光輝の都の頂へ〜元社畜、欲望渦巻く魔都にて傭兵生活を始める   作:ズブ左衛門

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第四九話

 残された不気味なまでの静寂は、つい先程まで本当に鬼哭衆の次期大親分候補と会話をしていたとは思えないほどであり、願わくばこの出来事自体が疲労による幻覚であってほしいと三人は思ってしまった。しかしそんな妄想めいた現実逃避が長続きするはずもなく、状態の悪いアスファルトに刻まれた真新しいタイヤのブレーキ痕が、今し方の出来事は紛れもない現実であると無情にも告げている。

 自分たちは鬼哭衆に注視されている。そんな嫌な事実にげんなりしながらも再びテクニカルに乗り込んで、また一つ依頼を達成した事実を胸にしばしの休息を得るべく家路を急いだ。結局のところ、恩義ある69番街及びマダム・スミスに対して今さら裏切るような真似はできないしするつもりもないので、これからも出来ることを必死にやっていくだけである。

 

『チューブアロイ社より依頼の達成通知と報酬が送られてきたので振り込んでおいたよ。評価は中々良いみたいで、手際が良すぎて本当に三人かって確認の連絡が入ってた……受け取り時に姿を見てるはずなのにね』

 

 宿に帰ってきた直後に届いた陳からのメッセージによって、依頼自体の報酬で一〇万クレジットとプサイ合金インゴットの買取代金一九万二千クレジットが綺麗に三等分されて入金されていることに気付いている。一人あたりに換算すればだいたい九万と七千に届かないくらいであり、平均的な中流階級が得る月収の八割ほどになっていた。

 今までフィクサー直々の依頼を受けていたため金銭感覚が半ば麻痺しているが、拓郎にケチくさいと言われた企業が出したこの依頼は中々に羽振りがいい方である。同じような規模の襲撃依頼で基本報酬は五万クレジット、追加報酬は現地調達──つまり倒した敵から略奪しろなどというのが当たり前で、重要度が低いと提供される情報がいい加減どころか真反対であることも珍しくない。

 

『これで君たちもめでたく『企業の走狗』の仲間入りだ。また手頃な企業からの依頼があったら紹介しようと思うけど、どうだろうか』

 

 そんな事実を知らない拓郎は数分遅れで届いた追伸を流し読みしつつ、今後の関係を維持するたためにも『是非お願いします』とだけ返信を入れている。これで一段落ついたので端末をスリープモードに戻してシャワーの準備をしようと思った拓郎だが、ピロンという音と共に表示された一つの通知が彼を再び画面に注目させた。

 

「うおっ、すごい。本当に五二万クレジットだ……普通の依頼だけで稼ごうとしたらすごい苦労するのに」

 

 それはタチバナ名義で送られてきた買取代金の入金通知であり、暫定処置としてチーム代表である拓郎の口座に振り込まれたのだが、五二万クレジットという大金が入金履歴に記されていた。これだけでチューブアロイ社から受け取った金額の合計よりも多く、キログラムあたりの買い取り価格と持ち出した数量は知っているのにも関わらず驚いてしまう。

 インディゴ級、それも同位階の中でも昇格してもおかしくない上位ともなれば、自分たちにとっては大金に分類される数十万クレジットの『はした金』程度、将来有望なルーキーにポンとくれてやってもいいほどに金を持っているのだろう。何とも羨ましいことだ。

 画面に表示される入金履歴と金額を交互に見つつそんなことを思った拓郎は、いつか自分もそんな金持ちになってやると自らを鼓舞し、デキる傭兵というのは意外と気遣いも欠かさないらしいものだと履歴に付属したコメント欄を見て感じている。

 

『現地ではすっかり忘れていたが、持って帰ったプサイ合金インゴットの代金だ。未来あるルーキーに幸多からんことを』

 

「やっぱりタチバナさんってすごい。一流の傭兵っていうのはああいう存在なんだろうな」

 

 それはそれとして、いきなり総額で八五万近いクレジットが転がり込んできた。もちろん律儀に三等分すれば一人当たりおよそ二八万と少しの稼ぎとなり、当面は何もせずとも暮らしていける額である。僅か一時間足らずで一般労働者の年収よりも多い額を稼いでしまったことで思わず浮かれそうになってしまうが、これらは傭兵として更なる高みへ至るための原資であり、息抜きや遊びに多少費やすならともかく、無駄にすることはできなかった。

