超かぐや姫! ~ツクヨミの守り人~   作:tanuu

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10 残るモノ

 今回のライブは水の中を基調にしている。水棲生物を模した光の粒が各地にちりばめられていく。クラゲや泡が沢山会場に揺らめいていた。その辺の調整がちゃんと出来ているのか、裏方で確認している。

 

 ヤチヨになら出来るかもしれないけど、彼女は演者。演者は演技に全集中しているのが一番だと思う。裏方を任されている身としては、演者が全力で憂いなくパフォーマンスできるように支えるのが俺の仕事であり、誇りだ。

 

 光る魚が渦をなして、天上へと向かっていく。空に昇っていく天使みたいだった。

 

「イエーイ、感謝感激雨アラモード! ヤチヨは果報者なのです。あ、ここでお知らせ! ヤチヨカップっていうイベントを開催しま~~す! FUSHI、詳細よろしくぅ!」

「はーい! 参加資格があるのはツクヨミの全ライバー! 一か月の期間の中だけで最も多くの新規ファンを獲得した人が優勝だよ。優勝者にはなんと、ヤチヨとのコラボライブの権利を進呈! 世界一盛り上がるコラボライブステージを一緒に作れるよ!」

 

 あのイラスト、俺が描いた。なんか、デフォルメした感じになってしまったけど。ああいう感じの絵しか描けない。俺の美術の成績はお察し……。風景画とかマジで無理だ。

 

 会場は大盛り上がり。なにせ、これまで一切告知をしてこなかったのだから、みんな寝耳に水のはず。ライブのコラボともなれば、かなりの注目度が予想される。これで優勝できる新人がいたら、今後数年は安泰かなぁ。

 

 こういうのがリークされないように情報漏洩には気を付けているつもりだ。ぶっこ抜こうとしても、自分のところのセキュリティーがおじゃんになるようにシステム化してる。ともかく、みんな大注目。これで一層ツクヨミが盛り上がってくれると嬉しい。そして、その盛り上げに一役買ってくれそうな集団がやって来た。バーンと会場に爆音が響く。

 

「黒鬼じゃん!」

「帝様ー!」

 

 虎が引っ張る牛車が爆裂のスピードで乱入する。そして、屋台が切り裂かれて中から三人が姿を現した。ツクヨミで大人気のプロゲーマーユニット黒鬼。実力はこの前の配信でも証明済み。チートに素で勝てる人ってそうそういないので、ホントに腕前はぴか一だ。連携の取れた動きも巧みなので多分リアルでも仲良いのかな。

 

「よう、子ウサギども。お前らの帝様が来たぜ」 

 

 割れんばかりの歓声。そしてぱちんと指を鳴らすと、会場の仮想モニターがジャックされる。という演出で、実際は今さっき申請が来た。ヤチヨカップの発表があった瞬間に乱入を決めたんだろうに、申請を送って来るのは律義だよ。こっちが速攻でレスポンスしてくれるよねっていう信頼に基づいた行動だと思うので、こっちも速攻で許可を出しておいた。盛り上がるならまぁ、この際何でもいいからね。

 

 ド派手な演出だけど、こういう系のグループにありがちな適当さとか炎上性が少ないのがこのグループだ。だからこそ、長い間天下を取れるんだろうけど。二番煎じを狙おうとして失敗したグループを幾つも知ってる。それなりに長い期間、ツクヨミにいるからこそ、綺麗なもの以外もいっぱい見てきた。

 

「というわけで、俺たち優勝するから。ヤチヨちゃんコラボよろしくね」

「そういう運命なら、もちろんヤチヨは従うよー」

 

 なんか不本意さが漏れている気がするのは気のせいかな。別にダメとは思ってないだろうけど、なにかもっと新しい新星を、時代を変えて人を惹きつけるような超新星を求めているように思えた。それはヤチヨカップの開催を聞いた時からずっと、そんな気がしている。

 

