光輝の都の頂へ〜元社畜、欲望渦巻く魔都にて傭兵生活を始める   作:ズブ左衛門

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第四六話

 サイバネ機器をインストールしてから三日後。毎日フルタイムで働いていたため、マダム・スミスに少し休みを増やしてはと言われてしまった拓郎は、薄いカーテンの隙間から日差しと暑さが差し込む朝に惰眠を貪っていた。

 実を言えば十数分前に彼の端末へとメッセージが届き、数分前には着信もあったのだが、すっかり夢の中にいる拓郎は気付くことなく眠り続けている。時おりいびきをかきながら寝返りを打つ様は貴重な休日を惰眠に費やす中年にしか見えないが、命を張る依頼のない平穏な日々を謳歌しているだけだ。

 

「おい拓郎起きろ、クリスさんから緊急でメッセージが届いてるぞ! 至急伝えたいことがあるから自警団詰め所に顔を出してくれって書いてある!」

 

 そんな拓郎が目を覚ましたのは、部屋の入り口のドアを太鼓か何かのように何度も何度も叩く音とファンの呆れと焦りの混じった叫びであった。

 

「あ……ファンか、おはよう……まだ早くないか?」

 

 こんな爆睡日和だというのに、何故こんな早くに起こすんだ。そんなニュアンスが多分に含まれた拓郎の言葉に少しだけ苛ついたファンであったが、構わず起こそうと試みている。傷病でまともに稼動できないとかでない限り、後援者兼大口クライアントからの誘いをすっぽかすなど言語道断と言わんばかりだ。

 

「ダメだこりゃ寝ぼけてるな……! クリスさんから多分緊急の依頼だ、急いで着替えて行くぞ!」

 

「え、い、依頼!? 分かった、すぐ支度するから待っててくれ!」

 

 クリスからの『依頼』という言葉でようやく脳が覚醒した拓郎は半ば条件反射じみた動きで飛び上がり、寝間着を脱ぎ捨て始める。ほんの数十秒前まで幸せな夢を見ながら爆睡していた人間とは思えぬ機敏さであり、その日暮らしをしていた頃に身に付けた生存本能の名残であった。

 

「……それで、ミキモトにも連絡はしたのか?」

 

「向こうも支度したらすぐ出るって……あ、出てきた。なるべく早く行きたいが、一応武器弾薬は持ってきてくれよ」

 

 そうして拓郎は数分で身支度を済ませると急いで朝食も食べずに宿を出てファンとアリサと共に69番街へ向かい、無遠慮に照りつける太陽によって加熱されたアスファルトから放たれる熱気に追い立てられているかのように詰め所へと飛び込む。もうすぐお盆を迎える時期となっては朝でも気温が三五度近くあり、寂れた裏路地にすら太陽の光と熱という祝福と呪いの二面性を持つ要素を遠慮なく振りまいているので、一秒でも早く日光の届かない室内へ逃げたかったのだ。

 

「『チーム拓郎(仮)』到着した。急ぎの用って何なんだ?」

 

「ああ、来てくれたかヴィジラント1001並びに1002、そして1009。急な出頭要請にも関わらず迅速な反応及び集合に感謝する」

 

 冷房の効いた詰め所に入るといつになく真剣な表情をしたクリス自身が三人を出迎え、近くにあった席を勧めている。最近は鬼哭衆の仕業と思しき嫌がらせや襲撃はなく、迷惑客をつまみ出したり酔っ払い同士の喧嘩を仲裁するくらいしか仕事がなかったためどこか和やかな雰囲気さえ漂っていたはずなのだが、今は空気が張り詰めており、建物内を行き交う自警団員の表情は硬い。

 

「何かいつもと雰囲気が違うみたいだけど、一体何が起きたんだ?」

 

 また何か厄介なことが始まったのだろうか。それとも自分たちが寝ている間に鬼哭衆の逆襲でもあったのだろうか。そんなことを拓郎が思っていると、目の下にうっすらとできたクマを隠そうともせず三人の向かい側に座ったクリスがゆっくりと口を開く。

 

「……単刀直入に言うぞ、今日の午前三時前に我々が出している巡回班が襲撃された」

 

「えっ、襲撃……!? それで巡回班っていうのは、時々69番街の領域外をパトロールしてる少人数のグループだったっけ」

 