 無論、拓郎にとってギャンブルは欠かすことのできない娯楽にして息抜きだが、借金のせいであわや男娼にされかけた出来事以来、ファンに強く言われたこともあって無節操な賭けは控えている。相変わらず肝心な局面で無様に負けてしまうことが多いが、それが賭け事だけに留まっていることに感謝すらしていた。

 仮にあの事件を経験する前の自分なら、口座にある七ケタの残高を見ればギャンブルの種銭があると狂喜して迷いなく注ぎ込んでいただろう。そう思うと人生何があるか分からないなと彼は少しだけ感慨に耽った。

 

「……そうだ、これからも傭兵活動を続けるなら色々な武器や道具がその場限りで入り用になるだろうし、そういうのをわざわざ買ってもらうのも悪いしな……共有口座みたいな所から出せれば良さそうだけど」

 

 それにチームとしての活動も板についてきたことだし、共同の口座を作って報酬の一部をプールしてもいいかもしれない。チーム全体で使う機器や資源、依頼中の負傷の治療費をそこから捻出し、金銭面での不安を解消すればそれだけより多くの仕事ができるようになるからだ。

 もちろん将来においてチームを解散する際には悩みの種となりうるが、その時は共有資産と共に残額を山分けすればいいと拓郎は考えている。今のタチバナのように数十万クレジットをはした金と言えるほどの財力を手にした時ならば、一緒に行動してきた戦友に対して多少は譲歩してもいいとすら思っていた。

 

「ぺっ、鬼哭衆が何だ、タカマガハラ社が何だ……俺はゴミみたいな生活から抜け出して、リッチになって酒池肉林のウハウハ生活が送りたいんだ。邪魔するなら誰だろうと容赦しねえ……なんて、いつかそんな大見得切ってみたいなぁ……」

 

 とりあえず今はクレジットを手に寝よう。それでまた起きたら共有資産の話でも持ちかけてみよう。拓郎はシャワーだけ浴びると寝間着に着替え、そのままベッドに倒れ込むとものの数十秒で眠りに落ちていく。

 その日の夢はついにヴァイオレット級へと昇格したチーム全員で中心街の最高級レストランへ赴き、一食五〇〇万クレジットとも言われる最高級のコース料理を楽しみながら地上六〇〇メートルから光輝に満ちたアシハラの夜景を見下ろすというもので、例えそれが起床後に夢だと分かってしまっても幸せな記憶には変わりない。

 

 そんな少しだけ幸せな気分で迎えた翌朝、今度は朝の八時前に起床した拓郎は朝食の席でファンとアリサに共有口座の件を提案している。モバイル・アンビュランス強奪時のように個々人で購入するならともかく、今回の車列襲撃のようにわざわざその依頼のためだけに買わせるのは金銭的負担が大きいからだ。

 

「いいぜ。グレネードランチャー(グレポン)も弾薬も決して安かないから助かる、これからそういう買い物をやれるようになるのは賛成だ。今はカネも時間も有り余ってるしな、こういう基盤作りは是非やっておこう。そうだ、『チーム拓郎』とかいうクソの塊みたいな名前をそろそろ変えないと……」

 

「え、マジ!? そんな福利厚生システム作ってくれんの拓郎さん、めっちゃ太っ腹ー! 報酬の一部が財源になるけど、将来何か必要なやつ買わなきゃいけない時に助かりそうだし賛成でーすっ」

 

 当然ながら二人の反応は良好であり、数秒の間をおいて賛意が示された。仮に近視眼的な猪武者や刹那的な快楽主義者がチームに混じっていると説得が大変なのだが、双方ともにある程度のスパンでの損得を考えられる知性と理性を持っているため話は早い。彼らとて多少は一回あたりの取り分が減ってしまっても、一度しか使わない仕事道具を全額自腹で揃えるよりは出費を抑えられるとの判断だ。

 

「タチバナさんからもらった五二万のうち一〇万、チューブアロイ社からの報酬のうち二万二千クレジットを共有資産に回していいか? 一人あたり二三万クレジットまで取り分が減るけど」

 

「最初だから、まあそれくらいが妥当だろうな」

 

