超かぐや姫! ~ツクヨミの守り人~   作:tanuu

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15 優勝!

 試合が始まる。俺はまた管理人室に引っ込んでの観戦だ。大画面に映し出された映像は、様々な角度から送られてくるものを自動で編集している。この機能をこのゲームに適応させるのは大変だった。なにせ、すんごい速度でみんな移動していくから。

 

 残機は三つずつ。相手チームの天守閣を落とすのがこのゲームの基本ルール。天守閣のデザインをどうするかで散々議論したのも遠い昔の話。なんかヤチヨが豊臣時代の大坂城にしろとごねるので、最終的にそれになった。俺は安土城の方が好きだったんだけど。

 

 ただ、この天守閣は最初っから落とせるわけじゃない。その前に櫓にいる中ボスの牛鬼を撃破する必要がある。その他にもモブ槍兵・弓兵・剣士が沢山いる。だからこそのSENGOKUだ。なお、ストーリーモードを現在鋭意開発中。ともかく、陣地占領ゲームと達磨落としとそのほか色々を組み合わせたシステムになっていた。

 

 達磨落とし型の大将落としを天守閣にぶち込む時の物理演算で苦労した記憶が蘇ってくる。あの頃はまだあの作業に時間を取られた。今ならすぐ終わると思うけど。

 

『おーっと、黒鬼はトライデント! トライデントです!』

 

 三つある道を一人ずつ担当する戦い方がトライデントだ。そして、これは黒鬼の必勝法でもある。まぁそうなるよねと言う戦い方ではあるけど、正直かぐやちゃんたちは舐められているという事になるかな。こればっかりは年季の違いがあるから仕方ないけど。

 

 酒寄さんとかぐやちゃんが帝さんと戦ってる。酒寄さん、ついにスキンを脱ぐことにしたみたいだ。いろPの中身が出てきたことに、会場が騒然としつつ大盛り上がり。着ぐるみスキンは当たり判定がデカい。

 

 まぁたまにあれで勝ってる人もいるので、結局プレイヤーの腕次第なんだけど。明確に不利になるようなものは設定してない。どんなスキンでも、やり込めれば勝てる。これが開発モットーだ。課金ゲーにしたいわけじゃないからね。

 

「えっ、お兄ちゃん!?」

 

 かぐやちゃんが酒寄さんと帝さんの会話を聞いて叫んでいる。

 

「おーーっっと衝撃の告白だー!! 帝といろPは兄妹だったーー!?」

 

 実況が叫ぶ。いや、これは俺も初耳だ。だからずっと酒寄さんはブラックオニキスとのコラボに苦い顔だったんだろう。気持ちは分かる。俺も兄貴があんなブイブイ言わせてたらちょっと目を合わせたくないし、知らない人のフリをする。悪い人じゃないんだけど……それはそれとして、身内だったら恥ずかしいかも。

 

 この前話してくれた、出て行ってしまったお兄さんっていうのが帝さんのことなんだと思う。酒寄さんとは違って、帝さんの方は色んなしがらみから多少楽になっているように見えた。出来れば、兄として酒寄さんの抱えているものを解消してあげて欲しい。色々思うところはあるかもしれないけど、きっと酒寄さんの中では今でもお兄さんのことを思う気持ちがあるはずだから。

 

 そんなこんなで試合は流れていく。ヤチヨが乃依の射撃にやられたり、かぐやちゃんがマップが2Dなのを活かした作戦を立てたり。いや、これにはびっくりした。やっと設定を拾ってくれた人がいたのかって意味で。 

 

 プレイヤーの人が日夜研究しながら編み出している戦術だけど、このマップにはまだまだ使われていないギミックがある。空中を浮かぶ魚に餌をあげると乗せてくれるっていうのもその一つ。やり方次第では戦況をひっくり返せるかも。だから2Dマップにしてるっていう寸法だ。

 

 両チームとも一歩も譲らぬ大激闘の末、あと一歩のところで罠にハマったかぐやちゃんがやられ、勝者が決まった。

 

『逆転ー! 決まってしまった。勝者、ブラックオニキスーーっっ!』

 

 オタ公さんの叫びで試合がフィニッシュとなる。プロゲーマー相手に大健闘した。ヤチヨがフルパワーで介入していたとはいえ、それでもこれは大戦果だ。今まで何人もプロがいて思いつかなかった新戦術も出してきたわけだし。息の合ったコンビネーション技といい、二人の魅力を全面的に引き出せるいい試合だった。

