光輝の都の頂へ〜元社畜、欲望渦巻く魔都にて傭兵生活を始める 作:ズブ左衛門
スミスが高難度だと明言した依頼を受ける。チームとしてそう決めた後の三人の動きは迅速であった。出来ればやっておきたかったサイバネ機器のインストールこそ間に合わないが、せめて傭兵を始めてから余り変わりない武器や装備くらい新調しておこうと思い、再び軽自動車を借りるとニューヨシハラ北部にある中程度のグレードの銃砲店へと足を運んでいる。
拓郎たちの端末に眠るクレジットの残高は、複数の銃器と充分な弾薬を買ってもなお生活に支障がないレベルにまで貯まっており、ここらが使い時だと判断した三人は財布の紐を弛めることにしたのだ。
「武装も練度も整ってる奴らの拠点にお邪魔して引っ叩くにはどんな銃がよさそうだ? やっぱりセミオート式のライフルを違法改造して即席の機関銃みたいな形でなぎ倒すのがいいんだろうか」
「確かに人数の不利を埋めるためには自動火器の大火力が必要だが……向こうの警備兵も当たり前みたいにサブマシンガンとかアサルトライフルを持ち出してくるらしいからな。多少強力な銃器を持ってたところで、正面からの撃ち合いは自殺行為と同じだろうよ」
「へーえ。じゃあ空き巣みたいにコソコソっと忍び込んで、見つからないうちに退散しなきゃだね。ならあーしは銃器よりツールの方が欲しいかも。でも、鬼哭衆の紋々入りとかできれば使いたくないし……」
そうして大体購入する銃器の範囲を絞ってから車を降りて店内へと入った三人だが、未だ戦闘以外において日本の常識から脱しきれていない拓郎だけは、アシハラの標準的な銃砲店の恐ろしさに仰天しそうになっていた。
「な、何だよこの品揃えは……!?」
日本国をはじめ大半の国家では民間人の単純所持すら禁止されているアサルトライフルやサブマシンガン等のフルオート火器、それに加えて軍用のアーマー貫通弾や炸裂弾といった危険度の高い銃弾が当たり前のように販売されており、会計カウンターの前で腕組みをして仁王立ちしているスキンヘッドの店主の前には『現品二挺限り、サープラス弾五〇〇発付きで半額放出中』という軽快なポップと共に、どこかの軍の払い下げ品だという中古の軽機関銃が頑丈な鎖に繋がれて置いてある始末だ。
「なあファン、普通にヤバくないこの店……? 普通に軍用の機関銃とか爆弾とか置いてあるんだけど。流石にプラスチック爆薬は法に触れてるんじゃないか?」
「今さら何言ってんだ、んなもんこのくらいのグレードの店なら普通に置いてあるぞ。中心街とか
社畜時代に仕事の関係で何度か日本の銃砲店を訪れたことがあった拓郎だが、目の前の光景は自らの記憶と余りにも違い過ぎている。店頭に並ぶのは一般人が狩猟やスポーツ射撃に用いるためのオーソドックスな半自動式ライフルや散弾銃が精々であり、特別な許可が必要な拳銃や大口径の猟銃といった品々は許可証を提示した上で射撃場やバックヤードで個別に商談をするのが常識であった。
しかしこの場には日本なら一発で即アウトである様々な自動火器やカスタム部品、弾丸が当たり前に売られており、しまいには軍や企業からの放出品故に少数だが手榴弾やグレネードランチャーといった爆発物まで店頭に並んでいる。もしやここは非合法の商品を売る裏社会御用達の闇市なのではと邪推した拓郎だが、アシハラではさして珍しくない正規の銃砲店だ。
「無法都市かよここは……昔やった犯罪がテーマのゲームの舞台になった街じゃないんだから」
「久しぶりに来たが懐かしいな、この感じは親父の所属してた大隊の武器庫みたいだ……」
そんな光景に改めてアシハラの現状を思い知って戦慄する拓郎と、幼い頃の思い出に浸るファン。そんな対象的な反応を示す二人であったが、時間は有限であることを思い出すと防弾ケースに収められた大量の銃器の中からお目当てを探すべくそれぞれ目指すコーナーへと向かっていった。
一五ミリHMG弾という重機関銃と同じ弾薬を用いた対物ライフルや二七ミリの大口径が独特の威圧感を放つ散弾銃、毎分四五〇〇発の発射レートでフルサイズの八ミリライフル弾をばら撒く電動式ミニガンといった派手で目立つ火器が彼の目を惹くが、彼が今欲しているのはそんな見た目から性能まで物騒極まりない武装ではない。過度に嵩張らない携帯性を有し、なおかつ必要最低限の敵を迅速かつ秘密裏に始末できる取り回しのいい小火器なのだ。