「あーしは異議なーし!」

 

 そうしてまた一つチームの体制を整え更なる躍進へと備え、午後からちょっとした仕事にありつくべく昼前に意気揚々と自警団詰め所にやってきた三人であったが、出迎えた当直の団員の表情は前回よりも暗く硬い。悪いことがそう続くとは思っていなかった拓郎は襲撃の後始末に伴う当直の慢性的な寝不足を疑ったが、隈やシワといった証拠は見当たらないため首を傾げている。

 

「邪魔するよ……ってあれ、何か雰囲気暗いけどどうしたんだ……それにクリスさんもいないけど」

 

「ああ、アカマ殿か。いつも大口の依頼の合間に細かな仕事を引き受けてくれて助かってるよ。クリス司令は奥の仮眠室で寝始めたばかりだから、よっぽどの緊急事態じゃない限りしばらく寝かせてあげてほしい。つい数十分前までずっと動き回ってたからな」

 

 その上普段は起きているはずのクリスが今寝始めたと聞いて無性に嫌な予感がしたが、つい聞かずにはいられなかった。彼らは傭兵として活動しているが、再びきな臭さが漂い始めた69番街の剣客的な存在でもあるため、自警団の手に余る厄介事が起こればほぼ確実にお呼びがかかるからだ。

 

「最近はずっといたみたいだけど、クリスさんに何かあったのか?」

 

「……いや、また襲撃があったんだ。今度は先週から雇われてた傭兵三人組の巡回班が標的になって、二人は死んだ。最後の一人はこっちの増援が間に合って何とか生き延びたけど、今はドクター・カノの診療所で治療中さ」

 

 そんな拓郎の悪い予感は当たっており、三人が宿でぐっすりと眠っている間に起きた更なる襲撃のことを知ってしまう。襲撃自体は撃退したのだが、前回と違うのは自警団員ではなく傭兵チームが標的となり、複数人の被害を出してしまったことだ。

 

「ま、また襲撃が……!? それに巡回中の傭兵が殺されたなんて、奴らはどれだけ兵力を揃えていたんだ?」

 

「そうだ、敵の数は一〇人近くだったらしい。この近く出身の同僚が縄張りを巡回されて怒った近くのチンピラだと思うと言っていたが、そしたらもっと早くに襲いかかってきてもおかしくないはずなんだけどな」

 

 しかし拓郎の中で一つの疑問がよぎる。彼が見た限りではチンピラという生き物がそんな我慢や戦術といった単語とは無縁であり、腹の虫が収まらない時や誰かから奪いたいと思った時に目に付いた最寄りの人を襲う野生動物じみた連中が、我慢などできないと思っていたからだ。

 

「なあファン、チンピラってのは勝手に決めた縄張りを侵略されたらすぐさま頭に血がのぼって殺しにくるような連中じゃなかったか?」

 

「チンピラや愚連隊どもに合理性を求めるってのは、クソッタレの企業(コーポ)どもに慈悲や節制を求めるくらい馬鹿馬鹿しい話さ。その日の気分で襲ったり襲わなかったりするなんて当たり前だし、誰かに一千クレジットでも渡されりゃ喜んで言う事を聞くだろうよ」

 

 しかし長く裏社会に身を置いたファンからすればチンピラや愚連隊といった連中は最も信用ならない存在であり、知性を持った獣であるが故にそんな単純ではないことをよく知っている。廃墟や貧民街のストリートに屯する彼らは裏社会の最底辺カーストだが、それに甘んじているわけではないのだ。

 

「とにかく、『チーム拓郎』がいてくれれば百人力だ。それなのに申し訳ないけど、仕事の斡旋は明日以降にしてほしい。巡回態勢の見直しや戦力補充の計画を練らなきゃいけないんだ……すまない、巡回警備の仕事が入ったら、最優先でアカマ殿に回すから」

 

「分かった、また何ああったら知らせてほしい」

 

「拓郎、こりゃキナ臭いぜ。また鬼爆組がきてるんじゃねえのか? 今度も水面下でコソコソやってるみたいだが」

 

「これ絶対鬼哭衆がバックにいるやつじゃん……どんだけこの街が欲しいのさ」

 