 多くの観客は彼らの優勝を確信したと思う。ほかならぬ俺も、まぁこのまま行けば順当に黒鬼かなと思ってた。別に彼らのことは嫌いじゃないし、むしろ長い間見ているからそれなりに応援はしてる。黒鬼仕様の衣装を着たヤチヨというのも、新しいファン層獲得にはいいかも。そんなことを考えていた。たった一人、それを良しとしない少女がいることを忘れて。

 

「ヤぁぁぁぁーーチぃぃぃぃーーヨぉぉぉぉーーー!」

 

 全会場に、それどころか中継を見ている人にすら届と言わんばかりの勢いで、少女の声が響いた。その声に、誰もが視線を向ける。俺も思わず身を乗り出してウインドウを眺めた。

 

「かぐやがヤチヨカップ優勝する! そんで絶対コラボライブする! いろh……むぐっ!」

 

 堂々の宣戦布告。これは、勝利宣言というか、ホームラン宣言というか、とにかくすごい宣言だった。大手の配信者、それこそ黒鬼と戦えるレベルの人でもこんな自信満々に宣戦布告をしないだろう。かぐやちゃんは配信者ですらない無名の存在。今日ログインしたばっかりのユーザーだ。それがトップテンにでも入れれば奇跡かなっていうこのレースで優勝。一見すると不可能に見える。

 

 ただ、案外不可能ではないのかもしれない。行動力、ビジュアルの良さ、呑み込みの早さ、そして底なしの体力。こういうのは全部、配信者には不可欠。そして何より、ヤチヨカップは新規登録が大事。黒鬼は既に人気だからこそ、ハンデを負っているかもしれない。まぁ、そんなのはものともしないかもだけど。

 

「……いとかわゆし」

 

 ヤチヨは求めていたものが来た、という顔で小さく微笑んだ。ああいう層が今後のツクヨミを盛り上げてくれることを彼女は願っていたのかもしれない。なにせ、ここを一番愛しているのは作り出した彼女自身なのだろうし。

 

「ほいでわ、ライブはいったんここでクローズ♪ みんなとちょこっとお話しさせてね。さらば~い」

 

 ヤチヨは分身して観客に向かっていく。あのド級の宣戦布告には驚かされた。本気なのかな、多分本気なんだろうな。あの子のやる、はいつでも本気だった。これは面白いことになるかもしれない。純粋にそう思いながら口角を上げたその瞬間。

 

 ドンドンドン! と家のドアが猛烈に叩かれた。

 

 

 

☽   ☾   ☽   ☾    ☽   ☾

 

 

「で、どうしたの?」

 

 俺の目の前には瞳をキラキラさせながら座っているかぐやちゃんがいた。猛烈にドアを叩くので、一旦自動システムに切り替えてツクヨミを抜けている。そろそろヤチヨが戻って来るので大丈夫だとは思うけど、なるべく抜けたくはなかった。ただ、俺の部屋のドアが破壊されそうな気が……実際なんか変な音立ってたし。へこんでないよね、大丈夫かな。

 

「ヤチヨがね、ヤチヨカップに参加するにはライバーにならないといけないって」

「そうだねぇ」

「だから、かぐやはライバーになる!」

「おぉぉ」

 

 娘が将来の夢を語った時みたいな感覚で、俺は手を叩いた。流石に自分の子供がライバーになるって言ったら止めるかもしれないけど。酒寄さんはまだ帰ってこない。多分、向こうでヤチヨと話して死んでる。

 

「そっかぁ、ライバーかぁ」

「うん! それで、楓はツクヨミで働いてるんだし、分かるかなって!」

「あぁ、そういう」

 

 かぐやちゃんの期待には応えたい。でも、俺にも仕事があった。

 

「ごめんね、手伝ってあげたいんだけど、俺は運営側だから。ヤチヨに確認はしてみるけど、ヤチヨ本人よりも集計とかその辺のシステム周りを弄れる俺はお助けできないかなぁ。公平性に欠けちゃうからね」

「え~~! じゃあじゃあ、なんかアドバイスだけ! ね!」

「うーん」

「おねがーい」

 

