【休載】好感度が見えても上手くいくとは限らない   作:かませ犬S

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16.できれば知りたくなかった

 正直、見なかった事にしたい。

 

 実際にまだお店に行った事がないので、想像の中でしかなかった事がクチコミによって現実だよ、と教えられて感じだ。

 

 キッドさんから奥さんと同い年とか情報は貰っていたし、実際にメイドさんとして働いている事は知っていたが……なんというか、厳しい世界だと改めて思った。

 

 自分がお客さんの立場になって考えた時、メイドカフェに求めるものはなんだろうか?パッと思い浮かぶのは可愛いメイドさんから受けられるサービスだろう。

 

 メイドカフェエアプの俺ではどういうサービスが楽しいのか全く分からないが、料理に向かって『萌え萌えキュン』だったり、一緒に写真を撮るのがメイドカフェを愛する人には楽しいのかも知れない。

 

 となると、重要になるのはメイドさんだ。言ってしまえばお店の売りである。人に対して使うのは憚られるが商品である。

 

 その商品が自分の思っていたものと違った場合、お客さんは当然怒る。それは仕方ないことだと俺は思っている。

 

 ラーメン屋にラーメン食べに来たらソーメンを出された、なんて事があったらどうだ?普通に嫌だろう?

 

 ラーメンを期待してお店に入るんだ、ラーメンが食べたいに決まってる。それと同じだ。お客さんはメイドさんに会いたくてお店に入ってる。

 

 そして、ここで重要なのがお客さんが求めているものだ。お客さんはメイドさんに会いたいんじゃない。()()()()()()メイドさんに会いたいのだと、思う。

 

 俺もレオさんから聞いてほぇーとなった話がある。男性は若いうちは同年代だったり、年上の女性に魅力を感じるがある一定の年齢を超えると自分よりも若い女性に魅力を感じるそうだ。

 

 もちろんだが、全員に当てはまる事ではないし俺に話したレオさんの主観でしかない。何故、そのような話になったかと言うとレオさんの仕事の体験談からだ。

 

 今は別の仕事をしているそうだが、レオさんは昔結婚相談所で働いていた事がある。その時に分析したデータによって導き出した答えらしい。

 

 そのデータが正しいかはさておき、メイドカフェに来るお客さんが求めているのは可愛いメイドさんからのサービスだと俺は思ってる。

 

 そういう観点から、大変申しにくい事だがキッドさんの奥さんは⋯⋯お客さんに求められていないんじゃないかと俺は思う。

 

 俺の感想、というよりお客さんの感想を見て出した⋯⋯結果論のようなものだ。クチコミを見ると夕方以降と土日に来店したお客さんからの評価は高い。

 

 だが、平日の日中であったり⋯⋯言いたくはないがキッドさんの奥さんに対応されたお客さんからのクチコミは⋯⋯低い。悲しい事だが、現実である。

 

 ぶっちゃけ、新しい店員を探すよりも営業時間を変えた方がいいのでは?と俺は思ってしまった。あるいは、奥さんの衣装を変えるとか?

 

 キッドさんの話では奥さんの趣味だったり、したいことを実現したお店だと思うのだがお客さんの求めているニーズとは離れているんだよな。

 

 実際にキッドさんの奥さんと会った事もないし、サービスを受けた事もない俺が言うのはおかしいのは分かっている。

 

 けど、一応言わせて貰うがここまでは前振りだ。

 

 俺にとって関係ある話というのは、平日の日中はキッドさんの奥さんしかいないという話がクチコミで広がっているせいでその時間帯は避けた方がいいと、お客さんの中で常識のようになっている。

 

 そして、キッドさんと話した結果、俺が働く時間はメイドさんが奥さんしかいない平日の日中。13時から18時までの5時間だ。

 

 この稼働時間はあくまでも体験期間の間だけなので、俺が仕事に慣れてきたら増える予定ではある。

 

 その体験期間中、働いている時間はお客さんが来ない可能性がクチコミを見ていると浮上してきた。

 

 実際にキッドさんに確認すると、お客さんが増えるのは学生のメイドさんが出勤してくる18時以降。日中は一人か二人来たらいい方らしい。

 

 だから俺の力で平日の日中に来るお客さんを増やして欲しいそうだ。男の俺が!女装して!メイドさんになって!!!

 

 今考えても頭がおかしいんじゃないかと思ってしまう。店名変えるんだし、俺がメイドになる事に拘らずバトラーとして働いて客層を変えた方がいい気もするんだが、素人意見だろうか?

