超かぐや姫! ~ツクヨミの守り人~   作:tanuu

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16 こころの鍵

「こちらがリビングになります」

「おぉぉぉ~!」

 

 トタトタとかぐやちゃんがリビングの中を駆け回っている。酒寄さんとかぐやちゃんの内見付き添いで、昔住んでいた場所に来ることになるとは思わなかった。なんか、最初のスタート地点に戻って来たみたいだ。俺は物心ついた頃からここに住んでたわけだし。

 

「それにしたって、同じ部屋とは思わないじゃん……」

 

 この最上階の部屋を俺が売りに出したのは数年前。そこからたまに持ち主が変わりつつ、今酒寄さんたちの手に渡ろうとしていた。売ったころはまだ今よりも築浅だったので、結構いい金額で売れている。それは全部貯金の中に貯めておいた。このお金、渡す相手も使う理由もないんだけど。

 

「高野様がもう一度お買いになられますか?」

「いえ、俺は今日付き添いなんで。借りるのは酒寄さんたちです」

 

 不動産屋さんに聞かれて、俺は酒寄さんたちを指さした。元の持ち主が買い戻しに来たって言うのならまだしも、良く分からん女子高生と女子高生(?)っぽい子が借りにきましたじゃ混乱するのも無理はないと思う。最初、冷やかしと思われた。俺が元の持ち主だって分かるとすぐ中に通してくれたけど。

 

「どう? 不満とかある? 気になるなら別のところにすればいいし。俺にとっては住みやすくても、そうじゃないこともあるからさ」

「前のところがアレだから、どんなとこでも極楽に見える……。てか、なんか緊張して変な汗出てきたし」

「そっかぁ」

 

 そのうち慣れるとは思うんだけど、慣れるまではちょっと落ち着かないかもしれない。こんな場所に一人でいるのはやっぱり嫌なので、引っ越して正解だった。

 

「賃貸は計画的にね。今の感じだと、もうちょい頑張れば買えるんじゃないかな。帝さんもそれを勧めてたけど、いいの?」

「いい。その辺気を付けてないと、生活レベルが崩れそうだから」

「もしあれなら、不動産登記弄るけど」

「お役所に喧嘩売るの止めてね?」

「冗談冗談」

「冗談に聞こえないのが怖い。ヤチヨが矯正してなかったら、今頃ヤバかったんじゃない」

「かもねぇ。一時期自暴自棄みたいになってた時あるし」

 

 その時にツクヨミ関連でやることが沢山あったのは救いだったのかもしれない。余計な事を考える暇がなかった。ヤチヨはそれも読んでいたのかな。ありそう。

 

「どうかな、かぐやちゃん。ここにする?」

「ここにする~!」

「そっかそっか。じゃあ、お引っ越しの準備しないとね。あの大量のぬいぐるみ、ちゃんと段ボールに詰めるんだよ」

「あれ、全部?」

「全部」

「かぐや一人でやるの……?」

「かぐやちゃんのなんだから。自分の分は自分でやらないとね」

「手伝って、くれたり?」

「……まぁ、ちょっとくらいはね」

「こらー、甘やかすなー」

 

 かぐやちゃんが好感触なのを見て、酒寄さんは不動産屋さんと手続きについての話を進めている。保証人は帝さんがなってくれるらしい。お兄ちゃんとして、今まで妹を構えなかったことへの罪滅ぼしなのかな。丸ごと一棟買おうとしてたらしいけど。でも、確かにオーナーになって自分が最上階に、ってのもよくある話みたいだし。投資とか、した方が良いのかな。

 

 今俺が死んだら、遺産はどうなるんだろう。 

 

 割と性能のいいパソコン周りの機器も、銀行に入っているお金も、全部どっかに消えてしまうのかもしれない。それは嫌だなぁ、と思った。かぐやちゃんは宇宙人だしなんなら戸籍もないけど、遺産相続人の指定って出来たんだっけ。戸籍って追加登録できるのかな。

 

「お話まとまりそうで良かったね。酒寄さんも、かぐやちゃんが喜んでるから、きっと嬉しいんじゃないかな」

 

