光輝の都の頂へ〜元社畜、欲望渦巻く魔都にて傭兵生活を始める   作:ズブ左衛門

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第三四話

「おい、大丈夫か? 借金が何だかは知らないがチンピラに絡まれてて大変だったみたいだけど」

 

 極度の緊張と恐怖から解放されたことで疲労が押し寄せ、石畳の上でぐったりとしている小柄な男に近付くと彼は。ひょっとしたら彼が到着するまでに暴行を受けている可能性も考えられたからだ。

 端末のフラッシュライト機能を用いて大まかに全身を見たが致命的な傷はなく、幾つかの擦り傷と痣がある程度である。これならかすり傷みたいなものだし大丈夫だと判断すると、もう一度呼びかけている。外傷は少なくとも気絶もしくは昏倒している可能性もあるし、恐怖のあまり震えているだけかもしれないからだ。

 

「おーい、ちゃんと生きてるか? もうあの木っ端連中はどっか行ったぞ。大丈夫なら返事をしてくれ」

 

 二度目に拓郎が声をかけてから十数秒ほど経ってようやく起き上がったその男は、捕食者を避けるべく巣穴から顔を出す小動物のようにきょろきょろと辺りを見渡している。その様が昔動物園で見たプレーリードッグを想起させるため、彼は思わずほっこりしていた。

 

「ああぁっ、すみませんすみません! 本当にお金はないんです、どうか許してください……モツ抜きも春をひさぐのも勘弁してください……それ以外なら何だってしますから!」

 

 そして上から自らを見下ろす拓郎を見るなり捕食者を目の当たりにした蛙のように飛び上がり、そのまま綺麗な土下座を敢行。お手本として使えるほどに整ったそれで何故か彼に許しを乞い始めている。借金の取り立てにきたギャングを二言三言話すだけで追い払った──ように見えるだけなのだが──彼が、連中の親分やそれにあたる立場の人間、つまり怒らせてはいけない存在だと勘違いしてしまったのだ。

 

「……いや、俺は69番街の自警団員で強請(ゆす)りに来たチンピラでも借金取りでもないんだ。ただいきなり銃声がしたから慌てて駆け付けてみれば、さっきの連中に絡まれてる貴方を見つけただけなんだ」

 

「ほ、本当なんですか!? 僕を捕まえたり売り飛ばしたりしないんですか……?」

 

 まるでこの世の終わりだと言わんばかりの表情でブルブルと震え、まるで武士の一団を見た江戸時代の農民のように頭だけを上げて慈悲を求める姿は、中性的な顔立ちと少年じみた声もあって中々に憐れみを誘うものですらあった。

 

「さっきもそう言ってるだろう、うちにそういう反社会的なシノギはないからな。だからそんなに怖がらないでほしい」

 

 そんな独特の圧に押された拓郎によって改めて説明されたことで、ようやく男の顔に生気が戻ってくる。このまま何処かへ連れて行かれて二度と太陽を拝めなくなるか、金持ちの好き者相手に体を売ることになると思っていたら、近くにいた勇敢な男が助けてくれたという事実は彼にとって救いであったのだ。

 

「ああ良かった……助かった、助かったよ……! もし君に出会えてなかったら僕は今頃どうなっていたことか!」

 

「いや、まあ、その俺はやることやっただけなんだけどな……まあ喜んでくれるならいいのか、これ?」

 

 十数秒前は死刑執行を待つ囚人のような顔をしていたのに、拓郎が危険な存在ではなく味方だと分かった瞬間に破顔し他に人通りがない裏路地に囲まれた公園で喜びを露わにする男。その様はアシハラ基準でも不審者そのものであり、このままだと保護対象から逮捕する対象になりかねないため穏便にこの場からどかすべく一つの提案をしている。

 

「何か混み入った事情がありそうだし、一食なら飯を奢るからとにかく話を聞かせてほしい。力になれるかはわからないけど」

 

