を咥えながらの表情は、どこか嫌そうだった。

 

 

「俺を便利屋かなんかだと思ってないか?」

 

「まさか。社会不適合者だと思っているわよ」

 

「お前さあ……」

 

 

 照奈の毒に呆れる男だが、円堂が駆け寄ると笑顔になる。

 

 

沖野(おきの)さん! よろしくお願いします!」

 

「おう、今日もよろしく!」

 

「土門くん、紹介するわ。彼は"沖野リョウ"。私の元チームメイトで、今はサッカースクールの講師をしているの」

 

「なるほど。よろしくお願いします」

 

「よろしくな!」

 

 

 ──────実は、照奈が炎の風見鳥を披露したときにも、沖野はその相方として呼ばれていた。なので、土門以外は彼を知っている。

 

 

 照奈が見せて、部員が真似る。これが雷門中の必殺技習得方法であり、効率良く覚えられるのもあって、彼らからの評判はすこぶる高い。

 

 

 また、シャスソヴァージュもキーパーを除いて同じ方法で習得している。怪物2人が考え抜いた末の、ある種の結論だったのだ。

 

 

「で、何をやらされるんだ?」

 

「2人で飛ぶ、私が貴方の足を踏み台にしてジャンプ、シュート」

 

「俺が押し上げる感じでいいのか?」

 

「そうね。バネみたいに思ってもらえたら」

 

 

 単純な説明でも、質問1つでイメージができた沖野は軽く準備体操をし始める。その間に、照奈は今から見せる技の使い手を選ぼうとしていた。

 

 

「────踏み台役を壁山くん、シュート役を風丸くんにしようと思うの」

 

「またオレですか?」

 

「雷門中MFの宿命ね。宍戸くんも簡単なシュート技を教えてあげるから、試合までに習得してちょうだい」

 

「分かりました!」

 

 

 雷門のサッカーで一番運動量が多いのはMF陣。攻めにも守りにも参加するので、照奈は風丸・宍戸・マックスの3人を中心にして戦術を組み立てている。

 

 

 よって、シュートチェインの起点は彼らになるのだ。理想はDF陣から繋げていくことだが、そちらの方はまず十分なディフェンス力を身に付けなければならないので、後回し。

 

 

「うし、終わったぞ」

 

 

 諸々決まったところで、沖野の準備体操も終わる。2人は定位置につき、照奈がボールを上に蹴り上げると、同時にジャンプする。

 

 

 沖野よりも照奈が若干高く飛び、沖野が地面を背にして足を彼女に向ける。

 

 

 2人の足裏がくっつき、踏み台となった沖野がバネの要領で照奈を押し上げて、2段ジャンプを繰り出し────

 

 

「せいっ!」

 

 

 オーバーヘッドキックをかませば、竜巻が発生する。あっという間にゴールネットへと直撃。そして2人はスタッと華麗に着地した。

 

 

「「「おおー!!」」」

 

 

 見事なコンビネーションに歓声が沸き起こる。

 

 

「やっぱすげぇな。頭の中のイメージだけで必殺技を完成させる監督も、簡単な説明で合わせられる沖野さんも」

 

 

 この即席連携は炎の風見鳥のときも見てはいるが、全く別系統のシュート技でも1発で成功してしまう程に優れた理解度と身体能力。

 

 

 染岡は、帝国最強世代のレベルの高さを改めて感じていた。

 

 

「俺や奥崎たちはこれぐらいできないと、コイツに置いて行かれるからな」

 

「簡単なようで難しいことなんだけど、沖野や椎奈はよく頑張れたと思うわ。いい? 強くなりたいなら、下を見るんじゃなくて"常に上を見続けること"よ」

 

「あと、技量の高い選手が低い選手に合わせるのはダメだ。低いヤツが合わせるのであって、わざわざ同じレベルに落ちる必要はない」

 

 

 2人から語られる理論。照奈の言う通り、簡単に見えて難易度は非常に高い。サッカーというスポーツは、1人1人の能力差が顕著に出るからだ。

 

 

 しかし照奈が下に合わせれば、彼女の実力は間違いなく落ちる。故に、沖野や椎奈が追いつかなければならなかった。

 

 

「つまり、オレが風丸さんや半田さんに合わせるでヤンスか?」

 

「そうだ。例えば、俺たちの元チームメイトである"奈瀬文乃(なせふみの)"っていうMFはシュート技で前にパスをしていた。影野、なんでだと思う?」

 