 目を大袈裟にパチパチするかぐやちゃん。その顔で酒寄さんを幾度となく陥落させ、俺に無理難題をやらせている。でも、これに勝てないんだから、俺たちが悪いのかな。いやでも、どうなんだろう。大人は、というか人間は大きくなるにつれて、こんな無邪気に人を頼らなくなると思う。でもこの子はそんなの全然気にしていなかった。だからこそ、ついつい助けてしまうのかな。

 

「まぁ、まったくの初心者が一から始めようって言うんだから、少しだけね。やり方とか、設定の仕方は教えてあげる。ただ、そっからは自分で頑張るんだよ。出来る?」

「うん!」

「ツクヨミって一億人くらいユーザーがいるから、色んな人がいて、中にはかぐやちゃんが嫌な気持ちになったりするコメントとかする人もいるかもよ」

 

 あんまりにも酷いとバンするけど、それも結構曖昧な線引きだ。炎上してなんぼ、みたいな人もいるにはいるので難しい。

 

「それでも大丈夫?」

「だいじょーぶ! 彩葉と楓が何とかしてくれると思うから!」

「うーん、人頼りかぁ」

 

 でも、それも信頼なのかな。子供が親に甘えるのは、親を信頼しているから。この子を育てるときに読んだ記事にそう書いてあった。それが本当なら、かぐやちゃんは俺や酒寄さんを信頼しているからこそ甘えているんだ。そこを突き離すのは簡単だけど、目の前の少女が俺のせいで傷つくのは嫌だった。

 

「分かった。酒寄さんにはあんまり頼り過ぎないようにね」

「はーい」

「ライバーって言っても色々いるんだよ。ゲーム実況とか、料理を作ったりとか、解説動画とかもあるし、ホントに多種多様なんだ」

 

 ゆっくり実況もこっちに入り込んでいる。別に生身じゃなくてもいいのがツクヨミの懐の深さかもしれない。このご時世になっても滅んでいないゆっくり界隈が強いのか。なんならアイマスのBGMもまだよく聞くし、ニコニコ動画の遺伝子はここでも生きている。ヤチヨもたまにネットミームで会話してるし。……ヤチヨってもしかして、2ちゃんねるとかで学習した? だとしたらちょっと嫌だなぁ。

 

「ぶっちゃけ何をしたらウケるとかは無いと思う。その時々のトレンドはあるしね。だからかぐやちゃんは好奇心のまま気の向くまま、好きな事をしていけば良いんじゃないかな。特定の何かが好きな人にはぶっ刺さるコンテンツより、色んな人の目に触れて、そこからかぐやちゃん自身のファンになってもらうのが良いかも」

「ふむふむ」

「あと、大事なのは更新頻度。去年の登録者ランキング上位勢が過去に投稿を開始してから伸びるまでの投稿頻度は……大体こんな感じ」

 

 かぐやちゃんにグラフを見せる。みんな最初の頃は毎日投稿だったりすることが多い。とにかく見てもらう事、目に触れることが大事だ。どんなに凄い動画でも、目に触れないと再生されない。再生されないと次も伸びない。だからこそとにかく初動でたくさん出す。そうすれば、嫌でも目に入る。そこからファンに出来るかは本人の腕前次第だ。 

 

「やりたいなら、ドカドカやらないとダメだね。色んなことに挑戦していこう。そしたら、人気のある動画が出てくるから、あとはそれを幾つか擦ってローテーション。これで継続的に伸びるかな」 

 

 あとは切り抜きとかをされると伸びたりするんだけど、それは人気が出ないと始まらない。切り抜きたいと思わせるような名場面とかおもしろシーンとかがあればいいんだけど。でもこの子の場合、そういうインパクトには困らなそうだ。

 

「こんな感じでどう?」

「すっごいためになった」

「そうかな。それなら良かったんだけど」

 