「おまけに飯まで奢ってくれるなんて……是非お願いしたい! 朝からずっとあいつらに追われ続けててまともに飯も食べてないんだ」

 

 どうせ何か食べる予定だったし、とりあえず夕飯でも食べながらこの人から事情を聞いてみよう。相手側の快諾を受けてそう決めた拓郎はメッセージアプリ上でアリサに事情を説明して出かける支度をしてもらい、一旦男にも宿までついてきてもらった上で彼女と合流している。69番街の付近で先ほどのような粗相をやらかす愚か者が日に何組もいるとは思いたくなかったが、日没後には何が起きるか分からないのがニューヨシハラだけならずアシハラにおける路地裏の常識だからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 男を連れてアリサと共に入ったのは、69番街の入り口付近にある軽食店『ヨンの24hダイナー』。遅番勤務前のキャストや休憩中の自警団員で賑わうこの店なら、万一後をつけてきた不届き者による出歯亀や粗相もできやしないだろうと踏んで選んでいる。

 一ヶ月ほどですっかり顔なじみとなった面々からの挨拶を返しながら拓郎たちは奥のボックス席に入り、バックヤードからすぐやってきたウェイターに店長おすすめのディナーセットを三人分注文すると、待ち時間を利用して向かい側で申し訳なさそうにしている小柄な男から話を聞いていた。

 確かに借金取りの仕事を請け負った木っ端ギャングに金を返せと詰め寄られていたのは事実であったが、更に話を聞いていくと徐々に全容が明らかになっていく。利子がアシハラの法に反しているなどと聞こえた覚えがあったが、いわゆるヤミ金と呼ばれる違法に高い金利で貸し付ける業者から借りていることが判明したのだ。

 

「……いかに慈善事業って言ったって、もう少し採算とか収支とかも考えなきゃいけないけど、その前に金を借りる場所は考えた方がいいな。それに薬品とか医療器具だって決して安くないだろう。ここは確かに日本っぽいけど日本とは違うルールで動く街だぞ」

 

「うーん、それは分かってるんだけど……それでもその日暮らしをしている貧しい人から高い診察料を取るのは僕のスタンスに反するからやりたくないんだよね。だからサイバネ機器の移植で運転資金を稼ごうと思ったんだけど……こっちは閑古鳥状態で全然投資額を回収できなかったんだ」

 

 無論、当の本人とて無為無策のままヤミ金に手を出したわけではない。慈善事業として貧しい人々に無料もしくは極めて安価に診察を行うかたわら、サイバネ機器の移植ビジネスに参入することで借金返済と更なる運転資金の調達を目論んでいた。尤も、こんなことになっている事実そのものが楽観的思考に基づいた杜撰な将来設計の末路を何よりも雄弁に物語っているのだが。

 

「それでこんなことになってちゃ世話ないというか……身包み剥がれるどころかモツ抜かれたり風呂に沈むことになるなんて正直アホだと思う」

 

「おにーさんさ、需要と供給のこと忘れてない? 言っちゃ悪いけど、そもスラムに近いトコに金持ちとか傭兵はあまり寄り付かないと思うし、そもそもビンボーなヒトなんてどっか取れたとか千切れたとかじゃないとサイバネ入れる余裕なんてないよ? だっておカネも知識もないんだもん」

 

「うぅっ、お二人にそれを言われると正論すぎて反論できないよ……」

 

 自分を窮地にまで追い込んだ悪癖を棚に上げ、借金取りの取り立てを受けていた男に説教を垂れる様は中々に滑稽なもので、もしこの場にファンがいたならばどの口がそれを言うかと鋭いツッコミが入っただろう。しかし彼はカジノで儲けた大金を惜しみなく注ぎ込み、天にも昇るような快楽を味わっている真っ最中であるため、こんなことが起こっていることなど全く知らない。

 とはいえ、目の前に座っている男はまだ幸運であると拓郎は思っている。自分のように競馬で大負けした後に昏睡させられた挙げ句、勝手にサイバネ機器──しかもニューロンブースター以外はとんだ不良品だった──をインストールされるなんて目には遭っていないからだ。