 

 それにしたって俺がお客さんを引き寄せるだけの魅力があるのが前提だ。正直に言って自信はない。

 

 髪型を変えて家まで帰ってくる道中に、それなりの数の通行人とすれ違った。関係値でいえばただの他人だ。

 

 その他人から向けられる好感度。髪を切る前に比べた場合、男性から俺に対する好感度は基本変化はない。気持ち増えた程度だろう。

 

 女性から向けられる好感度は髪を切る前に比べると大きく上昇したが、人によって数値が異なる事が分かった。これは言ってしまえば女性の好みの問題だと思う。

 

 この数値こそが普通だ。キッドさんが俺には人を惹きつける魅力があるとルックスを褒めてくれて少し自信を持っていたが現実はこんなものだ。

 

 ゲームや漫画のように一目見るだけで人から好かれるなんて事はまず有り得ない。あの時キッドさんがお店に連れてきた女性は、たまたま俺が好みのタイプだったのだろう。

 

 そういう点で見るとキッドさんは人を見る目がある。

 

「女装かー」

 

 嫌だなー、したくないな。

 

 そもそも俺程度が女装したくらいでお客さんが来るか?そもそも男のメイドに需要はあるのか?

 

 調べてみると一定の層に需要はあるようだ。ただしメイド服が似合うルックスが最低条件。

 

『やっほー』

 

「あ、猫大福さんやっほー!」

 

 そうこうしている内に時間は過ぎていたようで、猫大福さんがボイスチャットに参加してきた。

 

「猫大福さん、一つだけ質問なんですけど」 

 

『なにー?』

 

「男のメイドって需要あると思います?」

 

『ないんじゃない?』

 

 うん、これが一般の人の感性だ。

 

 後でキッドさんに相談して女装してメイド服着るのはナシにして貰おう。そうしよう。

 

『急にどうしたの?』

 

「いえ、なんとなく気になったので」

 

『あ!そっか!ウイングさんメイドカフェでメイドさんとして働くって言ってたもんね。それで気になっちゃった訳か』

 

「そうですね。忌憚なき意見が欲しかった感じです」

 

 猫大福さんは俺が質問した時は俺がメイドカフェで働く事を忘れていたようだった。その時に反射的に出てきた言葉こそが本心だろう。

 

『ウイングさんがメイドさんって事なら話は変わるかな?』

 

「どういう事です?」

 

『男がメイドって普通は似合わないけど、ウイングさんは中性的な顔立ちをしてるから似合うかなって』

 

「なるほど⋯⋯猫大福さんって俺の顔知ってましたっけ?」

 

 イヤホン越しに『あっ』と、小さく声が漏れた。

 

 半年ほどやり取りはしているが写真の交換なんてする訳もなく、繋がりもネットしかないので猫大福さんが俺の顔がどんな感じか知るはずがないのだが⋯⋯?

 

 SNSは俺もやってはいけるけど、個人情報や特定されるようなワードはネットにUPしてはいけないという事くらい俺でも分かってる。

 

 最低限のネットリテラシーを持っていないと、今の時代は簡単に炎上するし人生を棒に振る事も少なくない。便利ではあるが、生きにくい時代ではある。

 

 そんな訳で、猫大福さんが俺の顔知る機会などないと思うんだけど⋯⋯。俺の考えは可笑しいか?普通に考えたらまず不可能だと思うが。

 

 ワンチャンあるとすれば、実は猫大福さんがネットで知り合う前から知り合いとか? いや、でも記憶にはないな。

 

 学生だった俺が年上の女性と知り合う機会など知れている。

 

「猫大福さん?」

 

『えーと、えーと』

 

 なんで知っているんですか?と核心をつく質問はまだしていないのだが分かりやすく猫大福さんが狼狽えている。

 

 これは人に言い難い事をしているな、と流石の俺でも分かった。

 

「そうですね⋯⋯素直に言ってくれる方が助かりますね」

 

『引いたりしない?』

 

「あ、そのレベルなんですね」

 

 話すことで俺が怒るよりも引く事を心配するとという事は、ヤバい事より気持ち悪い事をしている可能性が高い。

 

 嫌だな、猫大福さんからそんな話聞きたくないな。聞かない方がよっぽどいいんじゃないか? 猫大福さんとの関係が崩れるのは正直嫌だし。

 

 あーでも、聞かなかったら聞かなかったで、尾を引くのは間違いないんだよなー。このタイミングで聞いた方がスッキリするか?

 

「内容によるので断言はできないんですけど」

 

『そうだよね』

 

「猫大福さんなら、大丈夫かなって俺は思うんですよね。だから、多分話を聞いても引かないと思います」

 

『ウイングさん!』

 

 イヤホン越しに歓喜の声が聞こえた。

 

 猫大福さんと過ごした半年間はとても充実したものだった。それこそ学校の友達よりも会話をしたかも知れない。

 

 居心地のいい友人関係を築けていると、俺は勝手に思ってる。だから、猫大福さん大丈夫という信頼はある。

 

 俺が引かないか、気にしてはいるが⋯⋯意外と大した事ではないかもしれない。

 

『あのね、ボク⋯⋯そのウイングさんに⋯⋯』

 

「はい」

 

『ストーカーみたいなこと、しちゃってたり?』

 

「なるほど⋯⋯」

 

 やはり、俺には人を見る目がないらしい。

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