サッカー、しますわよ【ウマ娘×イナズマイレブン】   作:ローマ市民兼インド村住人

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前回のあらすじ
野生中に勝利


第9話「私が悪いの?」

「雷門夏未は、今日からサッカー部のマネージャーになりましたので、よろしく」

 

 

 野生中戦の翌日。照奈が部室に行けば、既に夏未が来ていた。そして、彼女の確認なしでマネージャーに就任したと言う。

 

 理事長令嬢特権で無理矢理捻じ込んだのは理解できたが、どうして入ろうと思ったのかは照奈にも分からなかった。理由を聞く気は起きないので、「よろしく」と返しておく。

 

 

 ────昨日、試合中に競馬の結果を確認したのが音無にバレた照奈。もちろん、口外禁止の旨を伝えておいたが、気が気でならない。

 

 

 "公式試合中に見た"という事実がマズいのだ。そのことについては音無も理解してくれたものの、彼女も彼女でうっかりポロってしまう可能性もある。

 

 

 特に、目の前にいる令嬢にバレてしまったら、こじつけられて廃部を言い渡されかねない。

 

 

「どうかしましたか?」

 

「今日は他の部にグラウンドを渡しているので、河川敷で練習をするのですが、来られますか?」

 

「あとで行かせていただきますわ」

 

 

 帝国学園に勝利して以来、サッカー部はグラウンドで練習していた。部活動におけるカーストで一気にトップへと踊り出たのもあり、めちゃくちゃ優遇されていたのだ。

 

 

 しかし、大会があるのはサッカー部だけではないし、河川敷にもサッカーコートがあるため、照奈は明け渡すことにした。

 

 

 つまり、外部の目に晒されながら練習することになる。逆に言えば、情報を公開しているのにもかかわらず、対策できずに雷門に負けてしまうと、それはそれで恥ずかしい。

 

 

「それにしても、雷門中の快進撃は(とど)まることを知りませんわね」

 

「雷門のサッカーは、今までにない新しいプレースタイルなので。ただ、全国大会までには対応されるでしょう」

 

 

 シュートチェインによる超攻撃的なサッカー。このスタイルの強みは、雷門中メンバー全員が伸び代の塊だということ。

 

 

 彼らが成長すればするほどにシュートチェインの火力が上がり、()めるのが困難になってくる。空中で繋げられたらなおさらだ。

 

 

 照奈は全国大会までには対応されると言っているが、本当はそう思っていない。

 

 

 たった数ヶ月で追いつけるレベルなら、帝国はとっくに負けているからだ。帝国が上限の今の中学サッカーでは、不可能だと確信している。

 

 

「お父様も喜んでいましたわよ。『これなら全国優勝もあり得る』って」

 

「全国優勝はイージーですわ。だって、想定している敵が違いますもの」

 

 

 

★☆

 

 

 

 部員が揃ったあとに河川敷に行けば、事前にリークした覚えもないのに、近くにある橋の上は人だかりができていた。

 

 

 加えて、偵察にしてはやけに設備がゴツい中学もいる。

 

 

「俺たちの練習を見に来たところでどうにもならねェだろ」

 

「なんせ、監督の次元が違うからな」

 

「ッス……」「ヤンス……」

 

 

 大量のギャラリーを眺めながら、軽口を叩く染岡と半田。一方で1年組は少し緊張している。

 

 

「次の対戦相手は知らないけど、せっかくだから帝国の技を教えようかしら」

 

 

 照奈がそう言えば、土門は若干ビクッと跳ねた。自分がスパイってバレたのかと思ったからだ。実際は最初からバレているのだが。

 

 

「監督が現役時代に使ってた技ですか?」

 

「ん? 私がプレイヤーの頃は必殺技なんて使ってないわよ。強いて言うなら、己の身体が必殺技ね」

 

 

 誰もが一度は言ってみたいセリフを放つ照奈。質問した豪炎寺は、納得せざるを得なかった。世界トップレベルと評しても過言ではないフィジカルを持っていれば、必殺技を覚える必要はないのだと。

 

 

 確かに、理想は必殺技なしでも勝つことだ。それは基礎能力の高さの裏返しであり、チームとしては凄まじいパワーを誇る。

 

