光輝の都の頂へ〜元社畜、欲望渦巻く魔都にて傭兵生活を始める 作:ズブ左衛門
「き、鬼爆組!? 廃ホテルの戦いで結構ダメージを与えたはずじゃ?」
「ああは言ったけどよ、まさかこのタイミングで鬼爆組の連中が来るのか……!」
楽観的な雰囲気が漂い始めていた冷水を浴びせるかのような通信に、待合室の雰囲気は暗く沈んでいく。一難去ってまた一難。そんな嫌な状況に追い込まれた69番街であったが、未だ有効に使える戦力はさして多くない。
確かに自警団員は少しずつ増えているし契約している傭兵の総数は二〇近いが、この戦いで死傷した者も複数いる上に各地で掃討作戦に従事する兵力を引き上げるわけにもいかないのだ。特に四分五裂となって逃げ去るスカヴィードッグス構成員を追撃するとなれば、少数グループを多数運用せねばならないため、結果的に多くの頭数を取られてしまう。
「だから……すまない『チーム拓郎』の皆。ずっと頼りっきりになるのは非常に申し訳ないのだが、詰め所への増援部隊を率いてほしい」
危急を告げる一報の後に沈黙したっきりが故に敵の数も狙いも分からないままであるが、それでも苦境にある仲間を助けないという選択肢はない。69番街はかつて差別と偏見に晒された性的マイノリティが立ち上げたもので、今や寄る辺なき者たちを受け入れるコミュニティへと変わっており、その同胞意識は下手なエスニックギャングよりも強いのだ。
「もちろん任せてくれ。最近は詰め所に入り浸りだったから、間取りや構造はよく知ってるし」
拓郎としても特にいい思い出のない日本よりもこの場所に愛着が湧いており、二つ返事で承諾している。この場合はマダム・スミスによる美味しい報酬を期待している部分も少なからずあるのだが、せっかく手に入れた帰るべき場所を破壊しようという邪悪な企みを前にして断ることなどできなかった。
「いつも危険な依頼ばかりだな……すまん、お前たちにばかり負担をかけて。だがこの場所を狙う輩に抗い、守っていくためには町の最高戦力であるお前たちにベットし続けなきゃいけないんだ」
「まだここに居着いて一月半しか経ってないけど、こんな居心地のいい場所を潰すような真似は許したくないんだ」
「……そう言ってもらえると、マダムや俺としても嬉しい。だから絶対に死に急ぐな、必ず生きて帰ってこい」
結局、増援部隊は『チーム拓郎』を中心として志願した傭兵三人と自警団員二人を加えた八名編成となり、弾薬も可能な限り補充されている。それは死出の旅に赴く者に贈られるせめてもの
「よし、行こう! これ以上鬼爆組の奴らに好き勝手させてたまるもんか!」
「俺たちにはアカマの兄貴やミキモトの姉御もついてる、あんな愚連隊上がりのカス共なんか叩き出してやるぜ!」
「傭兵たちだけじゃない、あたしたち自警団ここにありと見せつけてやっからな!」
そうして拓郎を臨時のリーダーとする部隊は天を衝くほどの士気のまま、ひっきりなしに怪我人が運び込まれてくる誠のクリニックを出発し、一路詰め所を目指して駆け出した。
やや勢いが弱まったとはいえ相変わらずの豪雨ではあったが、雨音と雷鳴が物音を覆い隠してしまうため奇襲をかけるには好都合である。当然ながらそれは敵にも同じ事が言えるため、鉢合わせには気をつけねばならない。特に69番街には監視カメラというものが一部を除いて存在しないので、敵の待ち伏せを事前に察知する難易度はかなり高いのだ。
そうは言っても八人いるため索敵も警戒も普段と比べれば楽なもので、豪雨でアリサの偵察ドローンが使えない点を差し引いても目が多いため手早く済ませられている。それにこの町は勝手知ったる場所であり、どの辺りに死角や隠れ場所があるかなど地元民にかかれば一目瞭然なのだ。
「そろそろ詰め所が近い。ミキモト、詰め所に監視カメラってあったと思うけど、ここからでもハックできそうか?」