「ああ、そうだ。まあこんな御大層な名前こそしてるが、実際にやってることは町の外周とウチに来る客がよく使うルートを重点的に見回っているだけだがな」

 

 苦々しげな表情をしながらクリスは立体ホログラム地図を指差し、該当部分のみを赤く光らせた。そこは69番街入り口から一〇〇メートル近く離れた裏路地だが、比較的道幅が広くて街灯も周辺よりはまともに機能しているため、ニューヨシハラのメインストリートから繋がる通り道の一部として機能している。

 少しずつ人的資源及び金銭に余裕が生まれてきたため自警団や傭兵を用いて少し前からパトロールを始めたのだが、それによって治安は多少なりとも向上し、移住者や来訪者の数は上向きになっていた。現在の区画でも充分に土地は足りており、現段階で積極的な勢力拡大に踏み切るつもりはないが、将来的なことを考えればある程度のエリアを『お手付き』にしておくのは悪い策ではない。

 

「……おっと、話を戻すぞ。見回っていた少なくとも四人以上の襲撃者が物陰から飛び出してきて襲いかかった。銃器どころかマトモな武装は一人だけで、後はあり合わせの武器をやたらめったらに振り回してた数が多いだけの雑魚だ」

 

「でも倍以上の人数だと厳しいんじゃ……」

 

「だが襲った奴らはとことん運に見放されていてな。古参の団員でおまけに腕っ節の立つコンビだったから最初の奇襲を耐えて増援が来るまで持ちこたえた上に、襲撃者を二人も叩きのめしてひっ捕らえたんだ。今は一回目の尋問が終わったとこだ」

 

 そういった意図のもとで編成された巡回班の襲撃事件であったが、拓郎たちが出る間もなく解決した上にゴーストタウン紛いの地域を根城とするチンピラ連中が実行犯であることまでは判明していた。

 質の悪いお手製の粗悪な武器やチャチなナイフを片手に、目に付いた人々から奪うしか能のない、つまるところ目眩まし兼鉄砲玉として用いるには最適だ。知性も理性もない連中は、適当に煽てた上ではした金を握らせておけば当座の忠誠心を買えるのだから使い捨ての戦力としては中々にお手頃である。

 

「じゃあ、俺たちはそいつらの拠点にお礼参りでもしに行くんですかね」

 

 やられたらやり返す。ナメられたら負け。旧世紀から続く裏社会の流儀と今の話の流れから推測したファンであったが、クリスは首を軽く横に振っている。

 

「いや、報復と根城の捜索はウチの人員でやる。『チーム拓郎』に任せたいのは巡回班の警護だ。詳細な目的までは分からんが、襲撃の失敗を悟った敵さんはより大きな兵力で襲撃をかけてくるだろう。その時に伏兵として後背を衝いて欲しいんだ」

 

 標準的な自警団でも蹴散らせる相手に、わざわざ虎の子を出す必要性などない。そう判断したクリスは敵の正体に迫るべく次の襲撃を凌ぎ、より上位の存在の有無を確認するための一手を考えている。拓郎たちがいなければ浸透に気付かず陥落していた最悪の可能性を彼はしっかりと認識しており、二度とそのような事態を起こさせまいと奮起しているのだ。

 

「すまない、通話だ……しかし一体誰だ、しばらく通話じゃなくてメッセージで連絡しろと言ったのに……」

 

 その時クリスの端末に通話のコール音が鳴り響き、思い切り顔をしかめさせていた。69番街の幹部といえる存在であり、自警団を束ねる彼の指示に面と向かって逆らうものはまずいないのだが、訝しみながらも三人に断ってからとりあえず応答している。

 

『あらお疲れ様ねクリス、忙しいところ悪いのだけど、『チーム拓郎』と連絡はとれるかしら』

 

「あ、ええ、はい、マダム!? 『チーム拓郎』なら今は自警団詰め所にいます。ちょうど新たな依頼について説明していたところですが、彼らにご用でしょうか?」

 

 しかし通話の相手はマダム・スミスであり、思わず椅子から立ち上がって直立しそうになったクリスだが、辛うじて踏み止まった。それでもぶるりと不可解に震えたため、三人からは何事だと思われている。

 