 

 俺としては、ちゃんと試合が佳境に入る前に全観客をスタジアムにぶち込めたことにホッとしてる。凄いハラハラしながら見ていたので、なんか余計に疲れた。でも、楽しかったから良いんだけど。

 

 かぐやちゃんは凄い悔しそうだ。でも、楽しそうでもある。酒寄さんも心なしか満足そうだし、何よりヤチヨがここ数年で一番いい顔をしていた。

 

 さて、そしてここからが本番だ。ヤチヨカップの集計は既に締め切られている。結果に間違いが無いか、不正が無いかの最終チェックもたった今終わった。データをヤチヨに送信して、俺は特別席から観覧することにする。

 

『いと大儀~~~!』 

 

 ヤチヨは空中に浮かび上がり、全ユーザーに向けて話し始めた。こっちではモニターの切り替えとスポットライトの調整を行ってる。ツクヨミ全モニターの一斉切り替えと音響の調整は問題ない。巻物型の結果用紙も異常なし。

 

『とーっても楽しいKASSENでした。そして! ヤチヨカップの投票を締め切ったよ~。FUSHI、お願い!』

 

 FUSHIの口からにょきっと吐き出された巻物。あのギミックだけは変えた方が良いかもしれない。見栄え的に。

 

『それでは、ヤッチョとコラボる人を、発表ー!』

 

 スクリーンにグラフが映し出される。棒グラフが凄い勢いで上下していた。上位層が安定して伸びを見せ続ける中、ちょくちょくと顔を出すかぐやちゃん。

 

『ヤチヨカップの優勝者は~~☆』

 

 黒鬼の勝利が確定したと、きっとみんなが思っただろう。でも現実は意外と予想通りにならないこともある。やっぱり最初に思った通りだった。このレースは新規層の獲得がメイン。つまり、一気に伸ばせれば既にファンの多いライバーを抜かすこともできる。

 

 背中を押して正解だった。俺は最初から分かってた、と面倒くさい後方腕組み野郎になる。一番になれなくても、失敗してもいいと言った。でも、やっぱり勝ってほしいと思ってた。楽しかったっていう思い出だけじゃないものを、得て欲しかった。

 

 そしてそれは同時に酒寄さんにも。かぐやちゃんに振り回され続けた日々にも、ちゃんと結果があるんだと思って欲しい。お母さんの言う通りに進むだけが全てじゃないって、かぐやちゃんみたいな道もあるんだって、知って欲しいんだ。

 

 集計を締め切るまで、ホントに最後の一瞬まで分からなかった。だって、差はほんの少しなんだから。

 

 第二位 ブラックオニキス 新規獲得ファン数101万4221人

 

『ヤチヨカップの優勝者は~☆』

 

 一本だけ残った棒グラフは伸び続けている。結果が出てからのわずかしかない時間だったけど、優勝者へのせめてもの贈り物として特殊演出を用意した。これまで二人に送られたコメントを流していく。

 

『なんかいいね、あの二人!』

『私、推しちゃおうかな~』

『可愛い!』

『歌やべー』

『この子見てると幸せな気分になる』

『ヤバい新人出てきたな』

『32:01 いろPおもろ!』

『インカメッ』

『42:21 ファンになった瞬間』

『天才的な死に方するやん』

『かぐやのどや顔好き』

『笑顔に惚れたのでかぐや推すわ』

『激辛でもごちそうさまが言えるのが良き』

『二人の絆が見えた回』

『守護神がこんな娘に激アマな親父みたいになってる時点で俺らが勝てないんだな、登録します』

『二人の何とも言えない可愛さ』

『二人が並んでるだけで幸せ』

『上から!』

『いけー、かぐや!』

『決めろ、いろP』

『いったー!』

『やったー!』

『涙出てきた』

『ごめん、帝様。今日だけこっち』

『この二人最高!』

 

 幾つもの応援コメントが流星群として流れていく。これはニコニコ動画を参照した。お前らの愛で画面が見えないってやつ。二人は唖然としてるし、ヤチヨもびっくりしてる。ちゃんと仕込んで良かった。万が一の時は残念会で流す予定だったけど。

 

 第一位 かぐや・いろP 新規獲得ファン数101万7106人

 

 大歓声が巻き起こる。一つの時代が今ここに生まれようとしていた。運動会で娘が優勝したときって、こんな感じの気持ちになるのかな。

 

