光輝の都の頂へ〜元社畜、欲望渦巻く魔都にて傭兵生活を始める   作:ズブ左衛門

17 / 21
第一六話

 その瞬間、恐怖と驚愕に目を見開いた構成員の眉間に綺麗な風穴が空き、一瞬遅れて紅黒い液体が勢いよく飛び出してくる。銃器という遠距離攻撃手段を用いていると中々見る機会はないが、銃口と頭の距離が文字通りゼロで放たれたことでその瞬間をはっきりと視認してしまったのだ。

 これでもう後戻りはできない。自分は仕事の一環とはいえ、あろうことにアシハラ最大のギャング集団である鬼哭衆の構成員を撃ち殺した。今はまだ気付かれていないが、いずれ彼が手を下したことが露呈することは間違いなかった。

 だが、傭兵として街の伝説となるためにはこの程度で怯んだり恐れていては話にならない。絶望的な相手でも表情一つ変えず立ち向かい全てを破壊し尽くす。まるで傭兵になることを決めたあの日に助けられた、タチバナなる不思議な男のように。

 

「……やるんだ、やるんだ俺は。こんなとこで止まっちゃいられない」

 

 そんな決意に満ちた彼が手に入れたのは、構成員がチャカと呼ぶ比較的コンパクトな拳銃と五〇発ほどの弾、そしてドスという柄のない短刀。ついでにスーツから転がり落ちた端末から一〇〇〇近いクレジットもくすねておく。まだ一週間だというのに傭兵仕草にもすっかり慣れたもので、積年の汚れと埃にまみれた上に鮮血で汚れていく床に倒れた死体から何の感傷も嫌悪も抱くことなくものを剥ぎ取っていた。

 駆け出しの金欠傭兵にとって倒した敵からの略奪は消耗品の補給と臨時収入を兼ねた大切なイベントであり、奪った良質な武器をそのまま愛用することも珍しくない。勝って今日を生き延びるためなら倫理など投げ捨てる。

 

「うわ、握るところに鬼哭衆のマークが掘られてる。趣味が悪い……他のギャング集団もこんな感じで自己顕示欲が強いものなのか?」

 

 少し嬉しいおまけとして拳銃のグリップには鬼哭衆の代紋が彫られており、訳ありの銃器の収集に心魂を捧げるコレクターがそれなりの値段で買い取ってくれるだろうが、そんな奇特な人がこの街にいることをまだ知らない。つまるところ、これは今の彼にとってギャングのシンボルが刻まれた自動式拳銃でしかないのだ。

 それでも武器としての質は今まで持っていたサタデーナイトスペシャルより遥かに上等なものなので、一緒に転がっていたドス共々ありがたく頂戴している。駆け出し傭兵にとって武器は高い買い物になることが多く、劣悪な品質のもので初仕事を行う身としては非常にありがたい戦利品だ。

 

「弾倉にはフル装填、と。一五発入りの予備が二つとバラの弾が七発……」

 

 奪い取った拳銃に弾丸が装填されていることを確認すると右手に持ち、同じく拾ったドスはスボンとベルトの間に挟んで保持した。彼のズボンもベルトも刀剣類を佩くことを全く想定しておらず、そういった用途の留め具もないため苦肉の策であったが、意外と動きにくくない上に抜刀と納刀もスムーズにできる。主たる近接攻撃が拳であった彼にとってニューロンブースターとの相性は未知数であったが、決して悪くなさそうだと推測していた。

 そうして敵の武器を奪い取ったことで戦闘力を上げた拓郎は今更ながら、詰所でてんやわんやしているであろうクリスに対して報告を入れている。伝えていないばかりに戦闘中に誤射されて死ぬのは嫌だからだ。

 

「聞こえてるかCP、こちらヴィジラント1001。独断専行で申し訳ないが敵が占拠するホテル内に潜入した。これから内部より敵を攻撃する」

 

『あの開けた場所をどうやって抜けたんだ一体……とにかくCP了解。だがうちの自警団は射撃戦に慣れていないから細かい狙いなんてつけられない、一応通達はするが誤射には気を付けてくれ……窓側に近付くと撃たれるかもしれない』

 

「了解、なるべく気をつける」

 

『……新人傭兵に任せることじゃないのは分かっている……それでも今はお前だけが頼りなんだ、頼む』

 