『ついさっきチンの坊やから連絡が入ってお願いされたのよ。またあの三人に依頼を出したいって、その対価に有益な情報に自分のとこが抱える腕利きチームを一つ派遣するとまで言い切ったわ。相当気に入られたようね』

 

「ええ、はい……そ、それは本当なのですか!? ミスター・陳が追加で腕利きの傭兵チームを回すから『チーム拓郎』を今一度貸してほしいと? はっ、すぐに依頼のブッキングがないか確認します」

 

 スミスの言葉はクリスにとって驚くべきものであり、少し困った状況を生み出している。現状で69番街が何のしがらみもなく動かせる最高戦力が拓郎たちであり、続くであろう襲撃を根元から断ち切る作戦を練っていたのだが、一旦棚上げとなってしまった。

 

「……つかぬことを聞くが、今現在に『チーム拓郎』は他の依頼を受けていたりはしないか? それに本日中に新たに依頼を受けるつもりはあるか?」

 

「それはないな。ここ数日どころかあの依頼の後は、ずっと診療所の工事手伝いや集積物資警備の依頼しか受けてない。週明けくらいからまた実戦テストを兼ねて本格的に依頼を探そうと思っていたから」

 

 スミスの指示を受けたクリスは、三人は揃って首を横に振っている。ファンの腕が完全に治ったのは四日前、つまり快気祝いと称して娼館に遊びに行った日であり、今までは腕の機能の確認やサイバネ機器をインストールした後の動作確認を行なっていたからだ。

 

『そう、なら好都合ね。あの子たちに代わってちょうだい』

 

「はっ、直ちに」

 

『ハァイ、三人とも……聞こえていたかしら。もしよければ、またチンの坊やの依頼を受けてあげてほしいのよ』

 

 それを通話越しに聞いたスミスはちょうど良かったとばかりに拓郎たちに通話を代わらせ、直接話し始めた。その方が手早く済むからだ。

 

「69番街の方は大丈夫なのか? 未明に襲撃されたって聞いてるけど」

 

『昼間にも傭兵チームが巡回しているし、自警団も何人かは不寝番として即応待機してもらうことになっているわ。一ヶ月前とは雲泥の差よ……今の方が格段に良好な状態だけれど』

 

 しかし巡回班が襲撃されたのに暢気に他地区で依頼を受けていいのだろうか。拓郎はそこが気になったが、スミスがいいと言ったため新しい依頼を受けることにしている。少しだけ前倒しになってしまったが、別に週明けである理由はなく、ただ今週一杯は診療所の増設を手伝おうと思っていただけだからだ。

 

「……じゃあ、ちょっと行ってくる。でもまた何か変なことが起きたら」

 

『わかったわ、安心して行ってらっしゃい。依頼をきっちりこなすのも大事だけれど、みんな生きて帰ってくるのよ。こっちの事は気にせず、しっかり稼いできなさい』

 

 そうして詰め所を辞し再び宿に戻ってから数時間ほど経過した昼下がり、昼食を食べた後に陳と会うべくイースタンファクトリー地区へ向かおうとする三人を待っていたのは、陳専属の運転手であるジャンが運転する全面装甲化されたセダンであり、初回と同じようにピタリと三人が待つ路肩へと停車すると後部ドアを開けて招き入れている。

 それだけではなく、四〇度を超える猛暑と一〇〇パーセント近い湿度を慮ってか車内は強烈な冷房が効いている上に何種類かの冷たい飲み物が用意されており、そこらのストアやコンビニで売っている安い成分合成飲料とは格の違う味と柔らかい飲み心地で三人を魅了していた。

 そんな快適なドライブを一五分ほど楽しんだ頃には陳の拠点であるリゾートホテルへと到着し、相も変わらず古代中華王朝の宮殿かと思ってしまうほどの贅を凝らした応接室へと案内された。そこでは初対面時と変わらぬアルカイックスマイルを浮かべた彼が握手を求めていて、何だか有名人になった気分にさせている。

 

「あの依頼から半月ほどだけど、元気そうで何よりだよ。あれからまた活躍しているそうで、僕の見立てが正しかったことが証明された」

 