「えっと……監督なら取れるからですか」

 

「正解。普通のパスよりカットされにくいが、受ける側が必殺技を軽く受け止められるヤツじゃないとこの方法は使えない。まあ、それができてしまうのはコイツと────ジャーニー・ステイぐらいだろう」

 

 

 「なるほど」と納得する栗松と影野。しかし、照奈は溜息を吐いて反論する。

 

 

「例えが極端過ぎる上に記憶違いも甚だしいわ。文乃のアレはパスじゃなくてロングシュートよ。ただ私に向けて撃ってくるからパスに見えるだけであって」

 

「じゃあパスだろ」

 

「黙りなさい」

 

「……はい」

 

 

 ────どうやら、沖野は照奈に敵わないらしい。

 

 

 

★☆

 

 

 

 

 必殺技の練習を始めてから数日後。壁山に関してはまずジャンプ力を上げる必要があったので、そこを焦点に当ててトレーニングをした。

 

 

 その結果、風丸より少し低いところまで飛べるようになったのだが、次の問題が発生する。

 

 

「やっぱり無理ッス……」

 

 

 彼は高所恐怖症だった。飛んだあとに身動きが取れなかったのだ。それが判明するまではやる気満々で励んでいたのもあり、流石の照奈も見抜くことはできず。

 

 

 加えて、初めの1回がトラウマなったのか、2回目以降は飛べなかった。

 

 

「なんとかならないか?」

 

 

 思わぬ誤算に焦り始める風丸。しかし、監督は項垂れる壁山の手を掴んで無理やり立ち上がらせる。

 

「この前、私が言ったことを覚えているかしら」

 

「下じゃなくて上を見るっていう話ッスか……?」

 

「ええ。意味としては違うけど、アドバイスするならこれが最適だと思うの。あのとき、沖野は下を見ていなかった」

 

 

 数日前にお手本を披露してくれたときのことを思い返す2人。風丸は先程の壁山の行動も思い出してとあることに気付く。 

 

 

「……確かに、そのまま地面に背を向けていました。それに対して壁山は一瞬下を見ていた……」

 

「だから恐怖症が出て動けなかった、そう見ているわ。ま、『高所恐怖症だから無理ッス……』なんて申し出たところで私は強制的にやらせるけど」

 

 

 半分冗談も交えながら、照奈は壁山が動けなかった理由を考察する。沖野との違いを見出しただけなので合っているかは分からないが、現状はそれぐらいしか要素がなかった。

 

 

 そもそも、彼女は高所恐怖症ではないため、気持ちが分からないのだ。

 

 

「下を見ずにやれば……でも……」

 

 

 少しテンションが戻ってきた壁山だが、やはり不安は拭い切れない。そこで、照奈は切り札を出すことにした。

 

 

「ではこうしましょうか。もし壁山くんが下を見たら、貴方のお尻を私が蹴り飛ばすわ」

 

「えっ」

 

 

 ただの脅しである。否、この鬼監督は本当に壁山の尻を蹴り飛ばそうとしている。そんな言葉を言われてしまえば、彼の顔は真っ青に。

 

 

 下を見れば事実上の死。……"火事場の馬鹿力"という言葉もあるが、中学生相手に実質的な死刑宣告はやり過ぎに他ならない。

 

 

「数分後には緑色のサッカーボールになっているかもしれないわね」

 

「監督、いくらなんでも言い過ぎでは……」

 

 

 恐怖で足が震え始めた壁山を見て、風丸がフォローに入るものの、

 

 

「もちろん、連帯責任で貴方のも蹴るわよ」 

 

「絶対に成功させろよ壁山。いいか、オマエは2人分の命を背負ってるんだ」

 

「か、風丸さん……」

 

 

 自分も対象だと判明した瞬間、相方に圧を掛けていく。

 

 

 ──────結果的に必殺技は完成したのだが、サッカー部員でない者から『サッカー部は顧問が美人で羨ましい』等と嫉妬された際、2人はこう返すようになった。

 

 

 「アレは影山よりヤバい」「人の形をした悪魔ッス」と。

 

 

 

★☆

 

 

 

「風丸さん!」

 

 

 野生中戦前半、FWの"水前寺馳威太(すいぜんじちいた)"との1v1に勝ってボールを奪った壁山は、このままカウンターを決めるために風丸を呼ぶ。

 

 