 

 

☽   ☾   ☽   ☾    ☽   ☾

 

 

「まだ求婚しますか?」

「いいや、無理にやってもしょうがねぇし。それに、こわーい管理人が雷落としてきそうだからな」

「雷じゃ済まないですよ。通販の履歴、全部ファンにバラします」

 

 帝さんがあんまり本気じゃないのは知ってた。多分、妹の様子見もあって来たんだろう。最初は疑いだけだったけど、いろPっていう名前と時々動画に入る声で気付いたんだと思う。だからこそ無理やりにでもこんな場を作った。まぁ、半分くらい本音だったのかもだけど。

 

「まぁそれは冗談としても。仲直りできましたか?」

「なんだ、知ってたのか?」

「いやいや、兄妹だってことは初耳です。ただ、昔出て行ってしまったお兄さんがいるとは聞きましたから」

「そうか。そういうの、言える奴が出来たんだな……。かぐやちゃんを推してるのは変わんないから。ま、これからもよろしくな、お義父さん」

「あなたにお義父さんと言われる筋合いはないですよ」

 

 管理室からウインドウ越しに引き攣った笑みを浮かべる俺を軽くあしらって、帝さんはファンのところに向かった。彼らのファン数は総勢で1900万人。1億いるユーザーの、実に二割を抱えている。なので、当然今回のレースでは不利だった。でも彼らは文句を言わない。文句を言うのは、彼らのかっこよさじゃないし、ファンに夢を見せるっていう美学と反するんだと思う。

 

 ずっとそんな感じでいてくれれば尊敬できるんだけど。向こうの方が年上なのも、同時にこっちが年下なのもバレたので、今後はやりづらいかもしれない。今までの俺は年齢不詳だったし。

 

「二人とも、おめでとう!」

「カエデ~ありがとーー! カエデが色々最初に教えてくれなかったら、優勝できなかったかも!」

「そんな事ないよ。これまでかぐやちゃんが頑張って来た成果だから。みんな、ちゃんと見てくれてるんだよ。ね、いろPさん」

「まぁ、そうだね」

「そうそう。だからきっと、やり方は色々あるんだよ」

「そう、かもね」

 

 酒寄さんは何となく言いたいことを察してくれたみたいだ。届いているのかは分からない。でも、いつか響いたらいいな、なんてヤチヨみたいなことを思ってみる。

 

『ふったりとも~。よ~きかな~~☆』

 

 ヤチヨが静かに二人の前にやって来る。

 

『カエデも来たんだねぇ』

「まぁ、優勝祝いに。ちゃんと手は動かしてますよ、ずっと」

『それでこそ、私の優秀な相方~』

 

 そう言っている間に、FUSHIがかぐやちゃんによってリフティングのボールになってる。サッカーやろうぜ、お前がボールな! 状態だ。

 

「全然ダメだったなぁ。どうやったらヤチヨみたいにしゅばばって動けるの?」

『それはもう、日々の努力の玉藻の前というか~~、気まぐれアメンボロードというか~~』

「はぁ? ヤチヨって、いっつもテキトーじゃない?」

 

 適当じゃないこともある。たまに、お悩み配信で結構ガチなのが来た時とかは。

 

『んっんー。ヤチヨは優柔不断で悪いやつなのです~~。この期に及んで色々迷ってるし~~。でも、かぐやは、かぐやだから強いんだなって、ヤチヨは思ったよ』

「なんにも言ってないなー」

「多分、そのまま自分らしくいろってコトだと思うよ」

『そゆこと~、分かってるぅ』

 

 ホントかぁ? という顔でかぐやちゃんが疑ってる。言い回しはちょっと回りくどいけど、内容的にはそういう事を言っていたと俺は解釈した。多分合ってるだろうし、ヤチヨも正解って言ってるので大丈夫のはず。そのヤチヨは二人を前に、きりっとした顔になった。

 

『さーて、ここからはクライマックスに向けてハードな展開が待っているかも。このお話を最後まで見届けてね? 運命の荒波に揉まれる覚悟はいいかー?』

「おー!」

 

 かぐやちゃんは勢いよく、酒寄さんはヤチヨの前で限界なのかヘロヘロしつつ、手を天に伸ばす。確かに、ライブの振り付けとか覚えないといけないだろうし、結構ハードになりそうだ。コラボ依頼とか案件もたくさん来るだろう。そういう意味でも忙しいかも。

