【休載】好感度が見えても上手くいくとは限らない   作:かませ犬S

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0.引きこもりの俺

 ゲームのように人の好感度が見えたら、人生は楽になるんじゃないかと考えた事はないか?

 

 俺はある。

 

 今も思っている訳ではないが、当時中学生だった俺はギャルゲーにハマっていた事もあって、そんな妄想を良くしていたんだ。

 

 思春期特有の恥ずかしい妄想だと切り捨てないで欲しい。それなりの理由はあるんだ。

 

 大前提として俺には好きな人がいた。家が隣同士で親も友達同士。幼い頃から付き合いのある女の子。言ってしまえば幼なじみだ。

 

 俺は幼なじみの女の子が好きだった。いつから好きになったかは俺も詳しくは覚えていないが、小学生の頃にはもう好きだったと思う。

 

 気付いたら友達としてではなく異性として彼女を見ていて、好きになって、恋人になりたいと密かに思っていた。

 

 けど、告白は出来なかった。

 

 勇気がなかったんだ。

 

 告白してフラれるのが怖かった。

 

 今の関係が壊れるのが嫌だった。

 

 臆病な俺は友達として幼なじみと接する事しか出来なかった。

 

 だからゲームのように好感度が見れたらって恥ずかしい妄想をしてしまった。

 

 ゲームのように好きな人の好感度が見れたらって毎日のように思った。

 

 好感度が見れたら彼女に告白して、OKが貰えるかどうかが一目で分かる。恋人になるまでどれくらい必要かが、数字で分かるんだ。

 

 勇気がない俺でも一歩前に踏み出せる。だからそうなって欲しいと強く願い、そんなくだらない妄想をしていた。

 

 それが叶ったのは中学生二年生の夏。

 

 神社にお祈りして神様とやらに届いたのか、あるいは妄想のし過ぎで俺がイカれたのか分からない。

 

 けど、俺はある日を境にゲームのように人の好感度がこの目で見えるようになった。

 

 俺に対してその人がどれだけ好意を持っているか、あるいは敵意を持っているのか、それが一目で分かるようになったんだ。

 

 当時の俺は願いが叶った、妄想が現実になったとそれはもう浮かれたな。これで人生はイージーゲームだとその時は本気で思っていた。

 

 現実に打ちのめされるのはその後直ぐなんだが⋯⋯一旦それは置いておいて、参考程度に好感度が見えるようになった直後の話を聞いておいて欲しい。

 

 ゲームのように好感度が見えるようになって最初に俺が対面したのは、通りすがりの名も知らないおじさんだ。

 

 神社から帰るその帰り道で出会った初対面のおじさん。その頭の上に浮かんでいた数字は『30』だ。

 

 決して高い数字ではないが、低くもない。この数字が表す関係性は一言で言えば『赤の他人』。

 

 それが基準となる数字なのだと俺も直ぐに気付いた。道行く人たちの頭上に浮かぶ数字は30前後に留まっていたからな。

 

 この数字が高くなれば『知人』や『友達』へと分類される関係性へとなり、低くなると『嫌いな人』⋯⋯果ては『敵』として分類されるようになるんだと思う。

 

 たまに挨拶する近所のおじさんは40くらいだったから知人のラインはその辺だろう。ゲームみたいな考え方で悪いがその方が分かりやすいと勝手に思っている。

 

 さてさて、こうして好感度の仕様を理解した俺は家へと帰り、先も話した通り現実に打ちのめされる事になる。

 

 神社に寄り道した事もあって何時もより帰りが遅くなった。それもあって帰る時間帯が被ったからだろう。俺は親父と玄関で鉢合わせした。

 

 いつものように『ただいま』と言うつもりだった。

 

 けど、親父の頭上に浮かぶ数字を見て俺は言葉を紡ぐことが出来なかった。

 

 

 

 ───『1』

 

 

 

 

 親父の頭上に浮かぶ数字は俺に対する好感度だ。

 

 それを理解した後だからこそ現実を受け入れるには時間がかかった。

 

「親父は⋯⋯俺の事が嫌いなのか?」

 

 親父の頭上に浮かぶ数字は残酷に真実を告げていた。嘘だと思いたかった。見えている数字が間違っていると信じたかった。

 

 だから何も考えず、ついそんな言葉を口走った。

 

 その不用意な発言が───当たり前の日常を壊す事になるとはその時の俺は思いもしなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「って、流石に重すぎるか」

 

 パソコンのモニターにはネットの友達とのやり取りが映っている。

 

 『悩み事とかあったら気軽に相談してー』なんて、よくある話のタネに対してこの文面を送るのは流石にキモイな。

 

 送る前に気付けて良かったとホッと息を吐いて、一時間かけて書いた文章を消していく。

 

「となると、何を相談したらいいだろうか?」

 

 悩むな。

 

 家族の事は重すぎる。

 

 なら親友の事で相談するなはどうだ? 小学生からの付き合いの親友とも呼べる男について⋯⋯。

 

 まぁ、親友だと思っていたのは俺だけだったけどな、うん。

 

 あいつは俺の事、知人程度にしか思ってなかったし⋯⋯うん。思い出したら悲しくなってきた。

 

 別の話にしよう。

 

 幼なじみにどう告白したらいいか、聞くのはどうだ?異性からのアドバイスなら参考になるかもしれない!告白が成功する可能性は0に等しいがな!