 彼が自分のところへ来たタイミングでボールを蹴り上げ、同時にジャンプ。壁山は地面に背を向け、風丸と足の裏を合わせる。

 

 

「"竜巻────落とし"!!」

 

 

 風丸がオーバーヘッドキックを決めれば、小規模な竜巻が発生して野生中陣地へと突き進む。竜巻にビビッて野生中メンバーが近付けない中、ボールの前に立つ者がいた。

 

 

「染岡さん、行きますよ!」

 

 

 宍戸である。彼が右足を大きく振りかぶれば、それに伴って竜巻の色が青に変化する。

 

 

「"グレネードショット"!!」

 

 

 まるで染岡の必殺技、ドラゴンクラッシュを連想させる渾身のシュート。実際、ドラゴンなしなら誰でも使えるモノとして照奈が編み出したのがグレネードショットだ。

 

 

 なお開発者は、みんなが同じ技を使うのは面白味がないというスタンスのため、宍戸専用技みたいなところはあった。

 

 

 ────ボールは威力を増してゴールへ。真正面にキーパーの"猪口兵吾(いのぐちひょうご)"が立ちはだかり、必殺技を発動しようと構える。

 

 

「おらよっ!」

 

 

 だが、染岡がダイレクトシュートでボールの軌道を変更させる。思わぬ行動に猪口は呆気に取られ、飛び出すことすらできずに失点を許してしまった。

 

 

「おいおい、キーパーが諦めたらチームが可哀想だろ」

 

 

 染岡は煽り気味で猪口に声をかけるも、彼の耳には届いておらず。というより、野生中は染岡が軌道変更する前の出来事を受け入れられなかった。

 

 

 野生中の強みは高さ勝負。

 

 

 しかし、風丸と壁山が竜巻落としを使う過程で2人に高さ勝負を仕掛けた者は誰もおらず。理由は2つあった。

 

 

 1つ目は、2人の動作がスムーズだったこと。2つ目は、雷門のサッカーをあまり知らなかったこと。

 

 

 対戦相手である雷門の情報は、帝国に勝ったことぐらいしか知り得ていなかったのだ。だからこそ、竜巻落としがシュート技とは思わなかったし、対抗するためのジャンプの時間もなかった。

 

 

「勝負あったわね」

 

 

 分かってはいたが、あまり大したことなかった。自分が指示しなくとも勝ちは確定したものなので、照奈は携帯を弄り始める。

 

 

 ──────彼女はギャン厨。そして本日は日曜日。

 

 

 そう、中央競馬の開催日だ。

 

 

 土日に携帯のロックを解除し、まず確認するのはメールではなく競馬アプリ。レースの結果や競馬関連のニュースを確認する。

 

 

 当然ながら、試合中に監督が携帯を使っていれば、何をしようとしているのか気になるのは当然のこと。

 

 

 隣にいた音無は、チラッと覗き見てしまう。

 

 

「今年は全体的に時計が速くなっているとはいえ、新馬で上がり31.9はなかなかね……」

 

 

 さらに独り言まで言ってしまえば、控えの土門と木野も試合そっちのけで照奈の方を見る。

 

 

「監督?」

 

「……失礼」

 

 

 疑問に感じた木野が声をかけた直後。やらかしたことに気付いた照奈は、速攻で携帯をポケットに仕舞う。

 

 

 木野と土門はすぐに視点を試合に戻したが、音無はそれどころではない。

 

 

 監督のプライベートを知る機会が唐突に訪れた上に、しかも趣味が競馬。まさかの事実が彼女の脳のリソースを埋めたので、対野生中の試合内容が一切頭に入らず。

 

 

 ちなみに、6-0で雷門中の勝利だった。

 

 




沖野(おきの)リョウ
年齢:23
ポジション:ディフェンダー
背番号:2

中学は帝国学園で、芹坂・奥崎世代の1人。東条ハナと共に帝国の守りの中心となっていた。サッカースクールの開業費用は照奈が全て負担してあげたこともあり、沖野は彼女に逆らえない。

"奈瀬文乃(なせふみの)"
年齢:22
ポジション:ミッドフィルダー
背番号:9

中学は帝国学園で、芹坂・奥崎世代の1人。照奈が"怪物"なら、奈瀬は"天才"と巷で言われる程のプレイヤー。主に攻撃面で照奈にボールを繋げる役割を担っている。理由は、彼女じゃないと照奈にパスが通らないから。
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