 しかし拓郎は名声を除いて自らの評判をあまり気にしていない。悪く言えば無頓着であり、よく思われていない相手からすら半ば憐れみ混じりに変えたほうがいいとまで言われたチーム名のことすら忘れかけている。

 三人の中でもファンだけはそれなりに気にしているため、とにかく『チーム拓郎』などという威厳の欠片もない名前だけは可及的速やかに変えようと思っていた。アシハラの裏側に名を轟かせる他の腕利きチームや一流傭兵と比べて何とも気の抜けたようにしか聞こえない名前であり、名乗るだけで恥ずかしいとすら思い始めていたからだ。

 

「さて、今回はあの息苦しい部屋を使うまでもないのでここで話させてもらうけど……君たちも一端の傭兵になっているみたいだし、いよいよ傭兵稼業の花形である企業の汚れ仕事(ブラックオプス)をやってみよう」

 

 そんなファンの微かな苦悩など全く知らない陳は、さあ本題に入るぞとばかりに依頼の内容を伝え始めている。彼もその名前はどうかとは思っているが、いちいち口を出すほど愚かでもお人好しでもない。

 

「依頼主はチューブアロイ社。日本企業連盟(LJC)陣営に属する中堅企業で、金属精錬と合金製造を主な業務とする。そんな企業からの依頼は、敵対するヘリテージ・アイアンワークス社のコンボイ襲撃と、そこに積まれてる特別な積荷の回収。向こうの渉外担当官曰く『依頼の対象ではない積荷も内容に応じ相当額で買い取る』だそうだよ」

 

 アシハラで活動する傭兵にとって、現代の支配者階級たる企業(コーポ)相手に大立ち回りを演じることは一種のステータスである。主たる陣営に属していない独立系の中小企業同士での諍いですら傭兵としての評判は上がり、メガコーポの有する保安部隊や最精鋭たる特殊工作部隊を返り討ちにすれば一夜にして伝説を築けるだろう。

 事実上の最上位等級と化しているインディゴ級傭兵は全員がメガコーポ相手の大立ち回りを経験しており、その名を聞けば敵対者は震え上がり、味方は歓喜する。傭兵の命など末端社員並みに軽く扱う企業であっても、生半可な脅しが通用しない歴戦の強者には相応の礼節と待遇を強いられるのだ。

 

「これが……企業の依頼なのか」

 

 指名依頼に続いて傭兵の登竜門とされる企業同士の抗争に首を突っ込む。それは傭兵として成り上がるなら避けては通れない道であり、己の名を世に知らしめる絶好の機会である。

 当然ながらリスクも報酬もそこらの仕事とは格が違い、一回の仕事で半年以上遊んで暮らせる額のクレジットが支払われることも珍しくないが、その分だけ敵も強く生半可な装備や技量では無様な最期を遂げるのが常である。無名のギャングやそれ未満のチンピラが繰り広げるストリートの抗争とは規模も質も違うのだ。

 

「さあ、どうする? 本当の機密事項は何も話してないから、今なら手を引くことはできるよ?」

 

 だからこそ陳は三人に問いかける。この先に進み、富と名声のために更なる深みへと足を踏み入れる覚悟はあるのかと。報復を恐れず企業という支配者層をへと牙を剥き食らいつく覚悟があるのかと。

 

「……ファンとミキモトはどう思う?」

 

「何度も繰り返すが、このチームのボスは拓郎だ。チーム名以外に不満はないさ」

 

「サイバネ強化したあーしマークⅡも見てみたいしいいんじゃない?」

 

 いかにリーダーとはいえ一人で決めるのは不義理だろう。そんなことを思った拓郎は振り返って二人に問い掛けるが、異存はないと言わんばかりの物言いを即座にするためさしもの彼も面食らった。普通はもっと熟慮してもいいはずなのに、自分が言葉を発し終えてからコンマ数秒で肯定するのは中々に覚悟が決まっているか何も考えていないかのどちらかだが、二人とも前者であることは容易に想像がついたからだ。

 

「……一人は僕の紹介だけど、本当に君はいいチームメイトに恵まれてるよ。紹介したからって良好な関係を築けるとは限らないし、維持するのも容易いことではないからね」

 

 陳もその決断の早さに驚いてはいたが、その覚悟を受けてすぐさま情報を渡している。実のところ今回の依頼は鮮度が命であり、決行四時間前までに決めてくれないと危うく取り消しになってしまうところだったのだ。

