光輝の都の頂へ〜元社畜、欲望渦巻く魔都にて傭兵生活を始める   作:ズブ左衛門

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第五二話

 拘束した捕虜を引きずるようにして安全地帯である詰め所へと戻ってきた三人は、室内に満ちた湿気もなく心地よい冷気に出迎えられたことで一息ついている。本当はそのまま報告に行きたかったのだが、既にカルロスたちのチームは帰還していてクリスへの報告を行なっている最中であり、終わるまで適当に時間を潰さねばならない。

 

「こいつら二人が第一巡回班の襲撃を行った傭兵だ。もう一人は抵抗が激しかったからその場で始末した」

 

「了解、とりあえず地下の留置場に放り込んでおくよう手空きの団員に言っとくよ」

 

 休憩スペースで待機していた手空きの傭兵に拘束した二人を引き渡して身軽になり、彼らもそこに腰を下ろす。拓郎以外のニューロンブースター装備者との戦いは短くも緊張感のあるもので、もし少しでも状況が違えば真逆の結果に終わっていた可能性もあったため、張り詰めていた緊張が解けて一気に疲労が出てきたのだ。

 

「今回は使い手がとんだマヌケだったから比較的楽に勝てたけど、本当ならもっと大きな被害が出てもおかしくなかった」

 

「やっぱ端から見てるとニューロンブースターってヤバい機械だってよく分かるぜ……拓郎とあの野郎がコマ送りのすごい少ないパラパラ漫画みたいな動きをしてたぞ」

 

「完全に対処できないワケじゃないけど、確実を期するならやっぱり同じモノぶつけたほうがいいかもってのがあーしの感想かな」

 

 拓郎が使う『力』が改めて大きなものであり、それと同等のものを用いる存在がいることに対する不安はあったが、それでも味方の口からどう見えるかというのが明確に語られたことで新たな知見に繋がるヒントを得ている。

 基本的に同じものでしか対抗不可能だと言われているものに対して通常状態で対抗することができるとなれば、それは大きなアドバンテージとなるからだ。本来ならこちらも切り札を切らねば抗えぬ、それを持たない者は抵抗すら覚束ないという常識が一夜にしてひっくり返る。

 これから等級を上げ名を挙げていくに連れて、ニューロンブースター持ちと戦う機会は増えこそすれど決して減りはしないだろう。そんな予感を持っていた彼らは、切り札かそれに準ずる扱いをされているそれらへの対抗策を得られる機会を喜ばしいと思っていた。

 

「『チーム拓郎(仮)』各員、『ドレッドスウォーム』とのデブリーフィングが今終わった。席は用意してあるのでそのまま入ってきてくれ」

 

 そこから一〇分ほどは、あまり美味しくない安物の合成アイスコーヒーを啜りながら雑談と共に涼んでいた三人だが、奥の会議室からカルロスたちと出てきたクリスに呼ばれたため席を立ち報告の場へと向かった。

 

「フン、少しは様になってきたようだな……相変わらずの酷いチーム名以外は」

 

「ハハハ……変えよう変えようとは思ってても、その度に厄介事が舞い込んできて白紙に戻ってるんだ」

 

「……まぁ、いっそこのままでもいいかも知れんぞ。そこらのコミュニティに顔を出さないお前たちは知らんかもしれんが、『クッソダセェチーム名前に反して、大物フィクサー直々の依頼をいくつもこなす新進気鋭のヤバい奴ら』ってネームバリューがつきつつあるからな」

 

「ヒェッ、俺たちの知らないところで何かすごい好き勝手言われてる……」

 

 その合間にすれ違ったカルロスと言葉を交わしたが、二メートルを超える巨躯から向けられる視線の鋭さは相変わらずながら少しだけ態度は軟化しているのではと思っている。初対面の際はメックとの戦いが終わる後までろくに言葉も交わさなかったことは覚えており、初対面の時は面と向かって役立たず呼ばわりされたことを思えば、向こうからまともに話しかけてくるのは大きな進歩であった。

 

「ハッ、有象無象の無責任な噂なんてそんなもんだ! 仕事をきっちりこなしてりゃ誰も表立って文句なんぞつけやしねぇ。この街じゃ表でも裏でも真に強い者が生き残る、ただそれだけの話だ」

 

「……ああ、そうだよな。強くなければ生き残って上に上がれないもんな」

 

「要件はそれだけだ。じゃあな、俺達はアラートがない限り奥で仮眠させてもらうぜ」

 