 

 俺たちのボロアパート、セキュリティーは終わってるのでどっかに移った方が良いかもしれない。そうなると、かなり寂しいけど。二人は興奮冷めやらぬままログアウトしていった。俺もウインドウを閉じて管理室の仕事に戻る。ヤチヨはすぐに帰還してきた。

 

「お疲れ様です。名勝負でした」

『いやぁ、なら良かったぁ』

「こっから先はライブに向けて全力疾走ですね」

『だねぇ。カエデもこれから大変かもしれないけど……助けてくれる?』

「それはもちろん。ここは俺の居場所ですし、そこが盛り上がるのは大歓迎なので。仕事ですしね」

『うんうん。ではよろしくなのです』

 

 ヤチヨはそう言うと、追加のタスクをドカンと置いた。これを早急にこなせってコトらしい。今夜は長くなりそうだ。まぁ、いいものを見せてもらって気力は十分なので、ちゃちゃっとやってしまおう。

 

 さて、まずは……自動防衛システムの改善と増大? 今のじゃ足りないのかな。まぁいいか、指示されたのならやろう。万が一にも、ヤチヨと二人のコラボライブを邪魔されるなんてあってはならないんだから。

 

 

☽   ☾   ☽   ☾    ☽   ☾

 

 

「引っ越し?」 

 

 優勝の翌日、酒寄さんから話を切り出された。

 

「かぐやがでっかい場所に住みたいって言ってて」

「まぁ、ここもセキュリティー的には元々不安があるからね。女の子二人暮らしだとなおのこと」

 

 かぐやちゃんは俺の家という名の物置を見つけたせいか、ドカドカ訳の分からないグッズを買いまくっているので置き場が無くなりつつある。誰かさんが甘やかすから~という視線を向けられたけど、知らないフリをした。

 

「具体的な場所は? 内見は行った方が良いよ。壁の色が気に食わないとか、棚の位置がイマイチとか、なんか使い勝手が悪いとか、色々無視して引っ越すと後でストレスたまるし」

「門前払いされないかな、女子高生と配信者って」

「うーん、どうだろう。不安なら付いていこうか。男手がいると何とかなるって聞くし。どこの不動産さん?」

 

 酒寄さんはテーブルの上に一枚のチラシを置いた。駅から徒歩五分、家賃は35万、管理費月2万、部屋は3LDK。二人で住むには十分な広さだ。タワマンなのでセキュリティーはバッチリ。そして、この建物に俺は見覚えがあった。

 

「……あぁ、ここかぁ」

「ダメそう? かぐやはここがいいなぁって言ってるんだけど……。二階建てなのが気に入ったみたい」

「いや、まぁ、中は悪くないと思うよ。必要な時に限ってエレベーターがすぐ来ないのにはたまにムカついたけど……。基本的には住みやすいと思う。内見は行くべきだけどね」

「詳しいね」

「前に、住んでたからね」

 

 俺がここを引き払ったのは、管理費がどうとかじゃない。今は賃貸で売り出しているみたいだけど、もちろん購入するっていう手段も存在していて、俺の家はそうやってこのマンションに住んでた。ローンは無かった。そこは父親に感謝してる。

 

 だから、住もうと思えば住み続けられたんじゃないかな。でも、売り払ったのは……父親の葬式が終わって家に帰ったら、あまりに空っぽだったから。楽しい思い出が染みついていて、それが孤独になってしまったその時の俺を締め付けてくるみたいで。それに耐えられなくて、俺はこのマンションを出てボロいアパートに引っ越した。

 

 まぁそこも出る羽目になって今に至るんだけど。

 

「まぁそういうわけで、ここの不動産屋さんとは一応繋がりがあったし、もともと住んでた身だから内見には付き合うよ」

「分かった、ありがとう。かぐやー、行けそう」

「マジ!? やった~。ボロアパート脱出~」

「ボロアパート言うな」

 

 かぐやちゃんは嬉しそうにしている。確かに、ここよりは広々としているから、ダンスとかもできる。それに、壁が分厚いので歌とかを歌ってもあんまり隣には響かないはず。電子ピアノの音くらいは遮断できたんだっけ。隣の部屋の人が持ってた気がする。

 

 でも、そうか、引っ越しか。寂しくなるなぁ。酒寄さんの隣に引っ越して数か月も経ってないのに、なんだか随分と長い間が経過したような気がした。 

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