光輝の都の頂へ〜元社畜、欲望渦巻く魔都にて傭兵生活を始める   作:ズブ左衛門

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第五一話

 現場へと接近していく三人であったが、不思議なことにまばらながら響いていたはずの銃声が、ある瞬間を境にしてパタリと止んでしまったのだ。

 戦場でいきなり銃声が途絶えるなんてことはほぼあり得ず、特に小規模な戦いでは複数人が一度に討ち取られる可能性は低い。特に低練度の兵士同士ではそれが顕著であり、チンピラや愚連隊同士の抗争など十数人ずつが派手に撃ち合ったとしても、死傷者が僅か一人二人だけなんてこともザラであるとファンは知っている。

 ならば偶然に偶然が重なって三人同時に被弾して戦死もしくは戦闘不能となったのか、はたまた天文学的な確率で双方の銃器が全て弾切れを起こしたのか。そんな本来ならあり得ない可能性すら三人の頭の中に浮かんできた。

 仮に前者ならば相当に練度の高い部隊を相手にしている可能性も考えられることになるが、後者ならば本来想定しなくてもいいほどの事態であり、血みどろの白兵戦に横から割り込めばいい。そんな楽観的な考えのまま彼らは現場へと足を踏み入れた。

 

「げ……何だよ、これ……」

 

「おいおい、ここだけ戦国時代か何かか?」

 

「うっわ、サイコキラーじゃんね……うぇっぷ」

 

 しかし、そこで待ち受けていたのは予想外の光景であった。救難信号の発せられた薄暗い路地へと辿り着いた拓郎たちが見たのは、不規則に明滅を繰り返す古びた街灯によって照らされる、血の海で力なく横たわる首のない三人の死体と転がる同数の生首であったのだ。

 69番街より東を見回っていた第一巡回班は傭兵二名組と欠員補充の自警団員一人という変則的な編成であったが、こうなってしまえば所属などもはや関係ない。まとめてあの世へと転属させられたが、まだ生者の温もりと大差無いほどの温かさがほんの数分前まで生きていたことをありありと示していた。

 

「本当に酷い死に方だな……いつか死ぬにしてもこうはなりたくねえ」

 

「今日の夢に出てきそ……なーんでこんなヒドいことすんだろうね」

 

 しかし、武器弾薬だけを奪われて放置された死体には頭部と胴体が泣き別れしている以外にも共通する奇妙な点が存在している。開けた周囲には数十もの薬莢が転がっているにも関わらず、銃創は全くない。三人ともが頚部を鋭利な何かで切り落とされたことによって命を奪われており、今もなお切断面から赤黒い血がどくどくと流れアスファルトを汚していた。

 

「いや、まるで……俺の攻撃みたいだ」

 

 それを見ていた拓郎に嫌な想像が浮かぶ。彼の最大火力はニューロンブースターを用いた超高速の近接攻撃であり、制限時間内に一人でも多くの敵を無力化するべく急所を狙って攻撃する。それと酷似していたのだ。

 もちろん敵の正体が三メートル近い特異な長身のサムライで、身の丈ほどもある斬馬刀で三人まとめて一刀のもとに斬り捨てた可能性は否定できないが、そんな化け物に片脚を突っ込んだかのような敵がいればすぐに分かりそうなものだ。

 

「……ッ!?」

 

 その直後、拓郎の全身をゾワリという言いようのない寒気が走り抜ける。日没直後のアシハラは未だ摂氏三五度以上の気温及び九〇パーセント以上の湿度を保っており寒気とは無縁なはずなのだが、不自然極まりない形で空気が押し出され歪んだかのような感覚は彼の生存本能へと直に訴えかけている。

 すぐにニューロンブースターを使え。そんな本能の警告に逆らうことなく彼は起動コマンドを送り、ごく短時間だけながら決して生身では到達できない速さの極みへと至る。もう見慣れた色彩の欠落した視界と、二人の仲間の動きがスロー再生された動画のように緩慢になっていく。

 

「……やっぱり気のせいだったのか?」

 

 本来あるべき色彩の抜け落ちたモノクロームの世界は、拓郎の独壇場であるはずだった。全身への多大な負担を代償に極限まで神経伝達速度を引き上げる極めて強力なサイバネ機器、ニューロンブースターに適合できるものは極めて少なく、適性のない人間だと一回か二回使うだけで全身の神経系が不随を起こしたり過負荷で焼け落ちてしまう。そうなれば例え攻撃が間に合っても廃人まっしぐらだ。