 かぐやちゃんが喜ぶから引っ越したって側面もありそうだし。酒寄さんはやる。広い意味でのツンデレ(かぐやちゃん限定)だし。

 

「ここね、部屋が三つある!」

「だね。これで酒寄さんの部屋がぬいぐるみで埋め尽くされる事態は避けられそう」

 

 ぬいぐるみの海で遭難し、窒息しましたなんて笑い話にもならない。ダーウィン賞はまったなしだ。

 

「かぐやちゃんも自分の部屋が出来て、物置もあって、良かったね。これなら深夜配信でも怒られないし。酒寄さんも安眠の日々を手に入れられるわけだし」

「ん?」

「うん?」

「え?」

「えぇ? どうしたの」

 

 かぐやちゃんがムムムという顔になりながら首をかしげている。何か気になる事でもあったのかな。

 

「一緒じゃないの?」

「何が」

「楓が」

 

 かぐやちゃんはビシッと俺に指を指しながら言った。俺が? 一緒に引っ越すわけない。かぐやちゃん一人なら絶対保護者がいないと何をしでかすか分からないので一緒に行くけど、酒寄さんがいるんだし問題はないはず。

 

「この部屋は、酒寄さんとかぐやちゃんが住むんだよ」

「えぇ!? じゃあ楓はあのボロアパートに残ったまま!?」

「ボロアパート言うな。でも、その通りだね。あの壁ぶち抜いてもう一個部屋増やせないかな。ちょっと処理速度を上げたいし、でっかいスパコンでも置きたい」

 

 多分それをやったら排熱で凄いことになるのと、床が抜けるかもしれないのでやらないけど。

 

「え~~やだやだやだ!」

「今までだって同じ部屋じゃなかったでしょ。ワガママ言わないの」

 

 自分から関わったし、これまで部屋を提供したりと色々してきたけど、多分俺がいなくても酒寄さんはどうにかしたんじゃないかなと思う。かぐやちゃんはワガママも言うけど優しい子だし、きっとそうに違いない。変な形で交わったこの物語も、ちょっとずつ元の形に戻っていく。

 

 かぐやちゃんはこれからも酒寄さんと仲良く配信を続けていくんだろう。自由に、風の吹くまま気の向くままに。そして俺はまた、ヤチヨと一緒にかぐやちゃんが楽しむための舞台を守り続ける。ちょっとくらい仲良くしてくれるといいなぁとか、そんな感傷が胸に満ちた。やっぱりちょっと寂しい。

 

 ドカドカと扉を叩いて、なんなら最近はもう鍵を開けて突入してくるかぐやちゃんが色々とお願いごとをして、それを酒寄さんが首根っこ掴んで回収し、俺が宥めつつどうにかしていく。そんな日々はわちゃわちゃしてたけど、楽しかった。

 

「寂しくはなるけど、別に今生の別れってわけでもないからさ。会おうと思えばいつでも会えるよ。酒寄さんと俺は同じクラスだし、同じ市内に住んでるわけだし」

「やだぁ、一緒がいい~! あの部屋狭くって二人が別々のままだから引っ越したかったのにぃぃぃ!」

「そっかぁ。でも酒寄さんと俺はただの隣人同士だからね。夫婦でも、ましてや恋人でも何でもないし」

「それだとダメなの?」

「ダメってことは無いけど、普通はやらない。酒寄さんもそれは想定してないだろうから。はい、という事で帰ったら荷造りするよー。引っ越し屋さんが来るまでに荷物を丸っと全部綺麗にしないといけないんだから。俺の部屋にあるぬいぐるみも全部まとめてしまってね」

 

 お隣さんが空きになるのか。でもまぁ、ぼろいけど生活は出来るし、家賃は安いし、そんなに駅から遠くないしで結構早く次の人が決まるんじゃないかな。保証人が要らないってのも楽だし。むしろ、俺の部屋が空いていてよかった。

 

 隣りは角部屋だし、引っ越せるなら俺が隣に移りたいくらい。ちょっと大家さんに相談してみようかな。

 