未だ安全が確保されきっていない通りを小走りで駆け抜け、69番街の入り口付近まで戻ってきた拓郎たち増援部隊であったが、悲鳴のような増援要請の後から通信が途絶えてしまっているため詰め所は鬼爆組に制圧されたと推測している。故に敵の数も装備も分からないまま力攻めを採用すれば、こちら側にも少なくない犠牲が出ることは容易に想像できた。
「詰め所のカメラとネットワークはあーしがほぼ全部設定したからフツーにできるよ、二四時間三六五日覗き見し放題だからね」
だからこそ、使えるものは何だって使う。誇りや矜持などという綺麗事は傭兵に必要のないものであり、どんなにやり口が汚くとも依頼をこなして生きて帰ることが大切なのだ。故に仕事のためならハッキングも覗き見も全く躊躇する気はなく、奇襲も人質をとるのも作戦上必要ならば粛々と行う。それが傭兵の流儀なのだ。
「でも予算不足で四箇所しかつけてないよ。うち一つは正面入口だから実質は三つ。まーでも、話聞く限り鬼爆組の人たちはサイバースペース方面にも詳しくなさそーだしそのまま使えそう」
当然ながらアリサの言葉に嘘はなく、管理者権限を用いた侵入は僅か数秒で完了して正式な管理者へとデータが開示されていく。できればここを起点に詰め所の全システムを掌握して妨害をかけたかったのだが、旧態依然とした独立系システムが複数存在するという、ハッカーやエンジニアからすれば吐き気を催したくなる構造のせいでそれは断念せざるを得なかった。
「おぉーしっかり丸見え。見張りのクセにそんなアホ面してていいのかなぁ」
気を取り直した彼女の端末に映し出される四台のカメラの映像の場所は正面入口、一階廊下、留置場へ続く階段、そして半地下になっている武器庫前。最初に映像が届いた正面入口は完全に制圧されており、鬼爆組の組員三名が自警団の築いた土嚢陣地をそのまま使って監視しているのが丸見えだ。
それからアリサが切り替えるたびに詰め所内に設置されたカメラは主人の命に従って、中にいる者たちの行動をさらけ出す。一階廊下では武器も持たずに生あくびをしながら一人の組員が歩いており、泣く子も黙るギャングの構成員とは思えぬ間抜け面は拓郎たちを少しだけ笑わせていた。
その一方で武器庫前では固く閉ざされた鉄扉を前に複数の組員が何とかこじ開けようと足掻いていたが、フルサイズのライフル弾を難なく弾き返し即席の爆発物にすら耐えうる強度と厚さの前には無為な試みでしかない。本気でその扉を破りたいなら最低でも指向性プラスチック爆薬を持ってくるべきだが、何の取り柄もない単なる下っ端に過ぎない彼らはそんなことなど知らなかった。
「改めて考えると、一つ間違えたら中心街にあるカメラ全部が自分を追跡してくるのは中々怖い話だよな……」
「でしょ? だから傭兵チームにはハッカーもしくはネットウォッチャーが一人は必要だって言われてるんだよね……ほら、もっとあーしを崇め奉ってもいいよ? えっへん!」
またもや八面六臂の活躍を見せるアリサに対して一人の傭兵がぼやき、それに対して彼女は得意げに胸を張っている。端から見れば学生の戯れかと言いたい微笑ましげな光景であったが、実際にやっていることは敵の動きを丸裸にする恐ろしい行為だ。
もしこれが鬼哭衆の最精鋭たる直参組員や傘下団体の中でもサイバースペースや電子機器に縁深いシノギを持つ組であったならば、一方的に情報を得られてしまう危険性に気付いて対策を講じただろう。最低でも監視システムへの給電を止めてハッキングできないようにしてから、マンパワーによる警戒体制を敷いたはずだ。
しかし憎っくき69番街の拠点を制圧したことに浮かれて全く気付いておらず、まさか少し離れた場所から電子的に覗かれていることにすら思い至ることなく画面上で醜態を晒している。
「となると侵入経路は……裏口のドアが使えそうかも。カメラが無いからちょっと怖いけど、最寄りの一階廊下に全く動きが無いからそう大人数はいなさそうかも」
『こちら『ドレッドスウォーム』、詰め所近くのダイナー前に到着した。やはり鬼爆組の構成員が入口の土嚢陣地に詰めている、撃破は難しそうにないが攻撃は必要なりや?』