 

「お待たせしました、店長オススメの日替わりディナーセット三つです。では、ごゆっくり」

 

 その時ウェイターが注文した商品を持って現れたため話は一時中断となった。三人ともまだ夕飯を食べていないため、合成食品とは違う『ちゃんとした』食品の匂いは空腹も相まって食欲を大いにそそり、腹の虫が鳴りそうになるのを抑えるだけで一苦労だ。

 

「まーでもね、拓郎さん。あんまりイジメたら可哀想じゃん? ほら、せっかくご飯も来たし早く食べようよ。あーしお腹すいたナー」

 

 二人して言い過ぎたと思ったアリサはウェイターに数クレジットのチップを渡して帰すと、話題を誠の借金から目の前で微かに湯気を放つ食べ物へとさりげなく移らせている。日本本土で生産される安価で美味しい食品や食材が入ってくる関係で、食に関しては比較的恵まれているこの街では他の国や地域より安価で美味しいものが食べられるのだ。

 

「そういえばこれだけ喋ったのにまだ名乗ってなかったな。俺は赤間拓郎、69番街の自警団員兼傭兵として活動してる。一応等級はオレンジ級、ここのミキモトともう一人とチームを組んで色々やってるんだ」

 

「あーしはアリサ・ミキモト。レッド級でこんなナリですけどハッキングとかやってまーす。ヒトの秘密を見たり守ったりならお任せってことで!」

 

 食べ始めて数分もすれば雰囲気もだいぶ緩んでおり、やや遅めながら自己紹介をしようという機運になっていたので拓郎とアリサから名乗っている。ひょっとするとこの男も将来の依頼主になる可能性があるため、名前を売っておこうという打算もあったのだ。

 

「僕は鹿野(かの)(まこと)。名古屋で医者をやってて『救いの手を差し伸べる会』の一員として貧困民支援のためにアシハラに入ったけど、途中でスカヴィードッグスって名前のヤバい奴らの略奪を受けてさ……パスポートを落としちゃった上に散り散りになったから帰れなくなっちゃって、今はこんな場所で辻医者をやってるのさ」

 

「お、思ったよりバックグラウンドが重いぞ……」

 

 しかし誠本人によって語られたいきさつを聞いた二人は想定外の重さに硬直した。無論それが本当である保証はないが、特に嘘をついてそうな感じもないためひとまず信じている。いきなり疑ってかかるほど彼らは猜疑心に苛まれているわけではないのだ。

 少し微妙になった雰囲気を、安っぽい合成食品ではなく日本で収穫される遺伝子改良作物や混合食肉といったちょっといい食材をふんだんに用いたサンドイッチやフライドポテト、本物の果汁入りジュースといったをしばらく楽しむことにした。

 

「……それで鹿野さん。あのチンピラは一旦追い払ったけど借金自体はどうするんだ? 今日明日くらいは大丈夫だろうけど、それがある限りずっとあいつらや別の借金取りにつけ狙われることになると思う」

 

「……うっ、そうだった! 借金を返さないことには何も変わらないか……」

 

 それでもよくない所から借金をしているという事実は変わらないため、食事が一段落したところで拓郎は再び冷徹な事実を突き付けている。確かに借金取り擬きの連中は彼が追っ払ったが、それは一時しのぎにしかなっておらず、後日再びやってくるのは目に見えているからだ。

 

「それで、借金の総額は? さっき言ってたけど、日本で医師免許持ってる医者なら数万クレジットくらい、そこら辺の病院か診療所で一月か二月働けば余裕で返せるんじゃないかと思うんだが」

 

 とはいえ相手は他国の国家資格を持った高度な専門職であり、この街でもそれなり以上の生活はできるはずである。それなら大して怖がらなくてもいいと思っているのだ。

 拓郎のような高卒の無資格者からすれば医大を出た医師というのは雲上の人であり、自分たちが毎日一二時間以上汗水垂らして働いても稼げない額を数分かそこらで得られる凄まじい存在であると思っている。そんな人間が借金取りに追われるのが不思議であったが、変なところから借りたせいだろうと当たりをつけていた。