 

「よし、決まりだね。これが詳細情報だよ……うん、言いたい事は分かってる。あの一件から僕も反省して情報収集網の深化と多様化を行なっているから、そう身構えないでほしい」

 

 無事に依頼の受注が決まったため、陳は何枚か綴じられているレジュメを手渡した。アナログな情報媒体というのは、テラバイトどころかペタバイト単位のデータが世界中を毎秒飛び交うこのデジタル全盛期において、サイバー空間に蔓延る不埒な覗き魔どもから大切な情報を守るための有力な手段だ。

 

 作戦決行時刻は午前〇時半であり、ターゲットとなる輸送車列(コンボイ)の編成は、奪取対象を搭載した四トン級トラック一輌と護衛の武装車輌が二輌であり、始点から終点をおよそ四〇分近くかけて走行する。

 護衛に用いられているのは旧世紀から『テクニカル』と呼ばれるもので、標準的なピックアップトラックに申し訳程度の薄い装甲と遠隔操作式の機関銃を搭載している。当然ながら軍用規格で製造された正規の戦闘車輌と比べれば能力は劣るが、こういった都市部での警備任務や対ゲリラ戦にはコストの安さと維持管理の容易さもあって大いに役立つ車輌だ。

 そんな合計三台で構成された小規模な車列を襲撃してトラックに積まれた目標の積み荷を奪い、救援部隊が来るまでに撤退。その後は指定されたポイントにいる受け渡し要員へと目標の積み荷を渡せば依頼は成功となる。

 

「こちらが過去の走行記録より割り出されたコンボイの想定通過ルートだ。ヘリテージ・アイアンワークス社の支社からサウスポート地区の七番埠頭へと向かうが、襲撃抑止のためか毎回細かくルートを変えている。待ち伏せの位置を決めるのに使ってほしい」

 

「うわ、機関銃付きかよ……それも二輌とか」

 

「それくらいで嫌な顔するなよ、企業の輸送部隊なのに軍用の装輪装甲車とかメックがわんさか出てこないだけマシってもんだ」

 

 そこで陳より輸送車列(コンボイ)の予想通過ルートと敵車輌の情報が追加で渡され、予想される敵の数と装備に三人は顔をしかめた。

 現状でも対人火力は十分に足りているが、作戦の障害となる可能性の高いテクニカルを排除するにはまだ足りない。タイヤを狙って足止めしたり、型番が正確に判明しているため高速ハッキングで標的決定プログラムを書き換え同士討ちを狙う作戦もあるが、後顧の憂いなく略奪に勤しむなら物理的に破壊してしまうのが手っ取り早い上に確実であった。

 

「他に聞きたいことはないかな? なら、これで一旦解散だ。僕はここで吉報を待っているよ」

 

 陳のその言葉で三人はリゾートホテルを辞し、ジャンによって69番街近くまで送り届けてもらった。今回はやや忙しないが、やるべきことは変わらないため巻きで行動を始めている。

 

「残り九時間と少ししかないな……いつもみたいに悠長な事前調査は出来なさそうだ」

 

「何を優先すべきなのかしっかりと考える……のも悪手か。ホント、時間は資源だって言葉が身にしみるぜ」

 

「ならできる範囲でなるべく準備をやるしかないじゃんね。ほら、早く行くよ!」

 

 結局のところ、作戦の成否はトラックの前後を守る護衛をいかに迅速かつ確実に無力化するかにかかっている。それを理解した三人はモバイル・アンビュランス奪取作戦の準備でお世話になった銃砲店でアンダーバレル式の四五ミリグレネードランチャーと専用の榴弾六発を購入し、ファンの持つライフルに装着。初撃でガツンと先頭車輌に食らわせることで車列を無理やりにでも足止めし、奇襲効果の増大を狙っている。

 気分はさしずめ紛争地帯の廃墟に潜む反企業主義ゲリラであったが、やっていることは別の企業の走狗であり、ちょっと大義名分があって格好つけた強盗でしかない。成功すれば報酬が支払われるが、万一失敗すれば即座に『いないもの』として見捨てられる。雇う側の企業にとって殆どの傭兵とは、所詮その程度の存在でしかないなのだ。

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