「おい拓郎、ある程度の目星はついたか? まだ時間はあるが、無駄に出来るほどはないぞ」
「俺は銃器とかにあんまり詳しくないんだけど、これとかどうだろう」
数十分の探索の末に拓郎が新たな任務の相棒として選んだのは
その代償として弾倉あたりの装弾数が二〇発と同系列の中では少ない上に連射速度も毎分三〇〇発と低めなのだが、今回は原則として隠密作戦であり正面切って敵と撃ち合いをするわけではないためそこは問題にならないと割り切っていた。
「……銃の特性がこの弾の特性と噛み合ってていいじゃんか。弾もありふれた一一ミリ弾だし、潜入してのドンパチにはうってつけの一挺だな」
「そうなのか……弾はどれくらい買っておこうか」
「まあ新品のまま持ってくわけにはいかんし、射撃練習分含めて五〇〇発くらい買っとこう。資金には余裕があるしな」
拓郎の買った銃を褒めちぎっていたファンが選んだのはマシンピストルと呼ばれる拳銃サイズの自動火器であり、普段使いしている半自動式ライフルだとやはり閉所での取り扱いに難があるので、この機会に近接戦用の銃を新調することに決めたのだ。
物心ついた頃から銃器の取り扱いや改造に慣れ親しんでいるためてきぱきと自分でカスタム部品を選んでいき、気難しそうなオーナーですらも思わず唸ってしまうような一品を完成させている。三〜一〇メートルという近距離での遭遇戦を前提に、小さめの拡張マガジンやライトスチール製の折り畳み式
当然ながら値段も相応に上がるため、一昨日に一晩中お楽しみをしていた彼にとっては少々厳しい額だが、多少態度が柔らかくなったオーナーに許可を得て作業台を借り、自力でカスタマイズをすることで手間賃を極限まで節約している。
「これからも傭兵稼業で今以上の相手とやりあうつもりなら、銃のカスタムは絶対に覚えた方がいいぜ。今は宿のガンロッカーに置いてあるが、俺のライフルみたいに低倍率スコープとリフレックスサイトを切り替えたり、必要に応じて使い分けられるからな」
銃器における戦闘に一日の長があるファンの熟達した手さばきに、近くにいた数人の客と共に見とれていた拓郎だが、店のオーナーに声をかけられているのを見て自らの相棒が凄い人であると認識している。
「おう、そこのイカしたアンちゃん。よかったらウチの店に弟子入りしねぇか? 最近は物騒なモンが入り用な客が多くてな。弟子ってもそこらのリーマン連中の倍以上は出すし、腕前や業績次第じゃ昇給や昇格も早くなるぞ……」
「うーん、悪くないオファーだけど遠慮しときますぜ。今はここの若いのと一緒に果てのない夢を追っかけてる最中なんで」
「……ふん、なるほど傭兵をやってんのか。まあ、そしたら傭兵辞めた時に覚えてたら声をかけてくれ。その腕なら悪いようにはせん」
一方アリサはあまり銃器に対してあまり関心がなく、二日前に拓郎から借りた予備の拳銃をそのまま持っていたが、流石に鬼哭衆の紋入り武器を使い続けると『あらぬ誤解』を受けて要らぬ面倒に巻き込まれる可能性が上がるため、一挺くらいは必要経費と割り切り新調するつもりである。後日神経リンクを眼底に埋め込む予定であり、射撃技術の不足をテクノロジーで補う予定だ。
本当はそれらともリンク出来て更なる命中精度の向上が見込める高性能なスマートピストルが欲しかったが、ここには売っていない上に銃本体だけで預金残高の八割五分を吐き出すことになるため、護身用の定番として知られる標準的な自動式拳銃で我慢していた。
特に目立ったカスタマイズはされず、グリップ部分を握りやすく滑りにくい特殊なラバー素材で覆うだけというのは二人の選んだ銃のカスタム具合に比べると些か寂しいが、彼女自身がこれでいいと思っている。
少なくとも次の仕事においてこの銃が火を噴く時は、目的を自分たちの存在が全面的に露呈して銃撃戦が避けられなくなった場合なので、必要以上に金銭をかけたくなかったためだ。
「ホントはスパークニードルってやつも欲しかったんだけど……」
「それはどんな銃なん……ヒェッ、帯電させた金属製のスパイクを撃ち込んでショックを与える銃とか割とえげつねえ……」
「だってサイバネお化けみたいなのが珍しくないアシハラじゃ、テーザーガンなんてクソの役にも立たないって同じ高校にいたファティーが言ってたし」