 しかし、事態は彼の想像を超えていた。誠はヤミ金から金を借りた上で返せなかったため借金取りに詰められていたが、その額は二人の想像を遥かに上回っていたのだ。

 

「……だ、だいたい五〇〇万クレジットくらい、かな……」

 

 よく冷房が効いて快適な店内だというのに額からダラダラと脂汗を垂らし、蚊の鳴くような小声でボソッと誠は答える。まるで彼の周囲だけ空気が澱み固まり重くなったような錯覚すら感じる中で、店の空調の動作音や人の作り出す喧騒、立体ホロディスプレイから映像と共に流れる企業のCMソングがまるで別次元の言語のように聞こえていた。

 

「ウソだろお前、五〇〇……万って」

 

「メガコーポの幹部候補生の年収と同じくらいだよ………! この街ってヤバいヒトしかいない!?」

 

 衝撃の告白によって拓郎もアリサも思わず言葉を失ってしまったし、とんでもない厄ネタを掘り起こしてしまったと戦慄している。彼が捕まった時の負債額は元金だけでおよそ一〇万クレジットであり、ぼったくり分を含めても娼館に売られて一〇年近く働かないと返せないと言われていたことを考えれば、その五〇倍を借りても返済が滞るまで咎められなかった目の前の男がある意味ではすごいとすら感じていた。

 無資格の底辺労働者と他国の国家資格持ち専門職とでは社会的信用の差が断然違うという事実を改めて突き付けられ愕然とする拓郎であったが、文字通り桁違いの借金相手に出来ることは全くといっていいほどない。

 

「いや、そんなにギャンブルにでも注ぎ込んだのか?」

 

「ち、違うよ!? さっきもちょっと話したと思うけど、サイバネ機器のインストールに必要な手術用の機材やホスト側の拒絶反応を抑制する薬品とかを買い揃えるために借りたんだ。それにパスポートないから全然融資の審査に通らなくって」

 

 それでも半ば興味本位から目的を聞いてみた拓郎だが、返ってきたのは至極真っ当な用途である。これで借りた先が違法な金利を貪るヤミ金でなければ問題はより簡単に片がつくはずであったが、ここで彼の脳内に一つの疑問が浮かんだ。

 

「いや、中心街の北端に大使館ビルがあっただろ……そこに行ってパスポートの再発行とかしてもらえばよくないか? 日本国籍とかパスポートって他国だと凄まじい信用度らしいし、日本の銀行もギガバンクなら支店の一つくらい出してるみたいだから、そこで借りるほうが良かったんじゃないのか」

 

 この人ならわざわざ危険なヤミ金なんかに頼らずとも、パスポートを再発行してもらってから真っ当な金融機関で融資を受ければ何もこんな思いをする必要などなかったのではないか。至極当然なことを思った拓郎はそれを口にしている。

 

「ああ、その……言いにくいことなんだけど、何回か反政府・反企業デモを主導したから日本政府にもコーポたちにも睨まれてるらしくて、何度か大使館に行ったんだけど何かたらい回しにされてまともに対応してくれないんだよね……」

 

「し、思想が強すぎる……」

 

「あちゃー……カワイイ顔してヘタなロックミュージシャンよりロックな人生送ってるね」

 

「だって大阪のスラム街はとにかく酷いんだよ。それなのに人からむしり取ることしか能のないコーポたちも、その言いなりでしかない政府も何もしないんだから僕らが何かやるしかないんだから」

 

 しかし穏やかで親しみや可愛らしさすら感じる外見からは考えられないほどに誠は行動派であり、日本国内で医療支援の拡大や企業に対する課税の強化を求めるデモを複数回主導した経歴(ぜんか)があり、それがここに来て彼の足を引っ張っている。企業も政府も面と向かって自身と敵対する人間に対して親身になるほど優しくはないのだ。