 

「まず1つ目」

 

 

 照奈はボールを置いてゴール前に立つ。

 

 

 ピュイーッ!と指笛を吹けば、地面から赤いペンギンが5匹出現した。

 

 

「"皇帝ペンギン"────」

 

 

 足を振り上げると、ペンギンたちが飛び上がって照奈の足に噛みつく。

 

 

「"1号"!!」

 

 

 叫んだのと同時にシュートを放てば、ペンギンと一緒に飛び回ってゴールへと飛んでいった。

 

 

「とまあ、こんな感じよ。次はキーパー技だから、豪炎寺くんと染岡くんが蹴ってちょうだい」

 

 

 指名された2人だが、首を傾げる。1人でいいのではないか、と。そんな気配を察知したからではないが、照奈は指名の意図を語る。

 

 

「ドラゴンクラッシュでボールを打ち上げて、ファイアートルネードでシュートすれば、合体技にならないかしら。単純だけど、"ドラゴントルネード"みたいな」

 

「「なるほど」」

 

 

 あくまでも感覚だが、一部の技を組み合わせた場合はシュートチェインと違う技になる気がする。そう考えた照奈は、披露のついでに検証することにしたのだ。

 

 

 今度はゴールを背にして立つ照奈、ペナルティエリアから若干離れたところにボールを置く染岡。ファイアートルネードの準備をする豪炎寺。

 

 

「そういえば監督、素手で大丈夫ですか?」

 

「ええ、円堂くんのグローブなんて使いたくないもの。臭そうだし」

 

「え"っ」

 

「お前のグローブは臭いのか?w 洗ってなさそうだもんなw」

 

「ちゃんと洗ってるって! 失礼だぞ風丸!」

 

 

 豪炎寺の配慮は行き届いているなーと見ている部員たちが思っていた矢先、唐突にディスられた円堂。その横で風丸が腹を抱えて笑う。

 

 

 ベンチでは、木野が「私のグローブは臭くないよね……?」と心配そうに呟いていた。

 

 

「それじゃ、いつでもどうぞ」

 

「行くぞ、豪炎寺!」

 

「おう!」

 

 

 染岡が構えるのと同時に豪炎寺が回転しながら飛び上がる。

 

 

「"ドラゴン"────」

 

 

 ドラゴンクラッシュで打ち上がったボールは、初見だと思えないぐらい、豪炎寺にとってピッタリな高さまで上がっていた。

 

 

「"トルネード"!!」

 

 

 たった1回で完成するドラゴントルネード。放たれたシュートは、青から赤へと変化したドラゴンと共に照奈を襲う。

 

 

 ────両手を前に突き出す照奈。すると、獣が現れる。上下に手を開けば、獣の口が大きく開き、

 

 

「"ビーストファング"!!」

 

 

 牙で止めるようにボールを挟み込んで止める。

 

 

「なかなかやるじゃない」

 

 

 染岡と豪炎寺の連携力を褒める照奈だが、2人の心境は複雑である。せっかく強力な合体技が完成したのに、扱いはただのカマセ。

 

 

 ドラゴントルネードを軽々と止めたキーパーの本職はFWだということも相まって、嬉しいような嬉しくないような感情が支配していた。

 

 

 

★☆

 

 

 

 数日後、照奈は雷雷軒というラーメン店で昼食を取っていた。円堂たちが練習帰りによく食べているとのことで、自分も食べてみることにした。

 

 

 ほとんどのメニューが700円を超えるため、中学生が食べるにしてはちょっと高いのではないかと思いつつ、チャーシューメンが出来上がるのを待つ。

 

 

 ────ガラガラッと入口の扉が開いた。

 

 

 その人物は入ってくるや否や、「隣、いいですか」と照奈に声をかける。彼女はそこでようやく横を向くと──────

 

 

「あら、理子ぴんじゃない。もちろんいいわよ」

 

 

 久々に会う知り合いだった。

 

 

 ダークブルーでウェーブのかかったロングヘアー。立っているだけでも威圧感が溢れるその様は、一見冷徹にも見える。

 

 