しかもスカヴィードッグスを掃討していた増援チームである『ドレッドスウォーム』まで近辺に到達しており、カルロスの無駄を省いた報告がここまで頼もしく聞こえるなんてと余計な考え事をする余裕すら生まれていた。
『現在『チーム拓郎』を主軸とする奪還部隊がそちらへ向かっている。留守居組との連絡が取れない現状、制圧された可能性が高い。よって別命あるまで待機してくれ』
『『ドレッドスウォーム』了解。新たな指示があるまでダイナーの陰で小休止と待機を行う』
敵を正面と裏口から挟み撃ちするべく着々と侵略者に対する包囲網を築き上げていく69番街陣営であったが、相対する敵であるハマダ率いる鬼爆組本隊は詰め所の制圧こそ何とか成功させたものの、その後はお世辞にも上手くいっているとは言い難かった。
「親分、玄関の見張りから『強そうな傭兵がすぐそばの角に消えていった』と」
「なんや強そうな傭兵って……もっと具体的な報告を寄越さんかい。人数とか持ってた武器とか色々あるやろうに」
そこに届けられた未確認の戦力が接近中という一報に鬼爆組は慌てていた。イースタンファクトリー地区を拠点にしているはずの傭兵チームが何故か69番街にいるのかとハマダは驚いたが、同時にこれが敵の最後の切り札であると判断している。
「まぁ、奴さんらも慌てとるっちゅう事やろか……皆の衆、ここが正念場や。気張れい!」
散々自分たちを邪魔してきた69番街の英雄が姿を現さず別の傭兵が姿を現した理由を、囮として放ったスカヴィードッグスへの対処に忙殺されているか負傷したせいだと判断し、悩み抜いてから急遽雇ったチームを差し向けてきたのだと早合点していた。
「まあ下っ端は個人戦力やと傭兵には敵わんし……ボブの部隊もこっちに回そか」
「へっ!? 留守居組をですか……」
故にハマダはベイエンド地区にある本部から副将のボブ率いる留守居組を全員呼び寄せこのチームを始末することを決めている。これで組事務所はガラ空きになってしまうが、近辺に目立った敵対勢力はないため可能性は低い。仮に想定外の勢力に攻撃されたとしても後で奪い返せばいいと判断していた。事務所失陥という汚点こそつくが、69番街を奪い取れたなら帳消しになると踏んでの行動だ。
「ええか、この戦いは鬼爆組がどうなるか一世一代の大博打や。敵も死に物狂いで来るやろし、こっちも賭け金全部突っ込んだる」
だが、この判断は前提からして大きな間違いであった。連絡も何もあったものではないためハマダだけでなく鬼爆組全体が知らなかったのだが、スカヴィードッグスは今や散り散りになって逃亡を図っている段階である。当然ながら期待されていた囮としての役割は既に果たしておらず、彼らが来ないと判断した69番街の英雄が小部隊を率いて迫っていることなど知る由もない。
そんな割と滑稽な理由でノーマークのまま裏口前に到達した彼らは素早く窓が近くにない庇の下へと滑り込み、端末で詰め所の間取り図を確認しながら侵入の手立てを整えていく。裏口の扉はやや古めながら電子錠によって施錠されていたが、そんな型落ちの代物などアリサの技量からすればあってないようなものであり、接続してからものの数秒で解錠されてしまった。
「はーい、アンロックかんりょーでっす」
カチリ、という無機質な音の直後に間もなく戦場となる場に似つかわしくない間延びした声で完了を告げる様は逆に恐ろしさをも醸し出していた。アリサからすれば緊張を和らげるための軽口でしかないのだが、まさかとんでもない誤解を受けつつあるとは思っていない。
これで裏口から侵入できる手はずは整ったため、拓郎は通信で『ドレッドスウォーム』を呼び出して同時攻撃を要請している。どちらもが囮にも本命にもなりうる攻撃であり、一線級とは呼べぬ兵力ばかりでこれに対処するのは中々に困難だろう。
「『チーム拓郎』より『ドレッドスウォーム』、これより攻撃を始めるので正面入口からの攻撃を」
『了解した、一分後に正面入口への攻撃を開始する。後はこちらの判断で動いていいな?』