「いや、ファティーって誰だよ……まあ全身をサイバネ化した奴にはテーザーみたいなチャチな代物より、EMPグレネードやハッキングで攻撃した方がいいのは事実だが」
後で射撃練習をするために対応する弾薬もやや多めに買い込むと銃砲店を後にしてニューヨシハラから南へ下り、アリサが行きたがっていたややアングラな雰囲気のある猥雑なアーケード街、そこの奥まった路地に店を構えるコンピューターショップを訪れた。
とはいえ店は小さい上によく分からない部品であったり型落ちや違法改造品が乱雑に積まれているため、拓郎は店の前で待っている。万一にも不慣れな店内で何かを引っくり返して壊した挙げ句数十万クレジット単位の弁償など勘弁してほしいからだ。
「何かよく分からないパーツとかくたびれたパッケージが並んでるようにしか見えないけど、ミキモトはここで何を買うんだ?」
「ん、ハッキングツールにしてるモバイルコンピュータのOS更新とRAMの増設だよ? あとは店長さんから攻撃用のウイルスプログラムを何個かもらってくるんだー」
そう言うなりアリサは強めに冷房がかかっている店内へと入っていったが、一般人の範囲でしかコンピューターの知識がない拓郎は殆ど分からないので、梅雨明けの蒸し暑い正午の空の下で数分ほど待っている。押し寄せる四〇度超えの外気温と一〇〇パーセントに近い湿度のダブルパンチによって、不快感と体感温度はうなぎ上りだ。
仮にこれが何らかの仕事中なら集中しているためさして気にならないのだろうが、無為に時間を過ごしているので嫌でも首筋から背中へと伝う汗の感覚が無慈悲に一秒一秒を刻む。似たような気候の日本で生まれ育ち、アシハラで一月も過ごしたためそれが原因で体調を悪くすることはまずないが、それでも不快なことに変わりはない。
「あ、暑い……! 夏用の半袖半ズボンなのにもう汗が滲んできやがった……!!」
喉が渇いてきたので数軒先にある小さな売店で安物のスポーツドリンクでも買いに行こうかと思った拓郎だが、やるべきことが決まっていたアリサが店に滞在していたのは一〇分かそこらであり、彼が体を責め苛む暑さと湿気に耐えかね十数メートル離れたところにある売店へと足を踏み出そうとしたその時に出てきたのだ。
「うっへぇ、たった三時間でコツコツ貯めてた残高の半分ちょいが吹っ飛んだぁ……」
「俺も色々買ったら三分の一くらい飛んでったからな。ひもじい思いをしないようにこの仕事でしっかり稼ごう」
「うん、そだね……てかあっつぅ! もう何年も住んでるけど、アシハラって何でこんなに毎年毎年暑いの!? ゼッタイおかしいって、蒸し料理は好きだけど自分が蒸されるのはイヤに決まってるじゃん!」
しかし片手で荷物を抱えたアリサは店を出た瞬間に押し寄せる例年より酷い暑さに対してひとしきり文句をつけると、車内に戻って買ったものを助手席に置くなり何の躊躇もなくワイシャツのボタンを外し始め、おまけで貰ったであろうコンピューター機器の物理パンフレットで露わになった人目を引く小麦色の素肌をパタパタと扇ぐ。
彼女は露出狂でないため流石に下着はつけているが、スタイルの良さも相まって世の男の九割は視線が吸い込まれるような光景が生まれてしまっており、これに困ったのは同じ車内にいるため一メートルも離れていないところから見せつけられる二人であった。
「ふぅー、生き返る! やっぱこれだね……って二人ともどしたの? 揃って鳩が豆鉄砲食らったような顔してるんだけど、ウケる」
「ストップ、ストーップだミキモト! 脱ぐならせめて宿の部屋に帰ってからにしてくれ!!」
「おっさんだけど俺たち一応男、男だからな!? 暑いならエアコンのパワー上げるからとりあえずここで脱ぐなって、精神衛生上よろしくないから!」
暑いからといきなり上半身だけ半脱ぎになって扇いだりタオルで汗を拭くアリサ。初対面の時に見せた素っ気なくトゲのある対応とは全く異なる行動に、思わずこちらを試しているのではと二人して邪推していたが、特にそういった意味がないことを察するとちらっと視界に収めている。彼らだって男であり、そういった興味や欲望もしっかり持ち合わせているのだ。
