「なーんでこうなったんだろう」
オーライ、オーライと運び込んでくれている引っ越し屋さんを前に、俺は遠くを見ながら呟いていた。強引に鍵を渡されてから数日後、時間通りやってきた引っ越し屋さんのトラックにすべての荷物が積まれて、俺の部屋も酒寄さんの部屋も空っぽになってしまった。なんか、あのボロアパートから全部が始まったので、そこを引き払ってしまうのは寂しさもある。
不動産屋さんには益々もって変な目で見られたけど、まぁいいか。見方によっては娘の金で楽してる親になってしまうのかもしれない。それは嫌なので、俺も家賃の半分くらい負担するようにしていた。他に使い道も無いし、これくらいは何とかなる。
「こっちの段ボールはどうしますか」
「あ、そこでお願いします」
「こっちはどうしましょう」
「この部屋に入れてください」
喧々諤々の話し合いの末、一階の部屋は俺が使うことになった。元々そこが俺の子供部屋だったので、意図せずホントに全部元通りだ。なお、俺の中で勝手に定めたルールとして、二階は男子禁制である。それくらいは守らないと色々とマズい気がした。てかお風呂も同じなのか……。流石にそれは……。いやでももう引っ越しちゃったし……。そんな思考がグルグルしている。
「旦那さん、冷蔵庫はどうしますか」
「あー、そこの奥に」
「分かりました」
旦那さんじゃないよ、俺独身だよと内心で呟く。誰か否定してくれると助かるんだけど、誰も否定してくれない。かぐやちゃんはなんかもうずっとハイテンションで窓の外の風を感じてるし。酒寄さーん、は参考書が大量に入った段ボールを開封してるし。
受験生とライバーと職業システム保守の三人が住んでる家、言葉にするとけっこう奇妙かも。しかも全員未成年。一人宇宙人。うーん、このカオス。
「まだ、慣れない?」
「ちょっとね。空の上でフワフワしてるみたいな感じがして」
「確かに最初はそうなのかも。俺は最初に見た空がこれだったからさ。引っ越して思ったよ。空って高いなぁって。ここから、手を伸ばしたら雲でも月でも届きそうになるからね」
遮るモノなんて何もないかのように、はるか遠くまで見渡せる。この高い場所から見る景色が俺の最初に見たこの街だった。だからかは分からないけど、ツクヨミの管理室が上空に浮かぶミラーボールなのは性に合ってた。上から街を見るのは、慣れていたから。
「いつかここが、自分の景色になるんじゃないかな。過ごした長さを積み重ねていくほどに」
「だと良いんだけど。何年かかるかな」
「十年くらいはかかるかもしれないし、案外一年くらいかも。でも、かぐやちゃんがいるとこの家にいる時間より外にいる時間の方が長くなりそう。あっちこっち連れ出されて」
「かもね」
酒寄さんは困ったなぁと言いながら笑った。その言葉に、困ったの要素なんてこれっぽっちもない事はすぐに分かる。ベランダで私が最強と叫んでいるかぐやちゃんに引っ張られて俺たちはここまでやって来た。きっと、これからもずっとそうなのかもしれない。そうだったらいいなと、思った。
☽ ☾ ☽ ☾ ☽ ☾
引っ越してから数日も経たない間に、ヤチヨカップの優勝商品であるコラボライブの日が近づいてきた。この日のためにかぐやちゃんはヤチヨに振り付けと歌を教わり猛練習を繰り返してる。酒寄さんも同様に、少ない時間をやりくりしながら練習してた。
俺はというと、演者を後ろから見守る仕事。パソコンとかのセッティングは引っ越し初日に気合で終わらせて、早速仕事をしている。この家、基本的に酒寄さんは勉強・夏期講習・模試・バイトを繰り返し、かぐやちゃんは配信して、俺が仕事をしてる。全員手に職があるというか、労働しているのは収入の面からすると良いのかもしれない。
「タオル置いておくよ」
「ありがと」