 彼はそれだけ言うとメンバーを引き連れて仮眠室の方へと去っていった。出口は反対方向だろうと訝しんだ拓郎だが、予定していた宿の準備が整わなかったため今夜は詰め所を仮の拠点にするとクリスが言っていたことを思い出している。

 酔客が一夜を明かすための安宿や新参の無宿人向け簡易宿泊所は幾つかあるが、イエロー級が複数在籍するチームを満足させられるホテルなんて存在しない。故に69番街で最も豪華な宿泊設備のある『ウキヨエ』のVIPルームを一晩貸し切りにする案でほぼ決まっていたのだが、『俺もイの奴も男色趣味はないし、そもそも護衛対象の商売の邪魔をするつもりもない』というカルロスの一言でお流れとなり、とりあえずの仮宿として詰め所の仮眠室が充てがわれたのだ。

 

「流石は我らが『チーム拓郎(仮)』だ。向こうの『ドレッドスウォーム』も腕自慢との説明通り恐ろしく手際が良かったが、やはりうちお抱えのチームの活躍は嬉しいからな」

 

 すっかり冷めてしまったらしいコーヒーが入ったカップが置かれた机に再び着席したのを見届けたクリスは口を開き、著名なチームにも劣らぬ三人の武功を褒め称えた。自勢力の最高戦力が主の愛弟子が抱える腕利きと変わらぬ腕を有しているというのは喜ばしいことであり、69番街に良からぬことを企む不埒者に対する抑止力となるからだ。

 

「それで、遺品の方は? もしそれすら無かったというなら仕方ないが……」

 

「こっちがドッグタグで、これが傭兵の持ってた端末だ。確かに渡したぞ」

 

 クリスの求めに応じてファンが遺品を引き渡し、詳細を確認してもらう。流石に指示されていないため死体の写真は撮っていないが、拓郎はそれでよかったと思っている。彼は他人の最期を撮影してそれに興奮する真正の狂人でも死体性愛者(ネクロフィリア)でもないのだから。

 しかしその直後、弱肉強食という言葉が相応しいこの街で過ごすうちに久しく忘れていた感覚を思い出している。すなわち、人死にとは本来悲しいことだという『当たり前のこと』だ。

 

「ああサヒム、お前好きな人がいるって言ってたばかりじゃないか………! それにヴィジラント1017と1019……いや、ヘンリーとジョンソンだってようやく二〇になったばかりだろうに……」

 

 人が迎える不自然な形での死。それはアシハラにおいてありふれた悲劇の一つに過ぎず、それを悲しむ者どころか知る者すら一人もいないことだって珍しくない。しかし面識があり何度も言葉を交わした者がこういった形で戻ってくるという現実は彼の心を揺さぶっている。

 無論、クリスとて自警団を束ねる立場として覚悟はしていたつもりであったが、いざ本格的に大きな組織と抗争となり短時間に何人もの死傷者が出るまでは想定していない。鬼爆組が攻めてくるまでここ数年における戦死者は僅か一人であり、病気や疲労、加齢による減員の方が遥かに多かったためすっかり忘れ去っていたのだ。

 

「自警団員ならともかく、傭兵なんて金のために死線へと飛び込むのが仕事なんだから、いちいちそんな事まで気にしなくてもいいのに……」

 

「しぃッ、馬鹿やめろ拓郎。正論だけど今はそれ以上言うなマジで」

 

「いくらなんでも、今のはちょーっとデリカシーが無さすぎ。クリスさんの辛い気持ちを察してあげな?」

 

 しかし地下の留置場の隣にあり、新しい医療施設が稼働してもなお存続する氷点下の霊安室には既に六つの亡骸が横たわっている。いずれもここ三日間の襲撃による死亡者であり、そのうち自警団員は一人だけ──今夜の分を含めれば二人になる──だが、それでも戦いの果てに斃れ二度と戻らぬ戦士の存在は彼の心を少しずつ蝕んでいた。

 自分たちの居場所を守るというお題目のために、見ず知らずの人が次々と死んでいく。カルロスにも劣らぬ恵体と部外者に対するつっけんどんな態度のせいで誤解されやすいが、本質的に善人である彼にとって負担となっていた。

 例えそれが金銭的な契約によって遂行される業務の結果であったとしても、本来なら死ぬはずの団員に代わって撃たれ、斬られ、砕かれた骸を見れば気は滅入るし、残される家族や友人のことを思ってしまう。己の決意が他の誰かの命を食らっているという現実は、例え頭では必要であると理解していても辛いものであった。