「えーでも、二人ならチラ見してもそーいうコトしないって信頼してるし別に気にしないから。それにあんまエアコン強くすると、すぐ車の電池上がっちゃうよ? この車あんまいいやつ積んでないし、走行も空調も全部同じとこから取ってる安物らしいポンコツ設計だし」
「「いや、俺らが気にするんだよ!!」」
「だってあっついもん、意外と蒸れるからちゃんと冷やさないと熱中症になっちゃうし……」
二人の抗議に対してそれがどうかしたのかと言わんばかりの口調で反論すると、アリサは全く意に介さず脚を開き見えても知ったことかと言わんばかりの勢いでミニスカートの中に風を送り込む。スタイルのいい美人がやっていても妖艶さなど微塵もなく、ダサさしか感じられない仕草が僅かな欲望すら霧散させていた。
アシハラでも一、二を争う女子高の出身なのに、何故そんなはしたない事を平気でするのかと二人は揃って首を傾げたが、余程良家の子女が集まる由緒正しいお嬢様学校でもない限り、殆ど同性ばかりの環境に身を置き続けるに連れてそういったことに無頓着になりがちなのだ。
とはいえそんなことなど露ほども知らない二人からしてみれば様々な意味でたまったものではないため、どうにかして止めさせようとするもその試みは全く効果をなさなかった。
「……俺助手席に座ることにする」
「うん、まあ妥当だな」
万策尽きた拓郎は最終手段として助手席の荷物を後部座席へと移し、自分は空いた助手席へと移動している。最近そういった事に縁遠い身である彼としては、どうしても刺激が強い光景であったからだ。
「おろ、拓郎さん……もしかしてそっち方面はけっこーウブだったりする?」
「い、一応そういう店でしたことはあるからな!」
そんな慌てて視線を逸らして助手席へと退散する拓郎をニヤニヤしながらからかうアリサであったが、共に死線を潜り抜けて生き延びる中でこの二人はとりあえず信頼できる人間という評価を下しているため、こんな奔放に見える振る舞いをしている。メックの放つ恐るべき弾幕の中でも臆することなく死地に飛び込み、自分を守り続けた人たちという評価は彼女が一定程度心を開くに値したのだ。
「んーまぁ、拓郎さんの面白いカオが見れたから今日はこれくらいにしとこっ」
「いやもう止めてくれ、心臓に悪いから……」
そんなハプニングこそあったが、その後もいくつかの店舗を回り購入した装備で準備を整えた後は、射撃場で弾倉を何回か空にするほど練習して銃や弾丸の特性を短時間で叩き込んでから近くの労働者向け食堂で軽く夕飯を食べている。
場合によっては武運つたなく最期の晩餐になってしまう可能性は否めないため、食べたい物を腹一杯食べたい気持ちは山々であったが、満腹状態で腹部を撃たれると致命的な腹膜炎を誘発しやすいので、空腹を感じないよう軽食より少し多め程度に抑えておいた。
それでも終わっていく準備と刻々と迫る集合時間は否応なく緊張を高めており、これから数時間後には自らの命運が決まっていることを三人に認識させている。
「いよいよ……始まるんだな。そこらのゴロツキどもをどつくんじゃなくて、本格的に傭兵として名を上げられる仕事が」
「ああ、昨日も言ったが今まで蹴散らしてきたチンピラや木っ端連中、それに下っ端連中とは格の違う相手で、言葉通り死ぬか生きるかの世界に飛び込むことになるぞ、油断するなよ」
「……今さら後戻りなんてダサいことゼッタイするもんか。あーしはやると決めたらやる女なんだから!」
依頼を受諾してからの一〇時間で可能な限りの準備をしてきた三人は『ウキヨエ』の寂れたガレージに軽自動車を返し、一旦宿に戻って残る準備を整えるといつもの事務所ではなくスミスの待つ69番街の裏口へと向かう。首尾よくターゲットであるモバイル・アンビュランスを盗み出した上で生きて明日の朝日と前の依頼を上回る報酬を拝めるかは各々の働きにかかっているのだ。
「八時五〇分になった……さあ、そろそろ行こう」
集合時間まであと一〇分となってから、三人はレインボー通りを離れて電灯すらまともに点いていない道を抜けて集合場所へと向かう。普段は鎖と閂、そして有刺鉄線で固く閉ざされているはずの裏口は普段の厳重さが嘘のように開かれており、滅多に人の往来がないゴーストタウンじみた暗くて細いはずの裏路地には、大して届かぬ月明かりとは比べ物にならないほどの光量を発する大きな何かが鎮座していた。