 

 

「……だからパスポートの再発行も絶望的なのでお願いします! 僕をあのアンポンタン共から助けてほしいんです!」

 

「いや何のアテもなく金を借りたり再発行のアテもなく国を出るお前も充分アンポンタンだろ……」

 

 こうして一通り喋り倒すと再び土下座を敢行せんばかりの勢いで必死に懇願している誠に対して、一月前の自分にブーメランとして戻ってくる言葉を容赦なく投げつける拓郎であったが、本心では親切心から彼に関わったことを少しだけ後悔しつつあった。

 

「体を売るのと臓器抜かれるの以外なら何でもやります! 召使いや小間使いとして働かせてくれるのでも大歓迎です! だから僕を助けて!」

 

 五〇〇万クレジットなんて大金はチーム全員分の総資産の数倍に達する額であり、そもそも見ず知らずの人の借金を肩代わりする義務も義理も存在しない。ただ銃声が聞こえた方に向かってみれば暴行されていた誠を見つけたから助けただけであって、特に恩義や貸し借りは存在しないのだから当然だ。

 話を聞くだけ聞いた身からすれば申し訳ないけど、この案件は自分たちの手に負えるようなものではない。だから申し訳ないけど力になれないと伝えるべく口を開こうとしたその時であった。

 

 

「おう、ヴィジラント1001と1011じゃないか、珍しい組み合わせだな。どうしたんだ、中々面白そうな話がチラッと聞こえてきたが。こんな時代にパンクな生き方してる奴がいるなんて、きっとマダムはお喜びになるだろうよ」

 

「ああ、クリスさん」

 

「およ、クリスのおっちゃんじゃん!」

 

 そこに偶然通りかかったのは69番街自警団のリーダーを務める巨漢のクリスであり、ちょうど食事を終えた所なのか空の皿やコップが載ったトレーを抱えている。その顔は面白いことを聞いたとばかりににやけており、暗に俺も混ぜろと言っているのは拓郎にも理解できた。

 

「あの、この人は……」

 

「ビビり過ぎだって鹿野さん、クリスさんは69番街の偉いさんで自警団の団長をしてるんだ。厳ついけど優しい人だから安心してくれ」

 

 筋骨隆々とした二メートル級の巨漢がいきなり話に加わってきたため露骨に怖がる誠。恩人によって見ず知らずの店に連れて行かれるのはいいとしても、そこで厳つい人相をした知らない人に絡まれるのは流石に怖いのだ。

 しかし彼も中々に現金なもので、拓郎の紹介によって味方であることが分かると怖がらなくなるどころか露骨に擦り寄り始めている。

 

「悪人どもならともかく、カタギで初対面の人にそこまで怖がられると割とヘコむんだよな……まぁいい、俺はクリス。拓ろ……ヴィジラント1001から紹介に与った通り、自警団の団長をしてる者だ」

 

「か、鹿野誠です。医者をやってて、今すごい借金で困ってます! 縋れるものなら藁でも葦にでもすがらせてください、そのために必要なら靴だってケツだって喜んで舐めますから!」

 

「お、おう……こちらこそよろしく。それはそれとして、靴はともかくケツ舐めるのは体を売ってるようなもんだと思うけどまあいいか……」

 

 ある程度は盗み聞きしていたため大まかな事情は知っていたし、味方の紹介かつ以前に何度か聞いた名前であるためクリスは実は誠のことを知っていたが、余りにも必死な様子に少しだけ引いている。しかし一秒後にはそれはそれでいいとばかりに、悪いことを思いついた目つきをすると再び口を開いた。

 

「……いや、それはそれでちょうど良いか。マダムがうち専属になってくれる医者を探していてな、条件次第じゃそれをどうにかしてやれないこともない。まあ細かい要件は一旦マダムと確認が必要だが……決して悪い話じゃないと思うぜ?」

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