曇りガラスの向こうから、曇った声がする。この家に引っ越してきてから日数が経っても、慣れないものは慣れない。住んでいる場所は昔と同じなのに、見ている景色は百八十度違った。同居人が女子ばっかりなので、必然的に俺の人権はない。別にそれは構わないんだけど、色々無防備で目のやり場に困る。具体的には酒寄さんが。かぐやちゃんはもう、なんにも思わない領域に至った。
ライブの前日なので、酒寄さんも今日は早く寝るらしい。それが良いと思う。俺は最終チェックの仕事があるし、通常業務もあるしで、本日も平常運転だ。
「最近寝れてる?」
「……」
「やっぱり」
お風呂の中の酒寄さんは沈黙した。それが何よりの答え。
「ライブでさ」
「うん」
「大失敗する夢、よく見る」
「あー」
あるあると言えばあるあるだった。大事な局面で失敗する夢って、みんな結構見るらしい。父親も、医師国家試験に落ちる夢をたまに見てた。母親は大学受験に落ちる夢をたまに見たらしい。
「そんな夢、見る?」
「俺も見るよ、たまに。システムで大エラー出してヤチヨに怒られる夢」
「……意外かも」
「そう? 俺の仕事も、結構神経使うんだよ。なにせ、みんなの個人情報とかお金とか握ってるわけだからね。責任重大だし」
「そういう時は、どうするの」
「誰かに話すしかないかな。俺の場合はヤチヨしかいないけど、聞き役してくれる時はちゃんとしてるから」
普段はネットミームで喋ってくるのに、ちゃんとしてる時だけはキリっとしてる。不思議なAIだ。
「話しても何にも解決しないかもしれない。でも、話せたら少しだけ中に抱えてたモヤみたいなのが消える気がするから。なんて言うのかな、自分で自分の課題を言語化して整理してる、みたいな? そういう作業が意外と大事なのかもね」
「話す、かぁ」
「苦手?」
「あんまり、得意じゃないかも。人を簡単に頼るな~憐れまれるぞ~って言われたから」
「また極端だなぁ。まぁそういう人もいるかもしれないけど。でもそんなの、見てれば分かると思うけどね。そういう考え方じゃ、ホントに自分を心配してくれる人の手まで弾き飛ばしちゃう」
だからこそ、そこをぶち抜いてくるかぐやちゃんは酒寄さんにとって貴重な存在だったのかもしれない。憐れまれるとか、弱みを握られるとか、かぐやちゃんはそんなの一切合切考えてない。出来ないことは出来ない。だからお願いする。そんなシンプルな思考で懐に入り込んでくるんだ。自分の力で生きてきた人ほど、そういうのには弱いのかも。
「そうだね……危うく、そうなるところだった」
「俺にはかぐやちゃんみたいなパワーはないけど、話を聞くくらいならいくらでもするから。なにせ、ヤチヨにずっとそうやってもらいましたので。師匠としては十分でしょ?」
「十分すぎる」
「まったくね。俺が受け止めるから、あとはかぐやちゃんに手を引っ張ってもらって、そのまま走っていけば良いんじゃないかな。少なくともツクヨミなら、居場所は自信を持って俺が守るから」
家にいる時間も多いわけだし。かぐやちゃんに自宅警備をしてもらうわけにはいかないから、そういう意味でも俺が守っていかないといけないんだと思う。ライバーは水物の職業だし、酒寄さんが本格的に稼ぎ出すのはもっと後。そこまでの間、収入面で一番安定しているのは俺だ。断っていた昇給をお願いしてみよう。
「だからさ、帰る場所はちゃんとあるよ」
「そう、だね……。ありがと。ちょっとだけ、楽になった」
「良かった。凄い大舞台だし、緊張するのも無理はないっていうか。むしろ、正直に言ってくれて嬉しい。前までなら、黙ってたんじゃない?」
「そうかも」
「今のところチケット売上は上々。おかげさまで会場の枠を拡大しました。いやー、その作業にどえらい時間を食っちゃって。みんなのアイドルのヤチヨと新進気鋭の二人がコラボなわけだからね。百万席は売れてます」
「緊張させるようなこと言わないでよ、もう」