 

「すまん……すまない……我々の力が足りないばかりに……」

 

 だがクリスとて69番街の幹部であり、自警団の司令官として安全を担う者としてこれ以上の躊躇や後退は許されないことを痛いほど理解している。若き頃に出会ったマダム・スミスの理想に共鳴し心から忠誠を誓った身として、この小さな『町』を守ることこそ今為すべきことだからだ。

 例えそれがこれからも犠牲を要求し、抗争が終わるまで仲間の亡骸が増え続けようとも。国家をも凌ぐ企業(コーポ)たちによって支配され、裏側ではギャングたちが蠢くこの街に輝く真なる自由の灯を絶やしてはならない。そんな揺るぎなき信念こそが、重圧に押し潰されそうになる彼を何とか支えていたのだ。

 

「その、申し訳ない……連日襲撃続きで少し疲れていたようで取り乱してしまった」

 

 そんなクリスの複雑な心中など、拓郎もファンも、アリサですらも理解していない。ただ雇われの傭兵に対してすら戦死者を悼む情のある人物だとしか認識しておらず、スミスもそうだが金払いの面を含めていい上司であると思っている。

 

「いや、契約したことはちゃんとやるからクリスも俺たちを頼ってくれよ。ここはもう俺たちの故郷みたいなものだし」

 

「……恩に着るぞ、『チーム拓郎』」

 

 そこからは、これからやるべきことの話し合いとなった。戦力補充のため更なる傭兵の雇用、スミスの持つコネクションによる情報収集、そして抗争相手である鬼爆組と放たれる刺客への対処。

 69番街のような小勢にとってやるべきことは多く、それでいて手抜かりが増えるほどに天秤は向こう側へと傾いていくという難局であるが、これをやらねば敵の侵略の前に跪くのと同義であり、拓郎としても新たな人生を始める足掛かりにして帰るべき場所となった第二の故郷をみすみすくれてやるつもりはないのだ。

 その中で『チーム拓郎』は69番街が何の気兼ねや他所への配慮の必要もなしに運用できる中核戦力として防衛の根幹を担うことになる。それは確定事項であり、彼らとしても異存はない。

 

「現在は69番街東部のあまり人が住んでいない寂れた領域……そこを再開発する計画を進めている。今は定期巡回があるとはいえ、この間みたいに勝手に拠点を作られてはたまらないからな」

 

 だからこそ警戒態勢に入った69番街は今の三人を軽々しく外へと動かせなかった。全員がオレンジ級ながらその実力は額面以上とされるチームの存在は、鬼爆組に与して戦後の恩賞に与ることを目論む傭兵や無法者に対する一定の抑止力となっているからだ。

 今夜の戦功が知られるに連れてそれはより顕著となり、69番街側についた実力ある傭兵チームのこともあって襲撃には相応のリスクや犠牲を伴うのだと否応なしに理解するだろう。その結果が更なる戦力の投入か攻め口の変更かはまだ分からないが、とにかく相手側に何らかのアクションを強いることは確かであった。

 

「それで、俺たちがやるべきことは……」

 

「今は少し休んでくれ。また日付が変わる位に巡回班を出す、彼らが襲われたら駆けつけてくれ」

 

 そんなクリスの一言を最後に報告は終わり、拓郎たちも詰め所に備え付けのシャワーを浴びると二階にある別の仮眠室で横になっている。部屋にこもった多数の人の臭いと安物の洗剤には付きものである石鹸臭さは気になったが、目を閉じて数分もすると殆ど気にならなくなり、一〇分も経たないうちに微睡みへと落ちていった。

 

 

 

 

 

 

 

「今夜もまた失敗か……二箇所同時に襲っておるし、うち片方はニューロンブースター持ちのいるチームだったんだ! いったいどうなっとるん!?」

 

 アシハラで最も貧しく治安が悪いと言われるベイエンド地区の中心部にほど近く、企業(コーポ)たちの支配構造の最下層付近、すなわち末端下請けの非人間的労働が待つ工場が幾つも立ち並ぶ軽工業地区の通りにあるのが鬼爆組の事務所である。年季の入ったコンクリート製の三階建て雑居ビルを丸々一棟占拠する形で存在するそこはギャングの拠点に必要なものは一通り揃っており、ここ数日は男の怒声が断続的に響いている。

 

