光輝の都の頂へ〜元社畜、欲望渦巻く魔都にて傭兵生活を始める   作:ズブ左衛門

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第五三話

 ニューロンブースターを装備した襲撃者を仕留めた夜から四日間は平穏そのものであり、襲撃は僅か一回のみだけで明らかに薬物やアルコールに依存している一般人によって行われていた。傭兵どころかチンピラにすら劣る戦闘力と数では何かできることはなく、巡回班だけで対応ができる程に弱い上に全員を鎮圧して近くの河川敷に放り捨てる余裕すら見せている。

 そんな様子では折角の『チーム拓郎』も『ドレッドスウォーム』も出番はなく、ただ後詰め兵力として待機という名の暇つぶしを行うしかない。とはいえいつ敵がいつ襲ってくるか分からないため詰め所からは出られず、端末にインストールして遊べるゲームであっても飽きが来る。

 幸いにも69番街の住人や自警団員が気を利かせて古めかしいボードゲームを幾つか寄付したため退屈しのぎには苦労しなかったが、そんな待機時の退屈よりも三人を悩ませていたのは仮眠室に籠もった臭いであった。

 

「やっぱり布団は干すと気持ちいいな。毎日やることで少しずつ臭いも取れてきてるし、頑固なシミや汚れはこの漂白剤で剥がせばいい」

 

「ああ、それには同感だ。借金取り時代は地下拠点でロクに外干しができなかったから、雨上がりや梅雨時にはシーツが臭くて臭くてたまらんかったんだよ」

 

 洗剤の安っぽい石鹸臭は仕方ないとしても、複数人の体臭とが混じり合う仮眠室の布団に我慢がならなかったというのが理由である。常用しているため鼻が麻痺している自警団員や『ドレッドスウォーム』は気にならなかったのだが、普段の拠点としている安宿よりも数段酷い環境に業を煮やした三人が普段洗っていないであろう敷布団をしこたま業務用洗濯機に突っ込んだのだ。

 普段は殺菌スプレーだけで済ませているそれらを迎えるのは、相変わらず日本本土と大して変わりない気候は高温多湿の地獄じみたものなのだが、それでも外気に当てて干せば多少なりとも効果は現れるものであり、三日ほど繰り返せばよほど気にしない限り気が付かないほどにまで抑制されている。

 

「しかしミキモトが洗濯できるとは……しかしすごい手際がいいな」

 

「そりゃー高校の時は寮で一人暮らししてたし家事は一通りできるよ? それに毎日毎日ニオイの混じったくっさいトコで寝るのはイヤだし。つか、拓郎さんはあーしのこと何だと思ってたのさ」

 

 そんな作業を最も手際よくこなしていた拓郎の悪気のない称賛に対してアリサはじっとりとした視線で軽く睨んだが、彼はそれに気付くことなくそのまま言葉を返していた。

 

「ハッキングを趣味と実益を兼ねて学んだギャルっぽい子。家事能力は壊滅的で、仕事がない時は大抵高校のジャージを着てるから実は服のセンスも無いんじゃないかって思ってた」

 

「あー、ひっど! 後半は女の子に言っちゃいけないことのオンパレードじゃんそれ! もし付き合いたてのカノジョさんだったらフツーにフラレるよ!?」

 

「しょうがないだろ俺はミキモトのプライベートなんか知らなかったんだから!」

 

「デリカシーです、デ・リ・カ・シー!」

 

 詰め所二階のベランダにかけられた物干し竿に干される洗濯された敷布団は新たな名物と化しており、これも進歩の証として好意的に受け止められている。今も中流以下の住宅では、外に洗濯物を干すことは決して珍しいことではない。

 徐々に登りゆく太陽に照らされる敷布団は変に温められた外気によって快晴時の真昼ともなれば地上付近の温度は四五度を超え、潜むダニは太陽光がもたらす凄まじい熱エネルギーの前に抗えず焼け死ぬ。この程度のことだが、日々を生きるのに一杯いっぱいな人々はそれすら忘れてしまうのだ。

 

 そうして太陽のパワフルさを嫌というほど感じられるようになる朝九時からは自由時間となり、本来なら宿に戻ったり周辺をぶらついたりするのだが、ここ数日は大量の布団をはじめ普段洗っていない布製品を洗濯して干すという特殊なミッションをこなしていたため、終わった頃には正午を超えてしまったのだ。