 結局仕事の件は新たな襲撃事件の余波で有耶無耶になってしまったため、三人は仕方なく詰め所を出て『ヨンの24hダイナー』で昼食を摂ることにした。相変わらず襲撃事件があった後でも普通に営業しており、夜に比べれば店内は閑散としているが全く客がいないわけではない。

 昼前後は最も客が少ない時間帯のためオーナーは店舗の二階で寝ており、バイト一人と旧型の配膳ロボットだけでも店を回している。拓郎たちの他にはカウンター席に座ってサンドイッチを頬張る当番明けの自警団員と窓際のボックス席で昼食がてら雑談に興じる住人二人しかおらず、いずれも既に注文済みのためそう待たずに頼んだ品物が運ばれてくるだろう。

 

「タチバナさんが言ってたのは、俺たちだけじゃなくて69番街全体に危険が迫ってるって意味だったのかもしれないのか……」

 

「いや、多分それはねえな。あの人から69番街を気遣う発言は一切なかった。多分俺達にしか興味を持ってなかったと思うぜ」

 

「でもさ、そんなコトのためにわざわざあーしたちの前に姿を現してまで言う? そこだけが引っ掛かるんだよねー」

 

 お通しの冷水と枝豆味の成型ペーストで小腹を満たしつつ、注文した品が運ばれてくるまでタチバナと襲撃の関連の有無というややズレた内容を論じている三人。無論、ダイナーという準閉鎖空間とはいえ公共の場で論じるのはやや不用心な行為なのだが、ここは何から何まで69番街側に属する場所であるため問題にはなっていない。程度の大小こそあれど店主から客まで全てが顔なじみであり、見知らぬ人が入ってこればすぐに分かるからこそこういった話をするのに適している。

 

「それで未明の襲撃なんだけども、何か変だよな」

 

「まあ、それはそうだが……どの辺が気になるんだ?」

 

 レッド級傭兵二人が犠牲になった襲撃の顛末は敵とて無傷とはいかず、増援部隊の反撃も合わせて二人が死に、少なくとも同数には手傷を負わせたことで算を乱し退散したとある。数的優勢にあっても巡回班を殲滅できず、増援の派遣と反撃を許してしまうあたり個々の戦力も連携もとれていないことは明らかだ。

 それもそのはず、今回の下手人は一昨日の夜とは異なり少し離れた区域を根城にする木っ端ギャングであり、捕らえた構成員は自分たちの素性や胡散臭い武勇伝については聞かれもいないのにペラペラと喋っていたが、目的や後援者の存在を問い質した途端に気まずさと恐怖の混じった表情をして固く口を閉ざしたのだという。

 それ故に連続した襲撃に業を煮やしていた自警団側は、少々手荒な手段と理解していながら『体に聞く』ことになり、捕虜の指の骨数本ずつと引き換えに幾ばくかの情報を得ることとなったのだ。

 

「それが、黒塗りの高級車から降りてきた仕立てのいいスーツ姿の厳つい男たちの誘いなんだって……あれ、何か聞き覚えがあるような気がする」

 

「……傭兵稼業を始めたての頃にそんなことを抜かしてたヤツがいたな。行方不明者の家を狙う空き巣野郎だったっけか。鬼哭衆の奴ら、やっぱりコソコソと尖兵を集めてやがったか」

 

「空き巣犯……? そんなのアシハラにゴマンといそうだけど、ホントに鬼哭衆がそんなチャチなことすんの?」

 

「ミキモトはいなかったから知らないか。ここで仕事を始めた時に捕まえたやつで、行方不明者の家を狙ってたんだが……状況証拠だけど、多分鬼哭衆から依頼されてるんだよな。69番街の撹乱をするためにあの手この手を尽くしてくる」

 

「うぇぇ……サイバースペース上ならともかく、そんなセコいことしてくるんだ」

 

 ようやく届いた食べ物を手にああでもないこうでもないと言い合う様はティーンの日常めいているが、本当に十代なのはアリサだけで拓郎とファンは三十代。尤もある意味では、街の裏側から成り上がるという目標へとひたむきに励む傭兵稼業も、過ぎ去ったはずの青春の続きのようなものかも知れないが。

 だが、そんな束の間の微笑ましい日常も、明日にはアシハラという街に呑まれ消え失せてしまうかもしれない。それでも自分たちがこの欲望と陰謀に満ちた街で確かに生きたという証を残すために、三人は必死に足掻くのだ。