 というか、今更ながらこの子の髪色が金色になってる。どういう原理かな。まぁ考えるだけ無駄か。俺はこの子に関してはデータを放棄した。役に立たないデータは捨てたんだ。

 

「あとは酒寄さんに頼るしかないかな。俺は監督する側だけど、ユーザー側じゃないし。ユーザーに受けるにはどうすればいいかを知ってるのは俺より向こうだと思う。トレンドとかは綾紬さんとか諌山さんに聞く方が良いかな。詳しいだろうし」

「それは最初からそうするつもりだった」

「そっかぁ」

 

 元気いっぱいに言われても困ってしまう。そっか、最初から頼るつもりだったか。まぁそうだよねぇ、この子なら。

 

「ただし、あんまり酒寄さんの邪魔したらダメだよ。勉強とかあるんだからさ。追い出されちゃうかもしれないし」

「あ、そうだった」

 

 割と切実な感じで真剣に伝えた酒寄さんだったけど、あんまり真意が伝わってない。多分、なんだかんだ助けてくれるんだと思ってるな。まぁ、確かに酒寄さんはなんだかんだと助けちゃいそうだけど。

 

「いつまでも、いると思うな親と金って言うからね」

「それ、どういう意味?」

「大事なものは、いつか無くなっちゃうって意味。優しさも同じでね、多分いつか無くなっちゃうときがある。だから、思いやりって大事なんだよ。愛って、そういう事だと思うから」

「愛と勇気が友達だもんね」

「それは人間じゃない存在の言葉だけど……まぁ大事なのはそうかも。今のかぐやちゃんに大事なのは、酒寄さんを大事にする愛と、未知の世界に飛び込んでいく勇気。二つ目は持ってそうだから、一つ目をしっかりね」

「分かった! あと、これ貰っていい?」

 

 話の切り替えが早いなーと苦笑した。かぐやちゃんが差したのはゲームのスティックだった。色んなゲーム、例えばPCだけじゃないのもある。PSとかが多いけど、中古で買ったDSもある。コントローラーとかも含めて、もう使ってない電子機器の山だった。

 

「いいよ、好きに使って」

「ありがとー!」

 

 ぴょんぴょんと飛び跳ねながら、かぐやちゃんは俺の使ってない機械を箱に詰めていった。おもちゃ箱の中に宝物をしまう子供みたいで、ちょっと微笑ましい。

 

「かぐやちゃん、ツクヨミを楽しんでね」

「うん、絶対優勝するから見ててね~!」

 

 かぐやちゃんはそう言って、怒涛の勢いで酒寄さんの部屋に戻っていった。酒寄さんは部屋で配信するのを嫌がるかもしれない。でもまぁ、もうすぐ夏休みだ。もし嫌だって言われたら、俺の部屋でやってもらえばいい。スペースそれ自体は一応存在しているし。

 

 上手く行くかは分からないけど、楽しんでくれればいいや。ツクヨミに携わる人間として、新しい挑戦者をそんな気持ちで見送った。もしいい感じに伸びてきたら、オタ公さんに紹介するくらいはしてもいいかな。でもあの人、なんか勝手に嗅ぎつけて推してそう。あの人の推すセンスは間違いない。逆に言えば、あの人が推してくれたなら全然可能性はある。

 

 さて、ちょっと中断したついでにお風呂とか入って、そしたらまた作業の続きをしよう。ヤチヨカップの優勝者には大きな名誉と今後の人気が確実に得られる。だからこそ、どんな手を使っても得たいと考える人はいるだろうし、そこには目を光らせたい。

 

「今更だけど買い物して、料理して、プログラミング教えて、走り回って……なんか今日だけで凄いイベントの数」

 

 普段の俺だったら、どれか一個でも一日の中にあればいい方だ。一週間分くらいの体験を流し込まれて、流石に疲れてる。それでも、その疲労はどこか心地よかった。

 

 

 

☽   ☾   ☽   ☾    ☽   ☾

 

 