ちゃんと笑えてる。お風呂場の中に反響している彼女の声を聴いて、そう判断した。
「お願いついでに一個いい?」
「どうぞ?」
「そろそろ上がりたいな」
「あ……それはどうもすみませんでした」
慌てて退散する。どうにもこうにも、この家は彼女いない歴イコール年齢の男には住みにくい。パスタ製麺機をセットしているかぐやちゃんが癒しだ。てか、そんなマシーンがあるんだ。初めて知った……。
「酒寄さん上がったよ」
「お、じゃあいよいよグルグルの時間ですなぁ」
「それ、どうやって使うの?」
「ここに麺の生地をセットして~、回すとシュレッダーみたいに出てくる!」
「すごっ」
かぐやちゃんは随分と料理にハマったみたいだ。包丁もまな板も取り揃ってる。何に使うのかも良く分からない調理器具も沢山あった。
「随分料理上手になったね」
「最初に楓が教えてくれたからね~。あれで好きになっちゃった」
「大したことは教えてないよ?」
「でも上手って言ってくれたっしょ? 自信付くんだよねー、そうやって言われると」
褒めて伸ばす。この方針でかぐやちゃんに接してきたけど、正解だったと思っていいのかな。大したことは教えられなかったし、横で見てるだけだったけど、それでもあの狭い部屋でのクッキングがかぐやちゃんにとって思い出に残ってくれたのなら良かった。なんか、泣きそうになってくる。
かぐやちゃんは好きな事に一直線。だからこそ、この世の中にいっぱい好きなことがあって欲しい。地球は楽しいことに溢れてる。そう思って欲しい。綺麗な景色も、美味しい物も、面白いところも沢山ある。この東京にだってあるし、日本中にもあるし、世界中にも無限にある。
「酒寄さんの受験が終わったらさ、どっか行ってみる?」
「どっかって?」
「どこでも。温泉でもいいし、遊園地でもいいし、お城とか山とか湖とかもあるよ」
「おぉぉぉ!」
「冬休みに免許取るからさ、そしたら俺が運転すればいいし」
「よっしゃー、車買お~!」
レンタカーっていう発想はないみたいだ。駐車場代月三万が追加で取られるんだけど……まぁそれくらいなら、いいのかな。維持費の方が高そうだ。免許っていくらかかるんだろう。これまでだったら調べる気にもならなかったことが知りたくなる。
お風呂上がりの酒寄さんが連行され、パスタ回し機を回してる。俺はカウンター席に座りながら、その様子を写真に収めた。いつかこれが積み重なって、この家の新しい記憶になっていけばいいな。そんな事を、思いながら。
☽ ☾ ☽ ☾ ☽ ☾
「だらららら、蟹! だらららら、うさぎ!」
既に会場は満員御礼。配信視聴勢も今か今かと楽しみに待っている。各種プラットフォームで大々的に宣伝した結果、一千万人を超える人数が直接間接を問わずに見ている。多分もっと膨れ上がるだろう。どんな大人数が来ても全く問題ないように調整はしてあるので万全だ。
かぐやちゃんはずっと何かの物まねをしている。大舞台を前に緊張の色は見えない。流石の堂々とした振る舞い。恐れ知らずのかぐやちゃんらしい。この子に遠慮とか不安の文字は無いんだろう。
「はいはい、可愛い可愛い」
『だらららら、どじょう!』
控室にぼん、とヤチヨが登場した。そのポーズがどじょうなのかには諸説あると思う。俺はいつも通りモニター越しだ。ここは離れられない。
「うわっ、ビックリした!」
「何やってるんですか、まったく」
「あ、ヤチヨだ。おつ!」
『おっつ~~☆』
それでいいんだ、先輩歌姫。でもたまにジョジョとかの語録で喋ってるからなぁ、この古のネットミームに染まったAI。まぁそんなもんか。絶対開発者はニコニコ動画を学習元にしてるでしょ。あと、Xとか掲示板。
「ねーねー練習しすぎてお腹すいたー。終わったらパンケーキ食べよ?」
「私なんて緊張しすぎてごはん食べれんかった……」
『パンケーキいいなー。ヤチヨも食べたいなー』