「数年経ってもその呼び方はやめないのですね……」

 

 

 しかし、開口一番にあだ名で呼んだ照奈に対して呆れる始末。どうやら"理子ぴん"と呼ばれるのは嫌なようで、溜息を吐きながら照奈の隣に座る。

 

 

 ──────女性の名は"樫本理子(かしもとりこ)"。帝国学園唯一の女性マネージャーであった。

 

 

「大将、みそラーメンを1つ」

 

「あいよ」

 

 

 紫色のバンダナを付け、サングラスと白い口髭に左目の傷が特徴である白髪の店主は、ラーメンを茹でながら樫本の注文に応える。

 

 

 彼女は、左隅に座る男性が読んでいた新聞の裏側を数秒見つめたあと、照奈の方を向いて話しかけた。

 

 

「雷門中が次に戦うのは、御影専農中(みかげせんのうちゅう)ですか」

 

「らしいわね。ここ最近は河川敷で練習しているからか、毎日現れてデータを収集するのよ」

 

「学校で練習しないのは何か理由が?」

 

「しばらくウチがグラウンドを独占していたから、他の部活に譲ったの。帝国と違って、専用コートとかないし」

 

「ああ、なるほど。雷門中のデータを集めたところで、勝てるとは思えませんが……」

 

「データ主義の貴女がそれを言うのね」

 

「帝国を完封したチームが相手ですよ? あのときとは話が別です」

 

 

 今まで日本一だった帝国学園を、設立2年目で打倒した雷門中。強さの秘密を探るために偵察しに行くのは分からなくもないと考える理子だが、御影専農の行動は理解できなかった。

 

 

 2-0で勝ったのだから、"まぐれ"と説明することはできない。それに、雷門の戦術や選手の能力は直近3試合でおおまかに判明している。

 

 

 であれば、自分たちの中学校は雷門より劣っていると分かるはずなので、連日偵察するよりも対策や練習に打ち込んだ方が有意義だ。仮にデータを取っても、格上チームなのは1回目で分かるのだから。

 

 

「チャーシューメン、お待ち」

 

 

 ────とここで、照奈が注文していた品がカウンターの上に置かれる。

 

 

「ありがとうございます」

 

 

 落とさないようにゆっくりと器を持ち、自分の手元に置く。割り箸を綺麗に割り、「いただきます」と手を合わせてから麺を掴んですする。

 

 

 いわゆる家系ラーメンというモノなのだろうか、麺のコシが強い。レンゲでスープをすくって飲めば、醬油豚骨特有のパンチとキレが舌を刺激する。

 

 

 が、特段に美味しいわけではなかった。10点中5点のような味わいで、良くもなく悪くもなく。昼時にガラガラな所以だと照奈は推察する。超失礼ではあるが。

 

 

 食べながら喋って麵が伸びてしまえば、目の前の店主に失礼なので、理子は口を閉じてラーメンが作られていく様子を見守っている。

 

 

 ──────照奈が半分ほど食べ進めたところで、理子にみそラーメンが提供された。同時に、照奈のポケットからヴァイオリンの音色が奏でられる。

 

 

「あら、失礼」

 

 

 携帯を取り出せば、"雷門夏未"という文字が画面に表示されていた。しかもビデオ通話で。食事中に電話はマナーとしてあまり良くないし、一旦外に出て話すとなればその間に麺が伸びる。

 

 

 しかし、わざわざ理事長令嬢が電話をかけてきたということは、緊急性のある用件だろう。照奈は食べながら通話に出ることにした。

 

 

 夏未が携帯を覗き込んでいる様子が映し出される。

 

 

「もしもし、どうかしましたか?」

 

『もしもし────お食事中に失礼します。先程、御影専農中から棄権の申し出がありましたので、そのご連絡をするためにお電話をかけさせていただきましたわ』

 

 

 何故(なぜ)? の2文字を頭の中に思い浮かべながら麺をすする照奈と理子。飲み込んでから、疑問を唱える。

 

 

「でしたら、メールか私が戻ってきてからでも良かったのでは?」

 

 

 御影専農中の棄権は、照奈からすれば緊急性のない用件だが、夏未は首を横に振る。

 