 風呂上がりで髪を乾かしながら、トレンドを見る。さっきのかぐやちゃん、ちょっぴり話題になってる。これは追い風だ。ライブでの行動が忘れられない間に始めれば、初動はバッチリになる。トントンとドアが叩かれた。今日はよくよく人が訪ねてくる。かぐやちゃんが何か忘れ物とか欲しい物でもあるかなと思って返事をした。

 

「はい、空いてまーす」

「お邪魔します」

 

 恐る恐る入って来たのは酒寄さんだった。思えば、こっちが向こうの部屋に行く事はあっても、彼女がこっちに来ることは無かったかもしれない。

 

「ごめん、急に押しかけ、て……」

「どうしたの? って、ごめん!」

 

 ドライヤーしてる最中で、しかも夏だから、ズボンだけ履いて上は着てなかった。酒寄さんが赤い顔で目をスッと逸らしたので気付けたけど、気付かなかったらセクハラだったかも。一人暮らしが長くて油断した。別に家の中ならどんな格好でも何も言われないのが一人暮らしだし。時々凄い恰好で作業してる時もある。急いで上着を着る。

 

「それで、どうしたの。そこ、座って」

「かぐやのことで、ちょっと話したくて」

「かぐやちゃん?」

 

 酒寄さんは座布団の上に腰を下ろした。座り方が綺麗なのは、彼女自身の品性の力なのかな。それとも、親御さんの育て方の問題かな。なんとなくだけど、酒寄さんの親は厳しそうな気がする。それも、お母さんの方が。どうしてって言われると困るけど、なんとなくそんな気がしたんだ。

 

「ライバーやるって言ってるんだけど……」

「あぁ、知ってるよ。さっきうちに来て、どうしたら良いかとか聞いてきたから。あんまりああしろこうしろってのは言えないけど、誰でも使えるアドバイスみたいなのはちょっとしたかな」

「高野は、それで良いと思うの?」

「良いって、何が?」

「ライバーなんて絶対目立つじゃん。あの子、あんまり目立たない方が良いと思って」

「そうかなぁ。目立つ方が逆に隠れ蓑になるかもよ。することないと、なにをするか分からないのは酒寄さんも怖いんじゃない? ライバーを目指すってのなら、少なくともやる事の選択肢は限られてくるしさ」

「でも……」

 

 酒寄さん的には不安があるみたいだ。正体がバレちゃうこともそうだろうけど、酒寄さん自身に何か配信業に思うところがあるのを感じる。確かに、水物な商売っていうか、不安定だと思う。世間の感じている()()とはかけ離れてるかもしれない。酒寄さんは常識の側にいる方……いや最近そうでもないなと思い始めたけど、少なくとも俺よりはいる方だ。だから、抵抗があるのかもしれない。

 

「優勝なんて、厳しくない?」

「かもね~。でもあの子は目指してる。誰に強制されたわけでもないけどさ。それって、凄く良いことだと思うよ、俺は。最終的に勝てないかもしれない。でもそれでもいいじゃん」

「いいじゃんって」

「良いと思うよ、俺は。一番になれなくっても。無茶だったかもしれないし、無理だったかもしれないけど、無駄じゃないはずだから」

 

 それは、俺の思っている素直な言葉だった。色んな配信者を見てきたし、成功も失敗も沢山知ってる。成功したからって幸せとは限らないし、失敗しても楽しんでいた人はいた。大事なのは、何が残ったのか、なのかもしれない。

 

「何も残らなくても、楽しかったなって思いが残れば、それで大成功じゃないかな。あの子の中にそういうモノがあるのは、大事な事だと俺は思う」

「……」

「まぁ酒寄さん的には迷惑かもしれないけどさ、ちょっとだけ応援してあげようよ。何か生き甲斐があるっていうのはかぐやちゃんの成長にとって大事な気がするし」

「……ほどほどにね」

「そこはまぁ、酒寄さんが手綱を引いてあげて。俺だと甘やかしちゃうから」

「自覚はあったんだ」

「あんなに言われれば」

 

 そうだね、と言って酒寄さんは小さく笑った。

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