「しかし親分、連中は二ヶ月前とは比べものにならないほど防備を固めて警戒しています。自警団を増員し、ほぼレッド級とはいえ一ダース以上の傭兵を揃えて領域内外を巡回していると以前からお伝えしていますが」

 

「しかしもたかしもあらへん! 寸土も支配できないばかりか徒に人員も資金を減らしているのに戦果は皆無ですなんて報告を次も上げてみい、酷い目に遭うで!!」

 

 応接室にて事の顛末を見届けた鬼爆組組長、サンキチロウ・ハマダは雇った傭兵からの通信が途絶したことでまた失敗したのだと絶望した。以前なら近辺のチンピラや愚連隊に数日遊べる金を渡せば嬉々として襲撃に応じてくれていたが、今は防御力を恐れてなかなか首を縦に振ってくれない。

 故に今度は傭兵を雇って69番街の巡回班を二箇所同時に襲撃させたのだが、結果は惨敗。一つは戦術的奇襲によって巡回班こそ全滅させたものの伏兵によって後の先を取られて敗北し、もう一つは駆けつけた増援によって一人も始末できないままに殲滅されてしまったのだ。

 

「しかも一〇万クレジットで雇ったクソガキはニューロンブースター持ちだったんや、人さまを舐め腐った態度は気に入らんが取り巻き含めてある程度使えると思たのに……ホンマもう、クソや」

 

 本来ならば傭兵などという安定性と信頼性に欠ける戦力など使いたくもなかったのだが、それを組の情勢が許さなかった。廃ホテルでの屈辱的な敗北から一ヶ月半が経ち、大親分直々に与えられた上納金免除という特例措置もあって資金力はやや回復したが、いかんせん兵力が足りていない。戦場で死んだ者以外は幾ばくかの身代金と引き換えに帰ってきたが、重傷を負ってしまいそのままでは戦場に立てなくなった組員も複数いるからだ。

 それ故にハマダとしては不本意極まりないことに傭兵に金を出して襲撃を継続させているのだが、成果は彼らにとって慮しくない。悪いのは襲撃者たちで私たち鬼爆組は全く関係ありませんと白々しく白を切れるメリットはあるが、費やした時間と資金に対して釣り合っているとは言い難かった。

 

「やはりここは恥を忍んで本部に増援を要請した方がよいのでは……」

 

「大親分にあそこまで大見得を切っておいて、今さらすみませんできませんでしたとワシに言えと!? そげなことしたら今度こそ幹部連中の前でケジメをつけさせられるわバカモン!」

 

 側近のボブは膠着状態の現状を懸念して鬼哭衆本部へ助力を願うべきだと提案するが、ハマダとしてはそんなことをすれば何が起きるかを理解しているため絶対に許可できなかった。

 鬼爆組は外から見れば泣く子も黙る七大ギャングが一つ、鬼哭衆傘下の団体だが、その実彼らの立場は新参者の三次団体であり規模や上納金の額に比して低く、保護してくれる古参の組であったり馴染みの直参や幹部もいない。正確に言えば加入当初ならいたのだが、彼らにとっての頼みの綱は一年前の抗争の敗北の責任を被せられ閑職に追いやられていて、現在の影響力は皆無に等しいのだ。

 そもそもの話、69番街制圧計画はそんな立場を引っくり返し、やれ愚連隊だの無教養だのと以前から散々馬鹿にしてきた連中を出し抜くための計画である。それなのに度肝を抜くべき連中に助けを請うなど本末転倒も甚だしいというのが本音であった。

 

「しかし、今の我々には何もかもが足りません。それは揺るがない事実です」

 

「ぐぬぬ……言うようになったなボブ……!」

 

 ヒト、モノ、そしてカネ。ないない尽くしの組にできることは殆どない。鬼爆組敗北の噂が駆け巡ってからというものの、表立って反抗こそしないが、縄張り内で潜在的に非協力的な態度を示す者が徐々に増え始めている始末だ。今はまだギャングという恐怖が彼らを縛り付けているが、次にヘマをして破門されてしまえば地元から叩き出されるかもしれない。

 それでも彼らが渋々でも月々のみかじめ料を支払うのは彼らの背後にいる鬼哭衆が怖いからであり、後ろ盾がなくなった時にその関係がどうなるかなど火を見るよりも明らかであった。