 故に適性がある者は例えメガコーポの部隊でもかなり希少であり、殆どの場合特殊工作部隊の近接戦担当や上位の暗殺者などが切り札として装備しているくらいである。企業は恐ろしいまでに冷徹で無慈悲だが、価値ある人材を無為に使い潰すほど愚かではない。

 

「いや、違う……! これは、俺と同じ……」

 

 だが、この日は違った。白と黒とのコントラストのみで彩られる視界には、拓郎と同じく通常の速度──つまり常人から見れば十数倍の速さでこちらに迫りくる男の姿がある。

 その瞬間、拓郎は自分以外にもニューロンブースターを装備している者がいるという当然の事実を改めて思い知らされた。推定ながらタチバナが使用しているのを見ていたというのにも関わらず有していた、もっと上の位、最低でもイエロー級くらいにならない限りはまさか出会うことはないだろうという楽観的すぎる予想は脆くも打ち砕かれ、彼と同じ『ズル』が出来る相手と正面から向き合うことを余儀なくされたのだ。

 

「……ニューロンブースター持ちだ!!」

 

 それでも敵の必殺技の種を無傷で暴いたことは大きな功績であり、対処法の定まらない未知の攻撃から自力で対処可能な戦術へとグレードダウンしている。おまけに殺気立った目を向けた上で軍刀らしきものを抜き放ったまま全速力で駆け寄ってくるとなれば、それが味方である可能性は全くないと言い切れた。

 

「だっしゃらあぁぁっ!」

 

「な、何ィッ!?」

 

 敵ならば容赦する必要なんてない。すぐに頭を切り替えた拓郎は、鬼爆組の構成員から失敬してからずっと愛用している長ドスを抜き放ち、迫りくる敵めがけて思い切り振り抜いた。当然ながら剣技とも言えない大振りの一撃は受け止められてしまったが、まさか必殺の一撃を防がれるどころか反撃までされるとは夢にも思っていなかった敵の目は大きく見開かれ、不快感と憔悴で口元が歪む。

 そこから一撃、二撃、三撃。ニューロンブースターを装備していない者から見れば、ただ避けることも勇敢に受け止めることも能わぬ超高速の剣戟が繰り広げられ、幾度となく刃が交差した場所からは火花が散っている。今や希少種と化している剣術の達人がこの瞬間をスローモーションで見たならば、型も構えもめちゃくちゃな二人による斬り合いを嫌そうな目で見るだろう。

 しかし単純な威力や速度という面では達人を遥かに上回っている。その理由は至極簡単で、振り回す速度が十数倍であるためその分運動エネルギーも多く有しているからだ。それは武器の耐久性や相手の防御、回避といった要素を無視した単純な計算でしかないが、宇宙の原理を表す物理法則は冷徹であり欲深な人間と違って裏切ることなどない。

 

「チクショウ、まさかこんなとこで同類にブチ当たるなんて聞いてねえぞ……!」

 

 双方のニューロンブースターの効果が切れ、再び視界に天然色の彩りが戻った瞬間にようやく相手の顔をまともに見た拓郎だが、そこには彼より一回り近く年下らしき男が明らかに狼狽した表情を覗かせている。

 今の今まで誰にも受け止められることのなかった必殺の一撃が、何の代償も無しに容易く止められた。そんな現実をすぐに受け入れられなかった男は動揺が抑えられないのか、しきりに眼球をキョロキョロと探るように動かしていた。

 

「へえ、じゃあ同類と戦うのは初めてかい? 残念だけど俺は初めてじゃないぜ、相手が悪かったな!」

 

 実を言えば拓郎もニューロンブースターの装備者と戦うのは初めてであったし、何なら奇襲を察知したのも殆ど偶然であったのだが、口から出任せを舌に乗せて解き放っている。モバイル・アンビュランス奪取作戦でそういった虚言も武器となりうることを理解しており、さも自分が経験者であるかのように騙った。

