【休載】好感度が見えても上手くいくとは限らない   作:かませ犬S

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14.予定とフラグ

 いつものように規則正しい朝を迎えた俺は、朝の7時から猫大福さんとゲームで遊んでいた。

 

「そういえばレオさんから連絡ありましたよ」

 

『全体チャットの方にきてたねー』

 

 猫大福さんがハマってきたのもあって、本日プレイしているゲームは昨日に引き続きブロッククラフトだ。

 

 プレイを開始して三日目というのもあって、猫大福さんも随分と慣れたものだ。村を襲撃するモンスターの大群を倒しながら、雑談する余裕がある。流石のゲームセンスと言わざるえない。

 

「今日の夜、遊べそうなら合流するってきてましたねー」

 

『レオさんも大変な事になってるけど、ボクたちと遊ぶ余裕あるのかな?』

 

「気分転換に遊びたいんじゃないですかね?」

 

『離婚調停中でしょ? ストレスとかヤバそう』

 

 渦中の人となっている俺のもう一人の友達───レオさんは現在、離婚調停中である。

 

 俺も触りの部分しか聞いていたので詳細は不明だが、価値観の相違が原因で離婚する事になったそうだ。ただ、レオさんにはお子さんがいるらしくどちらが親権を持つかで揉めに揉めていると聞いている。

 

 そんな状況ではゲームを遊ぶ気力もない訳で、ここ2ヶ月ほど連絡はとっていても遊んでいない期間が過ぎている。

 

 ちなみにレオさんの性別は男性。40歳過ぎのタバコとお酒を愛するダンディなおじさんだ。

 

 レオさんと出会ったのも猫大福さんと一緒で、『vertex』というFPSのゲームだ。

 

 これまた猫大福さん時と同様に野良でたまたま出会ったレオさんと遊んだら、反応やらツッコミやらが面白くてそこから一緒に遊ぶ事が増えた。

 

 『vertex』で一緒にランクを上げようと励んでいた日々が懐かしい。

 

 今はレオさんがゲームが出来ないのもあって『vertex』はお休み中である。

 

 レオさんは俺に構わずプレイしてくれて構わないなんて言っていたけど、俺と猫大福さんの二人だけでランクマを回してランクを上げすぎるとレオさんと一緒に行けなくなったりする。

 

 そして、何よりも友達と違って野良の人とは連携が取れない場合が多い。終盤にかけて味方と立ち位置だったり、敵の位置把握が重要になるんだけど、それが野良の人だと共有が難しいんだよな。

 

 ゲームVCは一応付いているんだけど、如何せんこのゲームの民度が低いのか暴言を口にする人が多い。

 

 人間だからどうしても時にはプレミをする。そんな時に野良の人から『下手くそ』だったり、『死ね』とか言われたら腹が立つ。特に猫大福さんが炊く。

 

 もちろん全てのプレイヤーがという訳ではないが、野良の人の当たり外れが大きすぎるので余程の事がない限りは基本的にゲームVCはOFFだ。

 

 外れを引いた時の空気感は地獄だからなー。ただ、VCをOFFにすると連携が取りにくくなる。困った話だ。

 

 そんな訳で、やるならやっぱり固定の方がストレスは少なくていい。お互いの動きが分かっているので自然な形で連携が取れるからな。

 

 特にレオさんはムードメーカーなので、暗い雰囲気を簡単に吹き飛ばしてくれる。

 

 以上の理由で『vertex』はお休み中。やるなら三人でやろうって約束している。

 

 レオさんと最後に遊んだゲームも『vertex』だったなー。あの時はランクマを一緒に回して気持ちよく勝って終わった。

 

 その翌日にレオさんは机の上に置かれた離婚届と対面したらしい。

 

「レオさん、娘さんの事溺愛してたから親権取りたいみたいだけど⋯⋯難しいですよね」

 

『一般的に母親が有利だからねー。奥さんが不貞を働いていたり、娘さんに暴力を振るっていたなんて事があればレオさんが親権取れたりするんだけど』

 

「夫婦仲が悪いだけで、お互いに娘さんは好きみたいですから」

 

『まーでも、複雑なのはどちらかと言えば娘さんじゃない?』

 

 レオさんの娘さんは確か今年で7歳だった筈だ。小学生低学年で、両親の離婚を経験する訳か。キツイな。

 

 中学生だった俺ですら両親の離婚はキツかった。せめてもの救いは俺の家みたいに不倫だったり、どちらかの不貞ではない事だろう。

 

 提示版とかで聞くと、離婚の理由がどちらかの不貞だった場合の家庭の空気は地獄らしい。俺の家も親父と母さんが激しい口論をしていた。

 

 妹たちに聞かせないように耳を塞いだりしていたけど、あんなやり取りを子供の時に聞けばトラウマになる。

 

 レオさんの家庭は違うとは思うが⋯⋯。

 

「娘さんからしてキツイのはパパとママの両方にどちらと一緒に住みたい?って聞かれる事ですよね」

 

『あー、それはキツイと思う』

 

「俺は親父に引き取られる事は最初からなかったんで、妹が聞かれてましたね」

 

『サラッと重たい事言わないでよ、ウイングさん』

 

 猫大福さんに文句を言われたので笑って流す。ちなみに今、言った事は実際に起きたやり取りだ。

 