 入口で自警団と撃ち合っているであろう二人に気付かれないようフロントに通じる廊下をそっと通り抜け、階段前へと立つ。侵入を想定されていないため見張りは入口前に陣取る二人しかおらず、一階内部はもぬけの殻といっていいほどに静かであった。

 

「ここが階段か……よし、やるぞ。俺はそのために来たんだ、69番街の人を助けて、傭兵として名をあげてやる」

 

 ここを上がればもう後戻りはできない。自らを待っているのは栄光ある勝利か惨めな敗死の二択であり、僅かに体が震える。これは怯えではなく武者震いなのだと彼は自らに言い聞かせて階段を一歩一歩登っていく。無論、いつでも発砲できるよう最大限に警戒しながら上がっていった。 

 フロントやトイレなどの設備がある一階とは違い二階は全室が客室となっており、全部で四つの客室に繋がるドアがあるが全て閉じられている。いつドアが開いて敵が現れるか分からないため、手早く行動しなければならない。

 

「三階から攻略する手もあるけど、孤立無援になるリスクがめちゃくちゃ高いんだよなぁ」

 

 堅実に二階からちまちま一部屋ずつ潰して攻略するか、それとも親玉なり指揮官なりがいるであろう三階を直接襲って短期決戦からの士気崩壊を目指すか。今回の目的からすれば気付かれないまま三階を奇襲して大将首を取るのが最適であるように感じられた。

 しかし相棒であるファンは劣勢な撃ち合いを支援するために正面の戦線で射撃戦に加わっているため、彼は単独行動をしている。単純に戦闘力が下がるだけではなく警戒の目や耳も減るため閉所での奇襲を受けやすくなる上に相互のカバーも不可能になっていた。

 こんな状態で仕損じたり組織だった反撃を受けてしまったら確実にあの世行きだ。それならまだ撤退の目のある堅実なプランで行くべきだろう。そう決めた拓郎はまず二階を制圧するべく行動を始めた。

 

「ええい、ままよ! 突撃!」

 

 不測の事態に備えいつでもニューロンブースターを起動できる態勢をとりつつ、左端にある201号室のドアを勢いよく開けて突撃する。想定外の出来事に呆気に取られていた二人の不良に向けて指が許す限りの速度で何度も引き金を引いた。拓郎の射撃技術は褒められたものではないが、それでも狭い空間で先手を取った上で五発も素早く発射したことで二発が不良の腹部と右太腿を抉り、悶絶させている。

 仲間が撃たれたことでようやく入ってきたのが味方ではなく敵の自警団であることを理解したもう一人だが、銃口を窓の外から侵入者に向け直す間もなく拓郎の乱射を受けることとなった。よく訓練された兵士ならともかく、街角に屯するチンピラや愚連隊じみた連中に一瞬の判断を要することを要求するのが間違っていると言われればそれまでだが、戦場でそれができなければ命を落とすだけだ。

 七回の発砲で三発の命中弾を受けた少年は小さなうめき声を出して引っくり返ったまま二度と動くことはなく、血溜まりの中に沈む。こうしてあっけなく201号室を制圧した拓郎は血の海でもがき苦しむ生き残りから銃と弾を奪い、先ほど奪ってきた予備の弾倉を交換して次の戦いに備えていた。

 

「いいぞ、この調子だ……ここから一部屋ずつ叩いていこう」

 

 一階から合わせると手傷一つ負うこともなく敵兵三人を片付け、拳銃と予備の弾を奪い取ったことで継戦能力を回復した拓郎だが、事実上選択肢が無かったとはいえ隣の部屋に敵がいる状況にも関わらずサプレッサーもなしに銃器を堂々と使ったことは小さくない失策であった。

 

「な、何だ何だ? 端の部屋が妙に騒がしいような気が……」

 

「ああ201号室か、どうせ焦って連射して弾切れか弾詰まり(ジャム)でも起こして叫んだんだろ、チャカだってアウトロー気取りのガキ共には過ぎたオモチャだったんだ」

 

「でも万一もあるし、一応様子を見てきた方がよさそうだな……撃ち合いは俺たちに任せてカルロ、様子を見てこい」

 

 いかに銃撃戦の最中と言えど、流石に同じフロアで騒ぎを起こせば隣の部屋にいる敵の注意を引いてしまうのは明らかであり、202号室で撃ち合っていた正規の組員は異常に気付いている。豪雨と双方合わせて二〇以上もの銃声によって生半可な音や声はかき消されてしまうのだが、異常なペースで一〇発以上の銃声が隣室から響けば何かしらの違和感を覚えるのは当然であった。