「酒寄さん、話まとまった?」

「大体は。細かいのはお店でやるって」

「そっか。じゃあ、俺はかぐやちゃんを連れて帰って、荷造りさせてるから」

「お願い」

 

 今日は珍しく聞き分けの悪い上にブーブー言ってるかぐやちゃんを引きずりながら、灼熱の立川を家まで歩いていく。八月も真ん中くらいになって、暑さには拍車がかかって来た。早く冬が来ないかなぁ。暑いのは苦手。

 

「アイス食べる?」

「……いらない」

 

 普段なら「食べる!」って言って飛びついてくるんだけど、今日はプイっと顔を背けられる。これは大分へそを曲げたなぁ。しばらく治らないかもしれない。でもまぁ、多分二日くらいしたら元に戻ってるはず。それを待つしかない。

 

 結局かぐやちゃんはぬいぐるみを段ボールに詰め込んでいる時も、ずーっとムスっとした顔をしていた。

 

 

 

☽   ☾   ☽   ☾    ☽   ☾

 

 

 

 機嫌の悪いかぐやちゃんが俺の部屋にあったぬいぐるみを片っ端から段ボールに収めてる。ムスっとしていても扱う手が丁寧なのはその性格がよく出てた。

 

「どう? 終わりそう?」

「うーん、もうちょいかかるかも。とにかく配信用に買ったグッズがそこらに溢れてて。機械系も、俺のとかぐやちゃんのがごっちゃになってるから。いらないのはあげるんだけどね」

 

 黙々と作業してるかぐやちゃんは若干不気味だった。なんかこういう時っていつも色んな話をしてくれる。だからこそ、今みたいな状況は初めてだった。ちょっとした反抗期なのかな。人生上手く行かないこともあるので、我が子を千尋の谷に突き落とすみあたいな感じの想いで堪えている。

 

「凄い量……。よく二部屋に収まってたかも」

「確かにね」

「次の部屋でも絶対入りきらないでしょ、これ」

「リビングに置かれてそう」

「埃がたまる……」

 

 はぁ、と酒寄さんはため息を吐いた。それでも心なしか楽しそうに見える。どんなマンションだろうと、このボロアパートよりは全然良いのは間違いないんだし。住めば都とは言うけど、女子の一人暮らしには向いてない家だった。二人暮らしにはもっと向いてない。

 

「引っ越し会社には連絡した?」

「三日後に来てくれるって」

「そっか。じゃあ、それまでにこの山をどうにかしないとね」

 

 変なところから引っ張ったせいで雪崩のように崩れてきたぬいぐるみにかぐやちゃんが埋もれている。ぷはぁと顔を出す仕草は、ホントにウサギみたいだった。月にはウサギがいる、なんていうけどこういう事なのかもしれない。かぐやちゃんは月から来たんだし。

 

「てか、なんかかぐやの機嫌悪くない?」

「あー、ずっとあんな感じ」

「何かした?」

「かぐやちゃんのお願いを断ったからかな」

「えぇっ!? 明日は雪か……」

「そんなわけ」

「でも、それくらい珍しいじゃん。高野がかぐやのお願い断るなんて」

「だって、一緒に来て~っていうから。それは無理ってはっきり言わないといけないしね。あそこは二人の家なんだから。俺はここでまた寂しく生活していく。でしょ?」

「……あ。しまったそうか」

 

 今日からそう日は経たない間に、二人の引っ越しの日がやって来るんだろう。引っ越し屋さんは梱包した荷物をあっという間に運んでいくはずだ。俺が持ったら腰が痛くなって死にそうなのに、俺の引っ越しでも凄いスピーディーにやってくれたのを思い出す。何かしらコツみたいなのがあるんだろうけど、教えてもらっても出来る気がしない。貧弱な電脳世界の人間の悲しみだった。

 

 空間の中には、思い出がある気がする。引っ越すと、その思い出も消えてしまう気がして、ちょっと悲しい。何事かをずっと考えていた酒寄さんは、静かに顔をあげた。

 