 気の利く自警団員がお礼と称して昼食を買ってきてくれていたので余計な手間はかからないが、それでも疲れは溜まる。家事というのは意外と労力がかかることを再認識した三人であったが、夕方の勤務開始までは思い思いの時間を過ごすことにした。

 

「え、タチバナさんについて調べるの。拓郎さんもどう?」

 

「まあご苦労なことで……俺はいいかな。ちょっと色々買い足したいし、余裕があればピストルも新しいのを買おうかなって思ってる」

 

「えー、たまには手伝ってくれたっていーじゃん。だってインディゴ級のくせしてヴァイオレット級と並んで最強議論に顔いっつも出してるヒトだよ? めちゃ気にならないん?」

 

 アリサはまたもやタチバナについて調べており、よくもまあそんな熱心になれるなとやや呆れ気味であったが、特に止める理由はないためそれ以上は詮索しなかった。

 確かにタチバナの戦闘能力について全く興味関心がないと言えば嘘になるが、何をそこまで調べたがるのだろうか。拓郎はそう思ったが、彼女の瞳に宿るただならぬ決意にたじろいでそれを言葉には出せなかった。それにチームや依頼主を裏切らない限り自由時間の行動に口出しするのはご法度であり、彼女がそういった兆候を見せない限りリーダーである彼とて安易に介入できないのだ。

 

「ファンさんはどう?」

 

「いーや、俺も今日は手伝えん。拓郎には前話したかもしれんが、数年前に傭兵から足を洗って探偵に転身したダチに会ってくる。向こうさんはアレで中々売れっ子になっててな、今日を逃したら次会えるのはいつになるか分からんからな」

 

「えーっ、こんなカワイイ女の子が手伝ってって言ってんのに! じゃあ仕事の時間までは調べ物してるから、もし緊急の用事ならあーしの端末にメッセージじゃなくて直接コールをかけてね」

 

 次に話を振られたファンも探偵をやっているという昔馴染みに顔を出しに行くと言っていたため、アリサだけならず拓郎も単独行動となったが全く気にしていない。買い出しはそう大規模なものではないため電動自転車があればよく、早速買い出しへと向かう準備を始めている。

 ただ、拓郎の目は一瞬だけだが異変の兆候をしっかりと捉えていた。二人に断られたアリサはいつものようにけらけらと明るく笑っていたが、その目は全く笑っていない──寧ろ、何かを決意したかのような凄みが宿っていたことを。

 あれはただ単にタチバナといういち傭兵をよく知りたい、研究したいという意図ではない。もっと真っ黒でドロドロに濁った情念が絡んだ極めて触れがたい案件である。

 そう、触らぬ神に祟りなし。君子危うきに近寄らず。日本では古来より使われている言葉をしっかりと頭に叩き込んだ彼は、クリスから借りてきた自転車の物理キーと端末を持ったことを確認すると蒸し暑さ満点のニューヨシハラ地区へと繰り出していった。

 

「これからどんどん戦いも激化してくだろうし、廃ホテルの戦いみたいに怪我することだって当たり前になるかもしれないから、しっかり備えておこう」

 

 まず彼が向かったのは中心街との境界線付近にある中立系の企業が展開するフランチャイズ式のドラッグストアであり、陣営や派閥に関係なく様々な製品が置いてあるため傭兵にとっても重宝する店舗である。

 消毒鎮痛の効能を持つ薬草の溶液に浸した清潔な包帯、ついこの間ファンが捕虜の応急処置に用いていた止血スプレー、リスキーだが効果の高いアドレナリン分泌促進剤。傭兵稼業を始めたばかりの頃には金欠で手が届かなかった命を繋ぎ止めるための道具を金に任せて買い揃えていく瞬間は、あの日から自分も成長しているのだと彼に実感させていた。

 

「少し聞きたいんだけど、ここに九ミリ弾は撃ってないか? できれば一〇〇発ほど欲しくてさ」 

 

「あー、流石に売ってませんね。お客さんはこっちに来て日が浅いですか? アシハラの法律上、ドラッグストアで銃弾は売れないんですよ。確かにカリフォルニアやテキサス出身のお客様だとそう思ってることはよくありますけど」