 仮に一流と呼ばれる傭兵やそれに準ずる実力者なら、拓郎のハッタリを即座に程度の低い嘘だと看破できたのだろうが、目の前の相手はそれを真に受けている。それに拓郎はまだオレンジ級ながら困難な依頼を複数回成功させた傭兵であり、何年もレッド級に留まったままろくに功績を挙げられず酒場で燻っている有象無象とは格が違うのだ。

 

「何でこんなチンケな勢力にニューロンブースター持ちがいるんだよ!? 事前情報はどうなってんだ事前情報は!?」

 

 事前に知らされていなかった予想外の強敵、しかも自分と同じニューロンブースター持ちとの遭遇。そんなハプニングに動揺して冷静な判断が困難になっていた男は戦い慣れた拓郎の攻勢に押されっぱなしである。正確に言えば拓郎は二人を守るために攻めているだけだが、奇襲を防ぎきった上で反撃に出ているだけでも優秀であった。

 その上、男の愛刀を構成する一般的なスチール製の刀身は伝統的な日本刀より強度が高いが、拓郎の振るう鬼哭衆組員用支給品の長ドスはそれよりも一段上をいく合金で鍛造されており、何度も打ち合った時に刃こぼれするのは男の刀だけだ。

 

「おいどうなってんだ、サムもマリーも早く援護しろよ! コイツ、自警団のクセにニューロンブースターなんて持ってやがる!」

 

 加速してからの斬撃に頼り切りであったであろう男は若干弱気になって仲間の名前を呼ぶも、返ってきたのは威勢のいい返事ではなく敵側から聞こえる数発の銃声と、仲間の一人が身を潜めていた崩れかけのブロック塀が小さな爆発で吹き飛ぶ音だけだ。

 

「サム、マリー!? アイツら潜伏場所が見えてんのかよ、ズルだぞズル、このチーター共めが!」

 

「おっと、一騎討ちに割り込むのはご法度だぜ? まあ俺たちは高潔な昔のサムライじゃなくて生き汚い傭兵だし、遠慮なくやらせてもらうがな」

 

「悪いけど、あーしたち生首や剥製にされるシュミなんてないから。それに落としたのはグレポン用の四五ミリ榴弾(HE)だから、まー運が良ければ生きてるんじゃない?」

 

 そう、ニューロンブースター持ちの敵の襲撃というショックから態勢を立て直したアリサによる偵察攻撃ドローンの支援と上空からの目を得たファンによる高精度の制圧射撃によって、遅まきながら第二撃を食らわせようとした男の仲間は少なからぬ手傷を負ってしまい、これ以上の戦闘どころではなくなってしまったのだ。

 

「おい、ふざけるな! クソっ、二人とも俺を見捨てて逃げるってのかよ、誰のお陰でこの間の仕事(ギグ)を成功させられたと思ってんだこのスカム野郎!!」

 

 男の待ちわびた援護はいつまでたってもない。それどころか、仲間が生きてるかすらも分からない。圧倒的優位の状態から奇襲を仕掛けたというのに僅か数十秒ほどで圧倒的な劣勢に立たされた男は、その状況を仲間が逃げたものだと決めつけ悪態をつきながら全速力で逃亡を試みるが、襲撃した挙げ句実害を出しているにも関わらずはいそうですかと許されることはなかった。

 

「とにかく一旦態勢を立て直して……」

 

「おいそこのマヌケ野郎、戦場でよそ見してる暇なんて無いぞ!」

 

「な……ぶべっ!」

 

 背中を向けた直後、視界外から放たれた拓郎の足払いで顔面からアスファルトへと倒れ込み、何とも無様な姿を晒している。当然ながらそれで終わることはなく、無防備な首筋に冷たい長ドスが突き付けられた。もし男が少しでも動けば現代冶金学の粋を集めた合金製の刃が新たな生首を生産するだろう。

 

「誰がこの襲撃を命令したんだ」

 

「ちょっ、それは守秘義務があるから言えないぞ! それに誰だか知らんけど打ち首だけは止めてくれ頼む! 暴力反対、ラブアンドピース! みんな平和が一番!」

 

 その状況は誰がどう見ても詰み(チェックメイト)であったが、進退窮まった男はそんな無意味な戯言までを叫んで惨めに命乞いをする始末。しかし何の対価──それも味方三人を打ち首にしたことを帳消しにして余りある価値を持つ何か──を持っていない彼は無価値どころか有害な存在であり、ここで始末することに躊躇する者はいない。ただ有益な情報でも漏らせばラッキーくらいには思っているが、こんな奴に過剰な期待をするほど彼らは愚かではない。