くるくると回りながらヤチヨが言う。
「一緒に食べる?」
『よよよ、ヤチヨは電子の海の歌姫なので食べられないのです』
「えー、それ何の拷問? かぐやだったら絶対無理! カエデーどうにかならない?」
「味覚システムの基礎自体はあるんだけどね。ただ、スマコン使用を前提としてて、細かいところを省くと脳みそが無いとダメなんだ。現状は。完全な仮想味覚を用意するのには……まぁ、ガチでやってあと五年か十年かな」
AIが味覚を感じるっていうのがどうにもこうにも難しい。試みてはいるんだけど、そこら辺はヤチヨを構成する根本的なプログラムを弄らないとどうにもならない。ただ、そこを弄るにはまだちょっと時間がかかりそうだ。なにせ、一点ものなので下手に壊したらシャレにならない。
「ヤチヨ可哀想。何とかしてあげられないかな……」
『よよよ、泣けることを言ってくれるねぇ、お嬢さん。でも大丈夫。ヤチヨは代わりにキラキラを食べて生きていけるから』
「キラキラ?」
『そう。ツクヨミに集まってくれた人たちのみーんなのキラキラ。それを見るのがヤチヨは何よりの大好物なのです』
「そうなんだ。じゃあ、これあげる」
かぐやちゃんはずっと手首にある飾りだった。そういえば、これはかぐやちゃん以外で月からもたらされた数少ない品物。これを解析したら何か月について分かるかもしれない。そもそも何の金属なのかも謎だけど。
『こらこら。こういうのは、もっと大切な人にあげるもんなんだよ☆』
「ふーん……?」
『さーてと。カエデ、準備はどう?』
「現在最終確認中です」
モニターにはライブ関連のシステムが映し出されている。
「音響システム、異常なし。映像システム、異常なし。会場動作、異常なし。移動システム、異常なし。空間システム、異常なし。光源含む演出システム、異常なし。その他各部異常なし。全関係システム、オールグリーン。時間合わせ、誤差修正0コンマ1秒。修正完了。ツクヨミ全体で異常を確認できず。通信良好、電波状態問題なし。いつでもどうぞ」
俺の確認を聞いたヤチヨが静かに頷く。そしてその顔は歌姫のそれになっている。
『いざ、ゆこうか』
☽ ☾ ☽ ☾ ☽ ☾
俺の管理人室の大モニターには、三人の姿が映し出されている。このツクヨミで一番良い映像と音響を出力できる大モニターだ。この日のために再度アップデートを入れてる。多分、地球上で一番いい音質と映像だと思う。
三人が舞台上に姿を現す。埋め尽くした観客の光は、まるで銀河の中に輝く無数の星のようで。その宇宙の中心に、三人が立っていた。たった三人のライブを見るために、日本の総人口の何割かが詰めかけている。大歓声と熱狂は、スクリーン越しでもダイレクトに伝わった。
ここにいると、その星々と中央で輝く歌姫がよく見える。まるで、プラネタリウムみたいに。
『ヤオヨロ~☆ みんな生きるのどうですか? 良い事あった? それとも泣いちゃいそう? よしよし、全部大丈夫。どんなに孤独な道のりでも、楽しかったなーって記憶が足元を照らすよ。この時間も忘れられない思い出にしたいから……どうか一緒に踊ってくれる?』
会場が完全に暗くなる。寸分の狂いもない時計がカチリと音を立てた瞬間に、ヤチヨの声が響き渡った。完璧、とガッツポーズをする。毎回この瞬間はすごく気持ちいい。
『世界でいちばん おひめさま そういう扱い 心得て―――よね』
ワールドイズマインが奏でられる。ヤチヨは初音ミクの歌をよく歌っていた。電子の歌姫としての大先輩だから尊敬しているらしい。現代の神話、最初の女神。ヤチヨは『メルト』を聞いて、歌姫になりたいと思ったそうだ。そういう意味では、ヤチヨのオリジンなのかもしれない。
俺も管理人室でライトを振り回していた。あの不協和音のジングルを直すところから始まった二人の活動が、こんなところまで来ている。その事実だけで、涙が止まらない。堂々と歌って踊っているかぐやちゃんは、ヤチヨにもまったく見劣りしてなかった。酒寄さんの演奏もキレキレ。あんなに緊張してたのが嘘みたい。