「問題ない。そちらに任せる」
『フン、言うようになったな。まあいい、正面は我々に任せておけ』
そんな戦闘のプロフェッショナル同士の短くも意思を伝達するには充分な会話の後、69番街側の反撃は始まる。
「三、二……今! 行け、行け!」
拓郎の合図と共に裏口のドアが静かに開き、八人の戦士が得物を構えつつ前進する。練度としてはメガコーポが保有する特殊工作部隊には及ばないが、それでも気付かれぬうちに敵の拠点へと忍び寄り、奇襲をかける様はそういった部隊顔負けであった。
一番槍は新しく購入したばかりの大口径拳銃P-81を手に勇躍詰め所内へ踏み込んだ拓郎であり、その後ろに傭兵と自警団員、そして最後尾にファンとアリサが続く陣形だ。洗濯室にトイレ、物置を次々とクリアリングしていき、着実に安全地帯を広げていく。本来なら気にするべき伏兵や隠し通路の類も、勝手知ったる詰め所が戦場であるため杞憂でしかない。
「な、何だお前たち!? どこから入ってきやがった!」
「お、俺たちを誰だと知っての狼藉や!? 天下の七大ギャングが一つ、鬼哭衆傘下の鬼爆組やぞ!」
それでも出合い頭に鉢合わせた二人の組員は目の前の集団が味方ではないとすぐに理解していたが、何故自分たちが目を光らせているはずの建物内に敵がいるのかまで想像力が働くことはなかった。その狼狽え故に普段無力な一般人を脅すための口上が反射的に飛び出ていたが、それは単に相手を激発させるだけであった。
「何の落ち度もないうちを襲った狼藉者はお前たちだろうが! くたばれ、このろくでなしめ!!」
ただでさえスカヴィードッグスによる襲撃で気が立っていた自警団員は組員に対して何の躊躇もなく散弾銃を発砲。至近距離から放たれた二発の一二ゲージ散弾が不用意な発言をした組員の腹をズタズタに引き裂き、血と臓物の入り混じった何かが床と壁を赤黒く染める。
「な、なあっ!?」
隣で啖呵を切っていた仲間が、コンマ数秒後には破裂した風船のような有様になっていた。もちろん中に空気やヘリウムが詰まっている普通の風船とは違って、血や臓物、そして肉がたっぷりと詰まっているため、破裂すれば中身は周辺にぶちまけられてしまう。
そんな現実を受け入れられない組員が硬直している間にも、破滅をもたらす銃弾は放たれた。傭兵の一人が所持していたマシンピストルを男に向けて発砲しており、比較的ポピュラーな拳銃弾である一〇ミリ弾が彼の肉体を穿っていく。
彼とて失った右腕をグレードの低い金属製のサイバネ義手で補綴しており、それを前に出して胴体を守ろうとしたのだが、細長く概ね筒状の物体で全ての弾丸を防げるはずもない。それでも狙い通り数発は食い止めたのだが、その倍以上の弾が人体の各所へ突き刺さってしまってはあまり意味がないと言わざるを得なかった。
「いかに奴らが間抜けでも、今の騒ぎで気付いたに違いない。『ドレッドスウォーム』も攻撃を始めたから急ぐぞ」
「っし、防火シャッターの制御系を分捕った! 拓郎さん、一旦コイツらを分断しちゃうから!」
そんな凄惨なスプラッタが悍ましい彩りを与えた反対側では、アリサによる次なる一手が打たれている。古びた防火シャッターの制御系にアクセスした彼女は一秒も経たないうちに乗っ取ると、主要部分を分断するように降りたのだ。中には彼ら自身の進路を塞ぐように降りたものもあるが、開閉自体は自由自在であるため今は敵兵力の各個撃破を優先していた。
「あ、クソ! こんな時に防火シャッターがイカれやがった! あのヒーロー気取りのくせにケチくせえことしてるせいで!!」
「おい誰か地下の機械室行って見てきてくれ、ビルメンテナンスの資格取ったってこの間に誰か言ってただろ?」
「違えよバカタレ二人、これは敵襲だ! これはたぶん傭兵どもに混じってるハッカーの仕業に違いない!」