 

「じゃあ、そこに転がってる酷い死体は何だ? 傭兵のクセに都合のいいときだけ愛やら平和やらを唱えるなんてみっともないんじゃないか?」

 

 当然ながら、ニューロンブースター持ちの危険性は拓郎自身が嫌というほど理解している。それさえ発動すれば必ず勝てるという魔法の道具ではないが、数秒ながら常人の十数倍の速さで行動できる能力がいかに厄介で制御し難いことを考えると、命令があったならともかく捕らえて詰め所に連れ帰る気にはなれなかった。

 

「残念ながら、うちは捕虜を取らない主義でね。まあニューロンブースター持ちに限るんだけど」

 

 それに捕虜にするなら特段の事情がない限り『普通の』メンバーでいい。目の前でスプラッタを展開した上にニューロンブースターを持ってる奴なんてリスクしかなく、どうしてもそうしなければならない理由がない限り始末しておくべき対象である。

 

「それは待って、助けて、やめて、待ってください、お願いします!!」

 

 それに生かしておけば、また別の戦場で自分たちに牙を剥く可能性が高い。単純な戦闘能力では格下であっても、乱戦中にニューロンブースターを用いた奇襲攻撃でもされたらろくに防げないことも起こりうる。そう考えた拓郎は後顧の憂いを断っておくことを決めた。

 目の前の『同類』が自分を生かしておくつもりがないと理解している男は必死になってニューロンブースターを再起動しようとするも、クールダウン時間が過ぎていないため起動コマンドは虚しく弾かれ続けている。拓郎の使用している旧型よりは多少新しいモデルを使っていたが、それでも一応の安全装置はかかっていた。

 仮に無理やり安全装置を解除して使ったとしても、短時間で連続する負荷にどこかの神経が損傷してしまうだろうが、それでもこの場で報復の刃にかかって短い生を終えるよりは遥かにマシであった。

 

「そこのお二方、そこのイカれたサイコ野郎を止めてくれぇ!」

 

「あー、あー、そこのブロック塀に隠れてる傭兵さん、今から一〇秒数えるんで降伏してほしいな。このクソサイコは許さないけど、素直に捕まってくれるなら命だけは保証するよ」

 

「もちろんこれが最初で最後のチャンスだ。一〇秒以内に武器を捨てて出てこなかったらドタマブチ抜くから覚悟しろよ」

 

「あぁガン無視じゃねぇかチクショォーッ!」

 

 拓郎以外は負傷した二人に対して降伏勧告まで行っており、もはや喚き散らすだけの存在に対して注意すら向けていなかった。このサイコじみた厄介者の相手は拓郎だけで務まると分かっており、口を忙しなく動かすのはニューロンブースターのクールダウン時間を稼ぐ手口であると理解しているからだ。

 

「そうだな。悪いけど、俺たちの寝覚めの良さと殺された三人の仲間のために死んでくれ」

 

「嫌だ、殺さないでくれ! 何でも、何でも話すか……」

 

 何度も苦汁を舐めさせられた皮膚下装甲を警戒した拓郎の手によって、言葉として成立しない奇声を発しながら暴れる男の口へと長ドスが無慈悲にねじ込まれる。命乞いの言葉の代わりに鮮血が口から溢れ出し、四肢の力が急速に弱まっていく様は生命活動が不可逆的に停止したことを示しており、厄介な敵対者が一人この世から消え去ったことに安堵した。

 

「ごっ、ごぼぉ……」

 

 最期にブルブルと何度か細かな痙攣をしてから永遠に動かなくなる様は見ていて気持ちのいいものではないが、それが将来の安全に繋がるのならば仕方ないと割り切っている。ここで無用な情けを見せて、後々に後ろから寝首を掻かれるのは誰だって嫌なのだから。

 そんな新たなスプラッタが作り上げられた様は負傷した、もはや勝ち目がないことを否応なく理解している。ニューロンブースターによる奇襲は防がれ、その後の追い討ちをする前に反撃をもらって。一縷の望みを託して降伏する方がマシだと判断したのだ。 

 

「こ、降参する……! どうか殺さないで……」

 