 

『できる限り早く回答したいのです。どうやら、数日前に監督が河川敷にて披露した必殺技を真似したら、()()()()()()()2()()()()()()()そうです』

 

「は?」

 

 

 箸が止まる。そして、店内にいる他の3人が照奈に視線を向けた。

 

 

『また、いくつかの学校でも同じような報告が相次いで私たちの方に来ていまして。"雷門中の監督は自チームの選手を使い捨て要員としか見ていない"なんて抗議も出てきました』

 

「すみません、どの技が該当するのか心当たりがないので、教えていただけますか? 現にウチの部員は誰も故障していないので」

 

 

 照奈がそう言えば、夏未は携帯を持ってパソコンの画面を映す。2枚の画像が表示されており、1枚目は|赤いペンギンが照奈の足に噛みついているところ《皇帝ペンギン1号》。2枚目は照奈の背後から獣が現れているところ(ビーストファング)

 

 

「ブフッ!」

 

 

 水を飲みながら画像を見ていた理子が吹き出した。不幸にもその水は照奈にかかる。

 

 

「理子ぴん、嘘でしょう……?」

 

 

 スーツが濡れてしまった照奈は、信じられないというような目で理子を見つめる。彼女は顔を真っ赤にして「この度は誠に申し訳ございません」と頭を下げた。

 

 

 しかし、吹き出したということは何か知っているということでもある。"帝国の技"として披露した2種類の必殺技。

 

 

 照奈の場合、影山の離席中にパソコンの画面を盗み見て覚えた技だが、帝国なのだから理子も知っていておかしくはない。

 

 

『誰かと一緒に食べているのですか?』

 

「ええ。昔のチームメイトと食べているのだけど、彼女が事情を知っていそうだから説明してもらうわ」

 

 

 と言って、照奈は携帯を理子の方に寄せる。

 

 

「樫本と申します。まず、この2つの必殺技ですが、禁断の技として封印されているモノです」

 

「えっ?」

 

「絶大な威力と引き換えに、使用者の身体に及ぼす負担が非常に大きく、2回目の使用で二度とサッカーができなくなる、とまで言われていました」

 

「えっ??」

 

 

 熱々のラーメンの影響か、それとも焦りからか。店内は冷房が効いているのに照奈の汗は止まらない。

 

 

「使い手が平然としていれば、技をコピーする側はそんなデメリットなんて知り得ません。これが、故障者続出の原因と言えるかと」

 

『なるほど。ご説明いただきありがとうございます』

 

「もしかして私が悪いの?」

 

「いえ、悪いのは開発した総帥でしょう。反応を見る限り、貴女はデメリットを知らなかったようですし」

 

「……相変わらず、影山は手段を選ばないな」

 

 

 これまで黙って様子を見ていた店主が口を開く。影山の知り合いみたいなので、少し話を聞きたいと思った元帝国の2人だが、今はそういった状況ではない。

 

 

『とりあえず、"無断で芹坂照奈の必殺技を真似する方が悪い"という回答で提出しておきます』

 

 

 思い切った行動に出る夏未に対して、照奈の焦りは加速する。

 

 

「それもちょっとどうかと思うわよ?」

 

『では、放課後に会いましょう』

 

 

 彼女が追加で抗議を入れる前に、夏未は通話を切った。本当にさっきのを公式回答にされてしまうと、ヘイトが向くのは夏未ではなく自分。

 

 

 加えて、マスコミが寄ってたかってしまったら、河川敷での練習すらままならない可能性だってある。

 

 

 対策は食べ終わってから考えようと決め、再び麺をすすり始める照奈。

 

 

 ──────麺は伸びてしまったが、逆にスープの味を吸って少し美味しくなっていた。

 

 

 

 




樫本理子(かしもとりこ)
年齢:22
ポジション:マネージャー

中学は帝国学園で、芹坂・奥崎世代の1人。極度の運動音痴だが、マネジメントやアナリストの才能があったので、特例で帝国のマネージャーとなった。大学卒業後は沖野と一緒にサッカースクールの講師をしている。自分もスクールを開こうと考えていたが、沖野も同じことを考えていたため、共同経営となった。
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