盲目少女ととある終末世界   作:今はまだ匿名でお願いしますね

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選べる、抗える人々

「雄ぉおおおおおおおおッ!!!!!!」

 

 ぶんぶんと風切り音を立てながら、小型の肉塊を手作りの槍を振り回す男が追いかけていく。肉塊は必死に逃げ回るがやがて行き止まりへ追い込まれる。

 

 否、それは正確には行き止まりではない。

 

 既に肉塊の祖先の肉で埋まっていた筈の場所から最近突如として発生した謎の構造物群の一角、近づいてはならないと本能で理解出来る暗いトンネル。

 その入り口に追い立てられた肉塊はその暗闇との境界で踏み止まるが、その瞬間待ち伏せていた男以外の大勢がトンネルから槍を持って飛び出した。

 

 

「───ふい~…お疲れさん」

 

 幾本もの槍を墓標のように突き立てられて動かなくなった肉塊を囲み、ホモ・サピエンスたちは額の汗を拭って互いを労った。

 

 

 

 

 

───

──────

─────────

 

「化け物どももザマア無いな!ガハハッ!」

 

 今日の成果を皆で分け合う。時間としてはそこまで大昔の事ではないはずなのに、随分と久しぶりに感じる賑やかで和やかな雰囲気が流れるそこは生存者のコミュニティーだ。

 その中で辛々と今日まで何とか生き延びていた本田清美は“食糧”を頬張っていた。たった今噛み千切ったそれは確かに肉だったが、何故か使ってもいない筈の柑橘を彷彿とさせる。

 だが決して悪い味ではなく、寧ろ最高の部類で、口にするだけで明確に体力の回復を実感できた。

 

「………」

 

 だが、その心境は複雑なものだ。

 

「日本人の食への拘り舐めんな!!」

 

 肉屋だったという生存者がそう叫びながらバランスボール大の肉の塊を慣れた手つきで切り分けて火に掛ける。そうして照らされた肉の表面には槍に貫かれた痕が生々しく残っていた。

 

「………あむ」

 

 清美は自分への分け前にもう一噛みかぶりつく。

 

 このどうしようもない理不尽の中で、どうせ死ぬならせいぜい無茶苦茶やって死んでやろう。そう意気込んでいた清美だが、何だかんだで彼是数週間生き延びている。

 やはり化け物共が太陽の下でしか活動出来ない事、地上から隔離された地下施設には損傷の少ない物が多い事が幸いして住む場所と衣服や水は何とかやりくり出来ていた。

 

 だがどうにもならず目減りしていく一方でしかなかったのが食糧だ。

 

 何せ供給の手段が無く、地上は散策しようにも危険な化け物で溢れている。運悪く化け物に掴まった生存者が老若男女問わずどういう目に遭うのか知らない者はこの中にはいない。

 

 だが、それでも腹は減る。

 

 そして腹が減ると人はおかしくなる。

 

『あの化け物、食えるんじゃないか?』

 

 最初にそれを言い出したのが誰だったかはもう誰も覚えていない。その時は他の全員が冗談を言うなとその誰かを怒鳴り散らした記憶がある。

 

 ──状況が変わったのは、最初の餓死者が出た時。

 

 痩せ細って動かなくなったその同胞を見て、浮かんだのは悲しみではなくとある本能。哀れな死者の身体に目を奪われ、生唾を呑み込んでしまったあの瞬間、生存者たちは自分たちの置かれた状況と自分たち自身の危うい状態を改めて認めざるを得なかった。

 

 自分たちが最低最悪の獣に堕ちない為に、最低限の尊厳を保つために。

 

 そう自分に言い聞かせて“人類”を自認する彼らは最善だと信じた選択をした。

 

 同胞を丁重に葬った彼らは、自衛や復讐以外の動機で初めて各々の武器を取った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 かつて文明が存続していた頃、世界の何処かで誰かが言った至高の格言がある。

 

 ───「美味けりゃ良いのだ」

 

 幸いにして化け物共の肉は火を通すと臭みが無く、何より非常に栄養満点だった。

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