 とはいえ結局この日は仕事にありつけなかった事実に変わりはなく、サンドイッチとフライドポテトで腹ごしらえを終えた三人は一旦別れて思い思いの時間を過ごすことにした。拓郎はニューヨシハラの大通りへと散歩に出掛け、ファンは銃砲店で愛用のライフルのオーバーホールと予備弾薬の購入、アリサは『ちょっと調べごとがしたい』と宿の自室に籠もっている。

 時に各々の時間を大切にするのもチームを維持するために大切なことであり、距離を取りすぎてもいけないが

あまり近すぎてばかりでも大切なことを見失ってしまう。その塩梅をしくじって瓦解したチームは今まで数知れず、ひどい場合には内戦じみた最期を迎えたケースもあった。

 いかにチームメイトであろうとも、殆どのケースにおいて所詮は他人でしかなく、チームの利益を損なわない限り人の行動をとやかく言うべきではない。それが引き金も人一人の命も軽いアシハラで傭兵チームを長く続けていくための最善策なのだ。

 

「うわ暑、リーマンどもはよくもまあこんな中を暑そうなスーツ着たまま走り回れるよな……」

 

 茹だるような暑さを堪えつつ大通りに出た拓郎が見たのは、片側六車線の道路をひっきりなしに行き交う大小様々な自動車とスーツを着込んだ企業に仕えるサラリーマンたち。刺すような猛暑に苛まれ額から汗を流しながら足早に歩く彼ら彼女らが一様に浮かべる生気も活力も感じられない表情から、労働者のことを機械の部品程度にしか思っていない邪悪な企業によって搾取され、ささやかな夢や明日への希望すら見いだせない絶望の日々を思い出してしまった。

 だが今の彼は違う。傭兵として活動することで命の危険こそあれど、日本にいた頃より金銭的にも精神的にも遥かに充実した毎日を送っており、日々のノルマに追われることも、現場を理解しない上司による無茶苦茶で理不尽な命令に怯えることもない。

 夢破れてギャンブルにのめり込んだり、その結果として借金取りに捕まった挙げ句体を改造されて男娼として売られそうになったりトラブルは少なくないが、そのおかげで傭兵として希少な能力を得たり仲間と出会ったり良い出来事もあった。どれもこれも、少なくともあのまま社宅と職場を往復するだけの人生を送っていたら、絶対に経験できなかったことだ。

 

「そう……きっと、俺はこれでいいんだ……お、メッセージ。誰からだろう」

 

 そんなことを考えながら装甲化された自販機で飲み物を買おうと立ち止まったが、端末に朗報が飛び込んでくる。メッセージの差出人は陳であり、車列襲撃依頼の見返りとして陳が言及していた『腕利きの傭兵チームを69番街の防衛に回す』という約束を守って派遣したことを知らせる文面であった。

 どれだけの実力かは明言されていないが、最低でも自分たちより格上のチームが来るだろうとは思っており、わさわざ腕利きと強調されるくらいなのだから、最低でもイエロー級が複数所属しているのだろうと推測していた。

 

「陳さん、約束守ってくれたんだ。でもこの間の依頼と関係あるんだろうか」

 

 それでもどうして名前もろくに聞かない企業を襲撃することと腕利きチームの増援を派遣することが繋がるのかなど全く分からないが、きっと自分みたいな下層の傭兵如きでは理解のしようがない複雑な事情があるのだろうと強引に自らを納得させた。

 それはそれとして誰が来るのか気になるため、添付されているファイルからどんな奴らなんだろうとチーム情報を開いている。傭兵コミュニティのことは殆ど知らないが、それでも目立つ同業者がどのような存在かは気になるのだ。

 

「………うん? 何かこのデカブツをどこかで……思い出した、色々突っかかってきたりアドバイスしてきたりよく分からないヤツだ!」

 

 だが、彼はメッセージに添付されていた写真に映る男の姿に見覚えがあった。その傭兵チームというのは放棄された地下施設でスカヴィードッグス、そして旧式とはいえ軍用兵器であるメックを相手に共闘した間柄であり、規格外の超大型ショットガンを得物とし全身の半分近くをサイバネ化した巨躯のイエロー級傭兵、カルロスが率いる『ドレッドスウォーム』であったのだ。

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