 

 流石に銃弾までは買えなかったが、それは仕方ないことなので素直に引き下がった。旧世紀に君臨した最強の超大国、在りし日のアメリカではコンビニやドラッグストアですらメジャーな規格の銃弾を購入できたという話を旧北米地域出身の傭兵から聞いて、アシハラでもそうだったらもっと便利になるなのにと思う拓郎だったが、ふと一つの考えが頭を過る。

 

「俺の使ってる拳銃……ちょっと威力が不足しているかもな」

 

 鬼爆組の構成員から奪い取った拳銃は、旧世紀の初頭から愛用される由緒正しき九ミリ弾を一五発装填できる型式であり、信頼性や耐久性、整備性においては他の追随を許さないのだが、カルロスのように高度なサイバネ化施された相手に対しては威力が不足しているのではないかと思い始めていたのだ。

 確かに金属及び強化プラスチック製の義手や義足と言えど有効射程内で九ミリ弾が当たれば多少なりとも外装はへこむが、それで機能を奪えるかと問われれば疑問符がついてしまう。生身の肉体なら体組織を破壊しながら貫通するなりめり込むなりして痛みを発生させて機能を抑制するのだが、サイバネ義肢に痛覚などという余計な機能は原則としてない。

 そのため金属とプラスチックで形作られた無機質な四肢を無力化するには、外装を貫いて内部機構を破壊するか構造全体を強引に叩き潰す必要がある。それを為すための道具として、補給もしやすく扱いやすいが非装甲の人体を想定して二世紀近く前に設計された九ミリ弾では些か不適切だと感じたのだ。

 

「だからつい衝動的に銃砲店へ来てみたはいいけど……しまったな、こんなことならやっぱりファンについてきてもらうべきだった」

 

 そう思い立った拓郎は日用品や応急手当用品を買い込んだその足でモバイル・アンビュランス奪取作戦時に武器を買った銃砲店へと向かったが、店内の防弾ガラスケースに整然と並ぶ数千もの銃器を前にして完全に足を止めてしまった。気分はさながらガイドもなく辺境の密林や荒野に足を踏み入れた向こう見ずな愚者であり、さっそく数多の銃火器や弾薬、そしてカスタムパーツが織りなす鉄とプラスチックの密林で『遭難』してしまっている。

 無論彼とて銃器に関する知識が皆無とは言わないが、購入したパーツを用い自力でカスタマイズしてしまうファンに比べれば月とすっぽんほどの違いがある。当然、拓郎の方が知識に乏しい。

 

「銃器をメイン武器にしてもいいけど、ニューロンブースターとは相性悪いって聞いたんだよなぁ……加速下でも問題なく使えるエネルギー兵器とか磁気(ガウス)兵器は、目玉が飛び出るほど高い上に売ってる場所が限られる」

 

 とはいえ彼も自身の目的はきちんと理解している。対人戦、それもサイバネ義肢や高度なインプラントを用いて高度に義体化された敵との戦いを主軸に据えた銃と弾薬を選ぶためにやってきたのだが、こうも多数の銃器がずらりと並んでいるとついつい目移りに目移りを重ねてしまうのだ。

 フルサイズの八ミリライフル弾を毎分九〇〇発のフルオートでばら撒くアサルトライフルとは名ばかりの軽機関銃、当たればマンモスでも一撃で倒せるという触れ込みの一七・五ミリ拳銃弾を用いる怪物じみた大きさのリボルバー。そんな威力だけを追い求めるあまり、道具として大切な実用性が高いとは言い難そうなものへと惹かれている。

 

「全然わからん……一回ファンを連れてきて出直そうかな……」

 

「おう、冷やかしながら外から……何だ、この間サブマシンガンを買っていた若いのか」

 

 それでも自分が銃器に関しては素人に毛が生えた程度の知識しか持っていないことをよく理解しており、後ろから声をかけられたためびっくりしている。仲間であるファンやアリサ、69番街の主要メンバーといった顔馴染みならともかく、聞き覚えのない声であるため余計に驚きが強まっていた。

 

「うわっ、て、店主さん!?」

 

「……何分も通路のド真ん中でボケーッと突っ立ってるから、冷やかしなら外でやれと言ってやるつもりだったんだが……何かを探してるように見える」

 