生憎だがアシハラの防火シャッターは単に火や高熱だけではなく、半端な火器の弾丸をも通さない。そんな優れた装甲である鋼鉄の壁を破るか開けるべく虚しい試みを必死に行なっているが、それに集中しすぎて背後から迫りくる敵に気付かず、そのまま鉛玉を浴びて人生を終えてしまった。
「こちらオーウェン、敵二を撃破した!」
「そのまま各個撃破していくぞ! 必ず複数人で各部屋をクリアして回れ!」
ファンの号令のもと、八人の部隊は一つの生き物のように動き敵を始末していく。途中には降りた防火シャッターを突破できず立ち往生していた組員が何人もいたが、あまりの手際の良さに敵の侵入だと気付いた者は一人しかおらず味方の救援だと勘違いしていた者までいたほどである。尤も、その愚かしい勘違いの代償は最も大切なもの、すなわち命で即刻支払われることとなったが。
「これで一階奥は制圧したか……正面入口の方は『ドレッドスウォーム』に任せておけばいいか」
ここまで順調に進んできたとはいえ、素直に敵の待ち構えるであろう二階へと突撃するつもりはない。廃ホテルの戦いでも上階に立て籠もって守りを固められると攻め難いことは証明されているため、迂闊に上がれば蜂の巣にされかねない。豪雨が降りしきる天候こそ似ているもののあの時ほど情勢は不利ではなく、頼るべき味方は複数いる。
だからこそ、雨に濡れるのも厭わず庇を伝って二階の窓へとアクセスし、そこから制圧を始めることにした。二階には仮眠室や娯楽室、シャワールームといった詰め所の快適性を高める設備が揃っており、ここ最近はずっとお世話になっているため構造はマップなど無くとも手に取るように分かるのだ。
「オラっ! オレンジ級傭兵、赤間拓郎のお通りだ!」
ガチャン、という窓ガラスが割れる特徴的な音は未だ強い雨音にかき消されて響くことはなく、手早く解錠すると窓を開いて乗り込み、安全を確保した。
「っしゃ行くぜ! 各員一階は『ドレッドスウォーム』に任せてついてこい!」
「二人ともおじさんなのに運動神経激ヤバっ!? あーしも何か運動系のサイバネ入れないとその内ついてけなくなりそ……」
その数秒後にファン、少し遅れてアリサが庇をよじ登ると拓郎の後に続いて二階の廊下へと侵入すると各々の武器を構え、スリーマンセルを維持しながら勝手知ったる仮眠室を一つ一つ検めていく。それは中々様になっており、クリアリングするのにさして時間はかからない。
「おい、誰だ戦場の廊下で騒ぐバカは……」
「俺たち自警団だよ、何か文句あるのか!?」
そうして娯楽室へと近付くに連れて、流石に繰り返される扉の開け閉めが聞こえたのか一人の組員が拳銃をろくに構えもせず面倒くさそうな態度を隠そうともせずに扉を開けて、そこで見たのはありえない、ありえてはならない光景であった。
「な、どうして自警団の奴が……! 生き乗りは武器庫に逃げ込んだはずじゃ……!」
短い交渉が決裂した後、詰め所を強襲した鬼爆組は数人の死傷者を出しつつもほぼ全体を制圧することに成功し、そこを拠点として『ウキヨエ』に籠城しているであろうマダム・スミスに降伏を要求しようとした。自警団の生き残りは武器庫に立て籠もったことで事実上無力化され、あとは最後の切り札と思しき傭兵チームを挟撃で撃破さえすれば士気は完全に打ち砕かれるだろうと踏んでいたのだ。
「残念だけど、トリックでも魔法でもないんだなこれが」
だが、現実に自警団員はそこにいた。正確に言えば正規の団員ではなく拓郎たち傭兵なのだが、そんな細かい違いなど理解できない者からすれば魔法や超能力といった非現実的な何かを疑う始末であり、目の前にいる存在が本当にヒトだと確信できなかった。
「クソッ、何でこんなことになっちまったんだ!」
「あっ、させるかっての!」
それでも組員は自らの責務を果たそうとしたが、できなかった。その威力に相応しい銃声とともに音よりも速く飛ぶ一二ミリパーセム弾が、慌てて銃口を三人に向けようとした男の眉間をぶち抜き、脳みそが頭蓋の上半分ごと弾け飛ぶ。その光景こそが、短くも多くの血が流れた69番街の戦いにおける最終局面の幕開けとなった。