 当然ながら様子を窺うために比較的余裕のある人員が送られるが一人だけである。拓郎が侵入を試みている間にも銃撃戦は一進一退の攻防が続いており、追加で双方一名ずつの脱落者を出したにも関わらず激しさは衰えることを知らない。

 詰所から無線で指示を受けている自警団側が廃ホテル内に忍び込んだ彼を援護すべくこれまで以上に撃ちまくるため、貴重な戦力が減るのは避けたいものの万一を考えてちょうど弾の補充をしていた一人を送っている。忍び込まれた敵を放置した結果、背後から撃たれて何もできないまま死ぬのは癪に障ることなのだ。

 いつ終わるとも知れぬ銃撃戦が続く中で廊下に出たカルロだが、その瞬間201号室からぬっと顔を出した拓郎とばったり鉢合わせをしてしまった。

 

「あ、どうもお疲れさまです……」

 

「あ、どうもお疲れ様。そっちも様子を見……じゃねぇよ!? いや誰だお前」

 

 社畜時代からの抜けない癖で咄嗟に出てきた拓郎の言葉に彼は一瞬だまされかけるも、割と綺麗めの顔でノッポな奴はここに来た組員にも配下の不良グループにもいなかったことを思い出し、目の前にいる不審人物に銃を向けようとした。

 

「おい、知らん奴が……」

 

「あっやべっ」

 

 だが敵との遭遇を想定していたため拓郎の方が動きは早かった。西部劇の早撃ち勝負のような制した彼は脳天に一発撃つことで永遠に黙らせたのだが、流石に廊下で発砲してしまえば豪雨も銃撃戦の音もかき消してはくれない。

 当然彼の存在は敵の知るところとなり周知されてしまう。奇襲効果を失ったばかりか大まかな居場所まで露呈し、ハチの巣を突いたかのような騒ぎになってしまった。

 

「おい何だ今の銃声は!? カルロ、カルロどうした、状況を報告しろ! 自警団だか傭兵だかは多分201号室辺りにいるはず、すぐに叩き潰せ!」

 

「も、もうバレたのか……! できれば二階の奴らをもう何人か倒したかったけど、やっぱり今までのチンピラとは全然違う」

 

 こうしてほぼ孤立無援のまま扉にまだ付いていた頼りない鍵を掛けて201号室に立て籠もることになった拓郎だが、廃ホテル故にバリケードを築けそうな家具はほとんど無く、部屋の真ん中にポツンと置かれていたアンティークじみた外観の古ぼけた机のみ。放置されてから十数年の年月が経過してもなお当時の姿を保っているそれは頑丈そのもので、木製ながら分厚い天板は何発かなら耐えてくれそうなほどの頼もしさを感じていた。

 

「CPへ、こちらヴィジラント1001、二階で四人倒したけど見つかった。今は201号室……そっちから見て右端の部屋で籠城してる、支援できないか!?」

 

『CP了解、何とか耐えてくれ。こちらにもまた一人増援が来たからできる限り援護射撃をさせる』

 

「この机をこうして倒せば……」

 

 彼は慌てながらもクリスに現状を伝えながら机を運び、即席の盾として使えるように横倒しにする。木製で分厚い天板を持つためか相応の重さであったが、これで自分が生き残れる確率が上がると信じてやり抜いた。

 その裏に潜めば籠城の準備は終わり、後は奪い取った拳銃や元々持っていた合計四挺の銃器で入口からベッドがあったであろう場所へ続く狭い廊下をキルゾーンにした。必ず通る狭隘な場所で弾幕を張って寄せ付けないという算段である。

 

「おうさっさと出てこいやこのアホダラ! オメー自分が何してんのかわかってんのかよえぇーッ!?」

 

「おらっ鬼爆組や、開けんかいコラ! うちのモン殺った責任はキッチリ取ってもらうからな!!」

 

 そんな最中にも頼りない鍵とつっかえ棒だけで閉ざされた扉を向こう側から乱暴に打ち据える音が室内にも聞こえ、戦いの時が迫っていることを知らしめる。ミシリ、ミシリと鍵とそれを留めるネジが外側から加えられる圧力に耐える音が響くが、金属製の鍵はともかく木製の枠のほうが先に壊れそうであった。