「私、いっぱい助けられてきた」

「そんな事ないよ。俺が出来たのなんて、大したことじゃないし。それでもちょっとは頑張ってる酒寄さんの役に立てたのなら、嬉しいけど」

「私、嬉しかったよ」

「何が?」

「高野がここでの私のこと、黙っててくれたのとか、防犯ブザーとかくれたのとか。それに、かぐやのこととか色々悩んでるときに、一緒に考えてくれたり動いてくれたりしたし。そういう優しさに感謝してる。普段は踏み込まないけど、肝心な時はちゃんと言ってくれた」

「別に、当たり前のことじゃない? 仮に綾紬さんとか諌山さんが俺の代わりにここに住んでても、同じことをすると思うよ。あの二人、そういう人たちでしょ?」

「かもね。芦花も真実もそうしてくれるかもしれない。でも、隣にいたのは二人じゃなかった。それが現実でしょ。私のことを隣で気遣い続けてくれたのは、高野だから」

 

 どういう風に返答すればいいのかよく分からなかった。俺にとって酒寄さんはずっと遠い存在、というか関わる事のない存在だった。学校では優等生で、常に人に囲まれていて。俺とは大違いの、そんな存在。俺にとっては見上げるだけの星で、彼女から見た俺はきっと路傍の石。それが運命の悪戯で隣の部屋に住んで、そこから彼女が努力を続けてきたのとか、限界ギリギリで踏ん張っているのを知って。

 

 遠く見上げるだけだった星は、いつしか普通の女の子に見えていた。少なくとも、俺にとっては。かぐやちゃんの件も同じ。一人で抱え込むには重すぎると思った。一人で背負うのには重すぎても、二人でなら。そんな風に思ったんだっけ。

 

 かぐやちゃんが一人なのは可哀想だと思ったし、俺が何かを手伝うことで、少しくらいは頑張っている酒寄さんの助けに……そして少しくらいは、対等に思えるのかななんて、そんな事を心の奥底で考えてた。

 

 結局対等になれたのかとか、そんなのは分からない。でも、一緒にかぐやちゃんを見守る生活は楽しかった。今俺が出せる答えはこれしかない。

 

「少しでも、助けになれたなら……よかったよ」

「うん。沢山助けられた。だから、これ」

「なに、これ?」

 

 渡されたのは、銀色の鍵。今までの話の流れが別れを惜しむ流れだったんじゃないの? なんでいきなり俺は鍵を渡されたんだ。意味が分からなくて、固まる。そういえば、酒寄さんと最初に会った時も固まった記憶がある。

 

「新居の鍵」

「……え?」

「え、じゃなくて」

「これは、どういう……? いや、女の子二人暮らしの家の鍵を身内でもないやつが持ってるのはちょっと、問題あるんじゃない? 帝さんとかに渡した方が……」

「は? あんなのはどうでもいいの。一応渡してはあるけどさ、保証人だしね。絶対来ないでって言ったけど」

 

 帝さん、今までの経歴がアレすぎて、妹からの反応が凄く冷たくなってる。まぁ、無理もないかもしれないけど、ちょっと可哀想だった。黒鬼リーダーの致命的な弱点はここかもしれない。次の対戦相手には酒寄さんをチームに入れるように教えておこうかな。そうすれば、試合中に一個ずつ過去の恥ずかしい話を暴露して勝てるかもしれないし。

 

「受け取ったら合意とみなします。さぁ、引っ越しの準備しよっか」

「いや、はい? え、俺ここを追い出されるの?」

「自分で出てくの」

「どこへ」

「昔自分が住んでた部屋に」

 

 頭の中が?マークでいっぱいになる。なんかそんなコラ画像あったなとか、こんなピンチにどうでもいい事を思い出した。あれを見せてきたの誰だ……ヤチヨだ。あのAI余計な知識ばっかり教えてくるんだから。

 

「かぐやに会いたくないの?」

「そりゃ、会えるなら会いたいよ。今までずっと過ごしてきたんだし」

「そうそう。今までは壁一枚。まぁかぐやのせいで、あって無かったようなもんだけどね。それが壁ゼロ枚。何か問題?」

「問題だよ、それは」

「見ず知らずの赤子を二人して育ててる方がよっぽど問題じゃない?」

 