立派になって、成長したなぁ。こんなに大勢のお客さんの前で、歌って、踊って。ちゃんと夢、叶えたんだ。
「キミと今見てるこの景色 何億回思い出したろう 七色きらめいて EX―Otogibanashi そうよ私がヒロイン そのハートを射抜いてあげる 知らないなんて言わせない 名前を呼んで私は誰? 押しも押されぬお姫様」
まさしくかぐやちゃんは俺のお姫様だ。愛するべき娘的な意味で、だけど。大歓声が巻き起こる。演出も大成功。一切失敗の無い、まさに大成功としか言えないライブだった。感涙で画面が良く見えない。おかしいな、最高画質のはずなんだけど。
てか、これ後で涙で真っ赤になった目とかを見られるのか。しまったなぁ、同居にそんな落とし穴があるとは思わなかった。惜しみない拍手を送る。きっと、同じ家の中だから聞こえてるはずだ。
心が弾んでいる。こんなにもライブで心弾んだのは久しぶりかも。そんな俺の喜びをぶち壊す
『警告! 警告! 何者かが不正アクセスを試みようとしています』
「この大事な時に……。絶対許さん、自動防衛システム起動! 侵入者を排除しろ!」
『了解、直ちに排除します』
まったく、どこのどいつか知らないが、コンピューターウイルスを逆に流してやるぞ。まぁこんなのは自動防衛システムの中にある割り出しでどうにでも対処できるはずだ。どこからアクセスしてるか分かれば、そことの繋がりを遮断すればいい。
『警告! 警告! 侵入者の基地局を特定できません』
「そんなバカなことがあるか、よく探せ」
幾つもの基地局を経由し海外から攻撃してくるとかはよくある話だ。だから、その大本を含めて探知できるようにしてる。そのシステムが基地局を特定できないなんてありえない。ここに入るためには必ずどこかを経由しないといけないはずだ。ダイレクトアクセスは俺とヤチヨしか権限がないはず。
『特定不能、特定不能』
システムがエラーを出している。自動AIがこんな風になるのは初めてだ。嫌な汗が出る。今、ヤチヨは多くのリソースをライブに割いている。多くのユーザーもあそこに集まっている。そこが襲撃されるなんてことになった日には目も当てられない。
『自動防衛システムより提言。防壁展開を希望』
「承認する。現時点を以て、非常事態コード22番により統括管理権限をアメツキカエデに緊急移譲。全システム、総力を挙げて撃退しろ!」
『アクセス者不明。されど、発信源の物理位置は特定』
「どこだ?」
『東経139度24分43.322秒、北緯35度41分54.358秒』
「ここ……?」
おかしい。俺たちのいるマンションの座標が地図に表示されていた。このマンションから妨害が出ているわけがない。
『当該座標周辺で大規模な電波障害を確認。また、大量の画像データ並びにテキストデータの送信を確認。現在防衛中』
どこからの攻撃だ。立川市に攻撃を仕掛ける意味なんて無いし、どこかの国家や集団とは考えられない。目的が不明すぎるし、これだけのことが出来るならもっと他のことをやるはずだ。中枢システムへの防壁は作動してない。つまり、相手は何か別の目的がある。ツクヨミの掌握でも悪戯でもない何かが。
それにしても、どこから。そう考えて、閃いた。
「高さだ、どこの高度から攻撃されてる!」
『特定完了。地表からの高度、約38万4400km』
「なんだそれ……。その空間に存在する物体は?」
『条件に該当する物体、一つ確認』
「具体名は!?」
システムだけでは難しい。主導でアクセス妨害をかけているけど、中々尻尾が掴めない。電子戦のプロじゃない。動きが素人すぎる。でもスペックがおかしい。そして、システムは発信源と思しき場所の名を告げた。
『月です』