 しかし限界が来たのは単純ながらある程度の強度を保っていた鍵ではなく扉の枠であり、限界に達したところでゴトンという鈍い音と共に壊れ、扉もろとも外れて四人の組員がなだれ込んでくる。一対四という数の差、そして全員が火器を装備している様を見て反射的にニューロンブースターを起動しようとしたが、寸前で思い留まり両手に一挺ずつ持った鬼哭衆の代紋入り拳銃を迫る敵に向けた。

 そう、二挺拳銃である。自動式拳銃やダブルアクション式のリボルバーを一つずつ持って引き金を引いたのだ。同じ型式の銃を二つ持ったと仮定すれば投射火力は単純に倍増するが、代償として照準精度がお粗末なことになる上弾切れになると再装填に余計な時間を費やしてしまう。

 故に筋力や射撃精度に優れた人物でも実戦では滅多に使わない。そもそも屋内のような近距離で有効な弾幕を張りたければ、素直にサブマシンガンやマシンピストルといった軽便な自動火器を持ち込めばいいのだから。

 だが、今の拓郎のようなシチュエーションでは有効な選択肢となりうる。後先考えずに撃ちまくれる地形と、弾切れを起こした後にも使える予備の武器、そして武器の持ち替えや再装填の時に使える頑丈な遮蔽物。これらが揃ったならば二挺拳銃は単なる曲芸ではなく実戦的な攻撃手段となる。

 

「おら掛かってこいよ、この人食い反社ども!!」

 

 そんな挑発的な言動と共に、四人の組員に向けられた二つの銃口から絶え間なく飛び出す九ミリ弾。この世界ではよく普及した規格であり、威力も弾速も相応のものでしかないのだが、一メートル足らずの幅しかない狭い通路では大きな脅威となった。

 おまけにこの規格の弾は低進性に優れており、有効射程内ならば二挺拳銃の欠点を多少なりともカバーしてくれる。逃げも隠れもできない場所ならごく短時間ながらサブマシンガン並みの制圧力を発揮してくれるのだ。

 

「ぐわっ!」

 

「うごおっ」

 

 合計三〇発もの弾丸が四名を襲い、うち二人が少なくとも四発ずつを食らって埃の積もった床に倒れ伏すも、残る二人は弾に肉や皮をを抉られ裂かれようと数度呻くだけで倒れることなく簡易バリケードに到達し、重い机を何とか蹴り倒して窓際へと逃げる拓郎に迫る。

 

「銃弾が、効いてない……!?」

 

 複数部位から流血しながらも平然とやってくる様は。彼は知らなかったが、先陣を切った四人のうち二人は皮膚の下に薄い複合繊維製の装甲を有しており、それで銃弾の貫通や体内へのダメージを防いでいる。サイバネティクス技術の黎明期から存在するものであり、医療用ナノマシン群によって皮膚下に繊維組織を移植するだけのため信頼性は極めて高い。

 それでも当たれば痛いことは痛いし皮膚は裂けて血が出る上に被弾の衝撃は大して軽減できないが、それでも生存に必要な血管や臓器を守れる確率は大きく上がるため各勢力の兵士やギャングの戦闘員、そしてそこそこ資金と知能が足りている上位のチンピラにまで重宝されているのだ。

 

「ライフル弾ならともかく、皮膚下装甲(サブダーマルアーマー)にチャカの九ミリなんぞ効くか!」

 

「んなわけでようやくこっちの番だぜ、散々ナメ腐りやがって! 死に晒せこのゲボカスがぁ!」

 

 弾切れになった拳銃を投げつけ、数百グラムの金属塊によって更なるダメージを一人に与えたが、一瞬ふらついて頭から血を流すもそのまま突進を続けている。

 

「チャカで撃ち合うのもいいけど、やっぱりカチコミやドンパチはダンピラが一番だなぁ! 戦ってる実感が湧くぜ!」

 

 嗜虐的な笑みに顔を歪めながら二人はドスを引き抜き、さっきのお返しだと言わんばかりに拓郎を突き刺さんとする。持ち前の反射神経と運動能力で何とか直撃は避けたが、それでも彼の皮膚は鋭い刃に引き裂かれて血が噴き出し、鋭い痛みが襲った。本来なら彼の体内に埋め込まれた二つのサイバネ機器により痛覚はより大きな快感に変わるはずだが、改造元が中古の不良品を掴まされたせいで痛覚を快感に変換する機器が全く機能していなかったのだ。




お読みいただきありがとうございました。もしよろしければ評価や感想、ここすきや誤字報告などいただけると幸いです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。