 離婚が決まり親父と母さんのどちらが親権を取るか話し合いが行われた。親父は最初から俺の親権を取る気はなかった。

 

 当然だ。俺と親父に親子としての繋がりはないからな。

 

 けど、妹たちは違う。親父は娘たちが望むなら一緒に住みたいと二人に言っていた。その際、俺とは一度も目を合わさなかった。

 

 母さんはどちらでも良かった。娘が親父についていくなら育児の手間が省ける。母さんの元に残るなら三人分の養育費を親父から搾り取る気でいた。本当にクソみたいな人だ。

 

 妹たちが出した結論は既に分かっていると思うが、母さんを選んだ。母さんが好きだからではない。

 

 (おれ)と離れたくない。その一心で母さんの元に残る事を決めた。

 

 その言葉にどれだけの俺の心が救われたことか。

 

 親父もまた、二人の意思を尊重で素直に引き下がった。

 

 飛鳥と明日菜の二人がその晩、俺の部屋でずっと泣いていた。親父の事も好きだから離れたくない。けど、(おれ)と離れるのはもっと嫌。

 

 なんで、どちらかを選ばないといけないのって。

 

 俺には慰める事しか出来なかったな⋯⋯。

 

「憶測だけで話しても仕方ないし⋯⋯今日の夜、レオさんと合流してから進捗聞いてみましょう」

 

『そうだねー。わざわざボクたちに連絡入れるってことは相談か愚痴を聞いて欲しいからだと思うし』

 

 となると今日の夜やるゲームは『vertex』は中止かな。ブロッククラフトのように雑談しながら出来るゲームがいい。

 

 話の内容次第ではゲームの中断も有り得るけど⋯⋯。

 

『あ、そうだ!ウイング⋯⋯時間大丈夫?』

 

「時間?」

 

 猫大福さんに指摘されて画面端の時刻を見る。気付いたら3時間も過ぎていたのか。

 

『11時から予定があるんだよね?そろそろ準備しないとじゃない?』

 

「そうですね。外出する準備をしないといけないので俺はここで落ちますね」

 

『了解!ボクもこの間にやる事済ませておくよー!ボクは14時くらいからは遊べると思うからウイングさんの用事が終わったら連絡ちょうだい!』

 

「わかりました。終わったらまた連絡しますね」

 

 今回はほぼ同タイミングでボイスチャットから抜けた。

 

 時刻は既に10時を過ぎている。今から20分くらいで支度をしたとして⋯⋯何時に出れば間に合う?

 

  スマホで距離を調べる。

 

 家から目的地までは歩いて15分か。

 

 あんまりモタモタしている暇はないな。さっさと準備をしよう。

 

 私服から外出用の服に着替えて、歯磨きをしたりして身なりを整える。

 

「えーと、キッドさんが予約したのは⋯⋯11時で間違いないな」

 

 念の為、キッドさんから送られてきたメッセージを確認して時間の記憶違いがないことを確認する。よし!

 

「それじゃあ行くか!」

 

 あえて声に出すのは俺自身に喝を入れる為だ。引きこもりが長いせいで外に出るにも勇気がいる。加えて今日の予定が問題だ。

 

 

 

 ───『美容室で髪を切る!』

 

 

 

 一般の人からすればなんて事のない予定だろう。だが、引きこもりだった俺からするとかなりハードルが高いものだ。

 

 スーパーの買い物とかで慣れてから、助走をつけて望みたいくらいだ。しかも俺が今から行く美容室はキッドさんのオススメ。

 

 当然だが、俺は行った事はない。昨日から緊張して仕方なかった。

 

 キッドさんは美容師さんはいい人だから安心してと、言ってくれているが、そのせいで余計に行きにくいな

 

 とはいえ、キッドさんのお店で働く以上今の伸ばしっぱなしの髪ではいけない。勇気を出して髪を切りにいこう!

 

「行ってきます」 

 

 誰もいない家に向かって挨拶をしてから家を出る。施錠ももちろん忘れない。

 

「えっと、ここを右折か」

 

 家を出てからは、スマホの案内を頼りに歩道を歩いていていたのだが。

 

「ん───?」

 

 その道中。横断歩道の向かい側で信号待ちをしている女性に目がいく。

 

 どこか見覚えがある。けど、パッと思い出せない。誰だったかな?

 

 今どき珍しい気合いの入った特攻服。金色に染めた髪はツーブロックと女性にしては珍しい髪型。

 

 目元にドクロの模様が入っているが、あればタトゥーなのかシールなのかが気になる。タトゥーならちょっと怖いな。

 

 目が合った。睨むような鋭い視線に思わず顔を逸らす。めっちゃくちゃ怖い。

 

 信号が変わり、絡まれないように少し距離をとって早足で歩く。

 

 目が合ったから因縁をつけられる⋯⋯なんて漫画みたいな展開はなく、普通にすれ違って終わったな。

 

「それにしても誰だったんだろうか?」

 

 後ろ姿を見る勇気もなく、振り向かずにスマホのナビの案内のままに歩く。

 

 すれ違った女性の頭上に浮かんでいた数字は『78』と初対面とは思えないくらいに高かった。

 

 けど、あんな怖い人は知り合いにいないぞ。

 

「⋯⋯うん、見なかったことにしよう。あんな怖そうな人と関わる事もないだろうし」

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