 しかし声の主は企業のロゴマークを塗りつぶした年季の入っていそうな防弾ベストとヘルメットを装備した頑固そうな店主であり、よく日に焼けた肌と額に刻まれたシワが年季を感じさせている。

 

「あー……あのすみません、手足をサイバネ化した敵と戦うための拳銃が欲しくて来たんですけど」

 

 うわ、面倒そうな人が来ちゃった。この時の拓郎は内心そう思っていた。こういった専門店の店主には訪れる客にも一定以上の知識を求める人種がいることをよく理解しており、目の前の店主はまさにイメージにぴったりと合致していたからだ。

 流石にすぐさま叩き出されるようなことはないが、それでも嫌味や皮肉の一つ二つくらいは投げ付けられるだろうと覚悟はしている。そもそも十把一絡げのレッド級ではなく最低限使えると言われるオレンジ級のくせに、素人に毛が生えた程度の知識しかない方が悪いのだと思っていた。

 

「サイバネ化した奴が仮想敵……とな」

 

 しかし、素人丸出しの発言を聞いた店主は嫌な顔一つしなかった。むしろ、泥濘のように濁った瞳に輝きが戻ったかのようであり、彼の顔をじっと見据えている。

 

「フン、迷子っちゅうわけか……まあいい、長い時間店をウロチョロされるのも迷惑だし見繕ってやる。さ、ついてこい」

 

 そして一方的にそう言うなり『試射用サンプル』と書かれた棚から三種類の銃を手早く取り、同じようにして何発ずつか種類の異なる銃弾の箱から取り出すと、拓郎を地下へと誘う。

 通された先は射撃場であり、分厚い金属製の自動ドアを通ると断続的に異なる射撃音が響いてくる。よく見れば数人の客が銃器を構えており、数十メートル離れたところに置かれた的目掛けて断続的に射撃を行なっていた。

 出入口のドアから見て一番手前のレーンに案内された拓郎は店主に促される形で保護眼鏡を装着し、準備を整える。日本にいたころも同僚との付き合いで何度か射撃場へ通った経験があり、そこで銃刀法の規制により一般人の所持が許されない銃器で射撃した経験があるため手際は決して悪くない。

 

「……ユナイテッド・アーマメンツ社のUAP-45。使用弾薬は.45ACP、九ミリ弾と同じ旧世紀から生き延びた定番の弾薬だ」

 

 店主がテーブルに設置されたラックへと二挺を置き、最も小型の一挺を手渡した。それを撃ってみろの合図だと正確に解釈した拓郎はそれを手に取ると、一〇メートル先に設置された人型の的へ銃口を向けて数発撃っている。今まで愛用していた九ミリ弾とは明らかに違う発砲音と手に伝わる反動が彼の体へと到達し、現用のそれより一段上の威力を秘めていることを理解させた。

 肝心の結果は一発目こそ不慣れのせいか大きく上に逸れてしまったが、二発目は標的の右肩部分へと命中し、慣れてきた三発目以降はしっかりと赤丸で示された人体の心臓付近へと着弾。もちろん実戦で理想的な射撃体勢を取った上で静止する目標に発砲するなんていうシチュエーションはほぼあり得ないが、それでもコントロールしやすいという性質はプラス要素であった。

 

「……新有坂銃砲火薬製の七八式機動歩兵用自動拳銃。弾薬は七七式一二粍(ミリ)重強装(マグナム)実包、生身だと扱い辛いが威力はピカ一だ。旧世紀の五〇口径や一三ミリなぞ目じゃねえ」

 

 次はメガコーポの中でも旧態依然とした一族経営を堅持している財閥連合の小火器部門が製造した拳銃であり、先ほどのUAP-45よりも明らかに一回り近く大きい上に重く、人体工学に配慮された形とは言い難い。それでもしっかりと的に銃口を向けた上で理想的な射撃体勢をとった上で引き金を引いたが、拓郎の予想を遥かに上回るじゃじゃ馬っぷりを披露することとなった。

 

「ぐおぉっ!? う、腕が……耳も痺れるっ」

 