 どうしよう、俺は酒寄さんに口げんかで勝てない。これより強いお母さんっていったい何もんだよ……。ちゃんと娘に受け継がれてるじゃん、面倒なところばっかり。口をパクパクして、なんとか逃げ道を探る。俺の中の常識が警報を鳴らしていた。

 

 気が付けばかぐやちゃんが片付けをしないでずーっとこっちに聞き耳を立てている。この二人、普段はやいのやいのと言ってるけど、息の合った連携プレーが上手すぎる。ヤチヨカップでもそうだったし、どうすればいいんだこれは。

 

「娘と別居は教育上良くないんじゃないかなぁ、お父さん」

「その論理で行くと酒寄さんがお母さんになっちゃうけど……」

「別にそれでもいいけど」

 

 頭が痛くなる。俺たちはどういう関係性だっけ。もう分かんなくなりそうだ。

 

「かぐやに言ったんだってね。ただの隣人同士って」

「言ったけども」

「これまでの出来事をよく振り返って。AIに聞いたって、それをただの隣人同士とは言わない」

 

 追い詰められていくのを感じる。蛇に睨まれた蛙ってこういう気持ちなのかもしれない。裁判所で証拠を列挙されてる被告かな? この場合、俺は何の罪で起訴されたんだよ。

 

「楓~」

 

 気付けば、追い詰められた俺の傍にかぐやちゃんがいた。特大必殺上目遣いウルウル目と泣きそうな口元で俺を見つめてくる。破壊力の高いその顔は、幾度となく酒寄さんを陥落させてきた表情そのものだった。

 

「かぐやは、ハッピーエンドがいいなぁ」

「さ、さっきも言ったけどね」

「このままじゃ、ハッピーエンドになれないよ……。家族一緒が、楓のハッピーエンドなんでしょ?」

「むぐぅ」

 

 それを出されると弱い。確かにかぐやちゃんの言う通りだ。俺にとってのハッピーエンド、失われた過去の願いは、家族が一緒にいる事なのかもしれない。だとすれば、かぐやちゃんのお願いを聞くことがハッピーエンドへの道ってことになる。

 

 かぐやちゃんは賢い子だ。酒寄さんみたいな頭の良さというよりは、回転の速さとか察しの良さっていう意味で。そういうかぐやちゃんだからこそ、俺の探すべきだったハッピーエンドが何なのかに気付いたのかもしれない。

 

「うっ、うっ、このままじゃ、もしお迎えが来た時にバッドエンドだなって思って帰ることになっちゃう」

 

 酒寄さんのロジック攻撃とかぐやちゃんのハッピーエンド攻撃と泣き落としによる精神攻撃が鋭いパンチで俺を締め付けてくる。これがトリプルパンチか。ちゃんとアンパンマンが役立ってる。悪い方向に。

 

 抵抗という言葉は、意思が無いと意味がないんだなっていうのを今日ほど思い知った瞬間はない。

 

「……不束者ですが、よろしくお願いします」

 

 がくりと肩を落としながら、俺は頷いた。かぐやちゃんが喜びの舞を踊っている。

 

 何の因果か、俺は振り出しの場所に戻ることになった。かつて両親と家族で過ごしたあの部屋に、今度はちょっと変な面子と一緒に。本来なら交わるはずの無かった運命。それが交錯した結果がこれだ。全員何の血縁関係もない。

 

 でも、血縁関係が無くても家族にはなれる……のかな。俺があの部屋に置き捨ててきた思い出や寂しさ。それが今、心の鍵と一緒に解けた気がする。つまらない建前が消されていった。強がるな、素直になれ、気持ちに正直になれ、寂しいなら寂しいと言え。かぐやちゃんの力強さがそう言ってるような気がする。

 

 やったね、とかぐやちゃんがどや顔をしていた。もう細かいことは後で考えよう。今は多分、この子たちが笑っているならそれでいいのだから。




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