 だからこそハマダは、鬼爆組はこの作戦を成功裏に終わらせ『鬼爆組ここにあり』と高らかに勝鬨を挙げねばならない。さもなくばこれまで積み上げてきた全てを失い、ストリートを放浪し目に付いたものを略奪するだけの愚連隊へと落ちてしまうからだ。

 

「親分、俺にいい案があるんですが……」

 

「ほう、なんや。ええ案があるんなら採用するで。それで成功したら次の若頭補佐にしたる」

 

 そんな堂々巡りじみた思考に囚われつつあったハマダであったが、一人の部下が居心地の悪い静寂を打ち破る。

 

「奴らにスカヴィードッグスをけしかけましょう。流石の連中も町中で暴れまわる奴らにはてんてこ舞いになること間違いなしだと思いますが」

 

「……はぁ? いや続けてや。話は最後まで聞きたい」

 

 それは甘美ながら『禁忌』としか言いようのない提案であった。街に潜むヒトの形をしたケダモノことスカヴィードッグスに69番街を襲撃するよう仕向け、区域の内外から徹底的に食い荒らさせる。この際副次的損害(コラテラルダメージ)は見なかったことにして徹底的な破壊と混乱を巻き起こし、頑強に抵抗するあの場所を阿鼻叫喚の巷に叩き落とすのだ。

 そこに準備を万端に整えた鬼爆組の本隊が颯爽と現れ、世紀末的69番街へと突入する。無論、結末は劣勢に付け入る形で共闘した後にみかじめ料の徴収といった盟約を結ばせ傘下に入れるという形の決着でもいいし、共倒れに近い状態で乱入し双方を打倒、直接的に支配する形をとってもいい。とにかくニューヨシハラ地区に確固たる拠点を築くことが目的であり、そのための手段を選べるほど鬼爆組に余裕はないのだ。

 

「どうでしょうこの案は。得られるリターンはかなり大きいと思われますが」

 

「……いや、それはええ。で、あのイカれたケダモノ共に穏便に連絡を取るツテはあるんやろな? あいつらの根城にノコノコ足を運んで『褒美を出すから69番街を襲ってくれ』なんて言いに行く言うんならワシは反対や。下手すりゃ文字通り食い殺される相手やぞ、捕まって殺されるどころかその場で焼いて食われかねん」

 

 しかし問題点はどうやってスカヴィードッグスと非敵対的な接触をするのか。ハマダは組織の長ではなくアシハラのいち住人として当然の指摘を行うが、その男は事もなげに驚愕の事実を口にしたのだ。

 

「こんな時だから言えますが自分の従弟がいわゆる冒険商人をやっていまして、サウスポート近辺の地下に棲んでる一団と接触があるんですよ」

 

「ほぉ冒険商人か、えらい難儀な商売してはるな従弟さんも……」

 

 まさか自分の配下にそんな親族がいるとは思っていなかったハマダは、思わず感心したような声を出してしまう。スカヴィードッグスを使う時点で様々な面でリスキーな要素を抱えた作戦だが、正攻法でも搦手でも落ちない『城』を落とすにはある程度の危険性には目をつむらねばならないことは理解していた。

 

「……よし、それで行くで。従弟さんに連絡よろしゅうな。セッティングができ次第素早く始めんと……」

 

「わかりました、では今から従弟に連絡しますのでしばし席を外します。御免」

 

「頼んだで、もうこっちに取れる戦略はあまり無いんや……」

 

 早速と言わんばかりに連絡するために事務所の応接室から出ていく組員を久方ぶりの笑顔で見送っている。緊急事態を除いて中座することは原則許さないが、組の存亡がかかった策のためならそれくらい快く送り出せるほどの度量はまだ残っていた。

 

「それで突破口も見え始めてきたことやし、ワシらも一旦休憩せえへん? 自分で言うのもアレやけど、ちょっと根詰めすぎやわ」

 

 新たな策によって少しだけ余裕ができたハマダは居並ぶ面々に緊張と疲労の色が漂っていることを察し、休憩を取ろうと指示している。配下たちが一礼しつつ応接室から去っていくのを見送ってから、彼は一気にネガティブな感情を漏らしていた。

 

「見とれや69番街の連中、そしてワシを散々コケにしてきた本部の直参ども。今度こそ吠え面かかせちゃるけんのう、首洗って楽しみに待っとれや……!!」

 

 一人残ったハマダのどす黒い笑みと、そんな胸中に宿る闇深い思念が口から漏れ出ていたが、同じ部屋には誰もおらずその怨念じみた声を聞いたものは誰もいなかった。

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