 二つ隣のレーンでライフルの試し撃ちをしていた客が思わず振り向くほどの銃声を響かせながら弾は放たれ、銃口は斜め四五度近い仰角に向き上がってしまった。口径にすれば僅か一ミリの半分ほどの違いでしかないが、先ほどの.45ACP弾と比べて弾頭重量は三割増、充填されている火薬量は五割ほど多い。当然拓郎はそんな細かな違いなど知らないため『すごい威力だけど扱い辛い』という感想を持つに至った。

 利点としては本体の重量がある分反動が抑制されやすいことだが、元々の反動が大きいためあまり実感できていない。七発撃って何とか的に当たったのは二発だけで、急所に相当する場所へ当たったのは最後の一発だけ。いくら威力があったとしても流石に自分の手に余ると感じた拓郎は、傍らに設置された拳銃用のラックへ速やかに戻している。

 

「……EWM社のP-81自動拳銃。弾薬は一二ミリパーセム弾、九ミリ弾の近親だが威力も反動もワンランク以上強いぞ」

 

 最後に渡されたのは現代の工業水準で製造されながらもどこかクラシカルで旧世紀初頭の雰囲気を感じる外観を有しており、それでいて使い勝手にも配慮された

 

 

「……おお。さっきのと同じ一二ミリの弾とは思えない。慣れもあるけど.45ACP並みかそれ以上に撃ちやすいかもしれない」

 

 同じ一二ミリの弾丸でありながら、先ほど撃った財閥連合系のそれとは異なる感覚。当然ながら大口径弾を飛ばすための火薬量を有するため反動は相応にあるが、大きく重い弾丸をより速く遠くに飛ばすことしか考えていないであろう前者よりはマイルドで、しっかり構えられた銃口が跳ね上がることは殆どない。

 やれ火薬が何グレインだの、弾頭重量や形状、重心バランス、初速がどうだのといった細かなことはさっぱり分からないが、彼の手にはこの銃が一番しっくりときた感触があった。

 

「店主さん、これを買います」

 

「……まいど。本体は一セットで一〇万クレジット、弾は一〇〇発セットで五五〇〇クレジットだ。アクセサリやカスタムパーツは……まだいらんだろうな」

 

 一番手に馴染んだP-81と二〇〇発分の弾丸、そして追加で予備弾倉一つを購入し、いい買い物ができたとウキウキで銃砲店から退出する拓郎。その後にも保存食やエナジードリンク、間食用のおやつといった細々とした買い物を終えて69番街の詰め所に帰れば間もなく勤務開始となる午後六時であり、私服から法被の意匠が色濃い制服へと着替えを済ませていた。その頃にはファンとアリサもしっかり戻ってきており、この日の勤務に向けて雑談しつつも準備を進めていく。

 

「おっ、ピストルを新調したのか拓郎。……ふむ、P-81の6.75インチバレルモデルねぇ。俺的には9インチの長銃身(ランゲラウフ)モデルの方が好みだが、取り回しとか諸々の実用性を考えたらこれがいいだろう」

 

「これで拳銃は変えたから今度は長ドスの方ももうちょい良さげなのに変えてみようかな……ニューロンブースターを起動したら銃は使えないし」

 

「へー、中々ゴツいの買ったじゃん。そういやあーしもようやく購入したスマートピストルが届いたんだよね、これならもう射撃ヘッタクソなんて言わせねーし」

 

 仕事前だと言うのに緊張感はなく、詰め所にはどこかゆったりとした牧歌的な空気すら感じられたが、三日間続いた襲撃が止んで平穏を取り戻した地域の治安維持組織としては普通の態度である。少しずつ増員しているとはいえ彼らの大半は専業の戦闘員ではなく、脅威を撃退したとなれば多少なりとも気は緩むものだ。

 しかし拓郎たちはまだ知らなかった。人類社会では忌むべき獣性を微塵も隠そうともしない、ヒトの型をした悍ましいケダモノ共が69番街を新たな狩場と定め、鼻が曲がるほどの悪臭を放つ涎を無秩序に垂らしながら舌なめずりしているなどと。そして、連中が言うところの『狩り』の始まりは目前まで近付いていることも。

 そんな恐るべき凶事など何も知らない彼らの心情を表したかのような青い空の向こうからは、大量の水分を有した入道雲が周辺雲を取り込み大きさを増しながら、着々とアシハラの街へと迫っていた。

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