「チッ、やっぱり凄腕のガードを複数雇ってたのね……噂は正しかったわね……」

 

 腕が真っ赤に染まった男と全身が煤と血にまみれた女が掌を三人に見せるようにして這い出てくる。無論、ここで降伏したとみせかけ破れかぶれの自爆攻撃を仕掛けてくる狂人もたまにいるので決して油断をしてはならない。金勘定で動く傭兵はまずしないが、メガコーポの破壊こそ人類の幸せだと盲信する狂信的な反企業主義者や、時代に取り残され先鋭化した各種過激な思想・宗教団体の熱心な構成員は自らの信条に殉ずることに躊躇などないのだ。

 

「もしおかしなマネしたら、そこで転がってるコイツと同じ目に遭ってもらうからな」

 

「あーしたちスプラッタ作るのはシュミじゃないけど、作るときは容赦しないよ」

 

 かつて仲間だった肉塊の突き刺された口から鮮血が流れ出る様に戦慄した二人はファンとアリサの警告に無言で何度も頷き、大人しく武器を置いている。恐怖に慄き開いた口から血を流す様は、単純に首を切り落とされるよりも残酷に見えてしまったのだ。

 

「まあ血くらいは止めてやる、その後どうなるのかは知らんがな」

 

「うわっ、何かネバネバする!? や、やめろぉ! 納豆(ナットー)はハーグ陸戦条約で禁止された恐ろしい拷問用生物化学兵器なんだろ!?」

 

「落ち着きなさいサム、これはただの止血剤よ。それに私たち傭兵はその条約の適用外だし、そもそもBC兵器禁止は別の条約だから」

 

 そうして投降したがやかましい二人の傭兵を拘束し、出血部位に対してスプレー式の応急凝固剤をぶっかけるという割と投げやりな応急手当をした後で拓郎は端末からクリスの番号を呼び出している。任務完了の報告と、捕虜をどうするか聞くためだ。

 

「こちら『チーム拓郎』。第一巡回班を襲っていた敵勢力を撃破した」

 

『『チーム拓郎』か。よくやってくれた、状況はどうだ? 簡潔でいいので報告せよ』

 

 二コール目が終わる前にクリスは応答しており、前置きもそこそこに状況を聞いている。声色が通話越しにでも分かるほど落ち着いているため、きっとカルロスたちのチームは上手くやったのだろうと推測していた。

 

「敵は三人だけで、一人を始末して投降してきた二人を捕縛したけどどうする? 巡回班は俺たちが到着した時には既に全員首を切り落とされて死んでいた」

 

『……そうか。もし余裕があれば団員はもちろん、傭兵も個人識別ができそうなものを持って帰ってはもらえないだろうか。団員ならドッグタグがあるはすだ。流石に死体はこちらで回収するが』

 

 しかし拓郎から余りにも予想外の答えに、通話越しのクリスも一瞬だけ絶句しトーンが落ちてしまったが、すぐに気を持ち直すと遺留品の回収を依頼している。死者の発生は想定していたし、ここ数日で複数の死と向き合っていたのだが、それでも語られた惨い死に様は彼の心をざわつかせていたのだ。

 

「分かった。今からちょっと見てみる……クリス、少し辛そうだが大丈夫か?」

 

『いや、大丈夫だ。せっかく客も住人も再び増え始めたってのに、ここ数日でバタバタと人死にが出たからな……すまない、今のお前たちに聞かせる話じゃなかったな』

 

「もし辛いなら言ってくれ。俺達は傭兵だから基本壊したり殺したりしかできないけど、話を聞くくらいならできるから」

 

『……そう言ってもらえると本当に助かるよ。では、また詰め所で』

 

 とはいえ拓郎は心理学者でも心療内科医でもなく、彼の心労に対して出来ることなど殆どないため通信を切ると、死体から自警団仕様のドッグタグと傭兵の端末を回収し、戦場となった現在地の座標をクリス宛に送ってから詰め所へ戻るべく踵を返す。

 仲間の亡骸を放置していくことに心が痛まなかったわけではないが、後から回収するというクリスの言葉を信じてその場を去り、報告と遺留品の引き渡し、捕虜の尋問を行うべく完全に日が落ちきり暗闇に沈んだ裏路地を戻っていった。

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