 

 これもやめておこう。

 

「はぁ⋯⋯」

 

 人の好感度が見えるようになったら人生イージーゲーム? 好感度が見れたら上手くいく? そんな事はない。断じてないと、この俺───(ひいらぎ) 翔人(つばさ)が断言する。

 

 好感度が見れたらイージーゲームって、そんなのゲームの中だけだ。見れたら便利なんて事はなく、ただ心が傷ついただけだ。

 

 言葉でどれだけ着飾っても頭上に浮かぶ数字は嘘を吐かない。

 

 優しい言葉の裏には、いつも牙が隠されている。それを嫌というほどに味わった。

 

 他人からだったら俺もまだ耐えれたと思う。俺にとって大切な人たちから向けられた牙は心を閉ざすに十分な威力があった。

 

 気付けば俺は人間不信になり、人と関わるのを避けるようになった。

 

 

 

 ───今では立派な引き篭もりだ。

 

 

 

 リアルの人間を信用出来ない。顔を見れば数字が見えてしまうから。だから俺はネットに逃げた。顔が見えなければ傷つかないと。

 

 今、俺とメッセージをやり取りしているのはゲームで繋がった友達だ。現実で会った事は一度もない。だからこそ気軽に会話ができる。頭の上の数字を気にしないでいいから。

 

 頭の上の数字に気を遣いながら会話するのは正直に言ってノイローゼになる。言葉一つ間違えたら好感度が下がる光景を見てみろ?間違って後悔する。

 

 ゲームなら仕方ないで済むけど、現実だと割とへこむ。それがないからネット友達とのやり取りは気楽だ。

 

 さて、なんて返そうか。重く受け取って欲しくないからな。そうだ、これにしよう。パッと頭の中に浮かんだ言葉を打ち込んでいく。

 

『今日の晩御飯が決まらないからオススメを教えて欲しい』

 

 家族の事、友達の事───近況を相談すれば話はどうしても重たくなる。親しくなったとはいえ、ネットの友達に話すような内容ではない。

 

 という事で、無難な会話をぶつける事にした。聞いている感じだと、料理は得意なようだし参考になるだろう。

 

「ふぅ⋯⋯」

 

 友達にメッセージを送り、天井を見上げて一息吐く。

 

「どうしてこんな事になったんだろうな⋯⋯」

 

 好感度が見えてなければ⋯⋯あの時余計な事を言わなければ⋯⋯。そんなタラレバが思い浮かんでは消える。

 

 けど、今となってはどうしようもない。

 

「ん?ラタトゥイユ⋯⋯って作った事ないぞ」

 

 ピコンと通知音が鳴り、確認すると友達からメッセージが届いていた。料理名と一緒にレシピも載っているって事は、俺が作った事がないのは想定済みなんだろうな⋯⋯。

 

 レシピ通りに作れば大丈夫だと、書いてあるな。間違ってもアレンジするなって。

 

 料理の素人が失敗するパターンは変にアレンジしようとするからだ。レシピ通りに作ればだいたい上手くいく。

 

 料理か。

 

「今なら家族はいないし、キッチンに行っても問題はない」

 

 時計の針は12:17 を指している。ちょうどお昼の時間だ。母さんは仕事に行ってるし、妹は学校だ。この部屋を出て料理をしに行っても家族に会う事はない。

 

 せっかく友達がオススメの料理を教えてくれたんだ。作ってみよう。

 

 勇気を出した俺は部屋を出る事にした。

 

 俺の家は一軒家でよくある二階建ての建物だ。俺の部屋は2階の奥。元々は父さんが使っていた部屋だが、両親が離婚してからは俺が使っている。

 

 そんな事はさておき。まずは1階のキッチンへ向かおう。

 

 誰もいないと分かっているのに、そろりそろりと慎重な足取りになってしまう。音を立てないようにゆっくりゆっくりと廊下を歩き、階段を降り始める。

 

 心臓がドキドキしている。以前ならこんな事はなかった。引き篭もるようになってから随分と臆病になってしまったな。

 

 自嘲しながら一歩一歩慎重に階段を降りている時に、玄関のドアがガチャリと音を立てて開いた。

 

「え?⋯⋯へ?」

 

 この家の鍵を持っているのは家族だけだ。

 

 泥棒じゃないのだとすれば、施錠を解除して家に入ってくるのは自ずと家族と決まる。

 

 俺の動き出しは早かった。

 

 帰ってきた家族の顔は見えなかったが、数字は見えた。その時点で踵を返し、そろりそろりと部屋へと戻る。

 

「はぁ⋯⋯はぁ」

 

 走った訳でもないのに、息が切れた。

 

 どれだけ怖がってるんだ俺は⋯⋯。

 

「家族⋯⋯か」

 

 ()()()までは当たり前のように存在した日常。俺の不用意な発言で全てが狂ってしまった。

 

 ───帰ってきたのは母さんだ。

 

 仕事はまだ終わっていない筈。という事は昼休憩に忘れ物を取りに来たのだろう。

 

 俺の予想が当たっていたのかバタバタという音がしばらくした後、バンッと強い音で扉が閉まる音がした。

 

 カーテンを捲り外を見ると自転車を爽快に飛ばす母さんがいて⋯⋯その頭上にははっきり数字が浮かんでいた。

 

 遠のいていく『5』の数字に酷く胸が痛んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 もう一度言おう。

 

 好感度が見えても上手くいくとは限らない。




シリアスの殆どは一話に置いていく!
こんにちはコメディ!
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